ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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海底での語らい/閃槍の行方

時はクラスが転移するよりも昔の話。

香織がその話を聞いたのは、同級生だった鈴が少し落ち込んだ様子を見せていた時だった。ハジメのことで言い合いになった刃と光輝を尻目に頭を抱えていたが、事態の収束を同じ真面目枠の剣城に任せた咲夜と一緒に話を聞いた時に、鈴が語り出した。 

 

 

「いやぁ…………(ショウ)お姉ちゃんが居なくなってからもう数年だなぁって」

 

「鐘さんって………確か」

 

「うん。数年前から忽然と姿を消して、皆何処に行ったのかも分からないんだって、これって神隠しなのかな?あはは〜」

 

 

谷口鐘、鈴の姉で数歳上でちゃんとした人だと印象が強い。咲夜も香織もよく知っている。時折、声を掛けて妹を気に掛けている優しい姉であった。家族仲も良好で、好かれるタイプの美人だった。

 

────それがある日、忽然と姿を消した。

原因は不明。下校中に友達と別れて自宅に帰る、数分の間に失踪したのだ。警察に通報した谷口両親は、誘拐された可能性を唱えた。彼女が家出をするような子ではないと理解したからこそ、人なりを知っていた警察もそのように動いたが、数カ月経っても影すら見つからない。

 

じきに、ある噂が流れ始めた。神隠しに遭ったのではないかと、少し前に小学生達が光包まれて消える人の姿を見たと言っており、事件は未解決で終わらせるしかなかった。

 

 

未だ家族と共に探し続けている鈴はそんな風に明るく振る舞っていたが、香織も咲夜も彼女を気遣うことしかできなかった。その時は神隠しの事も含めて別の理由があるのではと思っていたが、今は────トータスに転移した今は違う。

 

同じように転移を経験したからこそ、トータスという異世界を知ったからこそ、香織や咲夜は時折考えることがあった。

 

 

────もしかして、鈴のお姉さんもこの世界に転移したのではないか、と。

 

 

◇◆◇

 

 

「ふーん、そういう事があったのか」

 

香織からの話を聞いたハジメは、何処か淡々として聞いていた。元より親しい者以外にはあまり興味を持たないのもあり、あまり覚えていたなかったのだろう。

 

香織からの話を聞いていたもう一人、レオンハルトはへぇと感心したように聞き入っていた。香織はそんなレオンハルトに核心を突くであろう質問を投げかけた。

 

 

「レオンハルトさん………もしかしてだけど、貴方の母親って谷口鐘って人じゃないの?」

 

「?ああ、そうだぜ。俺様の谷口ってネームは母様のものだからな。確か、ショウって名前で間違いないな」

 

 

やっぱり、と疑問が解決したことに香織は喜んでいいのか分からなかった。鈴の姉が失踪したのは、大学一年生の頃である。それから数年経った後に子供が出来ているということは、長い時をこの世界で過ごしたのだろう。

 

 

「その、ショウさんは今何処に…………?」

 

「母様なら死んだぞ。俺様がまだガキの頃に、殺されたっけな」

 

 

あっけらかんと語るレオンハルトに、香織は言葉を詰まらせた。話を聞いたハジメは「だろうな」と納得したように呟く。元より予想はついている。まだ自分達同じくらいの年の子供が他の子供を率いてるなんて、普通の親なら見過ごせないだろう。

 

恐らく平和の街で過ごしているか、既に殺されているかの二つだった。そう簡単に思い当たる時点で異常か、とハジメは密かに自嘲していた。

 

 

「その家族には、まあ悪いな。母様のこと心配してたんだろ?もし会えるんなら、教えてくれるか?」

 

「………会ってどうする気だ?」

 

「返すんだよ、母様を。元の世界に、家族の所に帰りたいって、偶に泣いてたしな」

 

 

そう言って、レオンハルトは小さなボトルを揺らした。何か砂のようなものが入ってるらしいが、中身は聞かずとも分かった。そうか、と短く呟いたハジメはそこだけは嘘をついてないと信じることにした。

 

 

「そういや、お前。この迷宮を攻略しようとしてたんだろ?」

 

「詳しいじゃん。もしかして迷宮にいるからそう思った感じ?」

 

「いや、お前の仲間から聞いた。シーフって奴だ」

 

「シーフ…………成程」

 

 

僅かに頷いたレオンハルトは目を細めて、意味深そうに呟いた。しかしすぐにいつもの様子を取り戻してからは手をヒラヒラとさせて笑う。

 

