「咲夜………無理をしないで、今は休まないと」
「いや、まだ動ける…………それより、早くメインルームに向かわないと」
玉井や菅原に支えられながら歩く咲夜、全身の傷を止血しただけであり重傷であるはずの彼は仲間達と共にメインルームへと向かおうとしていた。彼等のすべきこと、それはこの巨大戦艦エルヴァルガンドゥを着陸させることだ。
炉心を失った巨船の魔力が尽きれば、墜落は免れないだろう。だがそんな事をすれば地上に大きな被害が出る。これどけの質量が落ちれば、周辺の町や近隣への被害は計り知れない。人気の無い場所に着陸させるだけの魔力はまだ残っているはずだ。
一方、メインルームへと向かう咲夜達とは対象的に、若き魔人族の兵士は戦艦からの離脱を始めていた。
「あの賢者一行、方舟の墜落を阻止するつもりか」
「なら任せておくべきだ。俺達は急いでここから離れよう…………大魔王様に罰せられるのは間違いないけどな」
「艦長を討ったのは俺だ。お前達に非はない」
部下達の呼び掛けにも聞かず、艦長のガレオンは凶行に走ろうとしていた。それが魔人族にとって正義かもしれないが、少なくとも彼等にはそうする正しさが分からなかった。ただひたすらに救おうと足掻く賢者の叫びを聞いたその時、何が正しかったのか、彼等には分からなかった。
「………あれ?」
「?どうした?」
「そういや、ガレオン艦長は?一応撃ったけど、連れてくる予定だろ?」
「…………?お前じゃなかったのか?俺はてっきり………」
そのまま離脱しようとした彼等だったが、艦長であるガレオンも生きたまま連れてくるつもりだった。流石に敵の前に捨て置くほど薄情ではない。しかし先程まで背負っていたはずの男の姿はなかった。代わりに、点々と続く血の痕跡が先程の道にまで続いて────、
直後、方舟そのものが大きく揺れた。
「な、なんだッ!?」
「船が、動いている!?だが、この動きは着陸ではないッ!」
「────艦長。貴方は、貴方はそこまで!?」
困惑する彼等を尻目に、副艦長である男はそれが誰による行為か、何を目的としたのものかを全て理解した、出来てしまった。動き出した巨大な戦艦エルヴァルガンドゥの方舟の術式砲が狙いを定める────結界に守られたハイリヒ王国へと。
◇◆◇
「ファウスト………それって、確か」
「『魔神連合』の、一柱の魔神ッ…………確か、ウルの町で岸上達が出会った奴か…………!」
無機質な顔のない少女兵に組み伏せられた雫と剣城が、ファウストという名を思い出し、顔を強張らせる。人類を滅ぼそうとする『魔神連合』の一角、『混沌の魔神』。清水を唆し、脅し、洗脳して仲違いさせた上で始末しようとした狡猾な魔神であることは、咲夜の手紙から認知している。
「理解しているのならば、話が早いね。そして、自らが蜘蛛の巣に囚われた虫である自覚ができたかな?」
「ふふふっ、光輝くんまだ分からなそうな顔してるね〜。そんな光輝くんもカッコいいなぁ────わっ、と」
「ストップ。まだ駄目だよ、恵里ちゃん」
ユラユラと身体を揺らして光輝に近付こうとした恵里を、ファウストは片手で止める。肩を掴まれた恵里は不機嫌というよりは子供らしく、頬を膨らませて不満を吐露した。
「えー、先生。まだ僕何もしてないじゃん」
「どうせキスする気でしょ?唇と唇を重ねて、舌を絡めるエグいヤツ。まだ君には早い、そういうの先生許しませんよっ!!」
「………偉い過保護だな。この先生」
明らかに不服そうな恵里に、ファウストはそれだけは許さんと言わんばかりにウガーっと感情を顕にする。眼鏡を押し上げながら呆れたように肩を竦めるアルマのジト目を浴びながらも、ファウストはすぐに演技を止めて不敵に笑いかけた。
「まぁせめて思い通りにできるようにしてから好きにすればいいさ。彼にはまだ、勇者として働いてもらうつもりだからね」
「ちぇっ、先生のケチ。まぁいいや、楽しみは取っておいたほうがいいって言うし…………ごめんねー、光輝くん。後でいっぱい、いーっぱい愛し合おうねぇ〜」
「どういう、ことなんだ…………?恵里、なんで君が………ファウストと、一緒に…………まるで」
「まるで、仲間みたいにって?光輝くんもウブだなぁ、そこが好きなんだけどね────見た通りだよ、僕はこの人の………ファウストの仲間、っていうか教え子になったんだ」
あっけらかんとそう語る恵里に、剣城以外の全員が唖然とする。理解できないと言わんばかりに困惑するのは、光輝や雫、雨音でも同じであった。ただ一人、動揺を表さなさい剣城だけは、恵里が何かを隠していることを察していたらしい。流石の彼も、ここまで狂気染みたものだと思ってはなかったが。
「なんでって、見れば分かるでしょ?僕は光輝くんが好きなの、光輝くんが欲しかったの。その為に必要な事をした、先生が手を貸してくれたからね」
「………光輝が好きなら、告白でもすれば………こんな事は…………」
「────駄目だよ、ダメダーメ。告白なんて駄目なんだよ。光輝くんは優しいから特別なんて作れないんだ。どれだけ思いを伝えても、周りの連中が価値のないゴミ共ばかりでも見捨てられないくらい甘いんだよ?優しさも時には罪ってもんだよねー」
