水星の魔女OG   作:ノイラーテム

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第四話

 グラスレー寮側の後方陣地。そこから強烈なビームが放たれていた。

チャージ式のビーム砲で長距離に届かせる場合は威力が多少減衰するからこそ、レギュレーションの範疇に収まるという物騒な代物である。技術自体は何処にでもあるがゆえに、簡単に調整ができる。

 

「ああ! 外した、惜しい!」

「ザビーナ達の後退を援護するだけだから問題ないよ。エナオ、次弾に切り替え」

「もうやってる……射撃と同時に再チャージ」

 そこでは三機がジェネレーターを兼ねた大型シールドを展開。

更に隠蔽用の網の影に隠れて、ジェネレーターのサーキット接続を切り替えていた。最初に放ったレネ・コスタ機のシールドから接続を切り、シャディク・ゼネリ機のシールドへ接続。メンバーの中で最も精神性が安定しているエナオ・ジャズが狙撃を行うのだ。

 

「当たった! 二機とも撃墜!」

「いや、リオンの重装仕様はまだ動く。外見上はボロボロなのに本当にタフだな」

「……次弾装填。敵の来援に備える」

 スポッターを兼ねたレネの報告よりもシャディクは自分の知識を信じた。

テスラ・ドライブが基本状態の位置に各部スラスタを調整し、無限軌道でボロボロの機体を後方に下げて行ったのである。そして警戒する三人が思いもしない行動をランドリオンのパイロットが取ったのだ。

 

「はっ!? 機体を棄てて下へ? ふざけんな! 戻って私と戦え!」

「そんなこと言ったってさあ……ラトゥーニ! チュチュの救助に向かう! こっちに近づけさせないで!」

「え? 何か不調なんですか? バイタルは安定して……ちょっと、アイビスさん!」

 激昂するレネの声を無視してアイビスはチュチュ機がふっ飛ばされた障害物の方へ向かう。

機体を降りてまで走る姿に、ラトゥーニ・スゥボータは不信を覚えながらもチュチュ機のデータ走査を始めた。おそらくは自分の位置からは見えないナニカを見つけたのだろう。そう信じて前に出るのだが、流石に自由な行動をグラスレー寮側が許さなかった。

 

(何が起きたんだろう? アイビスさんの操縦技術はDランク。でもあの人は状態異常に関してとても鋭い……さっきだって)

 ラトゥーニはそこにアイビスの才能を見た。

彼女はスクール出身ではなくフィリオ・プレスティ博士のプロジェクトTD出身である。宇宙開拓こそがこのプロジェクトの要旨であり、それを考えればアイビスの能力傾向も判ろうものだ。そもそも本当に無能ならば、推挙されて現時点で送り込まれている筈はないのだ。単純に数合わせであれば、もっと別の人物が送り込まれている筈なのだから。

 

「……っ! チュチュさんの機体から送られてくる信号はさっきから全く変わってない?! オウカ姉さま! ティルさんを派遣してください。二人で敵部隊を押さえます!」

「仕方ないですね。こちらは三機で何とかしましょう」

 ラトゥーニは異常には見えない異常をようやく発見した。

チュチュのバイタルサインは平常を示していたが、さっきから同じパターンの繰り返しなのだ。人間は心理で体調が変わる物だし、敗退した上に障害物に奪っている状態でコレは逆に異常である。ゆえに救助を第一として、敵前衛を抑えつつ後衛に対してこちらの遊撃隊を当てたのである。

 

「スレイさん! すみません。チュチュさんの機体がさっきから異常なんです。アイビスさんはそれで救助を優先して……」

「くっ。判った。そういう事ならば流星は……いや、アイビスの分だけ私が挽回すれば良いだけだ」

 ラゥーニは駆けつけて来たティル・ネイスではなく、スレイ・プレスティへ状況を説明した。

スレイはアイビスと同じプロジェクトTD出身であり、その才能はオウカにこそ及ばないものの凄腕と言って良かった。彼女にわだかまりを持って戦ってもらうよりも、アイビスの行動には意味があると告げることで全力を発揮沿てもらおうと思ったのである。

 

「あはっ! 何かトラブってるみたい。今のうちに仕掛ければこの戦いは終わりよ!」

(まあそうなんだけどな。さて、どうしたものか……トラブルを起こしたのがリオンなら理想的だったんだが)

