「そういや、アル。最近、グリフィンドールの……それもマグル生まれの子と仲良くやってるって聞くけど本当か?」
同じスリザリンの同級生セオドア・ローネンからそう尋ねられたのは休日の昼下がりに一緒にゴブストーンをやっている時のことだった。
セオドアはゴブストーンやチェスといったゲームが物凄く上手く、この前は六年生と互角以上に勝負していたこともあった。俺もそういったゲームは得意だから時々相手になっている。ちなみに彼のゲーム好きは一族共通らしい。
そんな彼からの思わぬ質問に手元が狂って臭い液体を顔にモロに浴びてしまう。
「うわっ!? 臭っ! えっと俺は……」
今の俺の反応で確信したらしく、セオドアは「やっぱりか」と呟く。色々言われるかと思ったが、意外にもあっさりとしたものだった。
「別に責めてる訳じゃないよ。僕個人としては全然アリだと思うしね。だけどスリザリンとグリフィンドールの仲の悪さは尋常じゃないし、スリザリンは純血を尊ぶ。色々うるさく言われると思うぞ。両方から」
セオドアに言われ、脳裏に嫌な顔が浮かんだ。スリザリンを悪と決めつけるモンドやその仲間達は勿論だが、ここスリザリンにも一定数面倒なのがいる。スリザリンは四寮の中で孤立している分、身内には優しいが、その優しさに甘える者を見逃す訳ではないのだ。
「だから賢く立ち回るこった。他寮の奴と交流していても
「……ああ。肝に銘じておくよ」
俺がそう返事するとセオドアは自分のゴブストーンを片付け始めた。
「あれ? セオドア、もう終わるのか?」
「ああ、言いたいことは言ったし、今のお前じゃ負ける気がしない」
確かにミアのことを引き合いに出された時、自分らしくないミスをした。そんな状態の俺が相手ではセオドアにとってちっとも面白くないだろう。「遊びの合間に人生」がモットーの彼は、ゲームに関してどこまでも全力の根っからの遊び人だ。
「この借りは必ず返すよ、忠告ありがとな」
そう言うと、セオドアは何も言わず右手を軽く上げてそれに応える。セオドアを見送ると、自分もゴブストーンを片付けて部屋に戻ることにした。片付けをしながらセオドアの言葉を思い出す。
確かに彼の言っていることは尤もだ。しかも、あまり交友関係の広くないセオドアでさえ知っているということは、スリザリン内ではかなり広まっていると考えた方が良いだろう。例のあの人のこともあって、表立っては少ないが、純血過激派がいない訳ではない。
そういった連中からすれば俺みたいなのは裏切り者みたいに見えるだろう。そう考えると、少し怖くなってきた。早く部屋に戻ろう。何事もないと良いんだけど……
しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、部屋に戻ろうとした俺の行く手を阻む者がいた。ゼヴィーロ・トラバースとその取り巻きのブリック・サイフォン、スリザリンの同級生の中でも純血思想にどっぷり浸かった奴らで、俺が知る限りモンド一味と同じくらい面倒な連中だ。
トラバースは俺をジロリと睨み付けると、気取った調子で言った。
「やぁ、バクスター。最近くだらん噂を耳にしたのだが本当かな? 何でも君が穢れた血と仲良くしてスリザリンの権威を貶めているとか」
「いやいや、もしそうだとしたら大変な裏切りだよ。退学じゃ済まないよ、君ぃ」
サイフォンが不快なキーキー声でそう言うが、馬鹿か。そんなんで退学になるかよ。
「まぁ、今後付き合う友達は選んだ方が良いと思うよ。尊き純血の我らとあの穢れた血の下等生物とは住む世界が違うんだから」
「……悪いけど、誰と友達になるかはこっちで決める。少なくとも純血純血言ってる割に成績が大したことない奴より遥かにマシだ。そんなんじゃ名誉ある聖28一族の名が泣くぞ」
そう皮肉を返すと、トラバースは途端に顔を真っ赤にさせた。サイフォンなんかは大好きなご主人様を侮辱されたことでクィンタペッドのような獰猛な顔になっている
「……貴様ぁ、人が優しくしてやればつけ上がりやがって……」
「ゼヴィー、こいつやっちまいますか?」
サイフォンは既に杖を構えて殺気をダダ漏れにしている。俺達の間に剣呑な空気が流れる。二対一だが、こんなのに負ける気はしない。速攻でエクスペリアームスを決めてやる。その時……
「何をしているの?」
声が聞こえ、振り返るとそこには監督生のフェリックス・ロジエールが立っていた。フェリックスはサイフォンをジッと睨む。
「決闘は御法度よ、サイフォン。僕に自寮の得点を減点させたいのかしら?」
「え? あ、い、いえ……」
サイフォンはさっきまでの威勢はどこへやら、フェリックスの覇気にすっかりビビってしまっていた。エクスペリアームスを受けた訳でもないのに杖を落とす。フェリックスはそんなサイフォンに呆れたように溜息を吐き、次にトラバースに視線を向ける。
