ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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大いなる生命の源

「この化け物どもが!テメェら全部ブッ殺してやる!」

 

「咆える前に手を動かせ!バザック!────ノインさん!これで全てなんですね!?」

 

「ええ、幸いな事に現在いるアンチノミーが全てになります。お二人とも大変ですが、後少しです」

 

 

バザック、シーフと協力してエリセンの町を守るノインは現存するアンチノミーを一掃していた。ミュウが攫われて少しして、アンチノミー達の動きが明確に変わった。数で群れを成して襲い掛かる端末はノイン達ではなく、エリセンの町の住人を優先して狙っていた。

 

ハジメ達の身を案じたイクスが一足先に前線に向かったが、ノインの脳裏には苛立ちや不満などはなかった。あるのは先に向かった彼とハジメ達の安否の心配、そして現状をどう打破するかであった。

 

 

────それでも、残り数百体。ノイン達の意識のほつれを縫うように、アンチノミー達は動いていた。

 

 

「きゃああっ!?」

 

「コイツら!水の中から!」

 

 

エリセンの町に広がる水源から這い出て、防衛ラインを突破するアンチノミー。十体近くのアンチノミーが自警団と激戦を繰り広げる中、数体のアンチノミーが自警団を潜り抜け、非戦闘員の元へと向かう。

 

ノイン達には、それに気付いても止めることはできない。今止めれば、残りのアンチノミーが雪崩込み防衛ラインが崩壊する。悔しそうに戦いを続ける彼女達の視界に、『ソレ』は現れた。

 

 

「もう、止めて!」

 

「レミアさん!駄目ッ!」

 

 

襲い掛かるアンチノミーの前に立ち塞がるレミア。娘を攫われ、家族同然の皆を傷付けられることに耐え切れなくなった彼女の心からの叫びであった。しかしアンチノミーはソレに耳を傾けることなく、レミアへと鋭い爪を突き立てんとした。

 

 

────そのアンチノミーが、斬り刻まれる。

亜音に至る神速の槍が、その場に転がるアンチノミーを粒子状にまで斬り裂いたのだ。レミアの前に立ち塞がったモノを見た瞬間、その場の全員とアンチノミーが混乱した。

 

 

『れ、レーヴェルノートを確認。暴走、制御が効かず────ガガッ』

 

 

地面を叩くような足音と同時に、アンチノミーのコアが刺し穿たれる。神速の刺突に耐え切れず沈黙した同胞を見て、残りのアンチノミーが冷静に動いた。

 

 

『レーヴェルノート、「光輪」確認出来ず。起動理由、不明。統括機構へ至急要請、緊急プログラム強制試行を要請する』

 

 

狙うはレーヴェルノートの残骸が守ろうとした存在。その人物、レミアを優先的に狙い、アンチノミーは鋭い爪を射出してレミアを襲う。

 

しかし、戦場に現れたソレはレミアを庇った。身を挺して爪の一撃を受けた上で、掌から放った槍で全身を砕いた。アンチノミーが音を立て崩れ落ちた時には、ようやくアンチノミーを一掃し終えた時のことだった。

 

 

「アイツ、ナニモンだ。あれだけいたアンチノミーを半分以上殺しやがったぞ」

 

「その上で、人を守るとは一体…………」

 

「貴方は…………私と同じ、いや同じ扱いを受けていた者なのですね」

 

 

混乱しながら警戒を緩めないバザックとシーフ、そんな二人の隣でノインは全てを察したように憐憫に等しい眼差しを静かに伏せた。

 

ゆっくりと立ち上がったその影に、護られた海人族達は身構える。人の造形をしてるよう見えるソレを、普通の人間とは思えなかった。先程のアンチノミーと同じ化け物だと思い、槍を構えてしまう彼等の気持ちは分からなくもない。

 

 

「化け物!レミアさんから離れろ!」

 

「いや、待て……………いや、そんな────嘘だ、そんなことッ」

 

「どうした?レプカ!何が分かった?」

 

 

槍を構える自警団の中で、いち早く気付いたレプカが動揺のあまり槍を落として言葉を失う。ゆっくりと振り向いてレミアに近付こうとするレーヴェルノートに、自警団が槍を構えた瞬間、掠れるような声が響き渡った。

 

 

「──────れみあ」

 

