ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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ちょっと途中で別のもの書いたりしてて遅れました。これからもペース上げてやっていきますので、よろしくお願いします!


双天の刃

「あ、主様」

 

「シノ、下がってろ────俺がやる」

 

 

新たな力、『神魔装剣(デウス・グラディウス)双天(ツヴァイク)』を発現させた刃。レーヴェルノートの繰るテールエッジを弾き返した彼が後ろに立つ少女に告げるが、シノは何か言わんとすることがあるらしく、刃に声を掛けた。

 

 

「主様、聞いて」

 

「どうした?」

 

「あの敵、多分普通じゃ殺せない。糸で触れた時、心臓が動いてなかった」

 

「…………何が言いたい?」

 

「アレ、死体なのかもしれない」

 

 

ピクッ、と刃は目の前の敵を睨んだ。軽く礼を言ってからシノに下がるように言い、刃は一人静かに歩いていく。レーヴェルノートは糸による拘束から解き放たれ、地面に着地していた。

 

その様子を静かに見据えながら、刃は憶測を固める。

 

 

(顔は見えねぇが、あの姿。やっぱり間違いねぇ、アイツが────ミュウの父親、レミアさんの旦那さんか。行方不明って話だったが…………いや、そういうことかよ)

 

 

戦場で姿を消したとされる、ミュウとレミアの家族である英雄フリント。レーヴェルノートの正体とも呼べるその人物に何があったのか、刃は大まかに察した。察してしまう事ができた。

 

ダブリスならば、やりかねない確信があった。アレは現に、そうやって眷属を作っていた。別世界の人間達の意思と絶望を、弄ぶような形で。胸糞悪い話だが、そうとしか思えない。

 

 

「ミュウやレミアさんに悪いが────一度殺してでも連れ戻すぞ」

 

「ミゅ、ウ、れミア………僕、帰ル、約束────コろしテ、でモ」

 

 

フルフェイスに宿る閃光を強めながら、レーヴェルノートは腰を低く落とし────その姿を消した。その瞬間、刃も同じように地面に踏み込み、両腕に展開された双刃を構える。

 

直後、凄まじい金属音の衝突が響き渡る。少し離れた場所でレーヴェルノートが振るわんとしていた槍が、刃によって受け止められていたのだ。

 

 

「重くて、速ェ………!だが、今度は追い付ける!」

 

 

純粋な攻撃力に特化した『神魔装剣(デウス・グラディウス)』では鎧を捨て、本来のスペックを再現するレーヴェルノートの速さには届かなかった。

 

だが、二つの刃へと変えたことで重さと威力を捨て、速度と手数に変換した『双天』であれば、レーヴェルノートの異常なまでの速さに到達できる。

 

現に、レーヴェルノートが振るう槍撃に、刃は『双天』で何とか斬り合えていた。それどころか手数の多さで肉薄し、圧倒していく刃。

 

 

────ギャリリリッ!と音を立てて周囲を斬り裂き、飛翔するテールエッジ。鋭利な槍のような尻尾が抉り抜かんという勢いで射出されるが、すぐに片腕の刃で受け止める。それでも弾き飛ばされるのは、レーヴェルノートのテールエッジが強い威力を有していたからであろう。

 

それでもテールエッジは止まるどころか、後ろに吹き飛ばされたばかりの刃を狙い、音速で迫る。空気を引き裂き迫る尾刃に、刃は舌打ちを隠せない。

 

 

「クソ!縦横無尽か!────だが、見えはする!!」

 

 

防ぎ切るようではなく、敢えて逸れるように弾く。そのまま斬り込んだ刃はバネのように溜め込んだ脚で地面を蹴り抜き、レーヴェルノートへと肉薄する。

 

突き出すように放たれる神速の槍を回避し、空中へと飛び上がる。上空に上がった刃は両腕に備わった刃を同時に振るう。レーヴェルノートの胴体ではなく、頭────その上にあるものを狙って。

 

 

「─────ッ!!」

 

 

その瞬間、レーヴェルノートの身体が人形のように動きを見せた。普通ではない機動と反射神経で、振るわれた槍の薙ぎ払いは刃の強襲を受け止めるに至る。攻撃を防がれた刃は苦々しい顔をしながらも、確信した。

