ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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星王抹殺未遂事件

王国を、世界を揺るがせたその事件が起きたのはハジメ達がハイリヒ王国へ向かい始めた直後、ハヤテによる訓練という名のリンチが始まる数時間前。

 

その日、その時行われていたのは教会総本山である神山────人類側の勢力の一角を担う教会側の最重要拠点で行われたのは、教皇イシュタルとハイリヒ王国現国王 エリュシオン・S・B・ハイリヒとの対談。

 

人類側の勢力図を大きく書き換えるであろう時間になると、誰もが疑わぬその話し合いは双方の勢力、そしてそれ以外の他国も無視できないものであった。

 

 

聖教教会としては、先の戦争の件で失墜した信用と権威を取り戻したがっている。人類史にとって大敗北を迎えた第一次魔神戦争の主犯として扱われた教会はかつて人類勢力の中核を担っていた立場を失い、今も他国からは反発を受け続けている。

 

そんな教会が最も執着するのは、ハイリヒ王国の存在である。魔神連合に対抗する人類側の最高戦力とも呼べるその王国を、教会は是が非でも味方に、傘下に加えたかった。

 

最強クラスの精鋭、そして魔神連合に対抗するための軍事力を整えている。何より、ハイリヒ王国はかつて教会とは友好的であった。前王であるエリヒドが教会寄りの信者だったこともあり、懐柔が容易いという判断だったのだろう。

 

────しかし、イシュタル達の予想を裏腹に、エリュシオンが教会側に揺らぐことは欠片もなかった。むしろ彼は反教会派としてハイリヒ王国を教会の干渉から引き剥がし、人類勢力を導く若き王として成り上がってきた。

 

 

イシュタル達教会の望みは────エリュシオン、もといハイリヒ王国を従わせること。そしてエリュシオン達の目的は此方に関与しようとする教会の抑圧から抜け出すことにある。

 

 

世界にとっても無視できない、重要な邂逅が、その日始まっていた。

 

 

◇◆◇

 

そして、神山へと辿り着いた星王エリュシオンはすぐにでも教皇との対談を始めた────訳ではなかった。

 

 

「どうだ、美味いか?」

 

「んー、美味しいー。王様、ごちでーすぅー」

 

「あ、あの………へ、陛下?」

 

 

料亭の机に並べられた料理の数々を口に含むエリュシオン。そんな彼の前で嬉しそうに肉を頬張るのは、マイペースな騎士の青年 エッジクロウ。いつもの調子で王の前で食事をする相方に困惑しながら、王国騎士団のユーカ・ネフルは疑問を零した。

 

 

「え、エリュシオン様!私達って、仮にも護衛ですよね!?今回は教会との対談の為に来られたんですよね!?こう、悠長に食事なんていいんですか!?」

 

「そうは言ってもな、当のイシュタルが待てと言ったのだ。待たされた以上、こうする以外にやることもない。…………食わないのか?今日は無礼講だ。せめて俺の前でくらい、普通にしていいぞ」

 

「普通にって、陛下相手にそんなこと!出来ませんよ!!」

 

 

対談の時間より早く来たからか、或いはイシュタル自身も用事があるらしく、待たされる羽目になった。戸惑うユーカと相変わらずマイペースなエッジクロウを余所に、エリュシオンは近く料亭に寄り、早めの食事をすることになった。

 

しかもよりによって、エリュシオン自身の奢りである。常識人であり小心臓であるユーカからすれば、胃に穴が空くなんて話ではない。しかもエリュシオンはチマチマと食べているだけで、殆どを自分達に寄越しているのだから困ることしかない。

 

 

「ユーカちゃんは気にし過ぎだよー、陛下は気を遣われるのが逆に嫌なんだからさ。もっとこう、ゆったりとして良いんだよー?」

 

「え、エッジくんはマイペース過ぎるんですっ!私達はエリュシオン陛下の護衛として選ばれたんですよ!?こんなことしてるなんて知られたら、どれだけ怒られるか────!」

 

「団長はそういうことは気にしないし、へーきへーき。食べないんなら、全部いただいちゃうけど良いのー?」

 

