ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

58 / 84
公国を蝕む魔毒

取り敢えずビィズを乗せて公国へと向かう一同。四輪自体に困惑するビィズに話を早くするように急かすハジメ。威圧を出す彼の頭をイクスが殴り、促した所でビィズから事情が説明された。

 

 

「異変があったのは四日前、突如原因不明の高熱で倒れる人が続出したのだ。初日で人口二十七万人の内、五千人が意識不明。二、三万人が症状を訴えていた」

 

 

突如、数日前に発生した謎の現象。体内の血液と魔力を消耗した異常を訴える国民の数々に、公国は大混乱に陥った。これまで前例の無い病気ということで荒れかけた国を、領主が主導になって持ち直した。

 

 

「そんな大人数が病気で倒れたこともあり、治療施設は飽和状態になった。治癒師が総出で対処したが、進行は遅らせられても完治には至らなかった…………そして、治療する側からも倒れるものが出始めた。」

 

 

しかし、公国側の努力を嘲笑うように病気は凄まじい勢いで広まっていき、遂には治療すら許されず絶命するものまでいた。全身から血を吹き出し、体内の魔力を結晶化させた状態で。

 

それだけでも凄惨であるが、ビィズは悔しそうに噛み締める。病気で苦しんで死んだほうがまだマシと呼べる事態が、更に起きていたのだ。

 

 

「大半の者は体内の魔力と血液が結晶化して死ぬが、一部の者は魔物へと変貌してしまう事例もあった。黒い結晶の身体を持つ、魔神の使いだ」

 

「魔戦騎、か」

 

「『魔瘴核』とその病気を命名した。以降、『魔瘴核』の症状のある者を隔離か、始末するべきだと苛烈な意見まで出て内部は荒れてしまっていた。私達が何とか止められたが、争いになるのは時間の問題だろう」

 

 

あの病気に感染した結果、魔戦騎へと変化する者が現れたことで無事な人々からの不安が一層に増した。中から過激な発言を繰り返す者が現れたことで二分されそうになった公国を引き留めたのは、領主達の力であった。しかし、それがいつまでも続くことではない、と誰もが分かっていた。

 

 

「………ここまでが、二日前の出来事だ」

 

「そんな酷いことが………」

 

「………あまりにも感染が早い。恐らく魔瘴核の源は人々が接種するものだろう。食べ物か、水か?」

 

「それを考えた者が公国にもいたさ。飲み水に液体鑑定をした者が、含まれていた特殊な魔力の存在を感知した。つまり、公国の命綱とも呼べる水源のオアシスが汚染されているということになる。アンカジはオアシス以外に水源はない、このままでは干からびるか苦しみ抜いて死ぬか、魔物化してしまうだろう」

 

 

水源のオアシスが魔瘴核の原因。それを調査するまでもなかった。実際にオアシスに向かった兵士達が見たのは、オアシスへの道を塞ぐように群がる魔戦騎であった。此方の存在に気付いても襲おうとしないその様子は、オアシスを守っているようにしか見えなかった。

 

無論、公国の兵士には魔戦騎を突破できる戦力も余裕もない。その様子だけでオアシスに原因があることは分かれば良かった。領主も殆どの重役が倒れてしまったが、その間に魔瘴核の治療法を調べることができた。

 

────魔瘴核を撒き散らした根源を何とかするか、或いは静因石という鉱石を粉末にして服用することだ。魔力の活性を静めるその鉱石の力ならば、魔瘴核の元となる魔力の活性化を抑制させることができる。

 

だが、静因石は非常に希少であり、アンカジ公国で採れるとすればグリューエン大火山である。しかし、グリューエン大火山は迷宮と呼べる領域。容易な戦力で立ち入ることもできず、戦力の大半は魔瘴核にて倒れている。それ故に外部から冒険者という戦力を呼ぶ為に、ビィズは一人で公国を飛び出したのだ。

 

 

問題のない自分であれば助けを呼んで、綺麗な水の確保も出来ると思ったのだろう。しかし魔瘴核に個人差があることに気付かなかった。潜伏されていて砂漠の真ん中で発症したビィズはその場で動けなくなってしまったのだ。

 

 

「少しでも静因石を持っておくべきだった。自分だけ無事だと思っていたあまり…………貴殿達がいなければ死んでいた所だった」

 

「そいつはどう…………いや、そうかもな」

 

「?何かおかしなことでも?」

 

