エルヴァルガンドゥが墜落する直前、数分前。燃え盛るハイリヒ王国の王都前、城下町まで侵攻された王国の景色に、単独で向かっていた香織は顔を曇らせた。多くの生命が奪われる戦場の空気は、やはり慣れるものではない。
「雫ちゃん、光輝くん………皆…………何処にいるの!?」
そして、燃え盛る戦場には彼女の親友や大切なクラスメイト達の姿は見えなかった。安全な場所にいるのでは、という楽観思考をすぐに振り抜く。光輝や雫、自分の幼馴染や親友が黙って避難するようなタイプではないのは香織が良く理解している。
建物の屋根を駆け抜け、星の光のように加速する香織。急いで何処かにいるであろうクラスメイト達を探し出そうとした香織に、機械的な音が響いた。
────pipipipi!!
「っ!」
障壁を展開した香織に、複数の弾幕が襲う。警告音のようなアラートと共に放たれた光弾は香織を撃ち抜くことはなかったが、煙の中から飛び出した香織は自分を狙った存在をようやく知った。
「あれは………『アンチノミー』!?」
【────■■■■■】
下に広がる城下町の通路に群がる影、それは有機物のような無機物存在。生命を持たぬ生命体、ダブリスの眷属であるアンチノミーである。何故王国にアンチノミーがいるのか、ダブリスまで王国侵攻に手を貸しているのか、香織は困惑しながらも魔法を詠唱しようとする。
だがその瞬間────背後から声が響いた。
「白崎さん!伏せてくれ!!」
「────!」
聞き覚えのあったその声に、香織は否応もなく従った。咄嗟に詠唱を止め、しゃがみ込んだ香織の背後で────背中を取ろうとしていたアンチノミー数体が切り刻まれる。不可視なる、確かに存在する刃によって。
シュルル、と音を立て蠢く手甲を腕ごと下げ、香織を助けたその人物────遠藤浩介に、香織は笑顔で応えた。
「ありがとう、確か………遠藤くん、だよね?」
「まさか有名人の白崎さんに覚えてもらえるなんて、影が薄いのも悪くないと思ってたけど………案外こういうのも悪くないよな」
「…………あれ、そう言えば」
礼を言いながらも、遠藤の発言に香織は不思議に首を傾げた。彼女の知る遠藤浩介は文字通り影が薄いことで有名だ。その影の薄さはコンビニの自動ドアすらロクに反応しないレベルだと言う。
だが、たった今遠藤浩介が声を発する前にその気配を感じ取れた。思ったよりも自分が成長しているのかと思ったが、それ以外の要因があるのは、遠藤の様子から見ても明白だった。
「白崎さん、どうしてここに?確か南雲や黒鉄と一緒にいるんじゃ………」
「王国が襲われてるって聞いて急いで帰ってきたの…………遠藤くん、皆が何処にいるのか知らない?」
「実を言うと、俺も探してたんだ。戦争が始まる直前まで、セノさんから修行してもらってたから…………あ!それと、俺一人だけじゃないんだ!もう一人、佐竹も一緒に────」
直後、城下町の一角に爆風が生じた。凄まじい勢いで薙ぎ払われるアンチノミーや魔物の大群を押し退け、巨体の鎧が遠藤の元へと飛び込んでくる。重厚感を感じさせる鋼鉄の鉄騎から、やはり香織のよく知る声が聞こえてきた。
「────遠藤ぉ!やっぱ周りには居ねぇ!アイツら、もっと前線に出てんじゃねェだろうなァ!?」
「その声………佐竹くんだよね?」
「おっ、香織じゃねぇか!戻ってきてたのかよ!じゃあ、ハジメや刃の奴も帰ってきたのか!?」
嬉しそうに声を弾ませる佐竹。威圧感を感じさせる鎧とは裏腹に、いつもの気の良い彼の性格が行動に良く出ている。その鎧はどうしたのか、と色々聞きたいことがあった香織だったが────突然頭に響いた声が、それを許す暇を与えなかった。
『────聞こえるか、香織。近くに浩介と広大もいるな?』
「この声は…………陛下?今、動けないんじゃ………」
『そうだ、今はテレパシーを使って語りかけている。単刀直入に言う────天之河光輝達は今、ファウストの手によって捕らえられている』
声の主、星王エリュシオンが教会とファウストの策謀によって重体であるのは香織以外も既知の事実であった。それでもエリュシオンが動けないながらもテレパシーを送り、香織たちをサポートすることを選んだのだ。
『他のものを向かわせようとしたが、ファウストの結界は他者の侵入を拒むものだ。破壊しようにも突破は難しい』
「…………陛下、お願いが」
『分かっている。一つ、対処法がある。お前達を直接、天之河達の元へ飛ばす。普通の転移なら弾かれるが、仲間を対象とした転移なら奴の結界を抜けられるはずだ』
ファウストの結界は他者の侵入を拒むというよりも物理的な侵入の場合は入り込めないように別の結界から出るように、転移などは内部の状態をかき乱して転移を成功させないようにするものである。分かりやすい話、ジャミングによって座標を捕捉させない領域の中だと思えばいい。
しかし、エリュシオンがマーキングしている光輝達の元へ送る転送ならば、問題はない。ジャミング波によって転移の位置が指定できなかろうが、近くに飛ばせばいいだけの話だ。
『それでは、送る────舌を噛むなよ』
