(────アレが、ファウストの眷属か)
吹き飛ばされ、聖堂の壁に叩きつけられたエリュシオンは平然と立ち上がる。瓦礫の中から這い出たエリュシオンは立ち上がり、此方を見上げる複数の黒い影を見下ろした。
禍々しく蠢く黒い魔力を秘めたキメラのような存在。その姿は男女のものを模したようなソレであるが、明らかに生きてる痕跡はない。頭の部分にはチェスの駒のようなユニットが埋め込まれており、フラフラと人形のような既視感を感じさせる。
(────『
カオスアバター、660から666。ソレはファウストがこの世界で回収した強者の因子から作り出したカオスアバターの呼称である。基本的に自らの創り出した実験兵器にファウストはそれらしい名前は付けない。このナンバーの個体はファウストが急造で創り上げた、星王抹殺の為の尖兵である。
『繁殖』由来の再生力と、其々の因子────レヴィに、ラーヴァ、オーゼンハイト、カトレアやルドガー、ヴェオリオーン。ハジメ達に殺された遺体から回収した因子をベースに更に魔改造した異形。それらを前にエリュシオンは思考を一先ず中断するや否や、飛び出した。
────文字通り、光となる速度で。
『────!?』
「遅い。まずは一匹だ」
星体魔法の一つ、『
小型のカオスアバターが両手を広げ、魔力の弾丸を放つ。しかしエリュシオンはそれを片手で弾き返し、魔力を伴う槍────『アステリオス』を鋭く、深く突き立てる。
『────ッ!!?』
小人のようなカオスアバターの脳天を貫いたエリュシオン。抵抗しようと両腕を振るわんとしたカオスアバター665に、エリュシオンはただ槍に魔力を込めて────跡形もなく、消し飛ばした。
「やはり、コアは複数。脳と心臓、身体の一部に隠してるな。ソレら全てを破壊しないと殺せない────厄介だが、やりようはある」
だが、圧勝とはいかない。魔神の眷属と呼ぶに相応しい力は与えられているらしく、ダメージは少なくない。先の攻撃で受けた傷は頭を軽く割るものであった為、軽く流血をしているが、エリュシオンはそれを気にせず、槍を軽く振るった。
「────全て、殲滅する」
星王の名の下に、エリュシオンはその覚悟と共に残りのカオスアバターへと突貫する。神山の中心にて、激しい乱戦が繰り広げられたのだった。
◇◆◇
「────ま、期待してはなかったけどね。星王エリュシオン、簡単に嵌めれるとは思ってないさ」
折角用意した戦力、カオスアバターで追い詰めているにも関わらずファウストは諦めたように笑った。それもそのはず、エリュシオンは追い詰められるどころか逆に圧倒していた。
────彼こそが、このトータスに生まれ落ちた救世主。魔神という災厄に滅ぼされるであろうことを予知したこの世界そのものが生み出した、救世の存在。いわば抑止力のカウンターとも呼べる存在である彼の才能と実力は、魔神連合すら危険視するレベルのものであった。
彼の存在こそが、魔神連合が組まれた理由の一つでもある。なんせ単身で、一国の戦力を含めれば一つの魔神を軽く滅ぼせる戦力を有しているのだ。
「正直、今の私が出せる戦力全てを使っても彼を殺せる自信はない。だって、彼まだ全力を出せてないしね」
「────それなら、貴方が動くことは無かったのでは?」
何処かで語るファウストに、応えたのは誰かであった。
彼の側に着くその人影は、まるで彼の腹心のように絶対の忠誠を抱いているように見えた。ファウストも同じく信頼を向けているのか、不敵な笑みと共に隣に立つ影に答える。
「まぁ、正面から挑んだらの話さ。やり方を考えれば、問題は無い。人には常に、弱点が存在する。それを利用すれば、容易いことはない」
「つまり、戦術さえ活かせば、星王を殺せる機会ができると?」
「殺せはしないし、殺せると思っていない。だが、アレに届き得る刃へと磨き上げることはできる。そして、彼を殺すのは、私でもなくイシュタルでもない」
ファウストはあらゆる感情に満ちた眼差しで、ソレを見下ろす。無数のカオスアバターを平然といなしながら、それでも何かへ意識を向けずには居られない星王に。
「彼自身が、自分を殺す────自らの■■に、足を引っ張られて」
◇◆◇
────始めまして。私、メア、メア・ハウリアって言うの
────エリュシオンね………どうせなら、エルって呼んでいい?
