水星の魔女OG   作:ノイラーテム

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第一話

●マーチャント

 アスティカシア学園の学園長室に色々な物が持ち込まれた。

他にも汚染されて居ない地球の土や有機肥料、あるいは電源が遮断されてしまった時の為に使う窒素や水などの供給装置など……様々な機材が指定されたエリアに輸送されていると資料を手渡される。

 

「ミツコ先輩申し訳ありません。お父さんの件があったばかりなのに……」

「いいのよ。ミオリネちゃんに頼まれた件が先約だったもの。お父様、いえCEOならば公私は付けろとおっしゃったと思うわ」

 受取人であるミオリネ・レンブランは喪服を着た商人に頭を下げた。

ミツコ・イスルギは経営科の元上級生であり、卒業までは色々な意味で尊敬したくはないが顔を合わせる相手であった。しかし在学当時からその伝手は広く、どうしても欲しい物を確実に揃えるには仕方が無かったと言える。ただ容赦とかモラルとかを投げ捨てた人であり、ミオリネにとって親がクソ親という以外には仲間と思えるところが無かった。

 

「他に協力して欲しい事はある? 報酬次第で手伝うわよ?」

「いえ。そこまでお世話になるわけにはいきませんし問題ありません。それにミツコ先輩には似合わないでしょうから……」

 ミオリネには隠している目標があった。

そこでミツコを頼らなかったのは単に費用が高いからであり、イスルギ重工CEOの娘とあって信用できなかったというのもある。ただ、ミオリネはいつくかの面で心得違いをしていたとも言える。もしここで目的のために巻き込んだならば、勝手に別方面で採算を取って、言質を取った事や契約内容を違えることはなかったのだから。

 

「汚れ仕事という意味なら別に構わないですのに……まあ受注をしなかった以上は守秘義務はない訳ですし、黙って居る必要はありませんわよね」

 ミツコは学園から離れながらデータをとある場所に転送した。

今ごろは『彼』の秘書が確認し、適当なタイミングに紛れ込ませるだろう。そう思っていた所にその『彼』から連絡が入ったのである。

 

『ローズ、この業者は信用できるのか?』

「ええ、デリング総帥。私と一緒で勝手に別のスポンサーを見つけて採算取るタイプですわ。口にした事や契約した内容は最大限の努力を行って守るはずです。ミオリネさんの決行日と逗留地の予測は、送ったデータのいずれかになるかと」

 ミツコ・イスルギという女は徹底した商人である。

一言で言えば『売れるならば親でも国でも売り払え、ただし出来るだけ高く』というのを信条としている。もし宇宙人が居て地球の基地情報やモビルスーツのデータを売れと言われたら、価格次第で平然と売っただろう。ただし、値を高く保つにはそれなりのクオリティと信用が必要なのだ。裏切り行為は働いても、守秘義務や契約の履行は徹底して行う。もしミオリネが彼女と契約し、『彼』……ミオリネの父親であるデリング・レンブランへ情報を売るなと言えば決して口にはしなかったであろう。

 

「介入なさいますか?」

『不要だ。ただし騙されて居た時のフォローは忘れるなよ。人質にされたら叶わん』

 そこまでの会話が終了した所へ、デリングからデータが送られてきた。

アスティカシアの学籍番号が多めに取られており、その範囲でならば好きに人材を入れろ。他の番号は適当に推薦枠としてダミーに使えと言う事だろう。ミツコとしても商売で無ければ必要以上にミオリネとデリングの双方へ関わる気が無いのでここで通信を打ち切ることにした。

 

「ミツコお嬢様。葬儀に先立ちまして何の御用でしょうか?」

「そこはCEOとお呼びなさいな。……早ければ五年以内に起きる大規模戦争に関する社内会議を行いますわ。先代が生きておられた当時と現状の齟齬を確認。場合によっては修正を行いますので根回しを行います」

