ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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ホルアドでの再会

「────」

 

「……………」

 

 

突如現れたハウリア族の少年とイクスの睨み合いは続く。イクスもハウリア族の少年も、武器を一切構えていない。それでも二人の間には敵意が生じている────主に、ハウリア族の少年の警戒が強い様子だが。

 

ハウリアの存在に我を取り戻したシアが割って入る。目の前の少年の警戒が微かに揺らいだのもあり、シアは何とか話し合おうと持ち掛ける。

 

 

「ま、待ってください!貴方、ハウリア族ですよね!?」

 

「………同族、か?」

 

「どう見ても同族ですよぉ!疑わないでください!」

 

「俺の知る同族は、そんな過激じゃない………だが、話し合える余地はあるか」

 

 

血塗れの得物を手にするシアに、少年は別の意味で警戒を顕にする。温厚を特別とするハウリア族とは思えない姿であることを理解し、うぅ………と説明し難そうなシア。だが、同じハウリア族と出会えたこともあるのだろう。少年は警戒しながらも歩み寄ることを選んだ。

 

 

「俺はハジメ………お前は?」

 

「ヴェルヌーイ。ここに来たのは、仲間を探しに来た」

 

「まさか!貴方の仲間も捕まって奴隷にされたんですか!?」

 

「捕まった、と言うのは語弊があるかもしれないが………」

 

 

何処か言いにくそうに言葉を詰まらせるハウリア族の少年、ヴェルヌーイ。組織の拠点に来たということは、彼にとっての仲間が奴隷にされたことを意味するが、それにしてはヴェルヌーイに緊張感は感じさせない。

 

嘆息したヴェルヌーイは本当に言いたくない様子だったが、すぐに事情を話し出した。

 

 

「俺の仲間、オプスロンは…………愚鈍な奴でな。ボスの指示がない時はいつも寝てるか、ゴロゴロしてるようなタイプだ。恐らく、その隙を狙って捕らえられたんだろうな」

 

「い、いや。それでも、捕まることはないんじゃないんですか?」

 

「あの馬鹿のことだから有り得るんだ。動きたくないというだけで波に攫われて、数日も漂流したこともある馬鹿だからな。捕まる際も、動きたくないという理由で抵抗しなかったんだろ」

 

「えぇ…………?」

 

 

困惑するハジメとシア、だから言いたくなかったんだと頭を抱えるヴェルヌーイ。そんな三人を傍らにイクスはノインと連絡を取っていた。流石にこれだけの数では手が足りないので、刃達を呼ぶことにしたらしい。

 

しかし、ノインからの連絡で刃が飛び出していったことを知り、イクスは深い溜息を吐き出すしかなかった。だがそれだけでは終わらず、彼は刃に渡していた無線機から連絡を繋げることにした。

 

 

◇◆◇

 

 

『────聞こえているか?刃』

 

「!イクスか?お前、どうしてる!ハジメは無事か!?」

 

『無事だ。お前に言いたいことはあったが、丁度いい。少し手伝え』

 

 

街を駆け抜けていた刃に、無線機越しに通信を送るイクス。その場に降り立ち、ソーナとティオと共に話を聞くことにした。ハジメ達に何があったのか知った刃は、露骨に顔を嫌悪と苛立ちに歪める。

 

 

「クソどもが、舐めた真似しやがって」

 

『お前にはそのクソどもを潰す手伝いをしてもらう。街の拠点には、子供が捕まっていると聞く。奴隷とされた子供たちを解放し、組織の奴等を無力化しろ』

 

「言われるまでもねェ────行くぞ」

 

 

そう言って、イクスの指示による場所へと向かう刃達。彼が飛ばしたであろうドローンにより、とある拠点へと辿り着く一同。ズカズカと突き進む刃に気付いた門番が強面で詰め寄ってくる。

 

 

「おうガキ!ここが誰かの拠点か分かって近付いてんのか!?ブッ殺されたくなけりゃ失せ────ぶぼらッ!??」

 

「テメェが失せろ、クズ」

 

 

無言で、振り抜いた拳が男の顔面に突き刺さり、扉ごと吹き出す。顔面が陥没するほどのダメージを受けて痙攣する門番を踏み越えながら、刃達は拠点の中へと到着した。先を進んでいき、彼等は牢獄と呼ぶべきエリアへと到達した。

