「────勇者一行の皆様、ハイリヒ王国へようこそ」
「「「「ようこそ!」」」」
「我等一同、歓迎いたします」
「「「「歓迎いたします!」」」」
光が晴れたその時、大声が彼等を包み込んだ。そこにいたのは、黒いスーツを着込んだ執事達とメイド達。彼等は最初に声を上げた強面の執事と、黒髪のメイドに続き、深く丁寧な御辞儀を見せる。
「そんじゃ、改めまして────俺達の国、ハイリヒ王国へようこそー」
「歓迎しよう。勇者御一行。いや、学生諸君とも言うべきですか」
バンダナの青年がおちゃらけた様子で、眼鏡の男性────青年からはユキナガと呼ばれていた男性は鉄面皮のまま、歓迎の言葉を送る。
何人かがユキナガに驚愕の視線を向けていたその時、
「─────失礼いたします」
カツン、と床を擦る音が木霊する。
その音のした方に振り向くと、黒髪ロングに白い服を着た女性が立っていた。礼儀正しく、規律を守るような雰囲気は、営業マンというよりも真面目なサラリーマンらしき風貌であった。
「エッジクロウ様、ユキナガ様。ここからは私が彼等の案内を致します」
「おっ、よろですー」
「………分かりました。私達はここで、失礼します」
それだけ言い、ユキナガという男性が壁に手で触れる。すると壁に先程のような簡易の魔方陣が浮かび上がり、ユキナガとエッジクロウと呼ばれた青年はその魔方陣へと入り、完全に消えていった。
呆然とする一同に、女性が静かに、かつ淡々と話す。
「勇者一行の皆様、いえ異世界から喚ばれた皆様。私はエラ・スーウェン。ハイリヒ王国現国王の秘書を務めております」
落ち着いた様子でありながら、優雅とも言えるその女性に何人もの男子や女子も見惚れていた。気品ある雰囲気を崩さず、礼儀正しい女性、エラは丁寧に話しながら、背を向ける。
「我等が国王────エリュシオン陛下が御待ちです。どうぞ此方へ」
そうして、廊下の方へと歩いていく。困惑するクラスメイト達だが、意を決した咲夜が「着いていこう」と口にしたことで、全員が歩き出した。
いつまでも立ち尽くしている執事達やメイド達を尻目に、彼等は部屋から出て廊下を歩いていく。
本来ならば、壁で覆われている廊下だが、外を遮る壁すらなかった。外の空気が直に当たり、風に吹かれたハジメ達はようやっと周りを見渡して、気付いた。
「──────おぉ」
真っ白な城、自分達がいる下では大きな町が広がっている。そこで人々が切磋琢磨しながらも、楽しそうに生活している姿があった。
街を覆う巨大な防壁や、街の至るところで、何らかの工事が行われている。屈強な男達が何かデカイものを造ろうとしている姿がチラホラ見えた。
「…………これが、王国」
「はい、私達の国。ハイリヒ王国です」
「ハイリヒ王国って、確か………」
話を聞いていた八重樫雫がふと思い出す。フィスカ、もといファルディウスが語っていた聖教教会による圧力が通用している国と。
ファルディウスの話を全て信用している訳ではないが、雫は勝手に戦争を起こした挙げ句、自分達の事を勝手に喚び寄せた教会を、よく思ってはいない。だからこそ、ハイリヒ王国が教会との繋がりがあるという話を聞いて、疑惑を抱いてしまう。
その事を読み取ったのか、エラは軽い微笑みを浮かべる。対面する者を安堵させるような落ち着いた雰囲気で、諭すように語る。
「───ご安心を。王は貴方達を教会に引き渡すつもりはありません」
「………、」
「王は教会の事を忌み嫌っておりますので、皆様を教会に利用させないために保護したのです。無論、王も貴方達を利用する気はありませんので、心配は無用です」
そうこうしている間、ハジメは周りを見渡して───気付いた。
自分達の後ろに、誰かいるのだ。何十も並ぶ廊下の柱の影から此方を覗く何者かは、観察するような眼で此方を見ていた。
ふと、ハジメはゆっくりと柱に近付いてみた。するとその影はビクリと震え、動きを見せなくなる。出方を伺っていたハジメだが、その影が柱から顔を見せてきた。
