ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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次回で今回の章は終わりとなります!ハイペースって思われるかもしれませんけど、よろしくお願いします!

誕生日だからって急いだわけではありませんよ!!?(動揺)


願い集う極剣・英雄の眠る時

『セイレーン・アニマ!祈りを捧げ、唄うといい!』

 

『君の祈りが全てを救う!破滅、絶滅、壊滅を以てして!』

 

【La────♪】

 

 

再起した祈りの滅皇、セイレーン・アニマが声高らかと歌う。三対の手を重ね、祈り高らかと歌うその声音は精神を汚染する力を秘めており、生半可な者では戦えず、最悪は発狂するレベルである。

 

だが、この場に立つ者達に恐れることはなかった。先程までとは違う。明確に、頼れる味方がいるからでもあった。

 

 

────ォォォォォォン

 

「やっぱり!あのクジラのおかげで、歌声の精神汚染は抑えられてる!」

 

「チャンスだ!今の内にヤツに全力をぶつけるぞ!」

 

「侮るな、二人とも!微量だが精神汚染の力は残っている!神獣の力で中和されてはいるが、完全ではないぞ!」

 

 

前に出ていく刃がフェンリルによる魔力を纏う斬撃を放ち、ハジメは両腕に抱えたオルカンとシュラーゲンによる一斉掃射を叩き込み、イクスは左右に手にしたサブマシンガンとグレネードランチャーによる爆撃を繰り返し、セイレーン・アニマを迎撃する。

 

セイレーン・アニマが放つ歌声、精神汚染の類は『星海の王』ヴィーラ=アルプトラによる生命力のヴェールにより中和されている為、前よりかは戦いやすくなっていた。だがそれでも、セイレーン・アニマを砕くほどのダメージには至らない。

 

 

「クソ!相変わらず硬ぇなぁ!」

 

「だが、効いてはいる!手数は足りねぇがな!!」

 

「ユエやソーナちゃん、皆がいれば………!」

 

「無理もない。下にいる『愚者の祈り』、アレを無視するのは危険だ」

 

 

星体魔法による援護射撃を放つ香織の希望に満ちた言葉に、イクスは厳しいとばかりに首を横に振った。セイレーン・アニマの下に集う黒い影、『愚者の祈り』を放置すれば中和しきれないほどの魔力と精神への干渉────先程、ハジメ達を瀕死に追い込んだ大技の為の祈りを捧げてしまう。その為にも、彼女達は愚者の祈りの注意を引かなければならなかった。

 

だが、そんな彼女達にも好機は訪れた。意外な援軍、という形で。

 

 

「よぉ、シアの嬢ちゃん!大変そうだな!手を貸そうか?」

 

「えッ、あ、貴方はっ!?」

 

「えぇ!?ナニ、知ってるの!?シア!?このオジサマみたいな顔のお魚さん!?」

 

「おうよ、ハー坊の友 リーさんだ。それと、遠回しで気を遣われてる感じがするなぁ」

 

 

突如海面から姿を見せた魚、もといおっさんヅラを見たシアが凄まじい勢いで咽る。それでも心当たりがあったらしく反応した彼女に、近くにいたソーナが困惑したように問い掛け、おっさんの顔をした魚、リーさんは苦笑いしていた。

 

 

「シアの嬢ちゃんも息災そうだな。見た感じ、この辺にいるあの黒い奴等の相手に困ってるって感じか?」

 

「は、ハイ、そうですけど…………リーさん、助けてくれるんですか?」

 

「おうよ、最も俺には手はねぇが、別の力はあるから────な」

 

 

リーマンが目を光らせると同時に、無数に群れる『愚者の祈り』の足元が崩れ始めた。いや、足場となっていた影が崩れ、影たちが海に落ちたのだ。それと同時に、海中から無数の魚が影達に群れていく。

 

 

「ハッ!ハー坊の予想通りだな!ある程度脅威と認定した敵には攻撃するが、力の無い生物相手には攻撃しねぇ!嬢ちゃん達!今の内だ、ハー坊達の援護に行きな!」

 

「リーさん!けど、この数を一人でなんて!」

 

