ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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海底の激戦

一方、海底遺跡の外に待機していた弩級潜水母艦ディープ-Abyss01。アンチノミーの生産を続ける巨大戦艦は、迷宮の異変による新たなる命令を受けていた。

 

 

『────統括機構より通達。緊急事態発生、レーヴェルノート暴走。迷宮内のアンチノミーが暴走を受け、減少。新たな増産を要請』

 

『Abyss01より受諾。生産速度を上昇、至急アンチノミーの大量生産を開始──────』

 

 

直後、ディープ-Abyss01の側面に何かが命中した。船体が大きく揺れる。ソレは、生産されていた数百体のアンチノミーを消し飛ばす程の、強力な熱線であった。

 

 

『Abyss01より確認────敵性因子の強襲を確認。敵性────観測完了』

 

 

「────命中!少しは効いたかの!」

 

「ティオ!まだよ!兎に角撃ち続けて!」

 

 

水中を飛翔するような影こそ、竜化したティオが口内に蓄積させた魔力を熱線として放つ。ソレを観測しながら生産中であって動けないAbyss01は疑問を生じさせていた。

 

 

『理解不能。何故、水中で竜化出来ている?竜人族の竜化は地上でしか出来ないはず。水中にも関わらず、活動が出来ている?』

 

「────こうしてると、不思議な感覚じゃの。ソーナ、お主の力は」

 

「まぁね、お陰でティオも本気でやれるでしょ?」

 

 

その疑問の答えは、ソーナの魔力にあった。

スティシア王家の王女であり、水神との謁見を経て神の力を共に継承したソーナは完全な水を操る力を手に入れた。

 

その力によってソーナはティオと自分自身に魔力を付与した。水神の魔力、そのお陰で二人は水中でも呼吸が出来る。何より二人の魔力は海という空間に遮られることなく、普通に戦うことも出来るのだ。

 

 

『────全躯体損傷率、76%────演算完了、脅威度更新。敵性対象の脅威度をAランクに繰り上げ』

 

「っ!ティオ!何かしてくるかも!」

 

「任せよ!」

 

 

何度もティオのブレスを受けたことで、Abyss01はその全身を大きく動かす。変化に気付いたソーナの叫びに応じたティオは渾身の魔力を込めたブレスを熱線として解き放つ。

 

その瞬間────Abyss01の中枢が、妖しく光り輝いた。

 

 

『────増設母艦ユニット、強制パージ。強襲潜水艦ディープ-Abyss01。これより敵性対象の優先排除を遂行する』

 

 

それと同時に、巨大な潜水母艦に熱線が命中する。ソレは今までの攻撃も合わせて致命傷となったのか、ディープ-Abyss01は水中で勢いよく爆裂した。

 

 

「や、やった?」

 

「────いいや!まだじゃ!ソーナ、掴まれ!」

 

 

ティオの迫真の声と共に、竜化した彼女はすぐさま後ろへと下がる。直後、さっきまでいた場所に無数の深紅の閃光が突き抜けた。凄まじい速度で海中を飛翔するティオの上で、ソーナはソレを見た。

 

 

『…………攻撃、不発。再度反物質粒子弾装填、一斉掃射────開始する』

 

サメを模したような形状の、潜水艦。左右に増設されたアームズユニットを展開し、内蔵された砲台から深紅の閃光を解き放つ。その光の雨を掻い潜りながら、ティオは驚きのままに叫ぶしかなかった。

 

 

「うおおおおっ!?なんじゃアレは!一体何時から現れた!?」

 

「違うわ!ティオ!あの巨大なヤツよ、アレがさっきのデカブツの本体なの!」

 

 

そんなティオに、ソーナは叫び返す。

彼女は一早く気付いていた、ティオの最後の攻撃で爆裂したディープ-Abyss01────その中から飛び出した影の存在を。ソレが、あの小型潜水艦である。

 

 

「ええい!まだ生き残っていたとは!ならば倒せるまで、もう一度攻撃するまで!」

 

 

敵であることは明白である以上、攻撃以外の選択肢はない。そう決断したティオは再度熱線を放つが、今度は直撃すらしなかった。小型潜水艦は後部のブースターを加速させ、凄まじい勢いで海を通過していく。

 

 

「っ!?なんて速さじゃ!?捉えきれん!」

 

「ティオ!撃ち続けて!────ここは私が!」

 

 