いつものような大人しさが欠片もなくなった恵里の侮蔑と嘲笑に満ちた笑みに、雫は閉口するしかない。それは他の皆も同じだった。あまりにも異様な恵里の変化に、誰もが困惑ながらも呆然としてしまう。
「この世界に来た時は喜んだ反面、ヒヤヒヤさせられたよ。光輝くんが魔王とか魔神に殺されないかって不安でマトモに寝れなかったけど、そんな時に先生に声を掛けてもらったのさ」
『────中村恵里だね?見れば分かるよ、君の精神。他人を何とも思わない、ただ一人だけに向ける情念。その為ならば殺しすら辞さない狂気に満ちた理性。実に素晴らしい────私と共に来るのならば、君の望みを叶えてあげよう』
「最初は打算で利用し抜いてやろうと思ってたんだよ?胡散臭かったし…………でもさぁ、先生意外といい人でさぁ。何と言うか、父性ってやつを感じたみたいでね。マジに慕っちゃって弟子入りしちゃったんだよね〜、光輝くんに次いでの運命の出会いって感じかな?」
「────色々とショックな話も出てきたけど、父性ってのは悪くないね」
そこは恵里も予想外だったらしいが、利用しようと近付いたファウストとまさかの意気投合してしまったということ。目的の為ならば他人を平気で切り捨てられる性格にシンパシーを感じたのか、或いはそれ以外の私的な事情があったのか。それは二人も分からないのかもしれない。
「先生のお陰で色々と僕も成長できてさぁ。降霊術を死ぬほど鍛えさせられたけど、その代わりにこんな玩具までくれるなんて、先生ったら太っ腹だよねぇ〜」
「玩具?まさか、この人達のことを………!」
「────この人達?ノンノン、違うよ。八重樫雫、彼女達は君の定義する人間じゃあないし、生物ですらない────彼女達は文字通り『物』なのさ」
無機質な人形兵、顔のない少女達を従える恵里に顔を強張らせた雫だが、それに応えたのはファウストであった。まるで自身の成果物を披露するように、彼は声音を弾ませながら語り出す。
「君達も分かっているはずだ。彼女達にどれだけダメージを与えても、殺せはしないとね。生命がないのは殺せない。当然の帰結だ」
「…………、生命がない?」
「かつてある世界で観測した魔神のパターンから模倣した特殊な眷属だよ。元々は一人の少女をベースにして作ったものでね。生命を失った肉体を起点に、擬似的な降霊術をシステムとして展開した無数に分散させたアバターに転写する。そうして、不死の人形兵とする訳だ。いやぁ、こんな面白いものを作れたのも、恵里ちゃんのおかげだよ」
要するに、バグということだろう。生命を持たぬ幽体を利用し、無尽蔵の兵士として利用する外法。これを可能とさせたのは、他ならぬファウストの知識と恵里の才能があってのものだった。だが、それを認められない者が、この場には他にもいた。
「う、嘘だ………嘘だよっ!エリリンが、恵里がこんなこと、するわけ────そうだ!その人に操られてるだけなんだよっ!恵里、目を覚ましてっ!」
「…………せんせー」
「あー、うん。分かってるよ、一人ならいい。誰にするかは、私が決めよう」
地面に組み伏せられていた一人、谷口鈴が必死に声を上げる。恵里と親友であった彼女は、恵里の変心を受け止めきれなかった。だからこそ、ファウストに利用されてるだけだと、元に戻ってと叫ぶが、そんな鈴の目を見た恵里はにんまりと笑いながらファウストに語り掛ける。
ファウストは欠伸を噛み殺しながら、その場にいる全員を指差していく。
「だー、れー、にー、しー、よー、うー、かー、なー………もう面倒くさいから────まぁ、君でいいや」
「…………え────」
退屈そうに途中で辞めたファウストが、ゆっくりとしゃがみ込む。目の前に男が現れたことに────近藤礼一は怯えた様子を隠し切れない。不敵に笑ったファウストの笑みに強張った喉を震わせようとした次の瞬間、近藤の腹を剣が貫いた。
「あ、が────え、えっ……?」
「恵里っ!?止めろ、止めるんだ!!」
「────近藤ぉ!」
「恵里!てめぇッ!!止めろぉ!!」
「た、助け────ぎ、がぁ………あがぁあッ!!?」
少女兵────ファウストの作品であり恵里の眷属である『
返り血を浴びたファウストはそんな近藤を嘲笑うかのように見下ろし、恵里に困ったように笑い掛ける。
「あーあ、可哀想に。腹を一突きしてグチャグチャにするなんて、彼のステータスじゃあ楽には死ねないよ?」
「えー、何言ってんのさー。さっきの指パッチンって殺すなって合図でしょ?先生がやらせといてそれは酷いじゃ~ん」
そりゃそうだけども、と言いながら血溜まりの中でもがき苦しむ近藤の前で返り血を払うファウスト。親しげにクラスメイトの一人を瀕死に追い込んだ親友の姿に、鈴は愕然と、震えるしかなかった。
「え、恵里………なん、で………」
「ねぇ、鈴。日本でもこっちでも、光輝くんの傍にいるのに君はとっても便利だったよ」
「………え?」
