ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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廻り行く時の力

「────ハヤテ、団長」

 

「何故ここに居るのか、言い訳は後で聞いてやる。重傷の者はいないな?」

 

「は、はい………でも、団長…………メルドさんが」

 

 

突如現れたハヤテの姿に驚いていた光輝は、不意にハヤテから掛けられた言葉に辛うじて応じる。しかしすぐに悔しそうに唇を噛み締めた彼の様子に、ハヤテは一瞥もしない。ただ立ち尽くした彼の目は────近くで倒れている騎士へと向けられていた。

 

しかしその瞬間、その場にいた全員の視界から────ハヤテの姿が消えた。

 

 

「────邪魔だ」

 

「ッ!!?」

 

 

それと同時に、魔王クレイドが砲弾のような勢いとなって吹き飛ぶ。蹴り飛ばされたのは明白だが、その挙動の一挙手一投足が捉えられない。蹴ったというのも恐らくの行動の結果、振り上げられた足と吹き飛んだ魔王の姿から、そう判断するしかなかった。

 

そして、魔王には目もくれず、ハヤテは静かにメルドの亡骸の前に立った。

 

 

「メルド、死に場所を決めたか。俺より先に逝くとはな」

 

 

戦友の死体を前に、ハヤテは腰に手を添えたまま見下ろす。しかし戦友の最期の表情が安らかな笑顔であることを知ったハヤテはその場に座り込む。

 

 

「────逸りやがって。折角の副団長の座が空になったぞ、お前以外の誰を後に据える気だ?」

 

 

呆れたように、何処か寂しさを滲ませた声でハヤテはそう零した。いつものような横暴さとは裏腹に、感じさせる小さな感情の兆し。長いようで短かった沈黙を経て────ハヤテは音もなく立ち上がった。

 

ハヤテが動いた理由は唯一つ、先程蹴り飛ばした竜王が此方に向かってきていたのだ。ハヤテはズボンのポケットに手を突っ込んたまま、欠伸を噛み殺すかのような余裕を見せたまま対峙する。世界の敵であり、王国最大の脅威であるはずの魔王へと。

 

 

「結果が何であれ────お前が『アレ』を殺したってことでいいよな?トカゲ魔王」

 

「トカゲは兎も角…………前者は如何にも、と言っておこう。直接手は下してなくとも、相対した時点で俺が殺したようなものだ」

 

「んだよ、大層な言い方しやがって。オレはテメェがやったか否かって聞いてんだよ。小賢しく言葉選んでんじゃねぇ」

 

 

淡々と、魔王と語り合うハヤテ。

しかし平然としながらも嘲笑うような態度を向けるハヤテに、魔王の纏うオーラが鋭さを増していく。当の騎士団長は素知らぬ顔をしながら自分に向けられる殺意を受け流す。

 

だが、魔王クレイドはいつもと変わらぬ様子のハヤテの、僅かな感情の起伏を見抜いていた。

 

 

「────そういう貴様は、仇討ちか」

 

「ああ?」

 

「自らの部下、腹心を斬られた怒りのまま俺に挑む。貴様の漲る戦意から生じる怒りの感情がそれを物語っているぞ。…………だが、怒りごときでこの竜王は────」

 

「────ハッハッハッハーーーッッ!!!」

 

 

その内心を見抜かれるように告げられた言葉に、ハヤテは逆に大声で笑い出した。突然の事に、光輝達はおろかクレイドすらも驚愕を隠しきれなかった。笑いを抑えきれなかったであろうハヤテは喉を震わせながら、吐き捨てるように告げた。

 

 

「復讐?仇討ちぃ?このオレがぁ?馬鹿かテメェは!オレがそんなモンで動く奴に見えるか?オレがテメェの前に立ってんのは、不甲斐ねえ奴等の尻を拭くためだ!」

 

「不甲斐ない、だと?」

 

「テメェに教えてやる、騎士団の教訓は弱肉強食。敵を憎んでも、相手を恨まず。戦いってのに善悪は存在しねぇ、殺し合う時点でどちらも悪だ。オレの育てた騎士達に、怒りと憎しみに駆られるような腑抜けはいやしねぇ」

 

「…………」

 

「メルドだってそうだ。アレが死んだのは、テメェ自身の実力不足。弱ぇ奴が不相応の場に出て、相手に負けた。アレがテメェより弱かった。それだけの話ってのはアイツも分かってるだろ────それで何故、テメェを恨む理由があるよ?」

