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その後のレースは必然的に消極的になった。
短期決戦を挑んで双方ともに痛み分けに終わったため、そのリカバリーを行いながら終盤での戦いに備えての為だ。もう一度戦う可能性を考慮しつつ、レースを同時にこなそうと思えばこうなろう。
「やったね兄さん! こっちは二本とは言え予備の腕だ。盾の方を装備すれば……」
「ラウダ。あいつらにとって左腕はドローンをマウントする場所に過ぎない。油断は禁物だ」
励まそうとするラウダ・ニールをグエルは推し留めた。
ここで良い気になって最後に撃破されたのでは何のためか分からない。だから最後まで戦力を調整し、改めて挑む覚悟が必要だと告げたのだ。
「でも父さんは無駄な戦いをするな。このままでも勝てるから無理するなって」
「……第三者からの連絡は違反だぞ。それに俺は俺の意志を貫きたいんだ」
ラウダが漏らした余計なことにグエルは顔をしかめる。
少ない情報と人員をやりくりする戦いなのに、第三者の援助があったのでは不正でしかない。仮に問題のない範囲で連絡を入れたとしても、誰かに知られたら問題だろう。それゆえに怒りを覚えていても怒鳴らないだけの分別を発揮せざるを得なかった。
(用意された出来レースに外付けの助言かよ。これじゃあ勝ったとしてもとうてい俺の勝利とは……ん? 待てよ、外付け……?)
グエルはジェターク社のブレーンが父親経由で見ていると気が付いた。
現時点で色々と口出しして居ないのは、このままでも十分に成果を果たせるだろう。こちらは十分な点を稼いでいるし、そもそも『今までの延長上のAI』という意味では、エアリエルよりもこちらのAIの方が信用され易いのだから。それゆえにグエルは愚直に戦う軍人として演技染みた行動を採って居たのだ。
(外付け? そうか。うちのAIでもギリギリだっていうのに、何処にそんな容量があるのかと思ったら……)
不甲斐ない自分から、いっそ外の連中を取り払えたら。
ラウダはともかく考察に加わって居るブレーンだけでも……そう思った時、ふと閃くものがあった。先ほどエアリエルは不思議な事をしなかったか? ビットが許容量を越えて破壊されるのを慌てて回避したように見えたのだ。
「……兄さん?」
「ラウダ。もしかしたら完全自立AIとやらの尻尾を掴んだかも知れない。最後に仕掛けるぞ。カミル、ペトラ! 拾ったギミックの中にアンチドートはあったか!?」
「アンチドート?」
グエルはあえてブレーンたちが興味をそそる言い方をした。
あくまで可能性に過ぎない内容でも、そう言えば研究のために調べさせたくなるだろう。そして優位に立つ自信があるのであれば、このまま逃げ切るのではなく、調査のために戦いを許可する可能性は高かった。
「あったと思うが、そんな物何に使うんだ? これだけ広い空間で上手く使うのは難しいぞ」
「それを使いこなすのは俺とうちのAIの役目だ。後は現場で何とかする。おそらくだが……」
グエルのディランザ改二はかなり無茶をしている。
お陰でダリルバルデに搭載されていた四つの腕と盾型ドローンは絞る羽目になったのだ。他にも色々オミットしているのだが、こういった過程もあって、より小型のエアリエルがどうやったのか前々から不思議だった。
「あの完全自立AI、一つだけじゃ完成していないんだ」
「独立して居ない?」
「そうだ。あのシールド型ドローン! 妙にでかくて堅牢だと思ったら……あれはサブユニットなんだよ! 外付けの補助AIなんだ!」
これこそがグエルの至った結論である。
自分が外付けのブレーンの補助を受けていると思い、苦笑しながら我が身を省みたことで思い至った。パーメットで情報をやり取りするのだから、補助端末が考えたり、計算上の負担を代用しても良いはずだ。仮にデータストームの問題も同じように割り振り可能なのであれば、ジェターク社の思考拡張型AIが追い付けないのも納得である。シールドは頑丈なのだから実弾兵器が禁止されている間はサブAIを隠していても安全だろう。
すくなくともスタッフと、ラウダを通してジェターク社側も納得した。
これにより拾ったギミックを可能な限り取り付け、時間をかけて最終調整。最終決戦に備える事が決定したのである。
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一方でスレッタたちの側も同じように備えている。
腕一本が失われたが、短期間に応急処置を終えている。後は最終戦までにどれだけ現状を快復できるかが鍵だと思われていた。
