ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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祈りの滅皇(セイレーン・アニマ)

『滅皇』、エルヴィオートと呼ばれるソレは、イクスだけが知るものである。彼がそれを知ったのは、かつて生きたアステロイドで知り得た事である。

 

 

『────イクス殿。アストレア様の使徒となった以上、貴方も知るべきだ。我々が観測した、迎合する魔神の存在を』

 

『?魔神が徒党を組んでいると?有り得ない、魔神の大半は自我を持たない。持てるはずがない』

 

『そのまさか。奴等は自我を、知恵を、己を有している。その上で奴等は無作為に、世界を滅ぼして回っている』

 

 

現時点で判明しているのは、五体。其々滅皇と呼ばれる者達は他の魔神とは違う性質を秘めながら、悉く人類文明と世界を一掃していた。

 

 

『始まりの龍』、『原始の王』、『絶望龍』、終王。曰く世界を滅ぼし尽くす巨大な龍でもあり、若い青年の姿をした龍神でもあると。滅皇として、弱者の抗う輝きに魅入られた存在であり、必死に生き残ろうとする人々の魂の輝きを望み、彼等を見下ろしながら無慈悲に踏み潰し、喰らう。滅ぼされた世界には、骸と残骸しかないという。

 

『参謀卿』、『千眼司令』、『統括機構』、アルサリア。他の滅皇を従えている可能性の高い存在であり、女性であることのみ判明。それ以外にある事実として彼女こそが滅皇の操る魔物、端末を制御しているのではないかということ。未知数ながらもアステロイドにとって終王と並ぶ危険因子として数えられている。

 

そして、それら三体は未だ情報不明。分かっているのは、其々の世界の滅ぼし方である。他の世界と孤立させ、数年、数百年単位でじっくりと滅ぼす。ただ無造作に、何もかも滅ぼす。様々な方法で人々を分断し、大量の恐怖を抱かせてから狩り尽くす。少なくとも他の魔神とは違う、明確な悪辣さがあることは確かであった。

 

故に『滅皇』は、安易に手出しできぬ脅威として語られた。後にイクスは仲間達と語らい、ある結論を出した。『滅皇』は、魔神たちの連合のようなものだと思っていたが、もしかしたら違うのではないか。

 

彼等はそもそも魔神なのか。彼等は自ら手を取り合っているのではなく、何か巨大な存在に動かされているのではないか、と。

 

 

(────まさか、奴等がダブリスの端末だったとはな)

 

 

会場を走り抜けるイクスは冷静ながらも、そう思案していた。懐疑的であったが、ギアソリッドの発言からようやく呑み込めた。ダブリスの強さならば、魔神クラスの尖兵を従えられるのも頷ける。

 

そして、奴等が────ミュウを使い、新たなる滅皇を生み出したのも。

 

 

「もしそうだとすれば────戦況が大きく変わるぞ」

 

 

『滅皇』を手に入れれば、ダブリスは、魔神側に一気に戦力が傾く。彼等がその気であればいつでも人類を殲滅し、神域に隠れるエヒトを引き摺り出して殺すだろう。

 

そうなれば、後は魔神同士の殺し合い。勝者となるものを決める戦いが始まる。そうなった時点で、人類に勝機はなく、この世界に希望はなくなる。だからこそ、イクスには選択の必要性があった。

 

 

「────ミュウ(あの子)を殺してでも、滅皇を滅ぼすか」

 

 

さもなくば、大勢が死ぬことになる。少なくとも判断次第では、数百、数千万にも至る、それ以上の犠牲が。

 

 

◇◆◇

 

────ある祈りを、聞いた。

 

『………慈悲を、どうか………慈悲を』

 

鎖に縛られた青年が、掠れた声で呟く。手足に杭を打ち付けられ、背中にも槍を突き立てられた青年の全身からは血が流れている。それでも彼は手錠によって首が裂けそうになりながらも、手を合わせて祈っていた。

 

