「────っ、ここは?」
目が覚めた刃が見たのは、海が広がる海岸沿いであった。起きた刃は喉に水が残ってる感覚にえづきながら、周りを見渡す。辺りはやはり海岸沿いにしか見えないが、海の向こうの景色が薄暗く見えない。ここは何らかの領域であろうか。
そう思って砂浜の近くを進んでいくと、声の気配がしたので慌てて向かってみる。するとそこには分断された仲間の姿があった。
「シノ!ユエにシア!無事だったか!」
「………何とか、流れてここに着いたみたい」
「ならここは────ここが海底遺跡なのか?」
普通の海が広がる景色に見えるが、どこか様子が可笑しい。不気味さ、と言うよりも不安定さが目立っている。迷宮にとっても緊急事態が生じているのか。周囲に伝わる魔力が歪んでいっているのが、よく分かる。
「そうみたい………主様、探してみたけど、他の皆は見つからなかった」
「ハジメに香織、ソーナにティオか………アイツら流石に無事だと良いんだがな」
今この場にいないのはその四人。此方は四人も集まっている以上、ハジメ達も四人で集まれているのが最善だ。────最悪が全員合流できていないか、二人ずつと分断されている可能性だ。
「刃、ハジメ達はきっと自分達で動いてる。私達も出来ることをするべきだと思う」
「…………そうだな」
ユエからの指摘に、刃も同感であった。
ハジメたちは心配だが、仲間である以上生きて帰ってくるだろうという信頼もある。何より現状は悠長にしていられない。つい先程襲撃を受けたばかりなのだから、急がねばならない。
「────先へ進もう。奴等が動いてるかも分からねぇからな」
◇◆◇
────そして、一方で。
「けほっ、けほっ、うっ」
「はぁはぁ………無事か、香織?」
「う、うん。何とか……皆は………?」
「流されたみてぇだな。刃やユエもいるし、心配は要らないが……………ここにいるのは、俺達だけか」
刃の予想は悪い方向に当たっていた。流れ着いた場所で合流したのは、ハジメと香織の二人だけであった。無論、ただの偶然ではない。一人流されそうになった香織をハジメは意識が途切れる前に捕まえて、ここまで流れてきたのだ。
そこまで仲間を気にしていない様子のハジメに、香織は複雑そうに苦笑いしながら呟いた。
「信頼してるんだね………」
「?まあな。あの二人、相棒はあぶねぇところもあるが、やる時はやるしな」
「……………」
俯いて沈黙する香織に顔を近付けるハジメ。見惚れるようにポカンとしていた香織の両頬を無造作に掴み、グイーンと引っ張った。
「い、いひゃいよ!なにひゅるの!」
「落ち込んでる暇があるなら、行動に移せ。ここは大迷宮だぞ?」
「そ、そうだよね。ごめん…………そ、それより、これからどうするの?」
「大迷宮の深部を目指す。相棒達もそうするだろうしな」
沈んだ心を悟られないように振る舞う香織にハジメは思うところがありながらも、先へ進むことを選んだ。密林を抜けた先にあるのは────船の墓場。
おびただしいほどの無数の船の残骸が岩石の上に打ち捨てられた光景は、異質どころの話ではない。見て分かるのは、残骸の全てが戦艦であることくらいだろう。不気味な空気が肌を伝うはずだが、どこか様子が可笑しいのがハジメや香織にも分かった。
────そして、今もこの空間を蝕む禍々しい魔力には、心当たりしか無かった。
「な、なにあれ………?」
突如、船の残骸から溢れ出す光。淡い光は逃げるように錯綜しているが、その理由がすぐに分かった。残骸の壁を墓足手姿を見せたのは半透明な結晶体で形成された甲殻に身を纏う魔物。流体的なコアを蠢かせるソレが何であるのか、ハジメは忘れられるはずもなかった。