「話はハー坊から聞いてる!あの化け物は、ハー坊の娘が取り込まれたもんだろ!?父親としても友としても、ハー坊の助けになりたいのはおっちゃんのワガママだからな!気にせず、先に行け!」

 

「────ならばそのワガママ、付き合わせてください」

 

 

一人て言葉を受け持とうとしたリーマンの言葉に割って入ったのは若い青年の声であった。直後、上空に開いた空間から現れた数人が『愚者の祈り』へと斬り掛かる。その一人、シーフが語り掛ける。

 

 

「貴方達がハジメさんのお仲間様ですね!此方はボスから話を聞いております!どうかこの場は我々にお任せを!」

 

「なら、任せた」

 

 

そんなシーフの言葉を、ユエは一先ず信じる事にした。この前線に来て助けに来た。それだけでも信用には足る。故に信じ、言葉を彼らに託すことにし、ユエ達は軽く礼を言ってからハジメ達の元へと戻る事にした。

 

 

「おいおい!俺達にとっちゃあ連戦だぜ?休む余裕もねぇのかよ!?」

 

「────ならばお前は一人で休んでいろ、腰抜けめ」

 

「あァ!?オイオイオォイ!ヴェルヌーイ!誰が腰抜けだって!?こんな雑魚ども、余裕で連戦してやるァ!!」

 

「泥のような敵か。そう言うのを斬るのは初めてじゃな────そして、よろしく頼むぞ。魚のような者よ」

 

「助太刀、感謝するぜ。お陰でハー坊達の助けになれそうだ!」

 

 

リーマン、シーフ達はそう言って『愚者の祈り』への猛攻を始める。上空で戦うハジメ達の勝利を信じ、疑うことはなく。

 

 

◇◆◇

 

 

そして、上空で戦うハジメ達。セイレーン・アニマがそれを無視して無理矢理歌おうとしたその瞬間、砲撃がセイレーン・アニマの頭部を穿った。ソレは誰の攻撃でもなく、ハジメですら驚きを隠せなかった。なにせ、自分異界にそんな攻撃ができるのは、一人しか知らないからだ。

 

 

「よぉ、ハジメ。困ってそうだな、手伝ってやるよ」

 

「っ!レオンハルト!」

 

「おいおい、止せよ。迷宮での件は悪かったって、あれは俺様の都合だが仕事は仕事なんでな。使命はあったが、悪気はねぇさ」

 

 

突如現れたレオンハルトにハジメはオルカンの砲口を突き立てた。迷宮の攻略の際、彼の妨害で神代魔法を手に入れられなかったのは浅からぬ因縁でもある。しかし両手を広げ、無害を示すレオンハルトの態度を信じることにしたのか、ハジメはオルカンを下げて睨み返した。

 

 

「今回だけだ。次裏切ろうもんなら、容赦なく撃つぞ」

 

「安心しろよ。俺様は後ろから撃つことはせん。大切なものを優先することはあれど、な」

 

 

そして、合流したユエ達の援護もあり、全員が一斉に攻撃を繰り出す。炎が、魔法が、爆発がセイレーン・アニマを飲み込んでいく。余裕で笑っていたダブリス、セイレーン・アニマには通じていないと言うような彼等の声は、突如動きを止めたセイレーン・アニマによって止まった。

 

 

【La、L、a────】

 

『セイレーン・アニマ?一体、何が…………いや、まさか』

 

『依り代なる彼女が、揺らいでるというのか………?』

 

 

◇◆◇

 

暗い世界の中で、ただ静かに祈っていたミュウ。彼女にそれ以外の思考は存在しない。ただ祈り続け、セイレーン・アニマの依代となっていた彼女の前に、彼は現れた。

 

 

『…………やぁ、君がミュウかい?』

 

『?おじさん、誰なの?』

 

『はは、ボクもオジサンと呼ばれる年か。ボクは…………そうだね、キミの父親だよ』

 

 

そう名乗る白髪の青年の姿に、ミュウはようやく朧気な意識から目覚める。思考を溶かしていた何かから解き放たれたような気がしたミュウは不思議そうに、目の前の青年を見た。

 

 

『ちち、おや?ミュウのパパは、パパだけなの』

 