ゴーグルを頭に被った、不思議な少女であった。白髪に赤い瞳をした少女の顔は幼く、子供みたいな風貌である。しかしその姿は、体格は明らかに幼子という訳ではなく、年相応といった感じだ。
何より、異質なのは両腕。自分よりも大きな白衣を着ているのかブカブカであり、両腕も白い裾を捲らなければ見えない。だが、今は見えていた。────機械的な、鋭利な爪を有した腕が。
「……………」
「あ、あの………どうしたの?」
「…………キヒッ」
ハジメがその少女に声をかけると、少女は楽しそうな顔で歯を見せて笑った。サメのようなギザ歯を剥き出しにし、天真爛漫といった少女はハジメを見て、心底嬉しそうであった。
次の瞬間、少女は廊下の外───足場のない空に飛び出した。ハジメが大声をあげて手を伸ばそうとしたその時、少女の腕が一気に伸びた。ワイヤーらしきものを伸ばし、近くの壁に引っかけた少女は此方を呆然と見つめるハジメに再び笑いかけ、建物の裏へと飛んでいった。
「あん?どうした?ハジメ」
「いや、さっき女の子が────」
「女の子?でも、そっちは外だろ?」
「………両手義手の女の子が腕を伸ばしながら飛んでた」
「………………マジ?」
刃は初手から疑心暗鬼であった。何より信頼している親友とはいえ、言っていることが規格外過ぎたから仕方ない。その後、ハジメが指差した方の壁に少女の爪が引っ掛かった時の傷があり、それを見た刃が「…………マジか」と言葉を失っていた。
エラに先導されたクラスメイト達から離れていたハジメが刃と共に戻ると、待っていたのは不満そうな顔をしている光輝だった。
「………なぁ、南雲。こういう時くらい真面目にするべきじゃないのか?いつも不真面目なんだから、この状況でも皆に合わせて行動した方が迷惑も掛からないだろう?少しくらいはそういうことを考えて行動するべきだと思うな」
「………じゃあバカみたいに外見てる奴等はセーフなのかよ」
「全く、妄想だけはピカ一ですね」
ジト目の広大と雨音が呆れたように呟く。それならハジメだけじゃなくて他の奴もいるのに、ハジメにだけ言うのは理不尽だろうと二人を含む何人かは不服に思っていた。
「へー、迷惑ねぇ。今まで無自覚に迷惑掛けまくってきたお前が何を偉そうな事言ってんだ。他人に説教する暇あるなら自分を省みろよ、キザ野郎」
ケッ! と吐き捨てる刃の悪態により、光輝の狙いは刃へと定まった。軽い喧嘩になりかけている二人に気付いた咲夜が嘆息し、止めようと歩み出すが、実際に止めたのは別の二人だった。
「止めて、刃。こんなことしてる場合じゃないでしょ」
「光輝もだぜ。気が立ってるのは分かるが、落ち着けよ」
光輝の前に出てきた体格のいい男子 龍太郎。そして、刃を止めたのは八重樫雫なる少女。香織と共に学園の二大女神と目される彼女は刃と光輝の幼馴染みであり、刃にとって深い因縁(悪いものではない)がある相手であり、数少ない刃が強く出れない人物でもあった。
「南雲君のことを悪く言われたことが許せないのは分かるわ。けど、落ち着いて。こういうことをしても、刃が悪くなるだけだから」
「……………おう。悪かったな、”八重樫“」
ぶっきらぼうに、他人行儀に距離を取る刃。あっさりと引き下がる、気力のない刃の姿には誰もが驚く。刃は自分に向けられた好奇の視線に睨み返す気力もないのか、ハジメの隣へと戻る。
「ごめん、また色々と迷惑をかけた。止めてくれてありがとう、龍太郎、雫」
「そう思うなら、あまり南雲君や刃のことを悪く言うのは止めなさい。委員長からも注意されてるんだから」
「それは………けど、悪く言ってるつもりはないだろ?俺は不真面目な南雲や黒鉄に更生して欲しいと思ってるから、言ってるんだ。香織もそう思うだろ?」
「あー、うん。………あ、私南雲くん達と話したいことあるから!」