告げるや否や、亜音速の星光に包まれた香織と遠藤、佐竹の三人がファウストの結界である領域内に飛ばされる。たった今、殺されんとする雫や雨音を救い、三人はファウスト達へと対峙するのだった。
◇◆◇
しかし、雫を殺すことを阻止されたことで苛立つ恵里ほ頭を撫でたファウストの余裕は揺るがない。それどころか、彼等三人が現れたことで変化し始めた空気を掌握するように、ファウストは嘲り始めた。
「間に合った?実に子供らしく楽観的に満ち溢れた、浅慮な期待だ。なぁ、八重樫雫?教えてあげたまえよ、何一つ間に合っていないことを」
「………っ」
ボロボロにされた雫は、ファウストの示した言葉によってそれを思い出せられた。香織から治癒を受けていた雫は、辛そうに噛み締めながら、彼女達に今起きたことを話した。
「香織、聞いて…………委員長が、咲夜が………」
「────咲夜くんが?」
その言葉に、香織以外の二人が顔を強張らせる。
佐竹も遠藤も、咲夜との交流が多く、彼を良く慕っていた。そんな咲夜の死に、三人が動揺するのも無理は無かった。その悲劇を、ファウストは傷口を逆撫でするように心の底から冒涜し尽くしていく。
「そう。そして、彼を死に追いやったのは、何を隠そうこのファウストさ。正義感のある若者をどうやって自滅させるか、仕込みなんてものはあまりにも簡単で単純だった!」
「…………」
「それだけではない!教会と結託して、エリュシオンの暗殺を仕向けたのも、この戦争の中で暗躍したのも!メルドとかいう奴を無駄死にさせたのも、全てこのファウストがもたらしたものさ!」
それは、ファウストからすれば明確な挑発であった。相手の思考を怒りに染め上げさせるための、悪辣な一手。たとえそれで激昂しなくとも、相手の理性の一端でも奪えればそれでいい。
「そして、君達も運よくここに来れたのではない。君達は、私のモルモットになるべく招かれたのさ────恵里ちゃん」
「はいはーい、僕のお人形達────仕事だよぉ」
ファウストが指示し、恵里がそれに応じる。ファウストから譲り受けたであろう杖の結晶を光らせると、その足元の影が一気に広がっていき、無数の少女兵────『
「────彼女達も必要だ、殺さないように。………最も、殺さなければ手足の何本かは千切って良し」
指を鳴らすファウストの命令を受け、顔のない少女の人形兵たちが得物を構える。圧倒的すぎる物量、このまま相手をすれば数の差で蹂躙されるのは明白だった。痛む身体を持ち上げて香織を呼び止めようとした雫に、親友である少女は穏やかに笑いかけた。
「ちょっと待っててね、雫ちゃん。終わらせてくるから」
「大体状況は分かった。あのクソ野郎は敵で、中村もアルマさんもあのクソ野郎側ってわけか。殴られる相手が分かってる分、やりやすいってもんだぜ」
「まずはあの人形からだろ?それからあの、ふざけたニヤケ面を歪ませてやろう────まずは、他の皆を助け出さないと」
鉄騎に身を包んだ佐竹も、両手の手甲を確かめる遠藤も、香織を含めた三人は怒りをその身に溜め込んでいた。だからこそ、三人は決意する。余裕ヅラで平然と此方を弄ぶファウストを、絶対に後悔させると。
「おい遠藤………いや、浩介!お前は香織と一緒に他の奴等を助け出しとけ────コイツラの相手は俺がしてやる」
「任せた………行こう、白崎さん」
「うん………気を付けてね、佐竹くん」
「任せろ、テメェら全員────ブッ潰してやるァ!!」
重装機甲戦術鎧『ファランクス』。
それはシュトライゼが開発した攻城戦用重装機甲と呼ばれる魔導鎧が原型にある。全身を覆う鎧は強力な魔力障壁によるバリアと装甲によって鉄壁となり、その鉄躯を以てして敵陣を突破する為の装備。
それを、シュトライゼが南雲ハジメを弟子にしてから得た知識から再改良を施したのが、『ファランクス』である。『重力魔法』によって鎧の重さを軽減させた上で様々な火力面の装備をオミットしており────使いこなしさえすれば、『歩く要塞』ともなりうるものであった。
そして、数週間の合間の特訓を経て────佐竹広大は『ファランクス』を完全にモノにした。
「ォオオオオオオオラァァァァアアアアアアアッ!!」
破城砲槍『ランツェカノン』と重装盾『アイゼンドレーク』を手に、巨躯の鉄騎が少女兵の大群を薙ぎ払う。数百キロを上回る重量による進撃は誰にも阻めない。足面に備えたホイールによって滑るように巨体を加速させる『ファランクス』は縦横無尽かつ圧倒的に少女兵達を薙ぎ払っていく。
圧倒していく佐竹に、少女兵達もやられっぱなしではない。味方を囮にしたことでガラ空きになった佐竹の背後に一斉に得物の刃先を突き立てていく。
「────効くかよォ!そんなモンッ!!」
しかし、鉄壁の防御をその身に纏う佐竹広大にはやはり響かない。屈強な鉄駆を振り回し、スライドした装甲の隙間から覗く小型爆弾を一斉射出し、少女兵達を更に蹂躙し尽くしていく。
やられていく『
「よっ、よっ、よっと………影が薄いのも悪くないけど、やっぱ思い通りに使えた方がいいよな」