「最初、サンドワームにアンタが襲われそうになってると思ってた。だが今考えてみれば、違った。魔戦騎はサンドワームに手を出しても、倒れていたお前を襲わなかった」

 

「────同族になるかもしれないから、見守ってたとかか?」

 

 

ハジメの怪訝そうな予想に、ビィズは顔を青くして吐きそうになっていた。全員からのジトッとした視線に、ハジメは「いや、悪気はねぇんだって」と申し訳なさそうに顔を逸らす。そんな空気の中で、シノがポツリと呟いた。

 

 

「もしかして────私達を、待ってたとか?」

 

「………そうだとしたら?何の為に?」

 

「んっ、そこまでは………でも多分囮のようにして助けに来る相手を待っていた、とか?」

 

 

答えが見出せない中、刃だけは険しい様子で考え込んでいた。彼は、人の考えを受けて答えが見えそうだった。あの時、魔力に触れた瞬間に感じた、大魔王の気配。アレは恐らく、自分達がここに来ることを望んでいたのか。

 

────そこまで考えて、刃は考えを振り払った。あまり不安になるような考えをやめたほうがいい。話を聞く姿勢に戻っていると、仕方ないといった感じでハジメがアンカジ公国を助ける事を宣言したことで、ビィズが安堵して手を重ねていた。

 

 

「これも炎神ヴァルカン様の導き。今一度感謝いたします」

 

「待ってくれ、炎神だって?やっぱりお前の言う神ってのは、炎神なのか?」

 

「え、えぇ。我がアンカジ公国が語り継ぐ炎神エンデルヴァルカン様です。もしかして、ご存知なのですか?父上や家族以外の方が知っているのは初めてで…………」

 

「俺はその神に会いたくて旅をしてる。エリュシオン王との約束っていうか、継承を果たすために」

 

「エリュシオン王………つまり貴殿は、父上の言っていた剣帝なのか!?」

 

 

再度驚いて言葉を失うビィズ。やはり間違いではなかったか、と刃は妙に落ち着いていた。ビィズが起きた時から炎神と言った時から気になったはいた。

 

だが、確信した。アンカジ公国は炎神を祀り上げている国なのだ。しかし、実際に表向きにはしていない風を装っているのだろう。そうでもなければ、エヒトの神敵として滅ぼされるだろうから。

 

 

「炎神エンデルヴァルカン様は、永らくアンカジ公国に繁栄をもたらしてくれた守護神だ。公国では定期的に焔火祭と呼ばれる、炎神様への感謝を捧げる祭りをしてるんです」

 

 

アンカジ公国では表向きに、焔火という祭りで神に祈りを捧げるとされている。神に祈りと感謝を捧げるということになっているが、大半の人間は炎神と呼ぶことはない。それによって、教会の人間が来たとしても、エヒト以外の神を祀っていると言われることはないのだ。

 

なんせ、誰もが神と呼び慕うものは一般的にはエヒト神以外いない。そうやってアンカジ公国は長年秘密を保ちながら、自分達を導いてきた炎神を奉り続けてきたのだ。

 

 

「まぁ、迷宮に行くにしても炎神に会うにしても、まずはアンカジ公国の問題だな。静因石だけで済みそうでもないし、安全な水から先に確保しておくか」

 

「先に………?二十七万人分の飲み水だぞ?」

 

「ああ、問題ない。使ってもいい土地はあるか?出来れば二百メートル四方は欲しいな」

 

「そ、そのくらいの土地なら、農業地帯に空いてる場所があったはず…………」

 

 

怪訝そうに思い出していたビィズに、ハジメは「案内を頼む」と四輪を進ませる。唐突な発言に理解が追いつかないのか、ビィズは「待ってくれ!」と慌てたように呼び止める。

 

 

「その言い方だと、まるで今から貯水池でも作るように聞こえるが………」

 

「────そうだが?」

 

此方を見ながらそう答えるハジメに、絶句するビィズ。まぁ無理もないな、と思いながらも刃は目的地に着くまで理解が追い付かない様子のビィズに同情するのだった。

 

 

◇◆◇

 

「かなり広いな」

 

「五百メートル以上は優にある。穴を掘ってもいないので、時間は掛かるかもしれないが………」

 

 

案内された農業地帯の一角、開けた土地は開拓前のものらしくて、向こうまで平らな地が広がっている。これを掘り進めるとなると数ヶ月は優に掛かるだろう、普通であれば。

 

