水星の魔女OG   作:ノイラーテム

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第六話

 アシティカシア学園では生徒自治が基本である。

決闘委員会が生徒会の代わりをしているようなものだが、それ以外にも生徒同士の問題にも基本的に教師は関わって来ない。不正を行った場合は見抜けない方が悪いということであり、同時に教師は重役たちの子女が悪さをしても口出しできぬととでもあった。

 

「またかよ! おっかしいだろ、コレ!」

「最近勝率が良いから手を出して来やがったな。ここに持ち込んだ機材じゃ塗装を落とすのは無理だぜ。連中が飽きるか奴らが次の授業になるまで、待つっきゃねーな」

 メインカメラに吹き付けられた特殊塗料。

それ自体は信号によって暫く視界を遮断する程度の細工だが、その『暫く』の時間だけで試験を不合格にさせる事は出来る。やり直しは幾らでもできるとはいえアラドが激昂するのも無理はないし、何度も使われてる伝統的な手口だけにヌーノが苦笑するのも無理はない。

 

「教官に何とかしてもらえねえのかよ!」

「ダメだな。なんつーか、この手の手口は気が付かねえほうが悪い扱いだ。先に陣取った他の寮の連中が予備機に細工して、自分たちは周波数を変えるとか、単に何もしてない機体を使うだけだからな。事前の点検でコンディションに気が付かなかった扱いにされちまうのさ」

 何度も行われた伝統ゆえに無理なのは判って居る。

吠えるアラドにヌーノの方は既に試験の遅延を覚悟していた。この手口は実際にタイミングを合わせて試験を妨害する必要があるので、相手の生徒が居なくなれば実行できないからだ。幸いにもこの手の介入し易い試験は合格・不合格だけしか関わって居ないので、時間で成績が決まらない分だけ割り切り易かった。

 

「なるほど。一つ尋ねるが、試験の難易度を上げる申請を行うのは可能か? 要は邪魔をしている連中の想定外であり、試験官としては今やらない課題に差し替えるだけという範囲の提案だ」

「あ? 可能ちゃあ可能だが、試験官ごとに見れる内容は決まってっぞ? 損傷機の補修とか、補給任務とかは申請できねえ」

 ここでスレイが割って入った。彼女は近くのレーンでアイビスの面倒を見ていたのだが……。

どうやら向こうでも似たような事をやられて、少し中断して相談に来たらしい。同じ手口かどうかは判らないが、嫌がらせパターン自体は色々と考えられる。たかがそれだけの為にご苦労な事だが、問題があるとしたら組織的な妨害で夕食ごろまで延々と付きまとわれる可能性はあった。

 

「それで問題ない。アラド、お前はゼオラと組んでいたのだったな? 共同での突破訓練を申し出ろ。ゼオラ機からの画像とサブカメラの画像を組み合わせて補正すれば良い。それとアイビスには、電磁パニックからの再起動をやらせる」

「うわっ。どっちも同じ系統の試験じゃあるが……それ卒業間際の連中でも避ける訓練だぜ」

 スレイが提案したのは、同じ形式で難易度を遥かに上げた訓練である。

二機が同時にエリアに侵入し、お互いに情報を伝達しながら突破する訓練がアラド用。そしてEMPミサイルやクラッキングで機体がシャットダウンさせられたという過程で、一から機体を起こすのがアイビス用である。どちらも教育課程の中にはあるが、最上級生がやったり教本で教えられる程度の高難易度であった。

 

「機体損傷やセンサーの不足を前提にした試験だっけ? 無茶苦茶な……でもまあ泣きを入れるよりは面白いかもな」

「その意気だ。私は教官に話を付ける。その間にゼオラとアイビスに話を通して置いてくれ」

 共通するのはどちらも一回の試験時間が長丁場になる物であり高難易度試験だ。

他寮の生徒が介入タイミングを知っているとは限らない事。そして何よりこれが重要なのだが……アラドとアイビスはやった事のある訓練であった。ゆえに初めての機体での戸惑いこそあれ不可能という訳ではない。そして邪魔されて突破が難しい訓練よりは、挑むだけで自分の為になる訓練の方が面白いのも確かであろう。

 