サクッ、とまるで散歩でもするように遠藤は両手から伸びる鋼糸を振るう。それだけで少女兵は全身を細切れにされ、首を切り落とされていく。異常なのは、少女兵達が全く反応しないこと。それどころか────倒されていく仲間の姿に、何が起こっているのか理解できずにいる。その様子はまるで、遠藤を認識きてないようにしか見えない。
「あ、あれ?気のせいか?浩介の奴、なんかいつもより存在感があるような…………」
「でも、何だろ………さっきから、少し気配が消えたり戻ったりして…………おわっ!?」
「よし、取り敢えず全員は解放した………白崎さん!まずは動けない人達の治癒を!」
健太郎や重吾、遠藤と仲の良い二人も遠藤の様子に何処か違和感を感じたらしい。いつもの彼とは違う、まるで影の薄さをモノにしてるかのような感覚を覚えた所で、不意に彼等を縛り上げていた少女兵と拘束具が鋼鉄の糸によって切り裂かれる。
香織が広範囲の治癒で全員の怪我を治した所で、苛立たしそうに恵里が舌打ちをかます。個人的に不愉快に思っていた香織によって邪魔されたことが、酷くに神経に障ったのか。彼女は杖を掲げ、『
「ああ!もう、ウザいなぁ………!いいよ、そんなに死にたいなら物量で殺してあげるからさぁ────………先生?」
「…………どうやら彼女達を侮り過ぎたみたいだね。総合的なステータス、いや現時点で出し得るスペックならば勇者にも勝るだろう────アルマ、恵里ちゃんを頼むよ」
「はいはい、分かりましたよ先生…………ったく、誰がこんなサイコ女のお守りなんて」
誰がサイコ女だ!と怒りに満ちた蹴りを脛に受けても、当のアルマは揺るがない。それどころか恵里を見て露骨にため息を吐いたことでもう一撃を食らいながら彼女を引っ張っていく。その様子を微笑ましく見つめていたファウストは、不意に不気味な笑みを浮かべながら振り向く────その顔が突如として、崩れ始めた。
「いやぁ、慢心も慢心。君達をあの作品で捕らえられると思い違えたのは私の油断と驕りだ。改めて詫びよう────お詫びと言ってなんだが、君達は私が直接相手をしてあげようじゃないか。運が良ければ、私を殺せるかもよ?」
その肉体を、魔神因子で構成された黒い泥が覆い尽くし、呑み込んで、作り変えていく。ファウストの纏う混沌の黒いヴェールが払われたその瞬間、そこに居たのは成人男性ではなく────黒泥を纏いながらも、美しさと神秘さを秘めた女神を思わせる女性だった。
その女性の姿に、誰もが息を呑む。それは、香織も同じだった。しかし彼女の反応だけは違う。圧倒されているのではなく、彼女はその肉体が誰のものか知っていた────彼女の知る者にとって、大切な人であることも。
「…………その姿は」
「────さぁ、改めて実験を始めよう。君達は挑み、私がそれを捻じ伏せる。実に単純だろう?」
女神アスレトア。別世界の存在でありながらも、確かに存在していた神の一柱。その世界では『慈愛』と『調停』を司っていた女神はその面影も無く、ファウストの器として彼の悪意に満ちた笑顔を浮かべていた。
◇◆◇
かつて、ハジメと共に旅をする最中、その一夜。皆が寝静まったある日の夜中に、偶然起きた香織は行動を共にするイクスに質問を投げかけたことがあった。
自分達とは違う異世界から来たこと、何故刃や愛子先生を殺そうとしたのか、そこまで魔神が────ファウストに執着するのか。ハジメ達は聞いていた話を、途中で合流した香織は知らなかった。そんな香織にイクスは隠すこともなく、全てを明かした。
────かつて自分が魔神を殺すための兵器として作られたことを。偶然救われた世界で、女神アストレアの使徒として生まれ変わったことを。そして、その平和をファウストが踏み躙り────自らの主であるアストレアの肉体を奪われたことを。
『────オレの目的は、この世界から魔神の脅威を絶つことだ。最終的に、魔神連合と戦うお前達に手を貸すつもりだ。その合間でも構わん────ファウストを殺せれば、それでいい』
『イクスさん………』
『気にする必要はない。ファウストを信じ、あの世界を滅ぼしたのはこのオレだ。その責任を取るだけの話、お前達に背負わせる気はない』
壮絶な過去の数々、やっとのことで得た幸せすら踏み躙られて、ただ使命を果たすためだけに戦うイクスの生い立ちに、香織は悲しさを感じずにはいられなかった。当のイクスは、彼女の抱く思いを理解してか、気を遣う。自分には、優しさを向けられる資格はないと思っているのか。
不意に、香織はイクスにある疑問を語りかけた。かつて彼も感じたであろう、希望的観測を。
『イクスさん……………その、アストレア様って女神様は、どうしても助けられないのかな────?』
『無理だ』
キッパリと、イクスは切り捨てた。
無情なまでに、冷酷に。それが身勝手な思考だと、香織は思う理由もない。何故ならば、そう断言する理由が明確にあると理解できたからだ。
『ファウストの使うアレは器だ。アストレア様の生命はあそこには存在しない────それ以前に、あの方は既に亡くなられている。過去に亡くなった生命を、取り戻すことは出来ない』
それは、どの世界にも同じくある理。既に死んだ者は、失われた生命はどうしようとも取り戻すことはできない。それは神とて同じこと。その覚悟は当の昔に出来ている────そして、最良の選択の決断も。
