ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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オルクス大迷宮

聖教教会。

エヒト神を信仰し、人類全体にまで広がっていたが、かつての大戦で影響力を大きく失った宗教組織。

 

しかしその権威はまだ残っており、教会も世界各地にちらほらと残っている。辺境とも言える場所にも、教会は存在していた。

 

 

だが、その一つである教会は炎に呑まれていた。

 

 

 

「う、ああ…………」

 

 

その教会の司祭である老人は、ゆっくりと起き上がる。爆風に晒され、吹き飛ばされたことにより、顔に傷が出来たのか、僅かに血が流れていた。

 

 

燃える教会の中には、神殿騎士達の死体が転がっている。どれも精鋭達であった。総本山とは欠け離れていようと、そこらの魔人族に負けるはずがないと、そう思っていた。

 

 

たった二人の男女によって、襲撃を受けるまでは。

 

 

「まだ生きていたか」

 

 

ザッ、とその一人が司祭に気付く。ガタガタと震えながら振り返った司祭は、言葉にならない悲鳴を上げる。黒いローブを纏う青年は静かに、グレネードランチャーを向ける。

 

 

「────最後に聞く」

 

「………ッ」

 

「魔神連合について、知っていることを答えろ」

 

 

でなければ殺す。言外にそう示す青年はグレネードランチャーの引き金に指を掛ける。カチカチ、とシリンダーが回転し、榴弾が撃ち込まれそうになる。

 

 

青ざめたように震えていた司祭だが、目の色を変えたように、不適に笑い、叫び出した。

 

 

「抜かせ………!神に渾なす咎人がっ!」

 

「…………」

 

「貴様のような罪人など!必ずエヒト様が滅ぼしてくださる!いずれ下る神罰に、恐れおののくがいいわ!」

 

 

答えはいらなかった。青年は引き金を引き、榴弾を司祭の顔へと撃ち込んだ。それが顔に直撃する瞬間、周りを巻き込んで凄まじい爆発を引き起こす。

 

消し飛んだ司祭の居た場所を軽く見ていたイクス。彼はその向こうにある神像、エヒト神を模した彫像を睨みながら、口を開く。

 

 

「…………貴様は神ではない。信徒を救おうとせぬ神が、神であるものか」

 

 

かつての光景と照らし合わせ、軽蔑するようにイクスは吐き捨てる。そして、迷うことなくグレネードランチャーの榴弾を、神像へと撃ち込み、容赦なく爆散させた。

 

 

「────イクス」

 

 

ふと、声が響く。振り返ると、銀髪碧眼の美人な女性。聖騎士のように軽い装備を身に纏う彼女は、血に濡れた剣を振り払い、イクスの元へと歩いていくる。

 

 

「ノイン、答えは得たか?」

 

「………貴方の望んだものはありませんでした」

 

「そうか」

 

「だが、興味深いことが一つ」

 

 

彼女はもう片方の手に持っていた書物を見せる。「……これは?」と聞いたイクス、ノインと呼ばれた女性は淡々と答える。

 

 

「最近の、エヒト神の神託を記録したものです」

 

「………この世界の神の言葉なぞ、興味はない」

 

「神託の中に、魔神の単語が確認できました」

 

「……………話せ」

 

 

燃え盛る教会の中で、ノインの語る内容を静かに聞く。僅かに反応した後に、イクスは表情を消した。少しの間悩むイクス、しかし彼はすぐに立ち上がった。

 

 

「……………もうここに用はない。行くぞ」

 

「信託はどうします?」

 

「捨て置け。燃やせば勝手に消える」

 

 

立ち上がり、教会から出ていこうとするイクスの言葉に従い、ノインは書物を炎の中に捨てた。闇の中へと消えていく二人に誰も気付くことなく、異変に気付いた者達が見たのは、完全に燃えきった教会の跡地であった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「どういうこと、ですか!?」

 

「どうも何も、明日から勇者一行はオルクス大迷宮での訓練に入る。実戦訓練という形だ」

 

 

