ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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アンカジ公国

赤銅色の景色が広がる砂漠。名を、【グリューエン大砂漠】。見渡す限り砂だらけのこの大地は準備なしで立ち入ることは自殺行為に等しい。だが、そんな砂漠に────普通ではない一団が踏み込んできた。

 

 

砂丘を駆け抜ける魔力駆動四輪『ブリーゼ』。そして、その真横を白黒のバイクが追走する。砂漠という環境下の中、問題なく踏破していくそのバイクを操縦する刃は、それはそれは大興奮だった。

 

 

「ハハハッ!!すげぇぜ!相棒!コイツは最高だ!!」

 

 

爆音を吹かせるソレは、又してもハジメと刃が合作で造った新型アーティファクト。銘を『クラレント』。前面の装甲部と背面部のスラスターには鋭利な剣先のようなフレームを装着しており、側面に纏う装甲も赤黒く禍々しいフォルムである。

 

刃用に開発したこともあり、その性能はハジメが造ったシュタイフを大幅に上回っている。何なら刃の魔力をエネルギーとしてする為、ブースターからは赤黒い魔力を放射している。

 

 

「あ〜!お兄ちゃんかっこいいのに乗ってるの〜!ミュウも乗りたいの〜!」

 

「今は暑いから、次に乗せてもらおうね?ミュウちゃん、お水飲む?」

 

「飲むぅ〜、香織お姉ちゃんありがとうなの〜」

 

 

そんなはしゃぐ刃を見て同じく興奮をしているミュウであった。涼しくなって快適な車内でミュウは香織の膝元で水を飲んで楽しそうである。海人族である彼女からすれば水分補給は欠かすことはできない。そして、ミュウと同じく暑さに弱い少女がいた。

 

 

「あ、暑いわ……………ッ。暑くて、干からびちゃうぅ………」

 

「見よ、ソーナが溶けそうじゃ。ここまでフニャフニャになるのも初めて見るの」

 

「ん、ソーナはミュウと同じ海国出身だから、こういう暑い環境は苦手みたい………」

 

 

フニャフニャに形の崩れかけているソーナ。いつもの軽服装を脱いでほぼ下着姿になった彼女は壁に張り付いて、舌を出して弱っていた。水分補給はしているが、それでも熱気だけはどうにも出来ないらしく、どうにか冷たい場所を探した彼女は、近くの仲間に縋り付いた。

 

 

「シア〜っ!ティオ〜!助けて!冷たいとこ当たらせて〜!私溶けちゃうわ〜っ!」

 

「ひゃあっ!?ちょ、ちょっとソーナさん!変な所に顔突っ込まないでくださぁいっ!」

 

「シア、すまぬな。妾とて清き身、この身体はご主人様の物なのでな…………せめて契りを結ぶまでは、大切にしておきたいのじゃ」

 

 

────誤解招くこと言うな!!と、外から刃の叫び声が聞こえた。流石に騒がしくなってきたな、と思ったハジメは嘆息しながら片手に氷を生成する。グラスに入れるサイズの氷を手にした彼は、後ろにいた少女に渡す。

 

 

「シノ、頼む」

 

「ん、了解────えい」

 

「んひゃああッ!!?」

 

「………そこに入れろとは言ってないが?」

 

 

くノ一少女は一切の躊躇いなく、尻を向けていたソーナの下着を引っ張りその中へ氷を入れた。突然の事にソーナは悲鳴を上げてピクピクと悶えることになった。当のハジメは後ろを見る余裕はないが、大体察してそう零す。

 

 

「うるさい、少しは静かに出来ないのか…………おい、ノイン。お前も何とか…………」

 

「…………(ゴクゴク)」

 

「水を飲んでる状態では、流石に無理か。悪かったな…………それはそうと、いつまで飲んでる?」

 

「…………(ゴクゴク)」

 

「────おい、分量を考えろ………おい!ノイン!?」

 

 

ボトルを飲み切りそうなノインを止めようとするイクスなのもあり、此方に構っている暇は無いらしい。途中、香織とユエが睨み合いというかオーラの衝突をさせあっていたこともあり、ミュウが怒ったこともあったが、それでも大したことにはならなかった。

 

 

