ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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第五章 戦禍強襲
フューレンの地にて


「着いたか、フューレン」

 

「ここがフューレンか。俺達は来るの初めてだよな」

 

 

中立商業都市フューレン。

どこの国にも所属していないにも関わらず、冒険者ギルドの総本山ということもあり、魔人族の襲撃をも退けたこともある都市。改めて駆動四輪で移動していたハジメ達は懐かしさを感じ、通らなかった刃達は初めての後継に感心した様子を見せていた。

 

余談だが、フューレンが魔人族の襲撃を退けたのには大きな理由が関わっている。数年前の魔神戦争の際、大魔王の軍勢が襲ったのは殆どが主要な国であり、フューレンはそこまでの脅威と認定されていなかった。

 

それと、襲撃を担当した者が王域の一員のオーゼンハイトであり、オーゼンハイトが襲撃よりも神殺しの兵器の捜索を優先していたこともあり、少ない戦力しか差し向けられていなかったのだ。それでも、魔人族の部隊を退けたのは事実である。

 

 

「────何か騒がしいな、オレが出るか」

 

「いや、ハジメに任せようぜ。アイツの事だ、何とかしてくれるだろうぜ」

 

 

検査待ちの行列の中、兵士達が駆動四輪に慌てながら騒ぎ立てる。当のハジメはふてぶてしい態度で対応していたが、彼の事を知っていたのか兵士達が理解し始めると、すぐに一礼して通すように案内された。

 

車内にいた刃とイクスは、黙っていた。兵士たちの焦りようと何か話していた様子から見ても、二人は嫌な予感を感じ取っていた。

 

 

「「────何をしたんだ、ハジメ(アイツ)」」

 

帰ってきたハジメにそう投げ掛けると、当の本人はやはり居心地が悪そうに沈黙を貫いた。

 

 

◇◆◇

 

 

「ウィル!無事だったかい!?」

 

 

ハジメに依頼を出したギルド支部長のイルワが慌てた様子で駆け込んでくる。ハジメが傍らに連れていたウィルの無事な姿を見ると、安堵からふらつきかけていた。それもそのはず、魔人族による襲撃の数々を知れば、五体満足で済んだのも不思議なくらいだからである。

 

両親に会いに戻ったウィルは、またお礼に来ますと言っていた。ハジメはする必要ないけどな、と苦笑いをしており、刃もそれに関しては同調していた。部屋の角で寄り掛かっていたイクスは何も気にすることはなく、沈黙を貫いていた。

 

ウィルが離れて静かになった応接室で、イルワが対面の席に座る。彼はハジメ達を見るやいなや、深く頭を下げた。

 

 

「ハジメ君、本当にありがとう。そして………君が刃君だね?彼の友人と聞く。二人には感謝してもしきれない」

 

「いや、オレはただ相棒に付き合ってただけさ。礼なら、コイツに頼む」

 

「…………まあ、生き残ったのは偶然だよ。アイツの運が良かったのさ」

 

「ふふ、そうかな?確かにそれもあるだろうが…………何万もの魔物の群れ、そして魔人族から守り切ってくれたのは事実だろう?『女神の盾』様?」

 

 

揶揄するような発言に、茶を飲んでいたハジメは思わず吹き出した。吹き出すというより、暴発というのが正しいのかもしれない。隣の刃も茶を飲む前だったのだが、吹き出したのは変わらない。

 

「………し、知ってたのか。情報が早いな」

 

「長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。現場にいた部下から大まかに聞いているが、詳しい部分はまだ分かってない。話を聞かせてくれるかい?」

 

「構わないが………その前に頼んでいいか?

 

 

 

 

ユエやシアに、相棒………刃達にも、それとそっちの二人の分も、ステータスプレートを用意してもらえるか?」

 

「大人数だね。だが、お安い御用さ────トッド君」

 

 

此方側が驚く中、イルワは秘書にステータスプレートを用意させる。刃が唖然とし、シノは不思議そうに刃を見て、ソーナが堂々としながら活気的に、ティオもソーナと共にハジメに礼を言う。

 

イクスやノインは反応を見せなかったが、イクスの方は必要ないと言いたげであった。しかし無下にするつもりはないようだ。困惑の視線を受けたハジメは不敵な笑みを浮かべて応えた。

 

 

「親友ってのもあるが、色々と手伝ってもらったしな。その礼と思ってくれ」

 

 

