ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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────戦旗を掲げよ、銅鑼を鳴らし、前進せよ。


『────誰が、こんなものを、撃ったんだ………ッ!?』

『魔人族の軍勢が、王都を包囲中!』

『大魔王………遂に動き出したか』


────敵は殺せ、跡形もなく、一欠片もなく。躊躇も慈悲もなく、子供であろうと、赤子であろうとも、一匹残らず殺し尽くせ。


『民を守れ!決して奴等に近付けさせるな!』

『あの光は、何?』

『アレは、怨念だ』

『目を見開き、刮目せよ!我等の憎悪が、我等の怨恨が!お前達の全てを焼き尽くすのだ!!』


敵はこの地上にある全ての生命体、人間。奴等を滅し、奴等を滅ぼせ。そうでなければ、この戦いは終わらない。我等の平和は訪れない。


『どうして、こんな………こんなことを………ッ!』

『貴様等人間が、我等から全てを奪ったからだッ!!』

『父上の望みは全ての人間の死!アタシはそれを果たす!それのナニが可笑しいワケ!?』


我々の平和を、永劫なる平穏を取り戻せ。我等の半身、我等の同族たちが望んだ理想郷の為に。全てを奪われた、我等の同族の鎮魂の為に────お前達の王たる我が、世界に誓った願いの、望みの為に。


「────滅びよ、人間。お前達の未来など、我等の世界に存在しない」


第七章『憎焔大禍』、開幕。

進軍せよ────我等の戦争は、始まったばかりだ。


第七章 憎焔大禍
強くなろうとする者達


────一方、ハイリヒ王国の研究施設。

エリュシオンの精鋭たる『王の剣』を務める科学者の一人が自らの拠点とするその場所で、ある実験が行われていた。

 

普通の兵器、無人機ではない。今回は人が装備する兵装のものであった。

 

 

「────ふッ、ふんんんんぬぅううううううッッ!!!!」

 

『おー、良い調子だよ。ガーディアン君、その調子で動き回り給え』

 

「りょ、了ッ解ぃぃいいいいッ!!!」

 

 

屈強な男、佐竹広大は今とてつもない修行もとい実験に付き合っていた。ガーディアンという防御職である彼が身に着けているのは、圧倒的な重装甲。世界最硬度を誇るアザンチウムを超えるものとして開発された複合金属のよる鎧、その圧倒的な重量に押し潰されそうになりながら、彼は必死に前に進もうとしている。

 

事の経緯は────数週間前。

 

 

『────お願いっす!シュトライゼさん!俺になんか、クソ硬い鎧下さい!』

 

『え?別に良いけど』

 

 

研究施設に訪れてそう頼み込んだのは怪我が治り切っていない佐竹広大であった。彼は土下座してシュトライゼにそう頼み込み、資料を読み漁っていたシュトライゼは興味なさげに簡単に答えた。

 

 

『え?いいンすか!?そういうのって、普通に断るとこじゃ!?』

 

『うーん、私が造ってる鎧なんて殆どが失敗作だしねぇ。多少は硬い鎧ならあるけど、どうして今になってソレに拘るのかな?』

 

『────二日前、迷宮でハジメに会いました』

 

 

どうでも良さそうに話を切ろうとしたシュトライゼの意識を引いたのは、その言葉であった。彼にとって、弟子であったハジメと再会したという話は、手を止めるには充分すぎるものであった。

 

しかしピクリと手を震わせたシュトライゼは、覚悟したように問い掛ける。

 

 

『彼は、元気だったかい?』

 

『………五体満足、じゃなかったッス。片腕と片目を失ったみたいで…………奈落に落ちて、死ぬ思いをしたって言ってました』

 

『………………そう、か』

 

 

シュトライゼは震えた声で、静かに頷いた。分かってはいたが、堪えるものが胸の内にある。そうしてると、佐竹は再度地面に膝を付けて、今度は頭を打ち付けるようにして、頼み込んだ。

 

 

『アイツがあんな思いして、無茶して強くなったってのに!俺は何も護れてねぇ!あの時も、仲間を守れるほど硬く、鉄壁ですらなかった!それで修行に出ようとしたら、ハヤテ団長から怒られて!』

 

────お前の身体はある程度基礎がついてる。後は装備の問題だ。シュトライゼの奴を頼れ、奴なら多少は使える。

 

『────お願いします!俺に装備をください!もう二度と、仲間を護れねぇなんて後悔はしたくねぇんです!!』

 

『……………付いてきなさい』

 