『私は、どうなってもいい………なんでも、従います……だから、どうか────家族には、故郷にだけは』

 

 

────ある祈りを、聞いた。

 

『嘘だ!指導者様が俺を見捨てるはずがない!あの人が教えてくれたんだ!アレは、正しい革命だって!俺の戦いが、大勢の平和に繋がるって!』

 

牢獄の中、檻に張り付いた少年が叫ぶ。ある革命家に駒とされ、テロリストの尖兵として育てられた彼は、自らの正当性を否定することはなかった。

 

そして、そんな盲目的に心酔していた彼も、次第に気付いた。自分が何をしたのか、世界が、人々が自分に何を望んでいるのか。

 

 

『悪いことだなんて、教えられてない!あの人は俺に正しいことだって言ったんだ!…………嫌だ、嫌だ!死にたくない!だって、まだ俺は、誰からも愛されてないのに!!』

 

処刑台に乗せられるその日まで、少年は泣き叫んだ。こんなはずではなかったと、こんなこと望んでいなかったと、檻を揺らす少年は頭を掻きむしって、祈った。

 

────ある祈りを、聞いた。

 

 

『わたし、しあわせになりたかっただけなのに………』

 

ボロボロになった少女は潰れた片目を撫で、そう零した。少女の受けた痛みは計り知れないものであり、この世界で誰も少女の死を咎める者はいない。片方の目を細め世界を見つめた彼女は崖から飛び降りる際に、祈った。

 

 

『────みんな、しんじゃえ』

 

 

────ある祈りを聞いた。

 

 

ある祈りを聞いた。ある祈りを聞いた。ある祈りを聞いた。ある祈りを、幾千も幾万も聞き続けた────そして、その祈りは、祈り手となる少女に届いた。届いてしまった。

 

 

「みんな、悲しそうなの………」

 

『────当然。彼等は犠牲者であるからね』

 

『必然────この祈りは、虐げられし者の祈り』

 

 

幼い少女、ミュウは青い海の広がる世界でその祈りを、悲劇の記憶を見た。朧気な意識の中、彼女が零したのは記憶の中にある人々の絶望の果ての祈り。その感情を肯定するかのようにミュウの前に二人の少年少女が現れる。

 

 

『彼等は、人が作り出した悪意の犠牲者。理不尽に幸せと未来を奪われ、ある者は悪と排斥され、ある者は存在すら無視され、そうして世界からも爪弾きにされた不幸な者達』

 

『彼等は、人類の持つ悪性の分断者。数多の時代、平等で平和を謳いながら、自分達の望む多数の幸せの為に、無意識に、無作為に、少数へと不幸を押し付け、彼等を自分達「多数」に含めることのなかった。そうした犠牲者達の、救いを求める祈り、それこそがあの記憶』

 

 

ダブリスと呼ばれたであろう二人の少年少女が無数に広がる祈りに手を添える。その中に広がる悲劇と悲しみを見据えた二人は顔色を変えることなく、淡々と告げた。

 

 

『人間は、罪業に満ちた存在。生きるだけで罪を背負い、幸せを求めるが故に、傷付け、奪い、妬み、憎み、呪い合う。それだけの業を重ねた上で、彼等は自らの罪に、業に向き合うことはない』

 

『だからこそ、我々は彼等を見放した。自らがそうであるというのなら、好きにするといい。その代わりに、我等は全てを滅ぼし、全てを救おう。生きることで互いに争う愚かな生命を導くには、それ以外にない』

 

 

たとえ歪み、魔神に染まり切ったとしても、ダブリスとなる二人が抱いた理想に違いはなかった。彼等は純粋さ故に世界を、人を救おうと足掻き────いつしか折れたのだろう。そんな彼等が魔神に成り果てても尚、救いを求めるのは昔からの願いからか、破滅を望むのは経験してきた悲劇への絶望と憎悪からか。

 

 

「ミュウは、どうすれば………いいの?」

 