────それから数分後、ハジメ以外の二人、ユエやシアにステータスプレートが渡される。彼等の上をフワフワと浮かぶ聖霊グアンは羨ましそうに見ていたが、流石にステータスプレートは無理らしい。それでも、二人のプレートの内容は規格外らしく、衝撃のあまりイルワやトッドの唖然としようは、それだけ二人のステータスが普通ではないことを示している。

 

そして、動揺から戻ったイルワが刃達に渡されたプレートに目を向ける。気にすることなく中身を見せたプレートの内容は、ハジメ達に負けず劣らずであった。

 

◇◆◇

 

 

シノ 17歳 女 レベル64

天職:暗殺者

筋力:80

体力:240

耐性:150

敏捷:800(+気配遮断6000)

魔力:3500

魔耐:3120

技能:『気配遮断』[+無音][+魔力遮断]・『身体強化』・『魔力操作』・『心眼』[+気配感知][+軌道予測]・『暗殺技巧』・『毒耐性』[+麻痺緩和][+毒緩和][+幻覚緩和]・『投擲技巧』

 

 

ソーナ・F・スティシア 18歳 女 レベル68

天職:巫女

筋力:100

体力:250

耐性:160

敏捷:145

魔力:6400

魔耐:5850

技能:『水神の神子』[+水属性強化][+魔力効率上昇][+魔力操作][+高速詠唱][+魔力放射][+魔力圧縮][+液体制御]・『複合魔法』・『水力変換』

 

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル89

天職:守護者

筋力:770(+竜化状態4620)

体力:1100(+竜化状態6600)

耐性:1100(+竜化状態6600)

敏捷:580(+竜化状態3480)

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

 

黒鉄刃 17歳 男 レベル90

天職:剣■帝

筋力:2500[+4000]

体力:3800[+4000]

耐性:2900[+4000]

敏捷:3850[+4000]

魔力:9000[+時間制限付き無制限]

魔耐:3000

技能:全属性適性・全属性耐性・魔力感知・剛力・縮地・剣聖・無限剣[+自壊爆裂]・千剣創造[+属性付与][+効果付与][+魔力付与]・『神の器』・水神権能『状態変化』・大神権能『超自動再生』・『神魔装剣』・【■■■■・■剣■■帝】

 

 

「───────」

 

「黙っちゃった………」

 

 

今度こそ、言葉が出ないイルワ達に刃も困った顔をする。それもそのはず、神とか単語がいくつか出てくる奴が二人もいるのだ。ハジメ達以上に言葉を失うのも、無理はない。

 

 

「というか、彼女………スティシアってまさか、スティシア王国の!?」

 

「あ────いいや!違うわ!私はただのソーナよ!スティシア王国のソーナ・F・スティシアとは他人の空似?ってヤツだから!だから…………そういうことにしてほしいわ!!」

 

「プレートもあるし、誤魔化しようねェだろ」

 

 

プレートのフルネームから他国の王族がいる事実に青褪めるトッド。何とか誤魔化そうと必死なソーナであるが、既に手遅れであると伝えても、何とかしようとイルワ達に黙秘するように頼み込む。

 

 

「…………」

 

「イクス、お前の方はどうだ?どんなヤベェステータスしてんだ?」

 

「………面白いものではないぞ」

 

 

黙ってステータスプレートを見つめていたイクスはすぐにそれを提示する。見る者を困惑させる内容がそこにはあった。

 

 

X-193/イクス ■■■歳 男 レベル■■■

 

天職:■■の女神■使徒■滅却者

筋力:■■■■■

体力:■■■■■

耐性:■■■■■

敏捷:■■■■■

魔力:■■■■■

魔耐:■■■■■

技能:『エーテル■■炉心』[神核炉心へ進化]・『魔力制御』・『人体改造』・『人体接続』・『魔弾装填式(ヴェーレ)』『フェイタル・オーバー』■■■■■■■■■■■

 

 

ステータスプレートの文字化けなど普通に聞いたこともない。そう言って狼狽えるトッド達を尻目に、当の本人であるイクスは妙に納得した様子を見せていた。

 

 

「やはり、な。オレのステータスはどうやってもバグる。恐らく、中にある力由来だろう」

 

「バグか………もしかして、俺のもか?」

 

「────心当たりは?」

 

「ねェ…………いや、あるにはあるが。後で話すってことでいいか?」

 