「…………あなた?」

 

 

呆然と、レミアが呟く。

姿が明らかに変わっても彼女には分かった、分かってしまった。目の前にいるのが愛する人であることに。その瞳を、優しい声を、忘れたことはない。それでも理解が追い付かないレミアに、残骸であるソレは優しく、ポロポロと言葉を紡いだ。

 

 

「ようやく、君を………守れた。約束を、守れなくて、ごめん」

 

「………っ」

 

「君と、ミュウを、置いていって…………必ず、帰ると………約束、した……のに」

 

 

その言葉にレミアは泣き崩れ、その残骸に────フリントに抱き着いた。彼女が知る、大切な人で間違いなかった。それを理解した一同、海人族の誰もが取り乱していた。

 

 

「ふ、フリント様!?そんな、まさか!」

 

「生きていたのですか!?いや、そもそもその身体は………!」

 

 

そんな彼等の問いにフリントは答えない、いや答える余裕がなかった。胸に飛び込んできたレミアを抱き締めていたフリントはゆっくりと顔を持ち上げる。何処か遠くを睨んだ彼はレミアを優しく撫でて、告げた。

 

 

「────ご、めん………レミア」

 

「…………えっ?」

 

「約束を、あの娘、ヲ、助け、ナきゃ…………待ってて、くれ」

 

「っ!待って!あなた!フリント!」

 

 

直後、槍を携えて飛び去るフリントに、必死にレミアが声を上げた。行かないで、と叫ぶ彼女の声にフリントは応えられない。彼が目指す先はただ一つ、彼の目的は唯一つ。

 

────愛する娘を、守る事。

 

 

◇◆◇

 

「おい!ハー坊!しっかりしろ!」

 

 

海の中、沈み行くハジメを救ったのは意外な相手であった。人面魚の魔物リーマン、おっさんヅラをしたその魚はハジメにとっても無関係ではなく、知り合いであった。

 

出会いの始まりはライセン大迷宮。水に流される中初めて出会ったシアを動揺のあまり溺れさせ、次に出会ったフューレンでは見世物にされていた所をハジメ達に解放されたのだ。

 

そこからハジメを友としたリーマン、もといリーさんは魚を操ってハジメを何とか保護していた。しかし、リーさんを以てしてもハジメの重体はどうしようもなかった。

 

 

「ハー坊、なんてケガだ………畜生、まさか真上にいるアレの仕業か?俺の能力じゃあ空に浮いてる奴はどうしようもねぇぞ」

 

 

肉塊にならずに済んだのは、ある程度普通の人間よりも耐久がなっていたからか。しかしそれでも全身をズタボロに裂かれたハジメの傷は酷く、治癒する術を持たないリーさんはハジメの仲間の元へ連れて行くべきか迷っていた。

 

 

────その瞬間、ソレはリーマンの前に現れた。圧倒的な巨体、自分とは比べようもない神秘的な、あまりにも生命的にも膨大な魔力を秘める存在。巨大なクジラのようなソレが何であるか、リーさんはすぐに察した。

 

 

「こ、コイツぁ…………いや、規格外だぜ。まさか俺達の中でも眉唾な、神話の獣だってのか!?」

 

 

トータスに語られる神話、エヒトの支配によって抹消された歴史の一つで語られる、創世記の話。かつて六神が世界を分けて創るより前に、世界には原始の獣が居た。人の、神の支配も受けず、数多の歴史を生き延びたモノ。

 

その一体は、『大いなる海の根源』と呼ばれていた。海より産まれ、海へと還る生命の循環を齎した、海の始祖。人間の中にも、其の『啓示』を受けた者が幾人か居たと言う。

 

その獣が、始祖の海獣がどうしてここに、とリーマンは困惑していた。すると始祖の獣が彼等の前で大きな口を盛大に開く。

 

 

────ォォォォォォォン

 

「ハー坊を渡せ、って言うのか?ハー坊に何を…………いや、信じていいのか?」

 

────ォォォォォォン

 

「ああ、分かったよ。アンタに従うさ………ただ、コイツは俺の恩人で友なんでね。もし傷付けようものなら、アンタでも相手をするぜ」

 

 