『……………うん、そうだよね。ボクは、レミアの、君のお母さんが話していた居なくなっちゃったお父さんのことなんだ』

 

『居なくなっちゃった、お父さん────ダメなの!ママに謝るの!ママ、ずっとお父さんって人のこと、気にしてたの!ずっと一人にして、悪いことなの!』

 

『本当に、君の言う通りだ。レミアには悪いことをした。だから、君をここから連れ出して、お母さんの元に返さなきゃいけない』

 

 

そう言われて、ミュウは思い出した。

自分が何故ここにいるのか、エリセンの町で魔物に攫われたことも。その魔物によって取り込まれてから意識を失い、二人の少年少女から言われるがままに祈っていたことに。

 

 

『でも………皆、悲しそうなの』

 

『…………彼等か』

 

『ミュウが祈れば、皆救われるって、あの人達言ってたの。辛くて、悲しくて、皆誰かに救いを求めずにはいられないって、だから』

 

『────死者は死者だ。今を生きる君が、彼等の為に全てを捧げる必要はない』

 

 

白髪の青年、フリントは空を見上げながら告げた。自らに言い聞かせるように、彼は語り始める。

 

 

『彼等は既に死に絶え、その祈りすらも利用され、引き出され続けている。救いを求めても、君のような子供を利用してまで救われようとする者達はいない。ボクも含めて』

 

 

そうして、フリントはミュウの手を掴んだ。ここから先に行けば、外側からも彼女を救い出せる。彼は穏やかに微笑みながら、隣を歩くミュウに優しく語りかけた。

 

 

『ねぇ、ミュウちゃん…………パパは、好きかい?』

 

『うん!パパは好きなの!』

 

『………そうか、じゃあパパやママの所に帰らないとね』

 

 

◇◆◇

 

【a、a────】

 

「────ッ、反応が変化した!」

 

「イクス!どうした!?」

 

「胸元のコアから強い共鳴反応が出ている!あそこに────居る!」

 

 

セイレーン・アニマから響いたのは歌声ではなく、悲鳴のような叫びであった。それに呼応するような反応を感じ取ったイクスは目を細め、そう口にする。彼の言葉に、何が居るのかとは聞かなかった。少なくとも、誰がそこにいるのか、理解するには十分であった。

 

 

「行くぞ!相棒!」

 

「応ッ!」

 

『そうさせないよ、ほら』

 

『アンチノミー、セイレーン・アニマを守れ。敵を掃討してみせろ』

 

 

セイレーン・アニマへと向かう刃とハジメ。その二人の邪魔をするようにダブリスが動いた。周囲の空間から穴が開き、多数の飛行型アンチノミーが発生したのだ。

 

 

「────させない」

 

「やらせるワケ、ないわ!!」

 

 

しかし、ユエやソーナが魔法によって前方の敵を一掃していく。ソーナが大半の敵を水の波で絡め取り、ユエが放った雷の龍がアンチノミーの軍勢を一気に消し飛ばした。それだけではない、シアやティオ、シノに香織、全員がアンチノミーの軍勢に集中砲火を叩き込む。

 

残ったアンチノミーを撃墜し、奴等の残骸を足場にしながら迫るハジメ達。直後セイレーン・アニマの胴体から黒い手が膨れ上がり、一斉に殺到する。迎撃しようとしたハジメであったが、レオンハルトが黒い手を全て破壊した。

 

 

「ほら、やってやったぜ!先行けよ!」

 

 

レオンハルトの援護もあり、胸元のコアが露出した部分に近付いていく二人。しかし後一歩ともなった瞬間、コアが外殻によって蓋をされた。カバーで覆いかぶさるようにしてコアを守ろうとするセイレーン・アニマの防御の意志を反映したのだろう。

 

だが、蓋をされた外殻はハジメ達が近付くより前に破られた。

 

 

「っ!レーヴェルノート!?」

 

「いや、フリントか!」

 

「────み、ュう」

 

 

突如胴体に張り付いていたフリントが外殻に手を差し込み、そのまま力尽くで引き剥がしたのだ。手にした槍を引っ掛けて蓋をしようとする外殻を引き止めながら、全身血だらけになったフリントはコアに腕を突き立てた。