「────アンチノミー」
双対の魔神 ダブリスの端末。無機物で構成された、生命の無い生命体。二つの矛盾する概念を秘めたダブリスの望みを────
無数のアンチノミーが、船の残骸から姿を現す。壊れかかった瓦礫や木片を無視して突き進むソレに感情はなく、機械のように組み込まれたプログラムのようなものであった。カチカチカチ、と地面を這う甲虫型のアンチノミーが不協和音を響かせながら、船の残骸をしらみ潰しにしていく。まるで何かを探し出そうとするかのように。
『────!』
『────!』
その際、空中に逃げ惑う光。声が聞こえる様子に困惑していた香織の話を聞いたハジメは、その光と思っているのが魂ではないかと感じる。その魂はアンチノミーに追われ、飛行型のアンチノミーによって捕らえられ、地上のアンチノミーへと群がられる。
悲鳴らしき音が、響き続ける。その魂は、生きたままアンチノミーに貪られていた。いや、分解されているというべきか。全ての魔力を引き出す為に、切り刻んで、潰して、魂から魔力を引き出していく。
────無論、アンチノミーに悪意はない。ただ彼等はプログラム通りのことしか出来ない。だからこそ、魂や相手が生きてることを認識していないのか。或いは生きていることを知っているが、その方が魔力を効率よく回収できるから放置してるのか。
「う、ぅ………」
「香織、大丈夫か────奴等はあの魂を襲うことに集中してる。今のうちに」
響き渡る悲鳴、絶叫に顔を青くした香織を気遣うハジメ。無情であるが、あれだけの大群を相手にしている暇はない。早くここから立ち去ろうとした瞬間、すぐ近くで悲鳴が響き渡った。
『───、────』
『いや!いや!来ないでっ!』
逃げ惑う魂の一つを、アンチノミーが追い回していた。元々はこの迷宮での試練の一つであった亡霊の一体、少女の霊は恐怖に怯え、逃げ続けていく。しかしアンチノミーはそんな悲鳴や懇願を意に返さず、壁に追い立て、遂に引っ捕らえた。少女の魂を引きずり下ろして、魔力へ変えようとしたその瞬間、
「────止めて!!」
香織が放った魔力弾が、アンチノミーを撃ち抜いた。ドンナーのような物理攻撃とは違う魔力の攻撃にはアンチノミーも防御はできないらしい、そのままコアを消し飛ばされて地面に崩れ落ちる。
ふわふわと浮くことしかできない亡霊の魂に、香織が寄り添う。未だ成仏もできずに彷徨う魂相手にどうするべきかは、香織も知っていた。
「待ってて────今終わらせるから」
回復魔法をかけて、苦痛なく魂を浄化させた。悪霊や亡霊などには回復魔法が通じるとは、医療騎士団で教わっていたのだ。少女の亡霊は光りに包まれる際に、感謝を告げてから消滅した。
「…………香織」
「ご、ごめん。ハジメくん………でも、どうしても見てられなかったの」
「…………別に悪いとは言ってねぇよ。ただ、気付かれたぞ」
直後、船の残骸に群がっていたアンチノミーが一斉に飛び出した。無数の群体が、一つの波のように揺れ動く。巨大な一塊の群体に、ハジメはドンナーとシュラークを合わせた連撃を叩き込む。
前方にいたアンチノミーの数体はそれで消し飛ばせた。しかしすぐに群体は動きを変える。数体のアンチノミーが自分達の肉体を組み合わせ、合体────より頑強な装甲を有したアンチノミーへと変貌した。一際大きなアンチノミーはドンナーとシュラークの弾丸を弾きながら、その身に任せてハジメへと突撃していく。