睨みながら脅しを向けるリーマンの言葉を聞いてか知らずか、海獣は大きく開かれた口を開き、リーマンごとハジメを呑み込んだ。口に含むようにした獣はそのまま大きく啼きながら、上へと向かう。泳いでいく巨影は海上へと、絶望渦巻く戦いへと。

 

 

◇◆◇

 

 

「────意識が覚めたか、白崎香織」

 

 

気を失っていた香織に声を掛けたのは、イクスであった。彼は展開したドローンによるバリアを展開しながら香織と近くにいたシノを防御結界によって庇っていた。

 

 

「イクス、さん………?どうして、いや………一体、何が」

 

「────滅皇、セイレーン・アニマと言ったか。奴による広範囲殲滅攻撃だ。直撃を受けたティオもダメージを負っている。ユエ達の方は何とか防げたみたい、だな」

 

「そ、そんな………っ!ハジメくんは?刃くんは!?」

 

「ハジメなら見えない。恐らく直撃で動けないダメージを負った。最悪、瀕死の可能性が高い」

 

 

どうしてそう確信したように言うのか、と香織が困惑したようにイクスを見た。当のイクスは香織の疑問に気付いたらしく一息ついたように、何処か言いづらそうに目を細めながら呟いた。

 

 

「もう一つ、刃の方だが────」

 

【La────♪】

 

【「ダ!ブ!リ!スゥゥゥゥウウウウウウッッ!!!!!」】

 

「…………最悪、以外の何物でもないな」

 

 

巨体で祈るセイレーン・アニマに、巨大な黒い塊が襲い掛かる。ソレは生成された無数の剣が一塊となっていたのだ。蟻が結束し、一つの群れが大規模になるように。無尽蔵の魔剣が結合したその姿は怪物以外の何物でもない。

 

その黒い群体の中、中心となる黒鉄刃は完全な暴走していた。その姿は黒く歪んだ魔剣の鎧に身を纏い、バックリと開いた兜の隙間は鋭い歯の並ぶ口のようになり、その口の下には怒りと憎悪に満ちて歪み切った彼の顔があった。

 

 

「アレが、刃くん………?」

 

「ダブリスと会話したような間の後に、ああなった。恐らく直撃した南雲ハジメのことで煽られたか」

 

 

セイレーン・アニマの攻撃で致命傷を受けたハジメの事を指摘され、怒りと憎悪によって暴走した刃。しかしそれでもセイレーンに喰らいつき、撃破しようとする理性は残っていた。

 

 

「ご主人様!冷静になるのじゃ!怒り任せに暴れては────ぬおっ!?」

 

「コイツら!邪魔しないでよ!」

 

 

慌てて刃を抑えようと向かうティオやソーナであったが、海上に浮かぶ無数の『愚者の祈り』による攻撃を受ける。歌を歌う黒い影はユラユラと揺れながら、歌を歌い続ける。

 

その動きはまるで、刃を周りから孤立させるように徹底されたものであった。

 

 

【L、L………Laa────】

 

『ふぅん、セイレーン・アニマじゃあ押し切られるか。仕方ない』

 

『こういう機会だ────手を貸そう』

 

 

無数の剣の塊に押し切られそうなセイレーン・アニマ。しかし、その様子を見咎めたであろうダブリスが動いた。亜空間から二本の腕が、魔神ダブリスのものである両腕が伸びる。

 

 

「ダブリスッ!テメェは、テメェは俺が!殺してやる!!」

 

『へぇ、殺してくれるかい?私達を────数多の悲劇を救い続けた私達を』

 

『君に、私達を救える(殺せる)かな?今の剣帝、世界の生みし抑止の子よ』

 

 

その片腕に飛び掛かる無数の剣の塊。奔流となる魔剣を打ち砕き刃自身を掴もうと手を伸ばす。当の刃は怒りに飲まれながらも回避して追撃を叩き込もうとして、片方の手に捉えられた。

 

 

『怒りのままじゃあ、神の力は練れない』

 

『それじゃあ私達は殺せない────あれ?』

 

 

余裕を見せたダブリスが困惑したのは、自らの手を砕くほどの魔力を放つ刃。ダブリスの、魔神の腕が歪むほどに異常に活性化した黒い魔力。ソレが怒りに呼応しているかのように出力を引き出しているのは、明白だった。

 

 

『少し、気にはなっていた。君の魔力、少し禍々し過ぎる』

 