 

────直後、響き渡るセイレーン・アニマの悲鳴。それを無視してフリントはコアに手を伸ばし続ける。黒い手がフリントを引き千切らんと迫ったが、ハジメと刃がそれを撃墜した。そうしていると、フリントは両腕でソレを、コアから引き摺り出す。

 

 

「ミュウ!」

 

 

フリントの腕に抱かれる海人族の少女は静かになっていた。いや、微かに呼吸が感じられる。眠っていただけなのだろう。安堵した二人の反応の直後、おぞましいほど歪んだ声が彼等の耳に入り込む。

 

 

【────か、ェ、セ】

 

 

そして、胴体から伸びた黒い槍がフリントに殺到する。ソレに気付いたフリントは逃げることもせず、両腕に抱えたミュウをハジメに投げ渡した。慌てて受け止めたハジメの前で、串刺しにされたフリントが顔を上げる。

 

 

「よ、かった………」

 

「アンタ………」

 

「娘、ヲ………ボクの、家族………お願い、します………」

 

【返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ】

 

 

セイレーン・アニマの形が崩れ、泥のように歪んだ黒い手が殺到していく。ソレはハジメの腕の中で眠るミュウを欲するかのように、奪い返そうとするような執念と狂気を感じる。ミュウを抱き抱えるハジメがドンナーで迎撃し、刃がソレを守っていくが、黒い手の侵攻は止まることはない。

 

 

「核を失ったことで暴走を始めているか………止むを得ん。黒鉄刃!ソレはもう再生はできん!コイツを使って、奴を葬れ!」

 

「っ!?イクス!いきなり何を…………おわっ!?」

 

 

そんな最中、黒い手を撃ち抜いたイクスが構えたリボルバーから一発の弾丸が刃へと放たれた。慌てて身構えた彼に当たる直前、弾丸が空間中に弾ける。ソレは、イクスが使うものと同じエーテル属性を秘めた魔弾であった。

 

 

「相棒!?………おいイクス!テメェ、相棒に何しやがった!」

 

「………いくら神の力を備えていても、滅皇相手には足りないと判断した。だからこそ、オレの魔弾────エーテルによって、多少なりとも魔神殺しとしての力を使えるようにした。それだけだ」

 

 

親友を撃ったと思ったハジメがイクスに怒鳴りかけたが、当のイクスの説明と弾丸を受けた刃の身に起きた変化に気付き、言葉を止める。

 

刃の周辺に漂うのはエーテルを示す鮮やかな光の粒子。黒い外装と紫色のエーテルが一斉に刃を包み込み、彼の姿を明確に変化させた。黒い装甲を纏うロングコートと装甲の隙間からに走る紫のエーテルライン。そして、左腕に纏わりつく一際大きな重装甲と青と緑、赤の光を纏う極光の大剣。

 

 

「さしずめ、『神魔装剣(デウス・グラディウス)・エーテルフレーム』ってか────助かったぜ、イクス!」

 

「喜んでいる暇があるか、さっさと終わらせてこい」 

 

「────ああ、任せろ」

 

 

そう言って、不敵に笑う刃。すぐさま表情に決意と戦意滾るものへと切り替えた彼は、そのままセイレーン・アニマへと斬り込んでいく。祈ることを忘れ、歌うことも忘れた人魚姫が全身から溢れる黒い手を殺到させる。

 

 

【返せ返せ返せ返せ返せ、私達の祈り手、私達の代弁者!私達を、導く歌を!!私達の、救いを!!】

 

「テメェらの事情ってのもあるんだろ、ダブリスが核にするのはそういうもんだ────だがなァ!!」

 

 

空中を飛びながら、刃は光の斬撃を飛ばす。黒い手を消し去る光の刃を以てしても、セイレーンは止まらない。鋭く睨んだ刃は不意に後方でハジメの腕に抱かれる少女を見てから、彼女を求める異形へと叫び返した。

 

 

「テメェらの祈りを!あの娘に押し付けさせるな!テメェらの願いを!ダブリスなんぞに利用されるんじゃねぇッ!!」

 

 