 

「ああ、そうだ。って言ったら、何が聞きたい?」

 

「一応聞くが、迷宮を攻略する理由は?」

 

「シーフから聞かなかったか?俺様は神代魔法ってか、力が欲しかったのさ。教会の連中に対抗するには、力がなくちゃな」

 

 

肩を竦めるレオンハルトに、ハジメは目を逸らした。しかしそれは気まずいからという理由ではなく香織への意思疎通である。その視線に含まれた意味を感じ取った香織を余所に、ハジメはある疑問を投げ掛けた。

 

 

「お前らはこの迷宮の────『重力魔法』が欲しいのか?」

 

「?ここって『再生魔法』だろ?何処の情報だよ?」

 

「………迷宮を攻略した際の文献で、少し文字化けしてたからどうかと思っててな。再生魔法ってのは、間違いないのか?」

 

「おう。そらそーだろ、俺様は詳しいとこから聞いたし、間違いないと思うぞ」

 

 

そうか、と変わらぬ様子でハジメは静かに頷いた。不思議なこともあるもんだな、とレオンハルトが軽く笑い、世間話を続ける。

 

 

「最初は俺様も仲間と来ていたんだがな。連中に攻撃されて、逸れてしまった。彼奴等のことだ、無事だと思うがな…………」

 

「連中?」

 

「あの厄介な魔物どもだ。わざわざご丁寧に襲ってくれてさ。何が目的なのやら」

 

 

やれやれ、と困ったように溜息を吐くレオンハルトに、ハジメは静かに考え込む。何故わざわざ自分達を襲撃し、レオンハルト達を襲ったのか、その理由に関しては現状から見ても一つの答えしか出ないだろう。

 

 

「奴等の望む力が、この迷宮にあるってことか」

 

「力って、さっき話してた『再生魔法』のこと?」

 

「恐らくそうだろうな。あれだけの端末を用意してる節からして、割と重要なんだろうな。奴等が動く前に、先に攻略しないとな」

 

「う、うん。そうだね!これからは頑張らないと、また無茶をして、足を引っ張るのもヤダからね………」

 

 

たはは、と笑う香織。いつものように張り切ろうとする声とは裏腹に、気力らしきものが感じない。何処か自罰的な、自虐じみた笑みを浮かべる彼女の姿に、ハジメは目を細めて口を開いた。

 

 

「…………ここに来てから、やたら謝ったり、そんな笑みばかり浮かべるな」

 

「おや、突然流れが変わったな?」

 

「えっ………」

 

 

声を詰まらせて戸惑う香織。状況を悟っても尚マイペースに振る舞うレオンハルトを尻目に、ハジメが放った言葉は容赦なく香織の顔を強張らせた。

 

 

「なぁ、香織。お前なんで付いてきたんだ?」

 

「それは…………やっぱり、邪魔ってことかな?」

 

「おーい、俺様居るんだけど。そういう暗い話は辞めてくれるか?っていうか、そんなの答えは決まり切って────」

 

「────ああ、邪魔だな」

 

 

自信満々に振る舞っていたレオンハルトが横転すると同時に、香織はショックを隠しきれずに口を噤んだ。そしてすぐに、レオンハルトが憤慨しながら噛みついてきた。

 

 

「はぁ!?そこは『そうじゃない』とか言うべきだろーが!お前さぁ、ちょっと言い方ってもんを考えてさぁ!」

 

「あの日、月明かりの下でマズイ紅茶を飲みながら話をしたこと、俺は覚えている。だから、正直、()()()に好意を寄せてくれることが不思議でならない」

 

「ハジメくん、私は………」

 

「ちっせー!ちっせー!ちっせーわ!こらモテませんわ!女子相手にこんな詰めるような言い方とか!経験したことないだろなー!」

 

「だがな、俺も否定する気は────さっきからうるさいぞ。黙ってろ、アホみたいに騒ぐことしか脳の無いお前と違って、俺は真剣な話してんだ」

 

「ハッハッハッー!俺様はいつだって、生まれてからずっと真剣に生きてるのさ!そんな話は後に置いといてここは俺様の力の秘密を────あーはいはい黙ります。黙ってりゃいいんだろー?」

 

 

香織に話を続けようとしたハジメはドンナーを構えると苛立ったようにレオンハルトへと罵倒を向ける。そんな彼を前にしても怯まずに高らかと笑っていたレオンハルトだったが、引き金に指を込めたハジメの様子に、溜息を吐いて座り込んだ。