「ほら、光輝くんの傍にいるのは雫や香織って空気が蔓延しちゃうじゃん?それに光輝くんや他の奴等の前では猫被っとかないといけないし、光輝くんに積極的に近づけないんだよね。でもさ、鈴が能天気丸出しで馬鹿みたいに明るいおかげで、光輝くんと一緒にいられることが多かったし、その点は感謝してるんだ!だからこの場で言っとくね────僕の親友でいてくれて、ありがとうね?」
「う、ぁ…………ッ」
気さくに、心の底から嘲笑うような満面の笑みを向ける恵里に、鈴は涙を流して声を震わせる。信じていたものが、最初から何一つなかったと思わせるような事実に、彼女の心が折れたのは明白だった。
雫や雨音が、その非道に怒りを叫ぶ。しかし、恵里はそれを歯牙にもかけず、ニタニタと愉快そうに口元を緩めて笑っていた。一方、彼女の行いにドン引きしているのは、何もクラスメイト達だけではなかった。
「うわぁ…………仮にも親友相手にあんなこと普通言うかね。ヤンデレ以上にサイコだね。厄介な目に遭って、あの娘にも同情するよ」
「おや、意外だね。君に他者を労り心配する感情があるとは。私の協力者になった時点で、全てを利用すると宣言していたはずだが」
「えぇ、その事に嘘偽りはありませんよ。ですがまあ、他人を踏み台にして、それをわざわざ暴露して嘲笑うほど性格悪くありませんよ────それと、さっきから彼、虫の息ですけど、殺さないんですか?」
「まるで私達が性格悪いみたいな言い方じゃないか…………おっと、そうだった。相変わらず、価値のないものを忘れてしまうのも、悪い癖だ」
明らかに引いてるアルマが指し示したのは、ファウストの前で血溜まりに倒れる近藤である。腹をかき混ぜられた彼は常人よりも高いステータスのせいで、簡単に死ねない。ひゅーっ、と掠れた呼吸を繰り返し、血の滲んだ声を零し続けていた。
「い、やだ………やだ………死に、死にたく、ないッ」
「────助けて欲しいかい?」
「ぁ…………た、助けでっ………だす、げでぇ………」
「いいよ。助けてあげよう────コレに耐えられたらの話だけど」
近藤の前に座り込んだファウストが、人さし指を垂らす。兎に角目の前の蜘蛛の糸に縋るしかなかった近藤が頷いたその瞬間、ファウストの人さし指の肉が裂けたかと思えば、黒い液体が血の池に落ちる。
────ドグンッ、と血の池に波紋が生じた瞬間、近藤に変化が生じた。
「い、ぎ──────あがぁぁァぁあえあああああアアアアアッッ!!!?」
「────魔神の有する肉体を構成する魔神因子。あらゆる物質や生体を変質、変貌させる性質を秘める特異の細胞。たとえ一滴でも人体が取り込めば、変質と変性を遂げる」
突如、腹を抱えていた近藤の身体が跳ねる。
全身の血管が黒く変色し、瞳孔が異様に膨れ上がっていく。魔神であるファウストの力の一端、魔神因子と呼ばれる細胞を体内に流し込まれた近藤の腹の傷が綺麗に塞がっていく。クラスメイト達が、彼の友人が必死に名を呼びかけ続ける。その中で傷が塞がった近藤を見たファウストが「おぉ」と期待に満ちた声を上げたかと思えば、すぐさま落胆を顕にした。
近藤の姿が、膨張していく。全身が膨れ上がり、そこから無数の獣のなり損ないのような異形が生え出していき、辛うじて息のある近藤は、声すら上げられずに膝を付いた。
「やっぱり駄目か。そこらの人間じゃあ魔神への適性はおろか耐性もない。原住民よりもいい線はいってたんだけどねぇ────ま、廃棄処分かな」
つまらなさそうに評価を下したファウストが指を鳴らした直後、近藤の足元から生えた黒い液体の刃が、彼を切り刻んだ。一瞬にして生命を弄ばれた上で奪われた近藤は、その遺体も残さずに、ファウストの黒い闇の中に蠢く魔獣の群れに取り込まれた。
その光景に、誰もが言葉を出せない。
あまりにも狂っている。光輝のためなら平気で他人を害せる恵里とは違って、ファウストは己の望むがままに人の生命を冒涜し、利用し尽くしていた。その姿は余りにも普通の人間に見えて、精神性は狂気そのものであった。
「────ああ、すまない。私としたことが、肝心のショーの存在を忘れるところだった」
「肝心の、ショー?」
「ハイリヒ王国を舞台にした、最ッ高の実験を始めようと思っていててね。丁度、君の仲間にも参加してもらうつもりだから、君達も観客として盛り上げてくれると助かるよ」
そう言って、ファウストは高らかと声を響かせる。指を鳴らすと、空高くの空間にホログラム状のモニターが展開される。そこに映し出される光景────エルヴァルガンドゥの方舟を照らし出したファウストは振り向いて、理解が追い付かない光輝たちへと不敵に問い掛けた。
「それでは諸君、心理テストの時間だ────『トロッコ問題』というものを知っているかい?」
◇◆◇
エルヴァルガンドゥの方舟、制御室にて。
操縦していた魔人族の大半が離脱したその制御室で、ただ一人の男が操作盤を叩いていた。身体から血を流しながら、狂ったような目で。
「────戦いを、聖戦を止めるなど………愚か者、どもめ」
部下から無力化されたはずの艦長 ガレオンはその手から抜け出し、エルヴァルガンドゥの方舟を動かしていた。血走った眼差しで操作盤を叩く彼は術式砲メギドの照準を、ハイリヒ王国へと固定する。