 

 

自らの腹心の死にすら、冷淡に斬り捨てるハヤテ。そんな彼の言葉に、思わず光輝は動けぬ身体のまま睨みつけていた。自分達にとって世話になった恩人であるメルドが、そんな風に言われる理由はないと。普通であれば噛みついていたのであろうが、光輝は不意にその背中を見て────すぐに悟った。

 

 

「とはいえ、だ。まぁオレがキレてんのは事実だ」

 

「ふむ、何にだ?」

 

「決まってんだろ────テメェらに好き勝手されたことが、腹立たしいんだよ」

 

 

一瞬であった。

背中に備えた円陣のような鞘からハヤテは二本の剣を抜刀した。両手で握り構えたその剣は、二刀とも名刀と呼ぶべき鋭さと綺麗さを保ったまま────刀身が、血に濡れていた。

 

そして────相対していたはずの魔王クレイドの首が裂ける。バックリと裂けた傷口から鮮血が噴き出し、首が落ちそうになったその瞬間、魔王の双眼がギョロリと動く。

 

鋭い槍の一突きが、無数の鋭利な触手と共に穿たれた。カウンター気味に放たれた無数の攻撃は、ハヤテの全身を貫くどころか引き裂く勢いの殺意を宿していた。

 

しかし、ハヤテは音速の刃でソレを斬り捨てる。たった一振り、いや振るった動きすら目視できぬ速度の斬撃は、クレイドの操る触手を粉微塵に消し飛ばす。

 

 

「流石は神速剣………今の斬撃、捉えきれなかったな」

 

「チッ、テメェも案外手練れだな。俺の剣を薄皮一枚になるように避けやがって─────成程、加減して殺せるような雑魚じゃねぇな。久々に暴れられそうだ」

 

 

魔王クレイドとハヤテの二人は静かに睨み合う。不敵に裂けた笑みを深めるハヤテに対し、魔王クレイドは一切の感情を消し去り、ただ柔然たる殺意と憎悪に意識を統一する。全身全てを殺意そのものに特化させようとする魔王を前にしたハヤテは、不意に後ろにいる光輝達に告げる。

 

 

「テメェら、よく見て覚えろ────これがテメェらの成るべき先だ」

 

 

血に塗れた双剣を振り払い、ハヤテは振り向きもせずに首を鳴らす。次の瞬間────いや、1秒に至るよりも早く二人は斬り結ぶ。槍と刃の衝突と同時に、世界最強に位置するレベルの激戦が、目の前で繰り広げられた。

 

 

◇◆◇

 

 

────ある光景を、見た。

 

それは、一つの結末、一つの終点にして────一つの破滅。数多の可能性に満ちた世界において、最悪を辿った記憶の数々であった。

 

 

『────お兄、様?』

 

【■■■■■■■■】

 

 

燃え盛る世界、空から振り注ぐ流星によって滅びる世界。全てを破滅に導く厄災の前で、一人の王女がソレを見上げた。全ての剣を失い、ただ一人となっても人類の為に戦い────世界を滅ぼす厄災となった若き王だったモノ。

 

意思もなく、自我もなく、厄災に取り込まれた彼の王は、自らが作り仲間達の愛した国を、世界を、平等に星の光に呑み込んだ。

 

 

そして────新たな光景を、見た。

 

『────■■、愛してる』

 

『俺は、お前を殺す────■■■』

 

 

見知った青年が、その存在の前に対峙する。無数に蠢く海、眷属であろう海の魔物を率いる異形と化した少女。魔神として覚醒し、全ての命を呑み込んだ少女は最後の一人となった青年────世界を滅ぼしてでも救うと願った青年への愛を囁き、青年は悲痛そうな思いを噛み殺した上で、魔剣を抜き放った。

 

 

そして────更なる光景を、見た。

 

 

『────証明完了ッ!私は魔神を超える存在として、この世界へ返り咲いた!』

 

その世界では、ある魔神がその宿願を叶えてしまった。自らの求めた器を手に入れ、魔神として覚醒した■■■■■を止められず、世界は緩やかな終焉を迎えた。狂気に魅入られた魔神は滅び行くトータスの全てを眷属へと変え、他の魔神との戦争に打ち勝ち、滅びた世界を自らの実験所として利用し尽くす道を選んだ。

 

