ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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母娘の再会/海底を目指す眷属

「────エリセンにはもうすぐか」

 

「ああ、我々は一足先に仲間達に伝えておく。その子の事は、貴方達に任せよう」

 

「引き受けた。母親に会わせて問題はないよな?」

 

「無論、というより願ったりだ」

 

 

どうやらエリセンが見えてきたらしく、同行してくれた海人族の自警団が一足先に街に戻っていく。軽く挨拶をしたハジメの様子を見届けた刃が、不意に声を掛ける。

 

 

「確か。エリセンでミュウの親御さんに会って一休みしてから、迷宮に行くんだったか?」

 

「ああ、この先ずっと連れて行くわけにもいかないしな。確か次の迷宮は、メルジーネ海底遺跡。エリセンを拠点にすればすぐにでも見つけられるだろ」

 

 

第四の迷宮、メルジーネ海底遺跡の攻略はハジメにとっても必然。大魔王という脅威に道を阻まれた以上、ウカウカしている暇はない。一刻の早く神代魔法を手に入れる必要があると、彼は考えていた。

 

 

「それよりも、相棒」

 

「なんだ?」

 

「────ラナールの事、どうするつもりだ?」

 

 

ハジメが聞いたのは、自らの命を捧げたラナールをどうするか。死んだとは思えないくらい綺麗な身体で残っている彼女の遺体だが、こうして放置していると腐っていくには変わりない。仲間の事を思うからこそ、どうすべきかは重要であった。

 

 

「王国に、医療騎士団の元へ帰す。アイツだって、元の仲間のところへも戻りたいだろうしな」

 

「そういうことなら、腐らないように保存できるが?」

 

「いや、相棒に迷惑は掛けねぇ。────俺なりのやり方がある」

 

そう言って刃は剣を手にした。

空間を内包する魔剣を生成し、彼女の亡骸をそこに保管した。その空間内であれば腐ることもなく、そのまま形を維持しておくことが出来る。王国に帰ったらすぐにでも引き渡せるように、と。

 

 

「まぁ、仲間の一人を死なせたんだ。殴られるぐらいなら軽いもんだろうぜ」

 

「…………その時は俺も呼ぶのも忘れるなよ、相棒」

 

 

どこか納得したように呟く刃に、ハジメは心底心配そうに言うのだった。分かってる、と言う刃は気付かない。ハジメの言う意味が付き合う(自分もぶん殴られる)気であることを。

 

 

────そして、彼等はようやく辿り着いた。これから当分世話になる街、エリセンへと。

 

 

◇◆◇

 

 

「エリセンへようこそ、歓迎しよう────と言いたいが、そういうのは不要か?」

 

「ああ、アンタらには悪いが、此方としても都合がある…………海底遺跡の情報があるなら話は別だが」

 

「ふむ、了解した。此方でも探しておこう。是非ともゆっくりしてくれ。彼女を保護してくれた君達を、皆が歓迎してくれるだろう」

 

 

浅瀬に船を停泊させたハジメ達を自警団の隊長が迎え入れる。ハジメに海底遺跡の情報を探すことを約束してから立ち去った彼等を尻目にハジメ達は言われた通り一休み────する前にやることがあった。

 

 

「パパ!ジンお兄ちゃん!こっちなの!」

 

「おいおいミュウ、そんなに慌てるなって」

 

「無理もねぇよ。母親と会えるんだ、はしゃぐのも当然だぜ」

 

 

ハジメと刃の手を引いて急かすミュウ。少し心配そうなハジメだったが、やけに落ち着いた様子である刃の言葉に納得したようであった。それもそのはず、数ヶ月も離れていた家族と再会できるのだ。いつも元気で天真爛漫な子ではあったが、母親の事を想って恋しがってたこともよく覚えてる。

 

そうして町中にまで歩みを進めていると、騒ぎ声が聞こえてきた。通りの方で、何人かが声を上げていたのだ。

 

 

「落ち着くんだレミア!その足じゃ無理だ!」

 

「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

 

「ミュウが帰ってきたのでしょう!?なら私が、あの子を迎えに行ってあげないと!」

 

 