彼にとって、王国に何かを奪われたわけでもない。にも関わらず、それだけの憎悪を抱くのは─────一つの後悔と、絶望にあった。
『────この船は、人間族との融和を掲げる為の船。きっと多くの幸せと希望を運んでいくことになると思うわ。人間族と魔人族、互いに手を取り合える平和の世界の架け橋となるために』
『それでは、私がこの船の乗り手として────貴方様を乗せることを、約束しましょう。アクシア様』
かつてこの方舟が平和的に利用される為の準備期間の最中、一魔人族の軍人であったガレオンは彼女から艦長の任を預かった。他ならぬ魔人族の巫女であり、女神とされたアクシア・ライングレイドから。
初任務であり、ガレオンはアクシアに告げた約束を叶えることを楽しみにしていた。あの方が心から笑えるその日を信じ、努力し続けた彼に待っていたのは────敬愛するアクシアの死であった。
『アクシア様、何故貴女がこんな目に遭わねばならなかったのです…………!?誰にも優しく、慈悲深く、光同然であった貴女が!この暗く闇に満ちた地に、大魔王様と共に光をもたらした、貴女様が!』
『人間族……人間どもめッ、よくも、よくもアクシア様をっ!我等の光を、我等の巫女を、我等の女神を!許さぬ!赦さぬっ!赦しはせぬッ!!この恨み、この憎しみ!貴様らを滅ぼし尽くすまで収まりはせぬっ!!』
あの時から、流れ出る血涙と共にガレオンは誓った。
アクシアの、アルヴァーンの願いであった和平を踏みにじった愚かな人間達への報復を。復讐だけでは収まりはしない、と。彼等を一人残らず殺し尽くし、この地から消し去るまで、この憎悪は途絶えることを知らないと。
「この方舟を、捨てるだと!?私が、捨てると!?馬鹿馬鹿しい!私は、任されたのだ!この方舟を、エルヴァルガンドゥを!私が死ぬ時は、エルヴァルガンドゥが沈む時!この方舟が墜ちる時は、私も共に死ぬのだッ!!
────だが、ただでは死なぬッ!!一人でも多く、人間族を道連れにする!!ハイリヒ王国を、滅ぼしてぇッ!!」
狂気に当てられるままに、ガレオンは操作盤を勢いよく叩き付けた。ドゴォンッ!と爆音を響かせるような勢いで振るわれた拳は操作盤に光を灯し、制御室全体にアラートのような警報音を響かせた。
「ひ、ひはははははッ!やった、やった!もう終わりだ!止められない!皆殺しだ!王国の奴ら、一人残らず皆殺しぃ────は」
今度こそ止められない、そう叫び笑い始めたガレオンの背中に投げナイフが刺さった。既に瀕死であったガレオンにとって、それは致命の一撃となったらしく、そのナイフを受けたガレオンは操作盤の前で崩れ落ちた。
「間に、合った!?」
「────いや、間に合わなかったか」
投げナイフを放った優花は自らの手で相手を殺したことに動揺はありながらも、すぐに気丈に振る舞った。しかし、あと一歩で及ばなかった。必死に駆けつけた彼等の前に警報の鳴り響く制御室があり、操作盤を操った咲夜はそのモニターが示す文字に顔を強張らせる。
「────術式砲メギド、発射まであと十分………ッ!?狙いは、やはりハイリヒ王国か!」
「そんなっ!止められないの!?」
「…………無理だ!何故だか分からないが、操作できない!このままだと、どうすれば────ッ!」
端末を操作する咲夜だが、此方からの干渉を受け付けないように端末はロックされていた。まるでこの事を予知していたかのように。神山を滅ぼした破滅の光が王国を滅ぼすまで残り十分を切った、焦りを顕にする優花達と共に咲夜の思考も不安と焦りに蝕まれ始めていた。
(考えろ!咲夜!岸上咲夜!お前は賢者だ!仮にも、曲がりなりにもリーダーだろ!?最適かつ誰も犠牲にしない方法はないとしても、少なくとも出来る限り犠牲を減らすことのできる────────あ)
あった。
今の状況で、最善の手を。王国を守り切った上で、自分達も生き残れる唯一の方法を。彼の脳が、その思考を、答えを出せてしまった。────『皆』を守れる、ただ一つだけの方法を。
「みんな、聞いてくれ────俺に考えがある」
ポツポツと、咲夜は語り出す。『みんな』を守り切れる、『皆』が生き残れる最大限の作戦を。
「────動力炉を自爆させるっ!?」
「正確には、この船そのものをだ。今、このエルヴァルガンドゥの方舟は全ての魔力を出し尽くして、王国を焼き払おうとしている。その魔力の全てを一旦、炉心に集める必要がある────それを誘爆させれば」
「………術式砲が放たれるより先に、この船が自壊する」
要するに、この十分の間に方舟そのものを自滅に追い込むのだ。術式砲を撃つ際に動力炉に収束する魔力自体を暴発させることで。
「動力炉には俺が術式を仕込む────皆は…………転移門で、撤退してくれ」
「咲夜………?」
「何も逃げろというわけじゃない。エルヴァルガンドゥがもし墜落したら、周囲への危険も多い。皆には周りに人がいないか確かめて、安全な状況にしておいて欲しい。俺も…………すぐに逃げるさ」
「…………咲夜」