「モーメントバランスの調整を確認。エアリエルはすごいね……モーションだけで見ると損傷があるなんて思えない」
ロウジは汗が背中を流れるのを感じていた。
失った腕の代わりに棒状のパーツを取り付けてアーム代わりにしたのが……その制動バランスはまったく損なわれて居ない。恐ろしい事に足のやら胴回りに付けたギミックの補助ブースターも含めて微調整されている。少なくともシールドをマウントしてビームを防いだりドローン攻撃を掛けるのにはまるで問題が無いだろう。
「お、お手数おかけしました!」
「別に何もしてないから良いよ。ただ気を付けるべきは左右の手で銃を持ち替えるとか、両手で支える事が出来ないことくらいかな? まあ大楯やビームランチャーの類はエアリエルには似合わないから問題ないと思うけどね」
普段のロウジはスレッタと大して変わらないほど表ではあまりしゃべらない。
だが好きなメカの話になると口数が多くなり、注意すべき事項に関しては完璧主義なのか不要な事と言いつつも詳しく説明している。その上でエアリエルの事を眩しく見つめるのは、きっとエアリエルのような高性能AIを作るのが夢なのだろう。
「でも、これでまた戦えます! だからありがとうございます。って……あれ、ミオリネさんどうしたんですか?」
「グエルの奴まで出るのを控えてるのが気になってね。あっちの方が表向きのダメージは少ないはずなんだけど」
お礼を告げたスレッタは、その間にずっと黙っていたミオリネに関心を向けた。
気になっているのは損傷の少ないディランザ改二が出てきていない事だ。グエルの性格とその目的を考えれば、ここで積極的に動いて自陣営が健在であることを示す方が良いはずなのだが……。
「現状で満足して出来るだけ失点を抑えてカウンター……。そんな消極的な策に出てくるような奴じゃないのは判るでしょ?」
「だとしたらもう一度全力で戦うために備えているということでしょうか?」
「そういうこと。だとしたら、こっちがどう出るかで悩んじゃってね」
今の時点でグエルが何をしているかは分からないが、何をしたいかは判る。
スレッタと決着をつけるためにギリギリまで何かの調整をしているのだ。それこそ予備の腕を追加でっちあげているとか、あるいはギミックを本体に追加していたとしても驚きではない。
「そうかな? 彼はともかくラウダ『たち』が勝てると思って止めている可能性も有るけど?」
「それはならそれで構わないわよ。ジェターク社が望みそうなことくらいは私にも判るわ。でもね、今のモビルスーツにちょこっとAIを足した程度で、エアリエルと比べられると思う?」
推している意見というよりは、念のための確認と言った風情でエランが口を挟んだ。
だがミオリネはその意見を一刀両断する。ディランザ改二は様々な武装を使いこなし、色々な地形に対応している。だが、現在エアリエルがやって見せた『損傷した部分と遜色ない程度のバランス補正』など不可能だ。この技術があれば、人間の欠損した手足を元の様に動かし、まったく齟齬のない内臓器官も作れてしまうかもしれない。
とはいえミオリネはジェターク社側が『現状では全く勝てない』ことを先に認識していたとまでは気が付かない。彼らは互角の勝負を演出して見せるだけで良いと思っていたのだ。その意味で買いかぶりであろうが、グエルという存在がその差し引きをゼロにした。
「その辺はもっともな話だな。でよ、んじゃあこの後はどうするワケ?」
「それで悩んでるのよ。グエルが何かに気付いてエアリエルを攻略できると思ったのは間違いないわ。その手段が思いつかないから困ってるってわけ」
「だ、大丈夫、です。ミオリネさんならきっと思いついてくれます」
リューネが尋ねるとミオリネは笑って肩をすくめた。
このレースが始まったころは肩肘を張って誰にも弱みを見せまいとした。だが今ではスレッタと手を取り合い、少しでも現状を変えようという逞しさが見て取れたのだ。
(……こんな短い時間でも君たちは変わっていけるんだね。その事が心底羨ましいよ)
そんな様子をエランは冷たい目で眺めていた。
羨ましいとは思いつつ、まったく踏み出そうと考えもしない自分を笑いながら。
いずれにせよ株式会社ガンダム側も、幾つかの工夫をしながら最終戦に備えるのであった。
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そしてレースが最終段階に入り、それぞれのモビルスーツも最終調整を終えた。
研究所から盗まれた物を取り返したが、それぞれの意見が対立して戦闘になった……という設定で戦いが解禁される。話としては危険な研究をその場で破壊しようというチームと、任務なので持ち帰ろうというチームの対立であろうか?