「うっ…………別に、食べないとは言ってないですけど」

 

 

楽しそうに食事をする二人の少年少女の姿を、エリュシオンは満足そうに見届けていた。懐かしい光景を思い出す、と彼は目の前の食事を口に運びながら、思い出す。

 

────かつて王となる前、仲間達と紡いできた旅の記憶を。

 

 

『…………や、野菜。誰か、食わない?』

 

『駄目だよエル!ちゃんと好き嫌いせずに食べないと!立派な王様になれないからね!』

 

『う、メア………これ食わなくても、もっと肉とか食えば大人になれるだろ?』

 

『だーめ!ダメと言ったらダメ!そんな我儘は許さないからね!そうだよね!スピアちゃん』

 

『え、っと……………私、も。そうかな、って………』

 

『お前はもっと肉を食えよ、雷女。そんな骨みてーな身体ったら、見てらんねーよ』

 

『うぅ………そんなに、食べられないから………私はいいよ』

 

『はぁーっ、別にテメーを気にしてねぇよ。エリュシオンの品位に関わるって話だ。少しは考えろ、陰気臭い』

 

『…………ッ、ハヤテ、嫌い!』

 

『………ハヤテ、スピアをあまり虐めないでください』

 

『事実だろ。ウジウジとしてムカつくったらありゃしねぇ』

 

 

あの時はまだ皆が皆、仲良くはなかった。ハヤテも、スピリアスもヒナも、全員がエリュシオンの魅せる理想を信じたから着いてきただけの腐れ縁のような関係であった。そして、エリュシオンは忘れたこともない────常に自分の傍に居てくれたハウリア族の少女を思い出していた。

 

未だ数年間、癒えることのない喪失感を押し殺し、星王エリュシオンは改めて覚悟を決める。この世界を導き、解放者の意志を背負う者として、自分にすべきことを果たす為に。

 

 

◇◆◇

 

「────遅かったですね、星王エリュシオン」

 

「呼び出した挙句、待たせた者の台詞ではないな。教皇イシュタル」

 

 

そうして、星王エリュシオンと教皇イシュタル。各勢力の長は改めて、大聖堂の広間で立ち会った。その場には数十人の神殿騎士が集まっており、人数的にも不利であったのは明白だが、それでも場の空気を握っていたのはエリュシオンであった。

 

 

「護衛の者が居ませんね、彼等はどちらへ?」

 

「どうせオレ一人でなければ、対談は始められないだろう。それを言うならば、お前こそ周りの者を外させるべきだ。違うか?」

 

「……………」

 

イシュタルが目配りをすると、礼をしてから神殿騎士たちは一室から出ていった。当のエリュシオンは中央に置かれた机の前の椅子に座り、イシュタルと向き合う。当のイシュタルは深呼吸をしてから、早速切り出した。

 

 

「では、単刀直入に言います────エリュシオン、エリヒドの一子よ。エヒト様を信仰していた父のように、エヒト様に全てを捧げなさい」

 

「────断る。オレの全て、ハイリヒ王国を含めた世界は家族に等しい。自ら家族を売るような真似をする王は、この場にいない」

 

端的な要求に、エリュシオンの答えは明白であった。明確なる拒絶の意思。断固たる覚悟の表明、それを受けたイシュタルは目を細めながらも、すぐに落ち着いた様子で振る舞う。

 

 

「貴方の事はよく理解しているつもりです。星王エリュシオン、貴方が何故エヒト様を、我々をそこまで拒むのか」

 

「ふん、貴様のような俗物にオレの何が────」

 

「────メア・ハウリア、と言いましたか。彼女の死が理由でしょう?」

 

 

もし、その場に王剣の────彼と永く旅を共にした者達がいれば、怒りを顕にするほどのことであった。星王エリュシオンにとって、彼女の話題はタブーに値する。ましてやそれを、よりによって、教会の人間が口にすることは。

 

感情を消したように静かに見据えるエリュシオンに、イシュタルは平然と続ける。

 

 

「かつて、五年前の魔神戦争にて貴方達はよく活躍してくれました。その力を世界の為に、エヒト様の為に振るえば良かったのに、貴方はそうしなかった。その理由は調べてみればすぐに分かりましたよ」

