ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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お気に入りが増えたり減ったりするごとにメンタルが揺れ動いていく…………ガチで怖すぎるッ


ハイリヒ王国防衛戦・開戦

大魔王による軍勢の宣戦布告から少し経って、緩かな道のりで王国へと戻ろうとしていたハジメ達。改めて一休みしていた最中、その問答は始まっていた。

 

 

「────相棒、この際ハッキリと言うけどな」

 

「おう、なんだよ。今更勿体ぶって」

 

 

────おう、相棒。少し面貸せや。

怒りに染まったような、引きつったような顔でそう答えた親友に、ハジメは困惑気味に頷くしかなかった。一人引っ張られてきたハジメは周囲から此方を伺う少女達の気配を感じ取りながら、神妙な面持ちの親友の話を聞こうとしていた。

 

 

「お前ってさぁ、前からヤってんのか?」

 

「?やってるって………何を」

 

「何って、ナニだよ。ユエとそういう関係なのは、前からか?」

 

 

ぶほぉっ!?と吹き出してハジメは噎せ返った。喉の奥、気道の部分にツバを飲み込んでしまい、ゲホゲホとむせるハジメに刃は慌てたように水入りの水筒を投げ渡した。冷たい水で兎に角喉の奥を流し、軽く礼を言ったハジメは、物凄く居心地の悪そうに呟いた。

 

 

「何時から、気付いた………?」

 

「フューレンで泊まった時、シア以外にもティオ達が気になってな」

 

「やっぱあの時他にもいやがったのか………で?チクったのはティオか?」

 

「────ラナール」

 

「ホントに悪かった。いや、すいませんでした」

 

 

ボソリと呟いた刃の答えに、珍しくハジメは平身低頭で謝り倒した。ソーナやティオならばまだ良かったが、よりによって彼女だった。少し前に大魔王との戦いで刃を救う為に亡くなった少女、永らく旅を共にした一人でもあり、自分のせいで死なせてしまったこともあり、割と他人には無関心であるタイプのハジメですら気に病む程のことであったのだ。彼女に関する話題は。

 

 

「いや、チクったってより………アイツ顔真っ赤にしてショートしててさ、俺が見つけて問い質して知ったわけだよ」

 

「………それは、本当に悪かった」

 

「気にしてねぇよ。昔の事だ…………ああ、気にすんな。その事を知ってブチギレた香織を俺が止めることになったのも、気にしてねぇよ??」

 

「マジでごめんて」

 

 

そう言えば、後々にソーナが口を滑らせたことで香織が修羅になりかけた際も、対応したのは刃達であった。その際ハジメはその場にいたミュウやレミアへの弁明に必死であったので、仕方ない。その際、レミアからは「皆で仲良くしてあげてくださいね」と言われてしまい、ハジメは本当に複雑な感情であった。

 

 

「それで、本題はなんだ?わざわざ恨み言言いに来た訳じゃないだろ?」

 

「ああ、こっからはマジに真剣な話だ。相棒、お前に言いたいんだが─────

 

 

 

最近、アイツらが俺をそういう目で見てる気がする」

 

「…………まぁ、そうだわな」

 

 

頭を抱えながら吐き出す親友の姿に、ハジメは逃れられない事実だろ、と半ば諦めたように笑う。元より、思春期真っ盛りの若者の集団なのだ。割とそういう事情には厳しいタイプのイクスがいるからまだしも、普通に過ごしていればそんな感じになってきてもおかしくはない。

 

ましてや刃の周りにいる女子、シノやソーナ、ティオは彼の心構えを慕う以上に、好意を秘めているのは事実。目に見えて明白な現実なのだ。

 

 

「いや、まあ。自意識過剰かもしれねぇってのは分かるぜ…………でもさ、なんか凄い距離感が近いんだよ。いや、近ぇことが悪いんじゃねぇけどさ」

 

「あー、まあ…………そこまでか?」

 

「ヤることヤってるお前は感覚麻痺してんな。いい加減にしとかねぇと先生に怒られるぞ。…………アイツらはまぁ、いい女だよ。俺には勿体ねぇって、何度思ったことか」

 

(あ、こりゃヤバいな)

 

 