不安そうに声を掛けるビィズを落ち着かせ、イクスが前に立つ。上空に飛ばしたドローンによる真上からの観測と地形の状態を確かめた彼は適切かつ最大限できる貯水池のサイズを目算した。

 

 

「五百メートルもあれば十分か。刃、四方に切り込みを入れれるか?」

 

「────問題ねぇ」

 

 

言うや否や、刃は無数に生成した剣を射出していく。ガガガガガガッ!!!と、直線状に突き刺さっていく剣が四方を囲むように並ぶ。伸ばした手を強く握り締めると、突き刺さった剣が無数に爆裂────綺麗な四角の窪みが出来上がっていた。

 

 

「よし、ユエ。真ん中の地面を潰せ、後は水を」

 

「………一度では難しい。ハジメの補給が必要だけど」

 

「構わん、許す。好きに使え」

 

「あれ?俺の許可は?」

 

 

イクスの指示を受け、ユエは満足そうに向かっていく。そんな彼女の姿にハジメは純粋に困惑しながら彼女の後を追いかけていく。やれやれ、と肩を竦めるイクスに刃がある疑問をぶつけた。

 

 

「ユエが穴を開けるなら、窪みを作る必要ってあったか?」

 

「アレはあくまでも大きな穴を開けた際に地盤や崩れるのを起こさないようの防波堤のようなものだ。あのまま吹き飛ばしていれば周囲の地盤にダメージを与えかねん」

 

 

そんなものか、と刃は無理に考えることなく納得した。こういう難しいこと分かる人間に任せたほうが一番である。そう思っていると、重力魔法で地面に大きな穴が生成される。あんぐりとするしかないビィズを気にする者は大体ラナールくらいであった。

 

あと水を用意するという所で、ソーナも飛び出していった。「水と言ったら私ね!」と呑気に言う彼女に呆れていたハジメは、倒れそうになったユエを受け止め────首に歯を立てた。

 

血を吸う彼女の姿に、近くに来たソーナは「わぁ!扇情的ね!」と声高らかに歓声を上げていた。因みに刃は何も言わない。隣に立つ香織から沸き上がるオーラに萎縮し、直視できないのだ。言いたいことはあるが、横が凄い怖い。

 

血を飲んで満足そうなユエが、ソーナの隣に立つ。一瞥した彼女の意図を汲み取ったソーナは両手に魔力を集中させ、

 

 

「────『氾禍浪(はんかろう)』」

 

「────『アクア・ウェーブ』」

 

 

直後、五百メートルにも近しい大穴に大量の水が噴き上がる。二人の魔力で生成された真水は凄まじい勢いで開けた穴を埋め尽くし、外へと飛び出しかねない様子であった。

 

 

「こ、こんなことが………」

 

「後はまぁ、領主に伝えれば何とかなるだろ」

 

「どう!?私だって水に関してはユエに負けないわ!あと、疲れちゃった!おぶってくれる?魔力使いすぎてもう立てない!」

 

「アホかお前。張り合うからだろ」

 

そう言いながら駄々をこねるソーナをおぶって刃が戻ってくる。やれやれと呆れた様子のイクスが主導し、一同はアンカジ公国の領主の元へと向かうのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

結論から言うと、公国から大いに歓迎されることになった。貴重な感染してない水を用意したということもあり、炎神様の使いだと貴族達は喜んでおり、ハジメはエヒトの使い扱いされるよりマシかとアッサリと受け入れていた。

 

領主から感謝された後に、これからの事をある程度説明してから、再度別れることになった。今回アンカジ公国に残るのは、やはりイクスとノイン、ミュウに香織だった。

 

 

「ハジメくん。私は、ここに残って患者さん達の治療をするね。静因石をお願い。貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメくんじゃなきゃだめなの」

 

「魔瘴核に関しては、俺も手伝おう。A.A.フィールドを展開すれば魔瘴核の進行も抑えられるはずだ。だが、ざっと見て二日が限界だ。それを過ぎてしまえば、魔瘴核は治せなくなる」

 

 

香織は魔瘴核に曝された人々の治療の為、イクスは香織やミュウの警護兼香織のサポートをするのだとか。彼の持つ結界術ならば魔力の暴走をある程度は抑制させられるということもあり、必要な措置であった。ミュウは当然として、ノインは念の為にミュウについて回るのだとか。

 

そうして再度別れると、人数が減ったことを意外と実感する。次の目的地へと向かっている四輪の中で、刃は近くに座るラナールの変化に気付いた。

 