再び放たれた光刃が、セイレーン・アニマを両断する。悲鳴のような叫びと共に崩れ落ちたセイレーン・アニマは起き上がろうとした瞬間、全身を膨張させて硬直した。ソレは、内側から何かが食い破ろうとしているようにしか見えなかった。

 

 

『セイレーン・アニマの中の、魂達が反抗している………?』

 

『依代を失った以上に、剣帝に当てられたというのかな』

 

 

【救い、救って、救って救って救って救って救って救って『お』救って救って救って救って『願イ』救って救って救って救って救って救って救って救って『モウ救って救って救って救って救って終わらセて』】

 

「────ああ、俺が終わらせてやる」

 

 

救いを求め祈り続ける人魚姫、その彼等の悲鳴を受け取った刃は手にした神剣に全ての魔力を込める。そして、天に連なる四つの光、三つの神の力と魔神殺しのエーテル、伴った四条の光が────セイレーン・アニマへと解き放たれた。

 

ダブリスの支配も間に合わず、セイレーン・アニマは神々の光に呑まれて消滅した。悲鳴のように響き渡るソレはどこか安らかな歌声のように響き、途絶えた。

 

 

────ォォォォォォン

 

戦いの終幕を示すように、『星海の王』が大声で啼いた。闇に包まれた世界が晴れに染まり、今度こそ戦いの終わりを示す鐘のように鳴り響いた。

 

 

◇◆◇

 

 

「セイレーン・アニマは、ダブリスにとって都合の良い手駒だったんだろうな。あの時、アイツラの声でよく分かる」

 

「………相棒────その状態でシリアスな顔しても、ギャグだぞ」

 

「うっせ、分かっとるわ」

 

 

戦いが終わり、真剣な顔でセイレーン・アニマの事を思案していた刃に、ハジメが呆れたように笑う。そんな刃はティオにお姫様抱っこされながら、からかうハジメに不満そうな顔をしていた。

 

セイレーン・アニマとの戦いで全ての魔力を使い切った反動でロクに動けないのもあり、ティオにお姫様抱っこされている訳だが、本人としては格好も付かないので嫌らしい。当の本人がこんな感じなのにソーナやシノが自分がやると言い張ってた時には頭を抱えてくらいだ。

 

 

「それより、レオンハルトって奴等はどうした?」

 

「残ったアンチノミーを狩ってくるってさ。まあ、俺達と顔合わせづらいって、空気読んだんだろ。こっちもこっちで、やることが残ってるしな」

 

「レーヴェルノート、いや、フリントさんか」

 

 

────そして、エリセンの町に戻った彼等は避難を終えて町に帰還した海人族達の方を見る。ミュウの無事を喜び、意識の冷めた彼女を抱き締めて喜んだレミア達の邂逅から束の間、レミアを含めたエリセンの人々は不安そうな顔で、ソレを見ていた。

 

ボロボロの身体になりながらも、槍を携えるフリント。手を見下ろす彼の身体は全身から淡い光を放ち始め、ゆっくりと顔を上げた彼は全員に聞こえるように、呟いた。

 

 

「────時間だ、ボクはもう…………死者に、戻る」

 

「死ぬってのか?だがアンタ、生きてたんじゃ………」

 

「この命は、其がボクに与えた限られた時間だ。ボクに、約束を叶える時間をくれた。家族を、エリセンの町を、守り切れる時間を」

 

 

ソレは、『星海の王』が与えた僅かな猶予。本来は死者であるフリントにソレが与えた奇跡であった。故に、ソレが尽きる時フリントの生命は終わりを迎える。

 

ソレに求めればきっとまた生命を与えられるだろうが、フリントはソレを望まない。彼自身宣言したからだ、死者が理に抗うことは許されない、と。

 

 

「────ありがとう、君達のお陰で、ボクは安らかに眠れる」

 

「………あなた」

 

「すまない、レミア。やはりボクは、また君を泣かせてしまう────君は、笑って、生きテ────」

 

 

そう穏やかに笑いながら、フリントへ自分の尽き行く脈動を感じながら目を伏せる。生命が消えて、身体が崩れ去る。最期にこれしか伝えられないことを後悔するも、会えただけでも嬉しかった。ゆっくりと、両目を閉じた────その瞬間。

 

 

 

────脳裏で少年と少女が、目の前に立っていた。

 

 

────ダブ、リス?