ティオのブレスを掻い潜り続けるAbyss01を抑えようと、ソーナが周囲の水を操る。触手のように手繰り、Abyss01の動きを抑え込もうとするが、Abyss01は臆することなく平然と動き回っていく。

 

操られる水の力を掻い潜りながら、Abyss01は反撃を伺っていた。

 

 

『戦術演算…………完了。有効武装、アリミテールを使用』

 

 

胴体をバックリと開いたAbyss01は内蔵していた砲身を展開し、一気に放射。放たれるのは魔力でもなく────極めて音圧を高めて超音波であった。

 

地上であれば、ただ相手に不快感をもたらすだけの代物。しかし、海戦用のAbyss01に搭載されたその兵装は、海中で最も効果を発揮するものであった。

 

 

「あ、あああああ────ッ!!?」

 

「ぐ、ぐぅっ!?」

 

 

水中にいる二人、ソーナとティオへの超音波は強烈なものであり、竜化したティオはまだ耐えられるものであったが、ソーナが耳を抑えて苦しみ呻いた。

 

水によって反響した音波は、鼓膜に伝わった時には圧倒的な破壊力を有する精神攻撃となる。竜化した故に肉体が人間離れに頑強なティオはまだ不快感を感じる程度の嫌がらせでしかないが、生身であるソーナにとって、鼓膜や粘膜越しに伝わる超音波は不快なんてものではなかった。

 

 

(────魔力を、維持しなきゃ!集中できなきゃ、ティオが戦えなくなっちゃう────っ!)

 

聴覚を狂わせる音波に、ソーナは必死に意識を保っていた。ティオがここまで戦えるのは、ソーナの魔力で水中でも呼吸が出来るようにしているからであり、魔力を使えなくなればティオはマトモに動けなくなってしまう。

 

その思考が、焦りが、魔力を維持しようとする彼女の意識が、目の前の敵から逸れた。僅か数秒、逸れてしまった。

 

 

「────ソーナぁッ!!」

 

『反物質粒子弾装填────掃射』

 

 

直後、Abyss01から放たれた深紅の閃光が殺到する。ソレがティオではなく、意識の取られていたソーナに向けたものであると気付いたディオの絶叫も虚しく、降り注ぐ光の雨は容赦なく撃ち抜く。

 

反物質のエネルギーの弾丸は、水の王女を撃ち抜いていた。周囲の水を血で濡らし、ソーナは悲鳴を飲み込んだ。黒竜の背の鱗を掴んだ彼女は必死に痛みを堪えているのが明白だった。

 

 

「ソーナ!?何処をやられた!?」

 

「右足の太腿と、左肩……………あ、はは………本当に、痛い────ジンはずっと、こんなに無茶してたの………?」

 

 

少なくとも、致命傷は避けられた。

そう笑うソーナであったが、ティオはその様子や発言から彼女がここまでの負傷をしたのは初めてであると理解した。

 

 

「ソーナ、今は退くぞ。あれだけの武装と機動力のある相手では、流石にジリ貧になってしまう」

 

「────どうにか出来るなら、いいのよね?」

 

彼女を案じて退くことを提案したティオであったが、ソーナは逆の方向性で考えていた。一つの決意と覚悟を秘める瞳を浮かべた王女は、仲間であるティオへ語り掛ける。

 

 

「お願い、ティオ。時間を稼いで、そしたら────私が何とかするから」

 

「ソーナ…………いや、言うのは野暮じゃな。任された」

 

 

その覚悟に満ちた視線を受け、ティオは言わんとした言葉を飲み込んだ。黒竜の背から離れたソーナを一瞥し、すぐに水中を飛翔していく。Abyss01は放たれる熱線を回避しながら、ティオへの追撃を始めていく。

 

一人、水中に取り残されたソーナはその場に留まり、自らの中に眠る魔力────あの時の戦いに継承した力に干渉した。

 

 

「────女神様、フローネヴェーテ様。もう一度私にあの時の力を、ジンと一緒に戦える力をください」

 

 

◇◆◇

 

激戦は、もう一つの場所でもあった。迷宮の深部の一箇所。一際大きく生成された空間の中でハジメと香織は、少しまで同行していたレオンハルトと激戦を繰り広げていた。

 

 

「ハジメ、香織。お前等の特徴、共通点教えてやろーか?」

 

「────ッ!」

 

「正解は…………遠距離手段の多さ」

 

 