巨大かつ頑丈な装甲を纏うアンチノミーに、ハジメはシュラーゲンを持ち直し、対物ライフルの狙撃を叩き込む。雷撃の如く放たれた弾丸はアンチノミーの装甲を抉り、コアを吹き飛ばすが────アンチノミーは簡単には死ななかった。
『────!』
「っ!コイツ!」
意識が途絶える直前、身を投げるアンチノミー。その頑強な肉体だけは破壊しきれず、咄嗟に回避行動を取るハジメ。真後ろへ飛んだハジメに、飛行型のアンチノミーが殺到する。風に乗るように迫るアンチノミーがハジメを囲みリンチにしようと爪を伸ばした瞬間、
「────『
十指から放たれる閃光の弾丸が、アンチノミーを貫き、撃墜する。地面に着地したハジメは魔法を放った香織に目配せをする。
「やるな、香織───今のは助かった」
「そ、そんなことないよ!ハジメくん達の方が凄いし………」
「…………香織の攻撃に彼奴等の動きが止まった。何かあるのか?」
アンチノミーの軍勢が動揺したように動きを止める。流石のハジメも何かあると怪訝そうに睨んでいたが、今だけは都合がいいと判断した。
「よし、香織────逃げるぞ」
「えぇ!?い、いいの!?」
「あんな数まともに相手してられねぇよ。今はとにかく距離を取って様子を見ねぇと」
香織を抱き抱え、船の残骸へと飛び乗って距離を離そうとするハジメ。傍らで顔を真っ顔にしてる香織を尻目に、ハジメは追撃を始めたアンチノミーの軍勢に舌打ちを吐き捨てる。
「…………あれは?」
そんな逃走劇を────影が見ている視線に気づくことなく。
◇◆◇
「んむ…………ここは」
「ティオ!良かった、無事みたいね!」
「ソーナか?しかし、ここは一体………」
「まだ海の中よ。私が張った水のバリアで隠れてるから」
その一方で、ソーナとティオは唯一迷宮の外にいた。流れされていたティオを何とか掴まえたソーナが水のバリアで岩壁に姿を隠したらしい。目が覚めたティオはソーナに礼を言ってから、何があったのかを思い出す。
「確か妾達は、攻撃を受けて────ご主人様達は!?」
「分からないの。けど、海底遺跡に流されたのが見えたわ。きっと皆のことだから無事なはずよ。今のところは、だけど」
「うむ、それもそうじゃな…………所で、妾達を襲った奴等は何処におるのじゃ?」
「────あそこよ」
ソーナに促されて目を向けたティオは、ソレを見た。
海底遺跡の入り口であろう場所に浮かぶ巨大な潜水母艦、先程自分達を襲って沈めたもので間違いない。固定、いや停泊するように止まった潜水母艦にティオは目を細めた。
「成程、今のところは、というのも納得じゃ。奴等も海底遺跡へ乗り込んだようじゃの。目的は、神代魔法かの」
「かもね。私にも分からないわ────あれ、見て」
視線の先、潜水母艦ディープ-Abyss01の接続部から複数のアンチノミーが放出されていく。海中に落ちたアンチノミーはすぐに海底遺跡へと入っていく様子が見える。
「さっきからあれだけのアンチノミーが出続けてるんだけど、もしかして…………」
「────アレが生成してる、と言いたんじゃな?」
ティオもディープ-Abyss01から感じる魔力の異質さを感じていた。巨大な魔力炉と呼ぶべき魔力の塊。今停止してアンチノミーの増産に力を入れているのは、動かすだけでもエネルギーを使うからか。
「どちらにしても、今はご主人様達と合流するのが先決じゃな」
「………ねぇ、ティオ」
「む?どうした、ソーナよ」
「────アレ、私達で倒さない?」
真剣な表情でそう告げたソーナに、ティオは驚きながらもすぐに彼女の覚悟を理解して、話を詳しく聞くことにした。
◇◆◇
────エリセンの町。