 

責め立てるような視線を無視したハジメは、そのあと香織に厳しい言葉を投げ掛ける。自分に惚れているユエやシア、特にシアはぞんざいな対応にも諦めずに頑張っていた。そして────今の香織が卑屈になって、劣等感に苛まれていることを。

 

 

自分なりに考えて、ハジメは言った。

ユエやシアを自分と比較して卑屈にしかなれないなら、一緒にいないほうがいいと。今は考える時間は必要だが、場合によっては八重樫達のもとに送り返すことも考えている、と。

 

落ち込んで俯いた香織を見て、ハジメは先へ進もうとした所で、深いため息を耳にした。レオンハルトが心底呆れ果てたと言わんばかりに、ハジメを睨んでいたのだ。

 

色々言いたいのは此方だと、ハジメが口を開く前に、レオンハルトが一言。

 

「────四十点」

 

「何だよいきなり」

 

「今の、本気で言ってる?アンタさ、相手は女の子だぜ?もう少し配慮した言い方とか、優しさのある言葉とか思いつかないわけ?」

 

「俺にしては優しめに言ってるつもりだ。このまま続けても、香織のほうが辛いだろ」

 

「二十」

 

 

減点されたな、とハジメは文句を言おうとして押し黙った。思ったよりもレオンハルトは真剣な様子である。有無を言わさぬ鋭い目付きに気圧されたハジメに、レオンハルトは言う。

 

 

「いや、この空気で先行くとかダメだから。座って」

 

「悪いが、時間が無い。お前の無駄なお喋りに付き合う余裕は────」

 

「────座れよ。二度も言わせる気か?」

 

 

ギロリ、とレオンハルトが冷たい瞳を向ける。思わず、ハジメが身を引き締めるほどの覇気であった。喉の奥から出そうになった言葉を飲み込み、座り込んだハジメに対して、レオンハルトは頭を掻く。

 

 

「あのさ、大の男が乙女の恋心にうだうだと抜かすのはシンプルにダサいけどこの際置いとくとしてさ」

 

「…………普通に刺してきたな」

 

「────何で今言うの?」

 

 

レオンハルトが必死に話題を逸らそうとした理由が、それである。道化振る舞いながら彼がそうしたのは、明らかにここでするべき話ではないと判断したからこそ。最初は止めようとしたが、結果は後の祭りである。

 

だからこそ、レオンハルトは割と本気でハジメに説教している。言いたいことは色々あるけど、ここで言うべきではなかったと。

 

 

「他の皆がいないにしても、時と場合ってのがあるでしょ。何でこんな迷宮で、また戦うかもしれない場所で気分下がるようなこと、何で言うわけ?落ち込んだ気の緩みで彼女怪我したらどうするわけ?そういうこと踏まえた上で言ったの?」

 

「…………それは、悪かった」

 

「いや、謝られても困るんだけど。この空気何とかしてくれない?今俺様がすごい居心地悪いんだけど、どうしてくれんの?この空気変えてくれる?笑い飛ばしてくれない?」

 

 

ガン詰めするレオンハルトに、ハジメは兎に角言い訳のしようがなかった。レオンハルトは落ち込んだ様子の香織を一目見ると深い為息を吐いてから、ハジメに向かって切り出した。

 

 

「抱腹絶倒のギャグやるかお花摘んでくるか、選んで」

 

「…………何で俺が。ていうか、俺の場合だとお花摘むとかじゃねぇだろ。そもそも花ねぇしここ」

 

「────俺様の力で頭から生やしたら、抱腹絶倒カナ?」

 

「分かった分かった、離れりゃいいんだろ!?」

 

 

そんなおかしな姿にされるのは御免だ、とその場を離れるハジメ。彼が近くの残骸の陰に消えたのを確認してから、レオンハルトは露骨に嘆息して腰掛ける。

 

 

「全く、言い方や配慮ってものがあるよね。レディ相手に無遠慮でさ」

 

「…………ハジメくんの言う通りだから、仕方ないよ」

 

「────まあ、アイツが厳しく言ったし、俺様は優しめに言うぜ」

 

 

ハジメが語った言葉から、香織とハジメの関係性、今の香織が抱く想いについては理解できた。その上で、レオンハルトは俯いた香織に優しく告げた。

 

 

「誰かの傍にいるのに、資格とか優先順位とかそういうのは必要ねぇと思うぜ」

 