 

 

「おい、お前等大丈夫────ッ」

 

「っ!これは酷いのう………」

 

「こんなのって、これが子供にすることなの………!?」

 

 

刃や、ティオにソーナが絶句する。牢の中にいた子供たちに、無事な者は誰一人としていなかった。鞭に打たれたであろう傷が目立つ者がいれば、明らかに汚された痕跡の目立つ者も、中には酷い暴行の末に目を潰された者までいた。

 

 

「─────」

 

「ジン?」

 

「…………ご主人様?」

 

 

その光景を目の当たりにした刃は、明らかにキレていた。一言も発していないが、その怒り様は凄まじい勢いである。抑え込まれていた魔力が大気を軋ませるほどに漏れ出し、刃の目が行き場のない怒りと悲しみの渦巻く感情に呑まれそうになっていた。

 

 

「────ジン、落ち着いて」

 

「…………ソーナ」

 

「許せないのは分かる。私だって、こんなことした人達を許したくない。でも、怒りに狂うのがジンじゃないはず………でしょ?」

 

「……………ああ、そうだな」

 

「だ、誰…………?」

 

 

隣に歩み寄り、目を合わせたソーナの言葉を噛み砕く刃。ふと、彼等の話し声に気付いた子供達が反応する。その一人、近くにいたボロボロの獣人の少女が問い掛けると、刃は自身に抱いていた怒りを一気に抑え込む。

 

そして檻に近付き、少女へと手を伸ばした。ビクッ、と怯える獣人の少女だったが、刃がしたのは頭を優しく撫でることだった。しゃがみ込み、目線を合わせた刃は穏やかに微笑みながら諭すように問いかける。

 

 

「悪いな────少し、離れててくれるか?」

 

 

言葉の意味に気付いて、牢から離れる少女たち。それを見てから刃は生成した魔剣を手にすると、一瞬で牢を斬り裂く。目で捉えられる速度を超えた斬撃は鉄格子を裁断し、大きな音を立てて牢を開放した。

 

それだけの音が響けば、流石に組織の者達も集まってくるのは明白だった。

 

 

「テメェらが襲撃者か!ここがフリートホーフの支部と分かってのことか!?」

 

「野郎は殺せ!女の方は………上玉だ!捉えてボスに貢げば儲けもんだぜ!」

 

「────」

 

 

駆け込んでくるのは、闇組織フリートホーフの構成員たち。牢屋を破壊した刃へ怒声を挙げながら、ソーナやティオに下卑だ笑みを浮かべる男達に、刃の怒りが冷気のように鋭くなっていることに気付ける様子はない。

 

無機質なまでの一瞥を向けたその瞬間、戦いは一方的に始まった。タンッ、と地面を蹴った刃の姿が視界から消えたのだ。

 

 

「え、消え────」

 

 

存在の消失に戸惑った男の一人は、途端に絶命した。空中に飛んだ刃が生成した魔剣を掌打で押し込み、砲撃の勢いで放たれた魔剣が男の顔面を貫通したのだ。そのまま一人を仕留めた刃は、続けて他の者へと飛び掛かる。

 

 

「こ、コイツ!剣を使うぞ!?」

 

「慌てるな!こんな閉所で剣なんて振れる訳ねぇ!それも分かってて素手で来てんだ!このまま数でなぶ────ゴボォ゙ッ!?」

 

 

そのまま飛び込んだ刃は突き上げた膝で他の男の顔を打ち込む。何本か骨を砕く音を耳にしながら、トドメと言わんばかりに男の首を蹴り、地面に転がす。

 

もう一人もやられてから、ようやく他の者達も斬り掛かってくる。しかし刃は臆することなく最初に突っ込んできた男の手首を掴み、壁に押し付けて擦り付ける。

 

ザリザリと肌が擦られたことで、男が悲鳴を上げて武器を離した所で頭を掴み、壁に叩きつけた。岩壁を砕くほどのダメージを受け、気絶した男の身体を持ち上げ、刃はそのまま武器を振るう男達へと放り投げた。

 

飛ばされた仲間を思わず受け止めようとしたが、そのまま吹き飛ばされる男。立ち上がり、慌てて武器を拾うとした男の前へと歩み寄る刃。萎縮した男が短刀を抜いて斬りかかるが、刃は男の腕を蹴りで地面に叩きつけたことで、短刀が空中に舞う。その短刀を手に取った刃は、何の躊躇いもなく男の頬に突き立てた。