初めて彼女と出会ったのは、ある旅での始まりの事だった。父親との喧嘩で後先考えずに抜け出した若き王子、彼は初めての旅で挫折して樹海の中を彷徨っていた。文献で知った解放者の存在を探そうとしたが、遂に倒れそうになった彼を救ったのは、ハウリア族の少女であった。
彼女との出会いが、若き王子────エリュシオンにとって、大きな転機であった。世界を知らぬ、王子にとって彼女の出会いは、自らの大きな変革であっただろう。
王になるという、漠然とした目標に肯定を示し、彼女はどんな王になるかという話にすら耳を傾けてくれた。いつも、どんな辛い戦いの時も、彼女は支えてくれた。
王の剣も、メアの提案で生まれた。多くの仲間と出会い、大変な旅路であったが、どんな時も彼女が傍で支えてくれた。これからもずっとやっていけると信じていた。
──────あの戦いの後、血溜まりの中に沈むメアを見るまでは。
『────何でだ!?何で治せない!?何で血が止まらないんだ!?』
『エ、ル────』
『………皆を、守る為に手に入れた力だろ!?その為の、概念魔法だろ!?神殺しなんていらない!オレには、オレには仲間を、皆を救える魔法があればいい!!────だから治せよ!オレの相棒を、オレの片翼を!!』
戦いの最中逸れたメアは、大勢の人を守る為に戦った。その際、ダブリスの従えるアンチノミーの襲撃を受け、味方の誤射によってアンチノミーから致命傷を受けたのだ。
そんな彼女を治そうと、エリュシオンは必死であった。今までの旅で受け継いだ概念魔法の力で、何とか救おうとした。だが、それも出来なかった。世界を変える、神を殺せる可能性を持ったその力は、一人の少女を救えなかった。
────きっとその日からだ。概念魔法の力を、神殺しの力を発現できなくなったのは。彼女を、相棒を、生きる理由を失ったエリュシオンはエヒトを殺せる力を発現できなかった。欠けた心が、概念魔法の力を使えなくしたのだろう。
『エル────きっと私は、これでお終い』
『父さんやシア、皆のこと…………よろしくね。皆優しいから、きっと大変な思いすると思うから』
『大丈夫、私はずっと着いてくよ。約束────だからね、エル、諦めないでね。皆を、世界を救える立派な、王様になって────』
彼女は、そう言ってくれた。
死ぬ間際、エリュシオンの腕に抱かれた彼女は優しく、最期まで共に歩んだ王子の背中を押した。だからこそ、エリュシオンは戦うことを選んだ。これからも、世界を、全てを救う為に彼はずっと、その命が尽きるまで戦い続けるだろう────。
『────いや、死ぬのは………嫌ッ』
『……………ッ』
『私………約束、したのに………エルと、ずっと一緒に、いるって……………一人に、しないって…………』
死ぬ間際に遺した少女の嘆き、唯一の弱音は、エリュシオンにとっての呪いとなった。輝かしき魔力は涙のように溢れ出し、悲鳴や絶叫のような音を響かせながら破裂していく。まるでエリュシオンの、ヒビ割れた心を示すように。
────そして、大切な少女の喪失により、若き王子は星王となった。より正しく、より理想的な王として振る舞う彼は、あるものを捨てた。────悲しみ、絶望、弱さ────人らしくあるものを削ぎ落として、彼は救世主たる王になる道を突き進む。
────その歩みが、少女の望みではないことなど、彼の頭には無かった。
◇◆◇
「────これで、五匹」
掌を向け、魔力を解き放つエリュシオン。掌の先では透明な壁、隔絶された空間に閉じ込められたカオスアバターの一体が圧縮されるが如く、空間に押し潰される。再生すら許されず、跡形も無く。