「…………え?」

 

「お前、そういう方に感じてたろ?自分より強い奴等が一緒にて、そいつらより弱い自分が一緒にいていいのかって。もしそうだと思ってんなら、それは間違いだ。誰かと共に生きるのに、この世界で生き抜くのに必要なのは、力だけじゃねぇ────『ここ()』の強さだ」

 

 

自身の胸を指差し、レオンハルトは不敵に笑う。

 

 

「そういう心が、想いがあるなら、いいんだよそれで。後は折れなきゃ、ブレさえしなきゃ、たとえ一度ブレようと立ち上がってやりゃいい。重要なのは、お前自身が何を望んでいるかだ」

 

「私自身が、何を望んでるか………」

 

「周りの奴等が何を言おうが、鼻で笑ってやれ。自分のやりたいことを好き放題してやって、アイツだろうと負かすくらいの気概でやってやれよ。こっちは好きなんだから、死ぬまでついてってやるって」

 

「それって単に我儘なだけだよね………?」

 

「ハッ!自分に正直とも言うが、まあ我儘というのも悪くない!我儘ってのは悪く言われるが、俺様はそう思わんな!」

 

 

マントをたなびかせ、空へと高らかと手を掲げるレオンハルト。鬱屈とした空気が漂うはずの一帯を輝きで照らし出す程の光を放ちながら、レオンハルトは輝きの中で笑う。

 

自身の能力でもたらした閃光は、まるで太陽のソレであった。

 

 

「この世界の神、エヒトってクソ野郎も!教会のボケナスどもも!魔神や大魔王だって、どいつもこいつも自分に正直に暴れてやがんだ!だったら、好きにやっていいじゃないか!理不尽に助け、不平等に救ってやろう!俺様はそうやって生きてやろうと誓ったのさ!自分らしく、俺様らしくな!!」

 

「好きに、自分らしく………」

 

「母様も、俺様にそう教えてくれた!道を過つこと無き限り、俺様の覇道は決して留まることを知らずと!ならばそのように!俺様という存在を、この世界に!神に刻み込んでやろうではないか!()が望む(まま)に!!」

 

 

盛大に声を響かせたレオンハルトは、一呼吸置いて喉を押さえた。流石に声を張り上げすぎたのだろう。しかし、すぐにいつもの調子に戻ったレオンハルトは、香織に目配せした。

 

 

「それとも、お前の想いとやらはあの言葉だけで消える程度の、ちっぽけなもんか?」

 

「っ!違う!そんなこと────!」

 

「なんだ、ちゃんと言えるじゃないか」

 

試すような物言いに反論した香織を、レオンハルトは感心したように見守る。そうして含んだ笑みを浮かべたレオンハルトは続ける。

 

「それと同じことを、アイツに言ってやればいい。アレも、お前の事を割と気に掛けてそうだからな」

 

「そ、そうかな………」

 

「そうかもしれんぞ?今もずっと心配で、コッソリ覗いてるかもな?」

 

 

近くの残骸の影でピクリと揺れたのを、レオンハルトは見過ごしておくことにした。ここで言っても意味はないと思い、敢えて無視したのだ。

 

 

「まあ、アイツの言うことも分からんでもない。そんなウジウジされては居心地も悪いというもの。アイツ一人くらい言い負かすくらいの気概であれ、乙女ならばこそ尚な」

 

「………ありがとう、レオンハルトさん。私、少し気に病み過ぎてた」

 

「仕方あるまいさ。だが、さんと呼ばれるのは性に合わん。本当に礼を言いたいなら、別に呼んでくれ」

 

「うーん、じゃあ…………レオンくん、とか」

 

「────、」

 

 

香織の呼び方に、思わず体を硬直させるレオンハルト。そうした理由は、彼にとって懐かしい家族との記憶を想起させたからである。今は亡き────母との記憶を。

 

『レオン!今日はパパと一緒に勇者ごっこの時間だぞ!』

 

『────レオン、貴方は世界に愛されてるんだよ。きっと貴方も、それが分かるはずだから』

 

「…………あの、やっぱりダメだったかな?」

 

「いや、懐かしい響きだ。許そう────俺様の名は父様と母様から譲り受けた偉大な名。省略されようとも尚、その偉大な後光が損なわれることはないと、改めて理解したのでな」

 

 