 レネの言葉を無視してシャディクは冷静に利益を考えていた。

決闘に置いて安全管理は自らに寄る責任であり、対処すべきは自陣営なのだ。だからこそ地球寮側は作戦を変更して何とかしようとしているし、レネもこの機に乗じて攻撃しようと提案していたのだ。しかしシャディクはこの機会を別の目的のために利用しようとしていた。どうせならば自分の目的のために最大限利用するべきなのだ。

 

(ここで中止を申し出る? ありえない。そんな奴を寮長に据えるような馬鹿はうちには居ない。将来の指導者にそんな甘ちゃんは必要ない。本当にリオンが損傷して居たら、脆弱性を訴えるためにそうしても良かったんだが。しかしこのまま押しても面白くはないな)

「シャディク?」

「ああ、少し考え事をしていた」

 シャディクの逡巡に感の良いエナオが気付いた。

銃口はそのままに、トリガーへ駆けた指が僅かに浮いているのを見るとシャディクに戦意がなくなったことに気が付いたのだろう。それでもトリガーに指をかけているのは、この状況で手加減する事などあり得ないと知って居るからだ。

 

「停戦信号を打ち上げてくれ。改めて代表者同士の一騎打ちを挑む。その方がスッキリするからだけど……一番の理由は勝率が高いからだけどね」

「はあ!?」

「了解した」

 ここでシャディクは仕切り直しを提案する事にした。

このまま戦っても勝てるだろうし、一騎打ちに持ち込んでも格闘戦仕様にしたザビーネならばかなり有利だ。そして何より、仕切り直しによって二機を倒して一機を中破させている事実がそのまま残る。一機討ちに勝てば半数を戦闘不能に追い込んだことになるし、負けても僅かに一機に制限できる。相手の遊撃隊の腕前がどの程度か判らないが、リスクマネジメントとしてはかなりのポイントであろう。

 

「もし引き受けなかったらどーすんの?」

「その時は向こうの責任だよ。オレたちはルール通りに攻め立てて完勝する」

 シャディクは戦闘指揮官であるが、同時にグラスレー寮のリーダー(後継者)でもある。

将来のリーダーが無用な生き死にを避け、かつ、センチメンタルな決断ではなく現実的に利益を得る最善の選択肢を提示できたとなれば支持される可能性は高い。なんといっても寮生はみなグラスレー社に所属する誰かの子息であり、同時にこんな状況で思考を鈍らせる子供でしかないのだ。栄光あるリーダーの決断を支持するだろう。

 

果たして結果は快諾。

一騎打ちを準備する間に、危険な状態にあったチュチュが助け出されることになった。

 

 双方にとって都合の良い場所と距離。

それを調整した後に代表者が向かう事になった。負傷したチュチュとそれに付き添う地球寮の生徒たち。ホっと一息吐く光景だが、勝敗としては非常にマズイ関係にあった。何しろ相手を一機も落とせておらず、こちらが救助している間にI・フィールドの冷却化やら、ビーム砲のチャージも終わっているのだ。では一騎打ちは止めようと言われたら、決定的な敗北しかない。

 

「頼む。代表戦に私を使ってくれ。オウカが出るべきなのは判っているのだが……」

 この段階でスレイが一騎打ちに出たいと主張した。

才能という面でオウカに対し自分が勝てない事は重々承知している。スクールとプロジェクトTD他のメンバーを合わせて事前先行する段階で、その差とさらに先を思い知らされていたからだ。現時点でリオンの強みがまったく前に出せていないことを考えれば、最高のパイロットと言えるオウカが出るべきなのは間違いないだろう。

 

だが、スレイにも譲れないモノがあった。

それはプロジェクトTDに初期から参加し、病弱で実体験を経験できぬ兄フィリオに変わり自分こそがプロジェクトを引っ張る人間だと考えていた。それが勘違いであると、先ほど思い知らされたばかりなのだが。

 

「スレイ……ごめん。あたしが……」

「アイビス、お前のせいじゃない。開拓団のメンバーとして考えればお前の行動は全く間違ってはいない。これはプロジェクトTD側のリーダーとしてのケジメだ」

 スレイはずっとアイビスが足手まといだと思っていた。

体が頑丈で感性的にも不慮の事態に多少耐性がある程度だと思っていた。だがI・フィールドの違和感やチュチュ機の不調に早い段階から気が付いていた。そして間違いかもしれないと考えるよりも先に、即座に行動して万が一の事態に備えていたのだ。これではどちらがプロジェクトTDに相応しいか判ったものではないと苦笑していた。