「────ハジメ殿。三時方向に異変じゃ」

 

「……………相棒」

 

「ああ、見えてるぜ」

 

 

少し進んだ所で、ティオが感知したように、ハジメと刃も気付いていた。右手にある大きな砂丘に大きな影が見えた。地中から顔を出したソレは、サンドワームと呼ばれる魔物であった。

 

平均でも二十メートル以上の体長をしており、砂漠という環境下による奇襲を得意した【グリューエン砂漠】きっての魔物である。本来であれば地中に隠れているはずのソレが姿を見せているのは、あまりにも異様な光景だった。

 

何かおかしいと思った刃が生成した剣をドローンのように飛ばす。周囲の反応を感知することのできる魔剣で確認した刃は、すぐに顔を引き締まらせた。そして、バイクのグリップを握り、走り出す。

 

 

「っ!?刃!どうしたいきなり!」

 

「人がいる!アレが襲おうとしてるのかもしれねぇ!!助けに行ってくる!」

 

「おい!待て…………ったく、アイツ────ッ!?全員掴まれ!!」

 

 

疾走していくバイクを見届けていたハジメは、そう叫んで四輪を加速させて走り出す。すると、彼等の居た場所を突き破り、複数体のサンドワームが姿を現した。その魔物を振り切ろうと加速させるハジメは舌打ちをする。

 

 

「クソ!他にいやがったか!?」

 

「────いや、違う」

 

 

窓の外から確認していたイクスの呟きにハジメが何?と顔を顰めると、背後の砂漠でサンドワームがのたうち回っていた。ソレは襲おうとしているのではなく、何かを振り払おうと────何かに襲われているようにしか見えなかった。

 

目を凝らして見たハジメは、奇妙な物を目にする。

 

 

「────なんだ、あれ」

 

 

サンドワームの体皮に群がる、黒い人影。二本の手足を有するソレは人間の姿をしてはおらず、全身を黒い魔力の結晶体で構成されているように見られた。それぞれの個体は様々な特徴────両腕が刃物だったり、普通に爪のままだったり、魔力を放射するものもいるが、全ての個体に類似する点は────顔のある部分に鮮やかな眼球が露出していることだ。

 

血走ったというよりも、禍々しさを内包する瞳を有するソレらはサンドワームの全身に組み付き、体皮を切り裂き続いていた。それはサンドワームが絶命するまで続き、数の暴力で数体のサンドワームを葬り去った。

 

 

「な、なにあれ?あんな沢山いて………嫌な感じがする」

 

「あの魔力────まさか、魔神の端末『魔戦騎』か!気を付けろ!南雲ハジメ!奴等、此方を認識したぞ!」

 

 

サンドワームの死体から降りた無数の人型。魔神の端末であるソレは一斉に、ハジメ達の乗る四輪へと視線を殺到させた。次の瞬間、人型が全力疾走で迫る。悪態を吐いたハジメはアクセルを踏み抜き、四輪をフルスピードで走らせる。

 

無数の人型、『魔戦騎』はその後を追いすがる。逃げ切れるかと思ったハジメ達だが、背後から無数の光弾が降り注ぐのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「っ!?ハジメ達の方にもか!?」

 

 

突如ハジメ達の乗る四輪付近に出現したサンドワームに、刃は思わず焦りを覚えた。しかし、どうやら相手はサンドワームではないらしい。すぐに戻ろうと判断しかけた自分を叱咤し、刃は考えを改めた。

 

 

(馬鹿野郎!ハジメ達を侮るんじゃねぇ!あんな奴等に、相棒達が遅れを取るか!自惚れるな黒鉄刃!一度やると決めたことを、途中で曲げるんじゃねぇ!!)