『白崎香織、もしファウストと出会い、奴がアストレア様の御力を使っているのならば────迷うな、肉体を破壊しろ。粉微塵にでも、奴に使えないように』
『っ…………でも、それだと、イクスさんは』
『構わん。遺体が遺らずとも、するべき使命を果たすのみ。奴にとってアストレア様の神体は計画のサブプラン、完全なる魔神となる為の依代のスペアだ。オレが我が儘を言うならば────あの方を厄災にはさせん』
イクスは静かに、それでいて確固たる決意を秘めて告げた。自らの主を、破壊と呪いを振り撒くだけの怪物の器にはさせない────その為ならば、今度こそ主の身体であろうと破壊すると。その事実はハジメ達以外にも、香織にも共有されていた。
◇◆◇
「────見せてあげよう。神の力とは、こういう風にも使うのさ」
そして、現在に至る。
女神アストレアの神体を使うファウストは不敵な笑みを浮かべ、懐からある物を取り出す。四方の結晶体を思わせるそのアーティファクト、それがファウストの手から離れた瞬間、音を立てて変形し始めていく。
「そこのガーディアン、君の纏う装備を中々面白いが………所詮は玩具。兵器とは拡張性に優れたもの、神の力、万能なる外付けの兵器というものを教えてあげよう────『
神々しい女神の背後に、巨大なソレが浮かび上がる。小さな結晶体から変形を終えた、巨大な花弁を思わせる物体。七つの花弁から伸びる複数のユニット、鎮座した小型の刃であったり、様々な武装が搭載された自律型の援護ユニット。それがファウストが自信を見せる最高傑作、神の力を以て創り出した万能機である。
「まずは小手調べだ。簡単にやられないでくれたまえよ?」
そう言うや否や、ファウストの操るディヴァイン・ウェポン=ALPHAが一気に動き出す。花弁自体を回転させたかと思えば、内蔵されていたであろう小型の刃が一斉に射出され、回転しながら香織達へと襲いかかる。
飛び退いて回転する刃を避ける香織や遠藤、佐竹は盾で受けながらそれを地面に叩き潰す。しかしそれでも回転する刃は止まらない。それどころか回転する勢いを増して、佐竹の纏う『ファランクス』へ火花を散らしながら迫る。
「チィッ!ウゼェなぁ!!」
「ふむ、まぁこの程度じゃあ相手にもなるまい────なら、コイツはどうかな?」
『ファランクス』の防御はやはり破れず、ダメージにすらならない。それでも平然としたファウストが指を鳴らせば、無数の武装の中から一つの装備が展開される。アームに連結された矛先が四つの爪を開いたと思えば、矛先自体を回転させていく。
瞬間、撃ち出される槍が────光となって佐竹へと穿たれた。『ファランクス』の装甲にヒビはないが、それでも未だに響く『ギャリリリリッ!!』という轟音が、槍のもたらす破壊力を示していた。
「がッ、ぉおおおおおおッ!!」
「────ほぉ、城塞を穿つこれでも傷を付けられないとは。玩具というには中々頑丈だねぇ。どこまで痛め付ければ耐えられるのか、興味が湧いてきた」
佐竹と『ファランクス』の圧倒的な耐久性に、ファウストの興味の対象が移ったらしい。どこまで耐えられるかのテストの為に、ディヴァイン・ウェポン=ALPHAの武装を一斉に叩き込もうとしたファウストに────光の斬撃が飛んできた。
「…………嗚呼、君か」
「もう、これ以上────お前達の好きにはさせない!これ以上、俺の仲間を傷付けさせないぞ!ファウスト!!」
そう言って、佐竹への追撃を阻止したのは天之河光輝。魔王との戦いで体力の消耗も激しかったが、ある程度休めたことと香織の治癒のおかげでアルマの盛った麻痺から立ち直った彼は、仲間を守るためにファウストを倒すことを声高らかに宣言する。
しかし、当のファウストは光輝の登場に白けた様子を見せていた。それどころか退屈そうに、心底つまらなさそうに欠伸を噛み殺す美女の姿をした魔神に、光輝は苛立ちに等しい感情の抱いた。
「何が可笑しいッ!」
「────正直、今の君は一番興味がないんだよね、勇者君。
不敵に笑う女神の表情が、不意に冷徹なものを見せる。ゾワッと身を震わせた光輝に、ファウストが告げた言葉はあまりにも淡々としたものであり、彼には認められないものだった。
「でも、君は空っぽなんだよね」
「…………は?」
「訂正しよう、他の子達のような芯がない。彼等のような我を持てない。戦う上での全てが安定していない────物事全てが正しくあるのが全てと教えられただけの、養殖された正義然とした子供。恵里ちゃんが気に入ってるから生かしてるだけで、私は君個人に価値を見出だせないね」
「っ!どこまで人を馬鹿にして────ふざけるな!お前は俺が倒す!!」
感情的に、ファウストの指摘を否定する光輝。当のファウストは「これだから子供は」と言わんばかりに呆れた態度を取り、露骨に肩を竦める。
聖剣に光のオーラを込めて突撃する光輝に、ファウストは興味を持たずに足元の影から無数の魔獣を解き放つ。液状の影から這い出る魔獣を斬り伏せて突き進む光輝、いくら侮られようとも彼の実力は並大抵のものではない。
