水星の魔女OG   作:ノイラーテム

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第九話

『これより双方の合意のもと、決闘を執り行う。立会人はシャディク・ゼネリが務める』

『決闘方法は一機のモビルスーツと随伴する戦艦一隻によるレース形式』

『勝敗は総合点による採点式、またはブレードアンテナを折ることで決するものとする』

『両者、向顔』

 今までの形式に類似した決闘の開催。

 その対決も注目ながら、新方式による決闘ゆえに注目度は高い。

 

『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず』

『操縦者の技のみで決まらず』

 グエルとスレッタの対面が行われ、周囲の空間が表示された。

共にスタート地点であり、周囲に互いの船はまだ存在して居ない。今ごろはスペースポートで缶を温めたまま待機し、決闘開始と共に駆けつける算段であろう。

 

『『ただ、結果のみが真実』』

『フィックス・リリース』

 二人の宣誓と同時に両機がカタパルトで宇宙へ放り出される。

データ信号が両機に、そして大気中の戦艦へと送信された。アフターバーナー染みた使い捨てのブースターで一気に加速するジェターク艦と、基本性能自体が移動力の高いペイル艦の差はあれど、最終的には同じようなタイミングで到着するだろう。

 

「ジェターク艦に向けて移動する熱源を確認。これはグエル?」

「だと思うよ。AIに任せてデータを読み込んでるか、休んでるんだろうね」

 ミオリネが相手の動きを表示した。ジェターク側は双方ともに接近しV字の動きを見せる。

対するこちらは第一の目的地に向けた中間地点での合流を目指し、緩やかな山成りに成って居た。これは両者の船の使い道の差であり、バックアップ体制の差であろう。ジェターク側は重モビルスーツなのでグエル機を拾った方が早く、燃料も節約できる。逆にこちらは軽いので、燃料よりも移動距離を重視していた。

 

「そんなの良く判るわね」

「動きに優雅さが無い。エアリエルならもっと良い軌道を選んだと思うよ」

 ミオリネはデータを読み込みながらロウジの冗談ともつかない話に苦笑した。

決闘委員会に所属してブリオン寮に所属しているくせに、エアリエルの事を知りたくて味方になる事を宣言する奴は違った。自分が信じた方が無条件で素晴らしいと言える辺り、おそるべきメカオタクぶりであろう。

 

「第一ポイントの位置を確定。15分後の位置で再計算するわ。このライン以外でお願い」

「「命令を受諾、復唱する(コピー)」」

 ミオリネが測量の為に軌道を支持するとエラン以下ブリッジ・クルーが反応した。

今回は基本的にミオリネやスレッタの戦いであり、他の者は手助けでしかない。それぞれの目的のために、船を同じくする呉越同舟の間柄なのだ。その結論がどうであれ、全てを受け入れると決めていた。

 

「間もなくエアリエルとの合流地点。ジェターク側は既に拾って航行中」

「スレッタ。何か気付いた?」

「ええとグエルさんの機体は射撃兵装を持たない近接仕様です。接近までの時間は拾ったアイテムを使って済ませる気なのかと」

 最初に相手の姿を認めたスレッタの知見を確認。

あまり賢そうではないスレッタだが……シュミレータ経験は多く、戦闘の為の意図に関しては推測が適格だ。まあグエル専用のディランザや新型のダリルバルデは最初から射撃兵装を持たないのだが。

 

「AIは? あまり大したことはないと言ってる奴がいるけど」

「少し堅い子ですね。杓子定規な所があるので単純に戦闘したら直ぐに片付くと思います。これだけ広い場所で戦うなら、むしろグエル先輩の操縦の方が怖いですね」

「やっぱり? でも……意外とスレッタさんって自信家だね」

 操縦している時のスレッタは断定的だ。

地上に降りている時の挙動不審ぶりとは別に、データに裏付けされた自信がそこらかしこに伺える。迷いのない判断と躊躇の無い行動はそれを伺わせた。ミオリネは感心するだけだが、自信を裏打ちする経験をエランは垣間見る。おそらくはエアリエルが用意した汎用AIとのシミュレーションを何度もやったことがあるのだろう。

 