 

彼の覚悟を理解したのか、シュトライゼはそう言って広大を施設の中に案内した。無数の兵器や装備が展示する倉庫の中で、彼はソレを広大に紹介した。

 

 

『重装機甲「ファルクス」。私が開発し、途中で開発中止にした鉄壁の鎧だ。重量はあるが、物理攻撃や魔法にも強い耐性を秘める鉄壁の装甲だ。君の望むものとしては最高峰だろう』

 

『ほ、ホントッスか!?ありがとうございます!』

 

『まあ待ち給え。君とて、まさかそれで満足するタチでは無いだろう?』

 

喜びの余りそう答えて突っ走ろうとした広大を、シュトライゼは呼び止める。それは彼個人が胸に抱いた、ある興味。ハジメから得た技術の数々をぶち込めば、きっと面白いことになるという予感。

 

 

『私が弟子、ハジメ君から知り得た技術を注ぎ込めば、この鎧は鉄壁の鎧と攻撃力を誇る装備と化す。仮にもガーディアンを名乗るのであれば、最高クラスの突撃力は欲しいだろう?』

 

『い、いいんスか?』

 

『何、私の弟子と仲の良い様子だしね。特別さ、ただし君にも無理はしてもらうが、別に構わないだろう?』

 

『────ッ!是非とも、お願いします!!』

 

 

そして、今に至る。

佐竹広大が纏う鎧こそ、『ファルクス』の改良版である重装機甲戦術鎧『ファランクス』である。今はその機動実験の最中であった。

 

 

「シュトライゼ様、魔力駆動による重量軽減は出来るだろ?なんでやらないんですかい?」

 

「重量軽減に頼るのは高機動戦の時で充分、ソレがなければ動けないのはガーディアンとしても愚の骨頂だろう?」

 

「それでも、重さは数百キロだぜ?流石に荷が重過ぎるってもんだろ」

 

「────彼ならやるよ。あの覚悟に、嘘はないしね」

 

『うおおおおおおおおおおおッ!!委員長ぉ!雨音ぇ!ハジメぇ!待ってろよぉ!!鉄壁のガーディアンになって戻ってや────あ』

 

「あ、倒れた」 

 

 

怒号のような絶叫、友人たちへの決意を秘めた叫びは段差に引っかかったことで途切れる。ドシン!と爆音を立てて凄まじい重量の鎧ごと横転した広大は完全に起き上がることも出来ず、必死に手足をバタバタと振り回していた。

 

あちゃー、と肩を竦めたシュトライゼは周囲に備えた無人機を操作して動けない広大を起き上がらせるように指示を下した。

 

 

◇◆◇

 

そんな一方で、遠藤や広大など一部を除いた生徒全員も修行を受けることになっていた。ただ、他の皆と違う意味で、何なら一番苦難でもある修行を。それは数週間前に遡る。

 

 

「────揃ったか、ではこれより訓練を開始する」

 

ハイリヒ王国野外の森に集められた雫達クラスメイトを出迎えたのは、王国騎士団団長イガル・ハヤテ。傲岸不遜といった様子を貫き、腕を組んで佇む彼の姿は威圧感しか感じられず、全員言いたいことを言えずにいた。

 

 

「は、はい!質問です!団長!」

 

「ほう?最初から切り込むとは面白い奴だな。中村恵理だったか、質問に答えてやろう。何が聞きたい?」

 

「二つ、ありますけど………いいですか?まず遠藤君や佐竹君、彼等がいないのはどうしてですか?それに、今回の訓練って一体何を…………」

 

「遠藤と佐竹は今其々別の訓練中だ。奴等も多少は無理しているからこそ、お前等にも無理はしてもらう。大まかに、やるべきことを説明しておく────」

 

「あ、あの!団長!」

 

「…………質問があるならそうと言え、近藤。俺はお前達の教師ではないぞ」

 

 

怯えた様子を見せながらも質問をした恵理に、ハヤテは面白そうに笑いながらその質問に答えた。話を終えようとその瞬間、恵理が質問したことでようやっと遅れて声を上げた近藤に、ハヤテはギロリと睨みながらも要件を求めた。

 

 

「あの、最近檜山の姿も見えないんですけど………檜山のやつも修行ですか?」

 

「そうだ。具体的にどんな修行をしてるかは俺も知らんし、興味は持たん。それとも何だ?他人の特訓に興味を持つほど、貴様には余裕があるのか?」

 

「い、いや………無いです………」

 

 