 

悶え苦しむ男の顔面に拳の一撃を叩き込み、絶命させる。それで完全に敵は全滅した。あまりの手際の良さに、誰もが言葉を失う。剣帝としての強さではなく、元の世界で不良として、『暴君』と恐れられていた実力の片鱗が、そこにあった。

 

 

「────終わったぞ」

 

 

そう言って、刃は返り血に拭いながら振り向く。圧倒的すぎる蹂躙劇に子供たちはおろか、ソーナやティオですら絶句していた。そこで改めて自分がやりすぎたことを自覚する刃。二人から軽蔑されるかもしれない、と覚悟していたが────、

 

 

「スゴイわね、ジン!あんな人数を武器を使わずに制圧するなんて!でもまぁ、あんな怖い顔は似合わないわ!」

 

「まあそうじゃのう………じゃが、あの顔を見た瞬間、何かキそうな感覚じゃったんじゃが…………今一度、あの目で妾を見てはくれんか?」

 

 

思いの外、予想外な反応に困惑したのは刃の方だった。心配しすぎったが、と肩を竦めた彼は多少落ち着いた怒りを鎮火させたことで肩から力が抜けた。牢屋の中で不安そうな子供たちを見て、彼は優しく語り掛ける。

 

 

「もう大丈夫だ。家族や故郷に帰してやれるから、少し待ってくれ」

 

 

孤児院育ちの経歴もあり、子供への付き合い方は得意な方であった。寄り添うように振る舞う刃に、遂に子供たちは安堵からか泣き出す者までいた。街の保安省に子供たちを引き渡した後に、彼等がすることは決まっていた。

 

 

「────他の拠点も潰す。まだ他に子供がいるかもしれないからな」

 

「オーケー、任せなさない!王女としても、ただのソーナとしても、あんな奴等を野放しなんて許せないわ!!」

 

「妾も腹に据えかねておるからのう。ちいと加減は出来ぬが、構わんじゃろう?」

 

 

────そして、フューレンの街からフリートホーフの拠点が壊滅し、子供達が助け出されたのは数十分もかからぬ間であった。正直敵と戦うよりも、子供達を保護する方が時間が掛かったというのは本人談である。

 

 

◇◆◇

 

オークション会場で競りに掛けられている現場からミュウを助け出したハジメ。当のオークション会場にはイクスが結界を張っており、フリートホーフの構成員やオークションの関係者が全て脱出できないようにされていた。

 

それもこれも、当のイクスの「やるなら徹底的にやれ」という言葉故だ。ハジメを叱ったイクスだが、彼等の行動や怒りは否定せず、むしろ肯定的ですらあった。慈愛の女神に仕える者としても、奴隷という制度自体容認し難いのだろう。

 

 

この後、オークション会場を魔法で焼き払えば一網打尽で終われる。そう計画していたハジメが脱出しようとした瞬間、構成員たちが飛び道具を構えた。反撃することは容易いが、ミュウを抱き抱えた状態では厳しい。

 

 

まずは彼等を殲滅してから脱出するか、と考えを改めたその瞬間────オークション会場の床が凄まじい勢いで割れた。

 

 

「ぎゃあああああっ!!?」

 

「お、落ちる!誰か!誰かぁ!!」

 

「……………ぬぅぅぅぅぅぅん、外じゃあ……………ないぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ??」

 

 

会場の床をぶち破って現れたのは、巨漢。二、三メートルに匹敵する大柄な巨体を有した大男。人間だろうか、と思わず思ったハジメだがやはり人間ではないらしい。一体どんな種族か、と思っていた所、巨漢の肩に誰かが飛び乗った。

 

 

「こんの────バカデブゥーーーーッ!!!!」

 

 

ハジメですら耳を押さえるレベル怒号を響かせたのは、ヴェルヌーイ。彼は敢えて大男の耳元に近付いて、これだけの大声で怒鳴ったのだ。流石に過剰過ぎではないかと、ハジメも顔を顰めていたが、当の大男は特に気にしてない様子で口を開いた。

 

 

「あーーーあーーー、ヴェルヌーイだぁーーー。どうしてここにぃぃぃぃぃぃぃぃ?まさか、ヴェルヌーイも迷子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?」