「────託したぞ、皆」
展開した転移門から脱出するように促した咲夜は、いつもの穏やかな笑顔でそう告げる。背を向けて走り去る青年の姿を見ても、優花達は素直に離れることは出来なかった────咲夜の顔に、僅かに感情のひずみを感じたから。
◇◆◇
「それでは諸君、心理テストの時間だ────『トロッコ問題』というものを知っているかい?」
そう語り出したファウストに、誰もが困惑するしかない。『トロッコ問題』、その事についてはよく知っている。だが、何故ファウストがそれを知っているのか、何故今更そんなことを言い出してくるのか、理解が追いつかなかった。
「制御不能になったトロッコが暴走しており、五人の作業員を犠牲にするか、一人を犠牲にするか、レバーを操作して決める。とか言う倫理学の問題だ。この問題の正解は知っているかい?」
「…………答えなんてものは」
「そう、ない。五人を救う為ならば、一人の犠牲もやむなしという答えも、そもそもレバーを引くこと自体間違っているという答えも、全てが正解であって答えではない。明確には、主義主張や考え方を知る為の倫理問題、というやつかな?」
何故今更そんな話をする必要があるのか、と全員が理解できずとも耳を傾けている。そんな彼等を心中を察したのか、ファウストは笑みを深めた。
「だが、私はああいう類の問題は好きじゃないんだよね」
「?」
「だって、あの問題の本質は安全圏からの選択に過ぎない。自らは何も危害を受けず、何の影響もない。その状況でなおかつ生命の選別をするなんて、無自覚な傲慢だよねぇ?群体であれたお陰で生態系の頂点に立てた程度の下等な一個体らしい価値観じゃないか。────だから、前提条件を一から変えてみた。これは私なりの心理問題だ。
ある時、テロリストによって爆薬を積んだ列車が爆走をしている。このまま走り続ければ終点の街に突っ込み、数百万人の犠牲が出るだろう。君は何とか列車に乗り込んだが、ブレーキーを破壊されて止めることは出来ない。唯一出来るのは、自動操縦から手動に切り替えて、終点から人気の無いレールへと切り替えることのみ。だが、それをすれば君自身はまず助からない────そんな状況で、彼はどう選択すると思う?」
「……………彼?」
何が言いたいんだ、そう叫んだ光輝を余所に、雫や雨音はファウストの示す人物に意識が向いた。まるでそんな状況に陥る何者かの選択を楽しむようなファウストの言い分に、どこか薄ら寒い予感を感じさせられたのだ。そして、その予感は嘘でなかったとすぐに理解させられた。
「エルヴァルガンドゥの方舟、賢者によって制圧されたがね。アレに少し細工をしたんだ。今から数分後、術式砲メギドがハイリヒ王国へと放たれる」
「「「「「なッ!!?」」」」」
「止めることは不可能だ。打ち込んだプログラムが解除コードを無効とし、メギドの発射を優先させる────最早誰にも止められはしない」
ファウストが示すホログラムの映像の中で、エルヴァルガンドゥの方舟から巨大な魔力の光が生じ始めていく。あの終末の、神山を滅ぼした破滅の光が、王国に向けて狙いを定めていた。
「────そしてほら、見たまえ。これがハイリヒ王国の結界を展開する装置のコア。これが無事である限り、星王エリュシオンの魔力によって半永久的に動き続ける」
「っ!離せ……!それは、この国を、皆を守るための………ッ!」
「いいよ、受け取りたまえ」
そして、手に転がしていた手のひらサイズの球体────結界装置のコアを光輝の下へ投げる。少女兵に捕らえられながらも光輝は必死に手を伸ばし、それが落下するのを受け止めようとする。
その手が宝珠を取ろうとしたその瞬間────ファウストはそれを目の前で踏み抜いた。パキンッ!と音を立てて砕けた破片が光輝の前に飛び散る。
「────これで、王国の結界は消えた。無防備な王国には、メギドを防ぐ術はない」
「正気なのか………?メギドの範囲内はこちらも同じだ!アンタも、巻き込まれることになるんだぞ!?」
「だから実験なんだよ。自分を使わぬ実験なんてナンセンス、何より────王国が滅びることなど、『彼』が許さないだろう?」
◇◆◇
ハイリヒ王国、司令本部にて。
重傷によって倒れたエリュシオンに代わり、王国防衛の指揮を行なっていたリリアーナ達。防衛自体を上手く出来ていると余裕が出来たその瞬間、突如危険を示すアラートが鳴り響いた。
「何事だっ!?」
「大結界が消滅しました!西部の結界装置に異常発生!非常装置も………駄目です!大結界、展開不能ですッ!」
「────リリアーナ様!観測機能が感知しました!例の戦艦が、魔力を充填している模様!このままでは、神山を消したあの一撃が────!」
「そんな………っ!」
気丈に振る舞っていたリリアーナの顔が強張り、観測していた研究員たちと兵士の顔に絶望が宿り始める。ハイリヒ王国の大結界はそれほどまでに厳重に展開されていたのだ、明確に破られたのも今回以外になかった。
司令本部を放棄して、少しでも避難民を撤退させようとリリアーナが全員に呼び掛けようとしたその瞬間、彼女の耳に掛けて新しいアクセサリーが、アーティファクトから声が響いた。