鋭い眼差しを向けるハヤテに近藤は凄い小さくなって返事をした。常に気さくで兄貴分でもあったメルド副団長とは違い、傲岸不遜であるハヤテは彼等にとって半ば鬼教官という印象であった。

 

そして彼等はすぐに知ることになる。イガル・ハヤテという男に抱いた印象が間違いどころか予想を超えたものであることを。

 

 

「よし、ならば今日の特訓を開始する────まずは基礎を鍛える訓練、走り込みだ」

 

「は、走り込み?走り込みって、メルドさんの時もやってたよね!何だか警戒し過ぎて────」

 

「そうだな。全員、この山に登れ。登頂で待っているから、そこまで上がってこい。一時間で」

 

 

え、とその場の全員が絶句した。何ならにこやかに笑って空気を和ませようとした鈴ですら声が出ずに黙るしか無かった。唯一、ハヤテの教育方針を知る三人は嫌な予感をしていた────特に光輝と龍太郎は青い顔で互いを見つめて、雫は大変なことになったと深い溜め息を付いた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!団長!この山って、登れるような道はないってメルドさん達も言ってましたよ!?騎士団の皆でも近寄ることがないって!」

 

「当たり前だ。訓練で散々突き合わされるような難所に、誰が好き好んで行く?因みにアイツらは二、三時間でやっと着く。メルドですら一時間は切るというのに、だらしない奴等だ」

 

 

今この場にある山は、相当の傾斜や入り組んだ岩肌が目立つ難所。少なくとも怪我をしても死ぬようなことは起こらないが、それ故に普通に登ることも苦労する場所として有名である。そんな山に登って、一時間で全員上がってこい、と言うのだ。無茶苦茶だ、と言わんとした空気が周囲に漂っていた。

 

 

「ああ、そう。光輝、雫、龍太郎。お前等は俺の特訓を受けてるからな。これ持って登れ」

 

「…………団長、なんですか。これ」

 

「重りだ。まぁ、数百キロはあるが、光輝と龍太郎はこれを持ってこい。無論、一時間以内でだ」

 

「言いたいことは山程ありますけど!じゃあ雫にもこんなもの持たせるんですか!?」

 

「馬鹿かお前、雫はこの半分だ。仮にも勇者ともあろう者が、自分と同じレベルの重りを女に持たせる気か?」

 

 

それでも半分なのね、と雫は苦笑いしながら重りを背負った。確かに多少身体に伸し掛かる重量はあるが、歩けないレベルではない。対してハヤテに急かされた光輝と龍太郎は中々に大変そうである。まぁ、重りとしては雫が背負うものの倍であるから仕方ないと言えば仕方ないが。

 

 

「準備が出来たらさっさと登れ。オレはこの山頂で待機している。遅れた奴は…………分かってるな?」

 

 

そんな言葉と共に、ハヤテは地面を蹴って山を駆け上がっていく。その場の全員が硬直していたが、すぐに急かした雫の声に促され、全員が山へと登り始めた。

 

 

そして、なんやかんやあって一時間後。

 

 

「────ふぅん、一時間ジャストで全員か。初日にしてはまぁまぁだな、褒めてやらんこともない」

 

 

腕を組んで感心したハヤテに、その場の誰も答えられない。息切れした者や疲れ過ぎて死にかけた者が大半である。特に一番最後尾だった後衛職、鈴達は泥のように崩れ落ちている。だが、何とか動けるものはハヤテを見るや否や、顔を青くした。

 

 

「だ、団長………」

 

「何だ?言葉も出んか。見れば分かるだろうが、追加の重りだ。今からお前等には山頂から麓を起点として登り降りを繰り返してもらう。当然、登るペースが速くなった奴は重りを増やしてな」

 

「具体的に、何周ぐらいすれば………?」

 

「数字など必要か?そうだな、夜食時になったら終わらせてやる。休憩は一度に十分は赦す。動けん者は重りに魔力を流せ、すぐに拾いに行ってやる」

 

 

太陽が上空に昇った真っ昼間、彼等はこれを数時間続けることに絶望しかけている。当のハヤテの口にした内容からしても、無理そうな限界で救助するという話だが、それは多少の無茶は容認するということ。

 

 

「ハヤテ団長!これは流石に、やりすぎです!皆倒れてしまいますよ!」

 

「基礎もロクになっていない青二才が吠えるな。水も休みも与えてやってる。強くなりたいならば、死ぬ気の覚悟くらい見せろ。……………ふむ、だがお前の言うことも最もだ。少し考えてやるからこっちに来い」