幾つもの悲劇的な光景を経て────一つの景色に至る。滅び迫る世界の中、無数の亡骸の山の上で一人佇む青年は────魔神に成ろうとしていた。全身にノイズの掛かった青年は、自らに言い聞かせるように告げた。

 

 

『使命を果たせ、■■────今度こそ、全てを取り戻すんだ』

 

────■■の王冠を手にし、失われた■を戻す力を。

 

 

◇◆◇

 

「菅原!咲夜は、咲夜は無事か!?」

 

「止血はしたけど、心臓が動いてない!このままじゃあ………っ!」

 

「諦めるなっ!心臓マッサージを止めずに繰り返せ!クロァーバルは、俺達が止めてる間に!!」

 

「清水の言う通り!皆、多少の無理をしてでもやるわよ!!」

 

 

一箇所に集まった優花達は陣形を保ち、ある一人を守るようにしてクロァーバルの猛攻に挑む。その馬に崩れ落ちた咲夜、全身の至る所を抉られ、心停止した咲夜の蘇生を繰り返す仲間を庇いながら優花達はそれでも諦めずに戦うことを選んだ。

 

 

『────ハハハハハハッ!!無駄な足掻きを!一人が死のうと戦意喪失せんか!それでこそ潰し甲斐があるというものよ!』

 

『か、艦長………』

 

『子供が………まだ、俺達よりも若いのに………』

 

 

高揚を抑えきれず、その光景を高らかと嘲笑うガレオン艦長。憎しみに支配された彼にとって優花達の抵抗は無意味なものにしか、滑稽なものにしか見えないのだろう。

 

しかしその一方、補佐をする為の魔人族の部下達は、その光景に圧倒され、困惑していた。彼等はまだ理性的だった。この戦いを、魔人族の正当性を勝ち取るための神聖なものだと信じていたのだろう。

 

────それが、まだ若い子供の命を、理不尽に奪い去るものであると、理解した彼等の思考に迷いが過るのは、当然だった。そんな自らの部下達の萎縮する様子を見たガレオンが、苛立たしそうに続けた。

 

 

『何を躊躇う?何を恐れる!?これは聖戦だ!我等魔人族の、奪われし者達の怒りと恨みに応えるための宿命なのだ!!』

 

『っ、艦長!ですが………』

 

『忘れるな!先に我等を害したのは奴等の方だ!種族の違いで、信ずる神の違いで、奴等を我等を弾劾し、断絶した!その差別の中、奴等は我等に多くの傷を植え付け、奪ってきた!バベルの悲劇も、そうだ!平和を愛したアクシア様を、奴等を無慈悲に冒涜し尽くした!その恨みを、その怒りを、人間族に返さなければならないッ!正義は常に、我等にあるのだッ!!』

 

 

心からそう信じ切ったように叫ぶガレオン。彼の脳裏には憎悪しかない。この戦争すらも、正当性のある復讐でしかないのだろう。文字通り戦争の狂気に呑まれた男のその言葉は、戦意の弱りかけた部下達を無理矢理従わせるには十分な気迫であった。

 

しかしガレオンのその主張に────一人、声を上げる者がいた。

 

 

「────なら何故、無関係である王国を襲う」

 

「っ、咲夜!?」

 

 

声を上げたのは、咲夜であった。

心臓マッサージをされていた瞬間、彼は突如として息を吹き返した。止血された全身のまま立ち上がった咲夜にとって、ガレオンの主張は聞き捨てならない────赦してはならない理屈だったからだ。

 

 

「何故、ハイリヒ王国を襲う?この国の人達が────今も奪われている彼等が、貴方達に何をした?」

 

『何を、だと?言ったはずだ、差別と迫害、弾圧ッ!貴様達は人間族は我等魔人族を否定し拒絶し、その優しさを踏み躙った!故に滅ぼすのだ!アクシア様の願いを、理想を奪い去った貴様達を────!』

 

「それは、この国がしたことのか!?この国で生きる人たちが、お前達の家族を、仲間を、大切な人を奪ったのか!?エリュシオン陛下達が、お前達の愛する人達を奪ったと、本当に言っているのかッ!!?」

 

 

咲夜の問いに、叫びに、ガレオン達は言葉を詰まらせた。苦々しく顔を歪めるガレオンを余所に、彼の部下達はハッとしたように顔を強張らせる。違和感として感じてきたしこりの正体が、その理由の一つが分かったことに、彼等は息もできない感覚に陥る。

