ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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新たなる旅路、愚者

「私、貴方が好きです」

 

「────悪い、俺には惚れてる女がいる。白崎の想いには応えられない」

 

 

白崎香織の告白に、ハジメは深い沈黙を経てから答えた。羞恥に染まった顔から一転、泣きそうになるのを堪える香織。心配そうに見守るのは刃や広大に、同じく目をパチパチとさせて俯く雨音である。

 

息を呑んだ雫の近くで、ポカンとした光輝。そんな勇者を尻目に座り込んで酒を飲み始めるハヤテに至っては、もう観客気分である。

 

 

「……うん、分かってる。それってきっと、ユエさんのことだよね?」

 

「ああ、だから連れて行け────」

 

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思う」

 

「…………なに?」

 

「だってシアさんも、ハジメくんのこと好きだよね?あの人も本気に思えるの」

 

「いや…………それはな」

 

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね?だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

 

 

そこを指摘されると反論の余地もないハジメ。こういう時に限って香織は割と頑固なのである。少なくとも、全員が承知の上だ。そして、意外なところから援護が飛んできた。

 

 

「おう、そうだ。この際何人増えようが変わりない。ハーレムだく何だか知らんが、女くらいしょいこむ器量を見せてみろ。でなければ王国に連れ戻す………第一、男が多くの妻を取るなど普通の話。つべこべ言わず抱いてしまえ」

 

「団長、お願いですからヤジ飛ばさないで。空気読んで」

 

 

完全に野次馬根性であるハヤテ。しかも無理矢理置いていこうものなら、ハジメを力尽くで連れ戻すという援護射撃どころか死刑宣告である。それって、選択肢が消えたようなものでは?と困惑しているハジメに同情を隠せない刃。

 

そんな刃を見据えたハヤテは酒瓶を口に咥えながら、

 

「お前の事もだぞ、刃」

 

「俺も!??」

 

突然の流れ弾に愕然とする刃であった。「というか、お前の方がそっち向きだぞ」と指差すハヤテに、何故か自信満々なソーナ達。何でそこまで余裕なんだ、と呆れ気味な刃だったが、その間にも話は進んでいた。

 

仕方なく、というかこれ以上引き下がらない香織(そして唐突に敵になり兼ねないハヤテの存在)に溜息を漏らしたハジメは、香織が旅に付いてくることを認めた。

 

挨拶を交わし合いながらも、凄まじいオーラを飛ばし合ったユエと香織。具現化するオーラが見えるほど白熱した二人に、一同は恐れをなす。刃は「修羅が見える………!?」と溢し、ハジメは怪訝そうに「修羅と言うか、般若じゃねぇか?」と顔を引き攣らせていた。

 

そんな最中、ようやくフリーズから解けた光輝が再起動した。錯乱した様子で取り乱す彼は、理解できない様子だった。

 

 

「ま、待って、待ってくれ!香織が、南雲を好き?付いてく?一体、何のことなんだ?どういうことなんだ!?どうしていきなりそんな話に…………南雲!黒鉄!香織に一体何をした!?」

 

「…………は?」

 

「あ゛あ゛っ!?テメェ馬鹿か!?香織が自分で言ってただろーが!それとも、遂に日本語理解できなくなったかよ!?」

 

 

香織の発言に戸惑っていた光輝は、香織の近くにいた二人────ハジメと刃を見るや否や、敵意を剥き出しにして詰め寄った。何でそうなる、と呆れしかないハジメの隣で、親友へ謂れのない扱いをする光輝に怒りを顕にする刃。

 

今すぐにでも掴みかかりかねない刃を制して、香織は光輝に歩み寄る。縋ろうとした光輝を真剣な眼差しで見据えた香織は、頭を下げた。

 

 

「光輝くん、みんな…………ごめんね。自分勝手だってわかってるけど、私どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

「だ、駄目だ香織!第一、そんなこと許されるわけ────」

 

「────ハヤテ団長、構いませんか?」

 

 

立場的にも勝手な行動は許されない、と訴えようとした光輝に、香織はふとハヤテへ問い掛けた。空になった酒瓶を部下に手渡したハヤテは頬杖をかいたまま、香織を見て笑った。

 

 

