ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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だいふ更新が遅れてしまい、申し訳ありません。話の構成を練る過程でスランプになったので、別作品に手を付けてました。これから少しずつ書き続けていくつもりですので、よろしければ応援よろしくお願いします!


三人の王域、賢者達の戦い

そして、燃え盛る戦場となった王国に、彼等はようやく辿り着いた。魔力駆動四輪が止まったその先では、大結界を張ったハイリヒ王国とそれを襲う魔物の大群の姿があった。

 

 

「────ひでぇ、マジモンの戦争かよ」

 

炎と血が入り混じる匂いに刃以外にも、シアやティオも顔を顰める。戦争そのものと呼ぶべき地獄の光景が、そこにあった。不安そうな香織を尻目に、ハジメは冷静に戦況を予測していた。見た限りでは────王国側が何とか押し返せてはいる。

 

 

「刃、ハジメ。行くのか」

 

「当たり前だ、アイツらを、エリュシオン陛下達を見捨ててはいけねぇ」

 

「まぁ、元々王様に用があるわけだしな」

 

「────ならばハジメ。コレを持っていけ」

 

イクスの問いに刃は当たり前だと言わんばかりに応え、ハジメは鼻を鳴らして肩を竦める。その二人の決意を見たイクスは一息ついて、ハジメに目掛けて何かを飛ばした。眼前にまで飛んできたソレを掴んだハジメは瞠目し、イクスを見返した。

 

 

「…………コレは」

 

「必要になるはずだ、持っていけ。使い方は前に話したはずだ」

 

「イクスさんは何処に行くんですか?」

 

「王国に追われる身だが、出来ることはある。民間人の避難など、手伝えることはやるつもりだ」

 

魔力駆動四輪の上に乗ったイクスは自身の武器を取り出してから、すぐに飛び立つ。タンッ、と障害物や残骸を足場にして王国へと向かう彼の姿は一瞬で見えなくなった。

 

 

「俺達も行くか、相棒」

 

「ああ、行くぞ。ユ────」

 

 

────見つけたぁ、お姉様♡

 

 

ハジメが仲間を呼ぼうとしたその瞬間、不気味な程に怖気を走らせる声が響き渡った。ソレはハジメや刃、その場にいる全員を本能から身構えさせるレベルのものである。だが、反応が遅れた者が一人いた。

 

唯一、その声に心当たりがあったユエであった。歩みを止めて立ち尽くした吸血鬼の少女は思わず、呆然としてその声に耳を傾けてしまう。

 

「この、声は…………?」

 

 

────直後。ソレは辺りの土や木々の隙間、周りの障害物の隙間から何かが蠢く。見るものに恐怖を齎す、悍ましい影は、波となって現れた。

 

溢れる闇、周囲の全てを薙ぎ払って訪れるソレは、生命の暴力と呼ばれる津波であった。無数の魔物、ヒルのような異形、無数の目や口を持つ生物の群れが、ハジメ達に牙を剥いた。

 

 

「ッ!────ハジメ!」

 

「分かってる!」

 

 

全てを食らいつくさんとする黒い津波にいち早く応じたのは刃とハジメ。刃の生成する無数の魔剣の射出と、ハジメの構えたオルカンの砲撃が黒い津波を押し退ける。しかし無数の生命の群れである黒い津波は攻撃の横を潜り抜け────ユエに襲い掛かる。

 

 

「っ!?ユエ!」

 

「ユエさん!」

 

「ハジメくん!ユエちゃん!」

 

「皆────クソッ!?」

 

魔法を発動しようとするユエを、黒い津波が有無を言わさず呑み込んだ。咄嗟に庇ったハジメやシア、香織も黒い津波に呑まれていく。流されていく彼等を追い掛けて空を翔んで行くグアン、刃はソーナ達が流されていないことに気付き、津波に意思があることを悟ったが、その津波を止めることは出来ない。

 

 

────そして、彼等は戦場にて離されることになった。

 

◇◆◇

 

そして、ハジメ達は遠く離された廃墟の街へと辿り着く。黒い津波を模した魔物の群れは突如周囲の瓦礫の中へと消えていき、ハジメは連れてこられた仲間達、もといユエの身を案じる。

 

「っ、ユエ!シア、香織!平気か!?」

 

「………、平気。あの魔物の群れ、殺すつもりじゃないみたい」

 

