ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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訓練と影

トータスに転移してから数週間。

黒鉄刃はイガル・ハヤテの地獄のような訓練を何とか進めていた。本当に地獄であった。初日近くは圧倒的な力量差にボコボコにされ、今も手加減ありきで痛めつけられている。

 

 

「どうした?もう眠くなったか?」

 

「───馬鹿に、すんじゃねぇッ!!」

 

 

平然と挑発を吐くハヤテに、刃は敢えて乗った。全力で駆け出し、何も持たぬ右手の掌に意識を集中させる。

 

 

(─────来い、魔剣ッ!)

 

 

心の中で祈ると、掌に黒い粒子が集まる。一瞬で数を増した黒い粒子は形を成し、黒く光る魔剣へと変化した。

 

 

刃の技能『千剣創造』。本人の望む性質を有した魔剣や聖剣、剣類の装備を造り出す技能。武器屋や鍛冶師も真っ青な究極の力ともいえる。

 

 

問題があるとすれば、この技能は魔力を多く消費する。一本で魔力を10くらい、強力なものなら50から1000まで消費するから異様に燃費が悪い。だから自分の魔力は限界をオーバーしていたのかと、今更ながら思う。

 

黒い魔剣を大きく振るい、刃はハヤテに突貫する。両手に木刀を持つハヤテは冷徹に、刃の放つ斬撃や足蹴りを避けていく。その攻撃に感心しながらも、的確に指摘してきた。

 

 

「剣術、か。やはり、何らかの剣を学んでいた口か」

 

「ハッ!アンタ達のような真剣じゃねぇさ!軽く剣道やってたんでな!ま、俺には合わなかったけど、よッ!!」

 

「ふん、だが中々良い剣になってきた。中の上程度だ、褒めてやる」

 

「全ッ然!褒める気ねぇだろうがッ!」

 

「相変わらず可愛くないヤツだ」

 

 

淡々と口にし、ハヤテは二刀で刃を追い詰めていく。距離を取った刃に追撃するように木刀の一つを投げつけ、ブーメランのようにして飛ばす。

 

その合間に自身も距離を縮め、各々の方向からの攻撃を狙うハヤテ。真後ろの大木に追い詰められた刃は諦めたように一息漏らし─────猛々しい笑みと共に、自身の持っていた魔剣をハヤテの飛ばした木刀へと投擲した。

 

 

全力で投げられた魔剣が、木刀を砕く。しかし木々を越え、遠くに飛んでいった魔剣は最早回収できるものではない。ハヤテは刃の次の手を予測しながら、残った木刀で刃の首を狙う。

 

 

それを刃は、両手から生み出した新たな武器で止めた。それは小型の刀剣。左右に握る双剣を振りかざし、刃はハヤテの木刀を打ち払いながら、攻勢に出た。

 

 

突如の攻勢に、一手遅れたのかハヤテは守りに尽くしていた。そんなハヤテを逆に追い詰めるかの如く、刃は両手の剣をハヤテが横に構えた木刀に振り下ろした。

 

 

「────手段を、誤ったな」

 

 

ハヤテの指摘に、刃はハッと察した。

直後両手で握った木刀に力を入れたハヤテは─────木刀を真っ二つに折った。左右の手に握られた状態で折られた木刀に、振り下ろしたはずの二つの斬撃は軽くいなされた。

 

本来ならば木刀越しにダメージを与える攻撃だったからこそ、木刀が二つに分かれた今では無意味と化す。

 

 

しくじったと噛み締める刃の腹に、ハヤテは折れた方とは逆の木刀の束を叩きつける。メキッ、と骨に響くダメージが重く、それは刃の意識を奪いかけた。

 

 

「ゴホッ!ゴホゴホッ………ガハッ!」

 

 

地面に転がり、咳き込む刃。流石にキツイ、と呻いていた刃だが、彼の口に水が流し込まれた。

 

「うへー、まだやってるよー。団長も容赦ないねー」

 

「だ、大丈夫ですか?お水だけでもあげましたけど………」

 

 

自分の顔を覗き込む二人。どこかおおらかな青年 エッジクロウと、アワアワと取り乱している短髪の少女剣士。二人とも、ハヤテが率いる王国騎士団の精鋭らしい。

 

