……オレ、ミズキじゃね? 作:抜け忍
見切り発車すぎる
放課後、オレは分身の術と変化の術を同時に使い、もう一人のオレを漫画にも出て来なさそうな上忍に姿を変えさせ、ナルトの家に向かわせる。オレは壁越しに様子を見、あるいは盗聴してナルトの動向を見守る。このプランでナルト唆し作戦を決行した。
「……うずまきナルトくん、だな」
「なっ…だ、誰だってばよ、お前?」
既に始まっているか。オレは壁に耳を当て、二人の会話を聞く。ちなみに分身の方は予め口マスクを着けているから顔がバレる心配は無い。一応顔も変えているし、頭髪も隠れるようにバンダナを巻いているから、見ただけで個人の特定には至らないだろう。流石に感知タイプにチャクラを覗かれたら一発でバレるが。
「オレは……ナルト、お前の成長を望む者だ。分身の術、見事だったな」
「え? ……ってことはつまり、イルカ先生? ミズキ先生? いやでも、声が違うってばよ……」
急に核心に迫ってくるやんけ怖……。
やっぱ意外性ナンバーワンだから、勘みたいなのも凄いんだろうなって。
「オレが何者かはどうでもいい。ナルト、力が欲しいか?」
すげえテンプレ出てる。オレってあんな感じなのか……。
「ほ、欲しいってばよ!! もっとこう、先生に認められて、バーンと火影になれるやつ!!」
そんでナルトの方も分かりやすく乗ってきたな。子供だからそういう承認欲求もあるんだろうし、それ以上に九尾を宿した子供だからそれとなく避けられたり迫害されたりで寂しかったんだろうし。
……凄い汗と罪悪感出てきた。
「なら、深夜にアカデミーから火影の……三代目の家宅に忍び込み、地下にある書庫から『封印の書』と銘されたものを持ってくるのだ」
「フーインの書?」
ナルトは分かりやすく首を傾げている。分身が分かりやすく説明すると、ナルトは少し嫌がる顔を見せた。ここは原作通りには行かないのか?
「えー……それって、火影のじいちゃんの家に盗みに入るってことだよな? オレってば強くはなりたいけど、そこまではちょっと……」
ううむ、強情っぱりめ。プランBだ、分身よ。
「ナルト。確かに盗みは悪いことだ。だから教えてやる。お前の秘密を。12年前、木ノ葉隠れの里が総力を挙げて化け狐を封印した事件、それは知っているな。相当の数の上忍、中忍はおろか、戦線に駆り出された優秀な下忍までもを傷付け、殺した、あの痛ましい事件を。 ──あの事件以来、里ではある
「ある掟……?」
自室のベッドに座り込んでいるナルトが、分身体の言葉に耳を傾け始める。もうそろそろ準備しよう。
「そう。お前に
そこでオレが、分身体の言葉を遮るように玄関を開いて突入する。
「───やめろっ!!」
「えっ……み、ミズキ先生!!」
ナルトが驚いたような声を出してこっちを見る。ごめんなナルト、もう少し臭い自作自演に付き合ってくれ。
「その先は禁忌です! 貴方は掟を破るつもりですか!?」
「邪魔が入ったか。まあいい。ナルト! 先程言ったことを忘れるな。それは必ずお前の力になる」
「──! 待てっ!!」
術を解くオレの分身体の足を目掛け、わざとらしく手裏剣を投げる。もちろん実体を伴わない相手に刺さるわけはなく、それ以前に姿は消えている。ナルトの方を見ると、少し呆然としていた。
「すまない、ナルト君。伝えたいことがあったんだが、あの上忍が先にいたから少しタイミングを逃してしまってね。ナルト君。──何を聞いた?」
威圧感を出さないよう、穏やかな口調で問い質す。ナルトは何も聞いていないとばかりに頭を振る。当たり前だ。あの分身には必要以上のことを話さないよう、事前にチャクラを練る時に作戦を組んでいた。
「良かった……ナルト君、あいつの言うことに耳を貸さないように。せっかく卒業試験の科目をクリア出来るようになったんだ。火影への道が開いたのに、変な事をしてはいけないよ」
ナルトは頷いたあと、俯く。どちらに転がるかは五分の賭けだが、これである程度軌道修正はできたはずだ。オレは追い打ちをかけるように言葉を話す。
「バケ狐は、確かに多くの命を奪った。でもね、ナルト君。それは君には関係のないことなんだ。君は忍びの道を歩もうとしている。それに今の木の葉は強い。君を護ってくれる人はいる。それを忘れないでくれ」
そして更に追撃をかける。