事情が事情だからと言う刃に、イクスは特に不平を露わにすることなく了承した。その後、イルワ達と今後の方針について話したハジメ達は、イルワの案内によりフューレンの中でもトップクラスの宿へと案内された。

 

 

◇◆◇

 

 

「は、はぇ~、凄い景色ですね。こんな高い所なんて、城の屋上くらいですよね?」

 

「………ん、王国の城の最上階は、姉様達や用のある人しか行けないから。こういうのは珍しい…………人も小さく見える」

 

「うむ、竜化すればもっと高く飛べるが、この姿で見るのも悪くないのう」

 

 

ラナールやシノ、ティオがガラスに映し出される景色に感心した様子を見せる。最上階の宿屋は最早高級ホテルと同等であり、そういうものに疎い異世界人からすれば、物珍しく思うのも当然だろう。

 

その一方で、フカフカのベッドの上で転がるのはノイン。無表情で感情の機微を見せない彼女だが、それにしては楽しそうである。

 

 

「ユエ、ハジメとシアが居ないようですが………何処か用ですか?」

 

「二人はデートの最中。街の中だから、そんなに遠くには行ってないと思うけど」

 

「デート?意外だわ!ユエ、貴女ハジメのこと好きなんでしょ?その割には落ち着き過ぎてるように見えるわ!」

 

「私は、寛大だから。シアなら許してあげる………でも、ハジメの一番は譲るつもりはない」

 

「分からなくもないわね!ねぇねぇ!ユエの天職って神子でしょ!私と同じでしょう!?」

 

「…………でも、大半のステータスは私の方が上」

 

「うっ!けど、私だって勝ってるとこはあるわ!そう!プロポーションなら私の方が圧倒的に有利────いひゃっ!?い、いひゃいわっ!!」

 

 

調子に乗った様子で胸を見せつけるソーナに近付いたユエが彼女の頬を引っ張る。無論、本気のケンカではなく軽い小競り合い程度だ。喧しいな、と思いながらも、刃はこういう空気が嫌いではなかった。

 

そんな刃は、座席に座るイクスと対面するように腰掛けていた。ステータスプレートを手に、刃の頭に手を添えているイクス。深く沈黙していた彼は、溜め息を漏らす。

 

 

「……………」

 

「どうだ?イクス、何か分かったのか」

 

「…………少なくとも、『魔神』由来ではないことは確かだ。だが、これは…………」

 

 

深く考え込んでいたイクスは頭を振って、肩を竦めた。彼が示す答えは、分からないというものである。無理もないだろう。イクスは魔神に関する力なら観測することも探知できるが、それ以外はある意味で専門外なのだから。

 

 

「お前から聞いた話が正しいのなら、恐らく何かが肉体を乗っ取ったのだろう。お前の天職、剣帝の力が読み解いた先に居た、何かがな」

 

「………アレは、人間だった。無数の剣に包まれてたが、あの目は…………」

 

「よせ、思い出すな。下手したらそれだけで乗っ取られかねん。恐らく、認識したことでお前を捕捉したのだろう。アレに選ばれる程の適性を、お前が持っているということだ。それか何か分かるか?」

 

「…………『剣帝』、か」

 

「或いは、お前の血縁に由来する者の可能性もなくはない。少なくとも、アレが明確にお前を狙って乗っ取ったことは事実だ。お前を狙う理由は分からないが、また起きないとは言えない」

 

 

イクスは刃に、アレを呼び寄せるようなことは控えろ、と釘を差した。刃としても心当たりがあるのは、自分自身の力の根源を探ろうとした結果、アレと接触したのだ。

 

 

「血縁は、関係ねぇよ」

 

「…………そうか」

 

「………何も、聞かねぇのか?」

 

「聞いて欲しいのなら聞くが、お前はそうではないだろう」

 

 

ボソッとした呟きに、イクスは短く反応するだけだった。特に気にした素振りを見せない彼に困惑した刃だったが、当のイクスはぶっきらぼうながらもそう答える。気を遣われたことを理解した刃は「悪ィ」と頭を下げるしかなかった。

 

 

そんなことをしていると、一室の扉がノックされた。「失礼致します」と扉を開けてきたのは宿屋の職員のメイドであった。何か用があったかと思うと、後方に人を連れてきたらしい。

 

 

「クデタ伯爵ご一家様がお見えになられました」

 

「ウィルの母、サリア・クデタです」

 

「父のグレイル・クデタです。息子が大変お世話なりました。何かお礼が出来ればと思いまして…………」

 