「良いだろう。エリュシオンの奴は既に許可を出してるしな」

 

「っ!?ハヤテ団長!何を勝手なことを!」

 

「王が、オレが許可を出した。それ以上に理由は必要あるまい…………貴様はエリュシオン陛下の言葉を、勝手と抜かすか?ん?貴様如きが?」

 

 

有無は言わさん、というハヤテの意思に光輝は怯んだ。しかしそれでも納得がいかない様子で香織に何かを言おうとした。流石に見てられないと思ったのか、雫も険しい顔で苦言を呈してきた。

 

 

「光輝。南雲君や刃が何かするわけないでしょ?冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織はもうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいる時からね。誰だって、委員長や皆だって分かってたことなの」

 

「雫………何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってやっていたことだろ?協調性もやる気もない、自分勝手なオタクの南雲を、香織が好きになるわけないじゃないか」

 

 

「────────ッ!!!!!」

 

「ちょっと!落ち着いて!ジン!!」

 

「ご主人様!気持ちは分かるが、ステイなのじゃ!」

 

 

目の前で聞いてるハジメはもう勘弁してくれと言いたいくらいだったが、隣にいる刃はもう凄まじかった。ビキビキ、と血管が浮き出るほどに憤慨した彼は殺気を隠すことなく、歯をきしらせていた。ティオやソーナが身を挺して止めているからこそ、踏み止まっているように見えるが、下手したら今すぐにでも馬乗りになって殴りかねない程キレている。

 

 

「香織はずっと、俺の傍にいてくれたじゃないか…………だから、俺といるのが当然で…………そうだろ?香織。確かに小さい頃から一緒だったけど…………だからって、ずっと一緒にいるわけじゃ………」

 

「────天之河さん。今の貴方の言い分は、許容できません」

 

「テメェさっきから黙って聞いてりゃ、いいかげんにしろよ!今まで散々香織やハジメのこと考えねぇことばっか言って!人のこと考えてねぇのは、テメェだろ!!」

 

 

否定しようと必死な光輝に、遂に外野からも反発する声があった。特に二人の仲を応援していた雨音と広大である。他の皆に止められながらも強く言い返す二人に、光輝は違うと言い返しながらも聞き入れようとしない。

 

 

「そうだ………黒鉄だって、そうだ。アイツはいつも、人に暴力ばかり働いて、威張り散らしてる不良じゃないか。皆の迷惑なんて気にせず、クラスメイトにも威嚇したりして…………あんな奴と仲良くしてる南雲を、香織が好きなわけない。騙されてるんだ、あの2人に…………」

 

「っ!光輝!アンタ今なんて────!」

 

 

うわ言のようにそう言い出した光輝に、雫が胸倉を掴もうとする。今までにないくらい怒りを剥き出しにしていた雫を呼び止めたのは、他ならぬ刃であった。

 

 

「────テメェの言う通り、俺は不良だ」

 

「……………は?」

 

「ああ、そうさ。俺はテメェの言う、暴力が好きなクズ。それがテメェの言おうとしてたオレへの悪口だろう?当たり前だ、テメェみたいな正義気取りとは違って、俺は暴力でしか他人を黙らせられねぇ悪党さ……………?んだよ、お前等。その顔、俺何か悪いこと言ったか?」

 

 

光輝の都合のいい解釈に、刃は否定すらせずにむしろ肯定した。自分は多くの人を痛めつける、暴力を選ぶようなクソ野郎で間違いないと、自信満々であった刃は────何言ってんだコイツ、と言わんばかりの視線を集めることになった。

 

 

「いや…………お前、マジでそう思ってんのか?」

 

「あァ?当たり前だろ、俺がどれだけ暴れたと思ってんだ。何人も、何十人も痛めつけて、病院送りまでしたことのあるクソみたいな悪人だぞ」

 

「いや、お前…………お前が基本的に痛めつけたのなんて、他人に迷惑ばっかかけるような連中だろ。病院送りだって、殆ど犯罪やってるような奴等相手にだったろ」

 

「そうそう!前だって、小さい子やお年寄りに絡んでた不良を追い払ってたでしょ!その時、ハジメくんと会った時のことだからよく覚えてるから!」

 