「次にトラバース、あなたも他人をどうこう言う暇があったらまずは自分を高めることを優先しなさい。最近学業を疎かにしがちよ。同じ聖28一族として恥ずかしいわ」
「うっ、はい……」
トラバースは項垂れて返事をする。同じ純血の名家の人間の言葉だ。彼にとっては効果抜群のようだ。そして、最後にフェリックスは俺に視線を向ける。
「最後にバクスター、あなたはもう少し賢く生きなさい。トラバース達の言っていることも一理あるわ。ここはマグル贔屓の脳筋グリフィンドールでもなければ、お人好しのお間抜けハッフルパフでもないの。純血と狡猾さを何よりも重視する寮なのよ。これからはそれを踏まえて行動することね。分かったかしら?」
「はい……」
フェリックスは平等に俺達を説教した。トラバースとサイフォンはフェリックスに言われたことが堪えたのか、俺に見向きもせず、トボトボと自分の部屋に帰って行った。幸か不幸かフェリックスのお説教で面倒な二人から逃れることに成功したようだ。
俺も居た堪れなくなり、部屋に戻ろうとすると、フェリックスに呼び止められた。まだ何か言われるのかと内心ビクビクしながらも振り返ると、フェリックスの表情はさっきより少し柔和なものだった。
「最後に一つ言っておくわ。賢くっていうのは本音と建前を上手く使い分けることよ。今後の人生で成功させたいのならね」
「本音と建前?」
「そう。あなたがどう思っていようと、あなたがスリザリンの人間であることは変えられない。そして、あなた達の行動次第で他のスリザリン生達も同類に見られるのよ。生憎、一部の生徒はそれが分かっていないみたいだけど」
その一部というのは、トラバース達やモンド達のことも指しているのだろう。
「だからこそ、周囲を納得させられるように振る舞いには注意しなさい。スリザリンはあなたが思っている程浅いものではないわよ」
そう締めるとフェリックスは踵を返して歩き始めた。お礼を言うと、彼は何も言わずに右手だけヒラヒラさせる。そんなフェリックスを見送ると、談話室の壁に掛かったスリザリンのシンボルが描かれたタペストリーをジッと見つめる。
「純血と狡猾さを求めるスリザリン……か」
元々スリザリンに愛着などなかった。ずっとハッフルパフを希望していたのに、何をトチ狂ったか、帽子によってスリザリンに選ばれたのだ。だけど、何ヶ月もスリザリンで過ごせば少しは愛着も湧いてくる。良いところも色々見えてくる。だけど、セオドアやフェリックス、トラバース達によって、スリザリン生として生きていくことの難しさを改めて突きつけられた気分だった。
モヤモヤした気持ちのまま部屋に戻ると、そこにはランディがいた。
「やぁ、おかえり、アル」
いつもと変わらない感じで出迎えてくれるランディが今はありがたい。ベッド近くのマガジンラックからクィディッチの雑誌を一冊借りて目を通す。万年最下位だけど、根強い人気を持つチャドリー・キャノンズについての特集号だった。しばらく記事に目を通していると、ランディが遠慮がちに声をかけてきた。
「なぁ、アル。ベイカーのことだけど……」
……また、その話か。既に色々な人から言われて少し嫌気が差していた。
「またその話か。もうセオドアやフェリックスから散々言われたよ」
「いや、違うよ。縁を切れとか言う気はない。入学前からの友達なのは僕も知ってる。だけど、君が色々言われたようにベイカーも寮で色々言われてると思うよ」
ランディの言葉に思わず雑誌から目を離す。ミアも俺と同じように注意されている可能性は全く考えていなかった。それにミアの所はモンドやその取り巻きとかもいる。ランディは続けた。
「ベイカーはマグル生まれ、全然この世界にコネクションがないんだ。それで彼女が被害を受ける可能性もある。だから、友達になるのなら相応の覚悟を持って付き合った方が良いぞ」
「それは……やっぱり縁を切れってことか?」
「友達をやるなら覚悟を持てってことだよ。アルもベイカーも、お互いにね。それで、もしベイカーにその覚悟が無くて、アルから離れたとしても彼女を恨まないことだ。誰でも自分が一番可愛いんだから」
そう言って、ランディは再び雑誌に夢中になった。そんなランディを見て、俺も雑誌に目を通すが、あまり内容が頭に入らなかった。
スリザリン生名簿
セオドア・ローネン
アルフレッドのゲーム仲間。「遊びの合間に人生」がモットーの遊び人。ゴブストーンが最も得意。高祖父がホグワーツの教師をしていたらしい。
ゼヴィーロ・トラバース
純血の名家トラバース家の人間。だが、実際は分家の分家でそれを非常に気にしている。同級生の中でもかなりの純血思想の持ち主。成績は下から数えた方が早い。
ブリック・サイフォン
トラバースの腰巾着で、彼も純血主義者。成績はトラバースより下。小物。
犬猿の仲の寮生が友達になる以上、こうなるのは必然っちゃあ必然。