『────祈るといい、祈り手の少女よ。君の祈りが彼等の苦しみを、怨嗟を、絶望を癒す歌となる』

 

『祈り、願うといい。彼等の祈りを調律せし、律者よ。君の純粋なる優しさ、無垢なる心を以て、救い難い罪業に満ちた人々を、この世界を浄化し、救済するのさ』

 

 

優しく諭し、ミュウにそう告げる二人。意識も朧気であり、自分に何が起こったのかも定かではないミュウは二人に言われるがまま、祈った。せめて、この悲しき祈りが、報われるようにと。

 

不敵に笑う二人の影に気付くことなく、ミュウは祈り続ける。そうすることで多くの命が、多くの人々が救われるであろうことを、信じて。

 

 

◇◆◇

 

 

そして────現実の世界では、戦いが始まっていた。

海上に揺れ動く数百メートルの巨体。両手を重ねて祈る巨大な怪物、『滅皇(エルヴィオート)』セイレーン・アニマが啼いた。

 

 

【La────♪】

 

 

綺麗な歌声と同時に周囲の空間が悲鳴を上げる。不可視の衝撃波が歌声に呼応するように爆裂し、辺り一帯を呑み込んでいく。歌声だけで、周辺の海が荒れ狂う程の広範囲攻撃。ソレを潜り抜け────彼等は目の前の敵へと挑む。

 

 

「────行くぞ!刃!」

 

「………おう!」

 

 

衝撃波の弾幕の中を掻い潜った黒竜の背から飛び出した二人が其々の獲物を取り出す。オルカンによるロケットを叩き込むハジメと同時に刃は空中に生成した魔剣を数百本同時に射出し、セイレーン・アニマへ弾幕を叩き込む。

 

 

「先制はやった!任せた!!」

 

「任せて────『雷龍』」

 

「大いなる────大海よ!」

 

「『星弾(コメット)』!!」

 

 

弾幕を放って距離を置いた瞬間、後方に並んでいたユエやソーナ、香織、そして竜化したティオのブレスがセイレーン・アニマを襲う。大多数の攻撃を受けてもなお、セイレーンは止まらない。

 

 

『流石は大魔王に挑み、生き残った戦士達。セイレーン・アニマ相手にも臆することはないか』

 

『そして、真に厄介は────二人、南雲ハジメと黒鉄刃』

 

 

二人が主軸となり、セイレーンへの猛攻を叩き込む。最も強い二人であるからこそ、二人でのみ成立する連携。これにはダブリスも最適としか言えない。

 

 

『しかし、侮ってはならないな。セイレーン・アニマを』

 

『君達がまだ全てを出し尽くしてないように、彼女もまだ動いてすらいない』

 

【La、La────♪】

 

 

二本の腕で祈りながら唄うセイレーン・アニマが動く。巨体が空を駆け抜け、触れるものを吹き飛ばす程の勢いで上半身から伸びる下半身を振り回す。

 

その巨体を回避していく一同。しかし、攻撃はそれで終わらない。下半身として伸びる蛇のように長い躯体に、瞳が生じる。

 

人間の眼球ではなく、無機質な瞳の紋様が躯体全てに展開される。その瞳の瞳孔に魔法陣が展開された直後、光が辺りを焼き尽くした。

 

 

「魔法の弾幕ッ!?これだけの数を!」

 

 

辺り一帯の海を薙ぎ払うほどの魔法の弾幕。何とか回避した刃はそれだけの破壊規模を見て、改めてゾッとした。もしこれが地上であれば、人のいる町であれば、あれだけで大勢の人間を焼き払っていただろう。

 

何より、それをあの子に、あの優しい少女にさせることだけは、認められない。

 

 

「────絶対ッ、止めるぞ!相棒!!」

 

「当たり前だ!!」

 

 

そんな激戦を余所に、異界の中で双子の身体を持つ魔神は首を傾げていた。彼等の予想に反して、状況は期待通りではなかったのだ。

 

 