 

よろける手で支える菅原を制し、一人で立ち上がった咲夜は「『■■』」と告げる。理解不能な言語であったが、彼はその意味を理解しているかのように流暢に呟いた。その瞬間、彼の全身から────黒白が生じた。

 

 

「もし、人間族だからと言う理由で復讐を謳うのならば────オレは貴方達を止めなければならない」

 

 

照らされる二つの入り混じる光の中から、岸上咲夜は姿を現す。その全身は賢者らしい法衣ではなく、黒と白が特徴的な正装へと変わっていた。片方は禍々しく赤黒さを秘めて蠢く結晶で構成された鎧を思わせる外套。反対側には肩から伸ばした純白のヴェールに覆われた神秘的な衣装。そして、左右の黒白の間にある正装────白と黒が混じり合うような存在感を感じさせない姿。

 

何より特徴的なのは、白と黒の魔力で構成された背中の光輪。一際大きなソレは十二本の結晶の槍────いや魔刃を展開していた。壊れた歯車の、或いは時を示すようなソレを背中に漂わせ、咲夜は隻眼を見開く。

 

その姿に、誰もが息を呑む。神秘的である以上に、絶対的な雰囲気の変化を感じざるを得ない。ただ一人、明確な反応を示したのは、その姿を目の当たりにしたガレオンであった。

 

 

『その、姿は………いや、馬鹿な………その魔力が、あるはずがないッ!貴様が、下等な人間ごときが、あの方と同じ魔法を使うなど!』

 

 

狼狽するガレオン、彼の知るその姿────その魔法は、心当たりがあった。だからこそ、拒絶してしまう。理解したくないと、納得したくない己がある。それ故に、ガレオンの意識は、今も尚憎悪に燃える炉心と共鳴した。

 

 

『こ、殺せ────ぇッ!!』

 

「『■■刻限(アルトマギア)────■■の針』」

 

 

呼応するが如く、触腕を解き放つクロァーバルに咲夜は短く詠唱を口にする。背中の魔法陣から放たれた白黒の魔刃が、一斉に触腕に突き立てられる。どれだけ攻撃してもダメージを与えられなかった金属の触腕へ突き刺さった結晶槍からその黒が広がっていき、クロァーバルの触腕を腐敗するように分解させていく。

 

 

「腕が、崩れて………」

 

「いや、消滅しているのか………?」

 

 

咲夜の変化した姿、それはかつて手にした禁書から読み解いた魔法を究めた先の姿。その魔法が有する能力をより完全に活かすための魔装体であると、咲夜は少なからず判断した。原理は不明、どれだけ調べてもどんな魔法かは定かでなかったが、一つだけ分かることがある────この力は、魔神にすら通用するものであると。

 

ただし、明確なのは────もう一つ。

 

 

「ッ────ヴ、ォェ………ッ!」

 

 

クロァーバルの触腕を破壊し、追撃に出たその瞬間、咲夜は血を吐いて膝を付いた。万物を対消滅させるほどの強力な魔力を扱う反面、その負担は咲夜の愛用する二つの魔法よりも大きい。通常時ならばある程度は持ち堪えられるが、今のように瀕死の状態である場合は、自らの命を削りかねない諸刃でもある。

 

(この姿は、本来であれば数十分は使える………が、今の状態では、もう限界か。ならば、オレの出せる手段は一つ────)

 

「────告げる、天の羅針盤。■■の理、我は■を■むモノ。我は■を戻すモノ、我は■を進めるモノ。我は、■を超克し、調停する者────■■せよ、永劫なる■■■。『アルティエナ・ペンタグラム』ッ!!!」

 

 

長い詠唱と共に、咲夜の背中の方陣が回転する。咲夜が決めた一手は、やはりゴリ押し。回転する方陣から解き放たれた十二本の槍が咲夜の掌へと魔力を収束させ、巨大なレーザー砲のように撃ち出した。

 

その攻撃に、クロァーバルは迎撃の意図を示した魔力砲で撃ち返す。威力は最大中の最大。咲夜の放つ魔法、その極光をマトモに受ければ、炉心そのものが浄化されることを理解した上での、最大級の警戒と敵意がそこにあった。

 