「ハジメさん!刃さん達と引き離されちゃいましたよ!?」

 

「クソ!最初から俺達を引き離すのが目的か?」

 

 

「──────俺達?別に貴方達なんて、興味の欠片も無いのだけれど」

 

 

ハジメの疑問に答えたのは、無関心な高い声音であった。思わず身構えたハジメがドンナーを周囲に向けるが、人の気配はない。代わりに無数の黒い魔物が集まって山になる。その魔物のヴェールを引き剥がすように、一つの傘が生えてきた。

 

血のような深紅の傘の下に、黒い魔物の軍勢が集まる。いや、吸い込まれるように魔物の大群が呑まれていき、やがて一つの気配を残して消え去った。

 

 

「しとしと、りんりん………雨が降る。数多の生命から絞り出す、血の雨が」

 

 

あまりにも不気味な気配に、香織もシアも怯えを隠しきれない。ハジメも冷や汗を滲ませながらドンナーを向け続け、ユエは言葉が出ないかのように唖然と、そして目を離さずにソレを見つめていた。

 

 

「今宵も新たな獲物が、私の前に現れたわね。ウサギに若い娘に……………あら、ラーヴァと同じ混じり物。魔物と人間の混ざり物はあまり口にしたことがないけど、面白いものも集まるものね」

 

「お前は………」

 

「王域二位、『紅狂皇女』アンリエスタ。別に覚えなくてもいいわよ、獲物が覚えた所で無駄に終わるのだし────そして」

 

 

深紅の傘を差すのは、黒いドレスに身を包んだ金髪の美女。傘と同じく血のように紅い瞳を秘める彼女の姿は、何処かユエと似通ったものであった。悲痛そうな顔で彼女を見つめていたユエとその目が合うと、美女はウットリとした様子で顔を綻ばせた。

 

 

「────アハッ、やっと会えたぁ♪お姉様♡」

 

「………アンリエスタ」

 

「昔みたいにアンリって呼んではくれないの?アレーティアお姉様」

 

 

先程までにハジメ達に向けた無関心とは対照的に、アンリエスタはユエに色気のある声で語りかける。ユエが呟いたその名に、香織は困惑を顕にする。しかし彼女と交流が長く、過去について聞いたことのあったシアとハジメは互いの顔を見合わせた。

 

 

「アンリエスタ………?王域って、大魔王直属の………」

 

「その名前って、確か………」

 

「ああ────ユエの妹だよな。まさか、王域にまで成り上がってるとはな」

 

 

過去に執着を持たぬユエにとって、アンリエスタの存在だけは特別であったらしい。吸血鬼の王族であり先祖返りであったユエの血の通わぬ妹であり、吸血鬼としての才能を持たなかった虚弱な妹。ユエに才能の全てを吸われたと扱われ王族の末席にも加えられず、いつも城の奥底に軟禁されていた吸血鬼の『汚点』。

 

それでも、同族から恐怖され距離を置かれていたユエにとっては大切な家族であった。それまでずっと戦ってきたのも、当時の王であった叔父に頼み、妹を解放するように願ったからでもある。魔王ダンテに負けて封印されてからも、脳裏にあったのは妹の心配であった。

 

生きてるなら、必ず会いに行くと思っていた。ユエもその気持ちが揺らいだことはない。ただやはり、大魔王の下に付いてるのは、予想外であったが。

 

 

「アンリエスタ…………生きてて良かった」

 

「喜んでるにしては、つれないわお姉様。もっと抱き合ってこの喜びを分かち合いたいのに────そんな警戒して距離を取るなんて」

 

「…………アンリエスタ、大魔王の元から離れて。貴方とは戦いたくない」

 

「それを言うならお姉様もよ────大魔王様には私から言うから、此方に来て。もう誰も、お姉様を利用しないように出来るから。大魔王様、ああ見えても仲間には優しいの。きっと認めてくれるわ」

 

 

再会を喜ぶユエだが、嬉しそうにほくそ笑むアンリエスタはユエが一定の距離を取ろうとしていることを見逃さない。誤魔化す必要のない、と悟ったユエが直接そう告げる。

 

戦いたくないと、そう言うユエの言葉は紛うことなき本心であった。それに対して、アンリエスタも諭すように語る。

 

 