「…………貴方ね。まあ、私も概ねその認識よ。貴方が自分で言う程の卑劣で最低な悪人だったら、委員長や南雲君も仲良くしてないわよ」

 

「それはお前等が優しいだけだろ」

 

 

いやいやいや、と刃の言い分を全員が否定する。思えば、刃は前々から自分のことを下に見てる節が多かった気がする。何度も怪我や自傷、果てには自身の命まで軽く見ているような面はいくつかあった。

 

やや半信半疑であったが、まさか本当に自分を大切にすら思っていないのか────。

 

 

「お前…………あの時といい、自分のことなんだと思ってんだよ」

 

「クズ」

 

「…………シノ、ソーナ、ティオ、後で頼む」

 

 

了解と断言した少女達は真剣な顔でそう応じた。当の刃は未だ意味を理解しきれていないのか「な、何が!?」と困惑を隠しきれなかった。その後、彼女達から厳しい説教を受ける羽目になることを知らない刃はやはり困惑するしかなかった。

 

刃が自身を露悪的に肯定したせいか、都合のいい部分だけで聞いていたのか、光輝は調子を取り戻したかのように、ハジメや刃を指して、声を上げ始めた。

 

 

「そうだ!そこの兎人族の女性は奴隷の首輪をつけてるし、黒髪の女性にもご主人様と呼ばせていた!きっと南雲や黒鉄は仲間をコレクションか奴隷のように扱ってるに違い!だから人だって殺せるし、平気で傷つけられるんだ!」

 

「ふざけんなよ!テメェ!ハジメはそんなことしねぇし、コイツらもそんな簡単に騙されて利用されるようなクズじゃねぇ!前言撤回しろ!」

 

「お前もだよ。自分のこと悪く言われてんのに、そこだけ反論しねぇのは可笑しいだろ」

 

 

流石のハジメも軽く小突く。いてっ、と反応する刃だが、自分のことに関しては二の次らしい。ホントにコイツは、と呆れたハジメだったが、親友に反応している間に、光輝は自分の世界に入っていたらしい。

 

 

「君達もだ。これ以上、そんな奴等の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう!君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオさんも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

「「「「「「……………」」」」」」

 

女性陣は完全に目を逸らしていた。キラキラとした爽やかな笑顔を向ける光輝に彼女達の様子はドン引きに等しい。ユエ達はドン引きしてるが、ソーナ達に至っては怒りと軽蔑を顕にしているようだった。

 

 

「…………(ドン引き)」

 

「なんかあの人気持ち悪いですぅ………」

 

「ジンにあんなこと言った挙げ句に、何アレ?私!あの人嫌いだわ!!」

 

「…………主様、の敵………排除?」

 

「う、うむ………妾もあれはちょっと………ご主人様の方が断然良いのじゃ」

 

 

「おいテメェ!ハジメをそんなクソ野郎なワケねぇだろ!テメェの目は節穴か!ガラス細工か!?あ゛あ゛ん゛!!?」

 

「お前は!自分のことも庇えって!!」

 

 

ハジメに羽交い締めにされながら、怒りを顕にする刃。女子たちからドン引きされている事実に自覚がないのか、光輝は彼女達の様子に「まだ信じてくれないか!あの二人、どんな洗脳を!」とか抜かしてる。ここまでくると怖い、二つの意味で。

 

流石に黙っては居られなくなったのか、都合のいい解釈で自身を納得させる光輝に、ハヤテが苦言を呈した。

 

 

「おい、天之河。いい加減にしろ、これ以上オレに迷惑をかけるならそれ相応の対応を考えるぞ」

 

「…………っ!ですが、俺は彼女達を放っておけない!あの二人から解放するんです!」

 

「ほう?ならば────決闘でもするか?」

 

 

ジロリ、とハヤテがハジメに目配せをする。余計な事に巻き込むな、と言いたかったが、彼の言わんとすることをある程度読み解けた。

 

 

「南雲ハジメとの決闘だ。それで負ければ、大人しく従え。ガキでも分かることだろう?…………そうだな、武器を使用しない戦い、でどうだ?」

 

「俺は構いません!南雲!それでいいな!?俺が勝ったら、次は黒鉄だ!お前達が支配してる彼女達も解放してもらうぞ!」

 

「…………白崎だけじゃないのかよ」

 