僅か数分、それだけで暴れ回るカオスアバターの大半が殲滅された。魔法を使い、時には素手で、圧倒しながらも確実に潰していく。残りは一体、再生力が一番強く厄介な奴だった。
『────!!』
「最後に残したのは、他の奴等が面倒だっただけだ。今度は確実に、最大火力で葬────ッ!?」
無数の腕が視界を覆い尽くすように広がる最中、そのまま最高火力の魔法を無詠唱で放とうとしたエリュシオンは、自らに起きた異変に一早く気付いた。同時に掌に収束していた魔力が霧散し、全身から力を奪い尽くされるような感覚に、エリュシオンは意識を一瞬奪われた。
その隙を狙うが如く、カオスアバターの増殖した肉体が溢れ出る。広がっていく肉塊と無数の腕を掻い潜り、エリュシオンは一時距離を取る。そうして離れた直後、エリュシオンは自らに何が起きたのかを理解した。
「────イシュタルか」
大聖堂の近くでイシュタルが司祭たちと共に魔法を発動していた。それこそ、教会の人間でも選ばれたものにしか使えない魔法────『覇堕の聖歌』。敵を拘束し、衰弱させていく魔法であり、歌を歌い続ける限りその効果は永続的に発動し続ける。
先の戦闘、カオスアバターとの戦いで魔力を消耗しているエリュシオンにとっては無視できない痛手であった。今すぐイシュタル達を殺してでも止めるべきかと思案していた、その時のこと。
後方に跳び、人々が避難した城下町の一端に着地したエリュシオン。カオスアバターを迎撃しながら、『覇堕の聖歌』を止めようと減り続ける魔力を練り上げていた瞬間────彼の視界で何かが動いた。
「……………ぁ、う」
(────子供!?どうしてこんな───逃げ遅れたのか!?)
「ここに居るのは危ない!早く離れ────クソっ!」
そこにいたのは、怯えた様子の少女。逃げ遅れた民間人だと即座に判断したエリュシオンが逃がそうとした直後に、カオスアバターが追撃に躍り出る。増長する肉体のままに突撃するカオスアバターにはエリュシオンを襲うことしか頭になく、子供を巻き込むことなど気にしてない様子だった。
────膨張し続ける肉塊の突進を、エリュシオンは『
少女を抱き抱えながら、エリュシオンは手から離した槍を空中で操る。槍の矛先を自身の魔力を周囲に収束させ、一気に放射した。
「一掃せよ────
────振り注ぐ閃光の雨が、カオスアバターの肉体を消し飛ばしていく。質量を伴う閃光、高火力の爆撃は増長していくカオスアバターの肉体を焼き払っていき、コアを露出させたカオスアバターを────エリュシオンの槍が抉り穿った。
(これで全て…………思ったよりも魔力を消費したな。連戦は、まぁいけるな。イシュタルだけは引き倒して、さっさと終わらせるか)
「……パパ……ママ…………」
冷静に、それでいて多少余裕持って魔力を残せたエリュシオンは一息ついた。と言っても、体力と魔力の消費は少なくない。一呼吸置いた彼の様子から見ても、それは明確だった。
そんな彼は、不意に抱き抱えた少女の存在を思い出す。服を掴み、俯いたまま縋り付く少女の怯えように気付いたエリュシオンは優しく微笑み、安心させようと振る舞った。
「大丈夫だ。すぐに君を安全な場所に送り届ける。パパやママの所へ────」
「────えひとさま」
────その瞬間、少女が口にした神の名に、エリュシオンは全身を震わせた。恐怖から、ではない。それは、本能が感じ取った嫌悪感。無垢な少女に纏わりつく純然たる悪意────それは、星王の善意を利用した、ファウストとイシュタルによる罠だった。
「パパとママに、あわせてください────」
(体内にアーティファクト────爆弾か!?)