自身を卑下するように自嘲した刃の姿を余所に、ハジメは親友のミスを悟る。木陰から除く少女達の目が据わり始めたのだ。ヒソヒソと語らう彼女達の会話から聞こえてくるのは────また説教かな、という内容。そろそろ手を出されるのではないか、とハジメは本気で他人事のように思っていた。実質的他人事だからか、わりと淡白である。

 

 

「お前なぁ、前々から思ってたが………自分を過小評価するのは止めろって。それはソーナ達も喜ばねぇだろ」

 

「分かってる────だが、どうしても思っちまう。俺はあの父親の、血が繋がってるって。あんな、人を道具のように使える男の血が流れてると思うと────自分を好きにはなれねぇ、なりたくねぇんだ」

 

 

刃自身も改めるべきだと分かっているのだろうが、やはりそう簡単にはいかないらしい。過去のトラウマというものは、そう易易と乗り越えられるようなものではない。項垂れる親友にどう声をかけるべきか迷っていたハジメだったが、突如暗い空気を打ち砕く声が放たれた。

 

 

「────悪いが、少し事情が変わった。休みは終わりだ」

 

 

尋常ではない様子のイクスがそう告げる。彼の雰囲気からしてただならぬ事が起きていることを理解したハジメと刃はすぐさま切り替えて、隠れて話を聞いていたであろうユエたちを呼び、集合する。イクスに急かされ、魔力駆動四輪で移動しながら彼からの話を聞いていく。

 

 

「で、一体何があった?お前がそんなに焦るなんて、魔神連合の奴等が動いたか?」

 

「そのまさかだ────大魔王が動いた。全ての軍を率いて、人類の勢力に総攻撃を仕掛けている」

 

予想していた事が当たった事に舌打ちを吐き捨てるハジメを他所に、香織やシア達は愕然としていた。大魔王どころか全ての魔王が動いた。それは、かつての戦争に等しい大事態である。そして、現状は予想よりも、最悪に至っていたらしい。

 

 

「既に神山は攻め落とされたらしい。先程確認したが、奴等の破壊兵器により神山は完全に消滅した」

 

「っ!?なんだと!なら、迷宮は────!」

 

「恐らく神山と共に消失しただろうな」

 

 

四輪を操縦するハジメはイクスからの報告を聞いて「クソッ」と苛立たしそうにハンドルを殴った。分かっていたつもりだが、対応が早すぎる。人類勢力の一つを潰すと同時に迷宮の破壊までされては、此方も神代魔法を手に入れられない。

 

 

「今現在、ハイリヒ王国も襲撃を受けている。今のところはハイリヒ王国側が守り切れているが、時間の問題だろう」

 

「────急ぐぞ。ハイリヒ王国に!」

 

「分かってるさ、此方にもやることがあるしな」

 

 

そうして彼等は王国へと向かう。魔人族、二体の魔王の軍勢の襲撃を受ける王都を。彼等は知る由もない────自分達に狙いを定める存在を。

 

 

◇◆◇

 

 

そして、ハイリヒ王国の王城の一角。特殊な結界に覆われた寮に似た宮殿の広間で、光輝達は集まっていた。ハヤテ団長から待機を命じられてから数時間、未だに音沙汰はない。だが、何か起きているのだけは明白だった。

 

 

「団長からは何もない………けど、外の様子が可笑しいのは確かね」

 

「………國木、どうだった?外の様子は聞けたか?」

 

「ダメだね。結界が邪魔で何も聞こえない………何か慌てた様子なのは分かったけどさ。今は周りから人もいなくなってる」

 

 

クラスメイトの一人、國木と呼ばれた────触覚のように後ろに伸びた一対の髪が特徴的な身軽そうな少年は剣城からの疑問にそう答えた。隠密スキルならば遠藤が頼りだったが、今は遠藤も何処かで修行中の為合流できていない。

 

 

「王宮内は安全だと思うけど、ここまで音沙汰が無いのは異常だ。様子を見に行こうと思うが、雫、剣城、あま………菊菜はどう思う?」

 

「………私もそれに関しては賛成です。この場で待機していても何も分からないばかりです。せめて状況だけでも確認する必要はあるかと」

 