誤魔化すように、その場から逃げ出してハジメ達の元へと向かう香織。光輝も何か言おうとしたが、近くにいた咲夜が余計なことをするなと睨みを効かしたことで苦々しい表情を見せることで収まった。その隣にいた雫は本当に困ったように額に手を当て、溜め息を漏らす。
「南雲くん、刃くん!大丈夫だった?」
「あ、うん。僕達は大丈夫だよ。ね───」
隣に立つ青年を見て、ハジメは言葉につまった。腕を組んでいる刃は明らかに不機嫌そのものであった。こめかみには青筋が浮かび、怒りが籠った眼は雫に諭されている光輝に向けられている。
「…………チッ」
舌打ちを吐き捨て、光輝から視線を外す刃。凍りついて此方を不安そうに見る二人に気付いた刃は、我に返ったのか申し訳なさそうに消極的な勢いで謝ってきた。
そんな彼等を見ていた咲夜はふと、溜め息を漏らす。軽い頭痛でもしているのか、こめかみを揉みほぐしながら考えていた。
(やはり、上手く収まらないな。光輝と刃の関係は)
◇◆◇
「着きました。此方が玉座の間です」
歩いてから少し経ち、エラが全員にそう告げる。彼女の言葉にクラスメイトの殆どが気を引き締める。愛子先生や咲夜が事前に言っていたので彼等も動きが早かった。
相手は一国の王。つまり自分達よりはるかに格上の存在、自分達の世界で言うなら総理大臣や大統領に匹敵する人間だ。それだけではなく、自分達を保護してくれたのだから、下手な態度を取ることは出来ない。
「───エリュシオン陛下、御一行お連れ致しました」
エラの言葉が響いてすぐ、前にあった大きな扉が開く。実際に横にスライドしているのではなく、中央のパーツが光り、壁のような扉がキューブのように変換され、小型化していっているのだ。最終的に小型化されたキューブは中央の巨大なキューブに集まり、それは地面に嵌め込まれる。
その先にあるのは、異様に広い空間。壁際には無数の鎧が音もなく並んでいる。視線が集中したのは、その向こう。奥にある光が強い玉座に、誰かが座っていた。
「────よくぞ来た。異世界より招かれた者達よ」
カン! と床に何かが打ち付けられる。玉座に君臨する者が二メートルに近い長さの槍のような杖を、叩きつけたのだ。
その衝撃は、波紋のように一帯に響き渡る。いや、実際は違う。何らかの力が、周囲に行き届いているのだ。王の放つ力に呼応するように、周囲で動かなかった鎧がゆっくりと立ち上がる。
「ッ!」
身構えるハジメ達の横で、鎧が列を成し、持っていた槍を大きく上げる。直立し、不動の姿勢で構える鎧の一群は、パレードでの軍隊のように整列していた。
「────貴様等の名乗りは不要だ。必要なのは、オレの名乗りだけだ」
玉座に腰かける王。金髪碧眼の男。王族らしき服を着崩し、上から軽めの装備を纏いながらも、王としての風格を崩さぬその気迫。片手にある杖を握り、もう片方の腕で頬杖をかきながら、威厳ある表情と声で、自らの名を告げた。
「オレはエリュシオン。名を、エリュシオン・S・B・ハイリヒ。ハイリヒ王国の現国王だ」
あまりの重圧にハジメ達は押し潰されそうだった。王の姿を見た瞬間から、全員が跪いたが、それでもこの気迫だけは消えることなく、重くのし掛かっている。
心臓すら握られている感覚なのに、恐怖すらない。圧倒的な王の存在に、彼等はただ膝をつくことしか出来ないのだ。
しかし、束の間。
王、エリュシオンは放っていた重圧を静かに解いた。体が軽くなったことで声を出すものもいる。そんな彼等に、エリュシオンは軽く笑いながら言う。
「………と、言っても。あまり気負わずともいい。表向きには礼儀を整えればいいが、気を遣われるのは好きではない。オレが許した間は、気を休めてもいい」
安堵した一同の中で刃だけは、ふざけんなと軽口を心中で吐き捨てる。
エリュシオンの周りには人が増えていた。全員姿を見せてはいないが、此方を静かに監視している者ばかりだ。王の怒りを買う、もしくは王を侮辱するようなことがあれば、容赦なく襲いかかってくるかもしれない。
激しい悪寒を押さえ込み、刃は身構える。最悪の場合、親友と友人の少女だけは逃がして見せる、と自身に発破をかける。