 

────好きにやれ、とのことだ。

団長の許可も受けたので、この際遠慮なくやるとしよう。その決意して腕を組んだハジメに、光輝は何故か自信満々に問い掛ける。

 

 

「どうした!?来ないのなら此方から行くぞ!」

 

「…………はぁ、もういいよ」

 

「どうやら武器を使わない戦いは苦手なようだな!もらったぁ!!」

 

 

直後、飛び掛かった光輝の姿が消えた。足元の地面が消え、そのまま下に落ちていったのだ。ついでと閃光手榴弾と衝撃手榴弾、麻痺手榴弾に催涙手榴弾を取り出し、放り捨ててから穴を埋める。無論、空気の通り道は残して。

 

ミュウを担いで離れた刃は幼馴染の猪突猛進ぶりに頭を抱えた。やるには少し過剰過ぎると思うのは、甘過ぎるせいだろうか。決着を終えたハジメに近付いた団長は、溜息を吐いた。

 

 

「あの馬鹿…………こうも簡単に嵌められるとは。これは修行の難度を引き上げてやるか」

 

「………意外だな。こんなやり方でも勝ちと認めるのか?」

 

「戦いに卑怯もクソもない。そう言うのは雑魚の理論であり、強者ならば相手の手段を突破してこそだ。こうして穴に埋められたのも、奴自身の驕りだ」

 

「じゃあ止めてくれよ。ストッパーだろ、アンタ」

 

「人格面に関してはオレは知らん。奴の親でもないからな────俺にできることは戦士を鍛えることだ」

 

 

卑怯などと言う前に、力尽くで押し通ればいい。そう主張するハヤテは部下達に穴を掘らせ、光輝の回収を命じる。その後、龍太郎達に光輝を縛り上げるように言っていた。嫌ならば俺が鎖で締め上げる、と言うと全員が慌てて手伝い始めた。

 

どれだけ厳しいんだ、と思っていると、また騒ぎが聞こえ始める。香織が抜けることに反対しているのは、檜山たちであった。

 

特にその勢いが強いのは檜山である。治癒師である香織が居なくなった場合、今度こそ死人が出ると力説する彼に香織は引く様子を見せない。ならせめて、ハジメ達に一緒行動しようと頼み込む檜山。今までのことは謝るから仲良くしよう、と面の皮の厚い発言に刃が噛みつきそうになるのを抑えながら、ハジメは自然と問い掛けた。

 

 

「なぁ、檜山…………火属性魔法の腕は上がったか?」

 

「……………と、突然、何言ってんだ?俺が一番適正あるのは、風魔法だぞ………?」

 

「そうか、人の背中に当てそうになるくらい得意なんだな…………ああ、それと。魔物を操れるなんて知らなかったよ」

 

「え、あ…………な、なんの………」

 

「俺の勘違いか?なら、そうだな────道化野郎に一言よろしくな」

 

 

そこまで言われて、檜山はようやく気付いたらしい。

ハジメが自分のしたことに気付いていることを、自分が誰と繋がっているかを。蒼白になって声も出ない檜山の肩を叩いたハジメは、分かってるな?と言わんばかりの目で見る。

 

 

「俺達にはやるべきことがある………分かってくれるよな?檜山」

 

「…………………あ、あ」

 

主に反発していた檜山が納得したことで、他の皆も受け入れざるを得なかった。強く反対していた光輝も無力化されたことが大きく関与しているのだろう。あとの皆は香織との別れを快く送り出そうとしている面子が多いらしい。

 

そんな中、途中別れの準備をするハジメを雨音が呼んだ。色々と話したいことがあるらしい。自分もここまで待ってようか、と思っていた所で、突然声をかけられた。

 

 

「……………ねぇ、刃。ちょっといいかしら?」

 

「………………八重樫、か」

 

 

刃は、改めて対峙することになる。

かつて距離を取り、いつの間にか話すことも無くなった幼馴染と。今思えば、数年ぶりに二人っきりで話すな、と思いながら、彼は目の前に立つ幼馴染を尻目に捉えた。

 

 

◇◆◇

 

「……………」

 

「…………」

 

 