「───そうそう。イルカ先生が今度、ラーメンを奢ってやるって言っていたよ。よほど嬉しかったんだろうね。君がこれからもっと強い術を覚えれば、もっと褒めてくれるかもしれないね。───それじゃ、ボクの伝えたいことは済んだから、帰るよ。あの上忍の事を報告しないといけないからね」
ナルトは俯いた顔を上げ、少し言葉を選んでから言った。
「あのさ、オレってばもっと強くなりてーんだってばよ……。イルカ先生とかミズキ先生だけじゃなくてさ、もっと色んなヤツに認められてー!! ……だから、オレももっと強くなってやるってばよ!」
ナルトの決意が込められた言葉に、先生としてのオレが喜ぶのと、良心としてのオレが傷付くのを同時に感じる。
「また明日ね、ナルト君」
オレはそう言って玄関を通って出ようとする。最後にナルトの方を一瞥すると、ナルトは寝巻き姿だったのを普段着に着替えている。もうこの後の展開は予想出来た。何が始まるのか、も。
オレに残っている善意の心がとても痛い。
オレは、足止めのために三代目火影の自室を尋ねていた。警備の忍も、オレの切迫した表情(の演技)を見て察してくれたのか道を空け、オレの後ろに付いてきていた。
「火影様!」
オレはノックしながら入る。
「何じゃ、どうした。騒がしいのォ」
「それどころでは無いのです! 上忍の誰かが、ナルト君に
「例の……九尾の件じゃな? 全く、誰がそんな真似を……」
三代目火影様は、外して立てかけていた笠を被り、今現在フリーの実力者の忍を集めるように言い、オレを残して全員が散っていく。オレはもう一つ、三代目に嘆願することがある。それを出来るだけ引き伸ばして足止めする。
「あの……ボク自身の意見なのですが、ナルト君の今日の成長を見て、言うべきではないかとは思います。ナルト君はここに来て、いつもよりも強い向上心を見せました。なら、彼が九尾の宿主である事を明かしたうえで、我々であの子をケアしていく、それでやっていけないかと思うのです」
オレの言葉に三代目はううむと唸る。
「しかし、あの子は気丈なようでいてまだ幼い。出た芽を手折るようなリスクを負わせるのは、ナルトにはまだ酷じゃ」
「しかし……彼も下忍になろうとしています。そうなれば、ナルト君は我々がなぜ冷たく接するのかを知ろうとする。隠し通すのは難しくなっていきます。であれば、今我々からあの子に話して受け入れてもらう、それぐらいしか無いと───」
三代目は、しかしキッパリと断る。
「……いいや、やはりまだ駄目じゃ……。あの子を暴走させるリスクは、極力排除せねばならん。他里の情勢に注意したい現状、更に爆弾を抱える訳にはいかんのじゃ。わかってくれるか、ミズキ」
今の時点では、まだ他里の話は原作には出てきていないはずだが、この時にはもうすこし怪しい感じだったのかもしれない。火影の言葉に、それ以上噛み付く訳には行かず、一歩下がる。
「……申し訳ありません、火影様。出過ぎた真似を」
「いや、良い。お前とて、ナルトの心配をしてくれたのじゃろう? 家族を殺されたというに、お前もイルカにも、頭が上がらぬわい……」
えっ?
それ以上細かい話を聞けず、オレは部屋を出る他なかった。ここに来て新情報が出てくるとは。オレの親……というかミズキの親は、九尾を封印する時に殺されたらしい。イルカ先生はそうだとは知っていたが、まさかオレまでもとは思っていなかった。
ジャブ、ジャブと来て予想外のアッパーに唖然としながらも、オレは家に戻る。これって、いわゆるアニオリ設定とかじゃないよな。でも原作にも一片たりとも出てきていない情報だし……。
……今はそれ以上考えないようにしておこう。今はナルトの方が大事だ。今頃封印の書を盗んでどこかで読んでいるはずだ。ナルトの家を訪ねよう。
……と、ナルトの家に来てみたがやはりおらず。という事は、今頃三代目の家から封印の書を盗み出しているはずだ。オレはナルトの家を飛び出し、森へ向かった。森にはちょうどよく辺りから隠れるスペースがあり、術を研究するには持ってこいだからだ。
原作ではミズキが封印の書の存在と共にその森の有用性を教えていたが、指摘せずとも人目につかず、修行がしやすい場所はあそこ以外にはごく限られる。
柵に足を乗せ、バネの要領で思い切り跳躍し、森へと向かった。ナルトを見つけなければ。
案の定、森で修行をしていた。やはり忍の卵というだけあって、そういうのには目敏いのだろう。期待通りの動きをしてくれて嬉しい反面、この道に引きずり込んでしまうのを申し訳ないと思わざるを得なかった。