ふと、エリュシオンが眼を細める。
細められた瞳が、カチリと切り替わったように見えた。瞳が暗くて見えないが、何か無数の光らしきものが見え隠れしている。
そう思っていると、エリュシオンは感心したように鼻を鳴らし、瞬きをする。その時には、瞳の色も元に戻っていた。
「─────ふん、成る程。連中が求めていただけはある。素養を見るに、面白い奴等がちらほらいるようだ」
「………?」
「お前達にも話しておこう。つい先程、教会の奴等から通達が来た。勇者一行────お前達の身柄を引き渡せ、とな。ふん、手紙の主は枢機卿か。印付きとは、丁寧な」
一気に、ハジメ達の空気が凍りつく。エリュシオンの手には教会から渡されたであろう手紙があった。それの中身を開いたエリュシオンは軽く眼を通す。
ハジメは思わず、祈った。この王がもし自分達を教会に引き渡せば、自分達は戦争の駒にされるかもしれない。どんな扱いになるかも分からない。
そんな風に恐れていたハジメの不安は、良い意味で裏切られた。
「────くだらん」
ビリッ、と。
エリュシオンは手に取った手紙を縦に裂いたのだ。ただ裂くだけではなく、更に千切って、バラバラに破り捨てる。教会から送られてきた、枢機卿という偉い立場にいる者の手紙を細切れにして、足元に落とす。
パチン、と指を鳴らし、突然発火した火花で手紙だったものを焼き払う。足元で燃え盛る小さな火種を靴底で踏み潰し、エリュシオンは不快そうに口を開く。
「魔人将一人に対応も出来ず、勇者一行を拉致されかけたクセに口だけはデカイ奴等だ。エヒトに縋るしか脳のないクズども風情が。魔神連合さえいなければ、先にオレが捻り潰していたものを」
「陛下、流石に言い過ぎかと。何処に『耳』があるか分かりませんよ」
「………フン」
エラの生真面目な物言いに、エリュシオンは鼻を鳴らして黙る。僅かな沈黙を経て、エリュシオンがハジメ達を指差した。
「お前達の扱いについては………今のところは食客として通す。オレの予測だが、お前達は元の世界に戻りたいようだな?」
「は、はい!そうです!私はダメでも、この子達だけでも返して欲しいんです!お願いします!エリュシオン陛下!」
必死に頭を下げる愛子先生。今にも土下座をしかねない勢いであったが、エリュシオンは手で制止したことでそれを防がれた。
真剣に悩んでいたエリュシオンだが、ゆっくりと答えを明かした。
「────まず一つ、お前達を元の世界に返すのは今のオレ達には出来ん」
「そ、そんな………で、でも、教会が出来たのなら!きっと元の世界に返す方法も───!」
「論点が違う。方法はあるかもしれんが、それを見つける事が難しいのだ。教会がお前達を喚んだ訳ではなく、正確にはエヒトが喚んだ。つまり、元の世界に返す方法を知っているのはエヒトのみということだ」
ま、期待するだけ無駄だがな、と吐き捨てるエリュシオン。その言葉にどういう意味かと聞くよりも前に、エリュシオンは次の言葉を発していた。
「時間を掛ければエヒトに会う方法が分かるやもしれんが、そもそもその間までエヒトが生きている保証はない」
「それって………」
「『魔神連合』、奴等の最終的な目的はエヒトの抹殺だ。一時期の侵攻で、エヒトは魔神の一体と交戦し、痛み分けとなったらしい。奴が姿を見せなくなったのも、自分の死を世間に誤魔化そうとしているという話すらある」
「そ、そんな………!そのエヒト神が死んでしまったら、私達は元の世界に帰れないじゃないですか!?」
「ああ………だからこそ、オレ達が急ぎ魔神連合を潰し、エヒトからその魔法を吐き出させるしかないという訳だ。全く、手間が増える」
本当に面倒といった様子で苛立ちを漏らす王。そんなエリュシオンの心境などいざ知らず、意を決したように立ち上がった。
その直後、近くに隠れていた者達が敵意を見せた。王への無礼と感じたのか、動こうとする直前、心底だるそうな顔でエリュシオンが制したことで何とかなった。