エリュシオン王の言葉を聞いた愛子先生は戸惑うしかなかった。オルクス大迷宮について詳しくないが、七大迷宮と呼ばれ、多くの冒険者達が攻略に専念し、数人しか突破出来なかったとされる危険な場所。

 

そこに生徒達が向かわされる、その話を聞いた愛子先生はなりふり構わずエリュシオンに噛みついた。

 

 

「ど、どうしてですか!?まだ早すぎます!実戦に出向くのは、最低限の実力が整う一ヶ月後までって………まだ二週間しか!」

 

「─────教会が、口出ししてきた」

 

 

歯噛みするエリュシオンの一言に、凍りついた。話によれば、彼等は自分達を呼び出した元凶の一因とも呼べる存在。挙げ句に戦争の手駒にしようとしてたのだ、良い印象など抱けない。

 

 

「王国内部での訓練を一ヶ月続けても意味がない。ならいっそのこと、迷宮で迅速に力を付けるべきだと、教皇が言ってきてな。最悪なことに、脅しまでしてきた」

 

「脅しとは………?」

 

「この決議を拒否した場合、ハイリヒ王国はエヒトに仇なす神敵として、人類の敵として扱われるだろうな」

 

「────そんな」

 

 

断ることも出来ず、生徒達を戦場に送るしかない事実に愛子は凍りつく。エリュシオンの語った通り、1ヶ月後なら不安ながらも余裕はあったからこそ、受け入れた。それなのに、時期を早めるなど不安しかない。

 

生徒の一人にでも何かあったら、彼女は心労で倒れかねない。先生として、そんな事は一度たりとも許せないのだ。

 

 

「なら!少なくとも!戦えない子だけでも!非戦闘職の子だけでも、王都に残すことは出来ませんか!?」

 

「………無理だ。少なくとも、全員向かわせるようにと釘を刺されてる。非戦闘職であろうと、実力を高めるのが一番だとな」

 

 

青ざめている愛子には言わないが、エリュシオンは奴等の考えを見抜いている。おそらくは、犠牲が出ることも考えているだろう。それはそれでいい。犠牲が出た場合、管理責任でハイリヒ王国を糾弾すれば良いのだから。

 

どちらにしても教会としては都合が良い。この事実は流石に彼女には言えない。どれだけ取り乱し、ショックを受けるか目に見えているから。

 

 

「どうして、突然こんな事を」

 

「…………最近、魔神連合の動きが大きくなっている。お前達が来た時も、最近も、教会の末端も潰されていることが多い。現教皇、イシュタルのクソジジイの立場も揺らぎかけている。大方、勇者を活躍させることで自分の立場を固めようとしてるんだろうな」

 

 

忌々しいと、エリュシオンは眉をひそめる。あの老いぼれを殺せるなら今すぐやりたかった。しかし、それが出来ない理由がエリュシオンにはある。自らの弱点が教会に狙われている以上、反抗的な姿勢を強めることは厳しいのだ。

 

 

「畑山愛子先生、貴方に伝えておくことがある」

 

 

ふと、エリュシオンが愛子に語り掛ける。相当心苦しかったのか、辛そうな顔をする彼女が少しだけ喜べる話を告げた。

 

 

「全員とは言ったが、厳密には違う。奴等との話し合いの結果、一人だけ生徒を置くことが出来た。その一人を、指定した生徒をオレの元へ連れてくるように」

 

 

一人だけ生徒を残せる、そのことに安心する一方で一人しか残れないことに複雑というか悲しそうな愛子先生。そんな彼女が驚愕するようなことを、エリュシオンは言った。

 

 

「黒鉄刃。アイツには話しておきたいことがある」

 

 

 

◇◆◇

 

 

「────は?俺だけ王都に残れと?嫌ですけど」

 

「そうか、嫌かぁ」

 

 

呑気な様子で、バッサリと否定した刃を見るエリュシオン。本来なら、不敬だと部下達が飛び出してきても可笑しくなかった。

 

しかし、ここにはエリュシオンと刃しかいない。事前に軽く接してくれて構わないと付け足したからこそ、刃はアッサリと断言したのだ。

 

 

「当然っす。親友が行くなら俺が行かない道理がない。悪いけど、他の奴にでも相談してください」

 