「それならギミックを拾えるエリアで邪魔しに行ってみる? 遠距離武装を拾わせなければ有利に戦えるわよ」

「むしろ貰ってるデータの方を疑うべきだとエアリエルが言ってます。出来るだけ追加情報を得るために動くべきかと……で良いんだよね? だ、そうです」

「ボクも賛成。シャディクが通り一辺倒のデータを用意しているとは思えない」

 ミオリネは相手を封じる攻撃的な策を提案し、スレッタ(エアリエル)とエランはデータを重視した。

レース形式は初回ゆえにコースに対する工夫がまるで分って居ない。何らかのダミーが用意されていたり、ポイント標識がエネルギー流によって流されている可能性は否定できないという。

 

「あっそ。それならとっくにコース取してるわよ。十分に離れたところで二度目の計測をするつもりだけど、この調子ならもう何度かした方が良いかもね」

「さすがミオリネさん!」

 これは経過報告のようなものなので誰も口を挟まない。

三角測量のような感じで指定ポイントを確認し、航法データとして打ち込み途中までは自動操縦で移動。繊細な操船やセンサーの管理が必要な所までは楽をして数が少ないメンバーを労わっておく。いまはエアリエルの推進材補充位だが、戦闘が起きればビームライフル用のエネルギーパックや簡易補修も必要なのだから。

 

 ある程度の移動をしたところで、第一ポイントの詳細と第二ポイントの簡易データが送られてきた。意地が悪いのはポイントそのものの配置は変わって居ないが、マイナスポイントのエリアとギミック配布の領域が少しずつずれている事だ。

 

『指令の開示。機密モビルスーツが盗まれたという過程でレースを行う。第一エリアは軍指定の工場で、ルートは暗礁区域。第二ポイントは敵の収容艦と目される。以後、途中で送信されるデータは開示権限のある者にのみ口頭で開示する事』

「うわっ……意地の悪い。あいつらしいけど」

「……私たちの場合は考えるのはミオリネさんですからね。そこだけは迷わなくて良いかと」

 シャディクが寄こした詳細な情報には以上のような音声文があった。

最初から全てを秘匿するとブリッジクルーが混乱するし、同時に判断する者が多くても船頭多くして何とやらだ。ゆえに上位者のみが全ての状況を知り、その他の者はサポートに回るというのは間違ってない。その上でAIは、パイロットの精神状況をサポートしてくれるだろう。

 

「こうなってくるとマイナスポイントは暗礁区域の中でも危険エリアって事ね。抜けるならご自由に、だけどそこで損害が出たという扱いかしら? とりあえずマイナス区域の移動半径を計算して、それでエネルギー流の動きが逆算出来るわ」

「「命令を受諾、復唱する(コピー)」」

 航法データにマイナスポイントの分布が記される。

それは暗礁区域扱いになった場所の中でも移動速度が違っている。そこから考えられるのは、何かの理由でそれらが流されているという事だ。判り易い例としては爆発物があげられるだろう。そしtれ前提条件を想定できるならば、色々と考慮出来る事がある。

 

「……急ぐのが最優先だけど、ギミックを一つは回収してみましょ。それともう幾つかを眺められる程度のルート取りができれば良いんだけど……そこは仕方ないわね」

「どの程度の装備が拾えるかくらいは確認した方が良いだろうね。装甲版の為にマイナスじゃあ割りに合わない」

 ミオリネの案にエランが頷いた。提案する気はなくとも妥当な意見は出すという所だろう。

ギミックに関する問題としては、内容によっては完全に無視するわけには行かないという事だ。途中まで開示されなかった『任務』というファクターがある以上は、他にも隠された情報があると見えるべきである。

 

「それなら私とエアリエルが行きましょうか?」

「そうね。危険そうな状況だったら自分を優先して。その上で優先順位は要救助者や秘匿データの確保で、ぶっちゃけ武装や燃料なんか要らないわ。サブフライトシステムはグエルに渡さないのが最優先、なんだったら壊すなり別の方向に飛ばしても良いわ。後はそうね……コード……なんでもない」

 スレッタたちの出動に許可を出しつつミオリネはギミックを想定した。

冗談で沢山入れている事も考えられるが、想定すべきは『研究所から持ち出された』『研究所の爆発で四散した』物であろう。

 