「父様達も、お姉様を道具としてしか見なかった。みんなみーんな、お姉様が居なくなったことに平然と喜んで。お父様なんて、『これで良かったんだ』なんて影で喜んでたの────酷いわよね、お姉様に生かされてたクセに、お姉様を見捨てるなんて。そんな同族なんて、私も要らなかったから────みーんなみーんな、食べてあげたの」

 

「………ッ!?うそ!吸血鬼を滅ぼしたのは、魔王ダンテって!」

 

「ああ、確かそうなってたわね。魔王ダンテに捕らえられて殺されそうになった時、大魔王様が私に恩赦を与えてくれたの。その間、ずっと柩の中で眠るように言われて、目覚めたのは数十年ぶりだけれど。だからお姉様を探せなかったの………それだけはごめんなさい」

 

 

その事実に、ユエの精神は大きく動揺に至る。

虚弱でも、大切な妹が一族を滅ぼした張本人であること。滅ぼした理由が、自分を切り捨てた一族への報復であることを。強い動揺に駆られたユエが取り乱しかけたその時、ハジメが彼女の肩を支えた。

 

 

「落ち着け、ユエ」

 

「………ハジ、メ」

 

「相手がお前の妹なのは分かってる、戦いたくないこともな。だが、今は状況が状況だ。あっちが大魔王についてる以上、話し合いで大人しくなるわけがねぇ。ユエには悪いが、戦う以外に選択肢はないぞ────殺さない努力はするけどな」

 

「…………ハジメ────」

 

 

 

「────ナニ、貴方?」

 

 

ゾクッ、とハジメの全身が震えた。大魔王と対面した時と同じように、本能が悲鳴を上げている。ソレは目の前の存在────紅い瞳の吸血鬼の美女が放つ、猛烈な殺気と狂気によって生じたのだと、判断する必要も無かった。

 

 

「お姉様に馴れ馴れしく触れて、お姉様に馴れ馴れしく声を掛けて、お姉様に馴れ馴れしく近付いて…………私のお姉様の傍に立つなんて────人間風情が、驕るなよ」

 

「………ハジメに手を出すなら、アンリエスタでも許さない」

 

「ああ………!お姉様♡そんな冷たい目を向けるお姉様も、敵意剥き出しなお姉様も素敵────でも、いくらお姉様の言葉でも聞くわけにはいかない。大魔王様とは約束してるから────人間族の虐殺に協力する代わりに、お姉様の安全は保証して貰うって」

 

恍惚と顔を赤らめるアンリエスタのドレスが、黒い影が揺らぐ。ズズズ、と足元から溢れる影は無数の魔物となって群がる。歯を剥き出しにして殺意を顕にする魔物を従えるアンリエスタは首をコキリと無らしながら、ほくそ笑む。

 

 

「安心して、邪魔者は居ないわお姉様。私がここにいるのは、大魔王様の仰ったイレギュラーの足止めを命令されただけ。大魔王様は今、人間族を滅ぼす為に動かれてるの。ハイリヒ王国もあと少しで滅びるから、邪魔をさせるなってね♪」

 

「────っ」

 

「貴方達は見たかしら?大魔王様の齎した破滅の光を!暴虐!無慈悲!冒涜なまでに生命を消し去る事だけを考えた、あの方の魔光!見てないのならばこれから見れるわ─────王国に生きる全てを踏み躙る、あの終末の光を!」

 

 

アンリエスタの気さくかつ恍惚とした言葉に、香織は表情を強張らせた。彼女の意識が向いてるのは、王国の方────王国にいる雫たちこ存在が気掛かりであった。そんな彼女の心配に、ハジメは気付かない訳がなかった。

 

 

「────香織、先に行け」

 

「ハジメくん?でも………」

 

「八重樫たちが心配だろ、連中が攻めてきているってんならアイツらも動いてる可能性が高い。下手したら魔王クラスと対面する可能性もあるしな、早めに合流しておくに越したことはねぇよ…………心配するな。コイツは俺達が止めておく」

 

「────うん、分かった。気を付けてね、ハジメくん」

 

 

ドンナーを構えながらそう促すハジメに、迷っていた香織は彼の目を見てから、覚悟を決めたように頷く。立ち上がった彼女はそのまま『星体魔法』による加速を発動する。星の光のように屈折した閃光となった香織は急いで王国へと向かうのだった。

 

 

「あらら、獲物がのこのこと────食卓から逃れられるとでも?」

 

 