ドパンッ!と放たれる銃弾はレオンハルトには届かない。足元の地面が分解と再構築を行い、防壁を生成する。ドンナーの射撃を防いだその瞬間、即座に壁を破壊し、その際に生じた破片を散弾として射出するレオンハルト。

 

香織を抱き抱えながら、ハジメは足元の壁を錬成して防壁として防ぎ切る。後手に回っているようで癪だったが、それ以外に最適な手段はなかった。

 

 

「そしてぇ、遠距離に回るヤツほど」

 

「ッ!コイツ、わざと防がせ────ッ!?」

 

「近距離への対応が遅れるってなぁ!!」

 

 

────ハジメが形成した防壁が砕け散り、そこからレオンハルトが飛び込む。咄嗟にドンナーに『風爪』を纏わせ、斬りつける。レオンハルトは右腕を瞬時に金属の鎧に硬化させ、風爪の刃を受け切った。

 

 

「殺す気じゃねーの。怖ぇーぜ、流石に………だが得物は、貰ったぜ」

 

「…………チッ」

 

 

地面に転がり、軽快に笑うレオンハルトの態度とは裏腹に、ハジメは舌打ちを零していた。理由は明白、彼の手にしていたドンナーがヒビを立てて壊れたからである。それもこれも、レオンハルトの能力によるもの。

 

 

「触れただけで終わりかよ。厄介な力だな」

 

「────俺様の両親から継承した、『黒い太陽と白い月(ブレイクダウン・クリエメイト)』。黒い太陽の刻印は破壊と分解、白い月の刻印は創造と構築。この力のせいで教会の奴等から狙われたが、悪い力じゃないぜ」

 

「狙われた、ね。そのせいで教会の奴等に追われたか、同情する」

 

「おいおい、心にもねぇこと言う必要はねぇんだぜ?」

 

「それ自体、失礼じゃねぇ────かっ!」

 

 

胴体で隠すように構えたガトリングガン、メツェライの引き金を引き、弾丸の雨を放つ。それに応じるように自らの左腕を分解、再構築させたレオンハルトは同じように機関銃へと変形した腕を構え、メツェライの掃射に撃ち返した。

 

 

(やっぱり、アイツの動きは単調だな)

 

(ハジメくん、どういうこと?)

 

(奴が発動する能力は、両腕ごとに分かれている。能力の発動条件は、やはり掌の刻印か)

 

 

レオンハルトが対象を破壊する際、もしくは武装化する際には左手を使い、創造物を作り出す際、左腕を武器化する際には右手を使用している。彼の能力からみても、使い分けしているのは明らかだ。

 

 

(じゃあ、私が何とか近付いてみる。だから、ハジメくんは引き付けてくれない?)

 

(…………いいのか?)

 

(レオンくんが警戒してるのはハジメくんだけのはず。だから私が距離を詰めれば、不意を突けると思うの)

 

「コソコソと!何を話してるのか、なぁ!!」

 

 

弾丸の雨を撃ち続けていたハジメに、レオンは左腕を更に変形させて巨大な砲身を展開する。撃ち出された熱量を伴う砲弾はメツェライの弾丸の嵐を消し飛ばし、回避したハジメ達を襲う程の爆風を巻き起こした。

 

 

「来い!レオンハルト!」

 

「ハッ!挑発かよ!いいぜ、乗ってやる!!」

 

 

クロスビットを動かし、共に砲撃を開始するハジメにレオンハルトは弾丸の雨を避けながら自らの左腕を砲身から鉄球へと変化させる。鉄球から伸びる鎖を振り回し周囲一帯を破壊して回りながら、彼はハジメへと肉薄しようと試みていた。

 

そんな最中、瓦礫の陰に隠れながら香織は機会を伺う。レオンハルトがハジメに距離を詰め、そのまま追い詰めようとしたその瞬間、好機であった。

 

 

「────『飛流星(シューティング・スター)』!」

 

「っ!後ろか!」

 

 

簡易転移を利用した、高速移動の魔法。飛び交う瓦礫や残骸の破片を通過していき、反射した光のような移動を実現した香織はそのままレオンハルトの元へと迫る。

 

ハジメへの攻撃の為に左腕を巨大な砲身へと変形させていたレオンハルトはそのまま砲身ごと叩きつけようとして、香織が生成した魔力剣『星剣(ルミナス)』によって斬り裂き返した。

 