当初出会った彼等は刃の訓練を見守りながら、力尽きかけていた刃に色々と手助けをしてくれた。

 

 

そんな風に休憩していた刃に、ハヤテが淡々と告げる。

 

 

「…………当分修行は終わりだ。あとは自主鍛練でもしておけ」

 

「何だよ、いきなり」

 

「俺がお前に剣を教えても意味がない。そもそも、お前は型にはまった剣術は合わないだろう。独自の技を編み出すのがお前らしいはずだ─────俺としては、やることを終えた訳だしな」

 

 

無茶苦茶だ、と思いながらも刃は大人しく従うことにした。ハヤテ達に「世話になったっす」と頭を下げて、そそくさと立ち去っていく。

 

 

消えていく青年の背中を見たハヤテが、ふと呟く。

 

 

「…………惜しいな。異世界の人間でもなければ、騎士団に引き入れてやったのに」

 

「あれー?意外っすね。団長、気に入ったんすか?」

 

「勘違いするな。他にマシなヤツがいなかっただけだ。及第点であった勇者も、致命的な欠陥を有しているみたいだからな。唯一、使えそうなアイツを鍛えてやろうと思ったのは、単なる気紛れに過ぎん」

 

「え?でも、団長。刃さんの特訓、朝から待ってたはずじゃ………」

 

「……………」

 

「あー、ユーカちゃん言っちゃったー」

 

「え!?私何かしました!?」

 

「…………ユーカ・ネフル。久し振りだ。今から貴様の剣も確かめてやろう。あぁ、俺も準備運動がてらに二本使うが、異論は無かろう?」

 

「ふぇっ!?さ、殺意が滲んでますけど!ごめんなさい!ごめんなさい団長!悪気があった訳じゃないんです!団長素直じゃないなぁって思っただけで─────」

 

 

ズバンッ!! と、迷い無き一撃が少女の頭に打ち込まれた。声にならない悲鳴が響き渡り、動物達が反応してそそくさと逃げてしいったのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「…………はぁー、疲れた。あの化け物、もう二度と相手したくねぇ」

 

 

腹や腕、主に痛むのは全身である。木刀で加減されていたとはいえ、この数週間ボコボコに叩きのめされてきたのだ。筋肉痛を通り越した激痛である。

 

 

城の通路の一つを通り、王城へと戻っていく刃。守衛の人達には人相の悪さから一度は止められたが、すぐに解放してくれた。なんかハヤテ団長にボコされたと簡潔に告げた時から憐れみすら向けられていた。あんな風にやられるなら、確かに憐憫すら向けたくなるはずだ。

 

 

城の入口ら辺で一休みしようとした刃だが、彼が近くの壁に背中を預けようとした瞬間。

 

 

練兵場で何か、火が見えた。下から見るのでよくは見えないが、魔法を使っているのだろうか。それから何発か、魔法らしきもの光が見える。

 

 

その後、大きな一発が炸裂した爆音によって魔法が途絶えたかと思えば、空から降り注いだ光らしきものが練兵場に直撃した。

 

爆発を思わせる一撃に、刃は流石に慌てる。

 

 

(オイオイオイ!?一体何をしてやがんだ!?訓練どころの話じゃねぇぞこれは!?)

 

決意するや否や、刃は近くの階段を無理矢理這い上がり、ショートカットを図る。急いで練兵場に向かうと、そこでクラスメイト達が不安そうに群れていた。

 

その向こう側から、怒声が響いてくる。聞き覚えはある、広大のものだ。彼がここまで激昂していることは初めてであり、刃は不安を覚えながらも人の群れを掻い潜りながら、練兵場に踏み込んだ。

 

 

 

辿り着いた刃が見たのは、憤慨する広大や雨音を抑えながらも険しい顔で前を睨む咲夜。そして、その前で必死に言い訳を繰り返している檜山達。

 

 

 

その後ろで、泣きそうな顔で叫ぶ香織。彼女が治療しているのは─────

 

 

 

 

 

「─────ハジメ」

 

 

 

火傷や裂傷でボロボロになった親友であった。意識が朦朧としているのか、辛そうな顔をしている彼を見た瞬間、頭の中にあった何かが盛大に千切れた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

