……オレ、ミズキじゃね?   作:抜け忍

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オレ、ミズキだわ

 

 

 

 文字通り、言葉通りである。

 

 オレは……イヤ、間違いない。NARUTOのミズキだ。朝起きて家具の位置が全く違う事に気付いて、誘拐とかを疑ったけれど、それにしては小道具に見覚えがありすぎて。

 

 そして鏡を見た時、自分が誰だか一瞬わからなかった。しかし、一度上に折れてから下に流れる、青みがかった白髪。垂れ目。特徴の無いながら端正で整った顔に、どこかで見た事のあるような人物像。

 

 五分、それか十分ほど頭を捻って、その答えは出た。

 

「オレ、ミズキじゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 ミズキ。

 その男は、ぽっと出のキャラクターだ。漫画をちょいちょいとしか読んでないからもうほとんど覚えてないが、『NARUTO』に登場するキャラクターだった。

 一話限りで退場し、それ以降出演しない……という、NARUTO世界において多分一番影の薄い人間だろう。よりによってそのミズキに……転生? 憑依? 何かは分からないが乗り移っている。

 

 時計が指す通りなら今は午前5時半。普通の人間としては早いが、忍者としては遅いのかもしれない。窓から見える光景から察するに、ここはやはり木の葉隠れの里である。

 

 この建物は三階建てぐらいの大きさなのだが、下に見える往来を歩く人々は、みんなそれとなく気配のようなものが溢れ出ているように見える。

 弱い者も居れば、強い者も居る。

 

 それらを見て、オレは察する。ああ、チャクラかと。

 

 ミズキの、忍者としてのスキルは最低限しか知らない。変化の術を使えて、手裏剣術もこなせる、それぐらいの印象だった。少なくとも思い出せる限りは。

 

 NARUTOには五大性質という概念がある。火、水、風、雷、土の五つを纏めて五大性質と呼ばれるのだが、変化の術はそれに該当しない。手裏剣術なども、言わば技量に由来するものであって、五大性質には当てはまらないのだ。

 

 ミズキの五大性質を、オレは知らなかった。

 

 忍者としてやっていくの、無理じゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで既に時刻は6時半を回ろうとしている。一時間も悩み抜いた答えは、とりあえずいつも通りにしよう、という結論に至る。いつも通りと言ってもオレのではない。『ミズキの』いつも通り、である。

 

 確か忍者学校、つまりアカデミーの教員であったはずだ。自室(ミズキのだが)を漁る。書類のありそうな引き出しを漁るが、まあ何も無い。忍者らしく、家宅を漁られても個人の情報特定に至りそうなものは何も置いていないのだろう。

 そこまで忍者然とすんな、オレが困る。

 

 結局子供の隠すエロ本みたいな場所、つまりベッドの下に貼り付けるように巧妙に隠してあった教員証書しか見つからなかった。ミズキの写真が貼ってある。こうして写真と鏡を交互に見ると、本当にオレはミズキになってしまったのかと思わせられる。

 

 忍術は使えるのだろうか?

 アカデミー生に物を教える立場なのに、教卓に立つ先生が何も出来ないなんて、冗談にしても笑えない。

 

 印を結んでみる。……不思議な事に、何の違和感も覚えずに自然と変化の術の印を結べた。

 

「……変化」

 

 いまいち気合いのこもらない掛け声と共に、オレの姿は煙に包まれる。変化の術が発動したんだろう。しかしここで気付くのが、何に変化するのかという点だ。オレは特に変化する先のイメージを想像していなかった。

 

 ……煙が晴れて出てきたのは、しかしミズキであった。

 

「あれ……なんで?」

 

 もう一度印を結んで変化の術を発動する。今度は明確に、NARUTOの主人公のうずまきナルトをイメージして。

 

「変化!」

 

 今度はちゃんと変化出来ている。オレは鏡で確認するが、しっかりとうずまきナルトその人になっている。ジャージのようなオレンジの服に黄色の髪。額当てやそこから溢れる髪のトゲトゲ具合まで、完全にナルトだ。あー、おー、と声を出してみれば、それもテレビでよく聞いた声だった。

 

 変化を解き、ミズキの姿に戻る。変化の術を発動しようとして、勝手に印を結んでくれたこの体は、つまりミズキとしての体が印やチャクラの練り方を覚えている、という事か。

 