『────リリィ、聞こえるか。俺だ、咲夜だ』
「っ!咲夜さん!無事だったんですね、今何処へ────」
『────エルヴァルガンドゥの方舟は心配しないでくれ。あの魔力砲だけは撃たせない、今阻止するところだ』
リリアーナの様子を察したセノが指揮を変わった所で、リリアーナは文通や連絡を取り合っていた咲夜と語らう。彼の無事に胸を撫で下ろす自分を自覚しなかったリリアーナは咲夜が今も戦ってくれていることに、返しきれない感謝を感じていた。
『………リリィ、頼みがある』
「はい?なんでしょう」
『────皆を、頼む。光輝や雫たちに愛子先生達を………今は旅しているハジメや香織、刃のことも』
「…………え?は、はい。それは勿論ですけど………」
不意に、咲夜が唐突にそう切り出す。
自分達としては当たり前の事だった、自分がそうせずとも兄であるエリュシオンもそうするだろう。何故今そんなことを言うのかと疑問に思っていたリリアーナに、咲夜は心の底から安心したように息を吐いた。
『ありがとう、リリィ────そして、すまない』
「っ────咲夜さん!?待って、待ってください!」
その謝罪の意味を、リリアーナはすぐに理解した。慌てて通信を繋げようとするが、それは届かない。通信用のアーティファクトによる連絡が届かないことに、動揺したリリアーナは気付いたセノに宥められるまで、アーティファクトに向かって呼びかけ続けた。
◇◆◇
────
家族構成は議員である父親と主婦の母親。二人の姉妹の間に生まれた長男である。実を言うと、咲夜という青年が常に周りに頼られる人物となったのは────他ならぬ家族が理由であった。
『さくやーん、お姉ちゃん達が加齢臭するとか言うけど、パパまだそんな感じじゃないよねぇ』
『ねー、咲夜。今日カレーにしたからご飯用意して………え?用意してるのシチューでしょって?…………あらら?』
『咲夜ー、お姉ちゃんの下着知らないかー?えー、下ー?だって部屋着じゃないか。履かなくても問題ないでしょー』
『さくにぃ!ちょっと聞いて!ここの宿題について教えてほしいんだけど………え、何処だって?全部!私だったら作文は苦手なのよね!』
基本的にフリーダムな家族なのもあって、咲夜も真面目になった────成らざるを得なかったと言うべきか。距離感が近く威厳のない(そこまで気にしてない)父に、マイペースを通り越して不安な所が多い母。そして私生活では自堕落な姉に、困ったことはすぐに任せる妹。彼が理知的かつ、周りに頼られる人間になるのも頷ける環境であった。
だが、それ故に責任感が強く自分自身で背負い込む面も彼の欠点の一つであった。本来であればそこまで悪いものではなかったが、今回の異世界転移によって彼の責任感はより強く、重たいものとなっていた。
「────帰らなきゃ、父さんたちが、母さんたちが、待ってる」
動力炉の前に辿り着いた咲夜は、血の滲む片目を抑えながら、フラフラと歩き出す。常に周りを考えてきた彼にとっての、唯一の本心。それは家族のいる世界へ帰ること────あのマイペースで身勝手で、自分を振り回す大切な家族の元へ、安らげる家へ帰らないといけない。そうしないときっと悲しむから、きっと深く落ち込むから。
「────やれ、やるんだ。咲夜」
動力炉に手を伸ばす咲夜、その手がピタリと止まる。
震える声で、彼は自らを叱咤した。けれど、その手は震えるだけで触ろうとして止まる。
「決めただろ!こうするべきだと、だったら迷うな!俺は決断したはずだ!皆を救うと!それには、これしかないって!」
自らに言い聞かせる咲夜。彼は分かっていた、こうする以外に他ないと。分かっていても、その覚悟は簡単には出来ない。彼もまだ一人の学生だ────自らの生命を捧げる覚悟など、簡単なはずがない。
「俺は、賢者だ。皆のために死ぬのなら、何一つ惜しくは────」
「────何が惜しくないのよ、咲夜」
ボロボロと溢れる涙を飲み込み、必死に自らを諭す彼の背後から────声が聞こえた。思わず、唖然と振り向いた咲夜の視線の先で、転移門で離れたはずの────優花たちがいた。
「何で、戻ってきたんだっ!?」
「私達、ずっと付き合ってきたんだよ。委員長が何考えてるかなんて分かるよ────それよりも、何で泣いてまで無理してるの」
いつもは見せない咲夜の感情的な叫びにも、優花達は狼狽えない。彼女達は別れるその時から気付いてたのであろう。咲夜が一人で全てを背負おうとしていることを、自分自身の命を諦めていることを。
「私達、一緒に戦うって言ったじゃん!肝心な時に置いていって、一人で無理するっての!?」
「そんなに俺達は頼りないのか!?俺達だって、お前と一緒に命を懸ける覚悟はある!」
「そういう話じゃない────もう、こうする以外にコレは止められないんだよっ!!」
優花達は咲夜がまたいつものように背負い込んでいるのだと思っていた。しかし、感情的に怒鳴り返した咲夜の様子はいつものそれとは違った。すぐにハッとした彼は自己嫌悪に陥ったように俯きながら、ポツポツと語り出した。