『────ふむ、予想より出力が落ちてるね』

 

『本来完全体であったAbyss01は半壊してたからね。予想よりもスペックが落ちたのも無理はない』

 

『ならば、足りない部分は補充しよう』

 

『そして、彼女を乱す因子をついでに一層しよう』

 

 

ダブリスの声の直後、ただ祈っていたセイレーンの動きが変化した。首だけを向けて、何処か遠くに身体を向けたのだ。そして、ゆっくりとその方向への移動を始めたのだ。

 

 

「動いた!?」

 

「だが、一体どうして────」

 

 

混乱する一同、その中で刃は誰よりも早く、ソレを感じ取った。セイレーン・アニマの行き先に何があるのか、その先に何が、誰が集まっていたのか。

 

 

「────全員!ソイツを止めろ!!何が何でも!!」

 

「刃!?どうしたの!?」

 

「ソイツの狙いは、エリセンだ!エリセンにいる皆を殺して、その生命を取り込もうとしてやがる!!」

 

「っ!?何だって!?」

 

 

魔神に類するものは、世界を滅ぼす際に命や魂を接収する。それが多いほど、その力を高め、次の世界を滅ぼす為に必要となる。もし滅皇も同じ存在であるのならば、きっとより多くの人間を殺し、自らの糧とするはずだ。

 

何より、刃の脳裏にあったのは最悪の可能性。あの街には、ミュウの母親が、レミアがいる。彼女を殺してしまえば、きっとミュウは戻れなくなる。完全に、セイレーン・アニマと同化してしまうかもしれない。

 

 

「クソ!止まれッ!!」

 

 

弾幕が続く、皆の放つ攻撃の数々がセイレーン・アニマを襲う。しかし、それでもセイレーン・アニマは見向きもせずに空を浮遊して向かう。今もアンチノミーに襲われるエリセンの町を蹂躙し、命の蒐集を行う為に。

 

 

「止まれと、言ってるだろうがァ!!」

 

 

叫んだ刃は魔力を高め、自らの肉体に神の力と己の魔力を纏う。空中で弾ける黒い魔力の稲妻から飛び出したのは、両腕と接合するような形状の双剣を備えた刃であった。『神魔装剣(デウスグラディウス)双天(ツヴァイク)』。

 

無制限に魔力を撃ち続ける瞳が形成された胴体に着地した瞬間、足元に浮かぶ魔法陣を切り裂いて破壊する。そのまま胴体を走り抜け、魔法陣を破壊していきながら彼は前を見据えて突き進む。

 

 

【La────♪】

 

「ようやっと、俺達を見たか!」

 

 

その攻撃の数々にセイレーン・アニマは移動を辞め、自分に群れる存在に意識し始めた。それでも歌い続けるセイレーン・アニマに顔を顰めながら、刃はそのまま胴体を駆け上がっていく。頭の上にまで飛び上がった刃は両腕の双刃に魔力を高め、叩き込む。

 

 

「『ツヴァイ・ハンダー』ッ!!」

 

【────ッ】

 

 

黒い魔力を伴う斬撃、両腕の剣を重ねた重斬がセイレーン・アニマの頭を正確に狙い撃つ。深く打ち込まれたその一撃に人魚姫が大きく啼いて仰け反る。そのまま追撃しようと双剣を振り上げた瞬間、セイレーン・アニマに変化が生じた。

 

セイレーン・アニマの複眼から黒い手が、伸びたのだ。ソレは刃の手足を縛り上げ、一時的な拘束を始める。そのまま引き千切ろうと力を込める刃の前に結晶体から何かが────顔のない人魚姫が這い出る。

 

 

「クソ!離せ!!」

 

【■■■────■■■】

 

「この、いい加減────ぁ」

 

 

上半身だけの人魚姫が刃の顔に両手を添えた瞬間、刃の全身から力が抜ける。愛おしいと言わんばかりに添えられた手とは裏腹に、彼に起きた異変は明確だった。

 

 

