十二月に入り、クリスマス休暇が近付いてきた。今年はジルク叔父さんも忙しいらしく、家に行けないらしい。そういうことならわざわざ帰らなくても良いか。ヘザーには少し悪いけど。
そういう訳で俺はホグワーツに残ることにした。スリザリン生はほぼ全員帰省するらしく、ホグワーツに残るスリザリン生は俺を含め数人しかいない。ランディやモートン、セオドアからは家に来ないかと誘われたが、遠慮しておいた。折角の家族の団欒を邪魔しちゃ悪いし、俺としても今年初めてのホグワーツだ。色々城の中を見て回るのも良いだろう。
ちなみに、ホグワーツに残る生徒は、スリザリン以外の寮では意外といるらしい。ユーインやミスティなんかは残るそうだ。
ちなみにミアやイスカのようなマグル生まれの子は、ホグワーツでの思い出をお土産に帰省することが多い。ミアも、今年のクリスマスは珍しく両親の仕事が休みらしく、家族一緒に過ごせると楽しみにしていた。
そして、遂にクリスマス休暇がやってきた。
生徒達は列車に乗って、それぞれの自宅に帰って行った。殆ど誰もいないスリザリン寮内にずっと籠っていても仕方がないので、しばらく校内をブラブラ散歩する。
そんな時、訓練場に巨大なモミの木が見えた。何だろうと思って入ると、そこにはミスティと入学の時にいた大男がいた。何か話しているようだ。ミスティが俺に気付くと、声を掛ける。
「あら? アルじゃない」
「やぁ、ミスティ」
「なんだ、ミスティ。知り合いか?」
「ええ。アル、この人はハグリッドよ。この学校の森番をしているの」
「えっと、どうも……」
俺がそう言って、ペコリと頭を下げると、ハグリッドも挨拶を返す。しかし、俺もハグリッドもどこかぎこちない。俺も自分の背丈の倍以上の大きさのハグリッドに圧倒されていたし、ハグリッドの方もスリザリン生の俺に対してあまり良い感情を抱いていないようだった。この調子で大丈夫なのか……? 俺は小さく溜息を吐いた。
しかし、数分後…………
「「あっはっは!」」
俺達はあっさり打ち解けていた。お互い魔法生物が大好きということがキッカケで簡単に仲良くなれたのだ。
「いや〜しっかし、意外と気が合うな。お前さんも生き物が大好きだったとは」
「うん、ハグリッドもね」
ハグリッドは嬉しそうに俺の背中を叩くが、正直痛い。ミスティが呆れたように話しかける。
「そういえば、ハグリッド。この大きなモミの木をどうするの? 何か手伝って欲しいことがあるって言ってたけど」
「おお、そうだ。すっかり忘れてた。こいつは禁じられた森から切り取ってきた高品質なモミでな。大広間に飾るんだから、これくらい大きくなきゃいけねぇ」
「へぇ、それなら大広間にこの巨大な木をクリスマスツリーとして飾るの?」
「いんや、このままじゃまだ飾りには使えねえんだ。邪魔な枝とか切らねえといけねえんだが、高い所じゃあオレでも届かねえ。箒に乗ろうにも、箒が潰れちまうしな。だからミスティには代わりに上の所を整理してほしいんだ」
どうやらこのモミの木の剪定をやってほしいらしい。ハグリッドが理由を話すと、ミスティは納得したように頷いた。
「なるほど、そういうことなら……ちょっと待ってて。今箒持って来るから」
「おう、頼むぞ」
ミスティは近くの倉庫から箒を取りに行こうとする。しょうがない。折角だし、俺も手伝うか。俺はミスティの後を追った。
「待って、俺も手伝うよ!」
「アルも? 有難いけど良いの? 折角のホリデーなのに」
「まぁ、どうせやることもないし。良い暇つぶしになると思ってさ」
「そう、分かったわ。あたしはてっぺん近くをやるから、アルは少し下の方をお願いね」
「オーケー、任せてよ」
倉庫から箒を失敬すると、ミスティと一緒に一旦ハグリッドの所に戻る。そして、ハグリッドから剪定用の大バサミを貰うと、俺とミスティは箒で一気に空を飛んだ。
木の剪定というのは意外と大変な作業だ。まず、枝が意外と固いので、切り落とすのに力を使う。しかもそれを不安定な箒の上でやるのだから、かなり怖い。そんな俺の気持ちを察しているのか箒もグラグラ覚束ない動きだ。正直、やり始めて数分で「引き受けなければ良かった」と少し後悔し始めていた。