家から出て歩く女性の足取りはふらついており、壁に寄りかかりながらでも必死の剣幕で歩き出している。周囲の大人達は必死に女性を宥めて止めようとするが、彼女は簡単には止まらなかった。

 

そんな彼女に声にいち早く反応したのがミュウであった。元気そうな表情の彼女が大きな声を上げて、女性の元へと駆け寄っていく。

 

 

「ママーーっ!」

 

「ッ!ミュウ!?ミュウ!」

 

 

勢いよく飛び込んだミュウを、レミアと呼ばれた女性は優しく抱き止める。足が痛むのか座り込んだまま二人は互いを抱き合い、再会を泣いて喜び合っていた。そんな光景に、周りにいた一同も感動を禁じ得なかった。

 

 

「…………っ、良かったな。再会できて」

 

「なんだ?相棒。泣きそうか?」

 

「ち、違ぇよ。ただ、目にゴミが入っただけだ」

 

 

中でも涙ぐんでいた刃はハジメに揶揄われ、慌てたように誤魔化す。相変わらず涙脆いもんだな、と自分と再会した時のことを思い出して笑っていたハジメだったが、ミュウの様子の変化にすぐ気づいた。

 

 

「パパ!ママを助けて!ママのあしがいたいの!けがしてるの!」

 

「え?パパ?」

 

「おいッ!さっきパパって言わなかったか!?」

 

「ちょっとそこの貴方!レミアちゃんとどういう関係なの!?」

 

 

ミュウもそれを理解してかハジメに助けを求めたが、その時の呼び方に全員が反応した。呆気にとられるレミアを他所に、外野の海人族達が騒ぎ始めた。混乱した様子の彼等に説明している暇もないと感じたハジメは、不安そうに目尻に涙を滲ませたミュウの頭を優しく撫でた。

 

 

「大丈夫だミュウ。ちゃんと治る、だから泣くな────それじゃあ、まずは案内してくれ」

 

 

◇◆◇

 

レミアを自宅に連れて行った後、すぐにでも治療を開始した。治癒師としても卓越した腕を持つ香織のお陰もあり、レミアの足の怪我は何とか治るとのことだった。

 

神経にまでダメージがいってるらしいが、その傷はミュウが攫われた際に付けられたらしい。自警団が激しく息巻いて殺気立っていたのも、それが大きな理由になっているらしい。

 

 

「────数日は治療を続ければ、後遺症もなく治ります。安心してくださいね」

 

「ママ!よかったの!」

 

「良かったな、ミュウ」

 

「あらあら、何とお礼を言うべきか…………ところで、どうしてミュウは、貴方の事をパパと…………」

 

 

礼を言いながら、ミュウの呼び方に不思議そうなレミアにハジメはこれまでの事を端的に説明した。フューレンでのミュウとの出会いと騒動、パパと呼ぶようになった経緯など。香織に治療されながら全ての話聞いたレミアは、その場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返した。

 

 

「本当に、なんとお礼をしたらいいか………このご恩は一生かけてもお返しします。それに、出来ればこの子の前では、パパと呼ばせていただいても宜しいですか?」

 

「いや、俺はいいが…………アンタはいいのか?」

 

「…………夫が数年前に亡くなってから、娘には父親のいない生活をさせてしまったので。あの人も、ミュウの事を考えてくれるはずですから。貴方がよろしければ、どうかお願いします」

 

 

真剣に頼み込むレミアの姿に、流石のハジメも断りようもなかった。元より自分に懐くミュウを引き剥がすようなことをするのは嫌であった為、ミュウが望むならばと、ハジメも受け入れることにした。

 

「あの、他にも気になっていたのですが…………ミュウが懐いているのはハジメさんだけではなく、そちらの方にも懐かれてるように見えて…………」

 

「え、ああ…………いや。その子とはちょっと世話になることも多くて…………」

 

 

ハジメ以外にも刃に懐く様子が気になっていたレミアの疑問に、刃は何というべきかと迷いながら話し始める。あたふたとしどろもどろになりながらも説明で何とかレミアが何とか納得しかけたその瞬間、

 

 

 

「ジンお兄ちゃん、大好きなの…………ミュウ、大きくなったら一緒だから、泣かないで欲しいの……………」

 