そう語らっていた所で、ある程度空気を察知したであろうハジメが物陰から姿を現す。今さっき来たばかりと言わんばかりの態度で、レオンハルトに声を掛ける。

 

 

「────話は終わったか?」

 

「そっちこそ、花は摘んでこれたか?」

 

「今はそういうことにしといてやるよ────香織、お前はそれでいいのか?」

 

片目で見返すハジメ。深くは切り込まない言葉だが、その真意は明白であった。しかし香織はそんなハジメに戸惑うことも狼狽えることもせず、静かに応える。

 

 

「うん、考えたよ。やっぱり私はハジメくんが好き。嫉妬したり、劣等感を覚えることはあるけど、この気持ちだけにはウソはつかない。自分なりの我儘、通させてもらうから」

 

「それはレオンハルトに言われたから、か?」

 

「────レオンくんの言葉もあるけど、決めたのは私だよ」

 

厳し目に問いかけたハジメだったが、それでも香織は退く様子を見せなかった。真剣な眼差しで見つめ返す香織の覚悟を理解したハジメは、困ったように呆れたように複雑な顔で、為息を吐いた。

 

 

「……………そうか。香織がそれでいいなら、俺はこれ以上何も言わない」

 

「うん。いっぱい面倒かけると思うけど、嫌わないでね」

 

「お前さぁ。麗しきレディ相手にそれしか言えないってマジ?こりゃ0点だね、派手に」

 

「今更だろ。っていうか、お前は余計な口出してくるな。レオンハルト、お前がどう思ってるかは勝手だが、香織は割とトラブルメーカーだぞ」

 

「そ、それは酷いよ!」

 

「そうか?学校でも空気読まずに普通に話しかけて来たし、無自覚に言葉の爆弾落とすし、その度に周りの奴らが殺気立つし、香織は気づかないし、深夜に男の部屋へネグリジェ姿でやって来るし…………」

 

「うぅ、あの頃はまだ自覚がなくて、ただ話したくて………部屋に行ったのは、うん、後で気が付いて凄く恥ずかしかったから………」

 

「────マイナス百点」

 

「一気に下回ったなオイ」

 

 

恋する乙女相手にマジかコイツ、とレオンハルトは呆れたように辛口評価を下し、ハジメは苦言を零すしかなかった。しかし頬を赤らめて恥ずかしがる香織を尻目に、ハジメはレオンハルトに告げた。

 

 

「香織の事は、助かった」

 

「────何のことだ?俺様はただ俺様の威光を示しただけに過ぎんさ」

 

「別に、単なる独り言だ。ほら、さっさと先に進むぞ」

 

「全く、素直ではないな」

 

 

肩を竦めるレオンハルトに、ハジメはぶっきらぼうに鼻を鳴らして先導していく。慌てて後を追う香織の後を付いていくレオンハルトは、迷宮の最奥を目指して行くのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

────一方、エリセンにて。

結界に覆われたエリセンの町で、今戦いが始まった。侵攻する魔物、アンチノミーの総軍が海上を進みながら結界を突き破って侵攻を続ける。一枚、また一枚と破壊される防御結界を前に、エリセンの住人達も黙ってはいなかった。

 

 

「慌てるな!一撃離脱で相手を削っていけ!イクス殿の張った結界だ!すぐには破れん!我々海人族には、フリント様から教え賜った槍がある!!一人も死なないように立ち回るのだ!」

 

 

自警団率いる隊長の指示のもと、海という領域にて海人族達は華麗に戦っていく。水中からの強襲によりアンチノミーの数体を槍で仕留め、すぐに海を泳いで離脱する。同族を殺されたアンチノミーはすぐに攻撃に徹するが、ただひたすらヒットアンドアウェイに徹底する人々に圧倒されていく。

 

しかし、やはりアンチノミー。統一された意識の群体の混乱はすぐに収まった。装甲を強化した個体が群体を守るように展開され、残りの群体が結界の破壊を優先して群がっていた。

 

 

海人族達が怒声を上げて槍で突き込んだり、投擲したりするが、アンチノミー達は怯まない。時には同族を盾として、盾になりながら結界の破壊を最優先する。機械的すぎるプログラムに使役された群体は、何枚もの結界を破っていく。

 

 

────そして、ジリ貧な状況に一体のアンチノミーが動いた。軍隊を統括する司令塔、魔神の眷属(アンチノミー・フェイタルオーバー)が。

 

 

「ギギギッ、結界は厄介。なれど所詮は結界、核が無ければ機能せず」

 