飛び立つ前に、ハグリッドが「もし落ちたらオレが受け止めてやる」と笑いながら言ってくれたが、それでも箒からの落下なんて経験したくない。そんな訳で、ガチガチになりながらも、何とか邪魔な枝を切っていった。
一方でミスティは既に箒を乗りこなして、木のあちこちを移動しながら器用に枝を切り落としている。落ちる危険なんかモノともせず、木の全体を見ながら作業をする余裕っぷりだ。
何とか、作業を終えて、ハグリッドの所に戻る。まだ足が震えている俺に対して、ミスティはケロっとした様子だ。そんな俺を見て、ミスティは揶揄うように尋ねた。
「アル、大丈夫だった? 結構怖そうにしてたけど」
「……別に。平気だよ」
「無理しちゃって」と呆れるミスティの声が聞こえたが、スルーする。ここで反応してもまた揶揄われるだけだ。ハグリッドはモミの木を見上げながら、木の周りをグルリと一周して満足そうに頷いた。
「ふむ。これなら飾りとして申し分ねえな。ありがとよ、二人とも! これで大広間に持っていける!」
「こちらこそ、お役に立てたようで良かったわ」
「うん。それにしても……ホグワーツのクリスマス準備って本当に大変なんだな」
思わず俺がそう言うと、ハグリッドはなんて事ないように笑った。
「なーに、オレはもう慣れてるからな。それに、オレが用意したツリーを見て生徒達が喜んでくれるのを見たら、疲れなんてあっちゅう間に吹き飛んじまう」
「ハグリッドって本当に見返りを求めないのね。そういうとこ、本当にすごいと思うわ」
「はっはっは、褒めても今は何も出ねぇぞ。そうだ、二人とも、この後暇か?」
急に思い出したようにハグリッドから尋ねられた。ミスティと顔を合わせるも、お互いに首を横に振る。
「そうか。それは丁度良かった。そんなら、一緒に聖マンゴ魔法疾患傷害病院に行かねぇか? 病室にいる子供達にもクリスマスを楽しんでもらいてえからな。毎年プレゼントを配りに行ってるんだ」
「プレゼント?」
「おうよ。オレのお手製お菓子、ロックケーキを始めとしたお菓子の詰め合わせだ。ロックケーキは歯応え抜群で美味いんだぞ」
「へぇ〜」
ロックケーキという言葉を聞いたミスティは何故か微妙な表情を浮かべていた。
「そんじゃあ、大広間にプレゼントを取りに行くか。そろそろ揃っているはずだ。マクゴナガル先生にお願いしといたからな」
「「オーケー!」」
俺とミスティは同時に返事をして、ハグリッドと一緒に大広間に向かった。
大広間に着くと、四つある長テーブルの内一つが沢山の小包で埋め尽くされていた。俺達に気づいたようで、マクゴナガル先生が声を掛ける。
「お疲れ様です、ハグリッド。こちらもプレゼントを用意しておきました」
「ありがとうございます、先生! 手伝ってくれて、本当に感謝します」
「いえいえ、話を聞いた時、『これは手伝わなくては』と思いましたから」
マクゴナガル先生は俺達に視線を移し、優しく微笑んだ。
「ミス・ハドソン、ミスター・バクスター、あなた方も手伝ってくれるそうですね。正直、少し安心しました。ミス・ハドソン、あなたは時々思い詰めたようにしている所がありましたから、今回のことは良い気分転換になると思います。そして、ミスター・バクスター。あなたも今年初めてのホグワーツのクリスマスを楽しんでください。今回のことは良い経験になると思いますよ」
「分かりました」
「はい、先生」
俺とミスティがそう返事をすると、マクゴナガル先生は満足そうに頷いた。
「ホリデーは今まで色々な人と過ごしてきました。私の両親、兄弟、生徒、他の先生達、友人……」
その時、マクゴナガル先生は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた。
「夫、姪や甥……その人達のことを思い出す良い機会になります。あなた方もそういった人達と楽しく過ごして忘れられないホリデーにしてください」