 

────その場全ての、時間が停止した。レミアも、ハジメも、香織も、ユエやソーナ達も、刃すらも、家の窓から覗き込んでいた外野達も。唯一、寝ぼけた様子で首を傾げていたミュウと事態を察したイクスとノインが耳を塞いだ直後のことだった。

 

 

「「「「「「は、あああああアあああああッッ!!!?!?」」」」」」

 

「あっ、相棒ぉおおおおおお!!!」

 

「グェエエエエッ!!?ち、違う!俺は何もしてねぇ!!ミュウは、ほら!純粋で!まだ情緒が幼いって言うだろ!?だから、言い方がそうなっただけで!やましいことはねぇ!!」

 

 

大絶叫のコーラスと同時に再起動したハジメが凄まじい気迫で刃に掴みかかる。親友に胸ぐらを掴み上げられた刃は呻きながらも必死に弁明。

 

流石にこの状況は不味い、と助け舟を出そうと香織はミュウに詳しく聞くことにした。

 

 

「みゅ、ミュウちゃん………さっきのこと、刃お兄ちゃんをどう思ってるのか教えてくれる?」

 

「刃お兄ちゃんはね!パパと違うカッコいい人なの!パパはパパだけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんなの!パパみたいにカッコいいけど、泣いたり落ち込んだりするのが多いから、ミュウが励ましてあげないといけないの!」

 

「…………うっ、ホントに情けねぇ」

 

 

誤解が解けたようで自分の情けない所を話されたことで、刃も露骨に落ち込んで項垂れる。素直に喜べない様子の彼に流石に可哀想になったハジメが手を離した、直後にミュウが口を開いた。

 

 

「だから、大人になったら『ケッコン』するのはジンお兄ちゃんなの!ミュウが傍にいてあげないといけないの!」

 

「はああああああアアアアアアッッ!!!!」

 

「ぎゃああアアアアアアッ!!!?相棒ぉ!?ギブ!ギブアップ!死ぬ!今度こそ死ぬぅ!!!」

 

 

ミュウの衝撃発言に絶叫したハジメが刃へとラリアットを叩き込む。そのまま地面に叩き伏せられ、締め上げられた刃は必死に助けを乞う。賑やか、と淡々と思うユエやシアは無論、彼の助けを無視する。凄い不機嫌なソーナ達を見てるからこそ、余計なことをしようにも出来ないのだ。

 

────騒がしくなった状況に、イクスが歩み寄る。取っ組み合いをしていた二人が後ろに立つ男に気付いた瞬間、脳天に鈍器を叩きつけられた。

 

 

◇◆◇

 

 

「イテテ、イクスの奴。加減くらいしろよ」

 

サブマシンガンで殴られた痛みは引かず、割と横暴な同行者に不満を漏らしながら刃はエリセンの町を一人歩く。ハジメの話ではある程度装備の改修と準備をしてから迷宮へと向かうらしい。その間数日は滞在することもあり、刃もこれからどうするか考えていた。

 

ふと、彼の歩みが止まる。広間の中心にある像に視線が惹かれた彼を、呼びかける声があった。

 

 

「おや、貴方は」

 

「アンタは、確か………レプカさんだっけか」

 

「はい、お久しぶりです────ミュウ様の許嫁さん、とお呼びするべきですか?」

 

「それ言われるとアイツらが不機嫌になるから止めてくれません?」

 

 

引きつった顔でそう頼み込む刃に、通りすがった海人族の青年 レプカは「冗談ですよ」と軽く笑った。ミュウの話になるとソーナ達が機嫌を悪くすることもあり、刃は少し居心地が悪かった。あまり本気にしないで欲しい、と思うのも火に油なので流石に黙ってはいるが。

 

 

「刃さん。もしかして、この像が気になっていたのですか?」

 

「ああ、なんか広間にあるのを見るとちょっと気になってな……………この像の人って、誰なんだ?」

 

「────エリセンの英雄、『閃槍』のフリント様の像です」

 

 

言われて刃は、目の前に立つ像を見る。どこか穏やかな顔立ちで槍を手にした美青年の像。フリント、という名前には心当たりがあった。レプカ達が口にしていた名前、彼等にとって重要な存在なのだろうか。