魔力と魔力の撃ち合い。

二つの光が衝突し合い、弾かれ合う。圧倒的なエネルギー量の奔流に咲夜の足が仰け反る。それでも踏ん張りながら、咲夜は口を開く。

 

 

「────お前達の憎悪と怒り、俺には分からない。だが、奪われた時の悲しみは、何もできなかった自分への怒りだけはよく分かる」

 

かつての自分もそうだった、と咲夜は奈落での出来事を思い出す。魔王との戦いの最中、落ち行く友人を助けられなかった。その後悔と絶望は、咲夜の心を砕きかねない一撃であり、重圧に押し潰れそうな彼の心にとって致命的な傷となった。

 

だが、それだけではなかった────世界は、絶望だけではないと、教えてくれる彼等は、仲間はいるのだ。

 

 

「だからこそ、『アレ』には従ってはいけない!『アレ』は、貴方達の事を考えてはいない!ただ自らの、憎悪という名の本能を満たしたいだけだ!『アレ』は、『戦乱の魔神』────貴方達の神じゃないッ!!」

 

『…………ッ!』

 

「偽善だと、戯言だと切って捨ててくれて構わない!ただ、立ち止まって考えてくれ!自分達のしている事が、本当に正義であるか!それだけは見極めてくれよッ!お願いだッ!!」

 

 

必死に、咲夜はそう叫び語り掛ける。

自分が正しいことをしていると、正義だと言い切る気はない。ただ、誰かを助ける行為が間違いではないということだけは分かっている。それはきっと、彼等も同じであるはずだ。魔人族と呼ばれ、区別されてきても────彼等は同じ人間であり、心を持っている。

 

そんな咲夜の悲鳴に、失笑が漏れる。黙って聞いていた魔人族達に見向きもせずに、艦長のガレオンが吹き出すように笑い出したのだ。

 

 

『下らん!何を言い出すかと思えば、所詮は子供の戯言!お望み通り炉心の光を以て灼き尽くされるが……………お前達?』

 

『…………艦長、炉心を止めてください』

 

『何を、している?その手は何だ?何故私に手を向ける?────まさか、あんな子供の言葉に乗せられたというのかっ!?』

 

 

しかし、ガレオンはすぐに動揺を顕にした。側にいた部下達は、あろうことかガレオンを止めようと魔法を発動する構えを取っていた。炉心の影響を、『魔神』の狂気を浴びたガレオンは理解できぬと言わんばかりに怒鳴り散らす。

 

 

『………胸に手を当てて考えました。我々は、こんな事をすべきではないと』

 

『何を、馬鹿な………!お前達は忘れたというのか!?我々は常に奪われ続けてきたのだ!奴等が、人間族がそうしてきた!その屈辱を!その怒りを、憎しみを晴らさねばならぬと、何故分からんッ!?』

 

『出来ません………私には、私達は、奴等と同じようにはなれません』

 

『このッ────敗北者どもがッ!!』

 

 

ガレオンの決死の呼び掛けにも、彼等は従えなかった。遂に苛立ちが限界に至ったガレオンが腰から抜いたアーティファクトで攻撃を繰り出そうとした瞬間、魔法の着弾する音が響き渡る。その瞬間、艦長の支配下にあったクロァーバルが一瞬だけ身を強張らせ────すぐさま活性化した。

 

 

【■■■■■■ッ!!】

 

「っ!出力が、負ける…………!」

 

 

制御下から逃れたからか、クロァーバルの放つ魔力砲の勢いが更に増していく。両手で構え、魔力砲を放つ咲夜が一気に後ろに下がっていき、両手から血が滲む。限界か、と悔しそうに彼が唇を噛み締めるその瞬間────不意に、何かがあった。背中に、複数の気配が。

 

 

「ぉおおおおおッ!」

 

「頑張れ!頑張れぇ委員長ぉ!!」

 

「言ったろ!俺達がついてるって、だから前だけ見ててくれよ!」

 

「咲夜!俺はお前がいたからここまで来れたんだ!だからせめて、お前の支えになってみせる!」

 

「────だから勝って!咲夜ッ!!」

 

 

咲夜の背に集まる、優花達。彼等は必死に互いの手を掴み、張り付くように自分達をその場に縫い止める。それによって、咲夜は踏ん張りに意識を集中させる必要もなくなった。穏やかに、彼は笑う。そして、

 

 

(ありがとう、皆────)

 

「お、おおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

 