────左手は、破壊を伴う攻撃は無効化した。そう確信した香織は掌に魔力を込める。この一撃を叩き込めば、レオンハルトを無力化出来る。

 

 

「これで!終わりだよ!レオンくん!」

 

「────待て!香織!」

 

「ああ、終わりかな」

 

直後、レオンハルトが零した不敵な笑みに気付いたハジメが血相を変えて叫び、レオンハルトが右手を振るう。再構築と想像を伴う白い月の刻印を刻んだはずの右手の掌を見て、香織は絶句した。

 

 

「黒い、太陽………っ!?」

 

「ダメだぜ?相手の企みに引っかかっちゃあ────『衝撃破壊(ヴェイゼ)』!」

 

「ッ!?『星光壁(プラネタリウム)』!」

 

 

すぐさま防御結界を張った香織の眼前で、空間がひび割れる。それと同時に放たれるは、破壊によって生じたエネルギー波。至近距離もあり、バリアを破られた香織は衝撃波に当てられて吹き飛ばされる。

 

地面に叩きつけられるはずの香織を受け止めたハジメは一息ついたのも束の間、苦々しい顔でレオンハルトを睨み付けた。

 

 

「成程、左手と右手の刻印ってのは…………最初から嘘かよ」

 

「俺様の能力はそんなに単純じゃあ無いんだぜ?刻印自体は自由自在────────こんな風にな」

 

 

そう言ってレオンハルトは自らの両手に別々の刻印を展開したかと思えば、その掌で自分自身に触れた。それが何を意味するのか、二人には考えも付かなかったが────すぐに現実として、答えが出た。

 

 

直後、吹き荒れる砂塵と共に人影が起き上がる。しかし煙の向こうではその影が異様な変化を遂げていた。バキバキ、ガキンゴキンと全身が膨張と圧縮を繰り返しているように見える。

 

そして凄まじい勢いで煙を振り払い、ソレは姿を現した。

 

 

「は、ハジメくん………!」

 

「気を付けろ、香織────野郎、『変身』しやがった」

 

「────正確には、作り替えたと言って欲しいな」

 

 

全身が金属で覆われた、人型。鎧に包まれた見た目のソレは、レオンハルトと同じ声を発していた。見た目からして非常に頑丈な造形をしたその姿は、鎧そのものが動いてるかのように思える。

 

 

「ペースを上げろよ、二人とも」

 

「っ!」

 

「俺様はこの迷宮を破壊するまで止まらんぞ?神代魔法を手に入れたくば、この俺様を殺してでも倒さねば、なぁ!!」

 

 

◇◆◇

 

────その一方、迷宮の深部にて。

瓦礫の広がる一帯にて刃達は激戦を繰り広げていた。ダブリスの端末、かつての英雄の残骸たるレーヴェルノートと。

 

 

「────オオオオオオオオオオッ!!!」

 

「────────!」

 

 

無数の剣を生成し、両手で構えたフェンリルを振るい斬り込む刃。レーヴェルノートは金属の左腕を振り回し、飛来する魔剣を弾き飛ばす。そして片手で振るった槍でフェンリルの斬撃を受け止め、そのまま吹き飛ばした。

 

吹き飛ぶされる刃に追撃を叩き込もうとしたレーヴェルノートのであったが、挟み込むように迫る斬撃を右腕の槍と尻尾の刃で受け止めた。

 

 

「ふむ、これでも止めるか」

 

「チッ!どんな反射神経してやがる!」

 

 

居合による抜刀を放ったコガラシは感心し、双剣による攻撃を止められたヴェルヌーイは苛立ち混じりに吐き捨てる。だが、動きは止めた。その隙を狙い、シノがレーヴェルノートの懐へと潜り込み、喉元にナイフを突き立てる。

 

ザクッ、と刃物は首を貫いた。感触と手応えはあった。しかしレーヴェルノートは一切止まる様子を見せず、コガラシとヴェルヌーイを吹き飛ばしながら、シノの首を掴んだ。

 

 

「っ、!?────ぐ、ぅ」

 

「■■■■、■■■■■っ」

 

喉を潰された影響か、理解不能な言語を放ちながら肉体を修復するレーヴェルノート。首を圧迫してシノの抑え込み、掌に光を収束させる。例の光線を放とうとした瞬間、ガクンとレーヴェルノートの動きが止まった。

 

 

「シノを────離せッ!」

 

 