 

「誰のせいだと!お前を探してここまで来てやったんだ!ボスがどれだけお前を心配していたと思っている!?」

 

「あーーーーー?ボーーーースーーーー?ボォスゥがぁ〜、ここにぃ〜、来てるのぉ〜〜〜〜〜?」

 

「人の話を聞け!あぁ、もう!ボスに頼まれでもしなければ、お前の迎えなんて来なかったのに!!元はといえば、お前のせいだろ!少しは礼を言うか反省するかくらいしろ!オプスロン!!」

 

 

オプスロンと呼ばれた巨大な大男は、耳元で騒ぐハウリア族の少年に狼狽えずにマイペースに対応していた。その対応こそが、ヴェルヌーイの怒りを更に買い、ウガーッと捲し立てる。騒がしいな、と思いつつ、ハジメはヴェルヌーイへ声を掛けようとした所、抱き抱えたミュウが声を上げた。

 

 

「フワフワさん!」

 

「うぅぅん…………?おぉぉ〜〜〜、ミュウちゃんだぁ〜〜〜。元気そうで良かったぁ…………そこにいるのはぁ、ミュウちゃんのパパさん〜〜〜〜?」

 

「違うだろ、どう見ても」

 

「…………あのデ、デカいのミュウの知り合いか?」

 

 

デブ、とヴェルヌーイの発言に引っ張られそうになったハジメだが、すぐに言い直して違和感ないように聞き返す。するとハジメの腕の中にいたミュウはすぐに応えてくれた。

 

組織に捕まった際、ミュウは同じ牢に囚われていたオプスロンと出会い、すぐに仲良くなった。主にミュウが積極的に接していたのも理由であるが。家族と生き別れ、故郷に帰りたいと涙を零したミュウを逃がしたのは、他ならぬオプスロンであった。

 

無論、ミュウを逃がしたことでオプスロンは再度捕らえられた後に厳重に縛り上げられ、ムチを打たれていたらしい。しかし当のオプスロンは鞭打ち程度では痒みすら感じず、現場に辿り着いたヴェルヌーイが構成員達を鏖殺し、助け出したのだとか。

 

 

────今思えば、ついさっきのオプスロンの発言に否定を入れておくべきだったかとハジメは思う。オプスロンはハジメのことを父親と誤解しているようで、ミュウも特に否定すらしていなかった気がする。まあ、後で誤解を解けばいいかと思ったハジメだが、その時点で手遅れなことには気付く余地もない。

 

 

「それより、ヴェルヌーイ………他の奴等は」

 

「問題なく、全員解放した。そっちの方から連絡が来るんじゃないか?最後に助けたのは獣人四人だったが」

 

『ハジメ、獣人四人を保護した。これで全員なら、攻撃を開始する。退避しろ』

 

「おう────ヴェルヌーイ、離れるぞ。巻き込まれないようにな」

 

 

全ての奴隷を救い出したことを確認してから、彼等はオークション会場を離脱する。それを追おうとするフリートホーフの構成員達だが、イクスの張った結界により出ることすら許されない。

 

全員が離れた直後、ユエの放つ魔法とイクスのグレネードによる爆撃が、オークション会場だけを焼き払った。凄まじい雷轟と爆音が響く景色を、ハジメ達は見守っていた。

 

こうして、フューレンの地から悪しき組織が散った。その際に出た被害や損害(主にフリートホーフのもので、民間人には微塵も犠牲は出てないが)によってイルワ達が頭を抱えることになることは、彼等の知る由ではなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────ハッハッハッ!凄いな!ギルドの連中も手出しが出来なかった奴等を全滅させるなんて!フリートホーフの奴等、一体どんな虎、龍の尾を踏んだんだ!」

 

 

豪華に装飾の並ぶ一室で、金髪の青年が大声で笑いながら紙切れを見て笑っていた。フューレンにて起きた事件を知らせる内容の、新聞と呼ばれるものの代わりである。彼は高級そうな椅子にもたれ掛かると、机の上にあった食事に手を付ける。

 

 

「ギルドのトップも頭を抱えてるだろうが、連中にとってはプラスでしかないな。なんせフューレンは中立、奴隷なんて違法でしかない。帝国だって奴隷制を止めたんだ。最近の世の中、奴隷なんて常識知らずのやること。

 

 

 

 