「それは困るな。個の戦力として頼れるのがお前くらいしかいない」

 

「…………光輝や委員長とかいるっすけど」

 

「賢者と勇者か。賢者の方はダメだな。個としての戦力も優秀だが、アイツは指揮能力が高い。非常時の迷宮で役に立つはずだ。勇者は当然論外だ」

 

 

露骨に言い切ったエリュシオン。軽々しく候補にすら無いと言われる辺り、少し同情したいが、自業自得なので擁護はしない。代わりに、そこまで言う理由が気になった。

 

 

「割と淡白っすね。アイツ、そんなにダメすか?」

 

「────実力は申し分ない。勇者一行の中で一番強いお前に届き得るが、精神がダメだ。致命的だ。幼稚で単純なガキだ。殺し合いというものを何一つ理解していない、綺麗事を信じて疑わない」

 

 

実際、そうだと思う。勝手に戦争に参加すると言い出したことに、咲夜もそのことに苦言を呈していた。その場では言わなかったが、仲間達にも人殺しを強制させる気かと。

 

 

刃もそうだと思う。

誰かを守りたいという気持ちを持つのは良いが、せめて現実を見てほしい。戦争という時点で、話し合いは通じないのだ。そこにはもう、相手を殺すか、相手に殺されるしかないと言うのに。

 

 

余程気に食わなかったか、エリュシオンは容赦なく光輝を評価していく。辛辣かつ遠慮のない言葉には、刃も苦笑いするしかなかった。

 

 

「理想だけを信じ、その理想に殺されるタイプだ。最悪なことにカリスマもある。あのままでは何人か道ずれを作るな。…………まぁ、お前にやってもらいたいことは少なくとも、奴には出来んだろう」

 

「?俺にやってほしいこと?」

 

「そう。それこそが、お前を王都に残したい理由だ」

 

 

一瞬で切り替え、真面目な様子になるエリュシオン。指を鳴らし、何故刃だけを王国に取り残されることになったのか、その理由を語った。

 

 

「────王都で人為的な騒動が発生する。その隙を狙い、教会の刺客が王都に侵入する。それの対処を任せたい」

 

 

は?と驚きを隠せない刃。情報量が流石に多すぎる。人為的な騒動だの、教会の刺客だの、何となく分かるがそれだけだ。

 

不服そうな顔で、刃は疑問を漏らす。

 

 

「…………何で分かるんすか?そんなこと、普通は分からないと思うんすけど」

 

「先日、オレの妹に手を出そうとした教会の鼠を捕えた。鼠を調理した際に、そんな話が聞けた訳だ」

 

 

遠回しな言い方をするエリュシオン。おそらく妹であるリリアーナ王女を狙った教会からの刺客の口を割らせたのだろう。

 

的確な情報を提示しながら、説明を続けていく。

 

 

「実働部隊は三つ。その内の二つは精鋭だが、こちらで対応する。少数の本命は、お前に任せたい」

 

「王の剣って奴は?そいつらに任せるんじゃダメ何すか?」

 

「教会の奴等は慎重なんでな。王の剣が表側に見えないと、やり方を変えてくる可能性がある。今回の襲撃を確かに押さえて、教会へのカードにしたい」

 

 

どうやらその人為的な騒動は多数のモンスターの襲撃らしい。魔人族の従えた形ということで、迫り来るモンスター達を王の剣達が足止めすることで、刺客達は安心して王城に攻め込んでくるとのこと。

 

刃はその一つ、本命の少数を倒す────殺して欲しいという事なのだろう。正直、王への恩義もあるから、迷いはない。人を殺すことも、そうだ。

 

 

だが、何故自分が出ることになったのか、その理由はすぐに判明した。

 

 

「奴等の狙いは非戦闘職の畑山愛子だ」

 

「…………先生が?」

 

「非戦闘職である彼女を、教会は価値無しと断じたのだろう。ここで暗殺し、ハイリヒ王国に失態として追及するということだ」

 

 

………ギリッ、と刃が奥歯を噛み締める。人を人とも思わないやり方。自分達で召喚しておいて、期待外れなら殺してその死すら利用しようとする連中のやり方に怒りが押さえきれない。