潮の香りやのどかさが広がるその町は、今ちょっとした騒ぎに包まれていた。
「…………ノイン、仕込みは?」
「はい、終わりましたよ。イクス」
「そうか」
町から聞こえる騒ぎ声を尻目に、海の向こうを睨んでいたイクスにノインが報告をする。短く頷いた彼に、自警団の若者達が集まる。不信そうな目を向ける海人族の男達を宥めた隊長が、イクスに声を掛ける。
「イクス殿、言われた通り町民を一箇所に避難させた…………一体何のつもりだ?」
「────悪いが、少し黙っていろ」
そう言ってから、イクスは足元に描いた魔法陣に手を置いた。次の瞬間、周囲へと魔力のラインが広がっていく。四方に伸びたソレはエリセンの街を囲むように刻まれた魔法陣を起点として、巨大な結界を生成する。それも一枚だけではなく、何重にも重ね掛けした上で。
「────結界は張った。後は奴等の出方を見るべきか」
「奴等?何のことだ?」
「すぐに分かる」
答えようとしないイクスに、業を煮やした若者が声を荒げようとしたその時、海の向こうにまで展開された結界が音を立て始めた。何かの攻撃を受けていることに、海人族達も気付き始めたらしい。
「な、何事だ!?」
「────ダブリスの端末、アンチノミーの軍勢だ。眷属まで動員しているということは、ただごとではないな」
ずっと感じていた違和感、それは此方を監視するような視線にあった。警戒して結界を張ったイクスの判断は、間違いではなかった。結界を張られたことで隠れるつもりはなくなったからか、或いは命令を受けたのか海の向こうでアンチノミーの大群が侵攻を始めていた。今も結界を破壊しようと動いているのだろう。
「イクス殿!結界はどれだけ持ちますか?」
「…………持って三十分、自己修復の機能を組み込んでるから長くは持つだろうが、奴等は核を破壊しに向かうだろう。オレもやるが、お前達にも働いてもらうぞ」
「分かっています!────今度こそは!」
この町の亡き英雄に報いる為とやる気に満ちた自警団を一目見たイクスは向こうにいるであろう敵を静かに睨んでいた。ただ一つだけ、イクスにとっても解せないことがあるのだ。
(…………海底遺跡の方にも向かったのは分かっている。だが解せない。何故この町を襲う?わざわざあれだけの戦力を迷宮ではなく、こちらに向けるのは何故だ?)
────この町に、お前の望むものがあるというのか?ダブリス
◇◆◇
「────ギギギッ。侵攻せよ、侵攻せよ。忠実なるアンチノミー、絶対なるアンチノミー」
結界を破ろうとし続けるアンチノミーの軍勢を従え、高らかと謳うはコートのような外套を着込んだ機械人形。複数の腕を有したその個体、ダブリスの眷属────ギアソリッドは祈るように、両手を合わせた。
「偉大なる、恐怖なるダブリスよ。このギアソリッドが、御身の眷属が、貴方の望む力を、『再生魔法』の力を有する因子、其を宿す子────英雄の娘、解放の血統を手に入れましょう。ギギギッ!」
◇◆◇
「…………にしても、嫌な感じだな」
「………それはそう。他の迷宮とは違う、全体的に空気が………」
「く、空気って………確かに薄ら寒いものを感じますけど」
刃達が立つのは、船の残骸。廃船と呼ぶべきその船の甲板の上に立っていた刃達は周囲を見渡して、様子を窺う。しかしやはりどう見ても周りに変化はない。冷たい空気に包まれた、廃船の山に変わりない。
だが、その瞬間。
空気の変化を、わずかな魔力の変化に刃が気付いた。
「────?」
「?主様?」
「────何かが、来る」
ソレは、凄まじい弾速となって飛来した。閃光のような軌跡を伴ったソレは刃達が反応するよりも早く、近くにあった配線の残骸へと着地し、辺りを吹き飛ばした。