「───エリュシオン陛下!」
「…………何だ、貴様は。いや、いい。何が言いたい」
「俺は、天之河光輝です!陛下、どうか俺達も戦わせてください!人類を守り、エヒト神を助ければ元の世界に帰れるなら、俺達も黙って見ていられません!」
「………………ほう?」
突然の事に、全員がは?と見返す。この青年は、何を言っているのか。もしかして、この世界の戦争に参加するとでも言っているのか?あまりのことに、咲夜は頭痛が起こったのか、額を押さえていた。
馬ッ鹿野郎が! と、刃も怒鳴り散らしたかった。光輝に悪意があったか否かは関係ない。今の発言は、明らかに王にとって面白いものではなかったらしい。
薄ら笑いを浮かべていた王の顔には、まだ笑みがあった。しかし眼だけは笑っていない。それどころか、異様に冷えきっている。絶対零度に近いそれは、冷気にしては鋭さが増していた。
「………フッ、流石だな。勇者故の正義感というヤツか。。しかし、冗談も程々にしておけ。笑えるのはオレくらいだぞ?」
「ッ!冗談じゃないです!俺だって、元の世界に戻りたいです!けど、だからって、この世界の人達を見殺しには出来ない!俺に力があってエヒト神が喚んだんなら、その力で俺はこの世界の人達を助けたい──────」
言葉は最後まで続かなかった。
ズガァン!! と、光輝のいた横の床が抉れた。何か砲弾らしきものが炸裂したのか、クレーターのようなものが出来上がっている。
「笑わせるな、ガキ」
人差し指を向けていたエリュシオンは、笑みを消した顔で告げる。槍のような杖を持ち直し、光輝の方へと向けながら、蔑むような目で告げる。
「助けたい?見殺しには出来ない?殊勝な心がけだな、勇者。強い正義感で言うのは結構だが、生半可な覚悟で言われるのは流石のオレも気分が悪い」
「生半可………!?ち、違います!俺だって、覚悟を決めて!」
「笑わせるな!武器も握ったことすらない、命の取り合いも理解してない青二才が!偉そうな口でほざくな!」
玉座から立ち上がったエリュシオンが怒りのままに怒鳴る。メキメキ、と空間が軋む。エリュシオンの放つ怒りが作用しているのか、力の流れらしきものが、オーラのように捻れていた。
「これはオレ達の戦いだ!オレ達の世界の問題だ!オレ達は、多くの犠牲を背負い、ここに立ち、奴等と戦う意思を固めている!貴様等なんぞに、背負わせるべきことではない!それなのに、軽々しく、無責任に背負おうとするな!!」
「────お兄様、いえ国王陛下」
ピシャリと、そんな怒りに包まれた王に、声を挙げる者がいた。王の居座る玉座より下に位置する場所にいる少女であった。
エリュシオンの妹である王女、リリアーナはエリュシオンの気迫に狼狽える様子すら見えず、堂々としながら口を開いた。
「心中お察しします。しかし、光輝様も何も悪気があっての事ではないと思います。どうか怒りだけでも静めては下さりませんか?」
「……………ああ、すまなかったな。リリアーナ」
妹からの言葉に、エリュシオンは少しずつ怒りを鎮めた。ドッサリと、力なく玉座に腰掛ける王の姿には何処と無く自責の念らしきものが感じられる。
「そちらも、すまなかった。オレも、だいぶ気が立っていた」
「────いえ、此方こそ。私達の仲間が失礼なことを言いました。謝罪いたします」
王に対し、頭を下げたのは、光輝より前に出てきた咲夜であった。驚く一同であるが、咲夜は何も言わず、不動の姿勢を貫いている。
ふと、エリュシオンの興味が咲夜に向けられた。
「………貴様は?」
「岸上咲夜です。王よ、宜しければ私の願いを申し上げることをお許しください」
「…………良いだろう。言ってみるがいい」
「先程の光輝の発言を取り消させて下さい。我々も、厳正な話し合いにより、結果を決めたいのです」
「咲夜!?」
食って掛かる光輝を、咲夜は睨むことで下がらせた。対して、エリュシオンは眉をひそめる。不機嫌そうな顔を隠さず、口を開いた。