 

「フリント様は世界最強の槍使いと言われるほど卓越した槍術の使い手でもあり、我々自警団の殆どが槍を使うのも、フリント様の教えがあってのもの。あの方を語るのであれば────『海槍乱撃』が有名ですね」

 

「『海槍乱撃』って、あの話か?」

 

 

思わず刃が目を剥いて愕然とする。

無理もない、レプカの言う『海槍乱撃』とはある事件────もとい伝説を指す話であり、ハイリヒ王国での講義でも聞かされていた。

 

────かつて教会の司教の一人が、海人族を異端として排除しようと数十隻の艦隊を差し向けた。それを撃沈したのは、エリセンの戦士────一人であった。

 

海中から槍と共に突撃し、船に穴を開けて沈める。それを単身で繰り返した戦士によって司教達の率いる艦隊は撃沈し、司教は生きたまま捕らえられた。教会はこれを末端の暴走として粛清したが、教会の威信を揺るがす事件の一つとして後世に語られるようになっている。

 

 

「それをやったのが、フリントって人なのか?………化け物かよ」

 

ハヤテ団長といい、この世界はそういう人外レベルの強者がポップするものなのかと戦慄する刃。仮にも英雄を化け物扱いされたにも関わらず、レプカは反発するどころか苦笑いで返していた。実力に関しては化け物クラスという点は否定できないのだろう。

 

 

「ん、待てよ?確か自警団の奴等、フリント様に顔向けできないとか言ってたよな────まさか」

 

「そのまさか。レミア様は、フリント様とご結婚されていました。つまりフリント様は────」

 

「ミュウの、父親ってことか」

 

 

道理で、自警団の若者が殺気立っていた訳だ。

レミアが海人族の中でも人気な美人であることもあるが、彼等にとってはそれ以上に、英雄の家族なのだ。過保護になるのも無理はない。手を出した者がいれば、怒り狂うのも当然だろう。

 

 

「あの子は、ミュウは父親を知らないって言ったが…………そういうことなのか」

 

「ええ、フリント様は数年前────第一次魔神戦争の戦いにて、戦死されました。このエリセンの町を、人々を救う為に、単身で」

 

 

第一次魔神戦争。

大魔王率いる魔人族が主体となった軍勢による宣戦布告。元々は他国により保護されていた海人族達だったが、その他国は魔王により攻め滅ぼされ避難していた所────未知の魔物、アンチノミーの軍勢の襲撃を受けた。

 

徹底抗戦を図ろうとした海人族だったが、物量の差が大きく出来ていた。それによって海人族達は脱出を図ることを選び、その数万の魔物を足止めする殿となったのが、フリントであった。

 

 

「私達も戦うと言いましたが、フリント様はそれを認めず────レミア様やミュウ様を頼むと、未熟な私達に笑いかけて」

 

────そして、フリントは帰って来なかった。

数万の魔物を相手にすることになっても、と戻ったレプカ達はフリントを見つけることは出来ず、戦死したと泣く泣く受け入れるしかなかった。

 

生きてる可能性もあったが、数年も経った今、彼を心酔していたレプカ達すら諦めていた。その理由は明白なものである────『あのフリント様が、家族を置き去りにするはずがない。生きているのであれば、何としても戻るはず』という、彼を知ってるからこその答えであった。

 

 

「フリント様が亡くなられた時には、ミュウ様はまだ産まれておりませんでした。…………あの子がハジメさんを父親と思ったのも、父性を感じたからなのでしょう」

 

「…………まぁ、そうだろうな。あの子もああ見えて、色々と背負い込んでるみてぇだしな。それに」

 

「それに?」

 

「────父親に愛されたいって気持ちは、よく分かる」

 

◇◆◇

 

 

それから数日後、準備を整えていたハジメや刃達は自警団の隊長から呼び出された。どうやら迷宮に関することで話したいことがあったらしい。

 

「実は少し前、ある一団を捕らえた。此方も殺気立っていたのもあり、反撃されてね。今は大人しく牢にいるが、彼等も気が立っている。言いがかりのようなもので捕らえたのだから、無理もないか」