……………そう思わねぇか?フリートホーフの出資者(オーナー)様」

 

 

彼の体面には、一人の男が椅子に座らされていた。毛皮のコートを身に纏うなど、全身に宝石や金などあらゆる金目の物を身に着けた金持ちアピールの目立つ男。

 

フリートホーフに金を出して、オークションを取り仕切っていた黒幕は、椅子に押さえつけられていた。両手両足は縄で縛ることはなく、ナイフで突き刺されて直接固定されている。口の端から泡を出しながら、男は対面の青年に唾を飛ばす勢いで怒鳴った。

 

 

「わ、私を誰だと思っている!?私はこのフューレンの経済を支える貴族の一人だぞ!?私が死ねばどれだけの損失が出ることか…………ギルドだってこの事を知れば、貴様を許すことはないぞ!?」

 

「ああ、それね……………もう無理だぜ、はいこれ」

 

 

そう言って、青年が取り出したのはオークション会場から回収した男の関与した証拠である。詳しく調べれば、男がどれだけフリートホーフに関わっていたかを明らかにするそれは、生き延びたとしても捕まることを意味するものであった。

 

 

「アンタはもう詰みなんだよ。どう足掻いても、ここから生き残るチャンスなんて何一つない。ならせめて、この場で殺される方が何よりマシだと思うがね」

 

「ッ!────誰か!?衛兵!この際、誰でもいい!私を助けろ!金ならば、いくらでもある!誰か!いないのかぁ!!」

 

「物覚えの悪いオジサンだな。ここに入った来た時に言ったはずだぜ────俺様に襲い掛かってきた奴は、全部返り討ちにしたってな」

 

 

必死に周りへ助けを乞う男だが、当然応じる声はない。皿の上に置かれていた丸焼き肉を食らった青年はペロリと指と口元を舐め取ると、布巾で手を拭きながら立ち上がる。

 

 

「アンタの罪は三つ、一つはフリートホーフを動かして奴隷産業なんてものをやり始めたこと。二つは異種族問わず、子供を奴隷にしたこと」

 

「わ、分かった!私の稼いだ金の3割、いや半分をお前にやろう!大金だ!豪華な館や船だって買える!いや、この際全部!だから待て!待って!!」

 

「三つ、俺様の仲間に手を出したこと。奴隷にしたことも、ムチを打ったことも聞いてたんだ。奴等が全滅した以上────責任はアンタに取ってもらうしかないよね?」

 

 

そう言って、抵抗しようとする男の首を青年の手が掴む。もう片方の腕が持ち上がったのを見て、恐怖から涙がこみ上げる男は、必死に許しを、救いを求めた。

 

 

「こ、殺さないで………」

 

「腹括れよ、男だろ?────大丈夫、嬲ったりはしねーよ。楽に、一瞬で終わるぜ」

 

 

男が最後に見たのは、視界を覆う青年の掌。黒い太陽のような刻印が間近に迫ったと思えば、男の意識は完全に消え去った。

 

 

────青年は両手に手袋を付けてから、そのまま部屋から出ていこうとする。しかし扉に手をかけた彼は考え直すように立ち止まる。

 

振り向いた彼はまだ沢山料理の残った机を名残惜しそうに見てから、家主に声を掛けた。

 

 

「────ご馳走さん。少し貰ってくわ」

 

 

────通報により駆け付けた衛兵が見たのは、凄惨な遺体の数々であった。フリートホーフの出資者であると疑われた貴族の官邸、主である貴族は勿論、衛兵は全員殺されていた。類似するのは、二通りの殺し方。

 

体の一部を破壊された殺された方と、何かに押し潰されたような殺し方。衛兵たちは様々であったが、貴族の方は頭を失った状態での遺体が発見された。

 

後に、対抗組織の報復として処理され、この事件は幕を下ろすことになる。証拠を用意した挙げ句、貴族を殺した張本人は未だ見つかることはなかった────。

 

 

◇◆◇

 

 

フューレンの騒動から日が明け、翌日に出立した一同。ハジメの野暮用であるホルアドへと向かう最中。

 

 

「…………」

 

四輪駆動車の中で、窓際に座っていた刃はじっと外を見ていた。その様子は割とイケメン寄りである顔立ちから歓声が上がるようなものでもあると同時に、獲物を探している獣に見えるのは本人の人相のせいだろう。だが、彼が黄昏ているのは、大した理由ではなかった。