「それはつまり、事の次第では戦争に参加すると?さっきも言ったが、生半可な覚悟は不要だぞ?それに、これはオレ達の問題だと────」
「覚悟の上です。この世界の問題に、理解が浅い私達が立ち入ることなど侮辱にも近い。しかし、オレ達が戦争に参加しないという選択肢。それは、聖教教会が許さないのでは?」
「……………」
王の顔は険しい。しかし、咲夜の発言に不満を覚えた訳ではなさそうだ。むしろ咲夜の意見を頭に入れ、色々と考えている様子であった。
直後に、エリュシオンは軽く笑う。苛立ちも最初からなかったように消し去り、少し落ち着いた口調で告げる。
「良いだろう。貴様の願いを聞き届けた。まず、貴様等の話し合いの果て、代表者に事の次第を報告をさせよ」
「………ハッ、感謝いたします」
頭を下げる咲夜に、エリュシオンはエラにハジメ達を部屋に案内するように命令していた。そして、動いたエラを尻目に、ハジメ達を見下ろしたエリュシオンは先程の重圧を感じさせぬような穏やかな声で話す。
「暫し休みを取れ。別世界に招かれて、疲れも溜まっているだろう。話し合いも程々にしておくがいい」
◇◆◇
秘書 エラに案内されたのは巨大な宿舎。ハジメ達全員分の部屋がある城にある施設の一つだ。元々は客人のために使うものを、軽く改良したらしい。
そのメインホールとも言える大広間では、
「何で止めたんだ!?咲夜!」
「此方の台詞だ!どうしてわざわざ戦争に入れ込もうとする!?」
光輝と咲夜が凄まじい勢いで話し合っていた。机に手を叩きつけ、感情的に叫ぶ光輝。そんな光輝を弾劾するように、鋭い声で言う咲夜。
二人はクラスの方針を決める話し合いで対立しあっていた。
「魔神連合の存在を聞いただろう!?彼等が人類抹殺を目論んでる以上、俺達だって無関係じゃない!それにこの世界の人達だって生きてるんだ!彼等を見殺しには出来ない!」
「出来ることと出来ないことを考えろ!俺達は学生だぞ!?戦いすら経験したこともないのに、魔神達と戦争だと!?命がいくらあっても足りない!俺達だって何人死ぬか分からない!」
「じゃあこの世界の人達を見捨てろって言うかのか!?俺達だけ、逃げて生き延びろと!?」
「違う!後先考えずに決めるなと言っているんだ!この場の全員の命が掛かってるんだぞ!」
光輝が掲げるは、『元の世界に帰る為にもこの世界のためにも戦うべき』という戦争に積極的に参加する理論。対し、咲夜は『自分達は元の世界に帰る方法を探せばいい。戦争に参加するにしても、防衛以外は有り得ない』という戦争に消極的ではあるが、どうしてもやらざるを得ないのならやるという理論。
最初は諭すような咲夜であったが、余計に感情的に反応する光輝に、ついに彼も我慢が限界になったらしく、論争のようになっているのだ。
そんな論争に、クラスメイト達は何も言い出せずにいた。クラスの代表とも言える二人が激しく対立している様子に、どうすればいいか迷っているのだろう。
自分達がどちらの意見を優先させればいいのか、よくいえば立場を弁えているが、悪くいえば人任せである。
涙目で必死に二人を止めようとする愛子先生。もう現場が地獄のような空気であったが、それを変えた人間が一人いた。
「────埒が明かねェ」
ダァン! と、二人が討論していた大机を、足で踏みつける。そうしてのは、黙って聞いていた刃であった。座ったまま机に足を乗せた刃は二人とは違い、冷静沈着といった様子で口を開いた。
「─────戦争に参加するとか参加しねぇとか、今はそんなもん関係ねぇだろ」
「関係ないだと!?人の命が掛かってるのに、そんな───」
「違ぇよ、アホ。俺達に必要なことは、まず力を付けることだろうが」
突っ掛かる光輝に中指を立て、刃は吐き捨てる。議論していた二人に目線を向け、丁寧に、遠回しに伝えるように言う。
「戦争に参加して皆を守るだの、元の世界に帰るだの、今の俺達に何が出来る?そもそも、俺達はこの世界で普通に過ごせると思うか?」