足の固定、他のバランス集中に要していた魔力を一気に掌に収束させる。背中を預け、咲夜は喉の奥から張り裂けんばかりの声と共に魔力砲を解放する。止血したはずの片側の眼窩から血が噴き出す。それでも咲夜は背中にいる仲間たちに支えられながら、極光を解き放つ。

 

そして、ガラスの砕け散る破砕音と共に────魔力炉そのものてある眷属が、音もなく結晶に呑まれ、無力化された。

 

 

◇◆◇

 

そして、西部の結界塔前の大広間にて。

魔王クレイドとイガル・ハヤテの剣戟は、十分近くの激戦であった。しかしそれは、今まで見てきた戦いの次元を────遥かに超えていた。

 

 

「どォした魔王!?まさかこの程度で終わりじゃあ、ねぇよなぁッ!!?」

 

「ほざけッ!」

 

 

二刀流によるサーベルの剣戟を繰り出すハヤテ。目に見えぬ速度で放たれる斬撃の数々が、クレイドの操る無数の触手と竜頭を斬り刻んでいく。無限にも匹敵する剣戟を前に、光輝たちは息を呑むことすら忘れていた。

 

 

「────なぁ、剣城。見えるか?」

 

「辛うじて。神眼であるこの眼が捉えられぬ物はないと自負していたが、ここまでとはな」

 

 

折れ砕ける刀身を鞘に仕舞い、即座に綺麗に戻った刀身を抜き放つハヤテ。一呼吸置いて後退したハヤテとクレイドが睨み合う。不意にクレイドが光輝達を一瞥し、何かを察したように口元を緩める。

 

 

「『星砕き』、かつて災厄を打ち払った星剣は振るわぬか」

 

「あァ?」

 

「抜く筈も、抜ける筈もあるまい。その一振りは破壊の力、一度振るえば周辺すらも灰燼に帰すだろう。もしそうならば、貴様の庇護する勇者達も、無事では済むまい」

 

「ハッ!抜く価値もねぇよ魔王。大魔王でもねぇ木っ端風情が、抜くまでもなく刻んでやろうかッ!」

 

 

冷徹に、見抜くようにそう告げる魔王の言葉に、ハヤテは舌打ちを顕にした。彼の態度から見ても、図星なのは明白。その場にいる全員が、自分達のせいでハヤテが本気を出せないということを理解させられた。

 

どうすればいいのか、悔しそうに光輝は思案する。自分が出て勝てるなどと思い上がったつもりはない。下手に動けば、それこそハヤテの足を引っ張る形になる。ハヤテの力になる為には、彼の負担にならないようにする為には、どうすればいいか。

 

 

「………光輝くん、皆!聞いて!」

 

「恵里?一体どうしたんだ?」

 

「今、アルマさんが結界塔の扉を解除してくれたみたい。今なら中に入れるから…………そこに避難するべきだと思うの。扉を閉じさえすれば、きっと魔王も手出しできないはずだから」

 

 

恵里が指し示すように、アルマは操作盤を使って結界塔の扉を開けられるようにしたらしい。鋼鉄の扉は特殊な魔力で防御されているらしく、あの魔王の子供たちもその扉を突破できずにいたレベルだ。今、魔王はハヤテと対峙して動けない────自分達が距離を取れば、ハヤテは何とか自由に立ち回れるはずだ。

 

恵里からの提案を受け、光輝は静かに決意する。

 

 

「分かった────一先ず避難しよう」

 

 

そう言って、光輝達は急いでその場から離れる。避難を始める光輝たちを見たアルマは「待たせたね、早く入って!」といいながら鋼鉄の扉を開く。扉の開いた瞬間に、駆け込んでいくクラスメイトたち。その轟音に気付いたハヤテが振り返り────顔を強張らせた。

 

 

「ッ!?扉が開いた!?一体誰が────待て、ッ!?」

 

「余所見をする余裕はあるか、『神速剣』」

 

「チッ!アレもテメェの仕業か!?魔王ォ!!」

 

「何のことだか」

 

 

閉まりゆく扉に消えていく光輝たちの背に、ハヤテは思わず叫ぶ。理論上その扉が開くことはない────この緊急時、王国が攻め込まれている状況下で。それが何を意味するか理解したハヤテは魔王クレイドに詰め寄るが、当の魔王は素知らぬ様子に変わりなかった。

 

無論、結界塔の中へと入り込んだ光輝達は、その事を知る由もなかった。

 