それを、アンリエスタは見逃さない。

首をカクンと傾けた彼女の足元から、無数の影が這い出てくる。歯を剥き出しにした吸血鬼の眷属が大群を連なり、津波となって香織を飲み込まんとする。

 

 

そんなアンリエスタの身体を、二つの攻撃が抉り抜く。ハジメの放ったドンナーの弾丸が、ユエの放った魔法が、アンリエスタの姿を貫いた。

 

しかし、少女の姿は揺らぐ。足元から吸い上げた魔物を取り込むように肉体を再生させたアンリエスタは身を捩らせる。その瞳にハジメの姿はなく、その隣に立つユエだけが映されていた。

 

 

「嗚呼、お姉様の魔力が私の肉体を破壊した。あまりにも嬉しくて────溢れてしまいそう」

 

「………」

 

「お姉様、私の愛しいお姉様。安心して、私もお姉様は殺さないわ────手足を斬り落として、私達の城で一緒に過ごしましょう?邪魔者を全員殺して────家族二人で、ずっと幸せになろ?お姉様♡」

 

「…………ユエ。悪いが、加減できそうにないぞ」

 

 

王域二位、『紅狂皇女』アンリエスタ。

かつては才を持たぬ吸血鬼としての烙印を押されていたが、その実彼女は他の吸血鬼よりも『吸血』能力が秀でていた。だからこそ、ユエ以外の吸血鬼を喰らい尽くした彼女の強さは────全ての吸血鬼一族の力を取り込んだものであり、正しく魔王に匹敵する。

 

生命を貪る絶対的な捕食者たる皇女。彼女の意思を反映するかのように牙を剥く魔物の群れに、ハジメ達は迎撃に出るのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

「っ!ジン!ハジメやユエ達が!」

 

「ああ、分かってる!あの津波!アイツらを狙ってやがったのか!」

 

 

黒い魔物の大群が、ハジメ達を連れ去っていた事にすぐに気付いた刃達。だが、思ったより距離を離されたらしい。合流するには時間がかかるほど距離を開けられてしまった。

 

 

「………ん、主様、ここは任せて。すぐに皆を探し出して────」

 

「────シノ!危ない!!」

 

 

その場から飛び立ち、ハジメ達の居場所を探ろうとしたシノ。直後、彼女に無数の魔力の塊が飛来してくる。ソーナが叫んだのも束の間、彼女は魔力の爆撃に曝された。

 

 

「────ギリギリ、セーフだな」

 

「………主様、ごめんなさい」

 

「気にすんな、俺が勝手にやっただけだ…………それよりも」

 

 

手元に顕現させたフェンリルと複数の魔剣を盾にして防御した刃は、シノの無事に一息つく。安心した様子を見せた彼はすぐに目の前に並ぶ敵を見た。周囲に群れる、魔戦騎の大群を。

 

 

「魔戦騎………これだけの数とは、ただの群れではなさそうじゃな」

 

「最初から俺達を待ち伏せしてやがったって訳か。ハジメ達を引き離したのも、そういうことか」

 

「────グヒヒヒッ!いやまぁ、アレに関しては私達は無関係ですよぉ?」

 

 

刃達の前に現れたのは、二人組の魔人族であった。最も、片方は魔人族どころか、人ですらない見た目をしているが。一人はまだ若々しい魔人族の青年、全身に鎧を着込んだ騎士然とした人物。

 

もう一人?………は、一種の魔獣を思わせるような異形の肉塊。無数の魔物が一体となったような手足を纏うその肉の塊は、一つ目を細めて厭らしく笑っていた。

 

 

「………初撃を完璧に防ぎ切るとは、流石は『剣帝』。魔王を退け、大魔王様もから警戒される脅威ではある」

 

「グヒヒヒッ!ああ恐ろしい恐ろしい!ラーヴァ殿やオーゼンハイト殿を討った『剣帝』と相対するなど身震いのあまり、死んでしまいそうですぞ!」

 

「ッ!お前等魔人族か!」

 

「王域六位『魔剣士』ルクシオン。大魔王様の忠実なる尖兵、そして────」

 

「同じく王域三位『悪食獣』エゼルと申します。以後お見知りおきを、グヒヒヒッ」

 

 

魔人族の青年と肉塊を思わせる魔獣が、自らを『王域』と名乗る。大魔王直属たる精鋭であることを示すその二人組に、ソーナもティオも警戒を深めた。

 