 

グリップを強く握り、供給する魔力を最大限込める。すると『クラレント』は全身のフレームを更に輝かせながら、砂上でありながらスピードを引き上げた。

 

一瞬でメートルを突き抜け、不動であるサンドワームの方へと迫る。何時相手が動くかよりも先に仕留める。そう判断した刃は魔剣フェンリルを呼び出し、即座にサンドワームを斬ろうとして────サンドワームが硬直したまま絶命していることに気付く。

 

 

────その瞬間、サンドワームの身体から複数の影が飛び掛かる。死体に張り付いて此方が近付くのを待っていたのだろう。空中に飛び上がったバイクと刃に、黒い人型が一気に殺到した。

 

 

「舐めんじゃ、ねぇッ!!」

 

 

しかし、黒鉄刃は先制すらも許さない。

握っていたグリップから魔力を送り込み、バイクを空中で加速させる。スラスターから放射された赤黒い魔力に吹かれ、バイクが空を引き裂くように突進する。直撃を避けられなかった黒い影はその場で砕け散る。

 

グリップを引き、バイクを方向転換させる。その瞬間、刃はグリップの先端に配置されていたスイッチを押し込む。すると、バイクの前面部に内蔵された銃身────魔力式レーザーガンが火を吹く。

 

ズガガガガッ!!、と空中で破砕する黒い人型。そのまま地面に着地した刃からバイクから飛び降り、即座に近くに倒れる相手へと向かう。

 

 

「おい!大丈夫か────ッ!?」

 

その顔を見て、刃は倒れている男が無事ではないことを理解して歯噛みした。急いで治療しなければ不味い、そう思って男を持ち上げた刃の前に、大量の人型が群れていた。

 

 

「ハナッから逃がす気はねぇってか、上等だ」

 

 

ゆっくりと地面に下ろした刃は、男を生成した剣で囲んだ。こうすれば襲われずに済むだろう。武器としても運用できる『クラレント』をフェンリルを掴み、刃は無数の黒い人型の群れを睥睨する。彼は鋭く睨みながら、その人型の名を口にした。

 

 

「その特徴…………お前等が、イクスの言ってた『魔戦騎』だな」

 

◇◆◇

 

「魔神には、二つのパターンがある。個体として完全独立して一個体のみ存在するものと、無数の端末を使役するものだ」

 

かつて旅の最中、野営中の一同はイクスから魔神についての説明、その続きを聞いていた。ソレは魔神の分類、イクス曰く魔神には一個体と完成された存在と無尽蔵に端末を生成する個体もいるとのことだ。

 

 

「後者に類するのは、双対の魔神ダブリスと戦乱の魔神だ。奴等は端末と呼ばれる自らの力から生み出した魔物を操る。その魔物は、お前達がよく知るものとはレベルが違う。文字通り、破滅の尖兵だ……………現にお前達は、相対しただろう」

 

「アンチノミー、か」

 

 

ライセン大渓谷での出来事を思い出すハジメ達一同。シア達ハウリア族を襲ったアンチノミーは知性的で独自の言語を介して動いていたが、アレはイクス曰くアンチノミー………というよりダブリスが特別なのだとか。

 

 

「端末にも、区分はある。群体とそれを統率する上位個体、それ以上の強さの端末は『眷属』と呼ばれている。眷属は魔神の有する力の欠片を宿す強化個体だ。生半可な戦力では太刀打ちできん」

 

「待てよ。ってことは、戦乱の魔神にも眷属っていうか、端末はいるのか?戦乱の魔神って確か大魔王だろ?そういう端末とか必要ないんじゃないのか?」

 

「大魔王に関しては、オレも対峙したことがないから分からん。だが、奴の端末とは接触したことがある」

 

 

そう言ったイクスは、ドローンからのデータを提示する。ソレは、イクスが観測したであろう複数台の黒い人型であった。少なくとも魔人族のような生命の感じを認識させない無機質な存在。ソレを指して、イクスはその名を告げた。

 

 

「アレは、『魔戦騎』と呼ばれている」

 

「『魔戦騎』………?」

 

「黒い結晶を生やした魔力生命体。全身の至る所に様々な武器を発現した奴等だ。見れば分かるだろう、アレは闘争を繰り返し、生命体を駆逐させることしか頭にない。そして、アレはアンチノミーのように数を為す群体だ。気を付けろ」

 

 

◇◆◇

 

 

「────だからって、数が多すぎじゃないですかぁ!?」

 

「魔神の端末は基本的に群れて活動する!一体見れば数百体は近くにいると思え!お前達の知る、Gみたいなものだ!」

 

「最悪じゃねぇか!それより、遠距離攻撃してくるゴキブリなんていてたまるかよ!」

 

 