 ……しかし、オレは知っている。このあと数ヶ月も経たない内に中忍試験が始まり、木ノ葉隠れの里が半壊の憂き目に会うという事を。

 そして、オレがナルトを唆さなければ、ナルトは物語の後半までずっと使っていく影分身の術を覚えるのが遅れ、それを組み込んだ作戦を発案できなくなるという事も。

 

 オレが現状やる事は二つ。ナルトを唆すこと。これは気が引けるが、出来ることはやろう。

 もうひとつは、強くなること。これは単純に自分が、もといミズキが扱える術を把握し、そしてその術を扱える幅を拡充していくのが目的だ。

 

 なぜナルトとかサスケみたいな伸びしろのある主役じゃなく、一話限りで出てこなくなるミズキになったのかはわからないが、忍の戦闘に巻き込まれて死ぬのは御免だ。生き残る術は多いに越したことはないからだ。漫画のミズキの立ち振る舞いを思い出す。

 

 確かボクって一人称だったよな。んでイルカ先生に敬語も使ってた。だからとりあえず知らない人……というか全員に、ボクと言って敬語を使って、それで当面は乗り切ろう。

 術を使えるのもわかった。早いところ修行的なやつをしてみたい気持ちもあるが、今はアカデミーに向かってミズキとして仕事を進めていく方が大事だ。

 

 ……そういえば、服装に目を向けていなかった。ダークブルーのインナーを来ている。グローブやら何やらが置いてあるが、使っていないのか半分埃を被っている。鏡の横にハンガーがかけてあり、そこに吊るされるように中忍の着用するベストがある。洗濯して干したわけではなさそうで、ホルスターの中には巻物がいくつか入っていた。

 

 ベストを着て、家を出る。確認や思考で時間を取られて、今は午前7時。アカデミーがいつ始まるかはわからないから、早めに出るに越したことはない。

 中忍の足ならすぐ着くだろう。幸いアカデミーは目立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 忍、だのアカデミー、だのデカデカと書かれている看板のおかげですぐにわかった。玄関には数人の生徒が集まっている。どうやら時間としては問題なさそうだ。

 

「ミズキ先生、おはようございます!」

 

 生徒たち、そのうちの一人が元気な声で挨拶する。それに釣られてこちらを見た生徒の全員が、笑顔で一番槍の女の子に続いて挨拶をした。

 

「……うん、おはようございます」

 

 当たり障りのない反応を返した。子供たちは全く違和感を覚えていないらしく、ニコニコしながら廊下に入り、自分たちの教室に入っていく。見た目は6歳から10歳前後で、アカデミー生は前で言う小学生と変わりのない年齢だとはっきり認識させられる。

 こんな幼い子供が、戦争に出ていた時代があったのかと思うと気が滅入る。そしてミズキの年齢的にも、恐らく30行かないぐらいだろうが、戦争の末端を経験はしたはずだ。死にたくないし、こんな子が死ぬのを見たくない。その為にも教える事は教えないとだし、教育を通じて自分のチャクラを練る修行を……。

 

「おや、おはようございます、ミズキ先生」

「…! イルカ、先生…」

 

 後ろには、イルカ先生がいた。

 げ、原作キャラが、立っている……そこにいる……!!

 

 少し感動で取り乱しそうになるが、オレはともかくミズキは中忍であると自分に言い聞かせ、極めて冷静に対処する。

 

「おおお、おはおお、おはようございまふ」

 

 どもりまくったし噛んだ。変なものを見るような目はしなかったが、何かで体調を崩されたのでは、と心配してくれた。イルカ先生マジ教育者の鑑。原作ミズキの本性とは大違いやで……。

 ミズキより5か6ほど若いはずなのに、しっかりした人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室の目の前に立つ。ありがたいことにミズキとしての記憶があるのか、扉の目の前に立ったとき、そこが自分の受け持つ教室であると察した。しかし、静かである。

 

 ガラガラ、と引き戸を開いて入ろうとする。

 

 オレは自分の頭の上に、何かが迫ってきたのを実感した。手で振り払って叩き落とそうとしたが、ぼふりと柔らかいものに当たると同時に粉が顔の近くを舞った。少し口に吸い込んでしまい、咳が出てくる。

 

「アハハハ! 引っかかったーーーっ!!」

 

 その聞き覚えのある声に、自分の咳もピタリと止んだ。

 おかしい。ナルトはミズキではなく、イルカ先生の生徒だ。

 

「ミズキ先生、どうし……チョーク粉!? まさか、ナルトか!?」

「げーっ! イルカ先生じゃなかったってばよ!!」

 