あと少しまで肉薄する光輝は全身の力を聖剣に込め、ファウストを叩き斬らんとする。目の前の、女神の姿はファウストの齎した偽りのものだと自らに言い聞かせ、仲間や大勢の人々を救うために一気に距離を縮める。────直後、ファウスト足元から一気に吹き出した黒い影を魔獣の群れだと判断し、聖剣の一振りを振るおうとした、その瞬間だった。
【────助けて】
「────え」
ピタリと、聖剣が止まる。喉が干上がるような感覚に陥った光輝の前に広がっていたのは、黒い影に蠢く────声の数々だった。
【痛い痛い痛い痛い】【苦しいぃ】【ママぁ〜助けてよぉ〜】【殺さないで!殺さないで!】【どうか!子供だけは、助けて!】【嫌だ!嫌だぁ!!】【何でこんな目にぃ】【誰かぁ!助けてよぉ!!】
「────これは私が実験の過程で滅ぼした世界の人間達の魂さ。実験の為に使う予備としてこうして取り込んで保管してたが、こういう時にも役に立つものだね……………さて、勇者君」
数十では済まない。数百、数千を超える叫び声は老若男女を問わず、消えることなく発され続けている。
平然と影から放たれる無数の悲鳴────ファウストの手によって生きたまま取り込まれて死ぬことも許されない魂の断末魔を、耳心地良さそうに聞く女神の肉体を奪った魔神は、不意に全身を強張らせる光輝を見る。影を全身に纏い、半身から叫びを垂れ流しながら────悪意に満ちた笑顔のまま、光輝に語りかける。
「どうした?私はここにいるよ、私を斬り伏せて、皆を救うのだろう?是非そうしたまえ────私に取り込まれ、今も尚苦しむ魂を殺す覚悟があるならねぇ」
「ぅ………、ぁ………!」
「ほらね、君は単純で扱いやすい。こうするだけで私を殺せないんだからね」
敵を殺す覚悟はできても、罪の無い救いを求める被害者を殺すことはできない。それは平和に生きてきた人間には当然のことであり、少し前まで敵すら殺す覚悟を持てなかった少年には、重たいものだった。
直後、ファウストは腹から浮かび出る影から伸ばした魔獣に光輝を襲わせる。腹から伸びていく魔獣の追突された光輝はマトモに受けられず、壁に叩きつけられた。
「はははッ!実に他愛ない!勇者と言えど所詮この程度とは!もっと歯応えがないと実験にもなりは────」
周りを見渡して高笑いを響かせていたファウストの声が、ピタリと止まった。ドスリ、とその胸を鋭い刃が貫いていたのだ。目をパチクリと瞬きしていた女神の首を、鋼鉄の糸が切り裂かんと迫ったのは、その直後だった。
「────アンタがどんなに力を持ってても、意識外からの攻撃は防げないだろ」
ファウストに不意打ちを叩き込んだ遠藤は両手の手甲から伸びる鋼糸を手繰りながら告げる。ファウストすらも知覚できなかったソレは、遠藤が新たに得た能力によるものであった。
◆◇◆
『────遠藤浩介。お前のその影の薄さは、お前自身が持ち合わせる異能によるものだ』
数週間前、例の事件に巻き込まれる前のエリュシオンからそう言われた遠藤浩介は困惑するしかなかった。『王の剣』の一員であり、遠藤の師匠でもあったセナからの特訓を受けていたある日、セナによってエリュシオンの元に連れられた彼は、自らの体質について指摘された事に、理解が追いつかない。
『俺の、異能って…………影の薄さが?』
『厳密には、お前のその力は普通の能力とは違う。無意識だが、自らを除く他者────或いは無機物を含めた完全な気配遮断能力。お前のソレは魔王に、魔神にも通じるだろう』
『────待って、ちょっと待ってください。俺の影の薄さって、そんなヤバい能力だったんですか!?』
『それ故に、自覚と制御が出来てないな。そういうことは稀にある。生まれ持った者のステータスには適さぬ強すぎる異能は、本人に不利益を被らせる。スピア────スピリアスも同じだったからな』
普通の人間には、余りある異能の発現。それで不幸に生きた者を仲間にしたエリュシオンは、その事をよく理解していた。そんなエリュシオンにとっても遠藤の影の薄さこと、無自覚無意識の気配遮断能力はあまりにも異常であった。下手すれば、概念魔法に位置するレベルの高位の異能────世界の理に関与するくらいのものだ。
『本来であれば、お前がその力を使いこなせるのは数年、長くて十年近くの修行が必要になる。だが、それではお前も望む結果にはならない────故にだ、お前の肉体を少し弄くる』
『えッ、それって………人体改造ってことですか………ッ!?』
『安心しろ、お前の思うようなものではない。俺の持つ概念魔法の力で、お前の肉体を改変────いや、改正する』
星王エリュシオンだけが使える、世界の理をその意思によって支配する魔法。その魔法の力により、遠藤浩介のその影の薄さは彼自身が扱える能力────『
◇◆◇
そして、遠藤の操る鋼鉄の糸が収束し、ファウストの首を圧殺────切断せんと引き寄せられる。しかし、その鋼糸がファウストの首を切断することは叶わなかった。
「…………瞬間的に硬度を変化させる鋼鉄の糸か。王国も中々面白い玩具を作ってるようだねぇ」
(コイツ、首が切れて────いや、斬れないッ!?)