「俺も、雨音には賛成だな。このまま何もしないよりかは、多少マシになるだろう」

 

「決まりね。なら、誰が聞きに行こうかし──────!」

 

 

方針を決めていた最中、当然雫は何かを感じ取ったかのように腰に備えた『月光』に手を添えた。警戒心を顕にした彼女の様子に雨音と剣城が何かに気付いたように、獲物を手にして身構える。

 

 

「────皆、構えて」

 

「し、雫?どうしたんだ?」

 

「誰か居るわ、隠れて私達の様子を伺ってる。………敵かもしれない、気をつけて!」

 

「────待って!待って下さい!ボク、ボクだよ!!」

 

「貴方は────アルマさん?」

 

 

雫が皆に語りかけた瞬間、陰から隠れていた者が慌てたように飛び出してくる。白髪眼鏡の青年、ホルアドの銀ランク冒険者 アルマ・ソラであったことに、雫たちは一瞬すぐに気を抜いた。

 

ハジメと共に助けに来てくれた冒険者でもあるため、彼らも信用を置くのも無理はなかった。ホルアド所属であるはすの彼が、何故王国に、このエリアにいるのかという疑問は残るが。

 

 

「いやー、驚いたよ。まさかこんな場所に集まって大人しくしてるなんてね、王国側も君達を戦いに出すのは気が引けると見るべきかな?」

 

「どういうことですか?やはり外で何かあったんですか?」

 

「あー、うん…………二つ、悪いニュースと凄く悪いニュース。どっちから聞きたい?」

 

「じゃあ、悪いニュースの方から」

 

「────大魔王率いる四魔王の軍勢が動き出した。現に今、二体の魔王の軍勢が、王国を襲撃してるよ」

 

 

あっけらかんとアルマの語る事実に、全員がざわめき出した。かつて光輝達を圧倒した魔王、それが二体も王国を攻めてきている。大半の者がその圧倒的な威圧感を思い出し、恐怖に駆られていた。

 

 

「じゃあ、凄く悪いニュースの方は?」

 

「連中がマジで本気って話。連中の使った兵器で、教会の神山が消滅したってさ。ギルドの皆も大慌てで、次はハイリヒ王国が標的みたいだよ」 

 

「しょ、消滅!?」

 

 

今度こそ、光輝達は絶句してしまう。普段冷静な雫や雨音、剣城ですら動揺を隠しきれなかった。彼等の脳裏に過ぎるのは、自分達の世界にあった戦略兵器の存在────かつて自分達の故郷、日本で放たれた最悪の兵器と同クラスのものを思い出し、全身を震わせるには十分な恐怖があった。

 

 

「そ、そんな!有り得ない!神山って、教会の総本山でししょう!?それに、そこには何十万人も住んでるはずです!それが消滅って、民間人は、そこの人達はどうなったんです!?」

 

「────全員死んだよ。まあ、死ぬだけで済んだならまだ良かったけどね」

 

アルマが語ったのは、最悪の現実。

神山に放たれた光は全てを呑み込み、濃い魔力結晶の山へと変換した。そこから現れたのは、大魔王の眷属である『魔戦騎』。

 

神山にいた者は全て魔力に変えられ、『魔戦騎』へと作り替えられた。その悍ましい事実に一部の者は吐き気によって膝を付いていた。光輝は決意を漲らせながら、顔を上げる。

 

 

「前線に行こう!俺達だって戦える!王都の人達の避難をさせて、騎士団や警備隊が動けるようにしないと!」

 

「待て!光輝!まずはハヤテ団長や『王の剣』の方々に合流するべきだ!俺達で判断するには不味い!」

 

「剣城………!だけど、そんなことしていたら魔王が王都を襲ってしまう!その兵器が使われたら、王国は滅びるんだ!一刻も早く、避難できるようしなきゃ…………!」

 

「冷静に動くべきだと言ってるんだ!今の状況を見てみろ!俺達は強くなったが、相手は魔王二体だぞ!?マトモにやり合っても、一体相手に勝てるかどうか!俺だって、王国の皆を見捨てる気はない!だからこそ、慎重に動くべきだ!違うか!?」

 

 