居心地の悪い沈黙が、漂う。

人のいる場所から離れた刃も雫も、互いに顔を向けることなく黙り込んでいた。特に刃の様子は普通ではなく、ソワソワとしている彼はこの場から逃げ出したいと言わんばかりの、苦々しさを感じていた。

 

 

「その………色々と、ごめんなさい」

 

「…………ンで、謝んだよ」

 

「南雲くんは香織に会いに来たんでしょ。彼に付き合って来てくれたのに、迷惑を掛けたわね」

 

「………別に、お前のせいでもねぇだろ。わざわざ謝んな、煩わしい」

 

「そう、よね………私も、そう思うわ」

 

「……………すまん、悪かった。言い過ぎた」

 

「此方こそ、少し内気だったから」

 

 

口数が少ない刃に、雫は寂しそうに、それでもどこか嬉しそうに話していた。かつては子供の頃から共に過ごしていた幼馴染との、いつぶりかの対話なのだ。こうして話し合えるだけでも、懐かしく感じるのだろう。

 

 

「お前も災難だな。あの馬鹿にあそこまで苦労させられて」

 

「今更よ。日本に居た時と変わらないわ…………そういう貴方は、随分変わったのね。あんなに女の子達を侍らせて」

 

「……………嫌味か?」

 

「さぁ?どうかしら?」

 

 

妙にトゲというか、そこだけあたりが強いのは何故だろうか。冷ややかな目を向けられたことに萎縮し、とにかく視線を逸らすことに必死な刃。雫から向けられる絶対零度のオーラに怯みながらも、彼は淡々と語った。

 

 

「あいつらは…………人が良いだけさ。俺みたいな奴に好き好んで付き合ってくれるんだしな」

 

「………まぁ、人を見る目があるのは確かね。二人のこと、頼んでいいかしら?」

 

「言われずとも」

 

 

ハジメと香織を気にかけて欲しいという雫の気遣いに、刃は当たり前だと断言する。元よりあの二人は、刃にとって掛け替えのない友人だ。文字通り命を懸けてでもあの二人は守り切るつもりだ。たとえ本人達が、それを望まなかったとしても。

 

そう思って立ち上がった刃は、雫に渡すものがあることを思い出す。その場に具象化させたそれを手に取り、雫に向かって投げ渡した。

 

 

「八重樫────受け取れ」

 

「っ、これは…………!」

 

「俺とハジメの合作魔剣、『月光』だ。造ったのは良いが、使いこなすのもクセがある奴だからな。お前に渡す…………こっちの世界の剣よりかは、扱いやすいだろ」

 

 

刃が渡したのは、何処か機械的な形状の鞘に収まった1メートル程の黒刀であった。ハジメと趣味趣向で造った魔剣の一つ。世界最硬度の鉱石とあらゆる剣の生成が得意な刃のスキルで重ね合わせた結果、あまりの高性能っぷりに極める以外には不適格な得物と化した日本刀型の魔剣。

 

丁度少し前の戦いで雫が武器を失ったには気付いていた。同時に彼女が普通の剣では戦い慣れていないことにも。ならばせめて彼女の経験に合った刀でも渡そうと、思っていたのだ。

 

 

「色々と機能はあるから、好きに使え…………んじゃ、身体には気を付けろよ」

 

「?大丈夫よ、怪我は既に感知してるから」

 

「そうじゃねェ────身体もだが、顔も大事にしろよ。テメェも、その………女だろ」

 

「っ!?…………あ、ありがとう」

 

 

恥ずかしそうに言う刃に、雫は顔を紅潮させてから礼を口にした。当の刃は何恥ずいこと言ってんだ、と言わんばかりに自問自答しながら、その場を去ろうとする。

 

そんな刃を、雫は呼び止めた。ある疑問を、投げかけて。

 

 

「ねぇ、刃────どうして、私達から離れたの?」

 

「………………」

 

 

かつて、彼が不良になる道を選ぶ前────刃がまだ大人しく、穏やかであった頃。道場で出会った雫と光輝と仲良くなった刃は三人で共に幼少期を過ごしていた。

 

いつからか、刃はそこから黙って姿を消したのだ。光輝も雫も何があったのかと思ったが、子供ながらの別れだと気にしながらも受け入れた。

 