「おいおい、忘れたのかい?仮にもこの身体は女神のものだよ?力の大半を失ったとしても、神体が簡単に壊されると思ってたのかな?」
首を締め付けているはずの糸が、それ以上進まない。綺麗な柔肌がそれ以上の鋼鉄かのように、鋼糸を押し留めている。女神アストレアの神体、力の大半を失ったとしても純性なる神である彼女の肉体はファウストが魔神の器のスペアに選ぶほど頑丈であった。
クソ、と糸を引き戻した遠藤は悪態を零す。即座に彼は自らの能力を使い、ファウストの意識から姿を消した。当のファウストはその遠藤の消失に驚きながらも────すぐにその原理を理解した。
「成程成程、他者の意識から消えるほどの気配遮断か。この私にも作用するとは恐ろしい。これでは何処から攻撃されるか分かりようもない────ならば、こうすればいい」
意識にすら干渉するステルス能力、それが有機物や無機物にすら作用するとファウストは理解した上で、ディヴァイン・ウェポンに指令を下す。巨大な花のユニットは花弁の一枚を輝かせ始めたかと思えば────周囲の空間を、『ゾグンッ!』と削り取った。
その異変に一早く気付いた遠藤がすぐさま飛び退く。しかし、僅かに反応が遅れた。ディヴァイン・ウェポンの放つ攻撃によって削り取られた空間に巻き込まれ────踵が根こそぎ抉られた。
「あがッ!?」
「浩介っ!」
「………何で、アンタの意識から隠れてたはずッ!」
「甘いね。たとえ他者の認識から逃れても、君は世界に存在している。ならば君のいると思われる領域ごと削ってしまえば問題ない。思ったより勘が良くて助かったね、両脚は持っていけたかと思ったけど…………残念」
その場に転がる遠藤が傷口から溢れる血を抑えさながらもファウストは睨む。ファウストからの答え合わせを聞いた遠藤は「力技かよ………」と呆れながらも敵意を隠さずに睨みつける。
「遠藤くんっ!」
「────今度は君の番だよ、白崎香織。彼等のように、派手に踊ってくれよ?」
そう言うや否や、遠藤の身を案じた香織に目掛けて攻撃を開始するファウスト。ディヴァイン・ウェポンから分離した飛ぶ剣が複数本香織に迫るが、香織は『飛流星』による加速で掻い潜りながら、ファウストの意識外へと移動し、両手の十指に光を込める。
「『
放たれるは、『星弾』の上位魔法。十指から放たれる光の弾は通常の『星弾』よりも破壊力に特化した攻撃魔法である。ファウストがバリアを展開した直後、バリアに接触した光弾が凄まじい光となって爆裂、連鎖爆発を引き起こしてバリアを強引に破壊させた。
「実に、面白い。君をあの為だけに使い潰すのは早計かと、私が立てた計画ながら躊躇いすら覚えるよ」
(…………さっき、遠藤くんの踵を消し飛ばしたあの魔法。周囲の空間が消滅した…………信じられないけど、もしかして)
「────『空間魔法』」
ポツリと、そう呟いた香織の言葉に、ファウストは笑みを消して驚いたように目を見開く。そんなファウストの動揺を悟りながらも、香織は静かに問い掛けた。
「さっきの、遠藤くんの踵を消し飛ばしたあの力は、『空間魔法』によるもののはず。でも、きっとそれだけじゃない。貴方はもっと他の神代魔法を会得………いや、再現してるはず。私達の、ハジメくんの使ってた魔法を観測しただけで」
「────やはり、君は殺すには惜しい。何より、素晴らしい」
その実情を、ファウストは隠すことなく肯定した。それも、香織への敬意と期待、あまりにも余裕に満ち溢れた態度のままで。
「ご明察。この力は神代魔法であり、神代魔法であらず。私が君達の旅路を観測し、君達の使った神代魔法を観測と解析をして発現させた『レプリカ』だ。『再生魔法』はまだ模倣には至ってないが、どうせ時間の問題だ。
────そして、悲しいがお遊びもそろそろ終幕だ。私もそろそろ、本来の目的を果たさねばなるまい」
そう告げたファウストの挙動に、香織達は身構える。だが、それすらもファウストは愉快そうに笑った。安心していい、と言わんばかりに彼は気さくに語り始めた。
「警戒しても遅いよ。もう既に仕上がっている…………所で、私の今保持している『神代魔法』のレプリカってなんだっけ?」
「…………」
「『再生魔法』は無いと敢えて言ったから、三つさ。『生成魔法』に『重力魔法』────そして最後に」
「白崎ッ!後ろだ!」
誰よりも早く気付いたのは、倒れ伏していた一人であった剣城である。『神眼』という最強の眼を有する彼は、本来見えるはずのない魔力の起こりを感知していた。それ故に叫んだが────ファウストの言う通り、間に合わない。
ドスッ、と白崎香織の胸を一本の剣が貫いた。生じた亀裂は、空間魔法によるもの。心臓を抉るように突き立てられたその刃は、香織にとって明確な致命傷だった。
「………けふ、うッ」
「「香織ぃっ!」」
「『空間魔法』による攻撃は、流石に君でも感知できまい。これこそが神代魔法の強み。良いじゃないか、面白いじゃないか。そして────ここに来て、取っておいた駒が役に立つのさ」
血を吐く香織に、悲鳴を上げる一同。光輝や雫が叫ぶ中、ファウストは愉快そうに微笑みながら解説していく。不意に、ファウストの最後に付け足した言葉に疑問を持った雨音だったが、その答えはすぐに明らかになった。
「ひッ、ひひひひひッ」
「ひやま、くん………」
「香織ぃ、やっと、お前を手に入れ、られる………その為に、ホントに、我慢したんだぜ………?ファウストに、腕を切られて、変なもの与えられてから………傷口が、頭が、痛くてさぁ。それから、ずっと声が、響くんだよ…………『アクシア様』とかなんとか、腕の方が熱くて熱くて仕方ないんだよ」