 

それ以上に、愛子先生が狙われるという事実も許せなかった。刃は、彼女のことを悪く思っていない。それどころか、良い人だと思う。

 

不良である自分に臆することなく、注意をしてくる事が多い。自分に怯えて距離を取ろうとする大人とは違い、明確に心配して本気で説教してくれるのだ。

 

 

そんな人が殺されるかもしれないというのに、見殺しにするほど刃は情を捨てたつもりはない。むしろ彼女を守るという話さえ最初に話してくれれば、拒否なんぞしなかった。

 

 

「分かりました。俺が残ります。この作戦、俺にやらせてください」

 

 

親しい人達を守るためなら、敵である誰かを殺すことに迷いはない。弱い人達を平気で傷付ける奴等をぶちのめすために、刃は暴力を選んだのだ。

 

誰かを傷付ける時点で、殺す可能性は頭にあった。今更、それに抵抗を覚えるつもりはない。

 

 

「─────黒鉄刃」

 

「………なんすか?」

 

「すまない」

 

 

振り返った時には、目の前で王が頭を下げていた。高慢そうな立ち回りとは裏腹に、悔いるように噛み締めた口元には血が滲んでいる。

 

土下座しかねない様子のエリュシオンは、悲痛そうな声で語り出す。

 

 

「本当ならば、これはオレ達がやるべきことだ。それをお前に、別世界の人間に頼ることになってしまった。あれだけの啖呵を切ったにも関わらず、お前達の力を求めるオレは、恥ずべき王だ」

 

「…………」

 

「本当に、すまない。この世界の事情に、君達を巻き込んでしまったオレ達の愚かさを、恨んでくれ。理不尽だと、オレ達を許さないでくれ」

 

 

そうか、と刃は理解する。

この人は、優しかったんだ。故郷から引き離され、神の駒として利用されるはずだった自分達を匿ったのは、心からの善意だった。

 

王国より自分達を優先させたわけでもなく、どちらも守りたかったから、必死に悩んで、何とかしたかったのだろう。だからこそ、この事態に一番迷ってくれたのだ。

 

 

守りたかった自分達に、進んで戦場に出て欲しいということは、相当辛かったはずだ。一番恨みたいのは、許せないのは、エリュシオン本人だろう。こうするしかない自分の無力さを、噛み締める程に呪うことしか出来ないのだ。

 

 

どういう言葉を言えばいいか、分からなかった。だからこそ、困ったように刃は口を開いた。

 

 

「いや、普通なら感謝したいくらいっすよ」

 

「…………」

 

「本来なら教会に利用されるはずだった俺達を保護してくれて、休む場所も与えてくれて、ここまで鍛えてくれた。それに俺も報いたいとは思ってました。

 

 

 

その…………あいつらの事、心配してくれてありがとうございます。これからも、何かあったら言ってください。俺も力になりますから」

 

 

深く頭を下げたエリュシオンは、数秒の間沈黙していた。しかしその後、「…………感謝する」と小さく呟いた。

 

 

心の奥底で刃は覚悟を深めた。戦う理由が増えた、この人達に報いたい。自分達の居場所となったこの王国の為に、全力で戦おうと、胸に宿した決意をより強く刻んだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

それから翌日、オルクス大迷宮についたハジメ達は順調に攻略を進めていた。一階層で全員の戦い方を確認したメルドは己の判断に従い、二十階層までの攻略を許可した。無論、安全を考慮した上での提案である。

 

 

 

そして、二十階層にて。

 

 

「────オラぁ!!」

 

 

ズガァン!!、と盾に身を隠したまま突撃した広大が、そのままの勢いで大柄の魔物を含めて魔物の群れを薙ぎ払う。転がった魔物にトドメを刺すようにメイスで的確に潰していく。

 

 

ガーディアンの転職の通り、防御が高い広大。彼は味方への攻撃を的確に防ぎながらも、積極的に相手への攻撃を行っていく。魔物の群れに出来た隙を逃さぬように、飛び出す影があった。

 

 

「────フッ!ハッ!」

 

 