刃の飛ばした魔剣が、左腕の関節部に突き刺さっていたのだ。それを無理矢理引き抜こうとしているレーヴェルノートから力が抜け、シノは即座に拘束から抜け出す。そのまま尻尾の刃を飛ばそうとしたレーヴェルノートへ、攻撃は続く。

 

 

「させるか、ですぅっ!!」

 

 

大型ハンマードリュッケンを振り上げ、そのまま叩きつけるシア。鍛え抜かれた身体能力によって振るわれるハンマーは質量兵器の域を超えており、辺り一帯の地盤を破壊する程の威力を誇る。

 

しかし、振るわれたハンマーに握るシアの顔が強張る。ドリュッケンの下に叩きつけたレーヴェルノートはまだ動いていた。それどころか片腕でハンマーを受け止めるその姿には余力がまだ残っているように見られる。

 

 

「────シア、避けて」

 

 

その一言と共に、放たれるは雷撃の龍。即座にハンマーごと下がったシアの目の前で、立ち上がるレーヴェルノート。見事に雷撃が直撃し、辺り一帯が焼き尽くされる。

 

周囲に舞う煙を見据えた刃とユエは、ほぼ同時に顔を顰めた。

 

 

「………効いてない」

 

「魔神の眷属、やはり普通の魔法じゃどうしようもねえか」

 

 

人形のように立ち上がったレーヴェルノートはダメージを受けてるように感じられない。やはり魔神の眷属には、並大抵の魔法ではダメージにならないのだろう。ならば、刃に出せる選択肢は一つ。

 

 

「最大火力で────ブチ抜いてやるッ」

 

 

発動するは、『神魔装剣(デウス・グラディウス)』。三神の力を秘める腕と同化した神剣の帯びる魔力は絶大であり、より巨大に肩にまで神力による装甲が展開されていた。ソレの力を本能で感じ取ったのかレーヴェルノートは身構えながらも、此方への攻撃態勢へ動く。

 

 

「おぉらァ!!」

 

振るわれた魔力の刃は、辺りの地面ごと空間を裁断する。レーヴェルノートはそれを掻い潜り刃の方へ距離を詰めていく。クルリと刃先の向きを変え、横へ一気に振り払う。

 

それを回避するべく、空中に跳んだレーヴェルノートへ刃は『神魔装剣』の展開する魔力剣を納め、代わりに刀身から魔力砲を上空目掛けて放つ。

 

通常より威力を抑え、連射性に長けた魔力の砲弾にレーヴェルノートは回避も間に合わず、撃墜される。そのまま地面に落下したレーヴェルノートへ刃はチャージによる最大火力の魔力砲を構えた。

 

 

「最大、出力ッ」

 

 

砲撃が来ることに気付いたレーヴェルノートが距離を取ろうとするが、それを許さない者が一人。レーヴェルノートの意識外から、彼女は動いた。

 

 

「────させない」

 

ユエの放つ重力魔法。その中でも単純かつ強力な重力攻撃が、レーヴェルノートを地面へと叩きつけた。針に縫い止められた虫のように必死に藻掻くレーヴェルノート。何より恐ろしいのは、ユエの扱う重力魔法を力尽くで抜け出そうとしていること、それが出来るほどの力を有している事である。

 

 

「助かったぜ、ユエ!吹き飛べ────ッ!」

 

 

最大出力の、魔力の砲撃。

今まで以上の威力を誇る魔力の閃光が空を焼き尽くし、レーヴェルノートへ放たれた。炎神の力を継承したことにより魔力消費と出力を限界まで引き上げたその閃光は周囲の物体を消し飛ばしながら、撃ち出されたのだった。

 

 

「うわぁ〜、相変わらずとんでもない威力ですね。前よりも、規格外って感じですぅ」

 

「いいや、仕留め損なった────だが、ある程度は当てられた」

 

 

刃の視線の先では、魔力砲を避けたレーヴェルノートが着地していた。しかし彼の言葉の通り完全に回避しきれなかったのか。全身の装甲が焼き焦がされており、機械の左腕が煙を吐いて垂れていた。

 

このまま押せばいける、そう誰かが思っていた。その時、レーヴェルノートの方に大きな変化が起きた。頭の上に浮かぶ光輪が、カチカチと音を立てて組み変わったのだ。

 

 

「ギギギ、ギギギギギ────ッ」

 

「っ、何をする気だ?」

 