 

 

「やはり、テメェ────守りやがったな」

 

「■■■■■■っ」

 

「テメェは死体、ならテメェを動かしてるのは────頭の上の光輪!それがテメェの本体だろ!レーヴェルノート!」

 

 

その言葉に、レーヴェルノートは反応しない。代わりに頭の上の光輪がカチカチと音を立てて組み変わっていく。それに応じて、レーヴェルノートが吊り上げられた人形のように動いた。

 

 

◇◆◇

 

 

────かつて、ソーナは一度海で溺れたことがあった。まだ幼い頃に海辺で遊んでいた頃、彼女は海の中にいつの間にか落ちていたのだ。何かに誘われるように、何かに招かれるように。

 

だが、すぐに見つかって保護されたらしい。姉のソフィーが何とか助けてくれたと。母ソルティアの心配を招いたこともあり、反省して王宮で大人しくしていたソーナに、ソフィーは静かに口を開いた。

 

 

『あの時、私が助けたんじゃない』

 

『?お姉様、どういうこと?』

 

『ソーナは、何を見たか覚えてるはず』

 

 

彼女は、思い出した。

海の中に落ちた自分を待っていた、水生の魔物。獲物を誘い込み、捕食する特性を有するソレはまだ幼いソーナを狙い、喰らわんと襲い掛かった。

 

────その瞬間、その魔物は消滅した。

海を泳ぐ巨大な影に、一蹴されたのだ。まだ幼いソーナには分からなかったが、魔物は恐れ、怯えていた。ソレが放つ存在感、圧倒的なまでの生命としての違いを。

 

 

『────ォォォォ────』

 

 

幼い彼女の瞳に残るのは、海中を泳ぐ巨大な魚影。瞳を持たぬ、水生の獣。泳ぐように羽ばたくその姿は、未だ忘れることはない。

 

 

『アレは、大いなる海の源。かつて私も目にした、原始の存在』

 

『…………?』

 

『お母様も見たことがあるみたい。私達にとって無関係じゃない、何故ならアレはフローネヴェーテ様と繋がりがあるみたいなの』

 

 

疑問を浮かべるソーナの隣で、ソフィーは静かに王宮の廊下に浮かぶ絵を見上げた。水神フローネヴェーテの元で王国を作った人々と、大いなる女神の傍に描かれた巨大な魚のような存在を。

 

 

『もしかして、あの存在はソーナに会いたかったのかも』

 

『………私に?』

 

『ソーナは、フローネヴェーテ様の巫女。それ以上に、貴女は世界を変えられる子だから』

 

 

「────ソフィーお姉様、私に世界が変えられるとしたら、その為の力を、自分の為に使うわ」

 

 

海中で、ソーナは魔力を解き放つ。自らの中に眠っていた、水神の魔力を解き放ち、彼女はかつて王国の窮地を救った時の戦い、その時の姿を顕にする。

 

 

「私は戦う。あの人の、彼が救う世界を救う為に。彼が否定する理不尽に抗う為に。彼が心から、笑える世界の為に!」

 

 

その魔力の変化は、Abyss01も感じ取ったらしい。クルリと振り向いたAbyss01はソーナへの警戒と敵意を顕にすると共に、機動し始めた。

 

 

『記録、参照────水神フローネヴェーテ、トータス旧神の力を秘めた姿と確認。危険度の繰り上げ、Sランクへと変更。全兵装、全機構を以て、排除を開始する』

 

 

直後、両部ユニットからの多数のレーザー砲を放ち、そのままソーナへと猛攻を仕掛ける。ソーナは軽く指で周囲の水を引き寄せ、海のヴェールでレーザーの射線を反らしていく。

 

 

「今の私は!水神様!フローネヴェーテ様の力を受け継ぐ巫女!この海の領域で真価を発揮できるのは、そっちだけじゃないのよ!!」

 

『レーザー無効、確認。攻撃手段変更────ミサイル爆撃と並行し、肉薄する』

 

 

言うや否や、背後のコンテナからミサイルを打ち上げて一斉放射するAbyss01。ソーナが周囲の水を操りながらミサイルの雨を迎撃する中、左右のユニットを胴体に格納したAbyss01は直後、凄まじい勢いで加速した。