その後再会した時には、彼は見違える程に変わっていた。優しさを抑え込んだように、横暴に振る舞う不良となった刃に雫は何があったのか、何故離れたのかと聞こうとした。

 

────しかし、刃がその事を語ることはなかった。それどころか、面と向き合うことすら無くなった刃に、雫は理由を問うた。

 

自分がいない間、何があったのか。何故、そこまで距離を取ろうとするのか。

 

 

歩みを止めた刃の答えは、あまりにも簡潔なものだった。自嘲気味に、彼は笑いながら告げた。

 

 

「俺なんぞには、相応しくないと思ったからだ」

 

 

◇◆◇

 

「刃、終わったのか?」

 

「おう。そっちは?」

 

「まぁ……………何とか」

 

「…………何かあったのか?」

 

 

グッタリとしたハジメの様子に、刃もそう問いかけるが。ハジメの反応は鈍い。いやぁ、と言葉に詰まらせる彼の脳裏には、数分前の会話が思い出される。

 

雨音に呼び出され、彼女にお礼を言われた後のこと。香織の事を真剣に頼もうとしていた彼女に反して、適当に聞き流そうとしていた時だった。

 

 

『ハジメさん、香織さんのこと。よろしくお願いしても?』

 

『ん?ああ、はいはい。任せとけって』

 

『────隻眼の錬成師、というのは如何でしょう?』

 

『………………ん?』

 

 

唐突に、雨音がそう言い出したのだ。雨音から聞けないような言葉に困惑しながらハジメは声をかけようとした所で、次々と顔を引き攣らせる言葉が出てきた。

 

 

『な、何を………』

 

『漆黒の暴虐と書いて、ノワール・ディザスターとか。紅雷の王(クリムゾン・ロード)とかはお好みでしょう?』

 

『待て………ちょっと待て!お前、まさか…………』

 

『ええ、ハジメさんの二つ名です。中々立派なお名前、一度伝えればそれはさぞ広がることでしょうね。私、よく知ってますわ。確か、中二病由来のものですわよね?』

 

 

ゾワッ、と全身に寒気が走った。

それはハジメにとって触れてはならぬ領域とかした、過去の記憶。俗に黒歴史と呼ばれる、中二病であった頃の思い出である。

 

思い出したショックにより、吐血しそうな程に崩れ落ちるハジメ。それよりも彼はすぐに困惑しながら雨音を問い詰める。

 

 

『何故お前が、そんなダメージの与え方を…………』

 

『企業秘密、です。強いて言えば、乙女の友情ですわ』

 

『な、なんのことだ………!?』

 

『約束してくださらないでのあれば、これ以上の二つ名を考えて世界中に広めます。特に貴方のお師匠様にお伝えすれば喜んで広めてくれることでしょう。人間族はおろか、魔人族や魔神にも、ね』

 

妖しく笑う雨音の言葉に、顔面蒼白を通り越すハジメ。

ただでさえ中二病に関するダメージが半端ではないのに、その二つ名を広められたら恥ずかしすぎて可笑しくなる。

 

何より、彼の師────シュトライゼはそういうことにむしろ積極的な気がする。広めるかもしれないという可能性に拍車がかかる。

 

それ以上に恐ろしいのは、味方側よりも相手側に認知されることだ。魔人将や魔王相手に呼ばれるのも想像するだけで恐ろしいのに、魔神とかに痛々しい二つ名で呼ばれるなど恐怖以外の何物でもない。

 

凄まじい程のオーラを吹かす雨音を前に、ハジメは全面降伏せざるを得なかった。もとより、彼女は本気になったらやるタイプの乙女だ。かつて檜山たちが刃に痛めつけられたのも、ハジメがイジメられてる現場に刃が向かうようにセッティングしたという、策士中の策士なのだ。雨音を本気にさせてはいけないことは、誰もが理解していることだった。

 

 

「じゃあな、ハジメ!刃!香織!元気でやれよ!」

 

「皆様、お怪我ないよう………お気を付けて」

 

「広大くん!雨音ちゃん!皆も、元気でね!」

 

 

そんな高台や雨音、龍太郎達と別れ、ハジメ達はホルアドの地を離れた。走り去る魔導四輪を見届けた一団に、ハヤテは帰還の準備をするようにと自由時間を設ける。各々自由に行動し始める一同を尻目にハヤテは、震えながら俯いて座っている青年の隣に腰掛ける。