「ミゅ、ウ………レ、みあ、家族ノ────ダブリスの、為二」

 

 

ブチブチブチッ、と。

首を振り回したレーヴェルノートは狂乱したように機能しなくなったため左腕を掴み、肩から引きちぎる。機械の腕をそのまま砕き、その場に部品を転がす。

 

それだけでは終わらず、レーヴェルノートの全身の装甲が火花を散らしていく。焼かれた金属の板が地面に落ち、内側の姿────かつての英雄の残骸が、姿を現した。

 

 

「アンタ────やっぱり」

 

 

顔を覆うフェイスカバー以外の装甲を失い、レーヴェルノートは健在である右腕で槍を握り直す。背中の尻尾をきしらせながら、立ち上がるその姿はやはり────エリセンの英雄(フリント)と同じであった。

 

そして、槍を地面に当ててレーヴェルノートが前足を静かに押し出す。その動きを、構えを見た瞬間、刃は誰よりも速く叫んでいた。

 

 

 

「────下がれッ!!」

 

 

彼が叫んだ時には、レーヴェルノートの姿は全員の視界から消えていた。それが跳躍、地面を蹴ったのだと気付いた時────唐突に背後を守るように『聖絶』を発動したユエは、目の前の障壁に生じる斬撃を見る。

 

そして、コガラシとヴェルヌーイは吹き飛ばされた。音速で迫る槍撃に防御は間に合ったが、完全には防ぎ切れなかったのだ。

 

そして、シノを庇った刃は────片腕を斬り飛ばされた。何が起きたのか、一瞬のこと過ぎて分からなかった。だが、それが攻撃であることを、レーヴェルノートの攻撃であることは分かった。

 

 

「────ッ!」

 

「主様!」

 

「平気だ、治せる────シア!見えたか!?」

 

「は、はい!間違いなく、レーヴェルノートです!」

 

「────やはり!」

 

 

最適であり、最悪の答えであった。

アレはレーヴェルノートの、素体となった英雄の本来の力を利用したものだ。教会の率いる艦隊を沈め、数万の魔物を屠り尽くした英雄の身体能力を完全に活かしたもの。

 

 

「動ける全員!遠距離から戦え!ヤツの注意は俺が引くッ!!」

 

(最悪だ!何が追い詰めた、だ!まださっきの方がやれた!さっきの状態で、一撃で倒すべきだった!!)

 

 

前へと飛び出し、攻撃を繰り出す。足を止め、沈黙したレーヴェルノートは無数に降り注ぐ剣の雨に、身体を揺らすだけで再び姿を消す。

 

眼に魔力を集中させ、『天眼』を発動する。魔力を帯びたことにより光を伴う双眼で見えたのは、凄まじい速度で辺り一帯を斬り刻みながら動き回っているレーヴェルノートであった。

 

飛来する無数の魔剣を突き抜けながら迫るレーヴェルノートに、刃は最大火力の魔力を高めた神魔装剣を解き放つ。巨大化した魔力の刃が放たれる、よりも速く────その軌道に滑り込んだレーヴェルノートの魔槍が刃の腕を再び抉り抜いた。

 

 

「ちっ、くしょう!」

 

「刃────捉えるっ!」

 

 

血を噴いて膝を付いた刃に追撃を繰り出すレーヴェルノートへ、ユエが妨害するように魔法を発動した。空間魔法による、指定した領域内の対象を捕縛し追放する魔法。しかし、レーヴェルノートはその魔法の発動を感知した途端、すぐさまその領域から離れる。

 

その速度は音速に匹敵し、普通では捉えきれない速度を発揮していた。連撃で捉えようとしたユエであったが、空気を斬り裂き迫るソレを防ごうとするが────間に合わなかった。

 

 

レーヴェルノートに唯一健在である武装、テールエッジが牙を剥く。ゾバッ!!と地面を引き裂きながら迫ったソレは魔法を発動しようとしたユエの腕を、引き裂く。容赦なく、一方的に。

 

 

「くうううっ!!」

 

「ユエさん!」

 

「ぐッ、があああアアアアアアアッッ!!!!」

 

 

即座に全身の傷を再生させた刃の怒号と共に、剣の嵐が巻き荒れる。一塊となって降り注ぐ剣の滂沱を回避し、レーヴェルノートは標的を刃へと定めた。

 

 

「来いよ!クソが!テメェの相手はこの俺だァ!!」

 

 