空間の亀裂から姿を見せたのは、彼等のクラスメイトであり数ヶ月行方不明になっていたはずの檜山大介であった。しかし、その様子は彼等が見た姿とは異なり、明らかに異様な雰囲気を感じさせている。左腕は灼熱を溜め込んだように熱を帯びたものへと変貌しており、影に隠れていた彼の顔は狂気的に歪んでおり、ストレスによる影響か血走った目や黒く浮き上がった血管の色が、あまりにも異常な様子を示していた。
「ファウストッ!お前、檜山に何をした!?」
「……………ああ、『ソレ』のこと?」
檜山を『ソレ』呼ばわりするファウストの態度は、明らかに檜山を特別視していない。それどころかモノのように扱う様子は、彼にとって檜山大介は、中村恵理やアルマとは程遠い価値の存在であることは目に見えていた。先程、檜山を『駒』と呼んだことからそれが明白だろう。
「エリュシオン王にペラペラとチクってくれた後、助け出す為に腕を切り落としたのさ。腕から抽出した血液を適当にばらまいて彼の死を偽装してね?まぁ流石に片腕を奪ったのは可哀想だから、私が回収したサンプル────ウルの町で戦死した魔人将の魔力を再現した腕を付けてあげたのさ。『魔物食い』をした血液の影響で、彼自身おかしくなりかけたけどね」
魔物の血肉は人間にとって毒である。その血を取り込んだ檜山はその拒絶反応による猛烈な苦痛と肉体の破壊を味わった。それでも死なずに力を得たのは、ハジメのように半永久的な治癒を施されたことによるものだった。神水によって魔物の血肉に適合するまで回復し続けた彼のように、檜山大介はその血に適合する為にファウストによって無理矢理延命を受け続け、素体とされた魔人将ラーヴァと同じ力を得られたのだ。
心臓を貫かれても、香織はまだ意識を保っていた。治癒魔法で自らの傷を再生させながら、自らを抱き締める檜山から抵抗し抜け出そうとする。しかし、魔法を使おうとしたその瞬間、彼女は突如として苦しみ出した。
「う、ぐッ………あああッ!!?」
「はっはっはっ、効いてきたねぇ。彼の剣には私の力を、魔神因子を込めてある。私の力に漬けた、純度100%の魔神の力さ。純度の強い魔人の力は、人間にとっては猛毒に等しい。君の肉体も、いつまで持つかな」
「ひひひっ、ファウスト……!俺に約束しただろ、香織を、俺のモノにする為に…………早くしてくれよぉ」
「全く、せっかちだね。まぁ君には白崎香織をあげるよ。私が取り込み、再現した彼女をね。オリジナルは私が貰うよ、後々必要だしね。優しい私に感謝してくれたまえよ?」
「…………左腕を切り落としてモルモットにしたのに優しいとは?」
「あー、あー、あー!聞こえないなぁ!都合の悪いことは何一つ聞こえないなぁ!────さぁ、檜山くん。早く、白崎香織を我が元へ」
ファウストの持つ魔神の血を流し込まれ、細胞や肉体を蝕む魔障の力に、香織はもがき苦しむ。檜山の要求に適当に応じた所で、アルマからの指摘にふざけ倒していたファウストの淡々とした要求に、檜山は素直に従った。ズルズルと足を引きずりながらも、香織を抱きしめながらファウストの元へと連れ出す。
「ざけんなテメェ────ッ!!」
「白崎さんに、手を出すなッ!」
「────出させてもらうよ。存分に」
復活した佐竹と遠藤の二人が、ファウストへと飛びかかる。重装の鎧を身に纏い地面を滑り抜けながら破城槍を構える佐竹と周囲を無数の鋼糸で囲みながら斬り刻もうとする遠藤に、ファウストは見向きもせずに指を鳴らす。
その瞬間─────二人は一気に、地面に叩きつけられた。文字通り、比喩ですらなく。
「うッ、がァ………!」
「これは、これが………『重力魔法』っ!?」
「正解だよ、レプリカと言えど重力は重力。君達人間には簡単に耐えられるものでは…………ん?」
「舐めんじゃ、ねぇよ………ッ!テメェ、俺がこの程度で、諦めるとでもォ────!」
「やるじゃあないか────なら、その十倍だ」
『ディヴァイン・ウェポン』から放たれる重力魔法による領域内の圧砕。倍増した重力によって地面に叩きつけられる中、必死に立ち上がった佐竹がファウストに破城槍を突き立てんとゆっくりと歩み寄る。それを褒め称えながらも嘲笑ったファウストは、更にその倍の重力によって佐竹を今度こそ地面に縫い付けた。
「香織を、離しなさいッ!!」
「ヤダね。そして君達の相手は…………これで充分だ」
動き出した雫たちが、一斉にファウストの元へと駆け出す。香織を救い出そうとする彼女達に、ファウストは重力魔法を叩きつけることなく自らの影から無数の魔獣を排出して、それをけしかけた。無数の魔獣、ファウストによって作り出されたキメラたちがファウストを阻む壁となり、雫や雨音たちを抑えていく。
「あああぁぁぁあッ!!お前らあああああッ!!!」
そんな中、そんな魔獣の群れを斬り捨てるのは天之河光輝。大切な幼馴染を手に掛けられ、汚されそうになる光景を前に激しい怒りに燃える光輝は全身から銀色の光を纏い────『覇潰』を発動したまま大量の魔獣を薙ぎ払って突き進む。
そしてあと一歩の所まで迫り、肉薄する。香織を抱き締める檜山から救い出そうとした所で、ゆっくりと前に出たファウストが全身から影を噴き出した。また精神攻撃か、と警戒しながらも光輝は迷わずたたっ斬ろうと覚悟を決めて聖剣を振り翳す。
【────やめ、て】
【たす、けてぇ】
【オニイチャン】
────しかし、振り切れなかった。ファウストの影から響く声は、さっきまでのような無造作な悲鳴ではなかった。複数の声の塊は、光輝の振り下ろそうとした聖剣の刃に怯えるように、縋るように懇願を、救いを求めていた。
「う、ぅぅぅぅ…………ッ」
「『こう』すれば、斬れないんだよねぇ?君達人間ってヤツは、生命を軽視するクセに、生命を尊ぶ。中途半端だから、君達は進化できない」