「相棒!刃!………クソ!聞こえてないのか!?」

 

「ハジメ!精神汚染を受けてる!無理矢理の事だから、このままじゃ!」

 

 

魔力感知で何が起きてるのを感知したユエは青褪めた様子で答える。魂に強制的に入り込む、精神汚染。言い方を変えればハッキングされてウイルスを流し込まれているようなものだ。本人には抵抗の余地もないし、止めなければ不味いのは明白。

 

 

「ぁ、が…………ぐ、ぎッ」

 

【■■、■■■■────■■■■■■】

 

 

優しく穏やかに何かを発する人魚姫に掴まれ、白目を剥き始める刃。全身が痙攣を起こしているのを見ても明らかに危険であるのは明らか。しかし、その場にいる全員が急いでも間に合わない。ソーナやユエが魔法を撃とうにも捕らえられた刃を巻き込んでしまう。

 

唯一近いハジメが頭の方に近付くが、あと一歩届かない。────その瞬間。

 

 

 

────魔神の尖兵風情が、『私』の『彼』に何をしている

 

 

直後、セイレーン・アニマから伸びる人魚姫の身体が一気に爆散した。内側から生じる何かに抉られたように、人魚姫のアバターが沈黙する。更に伸びた黒い手が刃を握り潰さんと迫ったが、『風爪』を放ったハジメがそれらを斬り裂き、刃を救い出す。

 

 

「無事か!?相棒!」

 

「あ、あぁ………悪い、助かった………なぁ、相棒?何か声が聞こえなかったか?」

 

「?こんな状況で何を聞いたって言うんだ?」

 

「いや、気の所為か?だが、あの声………何処か、昔で………」

 

 

記憶の片隅に覚えのある声に怪訝そうに頭を抱えていた刃は、すぐにその思案を振り払った。気になることではあるが、今は必要ない。今優先すべきことは、それではない。

 

 

「ハジメ。奴の外殻は硬ぇ、アレでもヒビは入らなかった。全力でぶち抜くしかねぇ」

 

「だがまた近付いて精神汚染を喰らうのも面倒だ。遠距離から集中砲火を叩き込むのもありだが…………」

 

【La、La、La、Laa────】

 

 

直後、セイレーン・アニマが再び啼く。三対の腕を広げたセイレーン・アニマの胴体、下半身に生じる瞳が音を立てて海に落ちていく。黒い泥のような塊は海に染まることなく、落ちた瞬間に形を変え、不気味な黒い人形へと変わっていく。

 

ソレは異様に伸びた腕を伸ばし、セイレーン・アニマと同じ声で哭いている。頭の部分に瞳の紋様を示したソレはセイレーン・アニマに手を伸ばしながら、同時に哭き始める。

 

 

【【【【【Kyaaaaa────ッ!】】】】】

 

「ッ!?これは、さっきの奴と同じ………精神汚染か!?」

 

「いや、触れられた時よりマシだが………このままじゃマトモにやれねぇぞ!」

 

 

無数の影、セイレーン・アニマの産み出した『愚者の祈り』による悲鳴によって魔力と精神を乱される刃とハジメ。どうやら広範囲による攻撃ではなく、とくていのあいてをねらったものであるらしい。それはつまり、セイレーン・アニマがハジメ達を敵として警戒した証拠。

 

その瞬間、未だ歌を歌うように声を上げる『愚者の祈り』が薙ぎ払われる。攻撃の意図に気付いたユエやソーナ達がそちらの殲滅を優先したのだ。

 

 

「ここは、私達が!」

 

「ハジメと刃は、セイレーンを!」

 

「分かった!任せたぞ!────行くぞ、相棒!」

 

「応ッ!!」

 

 

再び侵攻を、エリセンへと向かうセイレーン・アニマにハジメと刃は追い縋る。飛翔する魔剣に乗り移動するハジメよりも先に両手に手にした魔剣による加速で距離を詰めた刃が、生成した魔剣をカタパルトから撃ち出すようにして無数に射出していく。