無数のエネルギー弾を回避していきながら、叫ぶシアに答えるイクス、そんな彼の言い分に文句しかないハジメ。さっき見た限りでは十数体しかいなかったはずだが、今で数百体も集まっている。その一部が両腕から魔力を放ち、ビームの雨を撃ち続けている。

 

そのままの速力ならば逃げ切れる。そう思っていたハジメであったが、相手の手数は思ったよりも多かった。

 

 

「っ!ハジメ殿!後ろから馬型が来ておるのじゃ!」

 

「はぁ!?どんだけ種類があんだよ!奴等は!!」

 

 

ミラー越しに見たハジメは、四輪に追走してくるケンタウロス型と魔戦騎を改めて認識した。たかが数体ならば良かったが、そいつらだけでも数は数十体。他にも何体か魔戦騎を乗せながら四輪に追い縋り、隣からタックルをかましてくる。

 

 

「きゃああッ!?」

 

「んんっ!?ソーナよ!そこは妾の尻じゃと!んぅ!?」

 

「そんなの〜、分からないわよぉ〜」

 

「チッ、邪魔しやがって!」

 

そういうや否や、ハジメは即座に右の窓を展開して、ドンナーを構える。並走するケンタウロス型がギョロリと向けた単眼目掛けて、弾丸を直撃させる。

 

頭を、瞳を潰されて横転したケンタウロス型に安堵する一同。しかしハジメはすぐに顔を顰め、舌打ちをする。ガタンッ、という音と同時に、四輪自体が揺れた。

 

 

「い、今のって………」

 

「一体、乗られた。不味いな」

 

ガァン!ガァン!ガァンッ!と、四輪に組み付いた魔戦騎が天井を破壊しようと攻撃を繰り出している。そのまま引き剥がそうと、全力で左右に揺らすハジメ。ガタンガタンと四輪が大きく揺れ動き、張り付いた数体の魔戦騎が吹き飛ばされる。

 

 

「はっ!ざまぁみろ!」

 

「────ハジメ!前だ!」

 

 

直後、フロントガラスが砕け散る。ボンネットの上に一際大きな黒い影が降り立ったのだ。ソレが振るった攻撃で、正面のガラスが吹き飛ぶ。咄嗟にドンナーを構え、放つ雷撃の弾丸で魔戦騎の眼球を抉る。

 

しかし、抉ったのは一つだけ。その個体には眼球はもう一つあった。ハジメはすぐに、目の前の固体が複数の魔戦騎が融合したものだと勘付く。すぐさま残りの瞳を潰そうとするが、すぐに二本の腕に掴まれた。

 

 

「グッ!?」

 

「ッ!ハジメく────」

 

ドンナーを構える腕と顔を掴まれ、尋常ではない力に抗おうとするハジメ。しかし片方の腕でハンドルを掴まなければ、横転してしまう。香織やユエが動くよりも先に、グレネードランチャーからの爆撃が魔戦騎を吹き飛ばした。

 

ガシャン、とグレネードランチャーの砲筒を回転させたイクス。彼は準備を整えたノインと共に、淡々とハジメに告げる。

 

 

「天井を開けろ、ハジメ。後ろの六割をオレとノインがやる。お前達は残りをやれ」

 

「いいのか?此方のほうが人数は多いぞ」

 

「その分、戦えない奴もいる。大半殺しておく、足を止めても構わない」

 

そう言うと、天井が開閉する。開かれた空間から飛び出したイクスは己の武器を構えながら砂漠に降り立ち、ノインは空に飛び立つと剣を構えてイクスに追随する。

 

二人が大半の魔戦騎の相手をしているが、一部が此方へと向かって来ている。仕方ない、と四輪を停めたハジメは外へと降りる。

 

 

「シノ、ラナール。お前等は香織とミュウ………あとソーナを頼む。向かってくる奴等は全部俺達で相手する」

 

「うむ、こういう広い場所でなら妾も存分に暴れられじゃろうて」

 

 

「暑いわ、本当に暑い…………それにしても、ミュウちゃんは冷たいわね…………気持ちいいわぁ〜」

 

「ソーナお姉ちゃんも気持ちいいの〜。ミュウが付いてるから、心配しなくていいの!」

 

