……オレ、ミズキじゃね? 作:抜け忍
どうしよう…筆が進みすぎて考え無しに投稿してしまう…
「辞める……ですって!?」
受け持つ生徒達のペーパーテストの答案用紙に正答誤答のシルシ、つまりマルバツをつけているところに、オレが仕事を辞める旨を話すと、凄く驚いたような表情でオレの顔を見た。
「ええ。火影様にも事前にお伝えし、代わりの人員を見つけていただいています。ボクも任務を受けることで自分を鍛え治したいと思っていまして。 ホラ、教師をしてると腕が鈍っちゃいますから」
そういうオレことミズキ先生の、先生を辞めた後のプランを聞くイルカ先生の表情は暗かった。辞めて欲しくないんだろう。とても心苦しいが、オレとて教師ばかりで忍者の本懐である傭兵業を疎かにして、いざ来たる木ノ葉崩しの時に何も抵抗できず死ぬ、なんていうのは嫌だった。
「……すみません。イルカ先生は、オレと違ってとても優秀で優しい先生です。オレよりも教師の姿が似合っている。オレには教師はどうしても長続きしなかった、それだけなんです」
「ミズキ先生……いえ、良いんです。ミズキ先生の子達も、その代わりの方が仕事を覚えるまでは、オレの隣に着かせて仕事を教えながら教務に専念します。ミズキ先生はやりたい事をやってください」
イルカ先生は寂しそうな目を隠し、笑顔で言った。この人本当に聖人すぎてつらい、出来ることなら一緒に先生してあげていたい。でもオレにも強くなるという理由がある。ただしその理由は死にたくないっていう滅茶苦茶利己的なものだけども。
「……ありがとうございます。ボクの方が年上だっていうのに、わがままを押し付けてしまって、すみません」
「え、いえいえ! ミズキ先生は気にしないでください。オレもミズキ先生を失うのは惜しいですよ、そりゃ今やあなたは子どもたちの人気者ですから。でも、ミズキ先生のやりたい事に口出しするわけにもいきませんから」
本当に申し訳なさすぎる。頭を下げて平謝りしておこう。誠意だけでも見せて、今後暇な時は仕事の手伝いをしに行こう。
「ミズキ先生! 大丈夫ですから、面を上げてください!」
アカデミーから帰って自室に入ったオレは、今持っている個人情報ファイルに目を通し、読む。
──ミズキ
年齢………28
階級………中忍
──任務経験
Sランク 2
Aランク 12
Bランク 193
Cランク 439
Dランク 215
こう見ると年齢を重ねているだけあってかなり任務をこなしている。ただし中忍に上がってからあまり高難易度任務には従事していないのか、Sランク任務もAランク任務もそこまで受けているという印象は無い。多分そのSランク任務も、誰か上忍をリーダーとして中忍三人で組んだフォーマンセルで行なった任務なのだろうが。
Aランク任務も本来は中忍が受けるものではないから、こちらも多分別の上忍をリーダーに据えて達成した任務だろう。B、C、Dランク任務は、下忍・中忍の時にやったと考えると割と上等な戦績ではなかろうか。
この数字から見るに、下忍でD、Cランクの任務を受けまくり、中忍になったあとはCランクとBランクの任務を主軸にこなしながらも要請に応じてA、Sランクの依頼を受けた、というところだろう。
して、こういう任務経験があるっていう事は、少なくともミズキは忍の部隊と直接戦闘をして勝利できる腕があるという事だ。ナルトの多重影分身に負けた理由は恐らく、チャクラ切れや物量などの理由で押し切られて捌ききれず、という感じだろう。原作だとうぎゃぁああああとかってボコボコにされてた気もするが、あれは演出だと考えておこう。じゃなきゃこの任務経験に対して戦闘能力がしょぼすぎることになる。
であれば、忍と戦って勝てるほど腕の立つ忍である所以、つまり忍術や体術である。それを知る為にもまずは忍具の置いてある店へ行こう。
財布の中身は一万両ほど入っている。何かを買う分には問題なさそうだった。
「いらっしゃいませ〜」
「すみません、店員さん。
暖簾をくぐって入った店の中は、手裏剣やクナイ、巻物、千本……そういった忍の武器がズラリと並ぶ忍具屋、いわゆる忍にとっての武器屋である。そこにオレが求めたのは忍具ではなく、チャクラの性質を見定めるための『感応紙』と呼ばれるもの。