『そして無尽蔵、不可解だね。何が君の力の根源か、誰が君に力を与えているのか』

 

 

二人の少年少女は刃から放たれる禍々しい魔力に既視感を感じていた。そして魔力を感知、より深く感知していき、二人は視た。

 

────黒く巨大な棺の前に立つ白黒の少女。凄まじい殺意と敵意、明確な拒絶の意志を向ける存在に、ダブリスは感知を解いて不敵に笑う。

 

 

『ああ、そういうことか────君が「彼女」のお気に入り、彼女が喚んだのも、君が理由か』

 

『道理で魂を塗り潰せない訳だ。なら、魂と肉体を切り分け、力の全てを再利用しよう。魂にさえ触れなければ、彼女でも接触できない』

 

『『そして、「これ」ならば────君は防ぎ切れない』』

 

 

ダブリスの手から逃れ、そのまま腕を破壊せんとする刃に黒い手が伸びた。セイレーン・アニマが出した黒い手、それを跳ね除けようとした刃だが、掌が僅かに触れた瞬間、ソレは発動した。

 

 

【────■■────♪】

 

「グっ、あがあああああッ!!?」

 

 

肩から胴体に、深い傷と血飛沫が走る。攻撃はされていない、それは明確。セイレーン・アニマがしたのは攻撃などではなく、過去に受けた傷を呼び起こしたに過ぎない。それが、再生魔法の力の一つ。

 

かつて大魔王から受けた致命の一撃が、呼び起こされる。少し前はそれだけで沈んだが、刃の全身が分かたれることはなかった。その身に秘めた神の力が増したからか、或いはその傷を癒した少女の祈りの強さ故か。

 

血を走らせて海に落ち行くはずの刃を、イクスが受け止める。何とか即座に空を蹴り戻ったイクスは刃を乱暴に足場に放り捨てた。

 

 

「あがッ!?」

 

「香織、刃を治せ………で?頭は冷えたか」

 

「っ、まぁ………な。痛みのお陰で、何とか落ち着けた。まだ、怒りは収まらねぇがな」

 

「ならば奴を、ダブリスの目論見を打破することに注力しろ。アレを放置すれば、それこそ世界の終わりだぞ」

 

 

駆け寄った香織からの治癒で傷を塞いだ刃は、受けたダメージによる痛みとイクスの言葉もあって、多少は我を取り戻せたらしい。頭を掻き毟って一息ついた彼に、イクスはセイレーンを睨みながら口を開く。

 

 

「今はまだ、本来の力を発揮できていない。奴が人々の魂を取り込み完全に至れば、奴は魔神────滅皇として世界を滅ぼす厄災として君臨するだろう」

 

「イクスさんの力じゃ、ダメなの?」

 

「滅却の力であれど、完全体と化した奴には通じないだろう。通じたとしても、あの再生魔法の力で無効化される。可能だとすれば今の段階でしか奴を滅ぼせない」

 

「じゃあ、何で今やらねぇ?出来ねぇ理由があるのか?」

 

「──────その過程で、あの娘(ミュウ)が死んだとしてもか?」

 

 

二人の疑問に、イクスは簡潔に答えた。

あまりの簡潔さと衝撃具合に刃と香織が絶句した見てから、イクスはその理由を冷徹に、淡々と語り出した。

 

 

「魔神を殺すには中核を我が魔弾で、滅却の力で消し去ればいい。だが、セイレーン・アニマ、奴のコアは他ならぬミュウだ。あの子は今、セイレーン・アニマの依代として取り込まれ、核として利用されている。セイレーン・アニマを殺すには、コアとなっているあの娘を殺す以外にない」

 

「────ミュウを、殺せってか?」

 

「決断の必要性はある。この世界か彼女一人か。我々は選択を、決断せねばならない。ダブリスは、それを知った上で彼女を求めたのだろう」

 

 

セイレーン・アニマは後少しで完全体へと昇華する。もしそうなればこの世界を滅ぼす厄災の尖兵として大勢の人々を殺し、悲劇を作るだろう。殺すなら、滅ぼすなら今しかないが、そうするならばコアとなっているミュウごと殺すしかない。

 

 

「なら!答えは一つだろ!」

 

「刃くんっ!」

 

「早まった真似を!!」

 