「………こう見てると、二人って姉妹みたい」

 

激戦を始めるハジメたちの他所で、へたれ込んでいるソーナに寄り添うミュウに、香織はそんな感想を零すのだった。大半は受け持ったとは言え、恐らく百体近くいる魔戦騎の撃破には流石のハジメ達も苦戦するのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

「これで、全滅か………」

 

「はぁ〜ッ、しんどいですぅ〜」

 

「…………右に、同じく」

 

【────♪】

 

 

数十分もして、残りの魔戦騎を駆逐し終えたハジメ達は大いに疲弊していた。百体の魔戦騎との戦いを始めたハジメ達は思った形で苦戦を強いられていた。

 

数も多く、単体でも厄介だが、恐ろしいのは協調性である。ハジメがドンナーやシュラーク、メツェライによる殲滅を行おうとすれば、盾型が攻撃を防いで陣形を保って肉薄しようとしてくる。

 

その盾型を魔法で薙ぎ払おうとするユエへ、複数体のケンタウロス型が距離を詰めていく。詠唱や魔法の発動を許さぬような連携に、ユエも苦戦を強いられていた。

 

シアもハンマーでまとめて蹴散らそうとするが、相手をしたのは俊敏性の高い小柄な魔戦騎。未来視で一体を追い詰めようとすると背後からの奇襲を受け、攻撃すらも許されない。鬱陶しいと怒り狂ったのも無理はなかった。

 

そして、ティオに至っては。ブレスのような魔力砲を撃っても尚、遠距離型の追撃が繰り返される。数体がアンカーのように腕を射出し、ティオを捉えようと弾幕を繰り出していた。

 

 

何より、苦戦を強いられた理由の一つはこの砂漠という環境下である。車内とは違い、灼熱の日照りと砂粒が巻き起こるこの一帯は魔戦騎に有利に働いていた。ハジメ達が砂漠に足を取られる中、魔戦騎は屁でもないと言わんばかりに砂の上を疾走していく。戦いの場が平地であれば、もっと有利に立ち回れてただろう。

 

 

凄まじい連携力に、ハジメも劣勢を強いられていた。メツェライのような大型武装を構えれば、接近戦を強いられる。かと言ってドンナーなどの接近戦に対応できる武装に切り替えると、すぐに盾型の影に隠れてを繰り返す。

 

強引にでも押し破るかと考えかけたその時、ある魔法が戦況を打破した。

 

 

「────私だって!戦えるよ!」

 

そう言って、飛び出した香織が両手の指から光の弾丸を放ったのだ。星屑のような光の弾丸は一斉に降り注ぎ、ハジメに構えていた盾型や隠れていた魔戦騎を葬った。突然の攻撃、真横からの強襲に魔戦騎の連携は乱れる。すぐさま乱入してきた香織に対応しようと陣形を作り替えようとした魔戦騎を、ハジメ達は逃さなかった。

 

 

「────逃さねぇよ」

 

それからは、一方的な殲滅となる。

肝心な盾型を潰された魔戦騎をメツェライによる一斉掃射、ユエの魔法とシアのハンマー、ティオのブレスによる薙ぎ払いで殲滅されていく。それでも尚、簡単には倒れなかった。

 

仲間の死体を盾にしてでも進軍する魔戦騎。その戦意と気迫に、冷や汗を滲ませるハジメ。しかし何ら臆することはないと戦いを続け、ようやく残りの一体を葬り去って、此方の戦いを終えた。

 

 

「────随分と長かったな」

 

「お前な………いたなら手伝えよ………」

 

「あの程度に苦戦するのなら、魔神など倒せない。それとも、助けが必要だったか?」

 

 

睥睨するイクスに恨めしそうに言うハジメだったが、当のイクスはそう返した。どうやらハジメ達が一掃し終えるより前に終わらせていたらしい。この暑さに弱音を吐く様子のないイクスは、車内に戻って水を飲んでるノインに呆れながら、肩を竦める。

 

 

「それはそうと、ヤツの方も終わったようだぞ」

 

 

イクスが視線を逸らすと、向こうの方から刃がバイクに乗ってこっちに戻ってきていた。見ると息切れや疲れている様子はなく、刃の方は問題なさそうだ。しかし、何か別のことで用事があるらしく、刃はヤケに不安な様子でバイクから降りると、後ろに乗せていた男を抱き抱えて駆け寄ってきた。