『この時を待って居たぞ、スレッタ・マーキュリー!』
『あんたね、人の花婿にしつこいっての! プロポーズはハッキリ断られたでしょ!』
『み、ミオリネさん! そんなことを……今言わなくても……』
『エアリエルだっで許さないって言ってるわ。多分!』
そんな感じで両者の通信が飛び交うほど母艦もモビルスーツも近い位置に居た。
何しろ今回は一応は味方なので船同士の戦いは行わないと言う設定だ。ならば互いの船をギリギリまで利用して何が悪いのかというところだろう。
『兄さん。最終地点は……』
『今は良い! ここで決着をつける!』
(やっぱり何か考えてるわね。……上手くいくといいけど)
ラウダからの連絡をグエルは切り捨てた。
その様子を聞けていたわけではないが、ミオリネはグエルの交戦意欲から察する。最終目的地まで辿り着けば戦いを打ち切れるのに、ここで仕掛けて来るならばその気があるとしか思えまい。
『
『質量弾!? スレッタ! それを受けちゃ駄目よ!』
『判ってます!』
グエルはまずワイヤーで牽引して来た大型フレイルを放った。
巨大質量が盾を支えきれない仮設の腕を狙うと見せたのだ。あくまで応急処置に過ぎないアームは脆くもへし折れ、ビームに対してシールドを構えることも、攻撃用ドローンとして保持することも出来なくなるだろう。
『そうそう避けさせるかよ!』
『だからと言って、エアリエルを傷つけさせるわけにはいかないんです!』
同時にディランザ改二が突っ込んできたことでスレッタはライフルで牽制した。
グエルは既にフレイルを棄てており、質量弾に構うよりはそちらを撃たざるを得なかった。此処までの組み立てはジェターク側に軍配が上がったと言えるだろう。
(予定通りだ。……位置はあそこか。少し遠いが何とかなる)
グエルは大型フレイルに偽装したギミックが無事なことに安堵した。
似たような物をもう一つ用意しているが、あれこそがアンチドート用の装備。パーメットを阻害するノンキネティックポッドである。グエルはシールドを構える腕が破損している事を念頭に、質量弾に偽装することでさりげなく戦場の一角に配置したのである。
弱った相手の弱った部位を狙うのが正当な勝負なのか?
そう問われれば返す言葉はない。しかしその傷をつけ戦いは己が為したことであり、罠にはめる行為自体は己が計画して立てた物だ。何ら恥じることはなかった。
『勝負だ! これで決着をつけてやる!』
『連続攻撃! でもさっきほどの組み立てじゃない!』
グエルは腰にマウントしておいた装備を手に取った。
右手にバースト・ビームレールガンを構え左腕へ装着した予備兵器のレーザー速射砲を放つ。連続射撃しつつも、レールガンに付属したビーム銃剣や、左手に待機させたビームトーチもある。とはいえ先ほどと違って予備の腕が無いため、全体的な圧迫感が低いのも当然だろう。
これに対してスレッタは前回は使わなかったライフルで牽制しつつ、シールドを分解して攻防一体型のドローンとして一斉射撃を開始した。大型フレイルを振り回すためにグエル機がシールドを構えていない為、小細工するよりも撃ち合った方が良いと判断したのである。
『ああ、そう来るだろうよ。そんな事は判ってるんだ!』
『足のワイヤーが! でも!』
防御にも使うため、スレッタ側の射撃回数もそう多くはない。
しかし全体として火砲の数はエアリエルの方が上回っている。そこでグエルは前回には使わずじまいであった足のワイヤーも延ばさざるを得なかったのだ。しかしこの悪あがきこそが、グエルの望んだ奥の手であった。
『まずは一本!』
『残り一本あれば十分だよ!』
回し蹴りの態勢で放たれるワイヤーが伸びる。
だがエアリエルの制御による攻撃で、スレッタはうまく狙撃に成功した。ワイヤーの一本を撃ち落とし……残るもう一本の回避に成功してしまった。もしもう一本を受け止めていたらこの後の展開は変わった物になっただろう。
射撃はあくまでエアリエルの位置を誘導する為、ワイヤーは最初からノンキネティックポッドを引き寄せるために組み立てていたのである。狙いは一つではなく二つの内どちらか、エアリエルかドローンの群れのどちらかが入れば良いと最後まで仲間達と計算していたのであった。