時は少し前に戻る。

シュトライゼ達により連れられ、色んな兵器の開発や特訓を受けたハジメは疲れたのか、近くの日陰で見学をしていた。事前にその話を聞いていたメルドは不満に思うどころか快く答えてくれて、しっかり休むようにと気に掛けてまでくれた。

 

 

そんなハジメの姿を見かけ、わざわざ近寄ってくる奴等がいた。

 

 

「あれー?南雲じゃーん。何休んでんだよー?大の男が情けねぇーなぁ。ま、無能にそこまで期待してやんのも可哀想かー」

 

「ギャハハハ!檜山マジ言い過ぎだろ!容赦ねー!」

 

「ホント、よく訓練場にも出れるな!俺なら恥ずかしくて引っ込んでるけどなぁー!」

 

「なぁなぁ大介!俺達で南雲を鍛えてやろうぜ!無能すぎて可哀想だし、少しハードな稽古でもいいじゃん?」

 

 

クラスでも悪目立ちしている檜山達一行。

元々学園のアイドルである香織と仲が良いハジメのことを疎ましく思っていた彼等は、何度もイジメの標的として嫌がらせを続けてきた。

 

学園では、自分達の格上である刃がいたことでそれは大人しくなっていた。しかしこの世界に来て少しずつ強くなったことと、刃は特訓によって最近この練兵場に通えてないことから彼等は増長し、イジメを再開することにしたのだ。

 

 

 

最初は軽く遠慮したハジメに苛立ちを覚えた檜山が立ち上がらせ、建物の影に移動させた後に、殴る蹴るの暴行が繰り返される。それを特訓だと笑いながら、倒れたハジメを立ち上がらせ、何度も繰り返す。

 

調子づいた檜山一派の一人が魔法を使用してきた。

 

 

「ここに焼撃を望む――“火球”」

 

 

咄嗟のことで放たれた火球を避けたハジメ。それを面白く思わなかったのか、彼等は一斉に魔法をハジメに撃ち始めた。

 

四人からの魔法の弾幕に、避けようとするが結局間に合わず、ハジメの身体に火球が炸裂する。肌が焼かれる感覚に呻き、転がるハジメに、彼等は愉快そうに笑い出す。

 

 

「ギャハハッ!ちゃんと避けろよなぁ!当たらないように頑張ってさぁ!」

 

「俺達が撃ってやるから避けてくんないと、稽古になんねーだろ?ホント無能だなぁ、南雲は!しゃーないから付き合ってやるよ!」

 

 

動こうにも、動けずにいたハジメに魔法を撃ち込んでいく。大半が外れていくが、何発もハジメの身体に着弾していた。自身に襲いかかるあらゆる苦痛を噛み締めながら、ハジメは思う。

 

 

自分は臆病者であった。

刃のように相手をぶちのめし、誰かを助けることが出来る程強くはない。何より、誰かを傷付けるくらいなら、自分が傷付いた方がいいと思ってしまう。それを美徳と呼ぶ者もいるが、多くは臆病なだけと言うことだろう。

 

 

一体、どうすればいいのか。ハジメには分からなかった。

 

 

「そんじゃ!強めの一発いくぞー!耐えろよなぁー、南雲ぉ!!」

 

 

そう言い、檜山が火力が高めの火球をハジメに撃ち込んだ。狙いは正確。その一撃が当たるという事実は、朦朧としたハジメにも分かることだった。あぁ、どれだけ痛いんだろうなぁ、と思ってしまうのも無理はない。

 

 

 

しかし、その火球の威力をハジメが知ることはなかった。

 

 

 

 

「────“自壊せよ”」

 

 

タンッ、とハジメの前に立った影が告げる。指先を飛来してくる火球へと差し向けていた。その言葉に応じるように、火球は指先に触れる直前に形を崩し、空気に溶けるように消える。

 

 

かき消された火球に、檜山は悪態をつこうとして───固まる。目の前にいる相手が誰かを理解し、ようやく青ざめた。

 

 

「────何をしている」

 

 

委員長 岸上咲夜。

冷えきった瞳で四人を見据え、そう詰問する。尋常でなく鋭い眼を向けられた四人は答えられず、しどろもどろになっていた。

 

咲夜が割って入ったことで、クラスメイト達も異変に気付いたのか集まってくる。ざわざわと不安そうな一同であったが、何人かが飛び出してきた。

 