 

 

苦言を呈した光輝に厳しく吐き捨てたハヤテだったが、不意に何か考え直したように光輝を連れて崖側に寄る。未だ数百キロの重りを背負わされた光輝はハヤテに言われるが付いていき、怪訝そうに彼の顔を見た。

 

 

「山頂から麓に降りるのも大変だろう。特別に楽に降りれる方法を教えてやる。体力を使わずに、簡単にな」

 

「簡単にって、こんな頂上からどうやっ────て?」

 

「こうやって」

 

 

疑問を持って振り向いた光輝は、その時には宙に居た。何が起こったのか理解できなかった彼は目の前にいたハヤテが蹴り飛ばしたことに気付く。気付いた瞬間には、落下が始まっていた。

 

 

「あ、あばあああああああああ────っ!!!?」

 

「「「「こ、光輝ぃいいいいい!!?」」」」

 

「………大丈夫ですか、団長。山頂から麓まで落ちるなんて、怪我でもしたら」

 

「心配いらん。元より崖の傾斜はなだらかで、転げ落ちた所で怪我はせん。何度も部下を蹴り落としたから間違いない」

 

 

経験に満ちた発言に、誰もハイそうですかと頷けなかった。そうして固まる一同を見下ろしたハヤテは崖に目を向けながら告げる。

 

 

「どうした?誰が呆けていろと言った?何ならアイツと同じように、楽に下に降りるか?」

 

いえ、と全員が答えるしかなかった。この日以降、ハヤテ主導による地獄のような特訓が幕を開けるのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

それから数週間後。地獄のような走り込み(山の駆け上がりと下り)を終え、基礎もある程度備わったと判断された光輝達の特訓は次のペースへと入った。其々に秀でた能力を鍛えるという特訓────という名の蹂躙劇である。

 

 

「オラオラオラァ!!とっとと反撃しないと叩き潰すぞ!逃げてばかりのヤツも潰す!」

 

「うわーーっ!!ぼ、暴力反対────ッ!!」

 

「この場においては、俺こそがルールだ!それと、逃げてばかりの近藤!お前にもそろそろ飽きてきた!死────潰れろ!」

 

「えっ?さっき死ねって────ぎゃああッ!!?」

 

「「近藤ぉおおおお!!?」」

 

 

逃げ惑うクラスメイト達を静かに追い回すはイガル・ハヤテその人。両手に真剣(非殺傷仕様)を手にして歩きながら迫るその姿

はさながらどこぞの未来から来たロボット刺客のソレである。

 

そして案の定全力逃げに徹していた近藤は飛び込んできたハヤテに踏み潰されて、気を失った。散開して逃げていた悪友、中野信治と斎藤良樹が声を上げながらも歩みを止める。

 

 

「クソ!これ以上やられてたまるか!」

 

「此方だってやってやる!」

 

 

二人がそれぞれの得意である風と炎の上級魔法を放つ。交差した炎と風が一つの爆裂と化してハヤテを呑み込む。「直撃だ!」と喜ぶ二人に、近くにいたクラスメイトが浮かれるなと叫ぶ。何故なら爆炎の向こうで、相手は平然としているからだ。

 

 

────上級魔法を直撃で受けたイガル・ハヤテは傷一つなく、首を鳴らす。口の中から噴き出す煙を軽く吐き出した彼は、ジロリと絶句する中野と斎藤を見下ろして、呟く。

 

 

「どうした────終いか?」

 

「「う、ウソだろ………!?」」

 

「終いだな。つまらん────大人しく寝とけ」

 

 

瞬間、地面を蹴り一気に飛び込んだハヤテが両手で中野と斎藤の顔を掴み、地面に叩きつける。怪我はないとは言え、衝撃によって意識を削り取られた二人にハヤテは手を払って立ち上がる。

 

そして、始まるのは一方的な狩り。ハヤテによってクラスメイトの大半は抵抗も余儀なく、無力化されていく。

 

 

「はぁ、つまらん。もっと俺を楽しませる奴はいないのか?」

 

「ッ!皆は下がるんだ!ここは俺が!」

 

「待てよ!光輝!」

 

「ほう?勇者としての器量、少しは見せてくれよ」

 

「勝負です!団長!────『天翔閃』!!」

 

 

突撃しながら光輝は光を纏う聖剣を振るい、エネルギーの斬撃を放つ。迫り来る光刃に感心したハヤテだったが、直後に掌で受け止める。ドパァッ!!と弾ける光の粒子を握り潰し、ハヤテは鼻で笑う。