 

「…………はぁッ、はぁッ」

 

「みんな、取り敢えず身体を休ませて…………一先ずここで落ち着こう」

 

 

一段落ついたことで、クラスメイトの大半がその場に崩れ落ちるように息を吐き出す。魔王と対峙した彼等は久々に味わった感覚、そして激戦の疲れがドッと湧いてきたのだろう。興毅を含めた全員が、暗いその空間の中で気を休める。

 

同じく、雫と雨音も一呼吸置きながらも周りを見渡す。明かりが点いていない為か周囲は薄暗い環境であり、全体がどのようになっているのかすら把握できず、何処か不安を感じさせる。

 

 

(…………静か過ぎる。この感覚、何か可笑しい)

 

「………八重樫、菊菜。警戒を」

 

「剣城………何か見える?」

 

「見えないな。だが、明らかに可笑しい────何かいる」

 

 

白雪剣城が弓を構え、静かに矢を構える。少なくとも、周りの暗闇に何かの気配を察知したのであろう。彼の行動に、雫と雨音が続く。黒刀を握り締め、扇子を構えた二人の少女。二人の様子を目尻に捉えた剣城が────誰よりも早く動いた。

 

 

「────全員!警戒態勢ッ!!」

 

 

パァン!と、上空に打ち上げた矢が光を帯びて破裂する。閃光弾の効果を秘めるその矢が周囲の暗闇を照らし出し、辺り一帯を明るみに照らし出す。突然の事に驚きながらも、訓練によって鍛えられた光輝達は驚きながらも即座に反応を示す。

 

その、瞬間だった。

 

 

【────】

 

足元の地面から、這い出るように浮かび上がる虚像の数々。ソレは軍服を身に纏った華奢な少女の兵士のようであった。両手に様々な武器を纏う彼女達に顔はない。渦巻くような虚無の顔を秘める彼女達は、小さな光点を瞳のように輝かせ、突如として彼等に襲い掛かる。

 

 

「な、なん────あぐッ!?」

 

「コイツら!一体何処から────うがぁ!」

 

「きゃああッ!?」

 

 

数十体の虚像、少女兵の突撃に油断していたクラスメイト達は一気に瓦解する。いや、それだけではなかった。警戒をして戦っていく彼等だが、虚像は攻撃をものともせず、物量に身を任せて全員を制圧していく。

 

悲鳴が響き渡る戦場に、雫や雨音は兎に角自らの身を守ることしか出来ない。それは、剣城も同じであった。

 

 

「────攻撃が効かない………実体がないのか!?ならばッ!」

 

「ああっ!?」

 

「う、あッ……!」

 

「!?流美!冬弥!お前た────ぐあッ!?」

 

 

俊敏に立ち回り、矢の雨を浴びせる剣城。しかし大してダメージを受けてないことで出方を変えようとしたその瞬間、彼の大切な友人達が少女兵の刃に倒れる。血を流し地面に転がった彼等の悲鳴を聞いた剣城の意識が逸れた途端に、少女兵が剣城に一太刀を浴びせた。

 

 

「皆!?くそぉ────っ!?」

 

 

少女兵と打ち合っていた光輝は未だに響き渡る悲鳴の数々に顔を歪め、力一杯に聖剣を振りかざす。持てる限りの力で全員を守ろうと少女兵を吹き飛ばそうとしたその斬撃は────意図せず滑り込んできた刃によって、阻止された。

 

静かに入り込んだ刃が、光輝の首の皮一枚を軽く切り裂く。驚きのあまり動揺した光輝が詠唱を止めた直後、全身から力が抜けるように崩れ落ちた。その事への疑問もあったが、光輝の困惑は刃を振るった相手に向けられていた。

 

 

「アルマ、さん………?何で────」

 

「即効性の毒だよ。致死性は抜いて麻痺に特化させてるから死にはしないさ。………悪いね、君は殺すなと、彼女から言い聞かされてる」

 

小指に嵌めたナイフをクルクルと手で回しながら、温厚な青年冒険者 アルマ・ソラが膝を付いた光輝へと笑い掛ける。抵抗しようにも、マトモに手足が動かない。そんな光輝を見下ろしながら、アルマは不意に未だ戦い続ける雫たちを見た。

 

 

「っ!このままじゃ………!」

 

「きゃああッ!?」

 

「鈴っ!?」

 

