水星の魔女OG   作:ノイラーテム

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第七話

 その日のジェターク社技術部では厳めしい顔で議論が交わされていた。

エアリエルが完全自立したAIを搭載していると論証されて以来、その議論が止むことはなかった。そしてCEOを交えて最終的な結論が出る。

 

「出来んだと? 勝てんという事か? それとも我が社では完全自立型は作れんという事か?」

「その両方です、CEO」

 ジェターク社の技術部は無能ではない。

出来ないことを出来ると言って社の評価を下げるようなことはしない。条件付きで左右される程度の事なら別だが、本当に出来ない事を出来ると誤魔化すことはなかった。そして素直に差し出された頭を殴りつけるほど、ヴィム・ジェタークもまた愚かではない。

 

「あのクソジジイは簡単に作れると言っていたが?」

「それはアードラー教授だからこそです。彼は人体実験で人間をバラバラにしたことも、記憶を薬物消去して人格を一から植え付けた事もあります。むしろ彼でなくば、人間と同じ思考力を持ったAIなど設計できないと言えるでしょう。そして躊躇なくやってしまったからこそ、宇宙アカデミーを追放されております」

 ヴィムは『お前正気か?』とでも言わんばかりの顔をした。

今時そんな無体な事をやって良いのか? という意味ではない。普通にやって上層部にバレるような規模で平然と行うとも思えない、大規模査察でなければ分からないように隠した上で、そこまでやって逃げおおせるようなド外道だと言っているに等しいのだ。流石の剛腕ジェタークCEOも鼻白むしかなかった。

 

「……そこまでは判った。何とかならんのか? ウチが最初に当たると言ってしまったんだぞ? それに勝てば得る成果も大きい。『現時点』ではあの小娘よりもな」

「考えられることは二つです」

 作れないからといって、学生たちの様にお手上げするわけにはいかない。

ヴィムも技術者たちも無能ではないし、ジェターク社の社運を賭けて万が一にすがるわけにもいかなかった。これが何も判ってない時ならば相手を爆破でもすればよいが、今となっては注目され過ぎて問題になりかねないのだ。ならば別方向の努力が必要だろう。

 

「一つ目は条件を付けて小さく抑え込み、勝てる戦いを挑むことです。重モビルスーツの強みであり、ご子息の経験ならば勝てる決闘です」

「もう一つはグラスレーの小僧共がイスルギにやったように、条件を広くしろと?」

「はい」

 AIが役に立たない勝負をするか、AIがあっても負けない勝負を挑むのか?

至近距離での短期決戦か、長丁場で大規模な勝負を行うとして、まともな交渉ではそんな都合の良い勝負は挑めまい。グラスレー寮が先手を取って不正を行い、不正を暴かれて手打ちにしたような流れが必要だ。もちろん勝ち切れば問題はないのだが。

 

「ふん……それぞれが持つメリットとデメリットは?」

「前者の長所は噛み合えば勝つのは難しくない事、短所としては味気なく対抗策があれば危険な事です。勝っても負けても我が社の株価に少なくない影響を与えるでしょう」

 狭さで競うなら、極論を言えばロボット相撲でもすればよい。

互いにビーム兵器が使えない状態で至近距離の戦いというルールに『させれば』、重量級モビルスーツを開発しているジェターク社に負けはない。70トン近いMSと30トンも無いMSではその重量差はまさに、『重さは強さ』という原始的な戦いになるだろう。だがそんなショッパイ戦いをして、ジェターク社の株価に影響を与えないとは思えなかった。万が一、対ジェターク社シフトが功を奏すれば恥ずかしいどころではないだろう。

 

「後者の長所は我が社の総合力を活かせることです。耐久度だけではなくセンサーにしても、我が社のモビルスーツならば拡張性が高いですから。短所としては相手にも華を持たせる必要があるでしょう。勝っても総取りは難しくなりますし、こちらが負けても得る物があるような戦いでは、やはり株価への影響は拭えないかと」

「互いのAIの優秀さを誇示し、未来に向けたアピールとでも言えば言い訳はできるが……」

 広く競うなら、アステロイドで宝探しでもすれば良い。

お互いに三機か五機ずつというこことにして、グエルの機体をエアリエルに張り付けて長期戦を挑ませればよいのだ。こちらは新型以外はディランザで向こうは学園が貸してくれるデミトレーナということになるか? まず勝てるしこちらの優位性を示せるが、向こうもある程度の活躍をしてしまう。しかもAIの優位性という勝負であるならば、何かのキッカケで逆転されかねないのだ。これではやはりジェターク社の株価に影響は出るだろう。