「────あぁ、すんません。黒鉄刃って言います。俺の相棒…………ハジメは今野暮用で留守中なんで、申し訳ない」

 

 

ウィルとともに姿を見せたのは、両親。感謝してもしきれないという様子で頭を下げる二人に、刃は礼儀正しくせねばと何とか敬語に徹する。やはりあまり慣れないのか、後ろの方ではティオは愕然としており、ソーナは笑いを堪らえようと必死である。

 

取り敢えずあの二人は締め上げようと決意した刃は、まずはウィル達に一言入れてから、いつもの口調に戻すことにした。どうにも、敬語ってものは慣れるものではない。

 

 

「ああ………まあ、ハジメの奴はお礼とかそういうの気にしないと思うんで。もしも、アイツが困った時にでも助けてくれりゃあそれでいいと思うんで」

 

「そうですか…………所で、貴方がウィルの話していた、『剣帝』様ですか?」

 

「ああ、確かに俺が剣帝ですけ………んん!剣帝だが」

 

 

敬語になりかけたが、すぐにいつもの口調でいいことを思い出す刃。彼がそう言ったかと思えば、温厚そうな二人の夫婦が声を弾ませて刃の手を握った。

 

 

「ああ、そうでしたか!ウィルから聞いた時はまさかと思いましたが、こうしてお会いできるとは!」

 

「?アンタ達は剣帝のこと知ってるのか?」

 

「ええ、勿論。我等クデタ家は『剣帝』に恩があるのです、初代当主が彼女に救われたこと、他ならぬ彼女との約束もあり、『剣帝』の手助けをするように、と」

 

「………その『剣帝』について、詳しく教えてもらえるか?生憎だが、俺は『剣帝』の歴史について疎いんだよ。文献とか、そういうのも見ねぇし」

 

「そうでしたか………ウィルから言われて、文献を持ってきた甲斐がありました」

 

そう言って、グレイル伯爵が取り出した。古びた書物であった。時代の流れによって廃れたページに刻まれた文字は所々が消えかかっているが、それでも多少メンテナンスが加えられてきたのか、大体の内容は分かった。

 

 

────曰く、神エヒトが生まれるより最古の時代。世界を創世した六神によって続いた平和は、長く続かなかった。

 

突如襲来した破滅の厄災。無数の闇を伴う災禍の化身は世界を絶望で覆わんと多数の悲劇をもたらした。水、大地、炎、天空、死、全能なる六柱の神々が戦うが、厄災との戦いは拮抗状態。人々が救いを求め、祈ったその時に現れた者────それが剣帝であった。

 

光の剣を携える剣士、初代剣帝クレア。そして彼女と共に在るは、星見の預言者、占星術師セプティマ。二人は多くの種族を救いながら、神々の戦いに力添えをしたことで遂に破滅の厄災に勝利した。

 

破滅の厄災は、その後神々とクレア、セプティマにより封印され、二度と日の目を見ることはないとされている。世界を救った人々と約束を交わしてから姿を消した。セプティマは■■■■王国を建国し、後に同じように失踪している。

 

我が一族は、約束を語り継ぐ。来る時、選ばれし者が来る時を。神々との約束────このトータスに到来する、新たなる『災厄』に対抗する為に。

 

 

「────以上が、この文献に描かれてる剣帝の歴史です」

 

「剣帝に関する話だけ読めねぇな。ま、こんだけ旧いもんだと仕方ねぇか」

 

 

詳しく頁を進めてみたが、剣帝がどういうものかを語る内容だけは文字が消えていた。力添えできず申し訳ないと頭を下げるグレイル伯爵に気にする必要はないと諭す刃。ふと腕を組んでいたイクスが、刃に話を振った。

 

 

「刃、気付いたか」

 

「ああ、新たなる『災厄』だろ?今の状況を的確に表してやがる」

 

「破滅の厄災と呼ばれるものも、恐らく魔神だろう。だが、この話が本当であれば封印しただけであり、殺せてはいないということになる。であるとすれば、剣帝の使命とは恐らく…………」

 

────封印した災厄の、魔神を殺すことだろう。

 

 

「だが、それこそおかしいだろ。何で、そのクレアは魔神を殺さなかったんだ?出来なかったって言っても、最強の剣帝だったんだろ。それが何で、俺に代わりを託す必要がある?」

 