 

『いやぁ、負けたよ。レーヴェルノート、いや英雄フリント。まさか「星海の王」が君に味方するとはね』

 

『私達の敗北、失敗は認めよう。だが、此方も万策尽きたと?本気で思ってたのかな?』

 

「ぎ、ガ」

 

 

直後、フリントの身体に変化が訪れる。悶え苦しむように震わせた全身が膨れ上がり、そして首や手足、身体の至る所から黒い触手が蠢く。ソレは抵抗しようとするフリントの身体を無理矢理支配し、ボロボロだった彼の肉体を再構成していく。

 

 

「あッ、ガゴゴガガガガガギギギギギギギギッ」

 

『君を制御する光輪は失われた。だが、君の身体を動かす為の暗黒物質エンジンの存在を忘れたかな?』

 

『万が一炉心を臨界にさせて暴走させる事も考慮していたが、まさかこのような使い方になるとはね。予備の用意も大事、ということだ。そういう事で、じゃあね英雄フリント。君が死ぬ最期まで、君の大切な者達を殺していくといい』

 

 

そして、ダブリスの悪辣な仕込みによって、フリントの肉体は異形のものへと造られた。内側から這い出た黒い触手によって全身が無理矢理コントールされたその姿は、人形のそれでしかない。首は内側から這い出た触手によってブラブラと垂れ下がるようになりながらも、他の触手によって補われ、落ちないように維持されている。

 

欠損した片腕を触手の塊で補った英雄フリントの残骸は、叫びとも取れない言語を叫びながら、悶え苦しんでいた。いや、最早苦しみですらない。壊れた亡骸はただひたすらに、人形のように不気味に、滑稽に踊らされているのだ。

 

 

「フリント!あなた! 嫌、嫌ぁ!!」

 

「フリント様!おやめください!我々には、貴方に槍を向けることなど………!」

 

「ギギギギギギギギギギギッ、ギギギギギギギギギ」

 

「この魔力────ダブリスッ!あのクソ野郎が!!」

 

 

夫の変わり果てた姿に泣き叫ぶレミアを守りながら自警団が槍を身構えるが、その様子からしても明確に震えているのは確かだった。そしてティオに抱かれる刃はすぐに下手人が誰かを悟り、怒りを剥き出しにした。

 

しかし、力を使い果たした彼には動くことも、止めることもできない。その合間にも、空洞から雫を溢れさせる英雄の残骸は肉体の内側から蝕まれ、暴れ続けていく。ダブリスの悪意、彼等の望む光景を果たすためだけに。

 

 

「パパ………」

 

「………そうだよな、託されちまったもんな」

 

 

困ったように笑い、ハジメはミュウの頭を撫でた。香織にミュウを頼み、彼は歩き出す。他の人々に止められるレミアの近くを通ったハジメは不意に彼女の名を呼んだ。

 

 

「レミアさん」

 

「………ハジメ、さん」

 

「俺は今から、アレを殺す。これ以上死体を弄ぶような真似を見てる理由もねぇし。何より、ミュウの父親に、アイツにアンタ達を傷付けさせる訳にはいかないんでな。アンタには悪いがな」

 

「此方こそ、お願いします…………あの人を、フリントを………もう、眠せてください………!」

 

 

涙を流したレミアの願いに、ハジメは静かに頷いた。そして、改めてフリントに向き直る。黒い触手に蝕まれ、ダブリスの支配を受けた彼は動かない。それは未だに眠る彼の意思が抗っているのだろうが、それもいつまでも持つとは思えない。

 

 

「来いよ、英雄。アンタを今度こそ終わらせてやる」

 

「■■■■■■■■■■ッ」

 

 

ドンナーとシュラークの二丁拳銃で弾丸を叩き込む、弾丸を浴びたことでフリント────黒い異形は怒号を上げて襲い掛かってくる。無数の触手で連なる剛腕と触手で掴んだ槍を振り回し、粗雑に暴れ回る姿に思考は感じられない。

 