「ありますよ〜。あのあの、中忍の方ですよね、やっぱり教え子に性質を教えたりするんですか〜?」
「え? あ、はい。まあそんな感じです」
探してる間コミュニケーションを取ってくる、愛想の良い女性店員さんの言葉に適当を言って返しつつ、それが来るのを待つ。
『感応紙』とは、チャクラを吸って成長していく樹木を削り、作り出した紙である。そしてそれは、チャクラを吸うという性質を活かしたテストである。すなわち、感応紙にチャクラを送り込む事で、その人の性質の傾向がわかるのだ。
紙が燃えれば火の、濡れたら水の、斬れたら風の、崩れたら土の、そして皺が刻まれたら雷の、それぞれ性質を持っているということになる。
「こちらですね〜。10枚セットでお値段230両となっております〜」
「あ、はい。今出します」
財布のガマ口を開いて紙幣を取り出し、お釣りを貰う。物を受け取って店を出る。
「ありがとうございました〜」
暖簾をくぐって出る前に後ろをチラリと向いて礼をし、そのまま店を後にした。向かう先は人目に付きにくい、例の森。ナルトが影分身の修行をしていた場所である。
森に辿り着いたオレは開けた空間に水場を探した。緩やかに流れる川を見つけらその河川敷に荷物を広げる。
まずやることは、全ての性質の術を一度ずつ発動させ、その後感応紙によってミズキ本来の適性を持つ性質を見つけ出し、それを重点的に鍛える。寝ている時枕元にミズキが立って全部教えてくれたら楽なのだが、精神エネルギーが隅っこに追いやられているらしいミズキにそれを求めるのは酷なので、自分でやるしかない。
……そこでオレは気付いた。ミズキの干渉を受けなければオレはチャクラさえ練れないのでは、と。もしそうなら、オレの中のミズキが手を出さなくなってしまった途端、戦うことが出来なくなるのではないか?
オレはゾッとした。忍との戦闘中、突然動けなくなったら。そんなこと考えたくなかったが、考えざるを得ない。忍とは常に最悪の状況を想定しておくもの、そうカカシ先生も言っていた通りだ。
けれど、ミズキの干渉を受けなくなったら、なんて仮定に対して今できることは無い。なぜなら全て、オレがミズキとして振る舞う時、それは少なからずミズキに干渉されていると思われるからだった。
先生として、忍として、人として振る舞う時、その全てでオレはミズキとしてのオレになる。そんな気がしているから。
……今はそんな事を考えて動けなくなっている場合じゃない。できるだけ、中忍試験までの間にこの体に馴染んでおく必要がある。
そもそも五大性質の術というのは下忍には扱いきれないものらしく、忍になりたてというか、なるプロセスすら踏んでいないオレが使えるのかという話だが、そこはミズキとしてのオレに任せよう。
手早く印を結び、チャクラを口の中に含ませる。それを油に変えて……。
「(火遁・炎弾!!)」
ビチャ。
……口の中に蝦蟇油の風味が広がっただけだった。どうやらオレは火の性質を持たないらしい。小さな火をつける、という簡単な火遁を扱えなかったこと、逆に油という液体を口の中に生み出す事ができる事を考えると、どちらかと言えば水遁を使えるのかもしれない。
印を結んで、口の中にチャクラを変じさせた水を含む。そこまでは出来る。後はそのチャクラの水を勢いよく射撃するイメージで……。
「(水遁・鉄砲玉!)」
チャクラを練り込んで、爆発させるような勢いで口の中から吹き出すと、弾丸のように鋭い水遁の弾が撃ち出され、向こう側にある木が抉れた。威力も十分。やはりオレには水遁の適性があるかもしれない。
次は土遁を試してみよう。先程と同じく、知識として頭に叩き込んだ印を結び、片手を地面につけて言う。
「土遁・裂土転掌!!」
……やはり何も起こらない。本来なら地面に亀裂を発生させて足止めさせる術であり、同時に岩隠れの里の下忍が会得する基本忍術らしいから、使えるならこれくらい……と思ったが、どうやら使えないようだ。
それに、いくら事前に覚えたとは言ってもそれほど素早く印を結ぶ練習はしていない。滅茶苦茶思い出しながらのんびり印結ぶつもりだったのに、これもミズキの干渉なのか……?