 

「捕らえた、か。ソイツらがミュウを襲った連中と誤解したか?」

 

「………そうだ。浅はか過ぎて、申し訳ない」

 

 

ハジメの予想に対して、隊長は頭を抱えて項垂れた。ミュウが見つからなかった当時は人間相手に殺しかねない勢いで殺気を向けていたくらいだ。それで捕らえられた無実の人間が不満や怒りを覚えるのも、当然と言えば当然か。

 

「で?その捕らえた連中が、一体どうして迷宮と関係するんだ?」

 

「実はだね、それが────」

 

「────オウオウオウッ!!さっさと出せや海人族ども!!」

 

近くまで来た瞬間、牢を叩く音と同時に荒々しい怒号が響いてきた。部屋に入ると檻を掴んで怒鳴り散らす金髪の亜人族の青年が息巻いていた。

 

 

「俺達はその『ミュウ』って子は知らねぇって言ってんだろ!いい加減にしねぇーとこの檻ブチ壊すぞゴラッ!!」

 

「止めろバザック!イライラするのも分かるが暴力は争いしか生まない!」

 

「違うね!暴力で相手の気概をへし折るぐらい叩き潰せば争いは生まれねぇのさ!」

 

「おお!流石はバザックさん!周りを威圧し圧倒することで舐められないように牽制してるのですね!?勉強になります!」

 

「…………エリーゼ。コイツは単に沸点が低いチンピラだ。学ぶんじゃありません」

 

 

そんな亜人族の青年の態度に目を輝かせる黒い魔女っ子のような少女、二人を相手に頭を抱える褐色の肌の青年が溜め息を漏らした所で彼等の視線が部屋に入ってきたハジメ達に向く。ああ?と怪訝そうになりながら喧嘩腰の亜人族の青年を黙らせながら、褐色の青年が目を細めた。

 

 

「白い髪に眼帯、いかにも凶暴そうな見た目の…………お前が南雲ハジメか?」

 

「俺の事、知ってるのか?」

 

「仲間から聞いた。ヴェルヌーイに心当たりは?」

 

「────お前等。アイツの仲間………魔人族か」

 

「純血じゃなくてね、魔人族と人間族のハーフさ。元々ボクたちはそういう集まりだから。ボクはシーフ、こっちはバザックに、エリーゼ」

 

大人しく肩を竦めながら話すシーフは話し合いが通じる相手だった。そんな彼も僅かに警戒心を含んだ目を向けながら、ハジメ達に問い掛ける。

 

 

「それで?ヴェルヌーイの知り合いが、ボク達に何の用?わざわざ出してくれるつもりはなさそうだけど」

 

「さぁな。俺は迷宮の事を聞きに来たら、お前らのとこに案内されただけだ。何か知ってることがあったら話してもらおうか」

 

「あ゛?誰が話すかよ!それよりもここから出せって────」

 

「…………ボク達をある程度もてなしてくれるなら、具体的に言えばボク達を檻から出してくれるなら、話は別だけど」

 

「それはコイツらに聞け。俺にはお前らの処遇は関係ない」

 

「────じゃあ話さない。こっちはミュウって子を拉致したって言いがかりで捕らえられた身だよ。こっちの言い分も聞かずに数日も捕らえられた挙げ句に、話だけ聞かせろってのは身勝手な話じゃない?」

 

脅すべきか考えたが、流石のハジメも手を引いた。ここで露骨に態度を悪くすれば、シーフ達は是が非でも話すつもりはないだろう。彼等自身ハジメ達を敵か見定めている以上、わざわざ敵を作るわけにはいかない。

 

ハジメは隊長たちに、ミュウたちを拐ったのは人間の組織であり、彼らは無関係である可能性を唱えた。隊長はその後調べ終わった後にシーフたちを解放することを約束したことで、ようやくシーフが重い口を開いた。

 

 

「────ボク達は迷宮を攻略するはずだった。ボスやヴェルヌーイ達と一緒にね。本来ならエリセンにはよらず海底遺跡に直行でね」

 

「それで、どうなった?」

 