 

 

「っ!速い!でも、狙え切れない速度じゃあ!ないわっ!」

 

 

巻き荒れる水流を操り攻撃に転じるソーナに対し、海中を動き回るAbyss01。四方から展開するように放つ水流の槍に包囲されたAbyss01の姿が消え、爆発が引き起こされる。

 

一瞬、撃破したと安堵したソーナはすぐに違うと確信した。槍が破壊したのはAbyss01の躯体ではなく、見覚えのある残骸であったのだ。

 

 

「───違う!?攻撃してた装備を捨てて!?」

 

『────強襲』

 

 

そして、意識の取られたソーナへと急接近していくAbyss01。咄嗟にソーナが高出力の水を放つがAbyss01はその躯体で受け止めて、肉薄する。

 

────鋭い牙が並んだ顎がソーナの右腕に喰らいつく。ガキン!という金属の衝突音以外に肉を切り裂く生々しい音が、ソーナの耳に響くが激しい痛みに顔を歪めた彼女には気にする余裕はない。

 

しかし、彼女の口元は不意に歪んだ。苦痛に堪えるものから────不敵な笑みへと。

 

 

「悪いけど、私の腕はやれないわよ。代わりにいいこと教えてあげる」

 

『────?』

 

「私の仲間の、ハジメはね、色んなアーティファクトを作れるの。一般的な魔法の効果を乗せたアーティファクトだけならまだしも、神代魔法だって出来るのよ」

 

『────不理解。たとえアーティファクトだとしても、此方を破壊するほどの魔力を溜め込むのには時間が掛かる。それよりも早く、腕の破壊が可能』

 

「そうね。でも、これは知らないでしょ?私達が、少し前にどんな魔法を手に入れたのかは」

 

 

噛み砕かれんとする腕の先、掌に握るペンダントが光を増す。ソーナの不敵な笑みと同時に溢れ出す魔力反応。ソレを噛み潰さんとするが如く歯を立てて引き裂かんとしたAbyss01は────凄まじい熱量に、顎を引き裂かれた。

 

 

『────ッ!!?』

 

「そうよ!これはティオと私の合体技!────片腕を犠牲にした、『水天位相式・黒竜咆』!直撃、みたいね!!」

 

 

混乱するAbyss01にソーナはピースを見せつけて、満面の笑みを刻んでいた。彼女の手にしたペンダント、アーティファクトに組み込まれた魔法は、『空間魔法』。事前にコンタクトしていたティオが遠距離で放ったブレスを、ペンダントへ────噛み付いたAbyss01は口内で直に炸裂させることになったのだ。

 

その破壊力、ダメージは想定を超えるものであったのだろう。

 

 

『そ、損傷率86%突破………ッ!これ以上の、戦闘続行不能!統括機構からの緊急命令受託!戦線離脱、撤退を優先────する!』

 

口内から内部を破壊されたAbyss01はその場で悶えながら、統括機構からの司令を受けたこともあり、即座にスクリューを回転させて海を泳いでいく。完全に逃げへ徹したAbyss01の機影を目で追ったソーナは勝ち誇った笑みを深め、すぐに駆け寄るティオに受け止められる。

 

 

「ソーナ!こんな無茶をして!」

 

「へへっ、まぁね。私の魔力じゃあ捉えきれなかったし………余力残しておくにはこうしないと、ね!」

 

「全く…………主様に似てきおったのぉ」

 

「それ、褒め言葉?」

 

「正直、褒められてるとは思って欲しくないのじゃがなぁ………」

 

 

クスリと笑うソーナの姿に、ティオは溜め息を漏らしながら近くの岩陰へと避難した。ソーナに周囲の水を切ってもらってから、怪我した彼女の片腕の治療に専念することにした。

 

 

◇◆◇

 

 

金属の鎧を纏う姿に自分自身を『作り替えた』レオンハルト。人の身体を捨てたと呼べるその姿に変わったレオンハルトの猛攻は先程以上の激戦と化していた。

 

 

「ッ!」

 

「オラオラオラァ!!どうした!後手に回ってちゃあ、俺様は倒せねぇーぞ!!」

 

 