これで良いんだ。後は原作通り、火影様から召集令を受けてみんなを集め、ナルトを捜索させればいい。
オレはもう一度飛び上がり、火影様の家へと向かった。
「火影様、失礼します!」
「ミズキか」
三代目が先程と変わらず、水晶を見ている。多分だがナルトを探しているのだろう。原理が分からないが、あれも一種の感知術のようなものなのだろうか。
「ナルトは見つかりましたか!? こちらでも探しているのですが、どこを探してもおらず…………! ……まさか!」
そこでわざとらしく結論に至る。
「火影様、良くない事が頭を過りました。お話するべきでしょうか……」
「……うむ。言ってみなさい」
そしてオレは話す。
「ナルトはあの正体不明の上忍に、真実を突きつけられようとしていました。しかしその前に、何か誑かそうとしていたのです! もしや、初代火影様の封印された書を狙ってか、と……」
「……確認に行く。着いてきてくれるか?」
「無論です!」
そこでオレは火影様と一緒に地下の書庫に向かった。ナルトが封印の書の中身を読み漁っていることはもう明らかなので、わざとらしく焚き付けた甲斐あって火影様の同行が出来た。これの狙いは、同時に封印の書が紛失している事を発見することでオレへの飛び火を防ぐことにある(火を焚き付けたのはオレだが)。
そしてやはり、火影様は少し驚いたあと、オレに指示を下した。
「…………ミズキ、わかっていると思うが、皆を集めてくれ。既に過半が集まっておるじゃろうが、他に手の回りそうな別の中忍も集めてくれると助かる」
「ハッ」
今多分一番忍してる。
そこからオレは走り出す。一番先に伝えるのはもちろん、イルカ先生だ。
イルカ先生の生家を尋ねる。乱雑なノックに反応して出てきてくれたイルカ先生は、急な来客に驚きつつも対応してくれた。
「何方ですか? ……ミズキ先生? どーしたんです──」
「イルカ先生、大変です! 火影様の下に集まってください! ナルト君がイタズラで───封印の書を持ち出したらしくて……!!」
そう伝えるや否や、イルカ先生の表情がハッと硬直する。すぐに玄関口に置いてあったベストに腕を通し、家を出てきた。イルカ先生と歩幅を合わせ、民家の屋根を伝って跳躍を繰り返した。
「クソッ、なんだってナルトが……!!」
「わかりません……誰かに誑かされたのではと!」
オレとイルカ先生がアカデミー前に辿り着くのと、火影様が集めるよう伝えた忍達が戻ってくるのは同時だった。
「今度ばかりは、イタズラだけでは済まされませんぞ!! 火影様!!」
「うむ! アレは初代火影様が封じた術の書かれた危険な書物じゃ。間違った使い方をされれば恐ろしい事になる。幸いにして、書が盗まれてからそこまで時間は経っておらんじゃろう。ナルトを速やかに見つけ出すのじゃ」
「はっ!」
その言葉と共に集まっていた16名の上・中忍は飛び出す。イルカ先生とオレだけがその場に残っていた。イルカ先生は火影様に直談判している。
「火影様、どうかナルトを許してやってください……!! あいつはきっと焦っているだけなんです! 時間をかけてやれば、きっと心を開いて……──」
「イルカ! ……わかっておるとも、ワシはナルトを信じておる。ミズキも言っておった、何者かに誑かされたのではとな。ワシもそう思っておる。まずはナルトを見つけ、その真意をお前達二人の口で訊ねてやってくれ」
「火影様……! はっ、必ずや見つけ出して参ります!」
イルカ先生が感極まりながらも表情を引き締め、ナルト捜索のために跳んだ。オレも飛ぼうとした時、火影様に呼び止められる。
「待て、ミズキ。今回のナルトの成長、お前がその立役者だそうじゃな。……あの子は四代目の忘れ形見、イルカのように接してくれて感謝する。 ……それだけじゃ。くれぐれも頼むぞ」
こくりと頷き、オレも飛び出した。
「……見つけたぞ、コラ!!」
目の前のイルカ先生が、オレを覗き込んでいた。既に術の修行で疲れてるっていうのに、イルカ先生はオレを怒るようで、でもそれは仕方ないことで。それでも誤魔化すために、茶化すように立ち上がる。
「あーー!! 鼻血ブー見っけ!!」
「見つけたのはオレの方だ、このバカ者!!!」
怒られるのはわかっていた。それでも、この修行の成果を見せてやりたかった。これを見せつけてやれば、合格間違いなしだと思って。