 

「ハジメぇ!」

 

「南雲さん!」

 

「───南雲くん!」

 

 

広大と雨音が、香織が急いでハジメの元へと駆け寄る。少女二人よりも近接職である広大の方が早く、急いでハジメのことを抱き上げた。

 

 

「ひ、ヒデェ………こんなにやるかよ、普通」

 

「………っ!香織さん!早く治癒を!貴方の力なら何とか治せるはずだから!」

 

「う、うん、分かった!二人は!?」

 

「俺達は…………やることがある」

 

 

そう言い、離れた場所にハジメを下ろした広大。そこでハジメの治癒を始める香織と、不安そうに彼等を見守りながら、何か手助けできないかと答える一部のクラスメイト達。

 

 

背中に装備していた大盾とメイスを構えた広大と、二つの扇子を開いた雨音が怒りの形相を隠すことなく、前に出る。檜山達を睨み、彼等は戦闘態勢に入っていた。

 

 

「テメェらぁ………!覚悟は出来てんだろうなぁ!」

 

「今のはもう見過ごせません……!これ以上するんなら、私達だって容赦しません!」

 

 

本気で強い怒りを見せた二人に気負されたのか、或いは自分達が悪者であると理解したのか、咄嗟に檜山が弁明の如く捲し立ててきた。

 

 

「い、いや!誤解しないでくれよ!俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで…………」

 

「───非戦闘職の仲間をいたぶることが、特訓か?流石にその言い訳は通じないぞ」

 

 

冷静沈着に見える咲夜だが、怒りがないのか聞かれれば否という。同級生を、戦い慣れてない仲間を一方的にリンチにされれば、激怒したくなる気持ちはある。

 

 

少なくとも、檜山達をこのまま無罪放免で返す訳にはいかない。それが咲夜の下した結論であった。だからこそ彼は、片腕を振るい、人混みから事情を理解し此方に介入してこようとした光輝の前に、光の壁を張った。

 

まるで、彼がこの状況に関与することを拒むように。

 

 

「ッ!何をするんだ!咲夜!」

 

「引っ込んでいろ、光輝。お前が出るとロクな事にならない」

 

「何を、言ってるんだ!仲間同士で争うなんてどうかしてる!ここは落ち着いて話し合いをした方が────」

 

「そんな段階の話じゃないことは、お前が分かっているはずだろう!光輝!!」

 

 

ただ単に正義感が強い人間ならば、咲夜もこんな真似はしなかった。だが、光輝は例外だ。彼の人格には致命的な欠陥がある。彼の正義は独善的なものであり、自分の考えを間違えだと認識しようとしない。常に都合のいいことを思考する、幼稚な性質を持ち合わせている。

 

 

何より、咲夜個人の確信として、光輝はハジメの事を好ましく思っていない。理由は不明だが、彼は常々白崎香織がよく触れ合うハジメの事を無自覚に貶める事が多い。

 

 

最悪の場合、檜山達を庇うかもしれない。そうすることで自分が器の大きい人間と皆にチヤホヤされると考え出したら、逆にハジメに対し心無いことを言ってのけることだろう。

 

 

(光輝に介入させない!アイツが余計なことをする前に、檜山達を裁く!今後二度と同じことを起こさないためには、それしかない!アイツがバカなことをする前に、一刻も早く)

 

 

冷静であった咲夜は、確かに焦っていた。故に、気付くのが遅れた。

 

 

 

ザッ、と足音がする。

何ら変わらない音として、普通は聞き逃しても可笑しくはない。しかし、その音がした途端、周りの雑音が一気に途絶えた。

 

振り向いた咲夜の視線の先に、彼がいた。

 

 

「─────ハジメ」

 

 

練兵場の入り口には、刃が立っていたのだ。呆然としていた彼の視線は、香織が治療しているハジメに向く。その瞳が親友の姿を捉えた直後、

 

 

 

ビキッ、と青筋が浮かぶ。歯を噛み砕きかねないほどの力を入れた刃は激しい怒気を滲ませていた。指が皮膚を傷つけるほどの力を拳に込め、ポタポタと鮮血が落ちる。

 

 

「……………お前らが、やったのか」

 

 