両手に持つ扇を振るい、舞うように群れを突き抜けていく雨音。舞踏家の技、『風刃の舞い』により生じた風が、魔物を一気に切り裂いていく。

 

 

そうして敵陣をかき乱していく雨音に、魔物の一体が飛び出す。呼吸を整えるために、動きを止めた彼女の舞いは止まっている。気付いた時にはゴリラのような魔物が拳を打ち込もうとして────

 

 

 

 

「───“錬成”!!」

 

 

突如として、バランスを崩して倒れ込む。驚いていた雨音の前で、ゴリラの魔物を槍が貫く。槍の持ち主であるハジメは、雨音に声をかけた。

 

 

「雨音さん!大丈夫!?」

 

「…………っ!はい!ありがとうございます!ハジメさん!」

 

 

軽く頬を赤く染めながら、雨音は感謝を述べる。そんな二人に、壁に擬態していた魔物が勢いよく飛びかかろうとしていた。

 

 

 

「────“縛光刃”×4」

 

 

その魔物を空から飛来した四つの光の十字架が捉え、拘束した。単なる魔法の詠唱ではない。たった一度の詠唱で、同じ魔法を四回分発動したのだ。

 

 

二人の前に歩み出た魔法の使い手───咲夜は更なる詠唱を続ける。

 

 

「“緋槍”×10────同時発動」

 

 

円錐状の炎の槍を空中に十本作り出す。そして動けずにいる魔物に向けて、一斉掃射した。あまりの威力により、着弾した瞬間爆発が炸裂する。

 

 

風圧に押され、尻餅をついたハジメや見ていた雨音に振り返った咲夜は嘆息しながらも注意を促した。

 

 

「余所見をするなよ、二人とも」

 

 

素直に謝り、戦闘態勢に戻ったハジメと雨音を見て、咲夜はふと笑う。心の底から漏れた笑みに気付きながらも、彼はそれを直そうとは思わなかった。

 

 

(こんな状況で不謹慎だが………案外、戦うのも悪くない)

 

 

特に、仲間と協力して戦うのも楽しいと思う。少なくとも、信じられる仲間と肩を合わせることが、咲夜としては喜ばしいことだった。

 

ある程度魔物の群れの一つを殲滅したハジメ達はそこで一休みすることにした。

 

 

「はー!!ったく、疲れたぜ。実戦ってのも、楽じゃねぇなぁ!」

 

「その割にはまだまだやる気がありそうですね。広大さん」

 

「………いや、スゴいね。二人とも、僕もうヘトヘトだよ」

 

「無理もないさ、これから慣れていけばいい。あまり卑下をするな」

 

 

一段落して安堵している一同だったが、直後にドデカイ音が響く。何事かと思いそちらの方を見ると、大技を使用した光輝がメルドから拳骨を食らっていた。

 

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」

 

「うっ………すみません………」

 

 

 

 

「………うはー、痛そーだな。俺は食らいたくねー」

 

「全く、某天之河さんにも慎重さがありませんね。どうせ崩落するなら御一人で巻き込まれて欲しいものです」

 

「その通りだな。感情的に技を使われて巻き込まれたら困るんだ。もう少し危機感を持って欲しいな」

 

「ま、まぁ………ああいう大技を使いたくなる気持ちは分かるから」

 

 

能天気に拳骨を気にする広大。こんな狭い通路で考えも無しに技を使った光輝に対する辛辣な物言いの雨音と生真面目な咲夜の言葉に、ハジメが困ったように笑いながらも擁護する。

 

 

一段落休み、咲夜達は光輝達と合流した。一目散にハジメに近寄る香織を見て不満そうな顔で苦言を呈するつもりだった光輝だが、露骨に威嚇する広大と雨音、余計なことするなとばかり睨む咲夜によって引き下がる。

 

 

軽くいちゃコラするハジメと香織を楽しそうにからかう雨音と広大の外野二人。少ししてから、戻ってすぐに雫にからかわれて真っ赤になった香織を見送った咲夜は、不安そうなハジメに声をかけた。

 

 

「どうした?ハジメ」

 