「なあ、ナルト。お前ェ、ボロボロじゃねーか。一体何してたんだ?」
「そんな事より!! あのさ、あのさ! これからすっげー術見せっから、これ出来たら卒業試験早めの合格ってことにしてくれよな!!」
オレは張り切って印を結んで両手の指で十字を象る。
「影──」
その術を遮ったのは、分身の術のコツを教えてくれたもう一人の恩人だった。
「え………? ミ、ミズキ先生ェ……なんでだってばよ!?」
それは足元に刺さっているクナイからも明確だった。イルカ先生はオレの前に立って、ミズキ先生からオレを庇ってくれる。
「ミズキ先生、一体何をするんです!! この子を傷付けて何に!!?」
「イルカ先生……そこを退いてください! その巻物は、それ以上ナルト君に読ませてはいけない! 影分身を発動しようとしたのを見たでしょう!! それ以上は、暴走の危険があるんです!!」
「だからって飛び道具で牽制するなんて!!」
「それしかないと思ったんです、すみません。しかし!」
イルカ先生とミズキ先生の押し引きが始まった。オレはどうしたらいいか分からなくて、腰にぶら下げた巻物と一緒に立っていることしかできなかった。
「言われずとも、封印の書はオレが責任をもって没収します。さ、ナルト。そいつを渡してくれるな?」
ミズキ先生が隣に降りてくる。その目はさっきまでのミズキ先生みたいな温かさはあまりなくて、怖いものを見るような、でもそれはオレをと言うよりも、なにかもっと、大きなものを怖がっているような……。 でもそれが分からなくて、その不安が嫌だった。
止めてくれ! オレをそんな目で見るんじゃねー……!! オレが何をしたって言うんだってばよ!!
オレは印を結んだ。油断してたのか、イルカ先生もミズキ先生もオレを止められなかった。
「影分身の術っ!!」
「なっ……」
「ナルト、お前……っ!!」
オレの生み出した影分身はとにかく沢山。数え切れないほどの。これでオレを認めてくれるはずだ。イルカ先生もミズキ先生も。
「ナルト君!! なんてことを……!!」
「マズい…!! ナルト、今すぐ分身を消せ!! まだ間に合う! 早く!!」
「……え? え??」
でも、その反応はオレが考えていた笑顔とは程遠いものだった。そして、それが間違った行いである事は、少し前のオレには気付けなかった。
「……バケ狐め……!!」
後ろから聞こえてくる声。振り向けば、上忍の一人がオレを見て、
また、あの目だ。嫌なものを見る目。止めて欲しくても止めてくれなくて。どうしようも無くなる感覚に襲われる、あの嫌な目だ。
「なんで……なんでだってばよ……」
オレは呟く。
「そこのあなた!! それは掟に──」
ミズキ先生の言葉に、オレは何だか嫌になる。
「うるせぇーーっ!! 掟だなんだ、オレには言っちゃいけないだなんだって、なんなんだってばよ!! オレはただ、認めて貰いたかっただけなのに……──」
「フン、今更言い訳か!! その術は二代目様が考案し、初代様が直々に封じられた禁術! 持ち出すだけでなく、それを行使するなど、里に仇なす行為であるとわからんのか!?」
上忍の男の言葉は、あの時オレに力をつける方法を教えてくれたあの上忍の言葉とは真逆で、それが心に刺さって苦しかった。
「もう我慢の限界だ! お前のような奴を
その上忍が続けた言葉を無理やり止めたのは、いつの間にかオレの近くを離れていたミズキ先生と……イルカ先生だった。
「ふざけるな……! ナルトは里の子達からの疎外感に、今立ち向かっているんだ!! 認められようとしてるんだ!! 夢を目指して歩み出したんだ!!! オレの自慢の教え子なんだ……っ!!!!」
イルカ先生が涙混じりに叫び、言い放つ。
「ナルト君は強い。一人でもきっと生きていく。困難を乗り越えて。そしてその道は今、始まっているんです。ボクは中忍ですが、あの子は下忍でさえない。でもボクよりも強いんだ。 ……わかりますか。上忍のあなたよりも、あの子は強いんです!!!」
ミズキ先生が抑えていた怒りを爆発させる。
「お、お前、達……そい、つ、を……庇う、のか……? そいつは、九……ぐむっ!」
「ミズキ先生、もう我慢できません。オレにやらせてください」
「………わかりました。 ナルト君! 分身を全て引っ込めてください、お願いします」
オレは言われた通りに影分身を全員消した。後に残っているのはホンモノのオレと、ミズキ先生と、イルカ先生。それとイルカ先生が口を抑えてる上忍だけだった。