地獄の底から響くような、低い声であった。その眼は既にハジメから、檜山達に向けられている。ひぃ、と情けない声が漏れた。当然だろう。刃が放つのは、敵意を通り越した殺意。今まで彼が向けてきたものとは別格の、気迫の(やいば)だった。

 

 

 

「ま、待て!待ってくれよ!本当に、悪気は無かったんだよ!南雲が、さ!まともに修行しねーし、不真面目だから、からかおうとしたら………調子乗っちまったんだよ!本当に、悪気はないんだって!!」

 

 

────刃がいない時を狙ったクセに、何を言っているのか。広大と雨音は侮蔑を向けながらも心の中で思う。しかも、馬鹿だと思う。下手な言い訳をして、刃の怒りを買うのは目に見えているのに………。

 

 

「そうかよ…………なら、仕方ねぇな」

 

「へ、へへ………そうだろ?やっと、分かってくれたか?」

 

 

俯きながら低い声でいう刃だが、檜山はその言葉に思わず笑いが込み上げた。助かった、という安堵のあまり肩の力を抜く。

 

 

しかし、見れば分かるだろうに。殺意を未だ隠そうとしない刃が腰を落とし、身構えていることを。許すつもりなど、毛頭ないという事に。

 

 

 

「───なら、お前らにも同じことしてやるよ」

 

 

 

ダンッ! と、踏み込む。一瞬で檜山達との距離を縮めた刃は創造した魔剣────相手を斬るための(やいば)を排除した鈍器とも呼ぶべき剣を掴み、それを勢いよく振り上げる。理解できず、認識が追いつかない檜山に目掛けて、叩きつけようとした。

 

 

迷いはない。全力の一撃だった。檜山の肩を砕くために放たれた斬撃は、直前に滑り込んだ聖剣によって止められた。

 

 

「止めろ!刃!」

 

「………光輝ィ」

 

 

苛立たしそうに、奥歯を噛み締める刃。険しい顔で自身の前に立つ幼馴染み…………因縁の深い宿敵に、刃は低い声で短く告げる。

 

 

「どけ、そいつらをぶちのめす」

 

「ッ!だからどうして、そんなことをする必要が───」

 

「親友があんな目に合わされたんだ!それ以上に理由なんて必要ねぇんだよ!!奴等をボロクソに叩きのめさねぇと、アイツが受けた痛みを!与えてやるってんだよ!!」

 

「どうしてお前は………!いつもこんな事を!!」

 

「テメェが、言えたことかァ!」

 

 

自身に対し、怒りを見せる光輝。元々から自分のことが気に入らなかったのか、今になってようやくやる気になった。当然、自分もそうだ。この男が昔から嫌いだった。

 

 

「もう我慢ならない!お前を、暴力で他人を従わせようとするお前を、今度こそ倒してやる!」

 

「偉そうに!他の奴等を見下して!俺から全てを奪ったテメェが!アイツの想いも踏みにじったテメェがァ!生意気なこと言ってんじゃねぇぞッ!!」

 

 

全力で構える二人。最早周囲の制止すら聞こえていない二人は、ぶつかり合う魔剣と聖剣に力を込める。一触即発どころではない。完全に爆発しかけている。

 

 

そんな二人だが、戦い始めることはなかった。

 

 

 

「────双方、剣を納めろ」

 

 

二人の剣の下から滑り込むように誰かが入ってきた。その人物はたった一本の刀剣と反対の腕に装着した籠手で光輝と刃の剣を受け止めていた。

 

その相手は青髪の女性であった。軍服を着込み、軍帽を深く被った彼女の瞳は鋭く、一介の軍人であるような雰囲気が強い。

 

凛とした声で口にした言葉に、二人は迷いはあったにしろ素直に武器を下げた。その直後、女性は周囲全てにいる人間に向けて大声で呼び掛けた。

 

 

「────全員動くな!」

 

 

突如、練兵場に重装備の鎧を着込んだ兵士が雪崩れ込んでくる。明確な武装をした兵士達を従えた女性は、背中にまで伸びた長髪を払いながら、厳しい声を放つ。

 

 

「特務警備隊!隊長のスピリアスだ!練兵場で争いが起きているという話を聞き、集まった!事情を知る者は、説明を果たすように!」

 

 