「っ!皆!」
「………分かってる」
「気を付けろ。アイツは────」
砂煙が晴れた先に、ソレは居た。
ある程度原型があり、人間的な部分が目立つ人型。右腕には人一人と同じ長さの大槍を手にしており、綺麗な白い髪が揺らめいている。
それ以上に────肉体の殆どは、機械や部品に補われていた。胸元に組み込まれたであろう一際大きな炉心、リアクターのような機関が妖しく光り続けており、そこから伸びたケーブルが全身の至る所へと伸びている。特に二倍くらいの大きさをしていた機械の左腕、三本の爪を有したソレは鋭利な鋭さを示していた。
そして、背中から伸びる有線の尻尾。太い鋼線とは思えないほど柔軟な尻尾の先には、槍に刃を備えた禍々しい狂気が備わっていた。顔の部分にはフルフェイスの機械マスクを装着しており、右面には単眼の蠢めくモノアイが、左面には目を示すような光のラインが備わっていた。
不気味なその姿に、刃たちは見覚えがあった。
「やっぱり、コイツ────俺達を襲った奴か!」
「支援要請…………支援、要請────仲間が、死にかけて、ます。至急、応答ををををををををををを」
身構えた刃の敵意に気付いたのか、首を上げた人型────レーヴェルノートが反応を示す。倒錯しているのであろうか。理解不能かつ歪みきった言葉を口にしながら、レーヴェルノートはその槍を手にして首をギギギと回していた。
首を捻りながら、両足を深く落としてバネのように反動を加える。そのまま跳躍態勢に入ったレーヴェルノートが、突如として爆裂した。
「っ!?今度は何だ!?」
「アレは…………船?」
いつの間にか、近くにあった船が砲撃をしてきたのだ。その甲板上には殺意を剥き出しにして砲撃を繰り返す人間達が見えた。その気迫は、普通とは思えないほど殺気立ち、狂気的に見えた。
「全ては神の御為に!」
「エヒト様ぁ!万歳ぃ!」
「異教徒め!我が神の為に死ねぇ!」
「し、死ね?こ、殺す────家族の、町の皆のために、こ、殺す殺す、殺すここここここここここここコロロロロロロロロ」
唾を吐き捨てるような正気ではない男たちの言葉が聞こえたのか、頭を振り回して異常な様子を見せるレーヴェルノート。砲撃を浴びながらピクリともしない人型は、一瞬で跳躍して────砲撃を繰り出し続ける船へと強襲した。
「神の敵めぇ!今こそエヒト様の名の下に────」
剣を振り上げる男に、レーヴェルノートは槍を無造作に振るう。それだけで男の頭を消し飛ばされた。血は出ず、淡い光となって消滅する男に、仲間は恐れる様子も見せず突撃していった。
機械の左手を、爪を開いた先端に光が収束し、魔力の奔流が解き放たれる。凄まじい熱量のレーザーとなった魔力は射線上にいた男達を跡形もなく消し飛ばした。
それだけでは終わらない。背後や左右から迫る相手には背中から展開した二つのキャノン砲による放射で消し飛ばし、張られた帆の上から襲いかかった男は、槍のように鋭い尻尾で串刺しにした。
────ものの数秒で、全ての敵を葬り去ったレーヴェルノート。首をもたげたソレは少し前に感知した刃達の存在を思い出して視線を向けるが、何処にも彼等の姿は見えなかった。
おかしい、と思ったのか捜索をしようとしたレーヴェルノートであったが、突如頭に浮かんでいた光輪が音を立てて変形し始める。ピクリ、とレーヴェルノートが全身を震わせたかと思えば、
「りょ、りょりょりょりょう解────すぐに、向か、ウウウウウウウウウ」