血気盛んに逸る光輝を止めたのは、一際冷静な剣城であった。咲夜が雨音同様にブレインとして信用されるほど理性的である彼の言葉に、光輝は納得しかけながらも、現状を考えた上で反発する。

 

普段ならば冷静に理詰めする剣城だが、事態が事態ということもあり、彼の内心に焦りがあるのは明確であった。雫と雨音が二人を止めようと声をかけようとしたその時、二人よりも先に動く人物がいた。

 

 

「待って!光輝くん!剣城くんの言う通りだと思うの!」

 

「恵理………だけど!」

 

「あの、アルマさん。さっきの話、詳しく聞きたいんですけど…………その兵器が使われたのって、神山の結界が剥がされた後ですよね?」

 

「ああ、確かにそうだね。………成る程、そういうことか」

 

「恵理?アルマさん?二人とも、何か分かったのかい?」

 

「魔人族の使ってる兵器は、結界は破れないんじゃないかなって………そう思うの。わざわざ破壊したのも、防がれる可能性があるから」

 

 

突然割って入った恵理はアルマから聞いた話に静かに頷き、彼女に止められた光輝は不思議そうに思いながら恵理に疑問を投げ掛ける。恵理から告げられたのは、神山を滅ぼした『メギド』に存在する唯一の弱点を予想したものであった。

 

────それは、障壁など魔力を介した防壁を突破できないというもの。だからこそ、大魔王は、魔王を使って事前に神山の結界を破壊したのだ。確実に神山を滅ぼす為だけに。

 

 

「魔人族はきっと結界を破壊するために動くと思うの。でも逆に言えば、魔人族は結界を破壊するまであの兵器を使えないはず。だから私たちが少しでも結界が壊されないように立ち回れば、きっと王国の皆も有利になれるはずだよ」

 

「うん、鈴もエリリンに賛成かな。さっすが鈴のエリリンだよ! 眼鏡は伊達じゃないね!」

 

「眼鏡は関係ないよぉ………鈴ぅ」

 

「私は、賛成ですわ。それならば、私たちにも出来る最善かと」

 

「…………俺もだ。少なくとも、前線に出るよりかは賛同できる」

 

「ふふ、私も賛成。雨音や剣城を納得させられるなんて、恵理も変わったわね。────少し冷静さを欠いてたみたい、光輝は?」

 

「そうだな…………じゃあ、急いで結界を守るために動こう。確か、この大結界は発動する装置があったはず」

 

「────ならここから近くの塔が目安なはずだ。他の二つは戦力も揃って防衛できているが、そこだけは戦力が行き届いていない」

 

 

恵理の言葉に、ほぼ全員が納得して、光輝も皆を纏め上げて動き出す。結界の起点である装置がある塔の場所を知るアルマに誘導され、光輝達は先へと向かう。不意に、走り出した一同の中で、剣城は歩みを止めた。

 

 

「────アルマは何故、あそこまで詳しいんだ?」

 

「?どうしたの?白雪くん」

 

「…………いや、なんでもない」

 

 

彼の中に生じた疑問。それは僅かなささくれのように、胸の内に留まっていた。神山を襲った魔人族の兵器の存在、そして攻め滅ぼされる神山の様子を詳しく説明したアルマに、剣城は疑念を感じていた。

 

────あまりにも詳しすぎる説明が、彼の不信感を買っていた。怪訝そうな剣城を余所に同行する者の中で一人、彼を睨むような視線があったことに、誰も気付かない。

 

 

◇◆◇

 

────ハイリヒ王国を覆う巨大な大結界『星空結界』。ソレはかつて起きた第一次魔神戦争の時の大結界よりも遥かに優れた結界術であった。

 

星王エリュシオン・S・B・ハイリヒが自らの杖『アステリオス』と玉座に組み込んだ大規模術式により発動する、半永久的な大結界である。エリュシオン本人の僅かな魔力を使い、永続的に発動し続ける領域魔法。

 

かつての大結界のような防御性を敢えて削り、敵が結界内に入り込めるようになっている。その代わり、半自動的な魔法による防衛機構と結界由来の外側からの魔法及び魔力攻撃を防ぐバリアの機能を引き上げられている。

 

 