 

「どうした、ラナール。なんか気分でも悪いのか?」

 

「え、あ!いや、すみません!少し考え事をしてまして!」

 

「気になることがあんなら言えよ。少しくらい吐き出しても構わねぇだろうぜ」

 

不安そうな表情で何かを押し殺そうとしたラナールに、刃は諭すように、それでいてぶっきらぼうに告げる。最初迷った様子を見せたラナールだったが、すぐに俯きながら語り出した。

 

 

「刃さん、私はお役に立ててますか?」

 

「?どうしたいきなり」

 

「香織さんが、また凄くなって………羨ましかったんです。あの人はヒナ団長や陛下からも認められてて………私は、香織さんのように治癒の腕はまだまだですので────私なんかよりも、香織さんがいたほうが、いいですよね」

 

そう言って、落ち込むラナール。彼女は彼女なり、色んなものと戦ってきたのだろう。その一つがプレッシャーや自分より優れた相手への尊敬、それ以上に自分自身への失意。

 

香織のように才能のある者がいるからこそ、それに追いすがることも出来ない自分自身の才能の無さに、ラナールは翳りを見せていた。そんな彼女の思いに刃は思うところがある様子だったが、すぐに彼女を小突いた。

 

 

「あいたっ」

 

「らしくねぇこと言ってんじゃねぇよ。香織は香織、お前はお前。一々周りを見て落ち込むんじゃねぇ。私なんか、だ?俺がお前にどれだけ助けられたと思ってんだ?」

 

 

小突いた後に、刃は彼女の頭を撫でる。

どうにも自分が世話になりすぎていることはよく分かっている。おそらく今までの旅路では、仲間一人が欠けていたらここまで来れなかった。自分がこの場に立てているのは、皆がいてくれたから。そう信じている刃はラナールの不安を理解した上で、発破をかけた。

 

 

「お前が出来るやつだから、俺は此処までやってこれたんだ。自分が信じられねぇなら、俺達が信じてやる。だから、これからもよろしく頼むぜ」

 

「は、はい!是非ともお力になってみせます!」

 

 

慌てて頷いたラナールに、刃は軽く笑って応じた。そうしていると、ふと隣にベッタリと寄り添う影があった。

 

 

「………なんだよ、シノ」

 

「ん、主様。ラナールだけずるい、私も褒める」

 

「あら!私も褒めてほしいのだけれど!すぐとは言わないから、是非とも早くしてくれる?待ってるから!」

 

「うむ、それならば妾も。ここは貪欲に求めるとするかの」

 

「なんだお前等いきなり!?えぇい散れ!一人ずつ相手してやるから一斉に絡んでくるな!車内なのに暑苦しい!!」

 

「………楽しそうだが静かにしてくれるか、相棒」

 

「俺のせいか!?俺のせいなのか!!?」

 

 

心外だと言わんばかりに叫ぶ刃であったが、素直に聞き入れられることはなかった。実に無情。項垂れていた刃を他所に、ハジメは「近付いてきたぞ」と言って四輪を止めた。

 

彼らの視線の先には、アンカジ公国が運用していたオアシス────その付近に居座る魔戦騎の姿があった。数百にも等しい群れはオアシスを守るように道を塞ぎ、たむろしていた。

 

 

「確か、公国はオアシスの調査は出来てなかったよな?」

 

「ああ、汚染の元凶が動くかもしれない以上、排除しておくことに越したことはない。この数を相手するのも面倒だ…………突っ切るぞ」

 

そう言って、ハジメはアクセルを踏み込み、四輪を加速させる。スピードを速めて突っ込む鉄の塊に気付いた魔戦騎達が反応するよりも先に、そのまま突っ込んでいく。

 

途中何体か轢き逃げながら、オアシスへの道を進むハジメ。途中追撃が多かったが今度はちゃんと対処は練ってきた。

 

 

「どれだけ多かろうが!」

 

「近付かせるわけ、ねぇだろ!」

 

 

そう言って事前に仕込んでいた固定式砲台、ランチャーと機関銃の砲台による弾幕が全てを一掃していく。魔戦騎もその弾幕を食いくぐって攻勢に出ようとするが、刃が射出した魔剣によって貫かれ、四輪に触れることすら叶わない。

 

そして、四輪がオアシスに突入した瞬間、魔戦騎の動きが停止した。奴等はオアシスに入った一同を凝視すると、振り向いて外の方へと戻っていく。

 