 

「クソ! グエルが負けてこちらから挑んでいる状態なのがネックだな。何をやってもジリジリと我が社の……うん?」

「どうされましたかCEO?」

「フフフハッハハハハ! 俺に良い考えがある!」

 ヴィムは高笑いをしたかと思うと、シンセー社に連絡を入れるのであった。

 

「株式会社ガンダム? なんだそりゃ」

「例の水星のモビルスーツ、自分で考えるAIみたいだぜ。その安全性を検証するってよ。ついでにパーメットの問題も」

「グエルが勝っても水星ちゃんが勝っても、新しい会社の出資比率になるってさ。参ったね」

 オジェロの疑問にヌーノが応え、シャディクが肩をすくめた。

なんとヴィムはシンセー社のプロスペラに掛け合い、株式会社ガンダムを立ち上げたのだ。そして新会社で研究開発するAIの宣伝と、その安全性を検証するために次の決闘が行われることになる。勝っても負けても重い問題となるのは株式会社ガンダムだ。ジェターク社もシンセー社も大きく影響はしない。むしろ勝てる勝負を捨てたという事になっている、未来に賭けた男としてヴィム個人の株が爆上がりした。

 

「それで俺たちが何で駆り出されるのさ?」

「次の勝負はレース形式にするんだってさ。グエルと水星ちゃんがパイロットだけど、互いに補佐を付けて艦船込みで勝負を行う。そして中立という事に『なっている』我々は、多目的マシンであるリオンを使って、コースの設定に協力して欲しいんだってさ」

「要するにリオンのアピールをさせてくれる代わりに、ガンダムに協力するなって事だな」

 レース形式でコースを回りながらポイントを稼ぐ。

もちろん途中で戦っても良いのだが、遠距離で観戦込みの戦いをすればジェターク側の方が有利になる。そしてスレッタ・マーキュリーに人を雇う伝手が無い以上、中立である地球寮やグラスレー寮に作業を頼んでおけば、公正面から有利に立つのは間違いが無かった。シャディクとしてはビムが土俵際の攻防で勝利をもぎ取った形に見え、ロートルだと思って正直侮って居たと思ったほどである。

 

「んじゃ俺たちは何をすれば良いわけ?」

「コースに設定するプラスポイントとマイナスポイントの設定かな?」

「後は色んな小道具を設置して、それぞれが任意で使って良い? おもしれーじゃん」

 リオンの宙間仕様を使って各種ブイと宝箱の設置。

プラスポイントを割り出してコースを巡れば点数が増えていき、コースをショートカットし過ぎてマイナスポイントに接近し過ぎれば点数が下がるという事らしい。そして各種ガジェットを仕込むことで、それらを利用した戦いやらコースでの有意差が判るとのことである。

 

「どうしたアイビス?」

「いやさ……この勝負、あたしらでしたかったなって」

「色んなパラメータを見ながら宇宙航行とかプロジェクトPDに必要な事……なんですかね? ならアイビスさんの気持ちも判る気がします」

 既にコース設定計画を始めている中でアイビスが羨ましがる。

スレイとアイビスが所属するプロジェクトPDは本来、外宇宙開拓が趣旨だ。メインスポンサーであり技術協力しているイスルギ経由で地球寮に送り込まれており、普段は決闘なんてどうでも良いと思っているアイビスが羨ましがるのも無理はない。

 

「それなら普通に自主訓練で行けばよいだろう。無理に戦う事も無い」

「それだと船をレンタルするのに補助が出ないんだよな。この形式の勝負が恒常化してくれないかな」

 などとスレイとアイビスを中心に話し合いながら作業を進めたのである。

地球寮としては作業への協力でリオンの宣伝ができる他、デミトレーナーの整備費用を決闘委員会が出してくれるという事で概ね好評であった。最初に色々なポイントの設置を行ったという経験も後に活かせるかもしれないのだから。

 

 周囲の盛り上がりに対して決闘を行う当事者、特にスレッタとミオリネの心境は複雑だった。

負けたら全てを失うという状態から、株式会社ガンダムの備品であり、職員として勝手に登録されたのだから文句を言うなと言う方がおかしいだろう。

 