 

結界を強引に破って歯車を回す多腕の機械人形────ギアソリッドが這い出る。アンチノミーに攻撃を任せ、結界を無理矢理抉じ開けた眷属は、結界の起点である魔法陣の破壊をすべく、エリセンの町に近付く。

 

心酔するダブリスの為、海を渡るギアソリッドが数メートルの距離まで近付いた瞬間────海が破裂した。

 

 

「────ダブリスの眷属か」

 

 

タンッ、と海に着地したイクスが冷たく、険しい眼差しで敵を見つめる。後少しまで町に迫ろうとした眷属は歯車をガチりと鳴らす。顔の部分にあるコアを光らせながら、眷属はギギギと音を鳴らした。

 

 

「ギギギッ!ギアソリッドは、知り得ている!お前、お前は、滅却師!魔神殺し!偉大なるダブリスを殺し得る、不遜なる魔弾!我は、知っている!お前こそ、脅威。絶対なるダブリスに危害を加えし、消滅の力!」

 

「この町に、エリセンに何を望む?ダブリスの眷属、ここにお前達の求めるものがあるとでも?」

 

「ギギギギッ!知る必要あらず!理解する意味は無き!尖兵は我のみにあらず、既に我が同胞が動いた今!ギアソリッドが為すのは一つのみ!

 

 

 

ダブリスよ!救いを願い、破滅をもたらす我等が神よ!ギアソリッドは今より、御身を殺す魔弾を討ち滅ぼしましょうぞ!」

 

 

話を聞く様子もなければ、話す素振りもないらしい。八本の多腕を展開してクモのように変形したギアソリッドにイクスはサブマシンガンとグレネードランチャーを構え、迎え討つ。

 

そんな彼にも、一つの疑問があった。既に同胞が動いた、それが何を意味するのか、イクスは疑問を払拭して目の前に敵を優先することにした。

 

 

◇◆◇

 

 

「────」

 

とてとて、と海から上がった海人族の少女はキョトンとしたまま立ち尽くしていた。目を見開いた少女は、キョロキョロと周りを見渡すと、その口から不協和音を響かせた。

 

 

「■■■■■────あー、あっあーっ」

 

しかしそれはすぐに、幼さの残った声へと変わる。声の調子を整えたであろう少女は静かに歩きながら近くの建物の影から、町中へと飛び出した。

 

 

「っ!?き、君はどうしてここに!?」

 

「……………」

 

「親御さんと逸れたのか?安心するんだ!すぐに避難所に案内する!」

 

 

対面した海人族の大人、町の中を守る後方で防衛に徹した男は、少女の存在に困惑する。住人は全員避難させたと思っていたからこそ、戸惑ったのは無理もない。少女の手を引いて、大人はすぐに避難所である建物へと連れて行く。

 

────男は、気付かなかった。不安に染まった少女の顔が、不気味に笑ったことを。彼女がそもそも同族では、生物ですらないことを。

 

 

◇◆◇

 

先程と同じような通路を進むハジメ達。通路の先は先程の船の墓場のような広い空間に繋がっているらしい。そうして進んでいると、一際大きな────異質な空間へと出た。

 

 

「空気が、変わった?」

 

「妙だな。ここで一区切りってところか?案外拍子抜け────」

 

 

直後、凄まじい破裂音が響き渡った。ハジメや香織、レオンハルトは咄嗟に身構えるが、自分達が何かをしたわけではないらしい。音はすぐ近くから響いている。

 

 

「────ハジメ、香織」

 

「…………香織、俺から離れるなよ」

 

 

香織を庇うように前に出たハジメとレオンハルト。その後ろに付いた香織の三人はゆっくりと、音の発生源へと歩み寄る。神殿のような建物の前に、ソレはあった。

 

 

「────命令、遂行、実行、作戦、開始中うううううううう、ううううううううううう」

 

 

ガァン!ガァンッ!、と半透明なバリアを突破しようとする奇っ怪な人型。一際大きな義腕を無造作に叩きつけ、片手に握る槍を振るい、言語になってない言葉を繰り返しながら暴れ続けている。人型、レーヴェルノートは半狂乱にこじ開けようとしていた。

 

 

「な、何アレ………?」

 

「アイツ、あの姿は────」

 

「二人とも、気を付けろ────俺様達は、アイツに襲われた。あの化け物どもを従えていた、親玉の一体だ」

 

「ってことは、ダブリスの眷属かよ」

 