飛んで回避しながら、ハジメは集中的にコアを狙った。だが、全身を覆い尽くす触手はソレを遮り、防いでいく。舌打ちをしたハジメに触手の槍が迫り、無数に迫る触手によって片手に構えていたシュラークが弾き飛ばされた。

 

 

「チッ!」

 

舌打ちをしながらも、反撃に出るハジメ。弾丸を変えた爆裂弾丸をドンナーから放ち、槍を構える触手を抉り飛ばした。触手を失って、地面に突き刺さった槍を無視して、黒い異形が剛腕を無造作に振り回してハジメを吹き飛ばす。

 

 

「クソっ……………っ!」

 

盾にしたことでドンナーも機能しなくなったらしい。悪態をついたハジメは不意に視界に映るものを見る。迫る黒い異形を倒すにはそれしかない、と彼は不意に義手の掌からワイヤーを射出して、ソレを引き寄せた。

 

そして、ハジメをそのまま叩き潰さんと迫る黒い異形に────先程落としたフリントの槍を突き立てた。触手が溢れる心臓の位置にあるエンジンを、貫いて。

 

 

【────────────ッ】

 

 

響き渡る、悲鳴。

直後黒い触手がフリントの全身を引き裂いて溢れ出して、すぐに液状になって溶けていく。そして、英雄フリントの残骸は今度こそ力なく崩れ落ち、消滅していく。

 

その瞬間、崩れ去る残骸の上に霊体が浮かんでいた。フリント本人の姿である霊体。恐らくは、ダブリスの支配から解放された彼の魂そのものが。

 

 

『────ありがとう。君のお陰で、ボクはダブリスから解き放たれた』

 

『アンタは、やっぱり死ぬんだな』

 

『ボクの生命は五年前に途絶えた。ここまで来れたのはダブリスに支配されていたからに過ぎない』

 

 

淡い粒子を伴う霊体であるフリントの姿は今にも消えそうなものであった。それも無理はない。本来は数年前に消えるはずだった魂が、ダブリスの支配によって縛り付けられていたのだ。その反動が、改めて来たのだろう。消えゆく光に包まれたフリントは、ハジメに語り掛ける。

 

 

『君のことは、ミュウから………あの娘から聞いたよ。あの娘の父親であってくれて、ありがとう』

 

「………いや、父親はアンタだろ。俺はただ、代わりにしかなれてねぇよ」

 

『あの娘は、そう思ってないよ』

 

 

そう言って、フリントはセイレーン・アニマの中でミュウを助け出した時のことを思い出す。軽く話していた際のミュウの言葉を、彼女の考えを、フリントは微笑みと共に話した。

 

 

『父さんとパパ、二人いてもいいってさ。………本当に、良い子に育ってくれたよね』

 

「まぁ、そこはそうだな。少し元気過ぎて、振り回されてるが」

 

『それは大変だったね。まあ、それはそうとして…………あの娘の教育に悪いことはしないでね?もしそんなことされたら、蘇って来るかもよ?』

 

「笑うべきか困るから止めてくれ」

 

 

苦笑いするハジメだが、微笑むフリントの目は一切笑ってない。冗談ではないよ、と言わんばかりの覇気を放つ彼に唾を飲むハジメは全身を震わせる。執念だけで動いてきた彼の言葉だからこそ、嘘とは思えなかった。

 

そうしてすぐに微笑みを消したフリントは真剣な眼差しでハジメを見つめる。完全に消えることを悟った彼は申し訳無さそうに、それでいて確かな信頼を秘め、ハジメに告げる。

 

 

『ハジメさん。こんなお願いを、君にしてしまうのは申し訳ないけど』

 

「…………」

 

(ミュウ)(レミア)を、よろしくお願いします。二人をどうか幸せに、見守ってあげてください』

 

 

そう言い残して、フリントの姿は完全に光へと消えた。彼の魂は彼方へと、向かうべき場所へと至る。ただ涙するエリセンの人々と、レミア。ハジメはその魂を静かに見据えた上で、深く、確かに頷いた。

 

 

こうして、エリセンを襲った脅威、ダブリスによる陰謀は幕を下ろした。




フリントを暴走させたのは本当にダブリスの嫌がらせでしかないという(ドン引き)

次回もよろしくお願いします!それでは!!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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