ファウストに支配されながらも、救いを求める魂が宿る影から顔を覗かせながら、ファウストは泣きそうな顔で聖剣を止める光輝を心の底から嘲笑った。そして再び、蛇型の魔獣によって光輝を噛みつかせながら吹き飛ばす。今度は抵抗されぬように、複数の魔獣で無力化しながら。
「ファウスト………連れてきたぞ。これで、白崎を、香織を、俺のモノに………!」
「しつこいなぁ、約束は守るよ。その前にやることを済ませておかないと、ね。…………………?」
血を吐く香織を連れてきた檜山は何度も何度もそう聞き返す。極限状態でマトモに思考が働かないことを思い出しながら、香織へと手を伸ばしたファウストは────その手を止めた。
「わが、まどう…………ほしのながれる、かがやきのはて………われ…………むげんのせいかいに───せんこうを、きざまん」
「まさか、その状態で魔法を────」
「この距離、なら………ふせげない────【
血を吐きながらの詠唱、ファウストがそれに勘づいた時には詠唱は終わっていた。添えるように伸ばされた両手がファウストの、女神の胸元に伸びたその瞬間、輝かしい閃光が溢れる。
空に伸びる一条の光が、ファウストの姿を────女神アストレアの肉体を、胸を貫いた。ふらっ、とよろける銀髪の女神に、香織は安堵したように笑った────直後、女神の手が、香織の喉を締め上げた。
「────やってくれたねぇ、白崎香織。まさか捕まったことを利用して至近距離で一撃浴びせるとは………お陰で胸に穴が空いちゃったよ。どうしてくれるのさ、折角の神体を」
「心臓を、核を……潰した、のに………生きてる、なんて………」
「イクスから聞かなかったかい?女神アストレアは既に死んでいると、私は彼女の肉体を生かしているんじゃない────死体を動かしているんだ。死体を殺せるはずがないだろう?」
そう笑うのは、心臓のある部位に穴を空けられた女神アストレアの神体。その神体に空いた穴から無数の影が、覗く。ファウスト本人はその影の中で潜みながら、今も神体を操っている。だからこそ、攻撃しても意味はない。いくら女神の神体を壊しても、中にいるファウストにダメージはないのだから。
「直接、君に私の持つ魔神の力を流し込もう。そろそろ、限界になるんじゃないかな?」
「────ぁ」
「安心するといい、君は報われるよ。ほら、すぐにでも『彼』も同じ場所に送ってあげるさ」
ビキビキビキッ、と魔神の因子が香織の肉体を更に侵蝕していく。それは、死に瀕していた香織にトドメを刺すには十分すぎた。皆の叫びが響く中、ファウストの手の中で────香織の瞳から光が消えた。
その瞬間────ガラスの割れる音が響く。ソレは、結界の破壊音。無理矢理にでもファウストの展開した結界を破って入ってきた者を意味する。全ての動きが止まる中、侵入者である青年は隻眼を細めた。
「────一体、どうなってやがる」
南雲ハジメは、何が起こってるかは理解できずともどういう状況かは大方察した。そして、そんな彼の登場に明確な反応を示したのは、他ならぬファウスト。彼はそんなハジメの登場を知るや否や美しい女神の表情を歪めるほどの狂喜に満ちた笑みを浮かべ、悪意をむき出しにしていた。
佐竹も遠藤も原作よりもパワーアップしてますけど、ファウストに一方的に遊ばれてると思いますけど、そこはファウストの方がやり手なんで。光輝ですら魔獣をけしかける(人質を使った上で)レベルなんで、二人がどれだけ認められてるかは明白です。
今回の話で遠藤の影の薄さがエリュシオンの手によって固有の能力として覚醒しました。『無影』の能力は、あらゆる生物無機物に対する気配遮断です。しかも自分自身を認識できないように意識にも干渉するタイプの異能。あんまりにも反則、対応されてましたけどファウストも居場所を見つけられなかったので(だけら範囲全てを押し潰すとか力業で対処した模様)。
そして、ファウストの編み出した『ディヴァイン・ウェポン=ALPHA』ですが基本的にはファウストの火力支援ユニットである一方で、ファウストがハジメ達の戦いから解析した神代魔法のレプリカを搭載してます。本人の属性が元学者なんで頭おかしいことでも平然とやり切るんですよ、怖いわ。
そんなファウストですが、恵里やアルマに対して情を抱いているのには明確な理由があります。それは、目的の為ならどんなこともする覚悟を持つ相手への個人的な感情です。狂う前のファウストも、娘を取り戻す為に魔神に成ろうとした訳ですし。光輝を手に入れるために裏切ることを決意した恵里と大きな目的の為に暗躍するアルマを個人的に気に入ってます。
逆に言えば、常に周りに流されて自分自身の意思を持てない相手は心の底から見下してます。光輝に対して興味がないと言い切ったのも一つの理由ですけど、まだ光輝には優しい方(中途半端だけど仲間や皆を守ろうとしている意志は貫いてるため)
…………おや?ファウストが嫌うような、中途半端な立ち回りしかしてない奴がいるぞ?自分の好きな人が好きな相手をイジメた上で罠に嵌めて破滅させようとしたけど、保身のあまり自分を正当化した挙句に生き延びる為に利敵行為したH.D氏(イニシャル)は、ファウストにどう思われてるのかな??(今回の話の扱いから明白ですけども)
さて、次回も盛り上がっていきます!王域、ユエの妹であるアンリエスタと激戦中であったはずのハジメが何故来れたのか、ファウストとの戦いは如何に!
お気に入りや感想、評価なども是非ともよろしくお願いします!それでは!!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場