 

 

「加減するな、とお前に言うのは無意味か?前回の魔人族の襲撃といい、まだ懲りていないと見える」

 

「ッ、…………」

 

「まさか怪我させることを恐れているのか?────侮るなよ、小僧。貴様のような未熟者に、王国最強が揺らぐとでも?殺されたくなければ、少しはやる気を見せてみろ」

 

「────後悔しないで下さいよ」

 

 

足を止めた光輝の全身から銀色の光が噴き出す。限界突破の派生技、『覇潰』。自らの能力値を五倍以上に引き出すその技は基礎鍛錬で鍛え抜かれた光輝のスペックもあり、絶大な強さを引き出していた。銀の光を纏う光輝が、険しい表情と共に聖剣を振るい、ハヤテへと斬り掛かる。

 

 

「ほう?成程、確かに重いな。剣一本でも受け止めるが精一杯だ」

 

「余裕そうに………ッ!そんな様子で戦うなんて!」

 

「お前達が退屈なのが悪い。そう思うならば、せめて俺を楽しませろ。最も、その時限式で俺を楽しませてくれるか、期待半分だがな?」

 

 

────そんな激戦の様子を、雫は離れた場所で感じながら身体を休ませていた。彼女がそこにいるのはサボりなどではない。単にハヤテに一早く撃破されて気を失っていたからであった。

 

ハヤテ主導によるこの特訓は、ハヤテが一人でクラスメイト達を叩き潰すものである。そうして無理矢理彼等の強さを引き出そうとする無法極まりない特訓法。連携を行おうとする雫を優先的に狙ったハヤテの手腕のお陰で、光輝達はマトモに連携も出来ず各個撃破されている状況だった。

 

 

「………やっぱり、この武器を使うしか無いのかしら」

 

 

そう言って雫が取り出したのは、腰に備えていた小さな小さなアイテム。ソレは雫が強く握ると同時に内側の魔力が活性化したように変形し、彼女の手に一本の刀剣として収まった。

 

 

────銘を、『月光』。ハジメと刃が趣味に走って作成した合作魔剣。その使い勝手の難しさから封印しようとしていたが、刃が雫になら使いこなせるのではという思いから彼女に渡した装備であった。

 

当の雫は、未だこの魔剣をどう扱っていいかも分からずにいた。黒い鞘に収まった鋭さを秘める魔剣。コレを見ていると、何故だが真剣な気分になれないからだ。

 

────いつも脳裏に過ぎるのは、少し前に話すことのできた幼馴染の姿。何処か喉につっかえるような気分を振り払うように、首を横に振っていた雫へ、真後ろから声をかける者がいた。

 

 

「雫さん、ここに居たのですね」

 

「ん、…………雨音ね。それと、剣城じゃない。珍しいわね」

 

「此方の台詞、と言っておくべきか。君も一人でいるのは、中々に珍しいことだな」

 

 

雫に合流したのは『踊り子』の雨音と、白く染まった銀髪が目立つ美形に眼鏡の青年、白雪剣城(しらゆきつるぎ)。『神眼』と卓越した戦闘技術を秘める天職を発現したクラスメイトであり、咲夜や雫に並ぶ真面目な青年であった。

 

 

「その様子だと、二人も団長にやられたみたいね」

 

「善戦、とは言えませんわね。いくら挑もうとも、あの人に正面から勝てるとは思えません。完膚なき敗北、というのも辛いですわ」

 

「無理もない。仮にも王国最強、エリュシオン王の懐刀と呼ばれる三人の一人だ。マトモに勝てるような相手なら苦労はしない」

 

「…………正直、意外ですわね。貴方の事ですから、この訓練にも消極的かと思いましたが」

 

「誤解だな。いくら天之河と方針が合わずとも、仲間の足並みを乱すような真似はしない。それに、強くなることには俺も賛成だ。…………地球に帰還することには、賛成できないがな」

 

 

そんな剣城だが、彼はクラスメイト一同の中でも光輝達と対立していた派閥のリーダーであった。それは、『帰還消極派』。元いた地球に帰りたくない、と言うよりも死ぬ可能性のある戦いに参加してまで元の世界に戻りたいとは思ってないメンバーの集まりだ。そんな彼は、この世界の人々を放っておけないかつ元の世界に戻ろうと言う光輝達とはよく対立していた。

 

