「やってくれるね」
「やり返したまでです」
オウカ・ナギサという黒髪の女にシャディク・ゼネリは笑みを浮かべた。
話をする前に資料を渡され、その結果がコレである。難しい所へ投げたクセ球を打ち返されたのは良いが、強烈なピッチャー返しを放たれたからだ。このままでは自分も痛くない腹を探られることになる。
(まさかクラッキングの捜査要請まで行う準備をしているとはね。だけれど、ただ単にこちらを叩くつもりなら既にそうしている筈……何が目的だ?)
片腕であるサビーナ・ファルディンにクラッキング容疑が掛けられていた。
並行して学則変更に関する詳細なデータだけはなく、変更のために行われる提案も決闘も行われて居ないことを証明する資料が添付されている。加えてサビーナの端末からのアクセスが改編時間そのままであるとの記録も記載されてあった。もちろんそれだけでは犯罪の証拠にならないが、公開されては対外的に問題となるだろう。少なくとも事情聴取を受ける数日は決闘に関わる事が不可能だ。下手をすればアリバイを口にした他のメンバーまで共犯者とされかねない。
(何を望んでいる? いや……待てよ。そもそも何も望んではないのか?)
シャディクは茶番に意味がない事からおおよその『流れ』を推測した。
仮に強引に捜査を進められても、ホームグラウンドであるこちらの方が有利だから直接叩いては来ないのだ。ただ、こちらが逃げに回って正攻法で攻めたら不利なのは完熟訓練も終わってない向こうの方だ。時間差で押し込んで拘束したら話は別だが、イスルギは不名誉な勝利なんか望んではいないだろう。それならイスルギの工業力を活かして、学園用にサイズを縮めた機体を用意する間に訓練でもした方がまだマシだ。ゆえに仕切り直す事が重要であり、勝利は二の次だと判断したのである。
「では、こちらから決闘を挑ませてもらおうか。理由は機体耐久性に疑義が発生した為。こちらが勝利した場合は調査のために完全可動状態のリオンを引き渡してもらう」
「……? もしかしてこの期に及んでヘタレたんですか?」
決闘を受けてルールを調整するはずのシャディクの側から決闘を申し込んだ。
同じ決闘委員として話を聞いていたセセリア・ドートが驚くのも無理はない。これでは調整するのは受けることになるイスルギ……地球寮側になるだろう。本来であれば学則を変更するために、グラスレー寮に協力を要請するという無理を通す分だけ不利な条件を付けられても文句は言えなかったのだ。シャディクの側から仕掛けておいてこの手落ちはありえまい。
「お受けしましょう。こちらが勝てばデータ検証の動画をグラスレー寮の労力で公開していただきます。戦闘はコロニー内での3対3はいかがですか?」
「君の所は総力戦向きなんだろう? 10機とは言わないが5・6機は出そうよ」
シャディクが勝てばリオンを接収して解析、逆ならばPR動画の作成。
どちらが転んでもグラスレー社にもイスルギ重工にも損はない。これではどちらが先ほどの交渉で有利に立ったか判らないが……あえて言うならばオウカは交渉で有利に発つ気はなかったし、シャデイクはそもそも『今』戦争が起きて欲しくないだけだ。だからこそオウカの考えを読み切った上で自社の利益に振り替えたのだ。
「では最大8機。勝利数に応じてパーツの総量と動画の長さを相談するというのは?」
「乗った。じゃあ詳しい日程を決めないといけないんだけど……グエル?」
「……立会人はジェターク寮寮長であるグエル・ジェタークが務める。双方、魂の代償をリーブラにと言うべきなんだが……」
何処に自分が立ち会う必要があったんだという顔でグエル・ジェタークが宣誓を始めた。
「先ほどの条件で問題はないな? アーレア・ヤクタ・エスト。決闘を承認する!」
双方ともに異議があるはずもない。
むなしく響くグエルの宣誓に、両者は背を向けて準備のために各寮へ向かったのである。
●アサルト・フォーメーション
それから地球寮は修羅場となった。
改造なんかやってる余裕など無く、予備パーツから三機を組み上げることになったからだ。
「嘘だろ!? なんでイスルギから持ち込んだら駄目なのさ! 他の寮に回してる機体だってあるじゃん!」
「仕方ねえだろ。組み上げ時間が早いってのもリオンのウリなんだからよ。まっ予備パーツが売るほどあるのは良い事なんだろうさ」
ヒーヒー言いながらメカニック科が総出でリオンを組み上げていく。