「────流石はハイリヒ王国。人類を守護する砦の一つ、生半可には落とせんか」

 

 

魔王軍による最初の攻撃は、事前に引き連れてきた数万の魔物の軍勢を解き放ったものだった。物量による一掃作戦は、ハイリヒ王国を守護する『星空結界』により容易く防がれていた。結界に侵入した直後に、無数の迎撃魔法により薙ぎ払われ、王国の外壁に近付いた魔物も騎士団や警備隊によって撃破されていく。

 

 

「だが、肝心の星王が動けない以上、王国も恐れることはない。────魔王ダンテ」

 

「ふぁぁぁ…………なぁに?」

 

「我々『覇竜軍』は右を攻める。お前には左を、任せる」

 

「いいよ。眠いけど────これもやるべき仕事だし」

 

 

その状況を見届けていた魔王クレイドが、剛槍を手にして立ち上がる。彼が語り掛けたのは、臨時で作られたであろう玉座の上でコクコクと寝始めていたフードの少年、魔王ダンテ。彼は欠伸を噛み殺しながら、傍にいた魔人将ファルディウスから鎌を受け取る。

 

 

「魔王様が動かずとも、私が」

 

「別にいいよファルディウス。僕も興味があるからね────この世界の人間に、生き残る価値があるのか。それが、僕が魔王になることを選んだ理由だから」

 

 

不安そうなファルディウスの忠言に、ダンテは眠気を堪えきれずに欠伸を吐き出しながら立ち上がり、足元から生じる黒い靄に飲まれて消えた。ファルディウスも同じように影へと溶け込んでいく。そんな魔王の姿を見届けたクレイドは悠然と、槍を構える。

 

 

「ミハイル、黒鷲部隊は南側に配置された結界装置の破壊しろ」

 

「ハッ!しかし、クレイド様。東側の装置は魔王ダンテに譲るのは分かりますが、西側の結界装置は如何しますか」

 

「案ずるな。既に西側に向けて我が子らを放っている。万が一を考慮して俺も向かうつもりだ」

 

「承知しました!魔王様もお気をつけて!」

 

 

黒鷲の魔物に乗って部隊を引き連れていくミハイルを尻目に、クレイドは静かにある一点を見下ろす。彼の視線の先にあるのは、避難誘導をする騎士たちと民間人たちの姿であった。その様子を見下ろす魔王の瞳には、濁り切った憎悪と殺意が込められていた。

 

 

「────人間族は、一人残らず(みなごろし)だ」

 

 

◇◆◇

 

 

そして、南側の結界装置付近にて。

結界を抜けて迫り出す魔物の軍勢を、重厚な鎧に纏う警備隊が迎撃する。複数人の連携により、着実に魔物を処理しながら防衛戦を維持する彼等の動きは常に統率の取れたものであった。

 

 

「────総員、連携を崩すな!防衛線を押し上げろ!我が王の作りし平和を守る為、戦うのだ!!」

 

「「「「了解ッ」」」」

 

 

空から降り注ぐ雷撃が、周囲の魔物を炭化させていく。レイピアを片手に、士官服を纏う男装の美女────『執行官』スピリアスの指示を受け、ハイリヒ王国の規律や法を守護する警備隊が一気に防衛を維持する。

 

そのまま前線を押し上げんとするスピリアスであったが、すぐに放たれた攻撃に気付き、雷撃によって相殺する。着地した彼女の前に現れるのは、数十にも及ぶ魔物を率いた魔人族の部隊であった。

 

 

「私の魔法を消し飛ばす雷撃、貴様が『王の剣』────『執行官』のスピリアスだな」

 

「そう言う貴様、魔人族か。『覇竜軍』魔王クレイドの配下だな」

 

「────ミハイル、黒鷲部隊を率いる『魔人将』だ。しかと胸に刻み、絶望のままに死ね」

 

「──────お前達は下がれ。奴等は私が引き受ける」

 

 

そう言い残し、スピリアスはレイピアを鞘に納める。鞘に組み込まれた自動研磨機能により鋭さを増したレイピアを抜き放ち、空に浮かぶ黒鷲部隊へと向き直る。

 

 

「たった一人で、我等を相手するだと!?」

 