少しでもレーヴェルノートの意識を此方に向けさせる為に、刃は血反吐を吐きながら咆えた。神魔装剣の大振りでは当てられないのは分かっている。だがそれでも、レーヴェルノートに通じる攻撃はこれしかない。

 

自分を巻き込んででも、倒させる。それ以外は頭になかった。何が何でも動きを止めようと、死んででも止めようとした、その時であった。

 

 

────レーヴェルノートの全身が停止した。理由は明白である。手足や胴体、首に至る所にワイヤーが伸びていたのだ。空気中に溶け込むように透明な鋼線、速度のまま突っ込んできたレーヴェルノートを捉える罠が。

 

 

「し、シノ………?」

 

「主様、魔力を高めて。私が、時間を稼いでみせる」

 

「っ!無茶だ!止めろ!俺が、俺が相手をする!お前が無理をする必要なんかない!下がれ!!」

 

「────■■■■■ッ!!!」

 

 

ワイヤーに縛り付けられたレーヴェルノートは凄まじい力で暴れ回る。その反動は鋼線越しにシノへと届き、鋼線を手繰る彼女の指と手を裂いて、血を滲ませる。

 

 

「────いや!」

 

「シノ!」

 

「もう、誰も………失いたくない!主様だけに、背負わせたくない!ラナールみたいに、死なせたくない!主様を守るためなら、私は!!」

 

 

再生が追い付かない傷を負った刃は、すぐにでも再生して止めようと考えていた。だが、それよりも早く、彼は気付いた。

 

鋼糸によって捕らえられたレーヴェルノート。しかし、唯一健在であるテールエッジ。それが持ち上がったかと思えば、狙いを構えていた。糸を操り本体を捉えるシノを殺さんと、尻尾が音を立てて突き出された。

 

 

「っ!やめろおおおおおおおおッ!!」

 

(嫌だ、もう────仲間を、失うのは)

 

 

片腕に同化した『神魔装剣』を持ち上げ、刃は叫ぶ。もう二度と、失わせないと誓ったはずだ。共に来てくれた仲間を、共に戦ってくれる仲間を。自分の弱さで、無力さで失ってはならないと。

 

 

────速く、あれ。仲間に届く刃を、防げる程に

 

 

停滞する、遅くなる世界の中で刃は自らの力を感じ取る。剣を操るこの力であれば、可能であるはずだ。自らの望む、創造する武器へと、剣への変形を。

 

 

『お前の名は、刃。我が白銀にも至らぬ、欠陥の刃。剣ですらない、刃物程度だ』

 

(ああ、そうだ。アンタの言う通りだ。クソ親父────アイツらを護れるなら、俺は刃でいい)

 

 

想像し、実現しろ。

己の力を、能力を。不可能ではないはずだ、ずっとそうやって戦ってきた。自らの望む形に、剣を昇華させろ。

 

 

(もっと速く、もっと疾く────剣よりも軽い、二つの刃を)

 

 

イメージの中で、刃は持ち上げた『神魔装剣』の刃先を握る。掌を切る感覚を味わいながら、自らの能力のイメージを深め、そのまま振り抜いた。

 

────変化する『神魔装剣』と、両腕に纏う装甲が握る二つの刃を。

 

 

 

─────そして、刃はレーヴェルノートの放ったテールエッジを受け止めた。シノの顔に届くはずだった尻尾の槍刃を、二つの刃で受け止めたのだ。さっきよりも早い、そう思ったのも無理はない。

 

彼の腕には重く大きな神剣は、存在しない。

その代わり、両腕に展開された漆黒の装甲。ガントレットのように纏われたその腕に連結した純白の双刃。神の力を束ねた攻撃重視の『神魔装剣』とは異なる、新たなる力。

 

 

銘を、『神魔装剣(デウス・グラディウス)双天(ツヴァイク)』。

 

 

「もう二度と!俺の仲間を、傷付けさせはしねぇッ!!」

 




神魔装剣(デウス・グラディウス)双天(ツヴァイク)

『神魔装剣』を最適化し、速度を追い求めた双剣形態。『神魔装剣』と同じ神力を伴いながらも攻撃力、破壊力を収めた代わりに手数と速度を向上させている。

鎧を捨てたレーヴェルノートの動きに付いていける、圧倒的速度を秘めている。


執筆ペースも頑張っていきますので、お気に入りや感想、評価などよろしくお願いします!それでは!!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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