そこでようやく、エリュシオンは自分が嵌められたことに気付いた。少女は逃げ遅れたのではなく、イシュタルやファウストが敢えて放置した囮。エリュシオンが彼女を保護したこの瞬間を利用するために、生きた爆弾。
両の瞳、魔力の動きや物質の状態を見抜く効果を秘めたスキルを発動するエリュシオン。そして、少女の中に埋め込まれたアーティファクトを感知した。恐らく、無理矢理にでも詰め込んだであろうそれが、どれだけの威力、規模となるか。
(神山全域────イシュタル!オレを殺す為だけにこの爆弾を!不味い、このままではユーカ、エッジクロウ───それだけじゃない!神山の民間人全てが巻き込まれる!)
イシュタルはそれを考慮した上で手を組んだのか、ファウストはそうなることを知った上でこんな計画を立てたのか。少なくとも、少女の人命を冒涜した悪辣な罠は────少女だけではなく、街全体の人々の生命を人質に取ったものだった。
このまま上空に逃げても意味がない。少女の中に埋め込まれた爆弾は取り外すことも取り除くことも出来ず、このまま爆発すれば神山を呑み込むことになる。
最終的に────エリュシオンを決断した。彼は自らの有り余る魔力を使い、バリアを張った。『星光壁』を上回る強度を誇る絶対防壁。そのバリアを周囲に展開したエリュシオンの様子に気付いたユーカやエッジクロウが戸惑いを見せる。
「へ、陛下っ!?」
「どうしてバリアを────ッ、まさか!」
そのバリアは外敵からの攻撃を防ぐのではなく、内側から攻撃を外に出さないためのものであった。エッジクロウがそれに気付き、顔を上げた瞬間────────バリアの内から、凄まじい爆発が生じた。
◇◆◇
「────これは、エーテル炉心を圧縮した小型爆弾。まぁ分かりやすい話、イクス達『ナンバーズ』の自爆から考案したものさ」
それは、ファウストがイシュタルに与えた最後の切り札────エリュシオンを殺す為に用意された蒐集物の一つであった。かつて自分の力の一端にした『増殖』を倒した強化人間達の決死の自爆。それに興味を覚えたファウストは滅び行く世界から『ナンバーズ』のデータを採掘し、彼等の炉心の再現に成功した。
それを応用した、圧縮型の破壊兵器。本来であれば世界全体を破壊し尽くす威力を、街一つ分にまで圧縮させたその破壊力は魔神とて大ダメージは免れられない。ファウストにとっては、他の魔神相手に使いたかったが、星王エリュシオン相手ならば、悪くないとも考えていた。
「…………流石です、先生。ですが、本当にうまくいくのですか?彼の星王はこの世界でも数少ない手練れ、そのような爆弾を直撃させる機会など────」
「────星王はねぇ、甘いのさ」
「甘い、とは」
「言葉通りさ。彼は、他人を、守るべき人々の命を切り捨てたりはしない。切り捨てられない。トラウマによる義務感、使命感からかね。ならばこそ、それを利用すればいいだけのこと」
────彼自身が、自分を殺す────自らの『
◇◆◇
そして、本来ならば神山を消し去るはずの爆発は小規模に収まった。エリュシオンがその爆発を広げぬ為に、自分と世界を隔絶するようにバリアを展開していた。しかし次の瞬間、あらゆる攻撃を防ぐバリアが音を立てて砕け散った。
「────がッ、は」
煙の中から姿を見せたのは、血塗れのエリュシオン。爆破を直撃したことで全身のダメージは尋常ではなく、大量の血を吐いた彼は苦しそうに呻いた。何とか自らの防御力もあって五体満足だが、どうやら爆発の中に呪詛を仕込んでいたらしい。
辛うじて意識を保っていたエリュシオンは、周囲を見渡す。神山の真下、避難する人々が無事であることに、彼は心から安堵した。
