水星の魔女OG   作:ノイラーテム

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第十三話

 スレッタとエランの戦いは山岳ステージに決まった。

何も無い宇宙や砂漠ではエランが有利で、市街地のような隠れる物が多い場所ではスレッタが有利になり過ぎる。そう言った場所を避けて、互いに利のある場所を選んだ結果である。

 

それはエランがファラクトの情報にこだわらなかった結果であり、同時に誘導でもあった。

 

「……前に見た時と少し変わってるな」

「あれえ、グエル先輩。あの黒いザヴォート知ってるんです? もしかして勝てないからエラン先輩と相談なんかしたんですかぁ」

 グエルはセセリアの嘲弄を無視した。

今の彼にとってこの程度の事は挑発にもならない。スレッタとエアリエルのコンビを強敵であり乗り越える壁と認識したことで、彼本来の闘士としての性質と、ジェターク社の御曹司という性質が良い具合に交じり合っていた。ぶつける者のいなかった彼の闘争心を向ける相手が出てきたのだ、セセリアなど視野に入って居ないと言っても良かった。

 

「頭部と足が大きくなって、背中に追加ブースター? ペイル社のモビルスーツとしては判らなくも無いが……少し過剰じゃないか」

「ちょっと! 無視しないでくださいよ!」

 グエルはエランと情報交換し、その時にファラクトを見せてもらった。

ドローンにサポートAIがあるという情報を渡し、代わりにAIの視点は人間とはまるで違うと言う情報を貰ったのだ。その上で改装した部分は、その対策として追加した物だと思われる。自分が再戦する時のための考察として、グエルが関心を持つのは当然だろう。

 

「何が何でも水星ちゃんを引き離して遠距離から狙撃するとか?」

「それで勝っても次の勝負で同じようなブースターを用意されたら終わりだ。少なくともイスルギの機体と差別化できない以上は、ペイル社のお先は真っ暗なままだな」

 シャディクが言うように、移動距離を底上げして銃撃戦を行う意味は分かる。

元もとペイル社は高機動のモビルスーツを主力製品としていた。ゆえに大型ブースターで移動速度を高めるという方針は判らなくはない。だが、それでは同じタイプのリオンに商品として負けてしまうのだ。機動戦では同レベルであり、コストでは遥かに低価格。この状態をひっくり返しつつ、エアリエルの登場による『次世代AI』ショックに対抗せねばならないのである。もし勝ちたいばかりに何の魅力も無い商品をデビューさせたら、市場はペイル社の決断を嘲笑うだろう。

 

(頭部はAI周りだろうな。GANDフォーマットを手直しするのに必要だったんだろう。だが、あのブースターはなんだ?)

 流石にガンダムである事は迂闊に口にはできない。

拡張型AIを提供する代わりに、GANDフォーマットの技術に関しても受け取っているが、その上で考えられることは限られている。エアリエルに乗っている限りスレッタは幾らパーメットを使っても死にはしないし、廃人にもならない。少なくともその段階だけでもクリアする為、頭部を拡張して機能を追加したのだと思われた。

 

「エランの機体もドローンを使った? ロウジ、パーメットは?」

「増大中。でも、あの様子だとデータストームは起きてないかと」

(ここまでは予想通りの流れだ。ここからが勝負の分かれ目だな)

 ファラクトは高速機動を掛けながら同時にドローンを展開した。

物陰に隠れながらスタン型ビットのコラキを射出し、正確な総数を隠して展開させている。その上でライフルを構えてエアリエルから離れていくのだが、こんな事をやるにはパーメット・スコアは2以上出ているのは確定だ。こんな序盤からフル稼働させているのだから、データストームの危険性を排除したことまでは誰にでも判る状況であった。

 

『速い! でも追い付けないほどじゃありませんよ!』

『ビットが機体にまとわりついて加速を? そんな使い方が……』

 スレッタは山に隠れながら突撃を掛けた。

その折りにガンビットを機体各部に接続し、速力を一時的に増していた。それもただ強化されるだけではなく、各部が調整することで機敏性も増しているし真っ直ぐ時は移動力も一点強化されるという小憎らしい性能であった。今までのドローンでは、ここまでの操縦性は見込めないのは間違いが無かった。

 

『まずは第一段階だ。パーメット・スコア3!』

 だが前回の戦いでエアリエルが、破損をその場で行ったことをエランは知っている。

ゆえにこの程度の強化は想像済だし、そもそもコロニー内の山岳ステージゆえに、戦場サイズの限定があることもあって追い付かれることなど想定済であった。ゆえに山の裏側にコラキを待機させていたのだ!