忙しさに文句を言うオジェロ・ギャベルに対し、ヌーノ・カルガンは動画を取ってるカメラの方を指さした。そこでは次々に組み上げられていくパーツをリアルタイムで配信しており、画像加工無しでどの程度の時間を要するのかを何時でも見る事が出来た。こうなれば情けない姿を晒す訳にもいかずオジェロも黙る他はない。
「作業ですがこのまま四機目と五機目に集中していただけますか? 六機目以降が組み上がったらデミトレーナーを予備に戻すという形式で、その代わりに電子機器に関しては当初の予定通りに組み込んでいただきたいんです」
「そりゃ構わないけど……長期戦でも想定しているの?」
ラトゥーニ・スゥボータが用意した資料はリオンを電子戦用で組み上げる事だった。
頭部をレドームにして配線を多少変更する程度の物だが、ニカ・ナナウラはその意図を撹乱しながらの長期戦であると見て取った。リオンは高機動の飛行を前提にする以上、エンジンに負担の掛からない武装であるために火力がイマイチ低い。白兵戦で隊長機のアンテナを折る戦法で無ければ、長期戦を想像するのは当然とも言えた。
「現状の訓練度で正面戦闘を勝ち抜けるとは思って居ません。空間を広く取って戦力を傾斜し、集中投入で一機ずつ仕留めて行く方が建設的だと思います」
「斜めの陣形? とりあえず要望は『みんな』に伝えておくわ」
調整に時間の掛かるブースターではなく追加装甲中心のランドリオン仕様を展開。
これらが前衛を為して時間を稼いでいる間に、相手の布陣を電子戦機で確認しておく。そしてオウカ達を中心にした腕利き部隊を右後方から出撃させるという布陣である。相手の数と配置が丸判りならば、勝てる場所へ腕利きを派遣すれば勝率は高いという作戦なのだろう。ニカとしても反対する要素は今のところないので頷いて工程の手配に入った。
「3対3ならだいぶ違ったんだけど……」
「その場合、パイロットが凄いって事になってリオンの宣伝にならないんじゃないか? オレとしては出番があって嬉しいけどな」
「出番があれば、ね」
スクールからイスルギを経て派遣されたゼオラ・シュバイツァーは相棒の顔を睨んだ。
現状で不利な理由は明らかに習熟不足であり、特に彼女の相棒であるアラド・バランガはスクール出身者で一番下と言ってしまっても差し支えなかった。肉体強度と精神面の安定では群を抜いているのだが、こういった技術を争う訓練戦闘においては足を引っ張っている存在である。彼が本来の用途通りの『性能』を発揮して居れば、二人で相当なスコアを稼げたであろうに。
「なんだよ。オレたちは遊撃役だろ? 出番くらいあるさ」
「それは相手が全員で襲い掛かって来なかったらの話よ。こっちら広く構えたって、向こうが付き合う必要はないもの」
グラスレー社のハインドリーはバランスに優れた機体である。
攻守・遠近ともに隙はなく、その事を考えれば最大8機をこちらの前衛にぶつけてくる可能性は高いのだ。今回の戦いでは勝敗率で持って行かれるパーツが決まってしまうため、向こうからすればリオンに搭載されているテスラ・ドライブのブラックボックスさえ手に入れれば十分。余計な作戦を組むより、全機で必要数を倒してしまう方が確実であると言えた。
(だからこそオウカ姉さまは『資料』を使って挑発した。シャディク・ゼネリが動かなかったとしても、取り巻き達が反応する可能性は高い。ファランクスを組んで地味な戦いをしても、こちらの作戦を逆用しても有利に戦えるならば、向こうは積極的に打って出る可能性が出て来る)
二人と同じくスクール出身のラトゥーニはこの先の展開を予想していた。
おそらくは部隊を二つに分けてこちらの前衛を挟み撃ちにすると見せ、こちらの遊撃隊が回り込もうとしたところで精鋭である取り巻き達が迎撃に出て来るだろう。奇襲さえ潰せば総重量の劣るリオンがハインドリーに勝てるはずがないと踏んでの作戦を執ると予想していたのだ。
平日なので短めです。
「校則を書き換えました! 明日話し合いましょう」「OK即日調査終了」
「千日手だから無かったことにしません?」「OKその代わり取引しよう」
という策略の殴り合いですね。まあお互いにハッカーと企業居ればまあ。
とりあえず地球寮組を少し減らしてOG組を少し増加。
次回以降のメンバー比率の流れを作った感じでもあります。
●今週のメカ
『ランドリオン』余計な装備を外し、追加装甲と大型砲中心の戦車仕様。
『EWACリオン』頭部がレドームになった電子戦装備仕様。