「ミュウを助けた上で、奴の覚醒前にブッ潰す!どちらも捨てねぇ!どっちも諦めねぇよッ!!俺達がソレを諦めて、どうするってんだ!!」

 

 

言うや否や、刃は香織やイクスの静止を振り切り、飛び出していく。言ったはずだ、全てを救うと。必要の犠牲だと、割り切って溜まるかと。決意を吼える刃の言葉に────魔神は嘲るように、笑っていた。

 

 

『────ならば、希望も選択も、全て踏み潰してあげよう』

 

『冒涜的に、圧倒的に────絶望的に』

 

【LaLaLa、La────♪】

 

 

直後、セイレーン・アニマが更に唄う。複数の声が入り混じった唄声が響くと同時に、世界が暗転した。満ち足りた青空が反転したような赤黒いものに染まり、その場にいる全員が変化を示した。

 

 

「っ、魔法が……!」

 

「魔力が、乱される……なに、これ!」

 

「それに、嫌な声がします………!」

 

「声が、頭に………気分、悪い………」

 

「魔力と精神を乱す声────セイレーン・アニマめ!『領域』を発現したというのか!?」

 

 

『領域』、それは魔神レベル────神に匹敵するモノに許された異能。本来ある世界に、自らの世界を上書きする偉業。ある魔神が世界を滅ぼすために塗り上げた世界を黒に染め上げたように、ある魔神が領域に取り込んだ世界を結合して一つにしたように。ソレはいわば結界術を超える、概念の強制。

 

セイレーン・アニマ、祈りの滅皇の持つ領域は『精神汚染と魔力撹乱を齎す』ものであり、ソレは人々のあらゆる戦いの可能性を削り取るものである。

 

 

「それが!どうした!いくら魔力を乱した所で────!」

 

『そう、君は頑丈だからね』

 

『だからこそ、私達が君を潰そう。念入りに、ね』

 

 

再び伸びた魔神の腕が、掌から光を放つ。空中に飛んでいた刃は魔剣から放つエネルギー砲で一気に緊急回避をする。片方の掌から放たれる光弾の雨を掻い潜る刃の視界に、もう片方の腕が握った大剣を振るったのを目にした。

 

 

「そんなの、避け────」

 

『────■■■■■■』

 

『■■■────』

 

 

振り下ろされた斬撃を回避した刃の耳に、ダブリスの詠唱が響く。直後、その瞬間────刃は理解不能のダメージを負った。

 

切断された両腕が、空を舞う。吹き飛ばされた刃は思考のズレを、意識の中にある歪みに混乱して動けなくなる。

 

 

(馬鹿、なッ!?今のは、何だ!?俺は避けた!あの攻撃、間違いなく当たった感覚はなかった!なのに、一瞬で腕が斬り落とされた!何を、された!?)

 

「今のは…………フリントさんがやられたのと、同じ!?」

 

 

かつてフリントの記憶を見た香織は、ソレがフリントを殺した致命の一撃と同じ原理だとすぐに察した。防御不可能、回避不可能、避けたはずの相手に直撃させる不条理の異能。ダブリスが行使したであろうその力は、一度見た事があっても理解できるものではなかった。

 

 

『はい、これでお仕舞い』

 

『今度は逃げられないよう、抵抗できないよう────グチャグチャにしてあげる』

 

 

脳と身体、二つが停止した今、無防備となった刃に無数の黒い手が殺到する。四方八方から迫る黒い手に抗いようもなく、呑み込まれる刃。響き渡る生々しい音が繰り返される中、ダブリスは指を鳴らし、音を消し去った。

 

 

『────これが、現実。君達人間の足掻きは、取るに足らぬ泡沫に過ぎない』

 

『────これこそ、真理。正しく、絶望。小さな蟻の足掻きでは、曇り満ちた空を晴らすには至らない』

 

 

黒い手に吊り上げられ、刃は全身を血に濡らしながら息を吐く。圧倒的な暴力を以てして痛めつけられた全身は両足を砕かれ、中身の臓器もグチャグチャにされている。

 

それでも、血を吐く彼の瞳はギロリ、とその場にはいないダブリスへと向けられていた。

 

 

「……………ッ」

 

『あはは、凄いね。骨を潰し、肉を抉り、そこまで削っても尚、諦める意志を見せようとしない』

 