────何より、彼は元の世界に帰りたくないという気持ちが強かったように雫と雨音は思っていた。学校でも普通に過ごしていた剣城だが、彼にとって『家族』の話は地雷であり、彼がその事を是が非でも話さないこともよく分かっていた。

 

彼が『家族』に向けているのが、親に向けるような反骨心ですらない、純粋なまでの嫌悪と侮蔑、憎悪であることも。よく分かっている。

 

 

「それよりも、だ。俺個人としても気になることは多い…………雫、その手にある武器は何だ?さっきまで使っているようには見えなかったが」

 

「っ!あ、いや………これはね、ただどう使うか迷ってて………!」

 

「────それは、刃さんから貰った得物では?」

 

「………ッ!く、黒鉄か………いや、貰っただと?────雨音、その話を詳しく」

 

 

一瞬苦い表情で複雑そうに目を逸らそうとした剣城だったが、聞き逃がせない単語を聞いたと言わんばかりに食い気味に雨音に問い掛ける。咄嗟に刀剣を背中に隠して弁明しようとする雫を余所に、雨音は満面の笑みを浮かべると同時に、剣城に全てを話した。

 

その瞬間、話を聞いていく剣城の顔がニヤリと綻ぶ。

 

 

「────へぇ、成る程」

 

「待って、二人とも………違うわ、弁明をさせて」

 

「道理で恥ずかしそうに隠したわけだ。幼馴染からのプレゼント…………あの学園の二大女神と称された八重樫にも遂に春が来たか」

 

 

だから違うわよ!と、顔を真っ赤にした雫は面白そうにからかう二人へ必死に反論する。しかし見たこともない雫の姿が余程面白いのか二人は「またまたー」と笑うのであった。

 

 

「まぁ、冗談は後にして………その武器の使い方が分からないということですか?」

 

「え、えぇ、普通に抜こうとしても抜けなくて………刃や南雲くんの事だから何か理由があるんだろうけど」

 

「────一度、その剣に魔力を送り込んでみたらどうだ?」

 

 

両の瞳に光を宿した剣城の言葉に、雫と雨音は互いに見合う。彼の天職であり唯一と言っていいスキル『神眼』はあらゆる相手のステータスや情報、魔力の動きを感知するというもの。彼が見て判断したのならば間違いはないだろう。

 

そう察して、雫が握り手に魔力を流す。そうすると『月光』の刀身を覆う黒い鞘が音を立てて弾け、金属の断片が雫の左腕を覆った。

 

 

「っ!?雫さん!」

 

「大丈夫よ、雨音………何ともない、これは鎧かしら?」

 

左腕に纏う黒い装甲に八重樫は困惑しながら動かしてみる。異様な感覚を感じながら彼女はもう片方の手に握った『月光』を見る。鞘が消え、顕になった刀身は光を反射させながら煌めいていた。

 

 

「────綺麗」

 

「………成程、面白い仕様の剣だ。雫、ちょっとその剣について教えたいことがある」

 

 

つい見惚れていた雫や雨音の横で、神眼でその効果に気付いた剣城が彼女に声をかける。そして淡々と、その魔剣に秘められた能力について語り始めた。

 

 

◇◆◇

 

────そして、戦いの場に戻る。

 

 

「はぁ………っ、はぁ…………ッ」

 

「張り合いがないぞ、勇者。もっと俺を興じさせてみせろ」

 

「ッ………!この力だって、魔人将を倒せていたものなのに………!」

 

 

『覇潰』による制限式のパワーアップでも、ハヤテは平然と受け流していた。改めて実感するは、隔絶たる実力差。その強さは魔王達に並ぶ圧倒的なものである。

 

天翔閃や応用した技も通じなかった。ならば出来ることは、ただ一つ。

 

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ。神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、 この世を聖浄で満たしたまえ。神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ 」

 

「成程、神威か。覇潰状態での神威、その威力は貴様の出せる最高峰。流石の俺も直撃は危うい────直撃、できればな」

 

「行きますよ、団長!────『神威』!!」

 

「面白い、来い。小僧────『噛砕』ッ!」

 

 

全力状態で放つ神威、極大のエネルギーの奔流が地面を抉り抜いて襲い掛かる。しかしハヤテは恐れるどころか両手の剣を握り締め、左右からの重撃で迎撃する。二つの斬撃、噛み砕く顎のような破壊の交差が敵を消し飛ばす極光を砕いた。

 

 

「そ、そんな────ッ」

 

「やればできるじゃないか。少しは楽しめたぞ」

 

 