気迫の鋭いスピリアスの宣言にすぐに答える者はいなかった。どう話すべきか迷っている者が大半であった。そんな状況に我慢できなくなった広大や雨音が説明をしようと手を挙げようとしたその時、

 

 

 

「─────私が話そう」

 

「お前は…………シュトライゼか」

 

 

男性、シュトライゼが人混みの中から滑るように出てきた。スピリアスも彼の姿を見た途端、驚きはしたが、すぐに冷静な顔で向き直った。

 

 

「意外だな。日陰者のお前が、こうして外に出ているとは」

 

「いや、休みを与えていた私の可愛い弟子がなぶられたと聞いてね。慌てて飛んできたという訳さ」

 

「………その弟子は何処だ?」

 

 

シュトライゼの言葉に、スピリアスは目の色を切り替えた。あちらさ、とシュトライゼの指差した方で、香織の治療を受けるハジメ。その怪我を確かめた彼女の目はより鋭くなる。

 

 

「───軽度、だが治療したからか。つまり、重度の怪我であったらしい。主犯は誰だ?」

 

「あぁ、それなら………そちらにいる四人だね」

 

「…………なら、あの青年達は何だ?何故戦闘に入りかけていた?」

 

「そこにいる凶悪な人相の青年が、私の弟子の親友クンなようだ。親友を虐めた四人に怒りのまま攻撃したら、あの勇者くんが止めたわけさ」

 

「…………未遂か。ならば、話は早い」

 

 

立ち上がり、スピリアスは檜山達を睨む。露骨に怯えた彼等に、対し宣告した。

 

 

「そこの四人、お前達の身柄を拘束する。抵抗をするのなら、容赦はしないとだけ言っておく」

 

 

連れて行け、とだけ彼女は背を向ける。すると重装備の兵士達が檜山達を捕らえ、連行していく。抵抗しようとする檜山達であったが、左右から両腕を重装備の兵士に押さえ込まれてる時点で意味を成さなかった。

 

 

「待ってください!連行は流石にやりすぎでしょう!?」

 

「…………何だ貴様は」

 

「さっきの勇者くんだよ。忘れてはいないだろう?」

 

「名を知らんだけだ」

 

 

シュトライゼのからかいに、スピリアスはつまらなさそうに答える。そんなこと言ってる場合ではないと、光輝は強い勢いでスピリアスに食いかかった。

 

 

「檜山達だって悪気があったわけじゃないんです!ただ不真面目な南雲を鍛えようとしただけで…………」

 

「へー?私の弟子三号が不真面目と?優秀すぎて一休みするようにと言われて、練兵場で訓練の見学をしていたあの子を不真面目と、君は言うのか?」

 

「そ、それは…………そういう意味じゃ」

 

「────もういい。話すだけ無駄だ」

 

 

ピシャリ、と話を遮る。

光輝という青年の本質を理解したのか、彼女は感情を見せぬ冷たい眼で見下ろす。構えていた刀剣を腰に差し、吐き捨てるような勢いで言う。

 

 

「期待外れだな。こんな子供が勇者など、これでは到底役には立たん。…………王も、これでは失望することだろう」

 

「……………ッ」

 

「止めたらどうだ。流石に可哀相だ。彼は勇者とはいえ、まだ子供なんだから。そこまで期待してやるのは、酷というヤツだ」

 

 

シュトライゼも同じ様子であった。最早興味を失ったのか、立ち尽くす光輝から目を離し、二人はその場から去っていった。

 

殆どのクラスメイト達が立ち去り、人の気配がなくなる直前まで光輝は立っていた。悔しそうに歯を噛み締め、拳を力強く握り締めている。

 

 

その様子を離れた場所から見ていた刃は、複雑そうな気持ちであった。「…………クソッ」と吐き捨て、それ以上口を開こうともせず、立ち去っていく。

 

 

 

◇◆◇

 

 

時は過ぎ、真夜中になり。

 

 

「……………クソ!クソ!クソォ!!」

 

 

自室で檜山は苛立ちを隠そうとせず、ベッドの上で頭を抱えていた。最悪だ、と吐き捨て、彼は込み上げる怒りに身を震わせた。

 