「……ふうん。相手の様子を見るって?」

「そ。当然色々と仕掛けて来てるでしょ。ソレを注意しても絶対に認めないから、予め計算しておくだけよ。向こうが気付かなきゃむしろ利点になるものね」

 エランが推測し、ミオリネが想定の最後に入れたのはコードブレイカーだ。

マイナスポイントの指定情報を解除するツールをジェターク側が渡されている可能性は高い。グエルは認めないだろうが情報閲覧レベルを次回の情報から設定されるのである。無理に教えなければ良いし、最低限の情報として『アステロイドにでも注意しろ』とでも言えば騙されてくれるだろう。

 

そしてミオリネはジェターク側がシャディクなりポイント設定した相手に話を付けていることを計算に入れた。判ってさえ居ればコースの取り方なりを調整できるものだ。

 

(……そしてスレッタ・マーキュリーには何も告げない。部下に全てを話す必要は無いし、盗聴やスパイ対策何だろうとは言えるけど……それほど親しい訳じゃないのかな?)

 そういったやり取りをエランは顔色を変えずに静かに見守った。

スレッタとミオリネに信頼関係が無いのであれば利用できるかもしれない。あるいは自分を信用させるために、仲がこじれかけた時に取り持って見せるというのもアリだろう。

 

(とはいえ報告の必要はない。ボクだけが覚えておけば良い事だ。ボクの目的を叶えるために)

 エランには目的がある。だから二人の齟齬を利用するだけのこと。

しかしソレはペイル社の利益と必ずしも一致しているわけではない。それだけならばこのレースの後に行う戦いで十分に果たされるだろう。重要なのはあの後に繋ぐことができるかどうかなのだ。甘ちゃんでしかない二人を利用するとしたら、そのためにこそ相応しい。いや、エランが使える手札など他にないのだから。

 

「エアリエル、ギミックのエリアに到着。付近の捜索を開始しします。リミットまであと180」

 ロウジが事務的にタイムリミットを申告。

考え事をしている者たちも、この時間だけは息を止めているかのように静かだ。果たしてグエル機からの牽制はあるのか? それとも彼はギミックを放置して先に行くのか? もしレギュレーションを無視して船に武装やら色々と搭載しているならば無視するだろうが……。

 

「グエル機を確認。うわっ……何、あれ。アレもドローン? 違うよね」

「ただのワイヤーでしょ? クラッチアームが付いてるだけの。まあ使いこなしてるだけ変態チックだけど」

 ロウジが引いたのはグエルの操るディランザ(?)が足からワイヤーを飛ばしたことだ。

それを暗礁区域の残骸やら、隕石に掴ませてショートカットをしている。直線的に移動するために収縮させ、収納しながら隕石を蹴る事で推進剤を節約しているかのようだ。結構な離れ業に見えるがミオリネからみれば曲芸でしかないのだろう。

 

「無理に確保しに行ってるところがグエルらしいね。遠回りになる場所以外はあえて拾ってる」

「あいつにとっては私もギミックもスコアの一つでしかないんでしょうね。トロフィーか加点かの差で……あんなに持ち帰ってナニをする気なのかしら」

 エランとミオリネは顔を合わせないが意味を共有している。

グエルは自分と言う器を満たすためにあれこれと勝負を挑み、無理をしてはいないが無茶をしている所があった。本当であればレースの本筋には必要が無いギミックを必要以上に拾う意味など無いのだ。彼の技量ならば大した回り道ではない場所を選んでいるとしても、余計な事でしかない。

 

さて、重要なのはジェターク艦に乗って居るスタッフにとってもそうなのか?

少し前であればおぼっちゃんの言う事を唯々諾々と従っていただろう。だが、今の状況でそんな無駄を許すだろうか? むしろ積極的に作戦として拾わせているかのようではないか。

 

「ミオリネさん! エアリエルが無人機を発見しました。間もなく攻撃範囲です!」

「っ! 防御を優先して! 適当に回収したなら留まる必要はないから! センサーは最大距離でグエル機を追跡! ストレージから補修材と推進剤を用意! エアリエルが帰って来たら応急修理をお願い、直ぐにここを離れるわよ」

「「命令を受諾、復唱する(コピー)」」

 考えを推し進める前に状況が推移した。

スレッタからの緊急報告で船のエンジン出力を上昇させる。どうやらエアリエルもギミックを回収していた様で、間もなく合流を果たしてその場を後にしたのである。

 

状況はいまだグレーのまま、レースは進行していく。




思ったよりも話が進まなかったので、戦闘は次回です。
もうちょっと判り易く、説明が不要な内容にしておけば良かったかも。
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