そして長丁場の高難易度試験のテストが行われる。流石に介入を避けたのか、それとも合否系から得点系の試験に変わったから介入が難しくなったからかは判らない。しかし別の問題がアスティカシア学園を震撼させ、他寮の生徒たちも地球寮の生徒たちも注目を集めることになったのだ。

 

「大変だ大変大変! ホルダー挑んだ水星のやつ! 勝ったってさ! 大穴だぞ!」

「はっ? あのグエルに? マジで?」

 動揺するオジェロの言葉に全員が驚愕の言葉を浮かべた。

No1であるグエル・ジェタークの強さに、博打好きのオジェロはともかく、試験中の皆はそれほど気にしていなかった勝負なのだ。それがまさかの万馬券とあれば驚くなというのも無理はあるまい。

 

「そいつあーすげーじゃん。幾らになった?」

「それがさー。ガンダム疑惑で連れて行かれたんだよ。これって勝ったことになるのか? それとも勝者無しで払い戻し!?」

 ヌーノの言葉にオジェロは頭を抱える。

どうやら水星出身にパイロットが勝つ事に少額ながらも賭けていたようだが、没収試合になったかどうかが気になるようだ。いずれにせよ、この戦いがアスティカシアのみならず、モビルスーツの今後に大きな影響を与えるのであった。

 

 ベネリット・グループでの倫理委員会に闖入者が現れた。

ミオリネ・レンブランがその一人であるが、問題なのは同時に現われた二人の科学者である。ベネリットの総帥であるデリング・レンブランは、早い段階から科学者たちを睨んでいた。

 

「何故お前が此処に居る。ビアン・ゾルダーク」

「娘に頼まれてな。お前と同じでこればかりは治らんらしい」

 驚くミオリネを無視して、デリングとビアン・ゾルダークが他愛のない会話から入る。

ここ百年の中で上から数えた方が早い大天才とされるビアンは、超弩級のロボット好きであり娘に甘い事でも知られていた。それと同一視されればミオリネとて驚くし、デリングも鼻白むしかない。

 

「……。お前もあの機体がガンダムではないと弁護に来たのか?」

「あれはガンダムだ。今では知らん者も多かろうが、コロニーが出来た当時の記述では、角があって目がデュアルモニターの高性能試験機はガンダムと呼ぶことになっている。だが、お前が言いたいのはそんな事ではあるまい。そして……不本意ながら、この余計な同行者にも言いたいことがあるらしいな」

 ビアンのジョークを聞かなかったことにしたデリングは直球を投げた。

これに対してビアンは冗談とも本気ともつかぬ言葉を浮かべ、そして隣にいる脳科学者に視線を移す。その男は途方もない悪党であり、倫理的に問題のある人体実験を繰り返してなお……政財界に匿われ、今まで生き延びて来た悪党である。

 

「アードラー・コッホ……外道め。なんの用だ? お前もガンダムではないと?」

「ガンド・フォーマットなどという遅れた技術などの事はどーでも良いわい! ワシがはるばるここまで来たのは、もっと他に重要なものがあるからじゃ!」

 アードラー・コッホはスクールを始め、人体実験で超人を生み出そうとしていた。

その一環で人体の強化のみならず体の長寿化も果たしている。彼はこの場にいる誰よりも歳を経ていたが、鋲止めした顔以外は特にサイバネティクス科した形跡はない。その技術を求めて、政財界の多くがスポンサーとなっているというらしいが……。

 

「ワシの目は誤魔化されんぞ! ガンダムに使われておるのは完全自立した次世代型AIじゃな?」

「っ!? ……なんのことでしょうか?」

 アードラーの指摘にプロスぺラ・マーキュリーが一瞬だけ息を止める。

顔色も伺えないサイバネティクスのフェイスガードだが、この場に居るのは海千山千の会社経営者たちばかりだ。プロスペラが詰まった瞬間だけで、その様相を把握することは難しくない。中でも最近になって交流を行った者……ペイル社やジェターク社のCEO達は特にそうだろう。

 

「序盤の茶番からのあの立て直し、あの滑らかな動きの補正。間違いない、ガンド・フォーマットを普通に扱ったくらいでは間に合わぬ速度と動きよ。じゃがAIが独自に判断して居るならば、そうでもあるまい? お主のシンセー社では不可能な技術開発も、AIが自己申告してくれるならば難しくは無かろう」