考えていても仕方ない。オレは気を取り直して風遁、雷遁の術を使おうとする。風遁は、火の国の忍の中では使用できる者が極端に少ない性質らしい。適性がないということだろう。雷遁はその逆に、使用者も何人かいる。代表的なのはカカシ先生やサスケのような、実力の高い忍びだ。
さあ次は雷遁を使ってみよう。 ………雷遁って、中忍が使えそうな術に雷遁あるのかな……。
雷切とかはそれっぽいけど、手に雷のチャクラを纏うっていうことができたら出来るということにしよう。 ……イヤ、待てよ。確かチャクラは放出するよりもその場に滞留させて形を保つ方が難しいって聞いたな。なら水遁で池を生み出して、そこに雷を流し込めたら成功ってことにしよう。
……それって何かで見たな。自分が出した水遁に雷を流し込んで感電させる術。まあ水を流してからゆっくり雷を流す分にはそれほど高度な技術を要求されるものじゃないし、実戦で使うならともかく今は確認だけだから、問題は無いだろう。
チャクラが右手に溜まっていく感じがする。しかしその出力はカカシ先生やサスケの千鳥程のものでは無い。だが帯電させられているという事は、少なくとも雷遁の性質を持ってはいるという事になる。これが一切電気を感じていないのならわかるが、なまじあるのだから、修行を重ねれば伸びるという事実の裏付けでもある。
池の目の前に立ち、チャクラを変質させた電気を帯びた手を水の中に突っ込んだ。
「雷遁・……電流ながし!」
バチッ、という電流が流れて何かが感電するような音と同時に、青い電流が池を数周ほど巡って消えた。大した威力はなさそうだが、逆に言えば伸びしろがあるという事だ。
しかし、既にありそうな術に適当な名前をつけてしまって大丈夫なんだろうか。
……細かいことは考えないようにしよう。あとは風の性質、風遁を残すのみだ。風遁の使用者は言わずと知れたナルトや、ナルトのお父さんにして四代目火影の波風ミナト様、カカシ先生や、三代目の息子の猿飛アスマさんがいる。あとは大蛇丸も使っていたはずだ。
風遁の術の印、そのひとつを結び、大蛇丸が使っていた応用の利きそうな簡単な風遁術をイメージする。口から放つ風にチャクラを流し込み、まるで刃物のように鋭くしたり、強い風圧を発生させて押し込むイメージで……!
「風遁・大突破!!」
手応えがあった。口の中のチャクラは圧縮されて飛び出し、先程水遁の術で抉られていた樹木の表面に無数の切り傷をつける。かなり殺傷能力が高くなってしまっているが、戦いで使うのならこれぐらいあって損は無いはずだ。
これで大体出揃ったか。火遁と土遁が使えず、水遁と風遁がミズキの得意な候補。雷遁も多分訓練を重ねれば、カカシ先生レベルではないにしろ一線級ぐらいになるまでには使いこなせる、かもしれない。
では改めて、感応紙を取り出す。紙を指先でつまみ、指先にチャクラを流していく。チャクラが指先で溜まったら、それを放出するように感応紙へと流し込んだ。
流したそばから紙はジクジクと濡れていく。流し終える頃には紙は水を吸い切ってふやけており、風に煽られるだけで崩れそうなほど繊維が劣化していた。
オレの最も得意な性質は水のようだ。
風遁じゃないんだ、とは思わないことにしておく。ついでに水遁はちょっと主役っぽくないよね、という事も胸の中にしまっておこう。決して霧隠れの鬼人さんのイメージが悪役っぽいせいでとかではない。ホント。
今オレは坐禅を組んでいる。何も修行が嫌になってサボったとかではない。これも立派な修行になっていると思う。多分。
これは坐禅を組んで集中することでチャクラの流れを正確に読み取る修行だ。どうやらミズキが手伝ってくれているのか、少しずつだが自分の中にあるチャクラの流れ、そして腹の根底にあるチャクラ残量がわかってきていた。
だが、カカシ先生が言っていた『どっちがどっちか』というのはまだ判別がついていなかった。相当に精神エネルギーが似ているのか、あるいはもうどっちかが消えかけているのか、それは定かでは無い。
もし消えかけているのだとしたら、ミズキの体を借りている都合上消えるのはオレであり、ミズキではないはずだ。
……ただミズキの精神の方が消えかかっているのだと考えることで辻褄の合う点もいくつかある。一つは体の主導権。全ての時間をオレがオレとして過ごしており、ミズキが出てくるのは必要な時だけだ。
二つ目は精神エネルギー。チャクラを練るには同一人物が連動する身体エネルギーと精神エネルギーを練らないといけないはず。そこに、いくら似ているとはいえ別人のものであるオレの身体エネルギーと、消えかけているミズキの精神エネルギーを使う事は、恐らくできない。
最後は、オレの記憶。少なくともミズキの体に憑依した記憶や、本当のオレの身体の時にNARUTOの漫画を読んでいた記憶もある。対するミズキは、一つ目の時に列挙した通りだが、ミズキとしての記憶が出てくるのはごく短時間に限られ、それもオレに記憶の残る終わり方をするからだ。例えば補助されたチャクラの練り方も、今はさほど意識せずに出来るようになっている。補助をされてはいるものの、練り方に慣れが生じてきているということではないか、とも捉えられる。