「『王の剣』め!我等黒鷲部隊を侮るか!」

 

「────死を恐れる者は投降せよ。私はあくまでも法の番人、必要の無い殺しはしない。たとえ王都を焼いたお前達でも、私情で裁くことはしないと約束しよう」

 

「貴様………ッ!我等魔人族を侮辱するというのか!?貴様人間を許しを乞うつもりも、死を恐れるつもりもない!」

 

「ならば結構────我が国に土足で踏み込む賊徒よ、情けは不要と見た」

 

 

敢えてそう告げたのは、彼女なりの信念である。敵であろうとも、法の名において彼女は戦う。故に自らの感情よりも、王の為の戦いと規律に則っとることを重視する。星王エリュシオンの剣として、彼女は法の番人として敵に断罪を下すのだ。

 

 

「このスピリアス。法と秩序の番人として、我が王に矛を向ける敵に、『王の剣』として雷光の裁きを下す」

 

「ほざけ人間!貴様ら含めて王国の人間も楽には殺さん!カトレアやアクシア様の仇だ!苦痛に狂うまでいたぶり尽くしてから殺してやろう!!」

 

 

◇◆◇

 

そして、その一方で。

 

「ここが結界の制御装置がある塔………」

 

「人がいない…………まだ誰も来てないの?」

 

 

光輝達は目的である結界の制御装置がある塔へと辿り着いていた。だが、人の気配はやはり存在しない。誰もいないのかと困惑する雫だったが、不意に何かに気付いた彼女が全員を呼び止める。

 

 

「待って!皆!」

 

「っ!どうしたんだ!?雫!」

 

「────血の匂い。誰か既にいるわ」

 

途端、皆の顔が強張った。そして鼻に伝うは血の匂い、明らかに濃い死の香り。慌てて塔へと駆け込んだ光輝を筆頭に、全員が中へと突入する。

 

中は、死体だらけであった。大広間、塔の前の扉に繋がるその領域の中に無数の騎士達の亡骸が転がされている。悲惨なのは、彼等が肉体を損壊されており、一方的に蹂躙されたであろうことが見て分かるのだ。

 

そして、その領域の中で動くのは────四人の男女。

 

 

「ええい!開かないわね!さっさと壊れなさいよこのポンコツドア!ちょっとラヴィエ!このドアまだ開かないわけ!?」

 

「………だーっ!うるさい!仮にも王国の防衛システムがそう簡単に開くわけないじゃん!こういう細かいこともできないのに文句は言わないでよ!脳筋ルイナ!」

 

「ぁんですってぇ!?妹の分際で生意気よ!?」

 

「まぁた喧嘩してるぅ〜、仲良くしよーよぉ〜」

 

「諦めな、ルールー。神経質なラヴィエと頭でっかちなルイナじゃあ折り合いが悪いのは当然。オレサマ達は巻き込まれないようにするだけ、さ────ん?おい、馬鹿姉妹。お客さんだぞ」

 

 

ガンガンと鋼鉄の扉を蹴るのは、血気盛んに見える竜面の少女。そんな彼女の前で扉を開けようと装置を操作する小柄な少女。能天気そうにケンカする二人を宥めようとする無垢そうな少女を、長身の男が呆れながら遠ざけていた。彼ら全員には、明確な類似点が存在している。────全員が竜を模した角と尻尾を持っていることである。

 

不意に長身の男が大広間に立ち入ってきた光輝達の存在に気付き、彼女達に呼びかける。すると喧嘩してたであろう少女の一人が光輝達を見て、一言。

 

 

「────あぁん?誰よ、アンタ達」

 

「ルイナ!アレどう見ても勇者でしょ!あんな派手な奴なんて見て分かるって言ってたじゃない!?」

 

「はぁ!?人間族の顔なんて見分けつかないわよ!見分けつかないから顔に名前でも書いときなさいよね!」

 

「いいから!敵が前にいるって言ってんだろ!」

 

 

小柄の少女の指摘に憤慨するリーダー格の少女、遂に長身の男に咎められて彼女は頬を膨らませながら光輝たちに向き直る。先程までの態度を潜めるかのように、少女は尊大に振る舞っていた。

 

 