 

その攻撃にも意を介さず動き続けるセイレーン・アニマに、刃は最大級の巨大さを誇る魔剣を、巨剣を具現化させた。

 

 

「ブッ潰せぇ!『ヴィルガント・パニッシャー』ァ!!」

 

 

全身で振り抜くように放たれた巨剣が、セイレーン・アニマに直撃する。十メートルを優に超える巨斬刀の一撃が叩きつけられ、破砕した破片の中でセイレーン・アニマはようやく停止した。しかしすぐに再起動して進軍しようとする巨体に、ある物体を生成したハジメの準備が整う。

 

 

「特注品だ!喰らいやがれ!化け物!」

 

 

巨大な砲身から、一塊の砲弾が撃ち出される。鋭い針を有した砲弾は回転しながらセイレーン・アニマの頭部へと直撃し、命中する。しかしやはりその強度は凄まじく、貫通に至るまでには及ばなかった。

 

だが、瞬間。砲弾は装甲をパージさせると、音を立てて動き出す。内部に組み込まれた装置の中で、深く下がった撃鉄が爆裂するようにして放たれた二撃目が、セイレーン・アニマの頭部へと突き刺さる。

 

 

【L、aa────────】

 

「頑強な装甲だろうが、ソイツで破れねぇもんはねぇだろ…………そして、中に溜め込んだフラム鉱石のタールをよく味わってから、死ね────相棒ぉ!」

 

「任せろ!全剣、同時射出────ブレイク・フレア!」

 

 

外殻を砕かれ装置の中に仕込まれていたフラム鉱石を熔かしたタールが流れ込むのを確認してから、ハジメは親友へと後を任せる。直後、無数の魔剣────魔力を溜め込んだ魔剣を射出し装置へと一点集中で放つ。

 

ガガガガッ、と突き立てられる魔剣が音を立てて自壊による魔力爆発を引き起こす。瞬間、タールに引火した魔力が更に熱を帯び、圧倒的な大爆発を引き起こした。

 

 

────煙の向こうで、セイレーン・アニマが今度こそゆっくりと沈黙する。煙の発生してる部分は大きく欠落しており、セイレーン・アニマは頭部を失ったようでグッタリと力を失ったように項垂れていた。

 

 

「案外、呆気なかったな」

 

「油断するなよ、ハジメ。まだミュウを助け出すことも出来てねぇ、それまでは何があるか分からねぇ」

 

「分かってる。一先ず怪しい部分、あの胸元でも探ってミュウを助け出すしか──────あ?」

 

 

一息ついて安堵したハジメがセイレーンに目を向けた瞬間、怪訝そうに片目を細めた。つられて刃が視線を向けるとハジメが何を見たのか、すぐに分かった。

 

沈黙するセイレーン・アニマ────その頭部が少しずつ元に戻っていく。修復とか、治癒のそれではない。まるで遡るかのように、元から破壊された痕跡などないように、セイレーン・アニマの頭部が完全に綺麗に戻っていた。

 

 

「傷が治った?いや、違う。これは…………」

 

「────『再生魔法』、だと?」

 

『言ったはずだよ。私達が何の為に、彼女を選んだのか、と』

 

『理解できないのならば、改めて教えてあげないとね。遊びはもう終わったろう?』

 

 

ようやく、ダブリスが困り顔であるかのような声音で語る。しかし、その声もすぐに無機質な、感情の欠片もない言葉へと様変わりしたのは、一瞬だった。

 

 

『君達は知り得ていない、人の想いの強さを』

 

『君達は理解していない、集った意志の強さを』

 

 

少年は無表情で嘲る、この程度の戦いで勝てると思い込んだ者達の愚かさを。少女は無感情に憐れむ、その程度の覚悟で取り込まれた海人族の娘を救えると思い込む、浅はかさを。

 