「動力炉を、俺の術式で誘爆させると言ったな。アレの起動方法は、直接だ。手で触れて、術式を起動させる他ない」
「そんな………遠隔とか、時限式とか、さくやんなら出来るんじゃ…………」
「……………それだけの魔力は、もう残ってない。これしかなかった、これしか…………思い付かなかったんだ」
────それが混沌の魔神による意図的な策略、咲夜に選択を強いる為だけの仕込みであることは、誰も知ることはない。しかしその時、その方法を思い付いた咲夜の絶望と覚悟は計り知れない。たとえ家族と再会できなくとも────家族に誇れる自分で在ることを、咲夜は決めていたのだ。
「まだ、数分はある…………転移門はまだ出てるはずだ………早く、行け」
「…………咲夜」
「いいから、早く!足手まといで無駄死にする気か!?俺はもうとっくに覚悟してるんだ!今更、止めないでくれよッ!!」
その場に膝を付いて、咲夜は必死に叫ぶ。急いでこの場所から離れろ、と皆が生き残る事だけを考えて、敢えて厳しく吐き捨てる。
その言葉を聞いて、優花達は歩き出す────この場から離れるのではなく、咲夜の元へと集まったのだ。
「みんな…………?」
「置いてく訳ないでしょ………咲夜だって、大切な仲間なんだよ?咲夜がその気なら、私達だって覚悟はあるわよ」
「あの時、お前が誘ってくれたあの時から───俺達は咲夜と一緒に戦うって決めたんだ。委員長を見捨てて、むざむざ生き残れるわけないだろ?」
その場に座り込み、優花や淳史たちは気さくに語り出した。彼等は脱出するつもりなど欠片もなかった。自分の命をかけてまでメギドの発射を阻止しようとする咲夜の覚悟を受け入れ、せめて一緒にいることを選んだのだ。
「────馬鹿、だ。皆、大馬鹿だ…………もう本当に、助からないんだぞ………?」
「覚悟はできてる。俺みたいなクズを、お前は見捨てなかった。今度は、俺もお前を見捨てたりはしないさ」
「そうそう!清水くんの言う通り!私達、一蓮托生なんだから!」
「……………ごめん、皆……ごめん!俺はッ」
「謝らないでよ。委員長ばっかり頑張ってんのに、立つ瀬がないでしょ」
涙を流し、震えた声を零す咲夜に、全員は軽く笑って応じた。気にしないで、そう語らい合う彼等は互いの手を握り合う。恐怖や不安を飲み込み、彼等は賢者と共に最期を迎えることを選んだ。
そして、賢者が震える手で炉心に触れる。膨大な魔力を蓄積させたことで稼働していた魔力炉に亀裂が生じていく。赤い軌跡が、臨界に伴う炉心に限界を迎えさせた────光が、巨艦を二つに割った。
◇◆◇
「咲夜ぁ────ッ!」
「………咲夜ッ」
「咲夜さんっ!そんなっ!!」
クラスメイト達が、絶叫する。
モニタリングされた映像に、エルヴァルガンドゥの方舟が自壊するのが映る。膨大な魔力によって船そのものが半分に砕け散り、凄まじい爆発が太陽のように空に咲いた。
ファウストの発言から、その爆発を引き起こしたのが誰であるのか、どうしてそうしたのか、全員がよく分かっていた。だからこそ、賢者の死は皆の心を折るには十分過ぎた。それは彼が如何に頼りになるか、クラスメイトにとってどれだけ中心的な存在だったのかを意味する。
「────大多数の犠牲よりも、自らの命で収める。まぁ予想通りの結果かな。…………クックックッ」
「何が、可笑しいの」
「これが愉快以外の何だと言う。彼は仲間や大勢を守る為にその命を尽くして王国を守護した。だがその結果、状況が好転したかな?今君達のピンチは変わったかな?────何一つ、変わらないだろう?それこそが、生命の価値なのさ」
不敵に笑うファウストに、雫が怒気を向ける。
咲夜を死に追い込んでおいて、言う台詞がそれであったのだ。ただ自分の興味と目的の為だけに不必要な犠牲を与えておいて、ファウストはその最期を無価値とせせら笑った。
「ああ、悲嘆することはない。所詮分かり切ったことだ。人間一人の死で、世界は変わらない。いつだって生命は軽く、ちっぽけなものだ────それこそ、世界の真理というものだろう!?」
「…………っ」
「だが安心したまえ!私はそんな不条理な世界とは違う!私は遍く命の全てを、活用してあげよう!有効的に、有意義に!それでこそ、君達みたいな無価値なものにも、価値は付与されるだろう!あの賢者の彼も、それでこそ報われるものじゃあないかっ!」
飄々と語るファウストに、誰もが圧倒される。全員が、理解不能な存在への恐怖を以て確信した────目の前のこの男は、人間ですらない。命というものをモノでしか見れない、モノとしか扱えない、それを己の為だけに行使する化け物だ。
「さて、そろそろメインのショーは終わりだ。…………恵里ちゃん、仕上げは任せるよ」
「やっとかぁ。こうするのを楽しみにしてたんだよねぇ、僕も」
そう言って、ファウストから声を掛けられた恵里が鼻歌交じりに雫の下へと歩み寄る。キッと睨む彼女の頭を踏みつけた恵里は侮蔑と嫌悪を顕にする。