 

「王域が二人!流石に洒落にならない戦力じゃないわねっ!」

 

「ハジメ殿達を襲った者も強大じゃが、此奴等も並大抵ではない。恐らく、ハジメ殿が対峙した王域よりも厄介じゃのう」

 

 

ラーヴァやオーゼンハイトよりも戦闘慣れした魔人族であることは目に見えている。恐らく、ハジメが対峙した戦闘特化の魔人族であったラーヴァよりも強く鍛えられている相手だと疑わなかった。

 

(魔戦騎を動かさない。奴等を敢えて維持させることで防壁の役割をさせるつもりか。端から全員、逃す気はねぇってことかよ)

 

「…………シノ、ティオ、ソーナ。連携してもう一人の方を頼む────俺はあの魔剣使いの方をやる」

 

「…………うむ、承知した。ご主人様」

 

 

短く耳打ちをした刃の意思を把握したティオが頷き、ソーナとシノと共に僅かに離れる。静かに魔剣フェンリルを両手で握った刃が、ゆっくりと刃先を地面に下ろすと────

 

 

「────ッ」

 

「ッ!!」

 

 

────深く腰を落としたかと思えば、魔剣フェンリルの鋭い斬撃を叩き込む。刃から狙われたルクシオンは即座に背中に装備していた魔剣を解き放ち、迎撃した。

 

 

「流石は剣帝。魔王様を退けたその実力、やはり並大抵ではありませんね」

 

(コイツの魔剣────何か分からんが、ヤバい!背筋の寒気が止まらねえ!!しかも何だ!?こいつの動き!この剣を、俺は知ってる────!?)

 

「────我が魔剣 ダインスレイヴ。大魔王様から与えられし、戦乱の魔剣の力────ご称賛あれ」

 

 

斬り合いが始まる中、刃は一瞬にしてルクシオンの振るう魔剣の異常生を見抜き、警戒を顕にした。そして呪詛のような禍々しいオーラを放つ魔剣を振るうルクシオンは淡々と告げる。

 

 

「ゲヘヘッ!あちらの方が心配ではないのですかねぇ?いくら剣帝と言えど、ルクシオン殿は簡単に倒せる相手ではありませんよぉ?」

 

「心配は無用。ご主人様はこの場にいる誰よりも強い。妾達がすべきことは────最も警戒すべきお主の処置のみ」

 

下品に笑う肉塊の魔獣に、ティオやシノ、ソーナは警戒心を露わにする。当のエゼルは張り詰めた空気に怯えるような態度を────何処か嘘くさい様子で手を振って、色々と言い始めた。

 

 

「おぉ、怖い!そのような眼を向けられては私も怖さのあまり縮こまってしまいそうですぞ!私めはただの小間使いのようなモノ!そのように警戒されては恐れ入りますねぇ!?」

 

「────この場に来てすらいない者が、よく言う」

 

「………………へぇ?」

 

 

嘯くエゼルの発言に呆れたティオの言葉を受け、魔獣の様子が変化した。不気味に見開いた単眼を細める魔獣の異変は、ティオの発言が図星であることを示していた。

 

 

「やっぱり、そうよね?ティオ」

 

「………どういうこと?」

 

「ソーナも分かっておるか。気にする必要はないぞ、シノ。アレは巧妙に術式を隠しておる。あの醜悪な肉塊は、魔獣じゃろう。しかも遠隔で操作されておるものじゃ────恐らく、今も城の中でゆったりしながらその魔獣の身体を操っておるな?」

 

「────『驚いた。私の正体を一瞬で見抜くなんてね』」

 

途端、魔獣から響く声は切り替わった。

まるで自動操作から手動に切り替わるように、響いた声は何処かおっとりとした女性の声音であり、その魔獣を操る本体────本来の王域の一人である魔人族のものであった。

 

 

「『こんなアッサリ見抜かれるなんて、王域の名折れって感じだわ。やる気なくしちゃいそ』」

 

「減らず口が多いのう。…………ソーナ、シノ。手早く倒してご主人様と共に王国に向かわねばな」

 

「『あらら、もう勝った気なんて。この魔獣の肉体だって、私特注のものなんだけどね』」

 