 

「…………」

 

「あの亜人族の娘は、確か我々教会の援軍にて来た戦場で死んだでしょう。確か、死因となったのは致命傷は、戦場での誤射が理由と。…………気持ちは分かりますが、我々を恨むのはお門違いだと思われますよ。星王エリュシオン」

 

 

慇懃無礼に、教皇は諭すように語った。

どこまでも、自分達に非がない被害者とでも言いたげな態度。それは真相の全てを知るエリュシオンにとって、傷口に漬け込む以上のものである。

 

 

「────お前の言葉は軽いな、イシュタル」

 

 

だが、エリュシオンは怒りに囚われずに逆に笑い飛ばした。その顔は笑っていようと、瞳に一切嬉々の感情がない。彼の瞳は純粋な敵を見るものであり、怒り以上の呆れを秘めていた。

 

 

「オレがお前たちに恨みや憎悪を向けているからこそ反発していると?…………侮るなよ。このエリュシオン、そのような感情で我を失うような未熟さは、疾うの昔に超克している」

 

「…………」

 

「だが、そうだな。お前達に与さない理由くらいは教えておいてやろう。正直に言えば、お前等の事はそこまで興味はない。オレが信用できないのは、エヒトの方だ」

 

 

険しい顔で睨むイシュタルに告げたのは、エリュシオンが知った世界の真実の一つであった。

 

 

「────リヒトゥエリル、その名を知っているか」

 

「………」

 

「奴の狂信者たる貴様でも知らないか。無理もない、エヒトは話さないだろうな。この世界の玉座が、元々からいた神から奪ったものであることなど」

 

 

それは、エヒトが元からいた神の座を奪った簒奪者であるという事実。自らを受け入れた神すらも殺し、その力を奪い、他の神々を追いやって世界を支配する立場を手に入れたというもの。

 

 

「エヒトルジュエは、かつて世界を創り人の世に光を齎した創世神にして全能神リヒトゥエリルを殺し、その力を奪って神に成った。その冒涜の歴史を、認めるはずがないだろう」

 

「────エヒト様を、侮辱するか」

 

「ならば何故エヒトは出てこない。エヒトは何を恐れている?─────あの時、神山で起きた黒い影、アレはエヒトへの怨念と憎悪だ。アレだけの怨恨を、正しき神が受けるものか」

 

 

破滅の魔神と呼ばれるモノ、アレが齎したエヒトの沈黙。神域を蝕もうとした黒い影から感じたのは、途方もない程のエヒトへの怒りと憎悪、殺意。それだけのものを秘めるなど、普通に考えて異常でしかない。たとえどれだけエヒトを信じていようと、それを見れば誰もが疑念を抱くだろう。

 

 

「結論から言おう。オレはエヒトを、あの神を信用できない。できるはずがない。あのような神に、こんな事態になっている時に逃げ隠れするような神に、世界を渡しはしない」

 

「どうしても、エヒト様に反抗すると?」

 

「反抗?世界を守ろうともしない神に、神たる資格はない。貴様も世界の安寧を思案するなら、あの神に縋るのは止めろ。今大事なのは、この世界を滅ぼそうとする厄災を討ち倒すことだ」

 

 

そう言って、エリュシオンは話を切る。

結局話は変わらなかった。その代わりにエリュシオンは自身が会談を求めた理由を明かそうとしたその時、俯いているイシュタルが不気味な声を零したのを見た。

 

 

「────えぇ、実に残念です。星王エリュシオン。私は、貴方の実力全てを期待していたのですよ」 

 

「…………」

 

 

────直後、エリュシオンの座っていた椅子の真下が熱を帯びる。仕組まれていた爆薬の火が、会談室を消し飛ばす程の大爆発を引き起こした。

 

 

◇◆◇

 

 

────平穏に包まれていた大聖堂の外、城下町が混乱に包まれる。無理もない。突如として大聖堂の一角が火を吹いて吹き飛んだのだから。何が起こったと市民たちと何も知らぬ神殿騎士達は戸惑いながら、町中を佇んでいた。

 