「よか、った────」
────そして、途切れ行く意識の中、浮遊する事も出来なくなったエリュシオンは落下を始める。血塗れで落ちる星王に、彼等が反応しない訳がなかった。
「────エリュシオン陛下ぁッ!!」
二人の騎士が、落下するエリュシオンの元へ向かう。届かないと判断したエッジクロウによって更に真上へ飛ばされたユーカが、落ち行くエリュシオンの身体を抱き留める。何とか衝撃を押し殺すように、近くの建物の屋根から屋根へと降りて地上に着地したユーカはエリュシオンに呼び掛けた。
「陛下!エリュシオン陛下!ご無事ですか!?いや、無事じゃないのは分かりますけど!返事をしてください!」
「………ぐっ、ユーカ、か?オレは、平気………だ…………」
「…………全身の骨幾つか折れてる。内臓にまでダメージが入ってるし、呪いみたいなものも受けてる。不味いよ、ユーカちゃん。早く陛下を連れて避難しないと────」
「─────そうはいきませんよ」
エリュシオンの状態を判断して避難を促したエッジクロウは、その声を聞いた瞬間、腰から鋭い切れ味を誇る一対のブレードを引き抜いた。身構える彼の前には、数百人以上の神殿騎士と司教達、それを率いるイシュタルの姿があった。
「最初から陛下を騙し討ちするつもりだったんだ。神聖なる神山で戦争をする気かって、此方には団長達を連れて来れないようにしといて────アンタらホントにセコいね」
「なんとでも言いなさい。これもエヒト様に歯向かう愚か者を討つためのこと。ソレには少し犠牲を要しましたが、私なりに納得しましょう。────さぁ、星王を渡しなさい。その傷では後数時間の命でしょう。流石に命を奪うまでのことはしません。二度とエヒト様に逆らわぬように、教え込む予定ではありますが」
「ッ!陛下には、指一本触れさせません!」
平然と嘯くイシュタルはそう要求し、エリュシオンの身柄を求めた。ここまでした本当の目的、エリュシオンを傀儡にする為であろう。意識が朦朧としたエリュシオンをユーカは抱き締め、身を挺して庇うように叫ぶ。
イシュタルはやれやれと肩を竦めるように、頭を振った。
「仕方がない。────お前達、星王からあの二人を引き離しなさい。私としては星王さえ手に入れればそれで構いません。あの二人は、好きにして構いませんよ」
「…………ひッ」
「ユーカちゃん、陛下を連れて逃げて────流石の俺も我慢ならないなー。陛下を捕らえるなら、死ぬ覚悟くらいしたらどうー?俺は優しいから手加減してあげるよー────生きたまま内臓ぶち撒けても、文句は無いよねー?」
冷たく吐き捨てるイシュタルの言葉に、周囲の男達の目が変わったことに怯えるユーカ。そんな彼女とエリュシオンの前に立ち塞がったエッジクロウはいつものようにのほほんと笑いながら、ブレードを振るって向き直る。
萎縮する騎士達だったが、イシュタルからの狂気に満ちた眼差しを受けて後退を許されないことを悟り、前に出る。そのまま距離を縮める騎士達に身構えるユーカとエッジクロウに、意識を朦朧とさせたエリュシオンが口を開いた。
「………逃げろ……オレのことは、放って………いい………」
「陛下を置いて逃げろって………いやいや、そんなことしたら団長に俺達殺されますって。────それに、陛下見捨てるほど、俺薄情じゃないよー?」
「嫌ッ!嫌です!私、陛下を守る騎士に、王国を守る騎士になる為にここまでやってきたんです!どんなに怖くても、陛下を見捨てたりなんかしません!したくありません!!」
「────ならばお望み通り、ここで死になさい」
そして、イシュタルの指示を受けた騎士達が飛び出す。エッジクロウが彼等を迎撃せんとブレードを振り抜き、ユーカがエリュシオンを抱き締めた──────その瞬間だった。