 

「オアシスの中に入れねぇのか?いや、命令されたことを守ってるのか」

 

あくまでも、魔戦騎はオアシスへ侵入されないようにプログラムされてると言うべきか。だからこそ侵入したハジメたちを排除しないのは、本来の命令────侵入者の阻止を優先してのことだ。侵入された場合の命令は組み込まれていないからこその結果だろう。

 

「さて、オアシスの汚染の元凶だが…………『アレ』で間違いないよな?」

 

 

怪訝そうに指を差したハジメが言うと、全員の視線がオアシスにある異変を注視する。広がった湖、その上に形成された巨大な黒い結晶の塊である。

 

魔瘴核によって生成される結晶と同一であるソレは、柱のように連なって湖の中から生えていた。その結晶を中心としてオアシスの水が汚染されていくのが、全員にも理解できる。

 

 

「濃い魔力………間違いなく、これが本体」

 

「決まりだな。とっととブッ壊して迷宮に行くとするか────相棒」

 

「応ッ」

 

 

ハジメはオルカンを担ぎ上げると、そこから四発のミサイルを撃ち出し結晶の塊へと当てる。そして、続けて刃も生成した魔剣を勢いよく射出し、結晶の塊を砕かんと放つ。ピシ、とヒビが入った結晶塊にもう少しだと攻撃の手を続けようとしたその瞬間。

 

 

「ハジメさん!刃さん!避けて!」

 

「「ッ!」」

 

 

シアの警告に、二人は咄嗟に反応して回避行動をとる。すると水面から突如二本の触手が伸びて、二人を狙う。ハジメはオルカンの装填したミサイルを叩き込み、刃はそのまま魔剣によって一太刀を浴びせる。

 

黒い血を流しながら暴れる二本の触手は即座に傷を再生させながら口を開く。バックリと開いた触手の先端から鮮やかな色合いで複数の瞳孔を有した眼球が露出する。

 

 

それだけではない。触手は二本だけでは済まず、何本も水面から姿を現す。合計十本の触手が揺れ動いていたかと思えば黒い結晶の塊のヒビが大きくなり、中から何かが飛び出した。、

 

 

【────■■■■■■!!!】

 

 

ソレは、異様な軟体生物にも見える奇妙な生命体であった。

十本の触手を結晶が形成されている胴体から伸ばしたその姿はタコやイカに等しく見えるが、その実態は大きく違う。ギョロリ、と頂点の部分から一際大きな眼球が露出する。触手の口から開いた瞳と同じ複数の瞳孔を有した瞳は妖しく蠢きながらハジメや刃達を捉える。

 

 

魔毒獣 ネプルパンテ。

それこそが目の前の魔物の名であり、大魔王こと戦乱の魔神の眷属、その一体である。魔力を振り撒き、魔瘴核を引き起こした原因。その魔物が殺意を迸らせる。己の邪魔をすることへの────それ以上の怒りと憎しみを剥き出しにしながら。

 

 

◇◆◇

 

【────■■■■■■ッ!!】

 

 

直後、聞くだけで頭痛がするほどの金切り声を響かせたネプルパンテが触手を伸ばす。口をバックリと開いた触手の先端からさらに細い触手が、黒い液体のムチがうねる。

 

ハジメはドンナーとシュラークへ持ち直し、迫る触手を撃ち抜く。飛び散る水に何かを感じたハジメは咄嗟に回避してから、水に含まれる魔力に気付いた。

 

 

「水に触れるな!あの魔力が込められている、触れただけで魔瘴核になるぞ!」

 

 

その言葉に全員は回避に徹する。不用意な防御では水を、魔力を浴びてしまう可能性が高い。そうして避けながら、ハジメはネプルパンテ本体へと銃弾を浴びせていく。

 

しかしネプルパンテの胴体は思ったよりも柔らかいらしく、ハジメの放つ弾丸はマトモにダメージを与えられない。それならば、とハジメは対物ライフル『シュラーゲン』による狙撃に転じた。

 

 

爆音と共に、ネプルパンテの胴体が撃ち抜かれる。大きく開けられた風穴に、刃共々喜ぶ様子を見せた一同。ニヤリと微笑んだハジメはネプルパンテにトドメの追撃を叩き込もうとして、信じられないものを見た。

 

 

「再生、か。コアの部分を狙ったはずなんだがな」

 

 