 

『ここで攻撃が有るのは想像済みです! ……あれ?』

「エアリエル側のドローンが防御してない? あれはビームじゃないのかな」

「それもあるが……滓っただけにしてはエアリエルの動きが鈍いな。今の攻撃は大した被害じゃなかった筈。アンチドートには見えないが」

 山に隠れながらの接近へ、待機していたコラキが挟み込んだ。

見え見えの伏兵に対してスレッタはガンビットの一部を即座に防御態勢に切り替えた。相手から見えない位置での配置であったが、不思議な事にビームバリアでは防御しきれなかった。それどころかビットの一部、そして掠ったエアリエルの足が機能して居ないかのように見える。スレッタはエアリエルが不調に成ったことが問題なのか、それともビットが動かないことに驚いたのか、一瞬ほど焦った様子が伺えた。

 

『スタン性のビーム攻撃? だから何も無い平原では私が不利だと言ってたんですね。……でも、この程度なら!』

「ライフルで山を撃ち抜いた? 土煙を巻き上げているのか。上手い!」

(俺でもそうする。瞬時の判断が上手いな。しかしどうしてまだ後退しているんだ? エアリエルは何を見た?)

 暫くして動かなくなったビットも、エアリエルの足も元の性能を取り戻した。

スレッタはその事で冷静さを取り戻し、後方に飛びのく姿勢のままライフルで間にある山を貫いていた。ビームというものは煙や水蒸気で遮断されてしまう性質を持つ。大抵は熱量で押し切るのだが、スタン性の電磁ビームていどならば防げると判断したのだろう。だがグエルにとって不思議なのは、咄嗟の判断で後退したエアリエルがそのままだということだ。今まで距離を詰めようとしていたのだ、ここは土煙に紛れてでも接近すべき時ではないのか?

 

『っ! 静電気か。あれを利用すれば……ダメか』

『接近しちゃ駄目ってどういうこと、エアリエル?』

 知恵と理性がある事を知られてからのエアリエルは恐ろしい。

人間には不可能な知識と注意力で、エランが電磁スタンの応用を思いつくよりも先に防御行動に出た。やもすれば過剰な逃避であるが、未知の危険に対しては重要な対策だろう。エランはその逃げっぷりに、エアリエルが自分よりも先に気が付いたのだろうと容易に判断できた。

 

こうなれば中々勝負はつかないし、電磁スタンを潜り抜ける手段を思いつかれてしまうかもしれない。そこでエランは二枚目の手札を切ることで、電磁スタンを有効的に使う事にしたのである。

 

『ここが勝負の賭け所かな? パーメットスコア4!』

「っ! 第三のブースターもビットだったのか!」

 ファラクトが背中に背負った大型ブースターが切り離された。

さきほどグエルが疑問に思ったように、既に二基のブースター……それも最新鋭のブラストブースターを装備したファラクトに追加推力は過剰だ。しかし大型ビットと考えればどうだろうか? 自力でのエネルギー生成も踏まえれば、あのくらいのサイズは必要だろう。

 

『上? 衛星射撃……じゃない?』

『ビームアルケビュースとの同調開始』

 大型のビットはエアリエルの頭上に位置したが、特に何もしてこない。

変化が見られたのはファラクトの方で、エアリエルの機動予測が正確に成った。もちろん観測の為だけの専用機であるはずがない。ここからがビットを大型化させて使う事の真骨頂である。無論、エアリエルの方もそのまま棒立ちではなく、斜めに移動しながらファラクトの方を目指した。

 

『さあ……狩りの時間だ』

『直撃軌道じゃない? でもどうしてだろ……っ? 後ろから!? さっきのが後ろに回ってる!』

 ファラクトの射撃がエアリエルの脇を通り過ぎる。

牽制射撃でしかないので必要以上に避けなかった。だが、それが今回は悪い方向に進んでしまう。先ほどのビットが想定以上の火力でビームを放って来たのだ。正確には……大型の狙撃用ビームライフルである、ビームアルケビュースを反射したのだが。

 

「っ! リフレクター? 今時珍しい物を……」

「I・フィールドを持ち出したお前に言えた事か。だが、これは面白いチョイスだな」

 ビームの軌道をビットが反射させた。

それはリフレクターと呼ばれる技術であり、I・フィールド技術の発展形と言える。ビームを防御するのではなく、偏向させて向きを変えるというのが主な差であった。この技術にもいろいろ欠点はあるのだが、それを克服したのか、あえて欠点には目をつむって使って来たのだろう。

 

「ねえロウジ、あれってなんで廃れたの?」

「ちょっと待ってください。ええと、I・フィールドよりもエネルギーを使う事。そして反射行為自体に意味が薄い事ですね。特定の方向に曲げても当たるとは限らず、周囲に拡散させたのでは威力が殆どありませんから。その上で、I・フィールド自体がエネルギー問題やサイズ面で廃れたなら使いようは無かったんでしょう」