二人の声と共に、セイレーン・アニマの頭部が蠢く。結晶体の中から姿を現した人魚姫のアバター。今度は空虚な面ではなく、十字の光を浮かび上がらせたソレが、体を持ち上げる。

 

 

『人間の魂一つが、無限の可能性を持つように。込められた祈り、願いは世界すらも凌駕する』

 

『そして、セイレーンを構成するのは幾千、幾万の祈りと願い。救いを求める敗北者達の、奪われた者達の声』

 

『『────彼女は救いを願う祈りの代弁者、滅びを祈る願いの実現者。彼女は調律者であり祈り手。ただ、祈りを実現させるために唄う』』

 

【────私は、祈りの調律者】

 

 

不気味な不協和音と共に、セイレーン・アニマが声を発する。人には聞き取れないその音は、ミュウとより深く同化したことで自我を持ち始めたセイレーンのものであった。

 

 

【人には救えぬ、神には救えぬ、世界には救えぬ、排斥されし祈りを叶え、切り捨てられし願いを体現する。彼等の声を、私の願いを魂に刻め】

 

彼女の声と共に、『愚者の祈り』が瞳を見開く。ユラユラと手を伸ばす影に呼応するかのようにセイレーン・アニマが、両手を静かに上げた。

 

 

【────全ての祈りが、救われますように】

 

 

指を絡め、手を合わせ、人魚姫が祈った。三対の腕で、六本の腕で、祈りの所作を見せたセイレーン・アニマの胴体が動き、空中で円を描く。それはまるで時計の円盤のように、丸く円形を描く胴体を光輪のように示したセイレーン・アニマが静かに、宣告する。

 

 

────直後、セイレーンの歌が、世界を引き裂いた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

ソレの正体は、セイレーン・アニマが得た神代魔法『再生魔法』を利用した、外法の一端であった。再生魔法はただ傷を再生させるだけのものではない。その極致、真意はそれ以上のものである。

 

────時間そのものに干渉する魔法。それ故に一度滅びたものであれば、それを滅びる前のものに再生させることができる。セイレーンはそれを用いた、大規模破壊の技を実現させたのだ。

 

超高圧縮された音波による空間振動と、それを無制限に再生することで何重にも繰り返す、永続的な破壊。たとえ微弱であろうと幾千も束ねられた声が爆音となるように、蓄積されたセイレーン・アニマの放つ歌が、周囲そのものを破壊し尽くす声と化していた。

 

それが齎した反響、その被害は絶大であった。

 

 

「が、ァ────」

 

 

異変にいち早く気付いた刃がハジメを突き飛ばした瞬間、その破壊に巻き込まれていた。直後に襲いかかる、凄まじい破壊の嵐。無限に繰り返される何重にも圧縮された空間振動は刃の全身をズタボロに破壊して、ミンチ同然に変えていた。

 

 

「───────ご主人様ぁ!!」

 

 

血を零して落下していく刃を、ティオが受け止める。部分竜化で飛ぶ彼女の腕の中で刃は自然治癒によって何とか重体から治り始めていた。血の塊を吐き捨て、刃はゆっくりと目を向ける。

 

 

「ティ、オ…………他の、皆………は」

 

「丁度イクスが来たので、今は彼に任せている。イクスの能力であれば、ある程度空中でも動けるじゃろうて」

 

「そう、か………良かっ────待て、相棒は、ハジメは、何処だ」

 

混乱して顔を上げて周りを見る刃、そんな彼の言葉にティオもすぐに慌てて周りを見渡す。その直後に、不釣り合いなほどに気の抜けた声が脳裏に響き渡った。

 

 

『君の親友、何処にいるか教えようか?』

 

『君の相棒、どうなったか教えてあげるね』

 

 

────その瞬間、無理矢理捩じ込まれるように与えられる光景。自らを突き飛ばした刃に手を伸ばすハジメ。同じく破壊の嵐に飲み込まれた白髪の青年が、ズタボロに引き裂かれ、肉塊のようになって吹き飛ばされたのを。

 