そう言って、マクゴナガル先生が杖を振ると、机を埋め尽くさんばかりだった小包達が次々とクラッカーに変わっていった。
「「うわぁ……」」
思わずミスティと一緒に感嘆の声を漏らすと、マクゴナガル先生は得意げに言った。
「いつか、あなた方も出来るようになりますよ。しっかり勉強をしていれば……ですが」
「「……はい!」」
ハグリッドがクラッカーを回収し終えると、マクゴナガル先生にお礼を言った。
「ありがとうございます、先生! 魔法クラッカーを全部集めたので、配りに行く準備が出来ましたよ!」
「それでは、気をつけて行ってきてください。そして、三人とも、メリークリスマス!」
「「メリークリスマス、マクゴナガル先生!」」
「メリークリスマス、先生! そんじゃ、二人とも、聖マンゴに行くぞ!」
マクゴナガル先生と別れ、俺達はハグリッドに連れられて、聖マンゴ魔法疾患病院へ向かった。
聖マンゴ魔法疾患傷害病院は、魔法族の人達が通う病院だ。といっても、ホグワーツ生には殆ど行く機会はない。大概の怪我や病気は医務室で治ってしまうからだ。余程のことがない限り、聖マンゴ行きになることはないだろう。
聖マンゴ魔法疾患傷害病院内も、クリスマス一色であった。受付を通り、子供達が入院している部屋に向かうと、子供達が一気に集まってきた。
「あっ! ハグリッドだ〜」
「メリークリスマース!」
「おう! メリークリスマスだ!」
子供達にニカッと笑いかけながら、プレゼントを渡していくハグリッド。俺やミスティも子供達にプレゼントを渡していく。子供達は本当に嬉しそうな顔をしながら、プレゼントを開けている。そんな子供達を横目で見つつ、ハグリッドが俺達に耳打ちしてきた。
「なっ? どうだ? 中々良いもんだろ? こうして喜んでくれる顔を見るのは」
「そうね」
「うん、確かにな。悪い気はしないよ」
「はっはっは。そうだろ、そうだろ? これだけでも最高のクリスマスプレゼントってもんだ!」
子供達にひと通り配り終えると、ハグリッドは最後に残っていた二個のプレゼントを俺とミスティにそれぞれ手渡した。
「ほれ、二人とも。こいつは、お前さんらにだ。色々手伝ってくれたからな」
「うわぁ、ありがとう、ハグリッド」
「うん、ありがとう、ハグリッド」
先にミスティが受け取り、次に俺がハグリッドからプレゼントを受け取ろうとした時、一人の子供が部屋にやって来た。黒髪の少し小太りな男の子だ。
「あ……あの! プレゼントを貰えると聞いたんですけど……」
「あ〜、悪いな、もうプレゼントは……」
「そう…ですか……」
ハグリッドが気まずそうに言うと、男の子はショボンと肩を落として部屋を出た。なんかこのままプレゼントを貰うのに後ろ暗さがある。流石にあの男の子が可哀想なので、ハグリッドに言った。
「ハグリッド、俺はプレゼントはいいよ」
「アル、良いのか?」
「うん、流石にあんな顔されてたらね」
「そうか。本当に良いんだな?」
「良いよ。あの子に早く渡しに行きなって」
「分かった。あんがとよ!」
ハグリッドはプレゼントを持って、男の子を追いかけて行った。少し勿体無いけど、別に良いか。
そう思っていると、ミスティが俺に自分のプレゼントを渡した。
「はい、アル。これ」
「ミスティ、でもこれは……」
「良いの良いの。あたしは子供達からお礼を言われたり、嬉しそうな顔を見ただけで十分プレゼントになったし。それに、今のアルの行動、凄くカッコよかったしね」
「ミスティ……」
ミスティの言葉に、俺は心が温かくなった。
「それじゃあ、ミスティは今年のクリスマスプレゼントは要らないってこと?」
「それとこれとは話が別よ」
「あ、そうですか」
なんだかんだで、俺は楽しいクリスマス休暇を過ごすことが出来た。ミア達がホグワーツに帰ってきた時に話すネタになった。
ちなみに余談だが、貰ったクリスマスプレゼントのお菓子詰め合わせはとても美味しかったが、ロックケーキだけは硬すぎて食べられたものではなかった。ミスティが渋い顔をした理由がようやく分かった。まさか、このロックケーキを押し付けるために、渡したのではないだろうか?