凄まじい勢い船から飛び出し、残骸の上を渡って何処かへと向かっていくのだった。辺りに見向きもしないソレは、何か重要な目的でもあったのだろうか。操られたように動くその怪物は、今度こそ姿を消した。
────そして、残骸の中で気配を殺していた刃達は一息つく。安堵の息を漏らした彼らは、自分達に助け舟を出した相手に声をかけた。
「悪い、助かった。アンタらがいなきゃ、アイツとやり合いになってた」
「別に。ただ見過ごすのも野暮だっただけ────ん?お前は」
「あ!貴方は!」
レーヴェルノートが船を襲っている間に、残骸の中から呼ばれて慌ててその中に隠れた刃達一同。感謝しようとした刃は、その青年とシアが知り合いである様子に首を傾げる。
「ヴェルヌーイさん!どうしてここに!?」
「それは此方の台詞だ。お前達こそ、何故此処にいる?」
ヴェルヌーイ、そう呼ばれたハウリア族の少年は怪訝そうな顔でシアへ問い掛けた。彼の名前を、刃達も知っていた。確かミュウ達を助ける際に出会い、協力した相手だと。
しかし、ヴェルヌーイの警戒心は強かった。シアや刃達がここに居る理由が分からない以上、敵か味方か掴みかねているのだろう。今すぐにでも腰の剣を引き抜こうとする兎人族の少年を、もう一人の声が制した。
「なんだ、『ゔぇるぬぅい』。知り合いなら、そう身構える必要はないだろう」
「…………コガラシ。お前はコイツらを信用するというのか?」
「子供を助ける為に敵組織を殲滅した者達であろう?何か理由はあれど、こちらの寝首をかくような相手ではあるまいて。何より、そんな事を我々が許さねば良い話」
「……………それもそうか」
茶髪の上に笠を被った和風のような着物姿が目立つ刀を差した女性の言葉に、ヴェルヌーイは渋々と言った感じで従った。着物の女性、侍のような雰囲気を漂わせる彼女は傘を上げながら一礼した。
「さて、儂の名はコガラシ。しがなき流浪の剣士であっまが、今は『れゆにおん』なる一団に加わってる身。宜しく頼む」
「刃、黒鉄刃だ。まず色々と聞きたいんだが…………アンタ達について、教えてくれるか?」
「ウム、構わぬが…………話は長くなるぞ?」
◇◆◇
「…………香織!平気か!?」
「う、うん!大丈夫だよ!それよりも!」
「ああ!分かってる!」
一本道の通路を走り抜けるハジメと香織。息切れしながらも走り続ける彼女の様子に振り向いたハジメがドンナーの弾丸を数発叩き込む。背後から着弾した音が聞こえたが、ソレはすぐに大多数の走るカサカサという音によって覆い尽くされる。
何時までも続く逃走劇に、ハジメは遂に怒りが爆発したように背後に向かって怒鳴り散らした。
「どんだけっ!しつこいんだテメェらはァ!!?」
────アンチノミーの大群に追われてからもう十分。
群れは一切足を止めることなく、ハジメ達の後ろにピタリと着いてきていた。鬱陶しいとハジメがオルカンやメツェライによる大火力で薙ぎ払ったが、そうすると装甲を硬くした個体が盾となって群れの侵攻を維持する。
地上ではなく高台に逃げようとすれば、飛行型が邪魔するように飛び回り、その高台へと群れが這い上がってくる。数の暴力を生かし尽くしたアンチノミーの恐ろしさ、厄介さが今ならば理解できる。
何より厄介なのが、アンチノミーが狙うのは殆どが香織であることだ。ハジメが香織を庇わざるを得ないことを、今までの行動パターンから理解しているのだろう。敢えて殺さないよう、致命傷を外す攻撃であっても対応しなければならないハジメは、アンチノミーの悪辣さに舌打ちを吐き捨てたい気分だった。
「っ!?きゃあ!」
「香織!クソッ!」
(上等だ────お望み通り皆殺しにしてやる!)