「『────愚か者共、地に伏せよ』」
直後、突撃しようとした騎士達の半数が地面に叩きつけられた。まるで縫い付けられるように、問答無用で彼等は固定されている。それでも半数だけであり、残りの騎士達は周りで起きたことに戸惑いながらもすぐにでもエリュシオンを捕らえんと迫った。
────だが、それすらも阻止される。突如現れた数人の男女に一掃されたのだ。其々が騎士達を薙ぎ払い、吹き飛ばす。唖然としたユーカ、その姿に敵意がないことを察知したエッジクロウが警戒を緩めていると、エリュシオンが辛うじて声を上げた。
「リヴェルト、か………」
「すまない、エリュシオン。避難を優先して遅くなった。この場は私達に任せてくれ────フローレンス、彼等を連れて王国に迎え」
「あらあら、任されましたわ。────さぁ皆様、舌を噛まぬよう」
エリュシオンの声に応えたのは、枢機卿リヴェルト・エストワール。彼の呼びかけに反応したフローレンスの手により、鎖がエリュシオンやユーカ達を縛り、その鎖を引き寄せたフローレンスがその場を離れる。
その様子を見届けたリヴェルトは一歩前に出て、向き合う。
「────何のつもりです、リヴェルト枢機卿」
「私のやることが理解出来ぬはずはあるまい、イシュタル教皇」
険しい表情で睨みつけるイシュタルへ、リヴェルトは冷たく吐き捨てる。本来立場的には上であるはずの教皇と、枢機卿の衝突。リヴェルト率いる聖連隊は一切揺るぐことなく、淡々とした様子でリヴェルトの側に鎮座していた。
「これは紛うことなき教会への、エヒト様への叛逆。貴方の度重なる暴挙を見逃してきた私であろうと────見逃せるような事ではありませんよ」
「見逃すだと?────笑わせるな。お前達は何時から世界を支配していると思い上がっている。かつてはそうであったとしても、今は違う。支配者気取ったエヒトの暴挙の尻拭いを押し付けてる勘違いどもが、自惚れるのも大概にせよ」
「────ッ」
「り、リヴェルト貴様!イシュタル様に、エヒト様に何たる態度か!その横暴、決して赦しはしませぬぞ!?」
「赦すとは、誰が赦さぬのだ?この世界の現状を作り出しておきながら、神域に引きこもった神か?それとも────神の座を簒奪した愚か者のことを言っているのか」
そのリヴェルトの発言は、周囲にいる人々の動揺を起こすには十分だった。戦いが終わったことで状況を確かめに来たであろう民間人達が困惑したように互いに顔を見合わせ、動揺は教会の人間にする及んでいた。
イシュタルや一部の司祭が険しい顔つきでそれを黙らせていく。しかしリヴェルトはそんなイシュタル達に恐れることなく、淡々と話を続けた。
「────諸君、諸君には分からぬことだろう。だが私はこの事実を知っている。この世界を創り、人々を導いた神の本当の姿を」
「本当の、姿?」
「エヒトルジュエは神に非ず、奴はこの世界を調停した創世神から神の座を奪いし簒奪者也。エヒトルジュエは人を救う神に非ず、奴は数千、数万の時を生きた混沌の邪神。人々の命や運命を児戯のように弄びしモノ。エヒトルジュエは、決してこのトータスを救いはしない」
「でっ、デタラメだ!貴様、エヒト様への叛逆もいい加減にしろ!このような場ですら、エヒト様を侮辱するなど!」
「────ならば何故、エヒトは我々を救わない?この状況下、魔神との戦争が起きている最中で、奴は何故神域に隠れている」
リヴェルトの宣言に司祭の一人が反論しようとして、逆に正論を投げかけられる。不服そうな司祭が黙るしかない様子を見て、リヴェルトは心の底から軽蔑の色を深めた。
