時間が過ぎるのは早いもので、ホグワーツの一年も終わりが近づいてきていた。クィディッチの寮対抗戦もハッフルパフの勝利で終わった。大広間近くのクィディッチ杯は黄色と黒のハッフルパフカラーになっている。ミスティが自慢げにドヤ顔していたのが印象的だった。
ランディやモートンなんかは、来年は自分達がスリザリンチームを優勝させてみせると気合十分で、今から二人で作戦とかを考え始めている。いくらなんでも気が早すぎるだろ。
クィディッチシーズンが終わると、今度は学年末試験が近づきつつある。途中復活祭休暇なんかも挟むが、試験勉強に使うためクリスマス休暇程浮かれた雰囲気にはならない。
「はぁ、折角の休暇だってのに……」
「ぼやくなよ、ランディ。こうして俺達で一緒に勉強会しているんだからさ。頑張って試験を乗り切ろうぜ」
俺達は現在、寮の談話室で仲の良い友達数人(ランディ、アビゲイル、モートン、セオドア等)と勉強会をしていた。今の時期の図書室は人でごった返しており、勉強どころではなかったからだ。
スリザリンの下級生の殆どは上級生から試験の過去問を貰っており、それを基に勉強をしている。俺もリズから過去問を貰っており、それを重点的にやっていれば問題なく試験をパス出来そうだ。
そんな時、セオドアが首を傾げながら呟いた。
「……? 変だな……」
「どうした?」
彼の隣に座っていたモートンが尋ねると、セオドアが答える。
「問題が簡単すぎる。今魔法薬学をやっているんだけど、こんな簡単な問題ばかりをスネイプ先生が出すかな……? 結構難しい問題ばかりだと思ったんだけど」
「おい、自慢か?」
「ちょっと貸して」
ランディがセオドアにジト目を向けるのを他所に、アビゲイルがセオドアの持っていた過去問を借りる。アビゲイルは問題文にしばらく目を通すと、顔を顰めた。
「これ……去年の問題よね? 私が持っているやつと内容が全然違うんだけど。この問題、誰から貰ったの?」
「え? メルーラだよ。メルーラ・スナイド」
あの先輩か…… この場にいる全員の頭に、ホグワーツ最強の魔女を自称する先輩の顔が浮かんだ。彼女なら何か細工していても不思議ではない。俺もセオドアに尋ねる。
「過去問を貰う時、何か交換条件とか持ち出されなかったか?」
「いや、特になかった。あっさりくれたから、正直違和感はあったんだけど……」
「もしかしたら……レベリオ」
アビゲイルはある可能性に至ったらしく、セオドアの過去問に暴露呪文をかけた。すると、問題は内容を変えていった。先程までとは打って変わって、かなりの難易度の問題ばかりとなっていた。恐らく、これが本来の問題だったのだろう。
「!? マーリンの髭だ! メルーラめ! なんて悪戯を仕掛けてくれたんだ!」
そう言って怒りを露わにするセオドアを他所に、アビゲイルは冷静に他の人が持っている過去問にもレベリオをかけていく。その結果、殆ど全員の過去問に、隠蔽魔法が仕掛けられていた。隠蔽魔法がかかっていなかったのは、リズやバーナビーから貰った過去問だけだった。暴露呪文をかけ終えたアビゲイルはフゥと溜息を吐いた。
「まぁ、実際過去問があるからどうにかなる訳じゃないのよね。特に魔法薬学に関してはね。スネイプ先生も、私達が過去問を貰って勉強していることは知っているはずだから。去年と大幅に出題傾向を変えてきたとしてもおかしくないわ」
「それにしても……これ、他の人は気付くかな? 気付かないまま勉強しているんじゃない?」
「例えば……トラバースとかか」
トラバースやサイフォンは、この勉強会に参加していない。彼らは、自分達には過去問があるのだからわざわざ勉強会などする必要はないと、俺達に対して馬鹿にした態度を取っていた。実際、トラバースやサイフォンに限らず、過去問を貰ったことで安心して勉強に手を抜こうとする者もそれなりにいる。ランディも、誘わなかったらそうしていただろう。
「どうする? このこと、あいつらに教えてあげるか?」
『いや、良いだろ(でしょ)』
殆どの上級生がこういった仕掛けをするということは、ただの悪戯ではなく、何かの伝統なのかもしれない。それを俺達が勝手に壊してしまうのも何か違う気がした。もっとも、この勉強会に参加している者全員、トラバース達を良く思っていなかったので、教える義理がないというのもあるが。
おそらく、これくらいの理不尽を乗り越えることが出来なければ、スリザリンでやっていくことは出来ないという先輩達の教えなのだろう。そもそも、日頃からきちんと勉強すれば良いだけの話だ。俺達はそう結論付けて、遅くまで試験勉強に取り組んだ。
そして、学期末試験当日となった。魔法史、薬草学、闇の魔術に対する防衛術、天文学は筆記試験のみ。そして、呪文学、変身術、魔法薬学は筆記試験に加えて実技試験がある。
実技試験の内容は科目によって様々で、簡単にこなす生徒もいれば、四苦八苦しながらこなす生徒もいた。
俺は何とか全ての科目でまぁまぁの成績を収めることが出来たと思う。少なくとも、ヒッポグリフクラブを追い出されるようなことはないだろう。
「僕……これからはもう少し真面目に勉強するわ……」
机に突っ伏しているランディが呻くようにそう言った。魔法史の筆記試験が終わり、全科目の試験が終了したことで、教室内の空気は途端に緩み出していた。
「結構、
アビゲイルの言っていた通り、スネイプ先生が出した魔法薬学の問題は去年と大幅に出題傾向が変えられていた。去年の過去問で出てきた魔法薬やその材料はあまり出ず、反対に過去問では殆ど出なかった部分が重点的に出された。中には全然覚えのない魔法薬に関する問題もあり、後で板書を調べたらたった一行程度の記述しかなかった。「こんなの分かるか!」と思わず部屋でそう突っ込んでしまった。いかん、思い出すだけで腹が立ってきた。
そんな問題ばかりだったので、過去問があるからと安心・油断していた者達は、試験が始まってすぐに羽ペンの動きが止まり、試験が終わった頃にはゴーストのように青白い顔色となっていた。
しばらくすると、ランディがガバッと飛び起きる。どうやら立ち直ったようだ。
「でもまぁ、こうして試験が終わったんだ! しばらくの間、試験の結果とか憂鬱なことは忘れよう!」
「ああ。……何かお腹が空いたな。試験も終わったことだし、大広間に行って、何か食べないか?」
「おっ、良いね。そうしよう。さっきまで煙が出るくらい頭を使ったからな。腹ペコだよ」
「食いすぎるなよ」
「分かってるって」
そんなことを話しながら、俺達は教室を出て大広間に向かった。