そんな最中、爆発を掻い潜ったエリュシオンは大聖堂の主柱の上に降り立つ。外で待機していたユーカを抱き抱えて脱出したエリュシオンは、「あわわわわ」と顔を真っ赤にしてフリーズするユーカよりも、もう一人の青年騎士を呼んだ。

 

 

「エッジクロウ、無事か」

 

「何とかー、陛下ーユーカちゃん助けてくれるなら、ついでに自分も助けてくださいよぉー」

 

「え、ええええええ!エリュシオン陛下ッ!お、下ろして!下ろしてください!自分で立てまひゅっ!立てますからぁ!」

 

「慌てるな────にしても、避難すらしてないか。つくづく見下げ果てたものだ」

 

 

羞恥と騎士としてのプライドのあまり、ジタバタと足を振るユーカを宥めたエリュシオンは、冷たく周囲の城下町を見下ろす。神山の真下に連なる町々に居る人々の好奇と不安の視線に、エリュシオンはイシュタル達の目論見を察した。

 

 

「イシュタルめ。最初からオレを従わせる為だけにこれだけの舞台を用意した訳か」

 

「そ、そんな────!仮にも、他国のトップを相手にするんですよ!?こんなことしたら、聖教教会は完全に信用と立場を失い、完全に孤立します!」

 

「向こうは関係ないんじゃない?あんな殺気立って、話し合う気なんて欠片も無さそうだしー?」

 

 

仮にも、対談といい呼び出した相手を武力で従わせる。そんなやり方が許されたことはない。かつての権威を振るうことか出来た教会ならば話は別だが、今の彼らがそれをすれば、他国からの反発は絶対的なものになる。

 

教会が人類の敵として捉えられるのも間違いないからこそ、エリュシオンはイシュタルはそこまでしないだろうと考えていた。脳裏には最悪の可能性として、こうなるのではないかと過っていたが、まさかそこまで狂信者であったとは思わなかった。

 

大聖堂から出てきたのは、大量に武装した神殿騎士。彼等を従えたイシュタルは聖堂の一角に降り立ったエリュシオン達を見るや否や、唾を吐く勢いで喚き散らした。

 

 

「────エヒト様を信じる者達よ!あの男は、星王は我が神を否定し、存在を冒涜した!これは赦されざる大罪であり、禁忌に等しい!最早アレは一国の王に有らず!アレを引っ捕らえ、罪深き反逆者へ我等の信仰心を知らしめよ!!」

 

「あくまでも、オレを捕らえることが目的か。その為に結界まで張って、大層なことをする────ユーカ、エッジクロウ。お前達は下にいる市民を守れ。流石の俺も、全てを守り切る自信はない」

 

「えっ!?へ、陛下!?何を言って、まさか一人でやるつもりですか!?神山、教会の総本山ですよ!?どれだけの相手がいるか────!」

 

「元より、見え透いた結果だ。任せるぞ」

 

 

そう言って二人に託したエリュシオンは敢えて、大聖堂の前に降り立つ。フワリと、地面に触れることなく着地した青年。まるで宙を浮くようにゆっくりと着地したエリュシオンの様子に、イシュタルの命を受けた神殿騎士達は動けない。

 

目の前の王から溢れ出す魔力が、威圧感が、彼等の動きを無意識に停止させていた。それは、生物の本能由来のものである。

 

 

「────イシュタル・ランゴバルド。世界を導く立場にありながら、神に魂を売り渡した愚か者よ。お前は、世界を導く者に相応しくない」

 

 

静かに歩き出すエリュシオンは右手を伸ばす。グォン、と大気がネジ曲がったかと思えば、その手に収まるのはエリュシオンの愛用する────槍。ソレはかつて、創世記に神々が使用したとされる太古の遺物の一つ。二つの刃先が螺旋を描くような形状のその槍を手にしたエリュシオンは、その場にいる全ての敵、そして息を呑むイシュタルへ向けて、宣言する。

 

 

「我が名は星王エリュシオン・S・B・ハイリヒ。神々の反逆者、解放者の意志を継ぐ者として────神を騙るモノ、悪神エヒトの下僕たる貴様に、星の裁きを下す」

 