そう言う女性の言葉に応じて、魔獣エゼルの肉体が異様に膨れ上がる。膨張した肉塊から這い出るのは、魔獣の口や爪、尻尾など肉体の一部。巨大な魔獣の集合体であるようなソレを操り、王域の女性が欠伸混じりに告げた。

 

 

「『本気出さないで構わないよー。むしろ出されても困るって感じー。私はのんびりおっとりやりたいからさぁ〜。そんなわけで、よろしく〜』」

 

 

◇◆◇

 

 

その一方、ハイリヒ王国を見渡せる山岳地帯に駐留────飛翔している巨大戦艦『エルヴァルガンドゥの方舟』。和平の為に建造された人魔融和を示す為のその兵器は、人類虐殺を担う最終兵器の一つとして神山を焼き払い、今度はその砲身をハイリヒ王国へと向けていた。

 

 

「威力増大機構『シャームラ』、冷却完了。いつでも稼働させられます」

 

「今すぐ充填を開始せよ。王国に張り尽くされた結界の破壊を確認してから、『メギド』を叩き込む」

 

 

『神罰術式砲メギド』、大魔王アルヴァーンにより造り出された大規模殲滅用の魔法。それは大魔王の宿す『魔神』としての力、戦乱の魔力を高密度に圧縮して放射するもの。マトモに直撃した生命体は肉体や意識、魂すらも魔力へと分解されて魔結晶へと変えられる。その魔結晶は『魔戦騎』として再利用される為、戦争をすることに特化した紛れもない殺戮兵器であった。

 

そして、魔王や魔人将による王国の包囲網は王国自体を守護する結界を破るまで止まりはしない。結界の破壊が最後、またあの光で焼き払うだけなのだから。

 

 

「ッ!艦長!未登録の魔力反応が急接近中────」

 

 

その光景に酔い痴れるように笑みを浮かべていた艦長ガレオン。しかし何かの反応を感知した部下の言葉に反応を示したその瞬間、戦艦が大きく揺れた。見ると弩に目掛けて攻撃が放たれたのだ。

 

大きく揺れる艦内で、周囲のものに掴まったガレオンが険しい声を響かせる。

 

 

「何事だ!?敵襲か!敵は何処だ!?」

 

「高速で飛行しています!映像、モニタリングします!」

 

 

何とか攻撃するものを確認する為に、周囲の光景を展開し出していく。すると戦艦の周囲を飛び回る巨大な影が見られた。その存在を一目見て、ガレオンが目を細める。

 

 

「アレは────エンキか!」

 

「艦長、ご存知で!?」

 

「オーゼンハイト様が鹵獲したという人間族の兵器だ。オーゼンハイト様が敗れた際に『豊穣の女神』に従ったという話は聞いていたが…………成程、『豊穣の女神』一行が我々に歯向かうというのか」

 

 

かつてウルの町を王域二人から守護したとされる【豊穣の女神】畑山愛子。教会勢力を二分に分け、新国家レガリアの樹立を実現させた現人神と呼ぶべき女神の存在、彼女の尖兵としたエンキのことも把握している。

 

両腕から放つ魔力をロケットのようにして飛翔するエンキは、再度戦艦を砲撃しようと動く。無論、それを黙って見ているつもりは無かった。

 

 

「対空魔力砲『アルーガ』一斉掃射!奴を叩き落とせッ!!」

 

「対空魔力砲『アルーガ』、全20基一斉掃射開始!繰り返す!一斉掃射開始!」

 

 

防衛せんとエルヴァルガンドゥの甲板に展開された砲台が一斉に魔力の軌跡を描く。連発式の魔力砲台。弾丸や砲弾はなく、炉心に直結した魔力を圧縮、収束させて解き放つ技術。大魔王統治により革新された戦争技術の一つであった。

 

しかし、甲板から放たれる無数の弾幕をエンキは簡単に掻い潜っていく。ロケットのように両腕から噴射した魔力を微調整して、回避やホバリングなども容易く行いながら、巨神は戦艦に近付こうとしていた。

 

 

「ダメです!速すぎます!対空魔力砲ではマトモに当たりません!」

 

「────重装貫通砲『ブルトリオ』をチャージ。左右に『アルーガ』を同時展開。射線上に誘導し、狙撃せよ」

 

 

終いに出されたのは、他の砲台とは違う大型砲。ガレオンの指示に従い放たれた弾幕は左右から挟み込むようにしてエンキを一定の場所へと追い立て────次の瞬間、凄まじい火力の砲撃が、火を噴く。