アンチノミーの放った棘が、香織の足を斬り裂き、彼女を横転させる。動けない彼女に群がろうとするアンチノミーを風爪で薙ぎ払い、ハジメは本気の殺意を以て香織を庇うように立つ。アンチノミーの軍勢が波となって迫った────その瞬間だった。
「────あー、お二人さん。頭を下げたほうがいいぜ」
気の抜けたような声が、ハジメ達の真上からした。それは飛び上がるような勢いでハジメ達の真上を通過していた。ステップのように跳ねた男は左手を伸ばし、先頭から突撃しようとしていたアンチノミーに触れた。
掌がアンチノミーの外装に触れた瞬間、アンチノミーは一瞬にして塵へと変わる。破裂や消滅などではなく、破壊という現象そのもの。その光景に動揺したアンチノミーの侵攻が停止した。
「アンチノミーを、破壊しただと………!?」
ハジメもソレが魔法レベルの力ではないことに気付いていた。下手すれば概念自体に作用する、破壊という事象を引き起こしているようにしか見えなかった。
輝かしい金髪を立てた青年。どこか名残があるような顔立ちの青年は此方を見る暇もなく、目の前に並ぶアンチノミーの軍勢を前に目を細めた。カチカチと足音を立てて突撃を再開したアンチノミーに、青年は右手で左腕に触れる。
次の瞬間、左腕が瞬時に姿を変化させたかと思えば細長い砲身へと変わっていた。青年はソレを軍勢のいる方へと向け、砲口から砲弾を飛ばす。空中で爆裂した弾頭は先頭にいたアンチノミーはおろかは、前衛のアンチノミー全てを破壊し尽くした。
『その、力────一体』
「流石に数が多いね。悪いけど、これで一旦終わりかな」
右手と戻った左手を、同時に床に押し当てたかと思えば、通路の床、壁、天井が破壊されると同時に鋭い槍を突き出し続ける。無数の無機物の槍が道を塞ぎ、アンチノミーの軍勢をも巻き込む。気付いたときには、通路は完全に閉鎖されることになっていた。
「────ふーっ、さて、大丈夫かな?お二人さん」
不敵に笑いながら振り返る青年。アンチノミーが完全に来ることはないのだろう。そう確信した彼に香織がお礼を言おうとしたその瞬間だった。
────青年が、無造作に左手を振るう。
掌が向けられたのは、隣に立ったハジメの眼前。それに臆することなく睨んでいたハジメはドンナーの銃口を、青年へと突き付けていた。
「は、ハジメくん!?」
「────助けた相手には鉛玉ってのが、アンタなりのお礼なのか?」
「礼は言う、非礼であることは理解している。だが、それがお前を信用する理由にはならない。何より、ここが迷宮である以上な」
ハジメとしても、大魔王の一件で不用意な発言や相手を増やすような事は控えるつもりではある。だが、大迷宮の中では話は別だ。基本的に大迷宮に人間がいるなんてありえない。ここにいるのは迷宮を攻略しようとするものであり、場合によっては敵対者の可能性が高い。
「こんな大迷宮にいる奴なんて、普通の人間とは思えない。お前は何者だ?俺達の、敵か?だとしたら────」
「だとしたら、アンタらの前にいない。あの魔物を押しつけたままでいいしね────それに、アンタは俺様を殺せない」
ニヤリと笑みを深めた青年は、敢えて振り向いて自身の額をドンナーの銃口に押し当てた。
「殺すつもりだったら、とっくに俺様を撃ってる。撃たずに脅してるのは、俺様が敵か味方か探ってる、違うか?」
「…………南雲ハジメだ」
「分かってくれたようで何より。俺様の自己紹介をしよう」
背中に広げていたマントをはためかせ、青年は自身を体を包み込む。ダラララララ、と変な音がしたかと思えば、周囲から花火やファンファーレのような音を響かせて、マントを広げ、高らかと名乗った。
「俺様は!自由を掲げし解放の名を継ぐ、『自由連盟 レユニオン』を率いし者!名を、レオンハルト!レオンハルト・谷口・サザンクロス!」
────また変な奴が来たな、と遠い目をするハジメを尻目に、香織は驚きのままに目を見開く。彼の名乗った名前、その一つは彼女のよく知るクラスメイトのものと同じであったからだ。
────そして、それと同時に思い出す。彼女の家族の一人が、原因不明の行方不明になっていたことに。
メルジーネ海底遺跡攻略、始まりました。
そして、新キャラの一人、レオンハルトの紹介。
レオンハルト・谷口・サザンクロス。
自由連盟レユニオンなるチームを率いるリーダー。金髪のイケメンだが、話の通じる気さくなタイプ(ナルシストというか自己主張の強い面があるのは愛嬌)
正体は不明だが、触れたものを破壊する力と作り変える力を有する。トータスの人間だと思われるが、クラスメイトの谷口鈴と同じ名前を名乗っており、行方不明になっていた彼女の家族と関係のあるとされる人物。
レオンハルトが何故谷口と名乗っているか、何故谷口の家族が行方不明になっていたのか。その理由は次回以降に分かります……………ね?エヒト様?(冷たい目)
感想やお気に入り、評価などよろしくお願いします!それでは!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場