 

◇◆◇

 

 

星王 エリュシオン・S・B・ハイリヒ。

この世界の者であれば、この世界の俗世に触れているものであれば、彼を知らぬ者はいない。かつてハイリヒ王国の若い王子として世界を駆け抜けた彼はこのトータスに名を広める英雄の一人であり、謂わば生きる伝説そのものであった。

 

 

『────星王エリュシオン。アレは正しく、この世界が生んだ英雄だ。純トータス生の完全無欠。大魔王に匹敵する絶大な魔力量、世界の理を超克している星の力、そして極め付きには七つの神代魔法を得た事で手に入れた概念魔法の力。正直、アレは私の天敵だね。大魔王はともかく、ダブリスも本気で相手したくないんじゃないかな?』

 

『ならば、どうやってエリュシオンを殺す?それだけの者を、放置せよというのか』

 

『教皇イシュタル。星王の能力が万全に、120%引き出される状態は何だと思う?』

 

『…………それは?』

 

『────彼の仲間が、多くの配下がいる環境だ。星王は王、ただ玉座に座する者ではなく、彼は人々の舵を取り、勝利を掴み取る覇王タイプだ』

 

 

かつて大魔王が率いた軍勢が、ハイリヒ王国を滅ぼせなかったのはそれが明確な理由である。エリュシオンが率いた王国、精鋭たる王の剣は彼の下でこそ真価を発揮する。だからこそ、そのような状況こそ避けなければならない。

 

 

『まあ────孤立させたかからと言って、簡単に倒せる相手ではないけどね』

 

 

◇◆◇

 

 

地上に降り立ったエリュシオンに、大勢の騎士が襲い掛かる。剣や盾を手に迫る彼等はエリュシオンの首を取らんと駆け出して、次の瞬間、一斉に吹き飛ばされた。

 

 

「攻撃を続けろ!突撃────ぐばぁっ!?」

 

「な、なんだ!何に攻撃されて────ご!?」

 

「球体だ!黒い球体が、回っている!」

 

「────『公転衛星帯(サテライト)』」

 

 

平然と歩くエリュシオン、その周囲を黒い極小の球体が飛び回っていた────いや、彼を中心として回っているのだ。超高速かつ変則的軌道で回転する球体に騎士達が吹き飛ばされ、鎧や盾も抉られていく。

 

公転衛星帯(サテライト)』、星体魔法の奥義の一つである自動攻撃型の魔法。発現させた黒い球体、『黒天』を術者本人を中心として円周状に高速移動する魔法。

 

『黒天』の硬度と速度は魔力に依存し、回転する軌道の角度と範囲は自在に操作できる。その魔力が強力であればあるほど、『黒天』はあらゆる金属や鉱物を破壊する程の威力を秘め、あらゆる攻撃を通さない防御を維持する。攻守一体であり、エリュシオンを守る衛星そのものであった。

 

 

回転する『黒天』に、斬り掛かる神殿騎士の大半が薙ぎ払われる。犯行の余地もなく、集められた精鋭である騎士達が、一方的な暴によって押し潰されていく。

 

 

「魔法だ!距離を取って、魔法で攻撃しろ!」

 

 

しかしそこは、神山に集められた精鋭。すぐさま接近戦は不可能と判断した騎士の呼び掛けにより、魔法を使える者達が一斉に魔法を放つ。振り注ぐ虹色の魔法の雨嵐がエリュシオンごとその場一帯を破壊し尽くす────ことはなかった。

 

 

「対応が早いな。流石は最高戦力、信じる神を選んでいれば心強かったものを」

 

 

────エリュシオンの右手、その空間上に渦が生じていた。ソレは炸裂するはずであった魔法を吸い込み、亜空間にて圧砕する。小規模のブラックホールのようなソレを握り潰し、エリュシオンは静かに吐き捨てた。

 

 

「イシュタル様!駄目です!全く歯が立ちません!これでは全滅してしまいます!」

 

「────『アレ』を用意しなさい。元より『アレら』は、その為に用意したものです」

 

 