 呼び出された重役は二の句が告げなかった。

地球圏で不満が累積し、宇宙側が抑圧することでいつ戦争が起きても不思議ではない。そしてイスルギ重工を始めとして、幾つかの企業や有力な個人が協力している事は社外秘であったのだ。もちろん娘とはいえ、一介の学生に過ぎなかったミツコが知っている筈もないと思っていたのだから。

 

「み、ミツコさま……その件を何処で……」

「ひ・み・つ、ですわ♪ 佳い女には秘密が付きまとう物ですもの。それに守秘義務というのものがありますしね。ともあれ広告塔と囮を兼ねてアスティカシア学園にリオンを送り込みます。できれば人型を送り込みたいのですが……まだフィリオ・プレスティ博士のシリーズ77にはほど遠いのですわよね?」

 リオンは低コストの量産機であり、用途に特化して航空機に近い形状だ。

それゆえにイメージ向上も兼ねた人型は次世代機でありエース用に調整されたマーシンが担当することになって居た。中でも主設計者が担当するフィリオ・プレスティ博士のシリーズ77は宇宙開拓用であり、戦闘面ではロマン重視なので広告塔に丁度良いのは確かであったろう。どうしてそんな内部事情まで詳しいのかと重役が首を傾げたのも無理はない。

 

「は、はい。現在はRⅡフレームからタイプRTを経て、ようやくRA・RB・RGへと分岐したところです」

「ではパーツ取りと他の寮への貸し出し込みで十機ほど地球寮を中心に送り込みなさい」

 主力商品はテスラドライブのRフレームで、次世代機はテスラ・ドットアレイのRⅡフレーム。

テスト用のRTから宇宙開拓用向けにタイプRA系からタイプAAという風に進歩させ、同じように重戦闘用に戦車に近い射撃戦メインのRB系、人型に近く様々な場所での防御を得意とするRG系へと分岐することになっていた。現段階ではようやくRTからの脱却が終わったばかりであり、人型へ至るのはもう少し先であろう。それゆえにミツコはリオンを送り込むように手配したのである。

 

●スチューデント

 地球寮やイスルギの協力会社を中心にリオンが次々に持ち込まれていく。

全てを組み上げてから持ち込んでも良いのだが整備の容易さをアピールしたり、拡張性を検証するために地球寮へは三機以外はパーツで持ち込まれていた。学園から支給されるデミトレーナーを合わせれば、相当に事情が改善されたと言えるだろう。

 

「これだけあったら売っても判らないんじゃ!?」

「好きなくとも今は止めとけ。しっかし、マジでこれ俺たちが好きに使って良いのかよ?」

 すっからかんだったケージに三機のリオン、スクラップ置き場だった倉庫には資材の山だ。

メカニック科のヌーノ・カルガンやオジェロ・ギャベルが喜色をあげるのも無理はない。今までは数少ない機体を何とかやりくりしていたのだが、それぞれが専属で一機扱う事すら可能な今の状態は嬉しい悲鳴と言えるだろう。

 

「一応は……ね。他所の寮からはさっさと動かせって話と、パーツを寄こせって話があるけど……」

「そういう事ならまずは限界を出すために試してみましょ。性能限界が判ったら教えてあげれば良いし、その時に故障気味だったら流石に分けるのは無理かな」

 他にも導入した寮からの要望が早くもあるらしい。

寮長である経営科のマルタン・アップモントが苦笑いを浮かべると、メカニックで一番の才媛であるニカ・ナナウラが現実的な提案を行う。その時にパーツの横流しを否定して居ないだけに、マルタンとしては苦笑の度合いが渋面方向に深くなるのであった。

 

「限界ねえ。どっち方向に舵を切るかにもよるけど、パイロット組の希望はどーよ」

「あーしは良く判らないのに乗る気はないね。良い機会だからいつものを一機もらいたいくらいさ。とりあえず連中にでも聞きに行ったら良いんじゃねーの?」

 マニアックな改造に詳しいヌーノへパイロット科のチュアチュリー・パンランチが答える。

機体の改造と言っても方向性が重要なのだ。バランスを重視して自分の操縦に合わせフィット感を重視する者から、重装甲のタンク型や大火力の砲撃型など多岐に渡る。もちろんリオンは飛行を前提にしている為、判り易いのは高機動型だろう。