 

鋭く、空を抉ったその一撃は真上に飛び上がったエンキを撃ち抜く。上空で起きた爆発と共に、巨神は力なく山岳地帯の方へと墜落していった。

 

 

「『ブルトリオ』直撃!敵巨大兵器!墜落していきます!」

 

「やりました艦長!これで邪魔されずに────………艦長?」

 

「……………」

 

 

敵を撃墜したことを喜ぶ配下たちを尻目に、艦長ガレオンは一人険しい顔で落下していくエンキを睨んでいた。その瞳は明らかな疑念が宿っていた。

 

 

(何故、あの一発だけしか攻撃しなかった?初撃の不意打ちだけで、あの弾幕を避け切る余裕があった。なのに何故攻撃を放たず、回避に専念して────)

 

「────エンキは、何かを乗せていたのか?」

 

 

直後、凄まじい爆発が戦艦を襲った。困惑する一同、それもそのはず攻撃してきたエンキは先程撃墜したばかりであり、他に敵はいないと思っていた。しかし、敵は居た────今度は甲板の上で。

 

「て、敵襲!敵勢力、『アルーガ』や『ブルトリオ』破壊中!反撃の余地もありません!」

 

「────女神の使徒、『賢者』めッ!!」

 

 

映像に映し出されるのは、破壊され始める甲板上の砲台。そしてそれを行う複数人の男女の姿である。それを率いるように淡々と高火力魔法を放つ賢者の姿に、ガレオンは歯を噛み締めした。

 

 

◇◆◇

 

「咲夜!アーティファクトで王国に連絡は!?」

 

「………駄目だ、繋がらない。恐らく、王国も今魔人族の攻撃を受けてて手が付けられないんだろう」

 

「でも、このまま黙って見てるは不味いだろ!またあの巨大な船が攻撃したら、王国にいる皆はやられるんだぞ!?」

 

「っ!じゃあどうすればいい!?あの空に浮かんだ船を、俺達だけでどうやって止めればいいんだよ!?」

 

 

混乱に暮れた状況に、園部優花は唇を噛み締めて落ち着かせるしかできない。護衛組の面々からは、あの巨大な船を止めようという意見も出ているが、手出しもできないというのもまた事実。学生である彼等にとっても、こういう状況────的確な判断は難しい。それは、彼等のリーダーである咲夜も同じであった。

 

沈黙を貫く咲夜はある思考を秘めている。彼としては、止めたいという気持ちも作戦もあるのだろう。だが、言い出せずにいるのは、迷っているのは、この場にいるクラスメイト達を巻き込んでしまうからか。

 

 

「────岸上くん、君は今どうしたいですか?」

 

そんな青年の心境を見抜いてか、愛子は優しく問い掛ける。不意に声をかけられて驚く咲夜は一瞬、口を噤む。しかし愛子の言葉に振り向いたクラスメイト達の目を見て、やっと語り出した。

 

 

「…………皆、俺はあの戦艦を止めようと思う」

 

「委員長………でもっ」

 

「分かってる。皆には迷惑をかける、下手したら死ぬかもしれない。だが、今────アレを止められるのは俺達以外にいない。あの光を、人の生命を、憎しみだけをもたらすあの光を解き放ってはならない。…………それ以上に、光輝や雫達、リリアーナや王国の皆を守りたい。

 

 

 

作戦は、ある。正直俺一人でも行くつもりだし、皆は無理をしなくていい。………できることなら、俺に力を貸して欲しい」

 

 

そう言って、咲夜は深く頭を下げる。

自分の正義を、心を信じた咲夜の願いに応えたのは────全員だった。

 

 

「分かった、委員長。俺達はどうすればいい?」

 

「死ぬのは怖いけど………僕達だって生きる為に戦うことを選んだんだ。我が身可愛さで皆を見捨てる気はないよ」

 

「ここにいる時点で、咲夜や先生についてくって決めたわけだし。今更逃げないよ」

 

「…………俺もだ。もう、弱い自分にはなりたくない。今度こそ、生まれ変わるんだ」

 

「────皆、ありがとう」

 

 

相川昇に玉井敦史、園部優花に宮崎奈々、そして清水幸利など。彼等全員が咲夜の願いに応じ、共に戦う決意を見せた。そんな友人達に、咲夜は心からの感謝を告げ、空を見上げる。