イシュタルの言葉を受け、騎士達が動く。そうしている間にもエリュシオンに襲い掛かる騎士達が叩きのめされていく。恐らく半数が気を失い、マトモに立っているのも三割近くになった所で、攻撃を続行しようとするエリュシオンに────イシュタルの怒号が響き渡った。

 

 

「────星王エリュシオン!これを見なさいっ!!」

 

「………ッ、ハウリアだと………!?」

 

 

イシュタルの指し示した先にあったのは、数十人の騎士に集められた亜人族────ハウリア族の姿があった。ボロボロに痛めつけられたように、中には耳を斬り落とされた者もいる様子で、その悲惨さに歩みを止めたエリュシオンの眼が鋭さを増す。

 

 

「彼等に、何をした?」

 

「私達は何もしていませんよ。帝国の反乱分子が奴隷として捕らえた彼等を保護しただけです。善行もするものですね────お陰で貴方を抑える手立てが出来た」

 

「反乱分子────バイアスか。奴と取引をしてまで、人質が欲しかったとはな」

 

 

クライスが統治する現帝国に反対を示す、第二皇子バイアス率いる反乱分子。かつて正統後継者であったクライスを決闘(騙し討ち)にて追い立て、後の決闘で次期皇帝の座を奪われたクライスを筆頭に、クライスの方針に対立する勢力。

 

彼等は正統な帝国の意志を継ぐものと名乗りながら、多種族、主に亜人族への徹底的な奴隷化を繰り返している。それが帝国の足を引っ張る行為であること、魔神連合という脅威に抗う人間の邪魔をすることだと、彼等には理解できたことがないのだろう。

 

────捕らえられたハウリア族は、かつてライセン大峡谷でシアやカム達とはぐれた者達であった。本来であればここにいる以上のハウリア族が捕らえられていたが、ダブリスの妨害を受けたこともあって、それが叶わなかったのだろう。

 

 

「武器を捨てて、私に従いなさい。星王エリュシオン。最も、この亜人族が死んでもいいなら、話は別ですが」

 

「…………」

 

「エリュシオン様!我々の事は、構いません!」

 

「私達は、何とかします!だから、こんな話は聞いちゃ駄目です!!」

 

 

数十人のハウリア族に剣が向けられ、脅迫を受けるエリュシオン。険しい顔で動きを止めたエリュシオンに、ハウリア族の皆々が悲鳴を上げるように声を上げる。そんな彼等の要求に、イシュタルの指示を受けた騎士達が黙らせようと腕を振り上げたその瞬間────エリュシオンは足元に槍を突き立てた。

 

 

「────彼等に触れてみろ。お前達を、肉片も残さず殺す」

 

「フッ、そんなことを言って動くこともできないのが現状。哀れなものですね、このような亜人族如き絆されるなど。その力、エヒト様の為に使えばまだ良かったものを」

 

「─────何もできない、とでも?」

 

 

瞬間、イシュタルは気付いた。

ハウリア族へ剣を向けた神殿騎士達の周囲の空気が、微かに光っているのだ。目を凝らして見れば、小さな星のような物体が大気に紛れていた。それも数にしては数百。

 

槍を手放して、両手を挙げたエリュシオン。彼が挙げた両手の指が魔力を込める。何かを企んでる、そう気付いたイシュタルが騎士達に呼び掛ける。

 

 

「お前達!ハウリ────」

 

 

直後、十指から放たれた閃光が────極細に圧縮された魔力がレーザーのようにして放たれた。イシュタルが言い終わる前に放たれた魔力、それらが騎士達が反応する前に周辺に浮かぶ極小の星に接触した途端、ソレが起きた。

 

圧縮された光線が星に触れたことで拡散され、周辺に魔力の嵐を撒き散らす。ソレらは騎士達の全身を細かく正確に撃ち抜いていく。

 

 

「────『残光流星(スペクトラム)』」

 

 

全ての騎士が崩れ落ちた直後に、槍を携えたエリュシオンがハウリア族の傍に立つ。魔法を調整したことで、ハウリア族に危害を加えることなく、騎士達を排除できた。精密生と威力を抑えることに特化した『残光流星(スペクトラム)』を使い、彼等を縛る拘束具を破壊したエリュシオンは、膝を付いて様子を確かめた。