そう叫ぶ鋼鉄の獣に押し切られるハジメ。一際大きく変形した両腕は鋼鉄を抉り抜く鋭い鉤爪となっており、防御の為に展開したクロスビットにすらも深い傷跡を残す程である。それほどの鋭利な斬撃を連続的に繰り出すレオンハルトに、ハジメはドンナーとシュラークでは対処しきれず、苛立ち混じりに義手の肘を向ける。

 

ガコンと開いた肘の隙間から展開された銃身、至近距離から放たれる不意打ちの砲撃。ソレは鋼鉄の鎧に形成されたレオンハルトの顔面に直撃した。────にも関わらず、生じた煙を振り払い、鋼鉄の隙間から覗く双眼が揺れる。

 

 

「ハッハァ!!痛ぇなぁ!仕込み武器たぁ、随分と面白いなぁお前は!!」

 

「それを!テメェが言うかよ!!」

 

 

悪態を叫びながら、オルカンによるロケットランチャーによる爆撃を叩き込むハジメ。その爆撃を直に受けながら歩き出すレオンハルトの全身にダメージは届いている。しかし人間が鎧を纏うのではなく、鋼鉄の肉体へと作り替えたレオンハルトには大して通じていないのだろう。

 

 

「面白れぇ武器だな、ソレも。ホントに面白そうだし────俺様も、真似してやるよ」

 

 

そう言って、レオンハルトは周囲の瓦礫を掴みそのままハジメの元へと放り投げる。放射線状に落下してくる瓦礫を撃ち落とそうとしたハジメは隻眼のアーティファクトによって感知した魔力反応に気付き、即座に飛び退く。

 

すると瓦礫の塊は地面に触れる直前に、凄まじい爆発を引き起こす。レオンハルトの能力で爆弾へと作り替えられたのだろう。触れただけの、数秒の合間に。

 

 

僅かに意識が取られたハジメが振り向くと、真上に殺到する無数の瓦礫の雨嵐。その全てがレオンハルトによって作り変えられた爆弾と気付いた瞬間、彼の顔が引きつった。

 

 

「俺様からのプレゼント、喜んでくれるか?」

 

「────死ねぇッ!!」

 

 

渾身の怒号と共にハジメは無数の爆裂に、巻き込まれる。辺り一帯を吹き飛ばすほどの弾幕の勢いに、ハジメの姿は完全に覆い尽くされていた。流石のレオンハルトも様子見から一瞬、変化の無い光景に肩を竦めた。

 

 

「もう終わりか?こんなで大魔王や魔神を倒して、元の世界に帰れると、本気で思ったのかよ。そんなんじゃあ、仲間の一人も守れねぇなぁ。ハジメぇ────────」

 

「────耳の痛え、話だな!」

 

 

直後、積もり積もった残骸の山から放たれた砲撃が、レオンハルトの片腕を抉り飛ばした。爆撃から何とか生き延び、その破壊によって生じた瓦礫の中に隠れた上で、構えたシュラーゲンの狙撃を叩き込んだのだ。

 

対物ライフルの狙撃であれば、金属化したレオンハルトの装甲も穿てるのは間違い無かった。現にレオンハルトは片腕をもがれた痛みもあり、悶え苦しんでいた。

 

 

「ぐ、があああああっ!!?痛ぇ!痛ぇえ!痛くて、痛くて────」

 

 

全身を振り回すレオンハルト。その頭が一瞬にして崩れ去る。粒子化された頭部はその形を大きく変化させると同時に顕になったソレを、ハジメのいるであろう残骸の山へと向けた。

 

 

「爆裂!しそうだなぁッ!!!!」

 

 

────ハジメのシュラーゲンに類似した巨大な砲身を有する頭部。戦車の主砲に匹敵するレベルの武装に青褪めたハジメがシールドを構えた途端、その辺り一帯を一掃するほどの砲撃が放たれた。

 

何とか直撃を免れたハジメが瓦礫から這い出る。向き合う視線の先には、既に全身を作り替えて異形の兵器の姿へと成りつつあるレオンハルトの姿である。

 

 

「その姿、化け物だな」

 

「ああ、同時に俺様にとって忌むべき姿でもある」

 