「────変な魔物に襲われてさ、全員流されて着いた先だと冤罪で引っ捕らえられたわけ。全く、参ったね」

 

 

端的に、シーフは事情を語った。迷宮を探して旅をしている間に、魔物に襲われたらしい。相当手強い相手だったらしく、仲間達とも逸れる羽目になった、と。

 

露骨な嫌味に隊長が苦い顔をしている間、ハジメは怪訝そうな顔をしながら、シーフに一つの疑問を投げかけた。

 

 

「最後に一つ────何でお前等は迷宮を攻略しようとした?」

 

「神代魔法が欲しいから。ボスがそれを欲しがっててね、理由は……………まあ、力が欲しいってものじゃない?」

 

「…………そうか」

 

静かに答えて、その場から離れるハジメ。満足しているのかと思った刃だったが、親友の顔は妙に納得できない様子だった。

 

 

◇◆◇

 

それから数日後。

迷宮攻略の準備を終えたハジメ達は遂にメルジーネ海底遺跡への出発を行うことにした。今回もイクスとノインは残るらしい。ミュウを見ておく必要は無いのではと思ったハジメであったが、

 

 

「念には念の為です。人攫いが来た場合、我々がいた方が対処しやすい」

 

「…………まあ、人以外に妙なものが彷徨いているようだしな」

 

 

と、特にイクスは何かを警戒しているようであった。理由を聞くのも野暮かと思ったハジメ達は他の様子を見る。この攻略でまた置いてく形になったミュウのことである。

 

 

「パパ………ジンお兄ちゃん、ホントに行っちゃうの?」

 

「ミュウ………パパは、やらなきゃいけないことがあるの」

 

「ミュウ、心配するな。必ず戻ってくる」

 

「俺からもだ。俺達はお前を置いて消えたりはしねぇよ、その間ママや皆を心配させないようにな」

 

 

泣きそうになりながら呟くミュウを、レミアが抱き抱えながら落ち着かせる。そんな少女に、ハジメと刃は言葉をかけ、心配させないように告げた。目尻に涙を浮かべながらも見送ることを選んだミュウであったが、突如レミアの元から離れて、刃に駆け寄った。

 

「お兄ちゃん!これ!」

 

「………これは?」

 

「ママが大切にしてた、ミュウのネックレス!パパたちの言う、お守り!ミュウがいない時も、ジンお兄ちゃんが泣かない為の!」

 

「私からも、受け取ってあげてください。この子も、貴方や皆さんが無事で帰ってきて欲しいと思ってますので」

 

「…………分かりました。必ず、返しに戻ります」

 

 

ミュウから渡されたペンダントに困惑したが、レミア本人からの頼みもあって刃は素直に受け取ることにした。ソーナ達の目が更に鋭さを増した気がしたが、今だけは気の所為だと思っておく。

 

こうして、一同はメルジーネ海底遺跡への旅を始めた。無論、彼等は未だ気付かない。遥か遠くの地平線、海の底から此方を覗くある意識に。

 

 

◇◆◇

 

 

メルジーネ海底遺跡への道は、やはり難解なものであった。普通に探しては見つからず、『月とグリューエンの証に従え』というミレディとリヒトからの言葉を思い出し、夜中に照らされた月の光にグリューエンの証であるペンダントを翳す。

 

すると正解だったのだろう。ペンダントに浮かぶランタンの模様に光が蓄えられ、ペンダントから放たれた光が海の下を射す。どうやらその光の先がメルジーネ海底遺跡らしい。

 

神秘的な光景に、声を漏らすシアやソーナ。このまま見惚れているわけにもいかない、と全員が潜水艇の中に入って海の中へと潜航を開始する。

 

 

光の指し示す先で、岩盤に覆われた一帯に穴が開いた。どうやらそこがメルジーネ海底遺跡への入り口だろう。洞窟を進んで先にある迷宮へと進もうとした、その時。

 

 

────凄まじい轟音と共に、船体が大きく揺れる。姿勢を崩して倒れ込む香織やソーナをハジメや刃が受け止める。慌てて操縦に戻ったハジメは、何が起こったかをすぐに理解した。

 

「きゃあっ!?」

 

「ソーナっ!香織!相棒!これは───!」

 