 

 

「…………大事はないか?」

 

「は、はい。陛下のお陰で、何とか…………」

 

「そうか────今から全員、俺の領域で保護する。すぐに仲間の元に連れて行くから、少し休んでいてくれ」

 

「分かりました…………陛下も、お気を付けて」

 

 

ハウリア族の全員を、黒い影────領域魔法にて保護したエリュシオンは立ち上がる。他にハウリア族は居ないはずだ、そうでなければイシュタル達も焦った様子を見せていない。動揺のあまり全身を震わせている老人に向けて、エリュシオンは告げた。

 

 

「────一応聞くが、お前の出せる手札はあれで最後みたいだな」

 

「…………ッ」

 

「無ければ良い。お前を殺し、この件を軽く終わらせるとしよう」

 

「ま、待て!殺すというのか、私を!そんな事をしてどうなるか、分かっているのか!?」

 

「これだけの事をしでかしておいて、まだ殺されないとでも思っていたのか?呆れたものだな、さっさと腹を括れ」

 

顔を青くしたイシュタルはエリュシオンの言葉に、悔しそうに歯噛みする。未だに命が惜しいのか、と呆れたエリュシオンだったが、どうやら違ったらしい。覚悟を決めたように顔を上げたイシュタルが、大きく声を荒らげる。

 

 

「────ファウスト!貴様の言い出した計画だ!早く力を貸せ!」

 

「ッ!?ファウストだと!?────イシュタルッ!貴様は!!」

 

 

このトータスを滅ぼさんとする四柱の厄災の内、一柱。未知数の力とそれ以上の知略策謀、悪意を持つ混沌の魔神。その名をイシュタルが呼んだことに、エリュシオンは最悪の予想を思い浮かべ、怒りと侮蔑を以て叫んだ。

 

それはつまり────イシュタルは手を組んだことを意味する。人類を、この世界を滅ぼす厄災と。自分を追い詰める、ただそれだけの為に。

 

人類の敵と与したことに、エリュシオンはイシュタルを詰問せんと飛び出す。その手が教皇の喉元に届こうとした瞬間────複数の黒い影が、エリュシオンを吹き飛ばした。

 

 

◇◆◇

 

 

「…………隠してたのにさぁ、何でわざわざその名前で呼ぶわけ??ホント、信者ってヤだね。怒りよりも吐き気が込み上げてくる」

 

これだから、と露骨なまでの嫌悪感を顕にするファウスト。折角名前を隠した意味がないと苛立ちもあったが、仕方ないので諦めた。それよりも、今はこの場を、最適過ぎるこの機会を利用する他はない。

 

 

「────星王、殺せても殺せなくても今回の機会で傷を負ってくれれば有難い。というわけで、私の用意したカオスアバターの実験に付き合ってくれると助かる」

 

 

今回、ファウストが用意したのは新たに生み出したカオスナンバー。この世界で激戦を繰り広げた刃やハジメ達が撃破した敵、その因子を密かに回収し、培養と遺伝子を掛け合わせてきた結果、生み出された無数の実験体。

 

その数にして、六体。魔神の力を内包した眷属はファウストの持つ実験体の中でも極めて強力な個体。この為だけに用意した個体だが、星王を殺せるのであれば多少の損失は構わない。

 

 

「────私が命じる。星王を殺せ、全身を引き裂き、心の臓を引き摺り出す。この私の、偉大なる計画の為に」




星王エリュシオン抹殺計画、開始中。凄いよね、これ暗殺なんて話じゃないよ。人類の敵と手を組んで人類側のトップ殺そうとするとかホントに倒錯してる。エヒトも多分引いてる(引いてる資格もない定期)

因みにファウストは殺すの無理だなー、と思ってるけど内心面白いからイシュタルを利用して使い捨てする気満々。だってどっちに転んでも(エリュシオンを殺せても、殺せなくても)ファウストにとっては都合が良いから。


────一体何時から殺すなんて話になったんだ?(本来の目的は無理矢理にでも従わせることでは?と思う自分であった)

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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