「何だよ。嫌いなら、どうしてその姿になる必要がある?成らなきゃいいだろ」

 

「────戒めだ。母様と父様の誓いを、忘れぬようにな」

 

 

レオンハルトの脳裏に過ぎるのは、あの時の記憶。まだ幼かった彼の能力、異世界人との子である彼を戦力として手に入れようと派遣された教会の人間たちに殺された母と父の姿を。

 

怒りに狂い、彼等を殺す為の姿となった己の姿を────忘れることはない。忘れたことはない。母と父が最後に願った、言葉を。

 

 

『レオン、優しいお前は────お前の望む未来を』

 

「俺様の未来は、あいつらの笑える世界の為に」

 

「それが、大魔王に与して、人類虐殺に加担する理由か」

 

「人の、エヒトの世界ではあいつらは笑えない。逃げ隠れすることでしか生きれない世界ならば、奴等の望む世界の方が、俺様には都合がいい」

 

 

レユニオンというチームを作ってから、彼は多くの仲間を保護してきた。人間とのハーフ、その出生のせいで日元を歩めない仲間たち。種族故の差別と、エヒトの掲げる信仰故の弾劾。それに蝕まれたこの世界では、彼等は自由に生きられない。

 

だからこそ、レオンハルトは大魔王に手を貸すことを決めた。彼の創る世界、人類虐殺を果たした後の景色ならば、彼等を苦しめるものはいない。迫害を為す人間がいない世界の方が、ずっと自由である。

 

 

「あいつらの生きる世界の為に────俺様の望む未来の為に」

 

「…………まあ、気持ちは分かる」

 

 

どうせなら、大切な奴に笑って生きて欲しいはずだ。

ハジメ自身そんなレオンハルトの結論に妙に落ち着いた様子で納得していた。己も、きっと同じように選ぶはずだ。

 

赤の他人より、世界よりも────仲間の、大切な人達の笑える世界の方が何倍もいい。レオンハルトは人間が悪いだけではない、ただ仲間達の笑える世界が今の世界ではないだけであるのだ。

 

 

「だからこそ、お前のやり方を止める」

 

「へぇ?」

 

「お前の、魔神の創る世界じゃあ、俺の大切な奴等は心から笑えねぇしな」

 

「ハハッ!面白ぇ!────じゃあ俺様をぶっ倒して、止めてみろよぉ!!」

 

「お望み通り、なッ!!」

 

 

そう叫ぶレオンハルトが動くよりも先に、ドンナーとシュラークを構えたハジメが両手の拳銃から弾丸を飛ばす。鋼鉄の肉体で受け止めたレオンハルトは大した攻撃ではないと嘲笑うが、ソレが普通の弾丸でないことにすぐに気付いた。

 

 

「鉄球?────いや、仕込みか!」

 

 

弾かれた鉄球が空中で分裂し、即座にワイヤーを展開する。辺り一帯を囲むように展開されたワイヤーを払い除けようとしたレオンハルトだったが、ワイヤーを放った鉄球が突如重さを持ったように地面に落下した。

 

重力魔法による加重。それによって空中に張り巡らされたワイヤーはレオンハルトの金属の身体を縛り上げ、地面に縫い付けた。杭のように打ち付けられた鉄球によって彼の動きは完全に制限されることとなる。

 

 

「こんな小細工で!俺様が止められる、とでもォ!!」

 

「俺だけじゃ無理だな!だが、今ここにいるのは俺だけじゃねぇ!」

 

「────大いなる宇宙(ソラ)、天体連なる暗き星の海よ」

 

 

ワイヤーに全身を縛り上げながらも、金属の塊は咆哮と共に新たな腕を生成する。無理矢理破ろうとするその姿は最早獣どころではなく、機械の化け物でしかない。

 

そんな悍ましい金属音の響き渡る世界に────凛とした声が伝わる。不意に動きを止めたレオンハルトの瞳が、魔力を練り上げる少女の姿を、白崎香織の姿を捉えた。

 

 

「我が祈りに答えよ。我が言霊、我が魔導!星の流れる輝きの果てに。我────無限の星海に閃光を刻まん!」

 

(この魔力────俺様じゃあ受け切れない!逃げねぇと!)