 

 

────そして、現在に至る。

 

 

「まさか、エンキに乗せてもらって戦艦に乗り込むなんて………委員長らしくないやり方ね」

 

「エンキの砲撃で落とそうにも、この船は巨大な魔力防止の結界があるからな。おそらく魔力砲では落とせない、そう判断した」

 

 

エンキの背に乗ってエルヴァルガンドゥの箱舟へと乗り込んだ一同。何人かグロッキーになってるものもいた、あの巨体かつ高所で振り回されればそうなるのも当然だが。

 

 

「砲台は破壊できた…………咲夜、これからどうするの?」

 

「────あの光を解き放つ際、コアから魔力を供給されているはずだ。だからこそ、炉心を優先して破壊する。奴等はまだあの砲撃は出来ないはずだ────王国を守る結界を剥がすまでの間に、終わらせる」

 

 

別に敵の魔人族まで殺す必要はない。あくまで止めるべきは、『メギド』を撃たれること。死の光を阻止さえしてしまえば、彼等の目的は大いに阻まれることになる。

 

それを理解してか、甲板に何体かの魔獣が飛び出してくる。そして、響き渡る艦長ガレオンの必死の怒声。

 

 

『────防衛用の魔獣を放て!奴等の狙いは炉心の破壊だ!何が何でも奴等を炉心には近付けるなッ!!』

 

「お出ましね………委員長、どうする?」

 

「かまけている余裕はない。正面突破で押し切るぞ」

 

咲夜率いる一同は迫り来る魔獣の群れへと突撃する。エルヴァルガンドゥの箱舟を動かす炉心を破壊し、これ以上の虐殺を阻止するべく。少年達は自ら戦場へと躍り出た。

 

 

「────皆さん、どうか無事で………!」

 

 

撃墜されたエンキに寄り添い、咲夜の呼び出した守護聖霊と共にいる愛子は生徒たちの無事を願う。ただ祈るしかできずにいる彼女は、まだ知らない。

 

 

この戦争で、自分の生徒達にも少なくない犠牲が出ること。その中に含まれるもので、たった今戦いに出た者達の誰かが犠牲になることは。




◆アンリエスタ

王域二位『紅狂皇女』の二つ名を秘める吸血鬼の美女。ユエと同じ吸血鬼族であり、彼女にとって叔父の娘であり血の繋がりのないが、姉妹同然の関係性。常に病弱でまともに歩けず、ユエにしか心を開かなかったこともあり、彼女に異様なまでの執着を向けている。クレイジーサイコレズでもクレイジーシスコンではなく、常に大切な存在に飢えている臆病な乙女(比喩的な意味)

その強さは王域トップクラス、魔王に匹敵するレベルであり、血どころか生命を吸い尽くす吸血鬼の亜種。自分が取り込んだ生命、『血の隷属獣』を無数に取り込み、従える彼女の歩みで一つの街の生命が食い尽くされる。


◆ルクシオン

王域六位『魔剣士』の二つ名を秘める青年。温厚な魔人族であり、大魔王に絶対の忠誠を尽くす。かつて人間族による大虐殺の舞台となった『バベル』の生き残りであり、大魔王の妹にして魔人族の女神とされたアクシアに育てられた孤児の一人。ラーヴァとは幼馴染。

大魔王から与えられた魔剣『ダインスレイヴ』を扱う。卓越した剣の腕は黒鉄刃と互角クラス。何故だか刃にとって心当たりのある剣技によく似た剣術を得意とする。


◆エゼル

王域三位『悪食獣』の二つ名を秘める魔獣。異様に膨れ上がった巨体と単眼、下品な笑い方が特徴的な魔獣だが────その正体は遠隔操作で操られた分体。本体はマイペースでおっとりとした魔人族の女性。魔獣として変化自在の肉体を有するエゼルと体内に格納された無数の魔獣を操る。


今回の話でも明かされましたが、吸血鬼族の末路の真実は魔王ダンテに滅ぼされたというより、アンリエスタに行われたものとなります。吸血鬼族がユエを魔王ダンテに売ったことで助命され、それを知って怒り狂ったアンリエスタに殺され尽くしたという話になります。

原作でも叔父のことで動揺してたし、唯一気を許していた妹がいたらユエもすごい動揺するんじゃないかなと思います。

次回もお楽しみくださいませ!それでは!!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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