覇潰による時間制限により崩れ落ちた光輝へ、ハヤテは感心したように笑った。光輝の出し切れる最大火力を文字通り噛み潰した実力。この場の誰もが絶句するほどの実力差は、あまりにも大きすぎた。

 

 

「もう終わりか?つまらんな、勇者が勝てん程度で戦意の折れるのが貴様らの悪い所だ。悪いが、やる気がなかろうと全員叩き伏せるのは変わらんぞ?」

 

「────待って下さい、団長」

 

 

戦意喪失した一同へ興味を失ったハヤテが一掃しようと動いたその時、真後ろから呼ぶ声があった。振り向いたハヤテの視線が射抜いたのは、森の中から出てきた雫や剣城、雨音の姿であった。

 

 

「ほう、復帰する気になったか。面白い、その気概でなければ」

 

「団長────ご相手、お願いします」

 

「良いだろう。相手してやる────来い」

 

 

静かにそう告げた雫に、ハヤテは両手の剣を下げて笑った。余裕の脱力の体勢、そんな姿勢で相手の出方を伺うハヤテに、雫は脱力の構えで『月光』を構える。

 

そんな最中、反動によって身体が動けない光輝が声を上げる。

 

 

「雫!駄目だ、相手になんかならない………!怪我しない内に、そんな無茶を────ガハッ!?」

 

「黙ってろ。第一、貴様はそういう所を治せといつも────」

 

 

この期に及んで、雫の覚悟を軽視するような発言に呆れたハヤテが足元にいた光輝の頭を軽く蹴り、意識を奪う。説教じみた発言を零した彼は、即座に左腕の剣を振るう。

 

────次の瞬間、左に構えた剣は音速で放たれた雫の一閃を受け止めていた。

 

 

「俺の隙を狙いに行くとは────そういう姿勢はやはり悪くない。だが、俺には届かん」

 

「────ッ!」

 

 

だが、雫の動きも速かった。即座に右手に握る『月光』を下げ、同時に左手を向ける。黒い装甲に包まれた左腕に一瞬反応したハヤテの意識のブレを狙うように、掌から練り上げられた魔力が、凄まじい爆裂を生む。

 

 

(今のは、爆炎魔法………あの腕の装備で放ったか。ああ、アレは黒鉄が寄越したものだったな)

 

「────中々ソレを使わんと思ったが、ようやく慣らしたか。全く女の恋心というのは、俺には分からんな」

 

「…………!」

 

「貴様は筋と要領、覚悟もいい。故に気に入っている。だが、黒鉄刃(アレ)関連では随分とウブだな?」

 

 

軽く笑いながら、ハヤテは直撃した爆炎を払いのける。純粋に耐久力が化け物クラスであるのは明白だった。ソレを理解したからこそ、雫は距離を取りながらも『月光』を構える。しかし今度は腰に添えるように深く腰を落とすのではなく、刀身を敢えて左手で掴む。

 

 

「────む?」

 

 

ハヤテが目を細めたのも当然のことながら、銀に輝く刀身を黒い手で掴み一気に引き抜くようにスライドする。すると刀身に流れた魔力が一気に活性化したように、雷撃を帯びる。

 

 

「魔法剣、いや魔剣の力か。面白い武器を手にしたな!シュトライゼの奴の発明品を思い出すぞ!」

 

「団長、行きます────八重樫流」

 

「…………!話に聞いていたお前の家系の剣術!色々と試したが、ここで使うということは隠し技か!良いだろう!お前の新武器とその奥義!この俺を破れるか、興が乗っ────」

 

「────団長!ここに居られましたか!」

 

 

身構えた雫の動き、事前に知っていた八重樫流抜刀術の技に感極まったハヤテが両手の剣を構え、少し本気を出そうとしたその瞬間、訓練場に騎士団の騎士が駆け込んで来た。

 

尋常ではない様子の騎士の姿を、ギロリと一瞥するハヤテ。良い気分だったこともあり向けられた敵意は呼吸もまともに出来ない騎士を震わせるには充分だった。しかし、その騎士の様子が普通ではないことに気付いたハヤテは苛立ちながらも剣を収め、怒鳴るように問い掛けた。

 

 

「何だ!今折角良いところだったというのに!」

 

「火急の用で、リリアーナ様からお呼び出しが!────緊急招令です!」

 

「────何が起きた?」

 

 

その騎士の言葉に、苛立ちを抑えたハヤテは険しい顔で問い返す。当の騎士は周りの目が気になっていたらしく、ハヤテが全員を一瞥して離れるように促す。雫達もそれを察して皆に集まるように促している間に、ハヤテは騎士から囁くような話を聞いていた。