 

 

膨大化する金属の身体から自らを分離して、回避を試みるレオンハルト。香織が練り上げる魔法の魔力、その威力に気付いたからこその逃げの一手であった。

 

しかし、そんな冷静かつ淡々とした思考は、香織の零した一言によって氷解した。

 

 

「…………ありがとう、レオンくん」

 

「っ」

 

「貴方のお陰で、前を見れた。ハジメくんの隣に立つことに、自信を持てた。だから、逃げずに戦うよ」

 

「────卑怯な言い方だ。逃げれねぇじゃねぇか」

 

 

ニカッ、と笑い、レオンハルトは思考を切り替える。

情に絆された訳ではない、何時だって自分は強く、絶対的に振る舞ってきた。それ故だ。臆することはない、どんな障害であろうと自分の力で打ち倒すだけ。

 

 

「さァ、来いよォッ!!!」

 

「────『星極光(ステラ)』」

 

 

囁くような声と共に、完全詠唱の星の光が空を焼き尽くした。周囲を破壊しながら拘束から解かれた金属の獣は逃げることなく、その光を受け止める。しかし、完全に受け止めることはできず、その全身を崩して光に呑まれていく。

 

そして────極光に吹き飛ばされたレオンハルトは、気絶した様子でがれきのなかにころがっていた。その姿を見据えたハジメは鋭い眼差しでドンナーを構え、苦笑いを零した。

 

 

「今回は、見逃してやるよ」

 

不敵な笑みと共に、ハジメは香織の元へと駆け寄る。全身の至る所が痛むのもあり、彼女に治療してもらおうとハジメは一息つくのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

神速の、剣戟。

斬撃と斬撃、二つの刃と二つの刃が衝突して火花を散らす。黒鉄刃とレーヴェルノート、二人の激戦は最早乱入すら許されぬ斬撃の嵐であった。

 

 

(コイツ────速ぇ!これ以上速くなるってのかよ!!)

 

 

歯軋りする刃は両手の刃を振るい、兎に角目の前の敵 レーヴェルノートへと斬り込む。片腕を失っているはずのレーヴェルノートは槍を振り払い、鋭い槍の一突きが、的確に抉り抜くような一撃が、刃の猛攻を押し返していく。

 

何より厄介なのは、テールエッジである。

無尽蔵に動き回る機動性を有した尾刃は、あまりにも凶悪な殺傷力を有しており、普通に戦うだけでは一方的に葬られるだけになる。

 

 

(いや、考えるな。臆するな、黒鉄刃────思考を、研ぎ澄ませ)

 

 

無意味な感情は、必要のない思考は頭から綺麗に消し去る。今必要なのは、目の前の敵を倒すことのみ。仲間を傷付けさせず守るには、それしかない。

 

迷いも、痛みも、何かも置き去りにしろ────もう二度と、大切な誰かを、失わせないように。白銀の光を全身から放ちながら、刃は己の意識の全てを戦いに注ぐ。

 

 

「何もかも────斬り、刻むッ!」

 

「────」

 

 

吊り上げられた人形へ、刃は一切の躊躇いもなく斬り掛かった。上段から振るわれた叩きつけはレーヴェルノートの構えた槍を地面に無理矢理押し退け、そのまま右の腕刃ごと斬り込む。

 

しかしやはり、レーヴェルノートの動きは異様であった。人間の動きを無視するような人形の如く機動性で、無理矢理槍を拾い上げ、放った一突きで刃の頬を斬り裂く。

 

だが、止まらないのは刃の方も同じであった。

左腕の片刃を仕舞い込んだかと思えば、その内から魔力の弾丸を至近距離から掃射する。槍を回転させて防いだレーヴェルノートへ一瞬で肉薄し、そのまま頭の光輪へ手を伸ばした。

 

 

「────────ッ!!?」

 

「捉えた、ぞ────ォ」

 

 

空中に伸びたテールエッジが音速の勢いで、刃の半身を抉り抜いた。不意の一撃で意識が失われかけた刃は、それでも歯を噛み砕いて全身の力を両手に込める。テールエッジの猛攻を無視して、光輪を砕かんほどの力を両手に注いだ。

 