「パーメットの流入をAIが担当……そんな回避の仕方が」

「この場合はAIの補正速度も相当なモノじゃなくって?」

 アードラーの言葉をペイル社の女たちが興味深そうに聞いている。

自分で考えて、自分でアイデアを出し、自分でその補正が可能なAI。そんな者があればシンセー社の不可思議な技術開発問題にも納得ができる。普通ならばAIは自己申告しないし、どの場所に強化装置を配置したら良いのか判らないからだ。それを成し遂げる時点で、高度と言うレベルでは無いことが伺える。

 

「それはそれで問題なのではないか? AIが人間に変わって戦闘をするということだろう?」

「頭が悪いのう。サリウスよ、いつからそんなに老いぼれたのか? AIなんぞ優れたパイロットの付け足しよ。じゃが、パイロットと二足の草鞋で動ける機体ならば、そして次世代の機体ならば話はずいぶん変わって来る。次の時代が見たくはないかの?」

 サリウス・ゼネリが冷や水を浴びせるが、アードラーは笑って答えた。

彼も悪人面であり辣腕家だが、アードラーの面の皮の厚さには叶うまい。そして脳科学や生体化学という面では、この外道に勝る男は居ない。そして確かな手腕でAIとやらを解析し、現代技術を発展させるのは間違いが無かった。

 

「自己回復! 自己進化! 惜しむらくは自己増殖機能が無い事か! あれば既に量産しておろう! そこをワシがやってやろうというのじゃ! どうせバランバランに分解してしまうのじゃろ? ならばワシによこせい! ワシならば幾らでも量産してやるわ!」

「ま、待て! 仮にそれを認めるとしても回収する権利と、それを元に開発する権利は我らにあるぞ! そして不当な技術で勝負を貶められたジェターク社にこそ、決闘をやり直す権利がある!」

 どこまでも厚かましい要求に、ヴィム・ジェタークが待ったをかけた。

決闘で負けたグエルは彼の息子であり、ヴィムは息子を使って宣伝工作とグループ内での地位向上を行っていたのだ。そこにミオリネ争奪戦の最前線も加わって居た。しかし気が付けば、『水星の魔女』とガンダムに負けたことで、挽回したいのは彼でありジェターク社であるのは間違いが無かった。

 

「ほん? 貴様のところで可能なのか? 見たところ全く相手になっておらんかったが?」

「馬鹿にされては困る! 我が社でも第五世代型AIの実用まではこぎつけたのだ。AIが半分というならば、残りはパイロット。この組み合わせであれば、ホルダーを要していた我が社が有利に決まっておるではないか!」

「ちょっとみんな勝手に話を進めないでよ!」

 頭の上で流れていく議題は一気に変更された。

最初は重罪であったはずのガンド・フォーマットなど既に押し流され、今は最新型AIを争奪する話し合いになって居た。流石のミオリネもこれには黙っておられず、ヴィムが決闘の話を持ち出したことを良いことに相乗りすることにした。

 

「小娘は黙ってろ!」

「その小娘を大の大人が奪い合ってたんでしょうが! そして決闘で全てが決まるというなら、私のお婿さんがスレッタで、あのガンダムは彼女のものでしょ? なら私たちに勝ってみなさいよ! 決闘勝てば全部って言ってたのあんたらでしょうが!」

 ヴィムが黙らせようとするがミリネは一気に場を持って行った。

此処でベットせねば全てが頭の上で決まってしまう。そして彼女が全賭け出来るタイミングはここしかなかった。

 

「私達が勝ったら解体も無し、少なくとも花嫁の件はそのまま続行! それがあんたの決めたルールでしょ! 大人を気取るなら自分が決めたルールくらい守りなさいよ!」

「……良かろう。自分で納得した結末であれば受け入れろ。私もそうするし、お前もそうしろ」

 こうしてレンブラン親娘は対立しなながらも話を動かした。

無理やり気味なミオリネにデリグンが妥協した形だが、あのままガンド・フォーマットも最新型AIの話も流されるままよりは良いと判断したのだろう。

 

こうしてグエルとスレッタの二回戦目が組まれることになった。




という訳で最初のグエルは速攻で流して二戦目です。
ただしガンド・フォーマットではなくエアリエルの凄さが判る爺が登場。
自分で考えて動けるエアリエルの争奪戦となります。
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