 

「スレイさん、判っているとは思いますが、必要なのは勝利ではなくリオンの特性を示す事です。それが判っているならば構いません」

「っ! 感謝する!」

 ここでオウカがスレイに華を譲ったのは言葉通りだ。

別に勝っても負けても問題ないように予め交渉していた。企業の社会戦というものはそういうものだが、それならばスクールの手の内を見せるべきではないだろうと考えたのである。見せるべきはリオンの汎用性であり機動性、パイロット一個人の技量ではないのだから。

 

「ラト。作戦は何かありますか?」

「個人的な技量を言えばどちらもオールラウンダーで互角と判断できます。機体の調整を考えれば向こうの方が有利でしょう。勝つためならば射撃戦に移行するべきですが……」

 ザビーナ・ファルデンは暗部方面込みで万能のタイプであった。

一方でスレイは宇宙飛行士という面で万能タイプ。どちらも高い技量で操縦能力を主体としており、同じ機体であればどちらが勝つかは分からなかった。だからこそオウカならば完勝であると推測できたが、今重要なのはスレイがどう頑張るかという話である。

 

「射撃戦は却下します。回避しながら射撃を続ければ飛行性能に優れたこちらが勝利して当たり前。あのまま戦いを続けた場合にグラスレー側が受ける不利益と同じ轍を踏むことになります」

「そっか。大人げないって訳だね。ただ勝つだけじゃマズイってのがムツカシー」

 オウカが注釈するとアイビスが頭を抱えた。

リオンは急制動や急加速に強く、もし初手で逃げを選んで空から攻撃すれば一方的な展開にできる。だがそれでは数に任せ、不調に付け込んでグラスレー寮側が攻めた場合の悪評と同じレベルの無作法だと判断されるだろう。これではスポンサーに意向に従って、リオンの性能を宣伝することはできないだろう。

 

「すまねえ。あたしがドジって無きゃあ……」

「それは言わない約束って言ったじゃない。ていうか、スレイに止められたあたしが言うべきでもないけどさ」

 チュチュとアイビスはお互いの顔を見合わせてクスリと笑った。

共に前向きに突っ込むタイプであり、傷をなめ合って暗い話をするのは向いてないのだ。そんなことをするくらいならばこの戦いで何かできるかを提案し、あるいは次回以降の戦いに貢献すべきなのだから。

 

「なあラトゥーニ。あたしらが何かできることはないか?」

「……そうですね。お互いの装備を変更し、近接戦闘前提で機動戦を挑むのはどうでしょうか? 高空で逃げ回っては問題ですが、相手の土俵ならば文句も出ないかと」

 リオンの売りは機動性と汎用性だ。

ハインドリーも同じ汎用性だが、今回は格闘戦仕様のまま出てくる方が有利なのでその路線で多少調整するくらいだろう。それに対してこちらは遠距離での戦いの方が有利なので、あえて相手の土俵で戦ったというスタイルで機動戦に持ち込んでも逃げたと言われないように対策するのである。

 

「最初にアサルトブレードとシールド、シールドが破壊されたところで別の武装に切り替えます。その間は常に相手の百メートル以内をキープ。敵方向へ全速で撤退することはあっても、決してこちらの側へ逃げずに戦い抜きます」

「敵方向へ全速で撤退って……」

「いや、それで構わない。後はこちらで何とかする」

 アサルトブレードは切り込み用に使う実体剣だ。

サーベル状になっていて機動戦に向いており、ミサイルやバズーカなどの実体弾が条約で規制されている中、アナクロな兵器ゆえに禁止はされて居ない。威力的にはビームランスと互角の勝負ができるだろう。後は予備兵装を持ち込み易いリオンの特性と、テスラドライブを活かしての機動戦に賭けたのである。

 

そしてお互いに距離を取っての代用戦。

ある程度離れているのでリオン向きと思われがちだが、加速性能を考えれば助走できるハインドリーの欠点を補える距離だと言えよう。

 

「悪いが逃がさない」

「元より逃げるつもりはない」

 ザビーナのハインドリーは大型シールドと追加したビームバルカンのみの変更。

接近しながらバルカンを連射し、増装を切り離しながら突っ込んで来たのだ。これに対してスレイのリオンは地上スレスレを滑走。シールドに仕込んだ粒子ミサイルを放っていった。

 