「殺したくても殺せなかった。だから、封印に留めた。クレアには出来ず、お前だから出来ること。それは恐らく、お前が神の力を継承するものと関わってくるはずだ」

 

神の力を引き継ぐことで、剣帝は使命を果たすことができる。では、当の初代剣帝は何処に姿を消したのか。そんな謎だけが残るが、どれだけ考えていても答えは出ない。文献の話を聞いていた一道も考えていた所、シノがふと反応を示す。

 

 

「…………セプティマ、何処かで聞いたことある気がする」

 

「本当かの?シノ」

 

「ん、子供の頃…………何処かで聞いた気がするんだけど、思い出せない。確か、城内で…………姉様が、言ってた?」

 

 

キョトンと首を傾げるシノ、次に王国の人に会ったときに聞いてみるか、と思う刃達一同。そうして話していると、イクスが窓の方を静かに睨んでいた。

 

何かに気付いたらしく嘆息してから、一言。

 

 

「──────アイツめ、騒ぎを起こすなとあれほど」

 

「?どうしたよ、イクス」

 

「────少し出る。この場は任せたぞ、ノイン」

 

 

言うや否や、窓を開け放ったイクスが躊躇なく飛び降りていく。最上階から外へ出たイクスの姿に、明らかに狼狽えるクデタ一家。突然のことに絶句してた刃は思わず、イクスを追おうとする。

 

 

「まさか!ハジメに何か────グエッ!?」

 

「心配はありません。イクスが出たのです、貴方達は待機を」

 

「ッ!そうは言っても!親友に何かあって、黙って見てろって言う気か!?」

 

「問題ありません。イクスが何とかします。ですから待機を」

 

「駄目だこの人!話通じねェ!!」

 

 

飛び出そうとしたイクスの首根っこを掴み、制止するノイン。親友に何かあったと、仮に親友が無事でも何か起きて黙っている訳にはいかず、気が気でない刃だが、ノインは全く話を聞く様子を見せない。

 

そんな最中、シノとラナールの二人が飛びかかった。突然の行為に戸惑ったノインが手を離し、解放された刃は呼吸を整えながら振り向く。

 

 

「い、いいい、行ってくださぁい!刃さん!」

 

「…………ここは私達が抑える。だから」

 

「────すまねぇ!任せた!」

 

「ご主人様!妾達も同行するぞ!」

 

「あの場は二人に任せるわ!…………既に鎮圧されてるように見えたけど!」

 

 

「────行かれてしまいました。イクス、私はどうすればいいのですか?」

 

シノとラナールを布団で縛り上げたノインは、無表情のまま呟く。何が起こったのか分からず、クデタ一家はポカンとするしかなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

シアと二人っきりでデートをしていたハジメ。水族館にて人面魚のリーさんと出会い、彼の境遇────もとい、迷宮脱出の際の水流に巻き込まれ、人間に捕まったことへの罪悪感────から脱出を手伝った二人だったが、その直後に新たなトラブルに対面した。

 

下水道に流れ着いた海人族の少女、ミュウ。

故郷にいた際に、偶然人間に捕らえられ奴隷にされたという。何とか逃げてきた彼女を保護したハジメとシア。

 

二人に懐くミュウを連れて行こうと望むシアであったが、ハジメは故郷に帰せるように街の保安省へと連れて行くことにした。まだ幼く、懐いていた故にか嫌がるミュウだったが、迷宮の攻略に巻き込むわけにもいかない為、仕方ないという判断だった。

 

 

────だが、そんな二人の決心も虚しく、保安省は襲撃され、ミュウは攫われた。自身の油断とミスを恥じたハジメは、ある手紙を発見する。

 

シアを連れて二人っきりで来なければ、ミュウを殺すという脅迫文。恐らく相手はミュウを奴隷にした組織だろう。そうと決まった瞬間、自分を敵に回した組織にハジメは容赦なく潰すことを決意した。

 

 

「ち、近寄るな!今すぐ投降すれば命だけは助けてやる!俺に手を出せばどうなるか!」

 

襲撃した組織の拠点を壊滅させ、そのリーダーの一人へと詰め寄るハジメとシア。勿論二人は完全に怒りを顕にしている。特にシアに感しては、その怒りは凄まじいものである。今すぐにでもその男を潰そうとする勢いの二人を止めたのは、二人の前に現れた黒いコートの男だった。

 

 

「派手に暴れたな、お前達は」

 

「イクス」

 