『それでこそ、希望の担い手。この戦いの絶望的な引き金を引く、一つの犠牲に相応しい』

 

「────ダブリス!此方を見ろッ!」

 

 

そして、すぐさま駆け付けたイクスが魔弾を装填したリボルバーを構える。滅却の力、魔人殺しの力を秘めた一発を込め、その弾丸をセイレーン・アニマへと向けた。

 

少しでも刃から意識を離させようとした脅しに、ダブリスは引っ掛かりすらしなかった。好きにすればいい、とでもいうような態度を前にしても、イクスは引き金を引くことは出来なかった。

 

 

「ぐ………っ!?クソ!」

 

『そうだ、滅却師。君には撃てない、君は優しき女神の使徒だからね』

 

『君の魔弾は魔神を殺せても、人は殺せない。その優しさ故にね』

 

 

嘲った魔神の掌から光弾が放射されていき、イクスへと迫る。勿論回避してみせたイクスだったが、ダブリスの詠唱と同時に直撃を受けて墜落する。

 

既に動ける者はいない。ユエ達は足元の『愚者の祈り』の相手で一杯であり、唯一の実力者である刃とイクスも倒れた。ダブリスは嘲笑とそれ以上の憐れみを秘めた声で、高らかと宣告した。

 

 

『さぁ、諸君。いよいよもって、終幕にして序幕の時が来た』

 

祈りの滅皇(セイレーン・アニマ)の、清廉なる祈りは完遂する。この世界の絶滅、愚者たる神の死、絶望に瀕した彼等の悲鳴と祈りを以て、我等の悲願は果たされる』

 

『『人世の希望たる剣帝の死を以て、この世界に訪れる破滅の序章を叶えでよう』』

 

 

黒い手が、刃を捉える無数の腕が、一斉に動く。

全身を掴むソレは一定方向に動き、刃の全身を捻ろうとしていた。ミチミチ、と彼の肌が悲鳴を上げるように血を走らせる。

 

首を右に、胴体を左に、両足を左右反対に────原始的かつ、最悪な方法で、彼を殺そうとしていた。

 

 

「っ!主様!」

 

「刃!いやっ、止めてぇッ!」

 

「ご主人様ぁ!おのれ!邪魔じゃ!!」

 

「………っ!」

 

「刃さん!………そんなっ!」

 

「────刃くん!」

 

「………クソ」

 

 

全員が、絶望する。

誰もが届かない、誰もが間に合わない。両手を重ね合わせ、歌声と共に祈るセイレーン・アニマの音色と同時に、黒い手が刃の全身を引き裂かんと力を込めていく。

 

 

 

 

────直後、だった。

 

 

 

 

────ォォォォォォン

 

 

海が、割れる。

波を引き裂き、ソレは海上へと姿を現した。淡い光を伴うその巨影、巨大な鯨のような生き物は優しく、穏やかに啼いて、セイレーン・アニマの眼前へと飛来する。

 

────そして、その巨影の真上から二つの影が駆け抜けていく。一つ、現れた影は音速の勢いで空を走り抜け、黒い手を全て切り裂いていく。

 

全ての手から解放され、落下を始めようとする刃。ボロボロであった彼の服を掴み、もう一つの影が飛び出す。意識を失いかけながらも自動再生で肉体を修復し始めた刃の目が、その影の正体を見た。

 

 

「よう、相棒。待たせたな」

 

「は、じめ…………」

 

それは、一度瀕死となって海に落ちた筈の親友であった。

 

 

◇◆◇

 

 

『南雲ハジメ、まさか生きていたとはね』

 

『だが、可笑しい。あれだけの傷、神水を以てしても治せるものじゃない。…………そして』

 

 

ダブリスの意識が、ソレに向く。

未だ音速で迫る影はセイレーン・アニマの全身を突き抜け、頭部にある歌姫の身体に迫る。再度伸びた黒い手が捩じ切らんと溢れ出すが、無数の手を切り裂いたソレは、歌姫の身体を貫いてようやく停止する。

 

 

「ダブ、リス………っ!」

 

『レーヴェルノート、いや今はフリントか』

 

『肉体は一度殺し、君を動かす光輪は壊れた。それでも尚、私達に迫る君の執念は、やはり凄まじい』

 