「いや………何だかさっきから、変な視線を感じるんだ」

 

「変な視線?」

 

「うん、ゾクッてする………嫌な、暗い視線を、さっきから何度も」

 

「………………」

 

チラチラと周りを見ながらも小声で話すハジメに、咲夜は険しい顔で考え込む。ハジメの気にしすぎ、と言えばそれだけだ。しかしハジメの考えすぎには見えないし、嘘とも思えない。

 

 

何より、その暗い視線には心当たりがある。咲夜の脳裏には、一つの答えが浮かび上がっていた。

 

 

「…………あの、考えすぎてたかも」

 

「いや、間違いじゃないかもしれない。近くで魔物でも隠れているのかもしれない。索敵に気を掛ける、よく言ってくれたな、ハジメ」

 

 

軽く会話を交わした咲夜。彼は周囲の生徒に目を配り、強い警戒心で注意を働かせる。すると突然、誰かが声を上げた。

 

 

「あ、あ!」

 

「?どうした?」

 

「あ、いや………なんかあれ、光ってません?」

 

 

露骨に声を出した檜山は、ふと光ってる場所を指差した。そこはさっきの光輝の攻撃で崩れたらしく、近くには岩が転がっている。その壁に目立つように、光る鉱石が剥き出しになっていた。

 

 

「アレは、グランツ鉱石だな。大きさも中々だ、珍しい」

 

 

他の鉱物のように、大した能力もないただの鉱石だ。しかし涼やかな輝きもあり、貴族などで人気なアクセサリーに使用される。

 

実際に香織や雨音もその鉱石に見惚れていた。チラチラと香織を見ていた檜山が声を上げる。

 

 

「メルドさん!アレって、取りに行けませんかね!?」

 

「しかしなぁ…………おい、アレにトラップは仕掛けてあるか?」

 

「────いえ、そのようには見えません。周囲にも魔力反応はありません」

 

「なら!自分が取ってきますよ!トラップもないなら、別に大丈夫っすよね!?」

 

「あ、ああ………だが、崩れかけてる壁だ。気を付けるように」

 

許可されたことで嬉しそうな檜山が壁を登って、グランツ鉱石を取ろうとする。その行動に少し感心する。少し前まで小悪党だった檜山がちゃんと許可を取ってから行動するとは、余程ハジメにした一件を反省したのかと考え直す。

 

 

そうして檜山が取ろうとする姿を見守ろうとしていた咲夜だが、ふと違和感に気付いた。

 

 

(何だ?あの岩肌、何かある………?)

 

グランツ鉱石の周りの地盤が何か可笑しい。まるで張り替えられたかのようなズレに、咲夜は魔力感知を強化させ、観察を続ける。

 

 

そしてすぐに、周りの岩が魔力を隠す性質の粉が混ざっていることに気付く。あまりにも用意周到かつ隠蔽に特化したその岩肌の裏に見える魔力から、咲夜はその正体を理解した。

 

 

「─────止めろ檜山!トラップだ!」

 

 

叫ぶが、鉱石に手を伸ばした檜山は止まるよりも先に触れていた。その瞬間、魔方陣が展開される。魔方陣は数秒もかからずに部屋全体に広がっていた。

 

 

「これは────ッ!」

 

「教室の時と、いやファルディウスの時と───!」

 

 

ファルディウスから逃げる際にユキナガと呼ばれる男性が使用した転移タイプの魔方陣。それに気付いたハジメと咲夜が目を見開く。慌てて退避を指示するメルドであったが、間に合わなかった。

 

 

光に視界が包まれた次の瞬間、全く別の場所へと移動させられていた。巨大な石橋の真上。到底落ちることなど有り得ない大きさの一本道の中央に、自分達は転移させられていた。

 

 

すぐにメルドが厳しい声で叫ぶ。ハジメ達と、同行していた騎士達に向けて、指示を飛ばした。

 

「────全員!警戒を!何が来るかまだ分からない!敵の存在を確認─────」

 

 

 

 

「まさーか本当に引っ掛かるなんてー、あっし拍子抜け」

 

 