 

 

「香織!頼めるか!?────こいつ、死にそうだ!!」

 

「う、うん!任せて!」

 

 

刃が抱えていた男を降ろし、駆け寄った香織が様子を見る。男の様子は普通ではなく、全身の血管が異様に膨れ上がり、黒く変色していた。目や耳、鼻や口の至るところから黒が混じった血を流して苦しむ男の姿は、ただの病気とは思えない状態であった。

 

香織もそれを理解したのか、すぐに処置を始める。まずは医療騎士団から習った治癒魔法の一つ、浸透看破を行使した。そして男の状態を理解した香織は、信じられないと言わんばかりに表情を強張らせた。

 

 

「────魔力が、結晶化してる?しかもこれ、血液や魔力を取り込んで、肥大化してる………」

 

「どういうことだ?こいつに何が起きてる?」

 

「えっと、体内にある黒い魔力がこの人の体内で悪さをしてるみたいなの。体内の魔力や血液を吸い上げて結晶化して、肉体を内側から破壊しようとしてる…………このままじゃ、全身が結晶化しちゃう」

 

急いで対応しなければならない、そう確信した香織は回復魔法を唱える。

 

「────天恵よ ここに回帰を求める 『万天』」

 

 

中級回復魔法で状態異常の回復が出来る魔法の光が、男を包み込む。その効力が発揮されたのか、男の全身の血管から黒色が引いていき、出血も抑えられていく。安堵したその瞬間、変化がすぐに生じた。

 

 

「────っ!?あ、ぐぅッ!」

 

「嘘、効いてたはずなのに………!違う、即座に魔力の方が上回ったの?回復される以上の魔力に増殖するなんて………!」

 

 

苦しむ男の口元から垂れる黒血が結晶化していた。体外に漏れ出す程に内部で増幅し、『万天』による状態異常回復すらも上回ったのであろう。普通とは思えないその適応力に、香織が悔しそうに歯噛みする。

 

しかし、その様子を見ていた刃が押し黙ったまま香織の隣に膝をつく。男の様子を確かめた刃はもしやと考え、香織に語りかける。

 

 

「おい、香織。上級回復魔法の、廻聖ってのを俺に頼む…………俺に考えがある」

 

「うん、分かった────光の恩寵を以て宣言する ここは聖域にして我が領域 全ての魔は我が意に降れ 『廻聖』」

 

 

そう言うと共に集中した香織が行使したのは、光系の上級回復魔法。一定範囲にいる者の魔力を他の者に譲渡する魔法である。それで、男の体内の中に根付く黒い魔力だけを刃に譲渡した。すると、男の顔色はみるみると収まり呼吸も戻り始める。

 

やった、と安堵しようとした一同だが、すぐに思い出す。あの黒い魔力が体内の魔力や血液を結晶化させるのであれば、刃が危ないのではないか。そう思い出して慌てて振り向いた一同は、全く様子の変わらない刃に困惑した。

 

 

「やっぱりな。俺にはあの魔力は効かねぇか」

 

「どういうことだ?刃だけに効かない理由があるのかよ」

 

「────成る程、『神の力』か」

 

納得したように頷くイクスに、どういうことだと説明を求める視線が集まる。イクス本人は肩を竦めながら、刃が何故効果を受け付けないのか、その理由を明かす。

 

 

「神の力はあらゆる生命の根源に携わる万物の力。恐らくあの黒い魔力は神の力を宿す刃の肉体に送り込まれた瞬間に消滅したのだろう」

 

「神の力と反発する………ってことは、あの黒い魔力は」

 

「魔神由来だな。恐らく、戦乱の魔神のものだろう。あの魔戦騎といい、きな臭いものがあるな」

 

 

それから香織の指示で男を日向に運ぶことにする一同。ハジメが生成した砂の部屋を作り、男をそこに寝かせていく。皆が部屋の中に入った所で、イクスは横に突っ立っていた刃の腹を軽く殴った。

 

 

「ブッ!?何すんだテメェ!」

 

「惚けるな。何故、誤魔化した………と言っても無駄か」

 