特務警備隊に捕らえられた後、彼等は厳重な罰を受けるかもしれないと言われた。しかし、それ自体はよかった。何故なら突然、自分達の罰は軽い説教で済んだのだから。

 

 

話によると、何らかの圧力が掛かったらしい。どちらにしてもラッキーだと思った。檜山が苛立っているのは、別の理由であった。自室に戻る際に、ハジメの部屋に向かっていた香織の姿を見た瞬間、檜山の心をどうしようもない感情が支配した。

 

 

何でアイツばかりが、と怒りが込み上げてくる。檜山は元々、クラスのアイドルである香織が好きであった。恋愛的な意味で、彼女のことを好きであったが、彼は自分に振り向くことはなく、いつも無能なハジメと仲良くしていた。

 

 

だからこそ、気に入らなかった。何度も何度もイジメて、自分の苛立ちを紛らわせようとしていた。だが、今は限界だった。

 

 

「……………アイツが、死ねば────」

 

 

そう思った瞬間だった。自分の呟きが空気に溶け込んだ頃になって、声が響いてきた。聞いたこともない、誰かの声が。

 

 

「────ククク、どうやらお困りのようだなぁ。少年」

 

「ッ!誰だ!?」

 

 

思わず立ち上がった檜山は、声の主を探ろうとする。するとその声は部屋の隅、影が差す薄暗い場所から聞こえることに気付いた。当然、人などいない。いるはずがなかった。

 

 

だが、暗闇の中から白い仮面が浮かび上がる。不気味な笑顔を示した仮面から徐々に、暗闇に人の姿が浮かび上がる。闇から這い出したそれは、紳士のような服装をしていた。しかし男の声とは違い、服から分かる体格は女性のものだ。胸の膨らみからしても確かだろう。仮面の上にシルクハットを被ったその人物は、仰々しく御辞儀をした。

 

 

「はじめまして小年!私は、ジョーカー・ブラック!わるい道化師であり、わるい魔法使いさ」

 

 

そう名乗った奇人、ジョーカー・ブラックに檜山は怯えていた。あまりにも異様、不気味な存在を前に恐怖が勝る。慌てて近くにあった武器を取り、咄嗟に身構えた。

 

 

「な、何だよ………!?何なんだよ!?お前は!!」

 

「静かにしたまえよ。君にとって悪くない話をしたいんだ。この話は一度きりなんだ、チャンスを無駄にしてはいけないよ」

 

「はぁ!?チャンスって、何を───」

 

「白崎香織、彼女が欲しいんだろう?」

 

 

混乱していた檜山の思考はその言葉によって、平静に戻る。何故その名前を知っているのか、疑問はあったが、実際に口には出来ない。代わりに、別のことを聞いた。

 

 

「…………どうして、俺に?」

 

「特に理由はないさ。私は気紛れで、身勝手な道化師!私のやりたいことの為に動いていたら…………ちょうど目的が合致した君の存在を!知ったということだ!だからこそ、気が向いた!それだけの話だとも!」

 

 

信じるべきか迷っていた檜山に、ジョーカー・ブラックは諭すように優しく言う。

 

 

「やることは簡単。望みを叶える代わりに、少年にすこし動いてもらうんだ……………大丈夫、本当に少しさ。かるーく相手に触る程度の、簡単な仕事さ」

 

「………」

 

「私がやってほしいことをするだけで、君の願いは一つ叶う。そして白崎香織は君の物になるチャンスが生まれるという訳さ!どうだい?この機会を逃せば、もうチャンスはないよ?」

 

 

どうするべきか、本気で悩む檜山だが、ふと笑う。決意したように、彼は確かに頷いた。

 

 

「…………分かった、取引する。俺は一体、どうすりゃいい」

 

 

檜山の言葉を聞き、道化師は不気味に嗤う。その背中の影が、壁に伸びる黒が、形を変えて笑っていることに、檜山が気付くことはなかった。

 




スピリアス&シュトライゼ「このくらい言わないとダメだろあの勇者」

尚、言うだけではダメな模様。もっと挫折させないと成長しないという凶悪育成難易度ですし。


因みに其々のキャラの光輝への評価。


刃→死ね(複雑な思い)

広大→嫌い

雨音→嫌い

咲夜→好きでも嫌いでもない。頼むから余計なことはするなと思ってる。実質時限爆弾扱い。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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