 

そうして話していると、香織がハジメの服を掴んだ。何だと目を向けたハジメは、怯えたように硬直する香織の視線の先を見る。すると、先程まで暴れていたはずのレーヴェルノートが停止した。ピタリと動きを止めて、バリアの前で突っ立っている。

 

 

 

────グリンッ、とレーヴェルノートは上半身を回転させる。そして後方にいるハジメ達を凝視して、首をグリンと捻った。それと同時に頭の上に浮かぶ光輪が、ガチガチと組み合わされる。

 

 

「と、とととと、特異点。発見、ダブリスより、命令を待つ」

 

『────統括機構よりダブリスから通達。命令系統を一新、「特異点」の攻撃を許可。可能ならば抹殺を許す、と』

 

「りょ、了かかかかかかかカイ────排除する」

 

 

瞬間、レーヴェルノートの背後から蠢いた尻尾が足元の水面を引き裂きながら迫る。シールドを宝物庫から生成したハジメは、すぐに飛び退いた。レーヴェルノートの放った尻尾はシールドを意図も容易く貫通したのだ。

 

まさしく槍に等しい貫通力であった。舌打ちをしながらハジメ、ドンナーからの弾丸を尻尾へと叩き込む。ワイヤーのような黒い導線は弾丸を受けても千切れはしなかった。

 

 

「っ!なんて硬さだよ!」

 

「ハジメくん!」

 

そのまま軌道を変えて貫こうとした尻尾が、光の弾幕を浴びて弾かれる。香織の援護であることに気付いたハジメは咄嗟に距離を取り、彼女の隣に着地する。

 

 

「悪い、助かった」

 

「ハジメくん!あんまり………無茶はしないでねミュウちゃんを泣かせたら怒られるから!」

 

「分かってる」

 

「────み、ュう?」

 

 

ピタリと、レーヴェルノートが動きを止めた。思わずハジメや香織も、そんなレーヴェルノートの変化に困惑する。ソレが名前に反応したかのように聞こえたのだ。

 

それが気の所為ではないと、ハジメ達はすぐに知ることになる。

 

 

「ミゅウ、ミュウ────れ、レミあ…………」

 

「おい、お前────何で、その名前を」

 

「そう、Da………約束────帰ると、生きテ帰ru、ト………帰、ル────生きて、二人の元he、エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!???!!」

 

 

理解不能な言語を発しながら、そのまま飛び掛かってくるレーヴェルノート。身構えたハジメ達の背後、さっきまでレーヴェルノートの攻撃を受けていた通路に組み込まれた宝玉が光った、その瞬間。

 

────周囲の水が、凄まじい勢いで噴き出し、そのままレーヴェルノートに降り注いだ。凄まじい勢いで叩きつけられた水の嵐に、レーヴェルノートは予想以上のダメージを負ったらしい。しかしすぐに再起動した。全身の装甲に傷を負いながらも、無理矢理立ち上がったのだ。

 

 

「────ガガガガががガガがガガガガがガガッッ」

 

しかし、その足元の水面が割れる。モーゼの海割りのように開いた空間に落とされたレーヴェルノートは抵抗の余地もなく、奈落の中へと落ちる。

 

 

「な、何が起きた………?」

 

「助けられた、みたいだな」

 

「ハジメくん、レオンくん────アレ見て」

 

さっきまで張られていたはずのバリアが消え去り、その先の通路がその場に出来ていた。しかし、その道を通る前に淡い光の球体が浮かんでいた。

 

ソレはハジメ達が近付くのを待っているかのように、空中に漂っていた。何が何だか分からずにいるハジメだったが、二人と目配せをする。どうするか、という問いであった。

 

 

「このまま黙ってるわけにもいかないだろ。またアイツが現れるとも限りならない。先に進めるなら進むべきだ」

 

「私も…………気になることはあるけど、まずは神代魔法を手に入れないと」

 

「────分かった。じゃあ、触れるぞ」

 

 

そうして歩み寄り、光の玉に触れる。指先で接触したその瞬間、何らかの力が作用したかのように周囲の世界が変化する。まるで今あるものが巻き戻るような、不思議な現象に包まれた三人を待っていたのは────ある、記憶だった。

 

 

────青く広がる海の前に立つ、一人の青年。白く透き通った髪に、翡翠に染まる瞳で辺りを優しく見つめる青年。彼は荘厳なまでの威圧感を伴う槍を手に、美しい景色に見惚れるように立ち尽くしていた。