 

イクスはそう言って、掴みかかろうとする刃の足元を指す。すると殴られたことで彼が口から吐き出してたであろう血が、そこにあった。赤いはずの血には黒い魔力が中心となった結晶が生成されている。

 

刃は口から垂れる血を拭い、ペッと近くに吐き捨てる。それはやはり黒化した結晶であった。苦々しそうに、彼は呟いた。

 

 

「…………あんな一瞬で、結晶を生成しやがった。なんて魔力だ」

 

「自己犠牲、にはとやかく言わない。何を見た?あの魔力と触れたのだ、どうせ何かを見たのだろう」

 

「………………大魔王だよ」

 

 

そう零した刃は、直前のことを思い出す。

黒い魔力を香織に譲渡された瞬間、何処かで座る男の姿を見た。魔神族というには人間に近しい姿をした大魔王の姿を見た刃は、直後に恐怖することになった。

 

 

「あの野郎、俺を見てた」

 

「警戒されてる、ということか?」

 

「違う。あいつ、魔力越しに俺を視てやがったんだ。俺達に気付いて笑ってた────アレが、魔神なのか」

 

 

此方を認識したように微笑む大魔王。その瞳の奥に揺らぐ巨大な存在に、刃は無意識に怯えていた。震えを抑え込もうと必死である刃はすぐに表情を保ち、砂漠の日陰の方にいる仲間たちの元へと向かうのだった。

 

◇◆◇

 

「うぅ…………ここ、は」

 

「気が付きましたね。具合はどうですか?」

 

 

少しして、ようやく男が目を覚ました。呻き声を上げて起き上がろうとした男に、香織が声を掛ける。彼女の姿を認識した男は目を凝らし、すぐに地面に倒れ込んで顔を抑えた。

 

 

「………そうか、どうやら私は死んでしまったらしい」

 

「?大丈夫ですよ。貴方は────」

 

「いいや、ここは天国に違いない。貴女のような美しき女神がいるのですから」

 

 

「…………まだ正気じゃねぇみたいだが」

 

「冷水なら許す」

 

 

苛ついたのか踏みつけようとしたハジメを抑える刃。彼等を見たイクスから渋々許可を出たのを確認すると、ハジメが手を出す前にソーナが生成した冷水を顔に浴びせた。

 

冷水を浴びたことで正気に戻った男に、ハジメは説明を促す。ある程度事情を理解した男は立ち上がり、名乗り上げた。

 

 

「助けてくれたことに感謝する。私はビィズ・フォウワード・ゼンゲン」

 

「ゼンゲン…………ならお前がアンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の子息か。何故領主の子息があんな所で倒れていた?公国で何かあったのか?」

 

「…………」

 

 

向かおうとしていたアンカジ公国の子息という事実、ハジメ達はその偶然に感心する。しかし、そんな重要人物が砂漠で倒れるということに異常を感じざるを得なかったイクスの問いに、ビィズは顔を俯かせる。何かを思い出し、悔しそうな様子だったが、彼はすぐにハジメ達を見て疑問を口にする。

 

 

「ところで、君達は冒険者だろうか。願わくば、ランクを聞かせてはくれないか?」

 

「………まぁ、金だ」

 

「金!?本当ですか!?────おお、偉大なる炎神エンデルヴァルカン様!貴方様の采配に感謝いたします!」

 

「こいつホントに大貴族か?」

 

 

明らかな変わりように困惑したハジメだったが、すぐに話を戻した。ランクを聞くとなると、彼は依頼をしたいのだろう。すぐさま真剣な面持ちになったビィズは帽子を取り、深く頭を下げてハジメ達へと頼み込んだ。

 

 

「アンカジ公国領主代理として君達に正式に依頼する。どうか

私達を………いや、アンカジ公国を救ってほしい」




魔戦騎
大魔王もとい戦乱の魔神が生み出す端末。破滅と戦争の尖兵。複数の種類の個体が統率の取れた形で相手を襲う。


さて、アンカジ公国に入る前から新たな展開として大魔王もとい戦乱の魔神の端末が現れる事態となりました。因みにアンカジ公国を襲う病気も、新たに厄介なものへと変貌しています。

次回もお楽しみにください、それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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