「………!」
「俺達は守られる側の人間じゃねぇ。他人任せにはしてられねぇ。自分達でどうにかする力がなきゃいけねぇだろ。この世界だって、敵は多い。その敵にまた狙われた時、俺達はずっと他人に助けられる気か?」
意図に気付いた咲夜が驚いた様子を隠さず、刃を見返す。全員の視線が集まっていることに気付いた刃は心底面倒そうに、わざとらしく欠伸をする。
「────ま、別に。俺は光輝や咲夜のように、人を動かす側の人間じゃねぇしな。戦い馴れた個人の意見として、勝手に受け取れ。俺は寝る、明日からやることが多いしな」
席から立ち上がり、立ち去っていく刃。彼がいなくなったのを皮切りに、咲夜は『戦争への参加は今のところ保留』という意見にすることにした。最初は不満そうな光輝が口出ししていたが、泣きそうな愛子先生の賛同によって、この意見が決定されることになる。
そして、波乱に満ちた一日が終わろうとしていた。
◇◆◇
真夜中の夜。
人外れの廃墟。その広間で空間が勢いよく割れた。比喩ではなく、縦に裂けた空間から何か黒いものが飛び出してきた。黒いものが地面に足を着いた直後、空間のヒビは一瞬で閉ざされた。
『────』
黒いコートにフードを被った何か。それは顔を覆い隠すように、謎の仮面を纏っている。いや、仮面に見えるようなそれは、近未来的なマスクであった。
『…………ここが、トータス。
忌々しいといった口ぶりで、黒いコートの人物が呟く。声や体格からして青年だとは思うが、近寄りがたい雰囲気を保っている。
青年は動き出し、何処かへと向かおうとする。しかしその足がピタリと止まる。
空に、人が浮かんでいた。
銀髪碧眼の女性。戦乙女のように神秘的な鎧を纏う女性は、感情を見せぬ瞳で黒いコートの青年を捉えている。
「────ノイント、と申します」
『………生憎だが、人形には興味がない』
女性の言葉を、青年は切って捨てる。本当に興味などないというように、青年は敵意すら見せてない。
「神の使徒として、主の脅威となる危険因子を排除します」
『─────エヒトの使いか。ふん、自我を奪われたまま操られた木偶風情が。貴様の神がどれだけ愚かかも知らず、命すら掛ける気か』
青年は、侮蔑を隠さず告げる。女性の顔はやはり変わらない。しかし戦意だけ明確に増していた。どうやら、此方を確実に殺す気なのだろう。
青年は溜め息を漏らし─────コートに隠していた両腕を大きく払う。
両手にあったのは、二つの黒い塊。右手にあるのは、大型のマシンガン。マガジンが上下に取り付けられており、旗から見れば弓矢のような形にも見える。
左手にあるのは、グレネードランチャー。回転する
『オレは、イクス』
青年───イクスは告げる。フードに隠れたマスクに、二つの光が浮かぶ。鋭い眼を模したラインは、双眼のようにマスクに刻まれ、イクスは二つの武装を構えながら、空に浮かぶ神の使いに宣告した。
『神殺しの
致命的すぎる人格と思考ゆえに地雷を踏み抜く勇者。この話だけでも、数人はキレてるよ………。ま、これからはもっとぶちギレさせてくんですけどね、持ち前のカリスマ(笑)で。
この世界の王がエリュシオンになってる理由は、前の国王様が魔神連合による攻撃で死亡したからです。因みに王妃も。
エリュシオンが唐突に天之河にキレた理由は簡単です。突然戦争に巻き込まれて仲間を失い、パートナーすら失うという挫折を受けた人が目の前で、戦争に参加して皆を助けたいとか力があると知ったことで調子乗ったこと言ってる奴がいたら、そらぶちギレますよね。
因みに刃が雫に距離を取ってる理由は後々に明かされます。それが光輝を嫌ってる理由でもあります。
清水の今後について
-
生存その1(生き残るけど戦えない)
-
生存その2(護衛組の一人として戦う)
-
死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
-
意識不明の重体として途中退場