 セセリアの質問にロウジが検索して説明した。

防御手段としてリフレクターを見た場合、、I・フィールドよりも劣っていると言える。反射して上手く敵に当たれば良いが、そんな都合の良い操作は難しい。では拡散モードで巻き込めばよいかと言うと、それでは威力が低すぎるのだ。

 

「おそらくですけど、あの黒いザヴォートやリフレクタービットにもAIが搭載されてるんだと思います。両機がパーメットで情報を伝え合えば、反射もあんな当てられると判断したんでしょう。大型のビットを使ってるのは、開発が間に合わなかっただけではなく、リフレクターの為のエネルギー生成装置を必要としてるんじゃないかな」

(50点だな。それだけなら牽制射撃で行う必要はない。見せつける理由があったと見えるべきか?)

 外付けのAIを守るためのリフレクターだというロウジの判断にグエルは半分だけ頷いた。

いきなりサポートAIを作って、本体のパーメット操作強化に使おうとして間に合うはずがない。小型化できなかったから大きなまま利用しているのと、ジェネレーターでエネルギーを生成する為に大型のまま使用しているのは間違いが無い。だが、それでは今の使い道に大きな疑問が残るのだ。

 

どうして連射することで、本命の攻撃を強引に当てに行かなかったのか?

確かに一発目は油断するだろうが、それなら別に戦いながら奇襲をかけても良かったはずだ。つまり、今の行動はファラクトとリフレクターに目を向けさせるための行動と言える。

 

(後ろからだろうが天頂方向だろうが、エアリエルに死角はない。そういったのはエランの奴だ。何を目論んで……土煙?)

 グエルはエランからの忠告と、先ほどの光景を思い出した。

例えリフレクターで後ろから攻撃しても、エアリエルにとっては前から射撃しているのと変わりない。現に油断している所へ奇襲攻撃を放ったにもかかわらず致命的なダメージには成って居なかった。つまり、この一連の攻防は仕組まれた罠に過ぎないという事だ。では本命の攻撃は何なのだろうか?

 

そこで目に入ったのが巻き上がる土煙であり、先ほどの過剰なバックであった。

 

(そうか! あの土煙じゃスタンビームを完全に防げねえってことか! だからエアリエルは先んじて回避し、後から気が付いたエランはその下準備に入ってる……)

 咄嗟に山を撃ち抜いて土煙をあげたスレッタの防御。

その行為はビーム攻撃対策としてはアリだが、スタンビームが完全に防げないどころか、広範囲攻撃を誘発してしまうとしたらどうだろう? もちろん分散するので電子機器が停止する時間は短くなる可能性はあるだろう、だがスタンは一瞬だけでも十分に致命的なのだ。ゆえにエランは布石として行動しているのだと思われた。

 

『勝負だスレッタ・マーキュリー! そして、エアリエル!』

『っ! いくよエアリエル! エランさんが勝負を付けに来た。でも、私達なら!』

 頃合いになった所でファラクトが距離を詰めながら攻撃を掛け始めた。

狙撃用から連射用にモードを切り替えて射撃し、さらに足を折りたたんで脚部に装備したビーム砲も連射する。更にこの攻撃の一部をリフレクターで反射させながら、必要ならばサーベルで切り掛かってトドメを刺すくらいの意気込みだろう。そしてスレッタに方も罠があるとは気が付かずとも、何らかの方策があると予感しているのは確かであった。だが長距離戦ではラチが開かないと見たのか、距離を詰めて至近距離での戦いに勝機を見出したのかもしれない。

 

こうして予期せぬホットなバトルに、決闘委員会のメンバーですら目が離せないのであった。




エアリエル改修型ver1とファラクト改良型の戦いです。
流れ的にはレゴリスを使った戦いの再現ですね。
エランが思いつく前からエアリエルは危険性を見抜き、仕方ないのでアレンジとなります。

●今週のメカ。
『ガンダム・ファラクト改良型』
1:頭部と脚部が延長され、キュベレイみたいな長さになっている。
2:背中に大型ブースターを背負い、これがリフレクタービットである。
3:サポートAIを本体とリフレクターに仕込んでいる。

 エランの考えに近いAIが、パイロットのエラン達の思考を呼んで操作補助。
このためにパーメットスコア4くらいまでなら負担なしで可能。
欠点としては『読む』という仮定が入っているので、エアリエルが副操縦士をやってる分だけレスポンスが劣っている。
これを補うために遠距離戦・機動戦を挑み、リフレクターで攻撃力・防御力を補完している模様。
なお、脚部の強化は純粋にブースターのバランスを調整する為。
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