 後ろからやってきたイルカ先生に、ベストがチョーク粉まみれなのを指摘され、それがすぐにナルトのイタズラであると悟った。オレの代わりに引き戸を開くと、真っ直ぐナルトの下へと向かい、思い切り怒鳴る。

 

「この大バカものーーーっ!! 本日はミズキ先生が来て下さるから阿呆な真似は慎めと言っただろうが!!」

「イルカ先生、オレ……ボクは気にしていませんよ。授業を始めませんか?」

 

 ここで長引かせるより、今ナルトがどんな感じなのかを見ておきたい。多分イルカ先生の口ぶりから察するに、今日は共同で授業をする日だったという事か。つまり、共同授業だった日を元のミズキが覚えているということだろう。

 

「ミズキ先生、しかし……いえ、すみません。時間は有限ですからね。早速始めましょうか。 ……だが、ナルト! お前は後で説教だ!」

 

 イルカ先生に指摘されてナルトはふいと顔を背ける。漫画の中でしか見られなかったやり取りに感動を覚えるが、それどころではない。教育者として教卓に立つだなんて初めてだ。

 むしろ、そちらの方に意識を割かれると急に緊張してきた。

 

「よし、では授業を始めるぞ!」

「はーい!」

 

 イルカ先生の言葉で授業が始まった。

 

 

 

 

 

「まずは一昨日に行った試験練習の続きから入るぞ! ミズキ先生、生徒達に変化の術のお手本をお願いします」

「はい、わかりました」

 

 返事してオレは教卓と生徒達の座る机の間に立つ。そして印を結び、分かりやすく掛け声を発する。

 

「変化の術!」

 

 ボンッ! そのような子気味良い音と共に煙が舞い、オレの格好はイルカ先生のそれに瓜二つになった。生徒達から拍手が聞こえてくる。

 

「ありがとうございます。 と、このように変化の術は極めれば本人と見分けがつかない程になる! 忍術の練度の高さとは、忍びとしての実力の高さを裏付けるものにもなる。お前達はまず、変化の術と、分身の術の二つを覚える事!」

 

 もう一度印を結んで変化を解き、元の姿に戻る。ナルトだけが、分身の術という言葉を聞いて嫌な顔をする。思い出した、確かナルトは分身の術が苦手だったな。

 

「先生、続けて分身の術もお願いします」

 

 イルカ先生に頼まれて、オレは分身の術のイメージを頭に浮べる。するとやはり、都合の良い事に頭の中のミズキが勝手に印を結び、分身の術を発動させた。

 

「分身の術!」

 

 言葉を発せば、チャクラが放出されて少しの分身が現れる。少しと言っても自らの意思で思うように動く、実体の無い分身が5人。確か3人も出せていればアカデミーは卒業できるらしいから、出す数としてはこの程度で十分のはずだ。

 

「ありがとうございます、ミズキ先生。 みんなしっかり見たな? 印を覚え、チャクラを練り、そして分身を出す! しっかりと授業内容を反芻して復習、練習していれば、印を結ぶのもチャクラを練るのも難しくは無い!! これからは自主的に分身や変化の術を練習し、オレとミズキ先生でマンツーマンの指導を行う! わからない部分があったら先生を呼ぶ事!」

「はーい」

 

 どうしよう、子供と接するなんてどうしたら良いか分からないぞ。ミズキになる前はあまり人と関わってこない人生だったから、子供との付き合いなんてわかるわけがない。イルカ先生、オレにも子供への教え方を教えてくれ。

 

「せんせー!」

「先生ー!おねがいします!」

 

 言っているそばから二人の生徒から呼び出される。イルカ先生が片方に歩いていき、オレはもう一方に近付く。いかんいかん、オレは今、ミズキ先生なのだ。

 

「どこが分からないのかな?」

 

 極めて教師らしくたち振る舞う。今度は完璧だ。イルカ先生との邂逅の時のようにどもったりはしてない。

 

「チャクラの練り方……練習してもよくわからなくて」

 

 オレもわからねーよ! ……なんて言えるはずもない。オレは教師なのだ……。

 

「え、えーと……」

 

 オレは昔読んだナルトの単行本を思い出していた。確か、カカシ先生が第七班に教えてたな。それを丸々パクればいいか……?