「あの速度で急上昇だと? 反重力装置でもついているのか?」

「生憎とそんなオーバーテクノロジーは無いな。ビアン教授ならば面白そうだからで実用しかねないが」

 ビームバルカンをリオンは急上昇で回避、同様にハインドリーも盾を翳して突撃を掛けて来る。

ザビーナは粒子ミサイルがビームをばらまく前に突破するつもりであり、スレイはリオンが得意な空中へ移動しつつ、ランスの有効範囲を僅かな時間に絞った。相対速度さえ変えなければ撃たれる前に接近可能、同様にランスで串刺しにされる可能性を極限まで絞ったのだ。

 

「ミサイルはあの位置で炸裂したか。ならばここはこうするとしよう!」

「土煙の中に突っ込んだ? 華奢な航空機で白兵戦を挑む気か! 射撃戦で来ないならばもう大盾は要らん」

 スレイは粒子ミサイルがビームをばらまき、地面を抉って土煙が舞ったのを利用した。

急速な地形変更に即応するのは宇宙飛行士の基本だ。この感性に置いて特化したアイビスにこそ劣るが、スレイの能力は通常のパイロットを遥かに上回るものだった。だがそれはザビーナ機に取っては得意な距離だ。罠を警戒しつつハインドリーから邪魔な大型の盾を棄てさせる。

 

「そう来ると思ったぞ! 盾を棄てたのは迂闊だったな!」

「残像!? 器用な奴め! だが舐めるな!」

 リオンが急制動を掛けて土煙の中を右往左往。

巻き上げた土砂に紛れてレーダーと画像に僅かな遅延が起こり残像が生じたのだ。だがザビーナは慌てず騒がずランスを『横薙ぎ』に振るった。ビームランスは正面への突きこそ最大の威力を発揮するが、別にサーベルの様に斬れない訳ではないのだ。ジェターク社の重モビルスーツならばまだしも、華奢なリオンでは防げまい。

 

「もらった!」

「想定済みだ!」

 ビームランスがリオンのシールドを一撃で破壊した。

だがスレイは既に予想しており、盾をパージすることで本体への大変バック・クラッシュは起きていない。アサルトブレードがハインドリーヘと迫るが……割って入ったビームランスに防がれてしまう。

 

「今だ!」

「体当たりだと!? 」

 その瞬間、リオンが左右から前方への急加速を掛けた。

アサルトブレードを受けている為、ビームランスで攻撃することはできない。仕方なくハインドリーに身をよじらせて、斜め後方へと下がろうとした。しかしそれこそが、スレイが望んだ行動だったのだ。

 

「ゲットバック。ユア・ポジション!」

「格闘専用のナックルだと! 何故そんな物が!」

 急加速したリオンは最速の右回り左向きを行った。

相手が下がったことも合わせて相対位置はあまり変わらない。代わりにハインドリーの真横に回って、盾で隠していたデミトレーナー用のナックルを使ったのである。もちろん重量比ゆえにリオンの拳が砕け散るのだが、ハインドリーは大きくのけぞってしまった。

 

「おのれ! ここは後退して……違う。これこそが奴の狙いか!」

「ロシュセイバー! アクティブ!」

 ザビーナはギリギリの所でスレイの目論見に気が付いた。

倒れながら後退して姿勢を戻したが、その時にはリオンが地面を舐めるように接近していたのだ。慌てて上へ翳したビームランスを戻そうとするが間に合わない。スレイは最初から移動の連続で追い込むことを考えており、白兵戦で有利に発とうとは考えていなかったのだ。予備武装のロングビームサーベルが予想位置よりも手前で延ばされ、ザビーナ機を機能停止に追い込んだのである。

 

こうして8機対8機の戦いは、3対1の破損比でグラスレー寮側の勝利。

ただし戦闘内容としてはリオンに対する評価を上げるという結果になった。言ってしまえばシャディク個人とイスルギ重工は互いに自分の求める成果を得た。あえていうならば……リオンと構想が近いペイル社のザヴォートとどの程度の差があるのかが疑問視され始めたのである。




という訳でシャディクの一人価値、スポンサーはどっちも満足という感じ。
リオンは30トンでハインドリーは52トン、かつ熟練度が違うので有利。
だけどシャディクは自分の評価を上げつつできればデータ入手。
イスルギ側はリオンの宣伝してるだけなので、こんな感じです。

OGメンバーの背景はちょこちょこ語りながら適当に本編へ。
そろそろスレッタとか出して、ゲイム・システムで対抗しなきゃ!って話にしたいところです。
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