「ボクの、娘を────返せッ!!」

 

『えーっ?…………嫌だけど』

 

『うーん…………無理だね』

 

 

軽薄に笑うダブリスはセイレーン・アニマに槍を突き立てたレーヴェルノート、もといフリントの魂の叫びを切り捨てる。セイレーン・アニマが歌った直後に、フリントの肉体に刻まれた過去のダメージが呼び起こされ、全身に傷を受けたフリントはそのまま海に落ちて消えた。

 

 

「ハジメ、無事かよ!?一体、どうやって!」

 

「何とか、な。それもこれも、あいつのお陰だよ」

 

「あいつって、あのデカい鯨みてーやつか?」

 

 

何とか自動再生で治った刃が声をかけると、ハジメは真下に浮かび巨影を指差す。あのクジラが助けたのか?と困惑するのを余所に、ダブリスの声が────無感情とは思えぬ程の侮蔑と憎悪を込めた声が、響き渡る。

 

 

『何をしに来た、「原始の大海」』

 

────ォォォォォォン

 

『救いに来たと?今更?幾千、幾万の悲劇を、悲しみを知りもせずただ世界を彷徨い続けた獣風情が』

 

『『彼等の挫折を、絶望を知り得ながら!救世を為す力を秘めながら、そう在ろうともしなかった畜生如きが!!』』

 

────ォォォォォォン

 

 

ダブリスの感情に満ちた叫びに応えるように、其が啼いた。まるでダブリスの言葉を否定するかのように、海から打ち上がったソレは水を辺りに撒き散らすように、それら全てを破裂させるような反響する声音で啼く。

 

すると、空気自体が、世界が変化する。

セイレーン・アニマを中心として展開された赤黒い世界が、精神と魔力を汚染する『領域』が、中和されたのだ。

 

 

「声が、消えた?」

 

「魔神レベルの『領域』を中和するなど………まさか、アレは『神代の界獣』か!?」

 

 

かつて、数多の世界で見られた神代を生き、創生を担った獣。数多の世界での創世記にて生命の源たる海に生命を与え、トータスにおける創世神話で水神フローネヴェーテの番として扱われていた存在。

 

それを示す名は数多に存在する。『原始の大海』、『蒼き脈動』、そして────『大いなる海(ミュー)』。ソレを現す名は、このトータスでは一つである。

 

 

『何処までも、我等の救済を否定するか────「星海の王」ヴィーラ=アルプトラ!』

 

『良いよ、ならば望み通り!君が守ろうと動いたこの世界を、滅ぼしてあげよう!君が救えなかった、救わなかった弱者達の祈り!彼等の唄によって!!』

 

 

「ハッ!ほざいてろよ!ダブリス!────相棒!」

 

「ああ!俺達の手で、ミュウも世界も、救ってやるぞ!!」

 




『星海の王』ヴィーラ=アルプトラ

トータスや無数の世界の創生に関わる原始の祖獣。神の如く存在であり、生命の母たる海の源でもある。かつてフリントの記憶には伝承の存在として記憶されていたが、幼い頃のソーナを救ったこともある。

その伝説の通り、無尽蔵の生命力を秘めており、近くを通過しただけで周辺の生物に絶大な生命力を齎す。口に含んだ者はたとえ死人であろうと生命を与え、瀕死の者も完治させる。

喋ることはないが、明確な意思を持っておりダブリス等の魔神への敵対────人々や生命体を救うこと為に、トータスへと飛来した。

余談だが、今作ではミュウの名前の由来となっている。自らの名と同じものを持つミュウとかつて盟友であった水神の巫女であるソーナに惹かれて、この場に訪れた。

これだけ無茶苦茶な存在ですが、海に限定して世界を渡る次元移動も出来ます。まあ、複数の魔神が渦巻くトータスに突入することは出来ても離脱は出来ませんが、ヴィーラはそれを考慮の上です。


因みにヴィーラが居なかったら、刃はそのままダブリスに殺されてバッドエンドでした。まあ、どうにか出来てもハジメが死んだりする為、これがダブリスもといセイレーン・アニマ攻略には必須と言う。運ゲー過ぎんかね………?


次回、セイレーン・アニマ決着にいきます!宜しければ感想やお気に入り、評価などよろしくお願い致します!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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