 

 

「報告で────」

 

「…………何だと?」

 

「は、はい。まだ報告は確かではないですが、密偵の様子から見て可能性が高いと…………ひッ」

 

 

若い騎士の報告を聞き終えた瞬間、騎士に怯えた声に光輝達もソレを感じた。今まで感じたことのない、全身を伝う圧倒的な恐怖。無意識に動くことも赦されず、彼等は改めて────理不尽なまでの死を察してしまった。

 

それほどの殺気を放つのは、イガル・ハヤテただ一人。騎士から伝えられた事実は、王国最強の騎士の逆鱗に触れるに充分過ぎる内容であったのだ。

 

 

「────やってくれたな、クズどもめ」

 

 

その場に自分以外がいることを忘れる程の、灼熱と凍土のような憤怒が鋭く細められた瞳に生じる。彼から放たれるは、純粋で混じり気のない殺意。それに晒された者達は、当に蛇に睨まれた蛙のように、生死を左右されていた。

 

────ハヤテの手にした剣が音を立てて砕けたことで、ハヤテは自分が殺気を垂れ流したことに気付く。すぐに我を取り戻し、殺気を収めたハヤテは最大級の舌打ちを吐き捨てると、身を強張らせた騎士に告げた。

 

 

「王国内の全騎士を招集しておけ、非番の奴も謹慎中の奴もだ。メルドも含めて、全員引っ張り出せ。場所は騎士団本部広場、俺が戻る前に動けるように準備をさせろ」

 

「…………え、あ?」

 

「────返事!」

 

「は、はいッ!了解しました!」

 

 

淡々と下された命令に、呆気にとられた騎士は理解が追い付かなかった。直後、張り詰めるような怒声を浴びて、慌てて敬礼をしてその場を離れる。その様子を見届けると、大半が腰を抜かしている生徒達の中で唯一、立ち尽くしていた光輝や雫にハヤテは口を開く。

 

 

「聞いたな?悪いが、今日の訓練は休みだ。貴様達は宿舎に戻り、大人しくしていろ」

 

「あの、ハヤテ団長………一体何が」

 

「────まだ正確なことが分からん。今は話せんが、緊急事態だ。大人しく従え」

 

 

有無を言わさぬ気迫に息を呑んだ光輝は、それ以上食いかかることは無かった。ハヤテの言葉に従うように、皆を連れて宿舎の方へと向かっていく。その背中を見届けたハヤテはギロリ、とある方向を睨む。

 

 

「────神の奴隷め、この事は高く付くぞ」

 

 

憎悪以上の殺意を滲ませ、ハヤテは王都へと戻る。

王国に起きた緊急事態、ソレは王国から離れたある場所で起きた一大事件であった。

 

 

 

その名も────星王抹殺未遂事件。

聖教教会を主導するイシュタルが、人類の守り手である星王に仕掛けた大規模な作戦であり、ある魔神により仕組まれたものでありながらも、トータス世界を破滅に導きかねない、最低最悪のやらかし────人類全体の足を引っ張る、愚行であった。

 




ハイリヒ王国「何してんの?」

帝国「何してんの?」

人類全体「何してんの?」

魔人族「何してんの?」

エヒト「何してんの?」

全員「「「「マジふざけんなよお前等」」」」


何が面白いって、これエヒトは本当に何も知らない立場。本人、もとい本神も「何してんの?」とドン引きしてるよ。お前のせいたぞ、お前が作った信者が暴走してんだぞ。責任取れ。

エヒト的には引きこもってる間に人類が魔神倒してくれたほうが楽ってこともあって、何ならエリュシオン達を応援してる(当のエリュシオン達から殺意向けられてるけど)のに、自分の信者が足を引っ張ったせいで人類側が負けそうになってるの最悪すぎる。お前のせいだぞ、ほんとに。

まぁハヤテ達王の剣は困惑以上に「殺す」って、殺意極まってるんですけども。


因みに、ハヤテは雫と刃の事を気に入ってます。それはそれは、二人のどちらか、なんなら二人とも自分の後継者としていいほどに。

ハヤテ「はよくっつけ。そして二人とも俺の後継者になれ」

と思うくらいには。


次回、聖教教会の株が派手に暴落する(元から欠片もないが)大事件の全貌が明かされます!お気に入りや感想、評価でペースが上がりますのでよろしくお願いします!それでは!!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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