 

 

「ヒャッハー!ですぅ!!」

 

(…………カッケーな、アレ)

 

 

四輪駆動車の隣を、魔力駆動二輪で疾走するシア。大興奮な様子で駆け抜けていくシアが乗るバイクに、刃は心の中で凄いウズウズとしていた。アレを見た瞬間、自分でもアレが造れないか。バイク型の剣という形で生成できないかと思うほどに、惹かれている。

 

そんな光景を見ている中、前の座席の方が少し賑やかになってきた。

 

 

「パパ!パパ!あれ、ミュウもやったみたいの!シアお姉ちゃんみたいなの、やってみたい!」

 

「ん、駄目!」

 

「駄目に決まっているだろ」

 

 

助手席で目を輝かせていたミュウがハジメにおねだりをする。しかし当のハジメが断るよりも先に、ユエとイクスが即答した。そもそも子供をバイクに乗せるわけにもいかないという判断からだろうが…………その前に、少し確認しておくことがある。

 

パパとミュウが呼んでいる相手は、勿論ハジメである。あの事件が終わったあとから、ミュウはハジメを父親として見ているらしい。実の父が生まれる前に亡くなっていたこともあり、父親が欲しいと思っての────それほどにハジメを大切に思っているのだろう。

 

うぅ〜と可愛い呻き声を漏らしたミュウは、後ろの座席にいた刃に助けを求めた。

 

 

「ジンお兄ちゃん!」

 

「まぁ、仕方ねぇだろ。ハジメもユエもイクスも、お前のことが心配なのさ。アレに乗るってのは危険だからな。お前が傷ついてほしくねぇって思ってるのは自分でもよく分かるだろ?」

 

「う、うん…………でも」

 

「心配するな。今は無理でも、必ず乗れるようになるさ。もしもの時は、俺も一緒に頼んでやるからな」

 

「本当!? やったあ!ジンお兄ちゃん大好きーっ!!」

 

 

軽めに叱りながらも、ミュウの願いを叶えようと明言する刃にミュウは喜びながら抱きついている。誰だコイツ、と思う者もいるかもしれないがどう見ても黒鉄刃。

 

この一団にミュウが加わってから、パパと呼ぶハジメ以外にミュウが慕うのは刃であった。孤児院育ちで多くの孤児たちの面倒を見てきた刃だからこそ、子供との触れ合いは異様に得意なのである。それ故にミュウに懐かれるのも、当然というべきか。

 

少し前、ミュウが初めて「大好き」と刃に向かって言った時は少しどころか派手に大荒れした。あのハジメがあまりの情報過多に数分も硬直しており、ソーナやティオがまさかハジメの養女がヒロインレースに殴り込みかと戦々恐々としており、イクスがキレ散らかしたことで事態が収まったのは安堵しかない。そのせいでイクスには基本的に逆らえなくなったが。

 

 

ホルアドに着いた一同が進む中、ハジメは懐かしいものを見る。オルクス大迷宮の入り口。かつて魔王の戦いで奈落に落とされ、その先でグアンとユエという、大切な仲間に出会え────今がある。

 

 

【────?】

 

「ああ、何でもねぇ。………あそこがギルドだな。預かった手紙を渡すだけの簡単な仕事だし、すぐ終わらせるか」

 

フワフワと空中に浮きながら、ハジメに肩車されているミュウと戯れていたグアンが不思議そうに顔を覗き込む。僅かに過去のことに耽っていたすぐに我を取り戻し、目の前にあったギルドの扉を開けて、足を踏み入れる。

 

 

────その瞬間、足を踏み入れたハジメに無数のプレッシャーが向けられる。ギルド内の冒険者達がピリついているのか敵意に満ちた視線を向けていたのだ。ただそれだけならばハジメも大して気には止めなかった。

 

────肩車していたミュウが怯えた様子を見せたその瞬間、何かがキレる音がした。

 

 

「おい、坊主。ここは女を侍ってくるような場所じゃねぇんだ。ぶっ飛ばされねぇ内に失せ────」

 

「はい、そこまで」

 

 

と大男が捲し立てようとした瞬間、彼の首にナイフの刃が添えられていた。ナイフを差し向けたのは、一人の青年だった。黒眼鏡に白髪が特徴的な大人しそうな雰囲気の青年。しかし彼は只者ではないのか、その存在を認識した瞬間、周囲の冒険者たちが張り詰めた気配を見せた。