「まったく! 自分たちの都合で好き勝手にしてくれちゃって!」

「まあまあ、ミオリネさんも落ち着いてくださいってば」

「あんたは良いわよね! 負けても困らないから! って……ごめん。エアリエルに人格あるんだっけか」

 ミオリネの激怒がのほほんとしたスレッタに向かう。

ここで問題となるのがエアリエルの人格であり人権であった。AIに人格があるのかを議論するタイミングはとうに過ぎているが、人格があるならば人権があるのかという事になる。外道なアードラー教授は別にして、人格のある存在をバラバラにして再構築するとか、少しためらわれる話であった。もちろんアド・ステラの国際法においてはロボット三原則に近いものがあるので人権など認められない。

 

「中を見せてもらうとかはナシよね?」

「えっとちょっと待ってくださいね……ふんふん。ミオリネさんの頭蓋骨を開けて中を覗いても良いなら良いって言ってますよ。もちろんブラックボックス(?)に手を付けるのはナシってことらしいです」

「なら良いわ。人の都合で他人を同じ目に合わせたくないしね」

 おっかなビックリ尋ねるミオリネにスレッタが通訳(?)する。

どうやら人格があるというのは本当らしく、実に的確で皮肉の効いたユーモアが帰って来た。おそろしいことにソレはユーモアではなく、本当に頭蓋骨を開けて脳髄を解明させて欲しいと思って居るかもしれないのが笑えない所である。

 

「すまねえ! まさかオヤジに口添えを頼んだら余計な奴が付いてきちまったみたいだ!」

「いいんですよリューネさん。リューネさんが協力してくれなかったら、今ごろどうなったか判りませんし」

「それよりもあのアードラーっての何とかならないの?」

 ここで二人の間柄を取り持ったリューネ・ゾルダークが頭を下げる。

リューネは自分の機体であるヴァルシオーネが倫理検査を受けていることもあり、父親であるビアン博士を巻き込んで再検査させれば良いと思ったのだ。ビアン博士は有名な科学者であり、その知見があればパーメット粒子の過剰流入『データストーム』の問題は回避できると思ったのに……。その結果がアードラーに介入を許す事になってしまい、今に至るとも言えた。

 

「そいつあ無理だな。あのクソジジイは権力者に取り入ってやがる。一時的に捕まえても、すぐ出て来るだろうよ。むしろ半年ほど頑張りな! そしたらオヤジの事だ。エアリエルの仲間みたいなAIをみよう見真似でなんとかするだろうさ」

「あっそ。信用の出来るお父さんで羨ましいわ。それより……」

 ビアン教授は娘に甘いが、それはそれとして天才だ。

理論も何も無いならまだしも、エアリエルという現物がある以上は近い物を何時か作り上げるだろう。データだけならばジェターク社の高性能AI並の物を今ごろ作り上げていてもおかしくはあるまい。それでも人格を持つ完全自立型AIなど即座に作れはしないだろうが。

 

「問題なのは勝てるの? この勝負で負けたら私は籠の鳥なんですけど」

「エアリエルは軽量だから装備一式とクルーを揃える事ができればなんとかなるんじゃねえか? 同じ推力でも軽量な方が有利だしな。戦艦自体は学園から借りることができる」

 問題なのは今回がレース形式の決闘と言う事だ。

ある程度の距離を離れ、スピードを競いながらコースを巡るという系式。途中で戦闘を挑んで撃破するにしても、そもそも移動できなければ勝つどころの勝負では無かった。だが、第三者から見れば軽量級で自在に動けることになっているエアリエルの方が勝負し易いのは間違いないだろう。残念なことに装備もクルーも今から集める必要があることだ。

 

「そういう事ならボクらに協力させてくれないかな? いまウチは大変なことになって居てね」

「あんたは……」

「エランさん……」

 こうして予期せぬ第三者の介入により、勝負は最後まで分からなくなったのである。




 という訳でAI制御のダリルバルデはキャンセルされました。
なんというか自分で考えられるAIという話を聞いて、そのまま出すはずがない。
宇宙でMSと戦艦による障害走を行う感じですね。
「磯野~宇宙でダカール耐久レースやろうぜ!」
みたいな感じですね。ジェターク社の株は上がり、ペイル社の株は下降中。
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