海に落ちるその瞬間を見せられた刃は、呆然と溢す。

 

 

「は、じめ………?」

 

『アレは死んだね。いかに魔物を喰らおうと、いかに災厄の器であれど、アレでは即死は避けられない。君とは違って、彼は頑丈でないしね』

 

『残念残念、折角の器だ。生きて手に入られたら楽だったが────まあ仕方ない。彼は所詮、()()()()()()()だったということだ』

 

 

────その瞬間、刃の思考が弾けた。自らを抱き締めて止めようとしたティオの腕から抜け出し、脳裏にあった全ての考えを切り裂いて、彼は咆えた。限界を超えた怒りと、あらゆる理不尽を押し付けるモノへの憎悪のままに。

 

 

「────ダ!ブ!リ!スゥゥゥゥウウウウウウウウウッッッ!!!!!!!!」

 

 

瞬間、彼の形が崩れる。

全身の体を引き裂きながら無数の剣が、怒りに呼応するように迸った。無尽蔵に溢れる剣の奔流の中で、憎しみに囚われた剣帝が人の姿を失い、『祈りの滅皇(セイレーン・アニマ)』へと迫る。

 

 

◇◆◇

 

 

深海の底で、彷徨う影。

崩壊した迷宮の残骸の中で海に流されていたソレは、レーヴェルノート、ある英雄の残骸であった。

 

 

「────」

 

 

手足を失い、傍らにある槍しか残されていないソレは光輪を失った時点で動けなくなった。ある英雄の死体をダブリスが組み込んだ光輪によって動かされていた以上、人形の中に残された自我は消えていくはずだった。

 

 

────その消え行く魂の声を聞いたのは、人ではないある存在であった。かつて英雄が娘に名付けた由来となる存在、様々な世界を旅し、かつて過去に救った王女の記憶に残り、覚醒した彼女の魔力に惹かれて戻ってきた────原始の海獣に。

 

 

 

─────ォォォォォォン

 

 

ソレは、深海に揺蕩うその声を確かに聞いた。海に浮かぶ巨体の影、神秘的な力に包まれたその生物は本来生きてるはずのない死体に向かい、口を開く。海を呑み込むように開かれた大きな口はその死体を呑み込むことはなく────代わりに、自らの生命を与えたのだ。

 

 

「────────ぁ、あァ」

 

 

それは、制限付きの僅かな猶予であった。

ある原始の獣が英雄に与えた、微かな奇跡。本来死んでるはずの肉体に一定の生命を与え、消え行く魂に光を見せた。

 

ボロボロと剥がれた装甲の中で、ゆっくりと翡翠色の瞳が開かれる。海の中で再起したレーヴェルノートの残骸、かつての英雄は目覚めた。僅かに与えられた時の中、最期に交わした約束を、守れなかった約束を、果たす為に。

 

 

英雄と別れ、海獣は向かう。悲劇渦巻く戦場へ、自らと繋がりを秘める海人族の少女の、世界の危機を守るべく、神代から生きる存在は穏やかに啼いた。




セイレーン・アニマは割とクソギミックボスになります。本体はクソツヨ防御と周辺爆撃、近付いたら掴んで精神汚染(戦闘不能、最悪廃人)下に並んだ『愚者の祈り』(およそ数千体、殺し切ることは不可能)が常時叫んで精神汚染(特定の人間へのデバフ)を振り撒いた上で、本体の必殺ゲージを上げてくる。
 
その必殺技が広範囲破壊攻撃(直撃と同時に連撃で体力を削り切る)近くにいる分だけ即死に近づくクソ攻撃仕様。

なんだァ、このクソボスは???


そして広範囲破壊攻撃が直撃して瀕死になったハジメと、彼の死を嘲笑われたことで暴走する刃。事態がダブリス側に優勢になっている中、ある存在が動いてる所で今回は終わりです。

感想やお気に入り、評価などあれば嬉しい限りです!次回もお楽しみくださいませ!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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