「我等聖連隊────枢機卿リヴェルト・エストワールはこの時を以て宣言する!エヒトは人を救う神に非ず!暴虐を働き、自分勝手に生きた邪神であり、聖教教会はそんなエヒトに尽くす悪徒の群れであると!」
「なッ!?」
「リヴェルト!貴様ぁ!」
「そして、我々は新たに────新聖共和国エスティマの建国をここに宣言する!聖教教会と同じ愚を起こさぬ、正真正銘、我々を導く真の神の元に集まる者達の為の国である!!」
「………真の、神?」
憤り、反発するイシュタルたちとは対照的に、一部の兵士達が思わず反応した。エヒト以外の神がいることは、誰も知るはずがない。怪訝そうな彼等を様子に気付いたリヴェルトはすぐに振り向き、仰々しく語り出した。
「────数ヶ月前、ウルの町を魔人族が襲った。数万の魔物の群れにより、町は全滅寸前であった────その悲劇を救ったのが、その神と眷属である」
「………ッ」
「轟雷と共に立ち現れ、魔物の大群を一掃した。三人の眷属は魔人族すらも打ち破り、ウルの町を窮地から救い出したのだ。────知り得たいか!その神の名を!」
「「「「その、神の名は!?」」」」
「──────『豊穣の女神』
声高らかに、リヴェルトは叫ぶ。
自らが、聖連隊が信じる女神の名を。新たにトータスに現界したとされる女神の名を────実際には、ある青年の企みで女神であることにさせられた幼い姿をした教師の名を。
「人の為に戦い、人の為に動く
「────ぉおおおおお!!」
「『豊穣の女神』!畑山愛子様ッ!!」
「諸君!エヒトを信じられぬ者達よ!女神を信ずる者達よ!我等が元へ集え!このエスティマ建国の下で、我等の明日の為に戦おう!!」
────後にこの事件は『エリュシオン殺害未遂事件』と同時に、『エスティマ建国事件』『豊穣の女神事変』と呼ばれることになる。本来大勢力を保っていたはずの聖教教会は二分化され、聖教教会へ不満や疑心を抱いた者達がリヴェルト達へと集まり、そして数日後には新聖共和国エスティマが建国されることとなった。
「────ブフォッ!?」
「委員長!?どうしたの!?」
「クッ────アハハハハハハハハハッ!!?駄目だ、ちょっとッ、待ってくれ!お腹、腹痛いッ!!アハハハハハハハハハッ!!」
「な、ななななッ────なんなんですかこれぇえええええッ!!!?」
後日、事を知った本人は絶叫する羽目になった。
女神と呼ばれる経緯をよく知る賢者はあまりのことに大爆笑を抑えきれず、悶え苦しむことにもなったが。
少なくとも、この事件は世界を揺るがす大事件────ある戦争の始まりになることは、彼等もまだ知らない。
はい、豊穣の女神伝説ここに爆誕。
因みですが、リヴェルト達は普通に許可を取ってます。まぁ普通にというか、ウルの町での事件が起きる前から、
リヴェルト「畑山愛子様、どうか貴方のお力を借りたいと思いますが、いかがでしょうか」
畑山愛子「?ええ、まあ大丈夫ですよ」
って言ってたのが、豊穣の女神と呼ばれるようになったのもあってリヴェルト達もそれに乗っかったということ。普通に利用してるとかでもなく、割と普通に信仰してるっていう。
今回の件で教会の勢力、大半の人間がエスティマへ流れました。まあ、イシュタル自身が他国の王との対談の場で抹殺未遂起こしたようなもんですし、ハイリヒ王国から戦争仕掛けられても文句言えんレベル。
────さぁ、ここからが本番となります。色々と話しも進んできますのでお楽しみくださいませ。感想やお気に入り、評価等などお願い致します。それでは!!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場