 

 

「あ、アルマ!?テメェなんのつもりだ!?」

 

「こっちの台詞だよ。見ず知らずの相手に喧嘩を売るのはいいけど、力量を弁えなよ。金ランク相手に勝てると思う?」

 

「金ランク!?このガキが!?」

 

「間違いないよ────さて、僕は忠告したよ。それでも喧嘩を売るならお好きにどうぞ。僕の迷惑にならないように、ね」

 

 

眼鏡を押し上げたアルマの言葉に、冒険者は舌打ちを吐いてその場を立ち去る。ミュウに謝らせようと思って呼ぼうとしたハジメだったが、そんな彼に向き合った青年が振り向いて笑顔を浮かべた。

 

 

「ごめんね、娘さんを怯えさせて………最近迷宮への立ち入りができなくなってイライラしてるのさ、彼等。それでも少しは立ち振る舞いってのを考えて欲しいよね」

 

「…………お前は?」

 

「僕は『博学』のアルマ・ソラ。銀ランクの冒険者、っていても環境や地質、魔物の調査を専門としててね。周りの連中には僕を銀ランク擬きって呼んでるみたいだけど」

 

 

揶揄するように言ったアルマに、周りの冒険者たちはビクッと肩を震わせる。敢えて周りに聞こえるように言ったのだろう。そんなアルマの対応にハジメは気にする様子も見せず、ある疑問を投げ掛けた。

 

 

「どうして俺が金ランクだって分かった?」

 

「意外と有名だよ。最近では、フリートホーフを壊滅させた冒険者って噂で聞いててね。詳しく調べてみたら君に辿り着いてって訳。察するに、ここに来たのは金ランクの正式承認の手紙かな?支部長なら呼んできてあげようか?」

 

「…………頼んでいいのか?」

 

「勿論、君は僕より上の金ランク様だからね。恩を売っておくには申し分ない」

 

 

ニコニコと笑うアルマは近くの職員に話し、ハジメ達を来賓室へと案内した。じゃ、ここまで待っててねと気さくに言って立ち去ったアルマの気配が消えてから、イクスはハジメの元へと歩み寄る。

 

彼の肩からミュウが降りて、他の少女たちに可愛がられている最中、イクスの手刀がハジメの頭を叩いた。

 

 

「っ!?何すんだ!?」

 

「此方の台詞だ。問題を起こすな、と言ったはずだぞ。あの男が割って入らなければお前は派手にやらかしていただろ」

 

 

イクスの読みは正しかった。

あのままだと泣き出したミュウに暴走したハジメが手当たり次第に威圧を撒き散らして、事態を悪化させていたことだろう。恐らくアルマが動いたのも、それを理解してのことだ。何故その事に気付けたのかは、彼が銀ランク相当の腕があるということかもしれない。

 

 

「その子に情を掛けるなとは言わないが、問題は起こすな。もし邪魔をすると判断したら、次はサブマシンガン(コレ)で殴る」

 

 

銃を鈍器として使うぞ、という脅しに口を噤むハジメ。明らかに此方の武器とは違うテクノロジーの武器を得物として使われるのは流石に痛そうである。せめてもの反発として善処すると返すハジメに、イクスは呆れながら近い内に殴るかもな、と思案していた。

 

 

「…………少し、騒がしくない?」

 

「表でなんか起きてんのか?ちょっと見てくるか」

 

 

賑やかにしていた一同も、部屋の外から声が聞こえてくることに気付く。ただの話し声ではなく、大声で誰かが呼びかけているようだった。立ち上がった刃が扉を開けて覗き込むと、声の主が周りを探し回りながら叫んでいた。

 

 

「どこだ!?金ランク!?一体何処に────え、黒鉄!?」

 

「お前、遠藤か!?」

 

 

黒装束で一際影が薄そうな青年、彼の顔に見覚えしかなかった。なんなら彼は、自分達と同じ異世界に招かれたクラスメイトである。

 

遠藤浩介。

クラスで一番影が薄いということである意味有名な青年が扉から出たばかりの刃に気付き、流石の刃も驚きを隠せない。この再会が、また大きな騒動の一端になることは彼等も知らなかったたろう。

 

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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