 

 

『────あなた、今日も海を見ているの?』

 

『ああ、ボクの故郷には無かった。前まではあったみたいだけれど』

 

そんな青年は、隣に現れた誰かと会話していた。声からして女性だろうか、見覚えがあると思い、目を凝らすハジメと香織の前で、その姿が顕になった。

 

 

『今でも、こんな生活している自分に戸惑っている』

 

『あら?私と一緒では満足できない?』

 

『からかわないでくれ────いいや、幸せさ。幸せだからこそ、また失うのではないかと思ってしまう自分がいる』

 

 

隣に立つ女性の姿に、ハジメと香織は愕然とする。その人物が誰だか分からないレオンハルトも含めた三人は、次の会話に聞こえた名前に、今度こそ息を呑むのだった。

 

 

『────安心してくれ。今度は守ってみせるさ、君と、新たに生まれる家族も。そう約束したからね、レミア』

 

『疑ってないわ。私だって、ちゃんと信じてるから────フリント』

 

 

ある記憶を見送る三人の前で青年 フリントは、優しい笑顔でレミアの頬を撫でた。心からの笑みを浮かべるレミアとの光景を見た彼等は、さらなる記憶の追想を見ることになる。

 

とある一人の英雄の誕生と────壮絶な死と、現在を。

 

 

 

◇◆◇

 

────海底遺跡のある場所。

 

 

「────が、ガガガがッ」

 

奈落に落とされたレーヴェルノートは、その場所で蠢いていた。水流の攻撃と高所からの落下を受けても、ダメージは残ってない。恐らく自己再生を終えたのであろうレーヴェルノートは立ち上がり、停止していた。

 

 

『此方、レーヴェルノートを確認。命令を求む』

 

『異常発生、レーヴェルノートへの命令が確認されず。「光輪(ハイロゥ)」の異常確認を求む』

 

『了解、これよりレーヴェルノートの不調を確認する』

 

 

ワラワラと通路の隙間から出てきたのは、アンチノミーの大群。無数のアンチノミーが集まる中、レーヴェルノートへと乗りかかったアンチノミーの一体が、レーヴェルノートの変化を認識する。

 

 

『統括機構へ報告、レーヴェルノートの「光輪(ハイロゥ)」の欠損を確認。制御プログラムの一部機構が機能せず。危険性を認知し、即時回収────を』

 

「────ころ、ス」

 

 

次の瞬間、突然起動したレーヴェルノートが槍を勢いよく振り払う。ソレは周辺にいたアンチノミーを真っ二つに切断し、消滅させるほどの破壊力を伴っていた。

 

 

『統括機構へ報告、レーヴェルノートが暴走。至急プログラムの強制執行────ガ』

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス────殺シ、コロして、殺す。殺シ尽くす」

 

 

ギギギ、と首を震わせながらレーヴェルノートはその場にいるアンチノミーを殲滅し尽くした。それでも尚、レーヴェルノートは止まることなく、歩みを進める。一心不乱に、何かを探すように、制御を失った兵器は、錯乱したように暴れ回った。

 

 

 

「帰る、生きて、帰ル────みュう、れミあ────生きテ、約束、守る、殺ス守るルルルルルルルルルルルル、殺ス殺す殺ス殺す殺シ殺シコロして殺して殺して殺して殺しテ殺シて殺してテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテ」

 




以上、レオンハルトなりの助言とエリセンの町を襲撃する眷属、レーヴェルノートの暴走です。

レオンハルトの母である谷口鐘は鈴の姉で、大学生でした。どういうわけか忽然と姿を消して、トータスに転移していたみたいです。理由はまぁ、エヒトが関わってるとだけ(爆弾投下)

その後、出会った男と良好に付き合えて子供が出来たのは幸せでしたけど…………まあ花の大学生が生活を奪われた挙句家族と離れ離れなのは酷い話には変わりないし、結果的に殺されてるのだけれど。

そして、レーヴェルノートの正体の踏み込む事実にハジメが気付きました。まあ、ダブリスの眷属がミュウやレミアの名前をしきりに唱えているのは、異常ですしね。

当のレーヴェルノートは迷宮に組み込まれていた防衛機構によって受けた反撃で正気を失い、同族であるアンチノミーを殺して回るほど暴走しています。

次回、ある一人の英雄の過去(前編)とある青年の過去、です。お気に入りや高評価、感想などよろしくお願いします!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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