「────っ!恵里!」

 

 

圧倒されていく状況に歯噛みしていた雫は、その悲鳴を聞き逃さなかった。親友である鈴が少女兵に襲われ、恵里は魔法を唱えて阻止しようとするが、その背後から少女兵が近付きつつあった。それに気付いた雫は黒刀『月光』を抜き放ち、その魔剣の一撃を少女兵に浴びせた。

 

 

「雫ちゃん………あ、ありがとう」

 

「礼は後でいいわ。それより、鈴を連れて離れてて。安全な場所で守り通すから────」

 

「本当にありがとう────雫」

 

 

何とかギリギリ恵里を助けられた雫は目の前に集まる少女兵達へ警戒しながら、彼女の前に立つ。『月光』を居合の構えのように握った彼女だったが、不意に背中に鈍い痛みを感じた。振り向いた彼女が見たのは────背中に短刀を突き立てた、恵里の姿であった。

 

 

「恵、里………?どう、して………」

 

「仕方ないじゃん。その子達じゃあ雫を止められないんだから………下手に時間をかけたら、『先生』の手を煩わせちゃうし」

 

 

倒れた雫が立ち上がろうとするのを、少女兵が阻止する。地面に組み伏せられた雫は血を滲ませながら困惑したように恵里へと問い掛けた。しかし彼女はいつものような気の弱い様子ではなく、どこか平然としながら雫の言葉に応えた。

 

少女兵を従えた彼女は、ナイフを振り回していたアルマの側に近付く。

 

 

「ねー、アルマ。光輝くんは無事だよね?」

 

「薄皮一枚に留めといたよ。ボクの手腕を褒めて欲しいもんだね」

 

「うん、ありがとねー…………は?ちょっと、僕の光輝くんの首に傷できてんじゃん。何処が無事なんだよヘタクソ」

 

「情緒不安定か?ボク、仮にも非戦闘職だよ?勇者相手に無力化できた健闘を祝ってくれないの?」

 

 

飄々とするアルマ相手に、恵里は眼鏡を外して毒舌を顕にする。当のアルマは酷いなぁ、と眼鏡を押し上げて適当に聞いてる様子だ。あまりの事に、誰もが困惑した視線を向けることしかできない。まるでこの二人が、この事態を引き起こしたかのように見えて、更に困惑は深まっていた。

 

 

「────二人とも、よくやってくれたね」

 

 

そんな最中、突如として声が響き渡る。不意に響いたその声に、アルマと恵里の二人が反応を示した。「「先生!」」、と。

 

その瞬間、周囲から黒い影が蠢き始める。無数の生命体の集まりのように蠢く影から現れたのは、一人の女性であった。あまりにも美し過ぎる、魅力的な姿の美女。しかしその穏やかであるはずの笑顔は、何処か邪悪な悪意に満ち溢れたものにしか見えない。

 

 

「あぁ、忘れた。この姿じゃなくて、いつもの姿に戻らないとね」

 

女神を思わせるような女性はそう言ったかと思えば、無数に蠢く影に呑まれた。まるで別の衣を纏うかのように、いや────本来の姿に戻るかのように、黒い影は女性の姿を、一人の男のものへと変えた。

 

 

「────さて、勇者含めた一同(モルモット)諸君。改めまして、私の実験場へようこそ。

 

 

 

私の名は、ファウスト。私が何者であるか、君達にとって何であるか、説明は不要だろう?」

 

 

世界を簡単に導く、魔神の一柱。魔神の中で誰よりも弱く、従える配下もいない。そして、魔神の中でも最も狡猾で悪辣な存在。光輝たちは知らない、自分達がいつの間にか────『混沌の魔神』の腹の中に、彼の手の中に収まっていることを。

 

狂気に満ちた男の不敵な笑みに、誰もが畏れる以外なかった。




割と詰め込みすぎた最新話、公開です。

咲夜の持つ禁忌の魔法、その一端が明らかになりました。全貌はまだ不明ですが、下手すれば魔神にすら届き得る究極の魔法。その魔法で生成した槍はあらゆる物質を消滅させるほどの力を持ってます。

そして、原作通りに裏切った恵里はファウストと結託してました。同じく協力していたアルマもいたのと、思ったよりも仲良くなってるという事実。

お気に入りや感想、評価なども是非ともよろしくお願いします!次回もお楽しみくださいませ!それでは!!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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