「攻撃か!一体何が────!?」

 

 

ハジメたちが見たのは、後方に浮かぶ巨影。夜の海に見えるその影は一瞬クジラのような大型生物かと思ったが、それは生き物ですらなかった。

 

────巨大な、潜水艦。いや造形からしてサメを模した戦艦だろうか。左右に腕のようなユニット、恐らく武装やスラスターが組み込まれた補強ユニットであろう。全身の至る所から赤い警報サイレンを点滅させたソレはハジメ達の乗る潜水艇目掛け、魚雷と言う名のミサイルを撃ち出し始めた。

 

 

「っ!敵からの攻撃!この数じゃ迎撃しきれねぇ!」

 

「ユエ!左は任せた!右は俺がやる!」

 

 

無数の弾幕には、弾幕で応じる。

即座に対応した刃とユエが放つ魔剣の雨と強大な魔法で、殺到する魚雷を爆裂させていく。このまま逃げに徹しようとした潜水艇の動きを、巨大な戦艦は静かに観測していた。

 

 

『────弩級潜水母艦ディープ-Abyss01より報告。迷宮メルジーネ海底遺跡を確認。命令通り「危険因子」への攻撃、失敗。命令継続の指示を求む』

 

『────統括機構よりダブリスから通達。「危険因子」の排除は不要。本来の目的通り、迷宮の攻略────「再生魔法」の回収。命令を変更後、遂行せよ』

 

『Abyss01より受諾。「危険因子」の抵抗を確認。最優先事項への対応の為────「レーヴェルノート」を起動、即劇殲滅を実行。生死問わず、排除を遂行』

 

 

直後何らかの通信を得た巨大戦艦────弩級潜水母艦ディープ-Abyss01が何らかの動きを見せた。中心の艦橋が開き、中から何かが展開されたのだ。その動きに気付きながらも洞窟へ入ろうとした潜水艇を操縦するハジメの目が、ソレを見た。

 

 

「…………なんだ、あれ?」

 

『────』

 

人間、に見えるようなナニカ。

ソレが動いたかと思えば、その姿が一瞬で消える。ハジメや刃が気付いた時、水中を凄まじい速度で突貫してきたソレが、それ以上の速度で────槍を投擲してきた。

 

 

「ッ!?全員衝撃に備えろ!」

 

 

刃が即座に無数の剣を生成して、防壁を形成する。しかし亜音速で迫る槍は悉く魔剣を貫通していく。負けじと生成した巨剣を壁にする刃だったが────それすらも、潜水艇ごと抉り抜く。

 

 

爆裂が生じる。

その空間内の水分を消し飛ばし、一瞬だけ干上がらせたそこには、粉々に砕け散った潜水艇の残骸と、凄まじい衝撃によって一瞬にして意識を削り取られたハジメ達。直後に戻った海に巻き込まれ、彼等は洞窟の中へと流されていく。

 

 

『────』

 

『「危険因子」の排除を確認。生死確認は不要。これよりレーヴェルノートと共に迷宮上陸後、即座に制圧を開始する』

 

 

水中にも関わらず弾丸の速度で戻ってきた槍を回収した人型、レーヴェルノートがディープ-Abyss01へと戻っていく。艦橋へと収納した人型を回収した後に、巨大な潜水母艦は洞窟の壁を魚雷によって破壊しながら強引に押し進む。

 

双対の魔神 ダブリスの悪意が、海に眠る解放の意志を蝕み、取り込まんとしていた。




ダブリスの軍勢、侵攻。
ハジメ達の潜水艇は撃沈されましたが、まあ大丈夫でしょう(投げやり)今回、メルジーネ海底遺跡をダブリスの眷属が狙ってるのは、神代魔法を手に入れるためです。

そのために投入した眷属は三体。潜水艦かつ母艦の役割を担うディープ-Abyss01、ダブリスのお気に入りであるレーヴェルノートと残り一体。

因みにレーヴェルノートは槍を使います。実際にそれで潜水艇を破壊してるわけですし…………あれ?どこかの英雄と似てるなぁ(目線反らし)

次回からメルジーネ海底遺跡攻略編となります。よろしくお願いします!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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