「だ、誰だお前は!そ、そうだ!俺を助けろ!アイツらを殺せばたんまりと────ぎゃああああッ!!?あ、脚が!?」

 

「────黙っていろ、お前の相手は後だ」

 

 

イクスを金で雇うとした組織の男は、躊躇なく両足を撃ち抜かれた。神経と骨を穿ったその二撃は殺さぬように、それでいて移動を許さぬ行為であった。溜め息交じりに振り向いたイクスは手にしたサブマシンガンを片手に、ハジメを見据えた。

 

 

「さて、何か言い訳はあるか?」

 

「…………俺達が悪いことをした、みたいな言い方じゃねぇか」

 

「ここは全壊、構成員は皆殺し。随分と凄惨だったな、まるで獣を相手したような、地獄絵図だったぞ」

 

「そうかよ。邪魔しないでくれるか、ソイツからミュウの居場所を聞き出さなきゃならないからな」

 

「────そうか」

 

 

ジャキン、とサブマシンガンを構えたイクスはその銃口を躊躇いなくハジメに向けた。隣に立って身構えようとしたシアは、その尋常ではない殺気に身を竦ませた。自分よりも圧倒的格上の殺意が、そこにあったのだ。

 

その殺意に臆することなく、ハジメは苛立たしそうにイクスを睨んだ。

 

 

「何のつもりだ?俺の邪魔をするなら殺すって言ったはずだが」

 

「殺せると、本気で思っているのか?お前みたいなガキに、このオレが?」

 

「…………分からねぇな、アンタは俺達に協力してるはずだ。魔神を殺すために必要だから……………なら何で、俺を殺そうとする?」

 

「では改めて聞こう────何故独断でここまでした?こいつら全員を殺すつもりだったのか?」

 

 

イクスの問いに、シアは戸惑いを顕にする。しかし隣に立ったハジメは鼻で笑い、淡々と応えた。

 

 

「当たり前だ、俺の敵は殺す。それがポリシーで、こいつらは俺を敵に回した。…………まさか、アンタはこいつらを庇うんじゃねぇだろうな?」

 

「まさか。こんなクズども、死んで当然だ。オレが言っているのは、そういうことではない」

 

「そこまで分かってんなら……………」

 

「────今のお前は、獣だ」

 

 

何故邪魔をする、と言おうとしたハジメを遮り、イクスは突き詰めるように言う。

 

 

「お前は目的の為なら、邪魔をする奴は殺していいと思っている。それ自体は悪ではない、人は生きる以上殺すこともある。それを否定するつもりは、毛頭ない。

 

 

 

────だが、お前は違う。お前は分別を付けてはいない、殺す事へのブレーキが、ない。だから殺しを簡単に選べる。殺す方が早いと、認識している」

 

 

その価値観が育まれたのは、奈落の経験だとイクスは知っている。迷宮の奈落に落ちて、魔物に殺されかけたハジメは弱肉強食の理論のもとに生きるようになった。それは今までも変わることはなかった。

 

恐らく、親友の刃と行動している際には無意識に自省していたのだろう。だが、その根底は変わらない。敵と判断した者には、躊躇いなく引き金を引き、殺すことへの躊躇がない。

 

少なくとも、ソレは人の生き方ではない。魔物、いや獣の生き方である。

 

 

「その目は、知っている。お前のソレは、境界線を持たない者の目だ。その目をした奴は理由さえあれば、簡単に人を殺せる。大切な誰かを失った、それだけで大勢の他人を殺すこともできる。あの男と─────ファウストと、同じだ」

 

「だから、殺すか?自分勝手だな」

 

「もう一つ────ある人から頼まれている。もしもの時は、お前を導いてほしいと」

 

 

イクスは、ウルの街でのことを思い出す。

数日間滞在していたハジメ達を待っていた際、彼は愛子と対面した時間があった。その際に今までの不手際を詫び謝罪したが、話を聞いた愛子が言ったのは次の言葉だった。

 

 

『もし、南雲君や黒鉄君に何かあったら、あの子達を助けてあげてください』

 

『…………オレは貴方の教え子を傷付けた。その事を知った上で頼むのか』

 

『黒鉄君を傷付けたことは、許してはいません。でも、南雲君と黒鉄君の旅に付き合えて、あの子たちを守れるのは貴方しかいません。私の我儘です、それでも…………二人には、誤った道へ進んで欲しくないんです』

 

 