 

「じゃあチュチュのはその方向で調整するとして……。ラトゥーニさんだっけ? 向こうの皆の要望はどうかな?」

「我々は機体に合わせますが、この際ですから現存する三機を異なる方向に改造してしまえば良いのではないでしょうか? リオンの特性を考えれば、何時でも元に戻せますので」

 ニカの質問へメカニック科として折衝に当たって居るラトゥーニ・スゥボータが提案した。

イスルギとその協力会社からまとめて送り込まれて来た学生の一人でデータ面に強い。今時めずらしく眼鏡を付けているが、データ表示用を兼ねていてその辺りの要望を過去のデータから呼び出したのだろう。

 

「三機とも全部?」

「はい。装甲を極力省いた高機動試験用、装甲と火力の両立を図る突撃戦用、最後にセンサーのみを強化した長距離航行試験用が妥当であると思われます。もちろんみなさんの要望があれば順次試して行っても良いのではないかと」

「んなら妥当っちゃあ妥当だな。四機目からは適当に思い付きを試そうぜ」

 ラトゥーニの提案は事務的でありながら何処か挑戦的だ。

何でもやって良いという言葉に、ヌーノは悪い笑顔を浮かべてどんなパーツを組み込むかを考え始めた。ニカ達も止めない様だし、当面は馬鹿騒ぎが続くだろう。

 

「そう言えば他のメンツは何処居んのよ? こんなバカ騒ぎに連中が居ないの珍しいじゃん」

「あー……。アラドとアイビスさんは補修です。ゼオラとスレイさんはその付き添いですね。オウカ姉さまは決闘委員会と折衝中になります。こんな時にフルメンバーで相談できず申し訳ありません」

 イスルギから送り込まれたのは六名だ。

全員がパイロットをこなせるがその習熟度に大きな差がある。最初に言われた二名はタフネスではあるが色々と難があり、最後の一人は逆に御三家の子息にも匹敵するハイ・スペックな才媛であった。チュチュが言っているのは最初に二名で、どちらも陽気でこういう時には絡んで来た物だ。

 

「決闘委員会? 何か問題でもあったわけ?」

「……昨晩、機体サイズに関する厳密化が規定されました。これに関する抗議と、聞き入られない場合のO・HA・NA・SHIですね。リオンは20mを越えていますが、他にない訳でもありませんし重量比を考えれば言いがかりなのですが」

「うわっ。きったねー。自分達の都合の良いようにルール替えやがった」

 リオンは20mを少し越えているが、重量は33トンと他に比べて遥かに軽い。

これは航空機をイメージして構成されているから当然なのだが、こうなると大型のフライトユニットを使わずとも、出力比だけでかなりの速度が期待できた。ゆえに『大型化で性能を向上させるのは公正に反する』というのは言い掛かりなのだ。しかもルールが納入前日とあって、リオンが成果を上げることを邪魔したいとしか思えなかった。

 

「そ、それならホルダーの人にお願いしたら良いんじゃないかな? 確かジェターク社とイスルギは仲が良かったでしょ?」

「その人物の性格面と知識を存じ上げませんし、問題はジェターク社が何処まで我々に協力してくれるかに掛かっていると思われます。そこに掛けるのは不安要素が強いので、色々な資料を手にオウカ姉さまは交渉されるかと」

 この時、マルタンはラトゥーニの眼鏡がキラリと光ったような気がした。

澄まし顔の少女に腹黒さが伺えて、胃の痛みを感じたという。

 




 お試しなのでサクサクと二話目。
前提になる背景とそもそも時期が違うので、順番が違っております。

また水星の魔女らしさを出すために登場人物を多めにしてますが
実際にはニカ姉とヌーノが相談して、チュチュが文句と自分の意見を言ってるだけで良かった気もしますね。
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