ビキビキッ、と光輪にヒビが生じる。その瞬間、レーヴェルノートは頭を振り回し、必死に抵抗を始めた。いや、抵抗しているのは、レーヴェルノートを動かす光輪の方か。

 

 

「え、らェラららラらララ────ッ!!!」

 

「っ!今更!止まるかァ!!」

 

 

────咆える刃に、背後から再びテールエッジが迫る。地面を走りながら放たれる尾刃は、今度こそ刃の心臓を抉り飛ばそうという勢いである。そちらに意識を向ける余裕もなかった刃の背中をソレが穿つことは────なかった。

 

二つの人影と重なった刃が、テールエッジの刺突を受け止めたのだ。

 

「っ!?コガラシ!ヴェルヌーイ!」

 

「かたじけなし!だが、後ろは代わるぞ!」

 

「得物は止めたぞ!やれ!」

 

「任せて────『禍天』」

 

 

気絶して離脱していたコガラシとヴェルヌーイがテールエッジを止めている間に、詠唱を終わらせたユエの魔法が発動する。小型かつ膨大な質量を伴う重力の球体が飛来し、テールエッジを地面へと固定させる。

 

押し潰す事は出来ないが、それだけでレーヴェルノートのテールエッジは機能しなくなる。それとほぼ同時に、レーヴェルノートの全身を鋼鉄のワイヤーが縛り上げた。

 

 

「主様!本体の動きは、私達が!」

 

「その間に、やっちゃってくださぁい!!!」

 

「シノ!シア!助かった!!────一撃で仕留める!」

 

掴んでいた両手を離し、ワイヤーで左右から動きを止めるシノとシアに感謝を贈った刃は、目の前の敵を見据える。再度展開した両手の腕刃を構え、その刀身に魔力を収束させる。

 

黒い魔力の奔流と共に双刃を振るう刃は光輪目掛け、左右から同時の斬撃を叩き込む。噛み砕くように、切断するが如くの二刀の斬撃は、組み変わり続けていた光輪を斬り裂いた。

 

 

「『───────ッッ!!!!!!』」

 

 

頭の光輪が失われた直後、レーヴェルノートの喉から信じられないほどの悲鳴が響き渡る。声というよりも、高周波の音の塊である。その悲鳴によりその場にいた全員が、吹き飛ばされる。

 

だがその瞬間を、刃だけが見た。

 

 

「帰ラ、ナきゃ」

 

そんな声を零し、足元の亀裂の中へと落ちていくレーヴェルノートの姿を。それはさっきまで刃達を殺そうとした人形のものとは、まったく別のものにしか見えなかった。戦いは終わったにも関わらず、刃は全く勝った気も出来ず、レーヴェルノートの消えた亀裂を見つめ続けていた。

 

 

◇◆◇

 

 

『────レーヴェルノートが倒されたね』

 

『再生魔法を手に入れられたら良かったけど、まあ仕方ない。彼らがいる時点で、叶わない可能性であることは分かっていた』

 

『────だからこそ、予備プランは用意してある』

 

『その為の予備プラン────ギアソリッド、ギアリキッド。目標のものは?』

 

『────偉大なるダブリス。ギアリキッドより報告、目標を────個体名■■■を確保。ギアソリッドと共に、目的地へと移動中』

 

『────報告。Abyss01も目的座標に移動中。躯体損耗率重度、しかし炉心に損傷なし』

 

 

そして、闇の中。

全てを動かしていた双子、双対の魔神が不敵に笑う。自らの遣わした眷属が負けたにも関わらず、彼等の顔に不満や怒りはない。彼等の興味は既に別にあった。

 

 

『南雲ハジメ、黒鉄刃。迷宮の再生魔法は君達の物だ』

 

『でもね、手段は一つじゃない。私達は新たなる方法を見つけている』

 

『『解放者の血統、末裔なる子よ。その身、その魂、その全てを、ダブリスに────ダブリスガ望む忠実なる破滅の使徒、新たなる「滅皇」の礎として、捧げよ』』

 




さて、駆け足気味ですが、Abyss01、レオンハルト、レーヴェルノート、迷宮での強敵はこれにて撃破できました。しかし当のダブリスにまだ企みがありそうなのは必見です。

次回もよろしくお願いします!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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