「ナルトは落ちこぼれでした。チャクラの練り方が雑すぎ、分身をいつも腐らせていました。それでもあの子が夢に向かって走るのは、火影となる事で皆に認めてもらいたいからです。オレはその夢を腐らせなくはなかった。だからあの子を教える時は心を鬼にしましたし、授業が終わったあとは親代わりにはなりませんが、ラーメンを奢ったりして甘やかしたりもしました。
分かりますか? あの子が、幼くして家族を皆失った辛さが。分からないはずはないでしょう? ……あなたも、九尾を封じたあの事件の折に、ナルトと同じように家族を亡くしたんですからッ!!」
「!! ………ッ!!」
動じつつも、上忍がイルカ先生の手を払い除けて立ち上がる。オレの事を見るけど、上忍はそれをすぐに止める。次にオレを見た時には、もうあの嫌な目をしていなかった。
「……ミナト様とクシナ様が手ずから護られた命だ。俺は大変な事を忘れていたのかもしれん」
イルカ先生の厳しそうな表情が、すぐに笑顔になっていく。ミズキ先生も、どこかホッとしたような顔をしていた。
「……すまん。これも、俺が折り合いをつけられない程、未熟だったからだ。妻と息子を失った、俺の……俺の未熟さ故だ。許してくれとは言わない。 ──ナルト!!」
上忍から呼ばれ、オレは近くに行く。
「悪かった。今まですまん。応援している」
その言葉でオレは、この上忍にも認められたんだとわかった。オレはサンダルの上に落ちる水滴がなんなのか分からなかった。視界が段々と滲んできて、ようやくそれが涙なんだってわかった。
「……ナルト。少し早いが……目を閉じろ。渡したいもんがある」
イルカ先生の言葉に、オレは目を閉じた。
「イルカ先生! それは……」
「いいんです、ミズキ先生。この子はもう、立派になった」
ナルトとイルカを見守る、ミズキと上忍。イルカはナルトの額に何かを巻き付けた。
「先生……まだかってばよ?」
「ふふっ……よし! もう開けていいぞ。鏡要るか?」
そう言ってイルカがごく小さい手鏡を取り出し、ナルトに向ける。ナルトはその中にいる自分の姿を見て、しばし呆然とするが、すぐに二度目の涙が溢れた。
「卒業……おめでとう、ナルト」
ナルトの額には、忍者となった証である木ノ葉隠れの額当てが、イルカ先生の額からナルトの額へと移っていた。
そしてイルカ先生は照れ隠しをするかのように一楽のラーメンを奢ってやると良い、ナルトも涙を隠すかのようにイルカ先生に飛びつく。
「わ! いてーよ……へへっ、まだ皆には内緒だぞ?」
「……うん! うん! イルカ先生ってば大好き!!!」
ミズキと上忍はそれを見守っていた。
「すみません、先程は飛びかかって殴ってしまって」
「いや、いいんだ。俺も気がどうかしていたと思う。あの子を見てみろ。九尾がなんだ。火影っていう立派な夢に向けて頑張る、一人の男の子じゃないか。 ……俺は俺を恥じているよ」
上忍のナルトを見る目は、もう差別的な悲しい目ではなく、大人が子供を見守る、優しい目だった。
「どうだ、見つかったか!?」
「ダメだ! クソ、エライ事になったぞ……!!」
「遠くへ行ったのかもしれん!もっと──」
「もう、よい」
集合して情報交換する中忍たちを制したのは、三代目火影、猿飛ヒルゼンその人であった。
「火影様! よい、とは……?」
「もう済んだのじゃ。心配することはない」
「火影様……」
不安そうな中忍たちを窘め、謝礼を後日用意する事を伝えて皆、家に帰す。
「もうじき帰ってくるじゃろ……」
水晶から全てを見ていた三代目は、誰に聞こえるでもなく呟く。その口角は上がり、満足そうな笑みを湛えていた。
「……本当にそんな顔で撮ンのか、お前ェー……?」
「いーからいーから!! はい!! ほらーー!!!」
「……ったく。後悔すんなよ。 はい、チー……」
「撮り直し!」
「えーーーっ!!」
三代目の笑みが呆れ顔に変わるのも、そう遅くはなかった。小さな大事件が起きてから、たった24時間も経たなかった翌日の事である。
着地点というか落下地点になるだろうけど、その落下地点すら見えてこない……ミズキ(憑依)はどうなってしまうのだ……。
ちなみにミズキ(憑依)がナルトを怖いものを見る目で見ていたのは、ナルトが怖いんじゃなくて九尾の暴走が怖いのであって、ナルト自体にはむしろ好意を抱いてることを忘れないであげてください。