『アンチドート、アクティブ!』
『え? ……なんで!? みんな、みんな! どうして動かないの!? エアリエルも何とか言ってよ!』
引き寄せられた質量弾からアンチドートが起動する。
それに巻き込まれてエアイエルの動きが途端に鈍くなるが、その動きは完全には止まって居ない。だがスレッタに取って、それは止まったも同じ意味である。思わず混乱するのも無理はないだろう。
『ドローンが制御を失ってる? エアリエルもなんだか……』
『アンチドートだね。パーメット粒子の機能を抑制させるやつ。よくもまあこんなものが紛れ込んでいたものだ』
驚くミオリネの耳に他人事のようなエランの声が響く。
思わずミオリネも驚愕のあまり思考を止めそうになった。戦いにはこの僅かな時間が命とりである。もし何の対策も取って居なかったら、エアリエルのアンテナは破壊されていただろう。あるいはディランザ改二が回し蹴りなどという無茶な態勢で攻撃などしなければ、あるいは違っていたかもしれない。
『スレッタ! あれを使いなさい! 切り札ってのはこういう時に使うのよ!』
『え? あ……はい! 点火!』
『なにぃ!?』
ソレはただの追加ブースターであった。
拾ったギミックの中には幾つか量産された物がある。推進剤や補修材にエネルギーパック、あるいはアポジモーターの様な追加ブースター。ソレを使ってエアリエルは一気に距離を開けたのである。
距離にして大した移動などしていない。
当たり前だ、試験用の高性能なギミックとはいえ所詮は拾える程度の代物である。だが重要なのはアンチドートの効果範囲から距離を開けることである。それだけでエアリエルは機能を回復するのだから。
『あんたが最後に得意な白兵戦を選ぶなんてのは、その機体を見りゃ判るのよ! スレッタ、直ぐに制御を回復して!』
『了解です!』
『逃がさねえ! アレが効いたんだ……まだチャンスはある!』
不格好に飛ぶ体勢からエアリエルが軌道をまともに修正する。
添え付けられた追加ブースターは数の問題で歪な恰好であった。その制御をエアリエル自身が調整し、まるで最初から設計されている様に機動性を発揮させているのだ。そこへ諦めきれないグエルがドローンの攻撃から銃剣を振りかざしてビームトーチを守りながら接近していく。
『こいつが最後の一撃だ!』
『え? さっきのがまた来る? でも、判っているなら何とか出来るよね!』
グエルの構えていたライフルが一斉射撃でふっ飛ばされる。
だが右手は損傷しつつもまだ無事であり、新しいビームトーチを引き抜きながら左手のビームトーチもどきを振るった。それは至近距離専用の試作作品であるが、当たればパーメット粒子を抑える事ができるだろう。光はあくまで誘導灯その効果距離は見た目よりも僅かに広いのだから。
この時、エアリエルが輝き出した。
パーメットスコアが上昇し、アンチドートが低下させている状況を上書きしたのである。常人であれば死を覚悟しかねない状況だが、スレッタにはデータストームが向かわない。エアリエルは右手のビームトーチを肘で弾きながら、鉄拳でディランザ改二の頭を狙った。
『いけー!』
『させるかよー!』
避けるにはエアリエルの動きが的確過ぎる。
グエルは仕方なく、まるで抱きつくようにして格闘戦の間合いとしては内側へ入り込んだ。そして両機はブースターを吹かして、互いの上を取るべく意地を張り合ったのである。
『兄さん! もっと右!』
『スレッタ! 左よ左!』
(どっちがやられるにしろ、どっちが勝つにしろ、ボクの役目はここまでだな)
ラウダとミオリネが互いに叫ぶ。
そんな様子を見ながら(正確にはラウダの声は聞こえないが)、エランは冷めた目で決闘の行方を見守るのであった。最終的にエアリエルが体当たりでディランザの角を折ったが、ゴールの前後で意見が紛糾しているという。
ようやくレースとジェターク編終了。
次回からエランとペイル社の話を片付けて第一部は終わります。
戦い自体はダリルバルデ戦とアンチドート食らった後の話を混ぜた感じになります。