コアと呼べる部分を撃ち抜いたにも関わらず、ネプルパンテの全身がすぐに再生されていく。流石のハジメも何か種があるな、と思わざるを得ない。ユエやシア、ソーナにティオがどれだけ魔法や攻撃を叩き込んでも即座に再生を繰り返していく。

 

それどころか鬱陶しいと感じたのか、ネプルパンテは意外な手段で反撃に転じてきた。水面に降り立ち、ゆっくりと水に身体を浸ける。すると軟体らしい胴体が勢いよく、膨らみ始める。

 

そして、触手の生える下の部位にある口を開いたネプルパンテは凄まじく圧縮された水の塊を撃ち出した。プッ!と吐き出された割には絶大な威力であり、直撃した地面に大きなクレーターを残すことになった。

 

 

「クソ!こいつ、どれだけ撃っても再生しやがる!魔力切れも出来ねぇとなると何かのギミックでもあるのか!?」

 

 

再生出来なくなるまで攻撃しようにも、大人数からの攻撃を叩き込まれてもネプルパンテは止まらない。流石に焦り始めたハジメは真横を過ぎ去った斬撃に、思わず反応する。

 

 

「今のは、刃か!?」

 

「ああ、思った通り────神の力は通じるみてぇだな!」

 

 

二柱の神の力を宿す刃の切り札、『神魔装剣(デウス・グラディウス)』。右腕自体に形成した神の力を内包する外装と剣を纏う力である。それが放った斬撃を受けたネプルパンテの再生が遅いことを理解した刃は、期待通りだと微笑む。

 

 

「皆!下がってろ!コイツは神の力以外通じない!オレが一人でやる!」

 

「────出来るのか?」

 

「男に!二言はねぇよ!」

 

「そうか。なら、任せるぜ」

 

 

そう言って、ハジメ達は攻撃の手を止めた。ネプルパンテも攻撃を止めたハジメ達よりも、自分を殺しかねない力を振るう刃を危険視しているのだろう。不気味な金切り声を上げながら、飛び上がる。

 

 

【────■■■■■!!】

 

「っ!うっせぇんだよ!さっきから!目障りな声で喚きやがって!」

 

 

刃には、聞こえていた。

理解不能な言語で叫ぶはずの魔物は、言葉を発していたのだ。ハジメ達の誰もそれに気づけなかった。それは刃だけが特別であるか、理解する余裕もない。

 

 

「────何に、怒っているッ!?」

 

【■■■■■■■■■■■■!!】

 

「何が憎い!?一体何が、テメェを動かしてやがる!!」

 

「………怒っている?憎い?どういう事だ?」

 

 

空中で切り結ぶ刃の叫びに、ハジメは困惑した。無論、彼等にはその意味なんて理解できなかった。分かるのは、刃の言う魔物の動力源。恐らく、何かへの怒りが、あの魔物を不死身たらしめているのか。

 

 

怪訝そうにしていたハジメ達の耳に、一つの声が聞こえてきた。

 

 

【────許せない、殺してやる】

 

 

それは、若々しい声であった。

まるで頭の中に直接響いてくるような声に、今度こそ全員が戸惑う。だが、全員聞こえたのは間違いないらしい。それは今も戦っている刃も同じであった。

 

 

【許せない、許せない、許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない】

 

「っ!なんだ?この声………」

 

【殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる】

 

 

脳内に直接叩き込まれる、殺意と憎悪。少なくとも聞いた者が萎縮し気負されてしまう程の情念が、魔物の奥底に渦巻いている。苦々しく、それでいて悲痛そうに、刃は顔を歪めながら吐き捨てた。

 

 

「やっぱり、テメェも────人間だったんだな」

 

 

直後、全員の脳裏にある景色が映る。

燃え盛る建物の前で這いずる、魔人族の男の姿。地面に指を立てて全身から血を流しながら、呪詛を呟き続ける誰か。

 

その景色を皮切りに、彼等は一つの記憶を巡ることになった。




アンカジ公国の病気の元凶は、戦乱の魔神の眷属『ネプルパンテ』という魔獣でした。しかも魔神の眷属ということもありただの魔物ではなく、元は人間────というより魔人族という。

原作ではバチュラムという魔物でしたが、今回はちょっと特殊で悲劇を背負った怪物の話です。人間が生み出してしまった業の一端。

一応グダらない為にもペースを上げていくつもりなのでよろしくお願いします。それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。