女性の声が木霊するように響いてきた。全員の視線が声のする方に向いた。影が射す石橋の先。そこに誰かが立っている、それも数人。

 

 

軽い調子で笑ったのは、露出の多い女性。肩や腕、脚などが剥き出しとなった服をした妖艶な少女。皆の視線は女性の、豊満な胸に集まっていた。

 

厳密には、胸の合間から生えているどす黒い色合いの結晶。見れば両肩や手の甲にも、似たような結晶がある。

 

 

その女性とは別に、大きな影が出てきた。

 

 

『数ガ多イナ………勇者一行ッテノハ、コウイウモノカ?』

 

『ギャハハ!人間、人間ダ!殺ス!殺スゥ!アア、早ク殺シテェヨォ!』

 

『落チ着クノダ、ミドルス()ヨ。殺セルノハ勇者一行以外ノ人間ダケダ─────フム、アノ騎士トカダナ』

 

 

三メートルの異様な岩石の巨人。その首にあるのは、三つに伸びる頭部。赤と青、緑の鉱石を其々の頭部に嵌め込んだ巨大な岩石の魔人は互いの首同士で話し合っている。

 

 

その二体の魔人の間に、ユラリと動く影があった。人間サイズの大きさをした、全身鎧のナニか。ズシンと、歩き出したそれが顔を上げる。

 

 

空洞らしく黒い闇の奥に浮かぶ、それの眼が全員を捉えた瞬間、圧倒的な恐怖が皆に伝わってた。これはエリュシオンと対面した時と同じ絶対的な相手の力が伝わってくるのと、同じだ。

 

 

「………くっ、これって………」

 

「なんだよ、これ………身震いが」

 

「聖剣が………震えてる?ま、まさか!」

 

 

あまりの事に、一同の混乱が強まる。不安は一気に伝播し、大騒ぎし始めていた。メルドや光輝、咲夜が落ち着かせようとしたその時、

 

 

 

 

 

 

『─────静かにしろ、矮小な人間ども』

 

 

金属の鎧が、険しい声を発した。その声に従うように、全員が口を閉ざした。そうしなければならない、その声に純粋な恐怖を感じた故の行動であった。

 

 

一瞬で静寂と化した状況に、少女はクスクスと笑い、三つ首の魔人はそれぞれの調子で言葉を紡いでいく。

 

 

「アンタらの前にいるのは、そこらの魔人なんかじゃないし、魔人将とは違う御方なのよん」

 

『ソウダ、控エルガイイ。人間ドモ』

 

『破壊!粉砕!蹂躙!オレタチノ王!破壊ノ巨帝!!』

 

『コノ御方ハ、オ前達人間ガ相手ニナルコトモ有リ得ヌ。魔王様デアルゾ』

 

 

その二人────魔人将達の言葉を聞いた鎧が、ゆっくりと片腕を上げる。その行為の意図を理解した一人と一体はピタリと口を閉ざした。

 

 

ようやく静かになったその空間で、それは考え込んだ後に言葉を発する。

 

 

『矮小な人間風情とはいえ、名乗らぬのは些か失礼か。ならば、我が名を告げる。心して聞け、人間ども』

 

 

ガシャン、と腕をかざした全身鎧は堂々とした構えを見せた。全てを受け入れるように、どんな敵も相手するという気迫を纏うソレは全員の心に刻み込むように、己の名を宣言してみせた。

 

 

 

 

 

 

『我は魔王ガイアドゥーム。大魔王様に支えし、四魔王が一人。大地を統べる巨王である』

 

 

 

魔神連合が一角、大魔王に従う四体の魔王達。その一つ、魔人将達を遥かを超越した存在が、今目の前に降臨していた。

 




魔王登場。
まぁ、ベヒモス相手じゃあ知略担当の咲夜とか戦力が充実しているから難なく逃げられそうだし、これくらい絶望感ある敵しないとダメかなぁって。


原作読んでる方々とハジメ絶対守るって決意してた刃が別行動な時点で大体予測されてる光景があると思いますけど、そうとは限りません(胡散臭い)


あと、なんで檜山は鉱石にいち早く気付いたのかなー。そういうのあんまり興味無さそうなのになー。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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