「────アンタ達、噂の勇者一行ね!一目見て分かったわ!」

 

「………いや、分かってなかったでしょ」

 

「うっさい!────大方、この結界装置を守りに来たんでしょうけど、残念ね!その装置を操作する為に塔に入ろうって魂胆でしょうけど、開かないからどーしようも無いわよ!!ザマァ無いわッ!!」

 

「ホント止めろよ、それ以上恥を晒すな!」

 

 

上から目線で見下ろす少女だが、情けないことを言ってる自覚はないらしい。あまりのアホさ加減に仲間からも怒られて止められているが、当人は何故怒られているのか分かっていないらしい。

 

光輝達の反応は文字通りドン引きである。雨音や雫は兎に角彼女に振り回されているであろう仲間達に同情のようなものを向けていたが、すぐに我に返った光輝の糾弾によってそれを振り払う。

 

 

「お前が、お前達がここにきた騎士達を殺したのか!?」

 

「そうだけど?────ああ、その前に。アタシ達が何者か、自己紹介が必要だったわね。やるわよ、アンタ達!」

 

「おいおい、マジでやんのかよ」

 

「いいからやる!文句言うならぶっ飛ばすわよ!」

 

「へいへい………全く横暴な長女様でぇ」

 

不服そうな長身の男と小柄な少女を黙らせ、リーダー格の少女は三人を集める。何をする気かと身構える一同の前で、四人はビシッとカッコけるようにポージングを始めた。

 

 

「放つ蹴りは真空の刃!空を荒らすは、『烈風』のグラート!」

 

「ドカーン!ボガーン!ズドーンッ!みんなみーんな踏み潰ぅーす!『暴虐』のルールー!」

 

「…………黒く汚れた泥の中で、何もかも穢してあげる。『黒泥』のラヴィエ」

 

「そしてアタシはリーダーにして、『殲光』のルイナ!アタシたちは、『竜王の子(ドラコ)』!魔王クレイドの娘達よ!」

 

「「「「…………」」」」

 

「な、何!?魔王の娘だって!?」

 

 

うわぁ、と全員が絶句のあまり言葉が出ない中、光輝は何とか絞り出すように驚いてみせる。彼自身も、明らかな動揺が見て取れる。そんな彼等の反応にプルプルと震えていた小柄な少女、ラヴィエはすぐさま顔を真っ赤にして、リーダーの少女ルイナに噛み付いた。

 

 

「だから言ったのよ!こんなダサい真似なんてしたくないって!!ほら、アイツらにも引かれちゃったじゃない!」

 

「な、何よ!カッコいいじゃない!こういう風に挨拶するのが流儀だって、前に会ったレオンハルトから教わったことあるのよ!?間違いないに決まってるじゃない!」

 

「じゃあ何で引かれてるのよ!………グスッ、もういや!何で私ばっかこんな目にぃ!!」

 

「はぁいはぁい、ラヴィエは悪くなぁーい。よしよぉーし」

 

「────何よ、アタシが悪いわけ?」

 

「割と悪いぞ」

 

 

遂にストレスが限界を超えたのか泣き始めたラヴィエを、ルールーが優しく慰める。彼女の様子を心配そうに眺めながらも不貞腐れるルイナに、グラートは呆れたようにバッサリと切り捨てる。

 

まるで戦場にいるとは思えないくらい無邪気な彼等の様子に毒気が抜かれそうな勢いを払い除けるかのように、光輝は怒鳴り声をあげた。

 

 

「どうして………!君達は、こんなことを!?」

 

「?こんなことって、何よ」

 

「戦争なんて始めて、平気で人を殺して!罪のない人達を殺して!神山を滅ぼしただけじゃ飽き足らず王国まで滅ぼそうとするなんて!どうしてそこまでするんだ!?」

 

「────?罪のない人間なんているわけないでしょ」

 

 

あっけらかんと、ルイナは首を傾げた。

そんな彼女の言葉に、光輝は呆然とするしかなかった。理解ができなかった、まるで殺しそのものが悪だとすら思わないような様子に、理解が追いつかない。そんな彼等を前に、ルイナは平然と続ける。

 

 