彼女の言葉に、イクスは自らの主の言葉を思い出していた。優しさと慈悲を大切にしていた女神ならば、きっとそうした。故にイクスは彼女の願いを聞き入れ、ハジメ達を見守ることにした。

 

それは愛子への償い以外に、自分の────慈愛の使徒としての信念を果たすためでもある。

 

 

「もし、お前が殺しを迷わず選ぶようになればオレはお前を殺す。人として、死ねるようにな………重ねて聞く。お前は人か、獣か?」

 

「…………」

 

「獣なら、好きに殺せ。自分の気に入らん『敵』を殺して回って、修羅の道を進むがいい────お前の側にいる者も、道連れにしてな」

 

 

そう言ったイクスに、ハジメは思わずシアを見やる。彼女の獲物は赤く染まっており、シア自身も返り血に濡れていた。怒り狂って、いや殺意に支配されていて気付くことが出来なかったのだろう。

 

心配そうに此方を案じる彼女の頭を撫で、ハジメは深い溜息を吐き出す。構えていたドンナーを降ろし、申し訳無さそうに謝罪を口にした。

 

 

「悪かった、アンタの言う通りだ…………確かに、やりすぎたな」

 

「オレは、殺すなと言ってはない。殺しに慣れるなと言っている。────己の心構えを改めろ。ただでさえ、お前は堕ちる可能性が高い」

 

 

特に、災厄の器であるからこそ、と答えるイクス。ハジメもある程度話に納得がいった所で、脚を撃ち抜かれて悶えていた男にイクスが歩み寄る。

 

 

「さて、待たせたな。こいつらの代わりに、聞きたいことがある」

 

「て、テメェ!俺を誰だと思って────アガッ!?」

 

「発言を許した覚えはない。オレの聞いたことに答えろ、さもなくばお前は地を這うことしか出来なくなる」

 

 

既に使い物にならない脚を踏みつけ、イクスは真横に向けてサブマシンガンの弾丸を飛び散らす。その銃をまともに受ければどうなるかを見せつけたことで、恐慌に陥った男は命乞い交じりに情報を吐いた。

 

粗方情報を吐いた所で、用済みかとサブマシンガンを構えるイクス。殺さないで、助けてくれ、と涙交じりに許しを請う男を、冷たい目で見下ろしながらイクスは答えた。

 

 

「聞こえんな、人を食い物にする獣の言葉は」

 

 

無数に放たれた散弾が、男だったものを肉塊に変えた。あまりにも容赦のない一撃に、ハジメたちですら同情────することは微塵もない。自業自得だ、と割り切った二人に振り向いたイクスが合流する。

 

 

「奴等に喧嘩を売った以上、簡単には済まんな。大事にしたくはなかったが、この際連中を潰すか」

 

「組織の奴等全部か?さっき聞いたオークションのとこにミュウはいるんだろ?」

 

「奴隷にされた奴等を全員助け出し、後顧の憂いを潰す。それ以外の道理があるか?とっとと準備をしろ。

 

 

 

 

────それと、さっきから見ているお前も協力するか?」

 

 

今後の方針を話し合っていたかと思えば、イクスがふと別の方に呼び掛ける。すると、瓦礫の影から何かが飛び出してくる。黒衣に身を包んだその人物は顔に被っていたローブを剥ぎ、警戒心を顕にした視線を向ける。

 

しかし、ハジメ達は別の意味で驚きを隠せなかった。

 

 

「…………ハウリア?」

 

 

片耳の欠けた、ハウリアの少年。温厚なハウリア族の気配を欠片も感じさせない彼は鋭く目を細め、警戒を緩めることなく睨み続けていた。




イクスの立ち位置は多分ハジメや刃を支える大人的なものになるかと。

原作でも見られたハジメの苛烈な部分に目を留めたイクスの説教、というよりも警告でした。悔いてすらなく、殺しても何も感じないハジメだからこそ、躊躇なく殺しを選ぶようになるのを止めるようにしたのです。

無論、イクス自身は殺すなと言っている訳ではなく、殺すのに慣れると警告してます。殺さなくてもいい相手までも殺して、罪を背負う必要はないという彼なりの善意です。


それと、今回刃のステータスも後悔しました。神様の力を宿してる割にはそこまでだな………と思うかもしれませんが、コイツ一定時間は魔力無限とかいうアタオカ仕様ですよ。


次回もよろしくお願いします。それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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