オレはミズキだ。だがミズキは今、オレじゃない。オレ
……見えてきた。
精神エネルギーの奥深く。オレの精神に眠るように、ミズキ本人のものらしき精神エネルギーがある。オレは頭の中にあるイメージを思い浮かべる。オレの精神とミズキの精神を対話させるイメージだ。
『……よう』
『あなたが、本物のミズキ……?』
何も無い、真っ白な空間。どこが中央でどこが端で、どこが角なのかもわからない。そこにミズキの格好をした俺と、ミズキの姿を象るチャクラ体があった。
『オレの体の主導権を握って忍者ごっこするのは、楽しかったか?』
『……別に、オレ自身の意思であなたの体を奪ったわけじゃない。本当だ』
『フン……知ってるさ』
多分原作ミズキの本性と話しているのだろう。丁寧な物言いではなく、ぶっきらぼうで突き飛ばすような、トゲのある物言いだった。ただ、知ってるさ、というその言葉だけはトゲが無いように思えた。
『で、どうだ、忍は。面白いか』
『……楽しかった。オレが本当に忍になれたっていう実感があった。小さい頃は憧れた事もあった、あの忍者に。そこは、あなたには感謝してもしきれない。ありがとう』
『……要らねェーよ、そんな感謝は』
本物のミズキが顔を背けた。オレも今ミズキだからわかった。照れ隠しをしているんだ。
『……なぜ、ナルトに巻物を奪わせた? そのまま奪って、逃げちまえば良かったのによ』
ミズキがオレの行動の理由を聞いてくる。確かにミズキ本人からすれば、オレの行動は謎以外の何物でもないだろう。しかしそれには明確な理由があった。
『……オレは未来を知っている。本という形でオレは、この世界の人間の誰がどうなるかを、うろ覚えながらだけど、知ってる』
『未来、か……。その時、オレはどうだったんだ?』
ミズキが本来の未来を聞いてくる。正直に教えることにした。隠し立てしたとして、思考を読むことができれば意味は無いのだから、最初から素直に言う方が後腐れなくて良い。
『あなたは、ナルトを唆して封印の書を奪い、しかしイルカ先生に阻止されてナルトの影分身でボコボコにされて………そっからは不明。どうなったかはオレにもわからない』
『そーか……オレがあの落ちこぼれに、なァ……。まあ、あの影分身の数見せられちまったら、納得するしかないか』
思ったよりも素直だったのに驚く。ミズキはもう話す事は無いといって、最後に一つと付け加えた。
『オレの身体の主導権はお前が握ってろ。お前はもう、オレの助け無しでチャクラを練ってたし、印も結べるようになってた。オレはもう要らねェーはずだ』
『バカな! オレはずっとあなたの補助あってのものだと! ……いったい、どこで止めたんだ?』
『お前が感応紙を買ってたところだな。お前勝手にオレの稼ぎ使いやがって……もっと大切に使えよ』
この感覚は、アレに似ていた。自転車の補助を任せた父親が、漕げるようになっててふと後ろを振り向いたら、距離を離していた父親を見た時のような。あの突き放されながらも成長を見守ってくれていたあの感じに似ている。
『……ンじゃ、オレはもう消える。あとは好きなようにやれ』
『えっ……もう消えるのか?』
『ったりめーだろ。元々お前に喰われて少ねぇ精神エネルギーだけで対話してんだ。今ももうお前に喰われて消えそうだよ』
どうやら会話するにも少しずつ精神エネルギーを吸収してしまっているらしかった。止めようとするのをミズキが止めた。
『お前ェ、好きなようにやるのは良いが、ヘマだけはすんじゃねえぞ。ヘマしたらお前の精神乗っ取ってオレがお前のことぶん殴ってやる。オレとしちゃそっちの方が良いがな。 ……じゃあな。精々強くなってくれよ。『
ミズキの精神エネルギーがオレの中に吸い込まれていく。オレはわかった。最後にミズキが言っていた『オレ』は、ミズキ本人ではなく、憑依した方である、オレに対してだという事に。
ポツリ、と足に何かが零れた。涙とわかるまでにさほど時間は要さなかった。涙の理由はずっと分からないままなんだろうが、少なくともオレがこのNARUTOの世界に来て初めての、知っている人の消滅とそれに対する涙だった。
ゆっくりと目を開く。もうそこにはミズキはいない。昼下がりだった太陽はほとんど落ち、月が空に昇ろうとしている。もう夕方だった。
あれは本当のミズキだったのかはわからない。オレに都合の良い妄想が作り出した虚言かもしれない。
でも、今はそれで納得しよう。オレはミズキで、木の葉の中忍なんだから。
ミズキの補助を受けてようやく出来ているのだと思っていた忍術が、実は本人が覚えたものを、ミズキが補助していたと錯覚していたことが判明しました。身体能力がそのままならめっちゃ素早く印を結べるのも当然でありますから。
ミズキ(憑依)はミズキ(真)に進化しました!
ちなみにミズキがどの遁術が得意なのかというあたりの設定は完全にオリジナルです。オリジナル設定のタグつけておきます。
今後ともよしなに。