「ふふ。怒ってるね?雫のその表情、すごくいいよ。僕ね、君のこと大っ嫌いだったんだ。光輝くんの傍にいるのが当然みたいな顔も、自分が苦労してやっているっていう上から目線の態度も、全部が全部気に食わなかった。だけどね、やることをやってくれれば、それでいいんだよね」
「っ、やること………ですって?」
「くふふッ…………ねぇ?久しぶりに再会した親友に、殺されるってどんな気持ちになるのかな?興味なぁい?」
その言葉に、雫は顔を強張らせる。恵里が誰を言っているのか、彼女にはすぐ理解できた。
「まさか、香織をッ!?」
「ご名答っ!傀儡にした雫を使って香織を殺すんだ………正直、南雲が持っていくなら放置してもよかったんだけど、先生が必要みたいだからさぁ。ほら、それに報酬であげるって約束してる相手もいたし」
「────ふざけッ、」
どこまで人の生命を弄ぶ、と声を荒らげる雫の顔を、恵里は容赦なく蹴り飛ばす。そのまま何度も蹴りつけ、痛めつけていく。その様子に光輝が叫び、渾身の力で少女兵を引き剥がそうとするが、それに気付いたファウストが指を鳴らせば、黒い触手が光輝の体を絞め上げた。
「駄目だよ、君はまだ必要なんだから────壊させないで欲しいね」
「ぐっ、うぅ………ッ!雫!恵里、止めるんだ!恵里ッ!!」
「────嵐舞ッ!旋風!!」
その瞬間、少女兵に組み伏せられていた雨音は足元の扇子を踏み抜き、空中に舞った扇子から風の刃を解き放つ。自らを巻き込んだその一撃は少女兵の拘束を引き剥がし、雨音を解放させる。着物を切り裂かれながらも雨音は扇子を手に、雫を助け出さんと扇子を振り上げる。
「斬舞!鎌い────あぐッ」
「手癖の悪い娘だな。これ以上抵抗されないように、片目でも潰してあげようかな?」
しかし、不意に伸ばした手が雨音の喉を圧迫する。彼女を掴み絞め上げたアルマが片手で持ち上げ、雨音の目へと毒を帯びたナイフを向ける。アルマの方は終わったと安心したのか恵里は少女兵から武器を受け取り、不気味な笑みを浮かべたまま長剣を振り上げる。
「じゃあね?雫、君との友達ごっこは反吐が出そうだったよ?」
(ごめんなさい、香織。次に会った時は、どうか私を信用しないで、生き残って…………幸せになって…………)
その瞬間────ファウストの顔が割れた。割れた顔から浮かび上がる瞳孔が三つ。瞳孔に浮かんだ三つの眼光が其々別のものを捉え、警戒を顕にする。ファウストのソレが感じ取ったように────結界の領域内に、彼等は現れた。
「────ギリギリ、間に合ったか?」
直後、少女兵の数体が引き裂かれる。透明な何かに切り裂かれたように、彼女達は音もなく両断されていく。不可視の刃を振るった青年、遠藤浩介は一息ついた。その手から伸びる不可視の糸を手繰り寄せながら。
そして、それだけでは終わらない。
雨音を締め上げていたアルマが毒の帯びたナイフを突き立てようとしたその瞬間、近くの壁を吹き飛ばした大きな影が現れる。その圧倒的巨体と重量に、アルマは抵抗の余地もなく薙ぎ払われた。
それは正しく、巨大な鉄騎であった。重厚な装甲に身を纏った鎧、というよりも機械そのものを思わせる体躯。蒸気を噴かせながらゆっくりと歩き出す重装の騎士を前に身構えた雨音に、騎士が声を発した。
「────よォ、雨音!助けに来てやったぜ」
「広大、さんっ!」
そして、恵里が振り下ろした直剣が空中で止まる。厳密には、光の障壁によって防がれていた。その光景に戸惑う雫と恵里、そんな彼女は────この場にいないはずの、想っていた親友の声であった。
「────雫ちゃん!」
「…………来たか」
駆け付けた香織達は、気付かない。全身の形を歪ませるほどに混沌の影を溢れ出させるファウストの浮かべる、悪意に満ちた満面の笑みを。
シンプルに性格も悪いファウストの独壇場。最初にコンタクト取った恵里とはまさかの一致団結したと言う、どこぞの檜山とは見違える対応(ファウストにとっては捨て駒同然の扱いなので)
ファウスト的にはエルヴァルガンドゥの方舟を落とす理由も咲夜を追い込む理由もないんですよね。その方が面白いからという理由で、平気で他人を犠牲にする。魔神の力を取り込み過ぎた影響で本人の精神性もより狂気的かつ邪悪なものに変貌してるわけです。まぁファウストはその性質上(複数の魔神の因子を取り込んでいるので)仕方ないとこはあります。
咲夜は自分ごとエルヴァルガンドゥを自壊させる方法を思い付いた時、多分ぐちゃぐちゃの感情が渦巻いてました。咲夜は言葉には出さず、内面で自らの本心に区切りを付けて覚悟を決めるタイプなんですよね。数秒の間にどれだけの苦悩と絶望を噛み締めたことか……うーん、辛い。
そして、圧倒的に強化された三人────白崎香織と遠藤浩介、佐竹広大の救援です。暗殺者セノから特訓を受けた遠藤と新兵器を使いこなす為に訓練を繰り返した佐竹。元から持つ治癒系の圧倒的センスと万能型の星体魔法を使いこなす香織。
感想やお気に入り、評価なども絶望お願い致します!次回もお楽しみくださいませ!それでは!!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場