「お父様が言ってわ、人間族は救いようのない罪深い存在って。お父様の一族を滅ぼして、それ以外の種族の虐殺にも関わってきたって。だから、皆殺しにするの。お父様がされたように、全員殺すって。そして、アタシ達もそれを手伝ってるの!そうするとね、お父様褒めてくれるから!」

 

「心は、胸は痛まないのか………?」

 

「人を殺して何で胸が痛むの?私、別に病気じゃないわよ」

 

 

キョトンとした様子で、本当に不思議そうなルイナ。言葉を失った光輝は始めて埒外のものを理解した気分であった。だが、彼は知る由もない。ある意味では彼女も自分と同じであることを、自らを客観視できていない光輝には、それがまだ分からなかった。

 

 

「光輝!しっかりしなさい!」

 

「雫………だけど、相手は……」

 

「殺す事に迷うのはいいけど、状況が状況なの!せめて戦って!じゃないと王国の皆が危なくなる!」

 

「………分かった、ごめん」

 

「ふーん、邪魔するってワケ?────いいわ、丁度退屈してたし。結界を壊せなくても、勇者を殺せばお父様も褒めてくださるはずよね」

 

「おいおい、勇者一行は大魔王様から生かしとけって言われてたろ?」

 

「そんなの言い訳しときゃいいでしょ。弱いクセに向かってきたから、しょーがなく殺した、とかさ」

 

「はぁー、ルイナったら。………ルールー、グラート、やるわよ」

 

「はぁーい、ルールー暴れちゃーう」

 

 

動揺していた光輝を、何とか雫が立ち直らせる。聖剣を抜いた彼にルイナは肩を竦めると、すぐに三人が前に出た。ラヴィエ、ルールー、グラートの三人は胸に手を押し当てると、魔力を収束させた。すると、その肉体が一気に膨れ上がっていく。

 

 

────そして三人の姿はなく、現れたのは巨大な魔獣。鳥のような翼を類した竜と一際大きな巨体を有した巨竜、そして黒い泥を纏う軟体生物のような竜であった。

 

 

「ハッ!驚いた!?ラヴィエにルールー、グラートは竜化できるの!仮にも竜人族の血が流れてると混血だからね!」

 

「っ!それじゃあ君も………!?」

 

「────アタシは必要ないわよ。変身なんかしなくても、簡単に殺せるわけだしね。さぁ来なさいよ、勇者。ま、来なくても此方から殺すけど」

 

そう告げたルイナが、光輝へと突撃していく。

彼女が動いたのに応じて、三体の竜も突撃していき、雫たちもなし崩し的に交戦を始める形になる。

 

こうして王国を防衛する戦い、その一つが幕を開けた。

 




戦争編本格的に始まってきたところで、オリキャラ数人の紹介。

竜王の子(ドラコ)
魔王クレイド直属の部隊もとい、クレイドの息子娘達。数少ない竜人族の混血を含んだメンバーで構成されており、全員が竜種の特徴を有している。

『殲光』のルイナ

『ドラコ』のリーダーとして振る舞う少女。勝ち気かつ我儘な性格でメンバーを振り回している。竜を模した面を付けており、唯一竜化を使わない。


『黒泥』のラヴィエ

『ドラコ』のメンバーの一人、理知的なブレイン役。小柄な見た目の少女であり、常に神経質でありストレスの限界を超えると泣き喚く悪癖を持つ。

竜人族の混血であり、竜化を発動可能。黒い泥を纏った海洋生物のような竜へと変身可能。


『暴虐』のルールー

『ドラコ』のメンバーの一人、マイペースで無邪気な子。他の二人とは違い、大人びた姿とは裏腹に子供っぽい。しかし暴れることにおいては他のメンバー以上。

竜人族の混血であり、竜化を発動可能。オルクス迷宮のベヒモスを上回る巨体の巨竜へと変身可能。


『空裂』のグラート

『ドラコ』のメンバーの一人。チンピラみたいな風貌だが、メンバーの中では常識人。常に互いを振り回すメンバーを律儀にまとめている。

竜人族の混血であり、竜化を発動可能。巨大な翼を有したワイバーンのような姿へ変身可能。


お気に入りや感想、評価などよろしくお願いいたします!それでは、次回もお楽しみくださいませ!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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