 

 

「邪魔するぞ、檜山」

 

「あ、だ、………団長」

 

「どうした?随分震えているな。迷宮での経験が怖かったか?」

 

「え、あ………は、はい………」

 

 

それにしては、怯え過ぎている檜山であった。青褪めた様子で噴水前のベンチに腰掛けた彼はカチカチと歯を鳴らし、挙動不審な様子で周りを見ていた。ハヤテが隣に座ってから、彼の様子を不安そうに伺ってばかりである。

 

 

「そう言えば、だ。檜山、お前に声をかけたのは他でもない。伝えたいことがある」

 

「………っ。つ、伝えたいこと?」

 

「良いニュースと悪いニュース、二つある。どちらから聞きたい?」

 

「じゃ、じゃあ悪いニュースから………」

 

「………最近、王国内でお前に関する良からぬ噂が流れている。内容を聞いてみたら、ふざけた話だった────お前が外部の敵勢力と内通してるのではないか、とな」

 

 

ひくっ、と檜山の喉から空気が漏れた。

動揺のあまり、全身の筋肉を強張らせている檜山は兎に角バレないように平常心を整え、落ち着かせる。バレてない、バレてるはずがない。バレてないに決まっていると、凄まじい速度で脈打つ心臓の鼓動をゆっくりさせようとする。

 

それでも、嫌な予感がまだしている。少しでも希望に縋ろうと、可能性を信じようと、檜山はもう一つの伝える内容に耳を傾けた。

 

 

「それで、良い……ニュースは?」

 

「エリュシオンから、お前への呼び出しだ。凄いじゃないか、あの勇者ですら呼び出しすら受けていない。お前、何か褒められるような功績でもやったのか?それなら先に言って欲しいものだな」

 

「──────」

 

 

素直に喜べなかった。

それどころか、ストレスのあまり吐きそうになるのを堪える。ハヤテの態度は何も知らないようなそれである。檜山が感じたのは、王様が呼び出したのは────あの事件に関与したことへの追及ではないか、という恐怖が心の中を埋め尽くしていた。

 

 

「どうした?気分が悪いのか?」

 

「は………はい…………少し」

 

「心配するな。そんなに不安なら付き添ってやる………王国に戻るまで、ちゃんとな」

 

 

檜山は気付かない。

ハヤテの見る目が味方を見るものではなく、愚者を見下す眼差しであることを。そして彼はすぐに気付くことになる。自分は罪人であり、王国という名の監獄で己の罪を突きつけられるという現実を。

 

 

 

 

「────そうだ、遠藤。お前もついてこい」

 

「………………え?」




愚者と呼べる人物、最初と後ろで分かれます。はい、そうです。天之河と檜山です。

天之河のそれは幼稚というべきなのかもしませんが、身内からの忠告すらも都合の良い解釈にするのは流石に愚かと呼ぶしかない。多分光輝が勇者(笑)と呼ばれる理由の数割は担ってる。

檜山は言わずもがな。仮にも王国に保護されてる身でありながら、仲間を殺そうと計画、実行したわけですし。しかもこの一件でエリュシオン達は教会からなじられて非難されたこともあり、メッチャクチャ厳格に対応するつもりなわけです。

ファウストに唆されたとはいえ、ハジメへの度重なる対応もあり、罰を受けるべきなのです。当のハジメが無関心(裁くつもりもない)なので、償うことはまだできます。

────まあ檜山がそんな奴なら、原作でああなってませんが(無情)


多分カップリングとしては距離感の難しい、刃と雫。正直二人は可能性あるんですけど、面と向かって話し合えてないのですれ違ってます。何故刃だけが幼い頃に、雫と光輝から距離を置いたのか、ある意味で察する人もいるかもしれません。刃が光輝にあたりが強くなったのも。


さて、この主人公────刃が自分を低く見てることがわかりました。まあ前々から出てたことですけど、仲間の悪口には怒るけど自分の悪口には特に反論しないどころか受け入れてるフシもあるので、自己肯定感自体が死ぬほど低いです。何ならマイナスいってる。


次回、檜山死す。デュエルスタンバイ()

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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