 

「い、いいかい? チャクラには二つのエネルギーがある。『精神エネルギー』と『身体エネルギー』だ。えーと…あ、それで……その二つのエネルギーを練り上げる事が必要になるわけだね。……で、うん、チャクラを練る為には、これらを繋げないといけない。印を結んで、一番集中できる体勢で、目を瞑って明確なイメージを想起してごらん。自分の心と身体がひとつになって……そう、強く繋がるイメージだ」

 

 最初こそしどろもどろだったが、後々になってするすると口を衝いて出てきた。これもミズキが先生として俺の代わりに教えてくれたのだろうか?

 

「こう、ですか? んん〜……っ!」

 

 そう言って手を組んで人差し指と中指を立てる、印に用いられる形を結ぶと、少女の生徒は力み始める。すると確かに、その内側からチャクラを感じた。オレはうんうんと頷き、出来ているよと言って元の場所に戻る。他の生徒たちも滞りなく出来ている。

 

 ナルトも変化は(おいろけの術を出してイルカ先生に怒られてはいるが)できている。しかし、やはり何度やっても分身の術だけは上手くできないらしい。

 

「……だーっ!! もう無理だってばよ!!!」

 

 上手くいかず諦めるナルトに、イルカ先生よりも早く動いたのは、オレ自身の予想に反して()()()()()

 

「何が分からないんだい?」

「あ、ミズキのセンセー……分身ってば、オレの苦手な術なんだ。もう何回もやってんだけど、ずっと出来ねーんだってばよ…」

 

 明らかにしょんぼりしているナルト。コツを教えてやりたいが、そもそも自力でできない関係上内なるミズキに頼らざるを得ず、そしてそれも確実に出てきてくれるとは限らない。当たり障りのないことを助言として言うしかなかった。

 

「ナルト君。君は変化の術は出来ている。分身の術だって、印と練るチャクラの量が違うだけで、変化の術とそのプロセスは変わらないんだ。最初に印を結んで、変化の術の要領で分身の術を出す。そこでミスをしたら、チャクラを練る量を調節する。これでやってみるといい」

「ん〜……よくわかんねーけど、わかったってばよ!」

 

 うーん100%ナルトだ。(?)

 わからないけどとりあえず分かったと返してしまうのは確実にナルトなんよ。ここはNARUTOの世界なんだなぁ(しみじみ)

 

 ……と阿呆な事を考えていると、他の生徒からもお呼び出しが掛かる。なんだ、アカデミーの先生と言ったって全然平気じゃないか。そう考えていたのは、6人目ぐらいを教えてやっていた時までだった。

 

 

 

 

「で……出来たってばよーーーっ!!!」

 

 その言葉に、イルカ先生やオレはおろか、生徒達全員が振り向く。

 

「あの、ナルトが……?」

「万年落ちこぼれなのに……」

「あいつが、分身の術を……?」

 

 そこには、四人目の自分を呼び出せた事を手放しで喜ぶナルトの姿があった。

 

 

 

 ヤバい。オレは確信した。

 ナルトは分身の術ができなかったから卒業試験に合格できず、それが理由で原作のオレに唆されて封印の書を盗んだ。

 どこかのタイミングで影分身の術は覚えるだろうが、それが遅れることは確かだ。初代火影、柱間様の禁術が記された封印の書を盗ませなければ、ナルトは影分身を使う戦いができなくなる。その影響を考えると、今このタイミングで分身の術を覚えてしまうのは最悪手だった。

 

 だが、それとは逆に、その先の未来を見てみたい気もする。ナルトが順当に忍びとしての強さを身につけていく道程を。

 

 ……だめだ。原作のキャラクターがより多く死ぬ展開が出て来かねない。ここは元通り、ナルトに柱間様の巻物を取りに行かせよう。ただし、ミズキとしてではなく、別の忍として。そして、イルカ先生と一緒に巻物を取り返しに行く。それでオレはボコボコにされず、ナルトは影分身を覚えられる。これで行こう。

 

「ミズキ先生、今日はこのぐらいにしておきましょう。明日は卒業試験がありますし、生徒達にも家で練習させる時間を与えたいですから」

「……ええ、そうですね」

 

 オレはイルカ先生と言葉を交わしながら教卓に戻る。分身の術が自分でも使えるようになったのがよほど嬉しかったのかウキウキのナルトを見るオレの目が曇っていくのが、自分でもよく分かる。

 せっかく違う道を歩めるかもしれなかったのに、酷な運命を辿らせるのが残念で、そして申し訳なかった。

 

 

 







 単行本を収納していたダンボールを見つけて読んでいたら天啓を得たので初投稿です。
 アニメは殆ど見てません。
 着地地点は未定です。海にドボンするかも……。
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