ダイアゴン横丁で買い物を済ませてから数カ月が経ち、ホグワーツ入学もいよいよ明日だ。教科書も先にパラパラとめくって読んでみたが、あまり興味が浮かばなかった。
魔法薬学の教科書をパラパラとめくると、他の教科書が入った鞄にしまう。
「やっぱり魔法薬学は鍋があっても材料とかないと出来ないし、そもそもつまらないな」
代わりに「幻の動物とその生息地」という本を鞄から取り出した。この本は面白く、買い物してからもう何度も読んでいる。他の教科書も見習えばいいのに。
俺は昔から動物とかが大好きだ。魔法生物学者のジルク叔父さんの影響もあるんだろうけど、色々な生き物のことを知るのは面白い。部屋には魔法生物の写真が何枚も貼ってあるくらいだ。
「うわぁ……このニュート・スキャマンダーって人凄いなぁ。今から百年くらい前から魔法生物についてこんなに詳しく調べたんだから。俺もこの人みたいになりたいな」
ホグワーツに入学すると四つの寮のどれかに組み分けされる。勇敢さが求められるグリフィンドール、賢さが求められるレイブンクロー、忠実さが求められるハッフルパフ、そして狡猾さが求められるスリザリン。
その四寮の中で俺はハッフルパフを志望している。グリフィンドールやレイブンクローはどうもピンと来ないし、そこにいるイメージが沸かない。俺は勇敢って訳じゃない。後、もしも俺が賢かったら入学前に教科書を全部読破して予習を完璧にしているだろう。
そして、スリザリンは絶対にお断りだ。死喰い人の両親と同じ寮にはなりたくない。それにこの寮に入ったら何を言われるか分かったもんじゃない。だから俺はハッフルパフが良い。それにニュートやジルク叔父さんの出身寮だし、ジルク叔父さんの話を聞く限り、雰囲気もアットホームで良さそうだ。劣等生の寮と言われているのは少し引っかかるが。
「でもまぁ、ハッフルパフなら問題なく入れるだろうな」
何せハッフルパフは他の三寮に合わない生徒が入る、所謂受け皿のような寮でもあるので、望めば簡単に入れると思う。
それよりも気がかりなことがあった。
「だけど、俺……ホグワーツでやっていけるかなぁ……?」
入学通知が来た時やダイアゴン横丁へ買い物に行った時は凄くワクワクしていたが、入学を明日に控えた今では不安が強くなっていた。親がいない生徒とかは今のご時世的に珍しくないかもしれないが、俺の場合は親があれなので尚更不安だった。
そんなことを考えていると、夜も更けてきた。俺はワクワクと不安に挟まれながら目を閉じた。
翌日、荷物を抱えてキングズ・クロス駅に着いた。本当ならジルク叔父さんが一緒に付いてきてくれるはずだったのだが、急な仕事が入ってしまい、行けなくなってしまったのだ。ホグワーツへ向かうための列車の乗り方を丁寧に教えてもらったため、大丈夫だろう。9番線と10番線の間の柵を渡れば良いのだが、この方法マグル生まれの人とか絶対に迷いそうだな。現に柵の前でマゴマゴしている女の子もいるし。隣には母親らしき女性もいる。
そんなことを思っていると、女の子が話し掛けて来た。
「あ、あの……9と3/4番線って知ってますか……?」
女の子は茶髪の髪をポニーテールに結んでおり、不安そうな表情を浮かべている。
「えっと、新入生か?」
そう尋ねると、女の子はコクリと頷いた。
「実は俺もなんだ。折角だから一緒に行かないか? 行き方は知ってるよな?」
「う、うん。9番線と10番線の柵の間を通り抜ければ良いんですよね? でもぶつかったり……」
「大丈夫だって。俺が見本を見せるからさ」
女の子はそのまま柵にぶつかるんじゃないかと不安なようだ。まぁ、勢い良く通ろうとする必要があるし不安になるのも無理はないか。
仕方がないので俺が先に見本を見せることにした。
俺が先に勢いよく柵を通り抜ける。柵を越えた先には深紅色の機関車、ホグワーツ特急が止まり、出発の準備を始めていた。近くの時計を確認すると、針は10時40分を指していた。出発の時間は11時なので余裕で間に合ったようだ。
「うわぁ…………」
後ろを振り返ると、女の子も無事に入れたようで目の前の景色に目を丸くしていた。
あちこちで猫やフクロウの鳴き声が聞こえる。また、至る場所で制服を着込んだ生徒と親らしき人物が言葉を交わし、あるいは入学の不安を語り合っているのも聞こえた。
「あれ? そういえば、さっきお母さんと一緒だったみたいだけど、一緒に入らなかったの?」
俺がそう尋ねると、女の子は少し寂しそうに言った。
「……私の両親は共働きであんまり構ってくれないんです。お母さんは駅まで見送ってくれたんですが……」
「そうなのか……」
世の中、色々な親がいるらしい。まぁ、送迎してくれるだけ良い親だと思うが……
女の子は不思議そうな顔で尋ねた。
「あの、そう言うあなたも親がいないようでしたけど……」
「ん? ああ、俺の親は……その、今は遠い所にいるからな」
両親のことはあまり話したくないので少し言葉を濁して言う。アズカバンって言っても多分彼女には分からないだろうし、説明もしたくない。遠い所にいるのはあながち嘘でもないし。ただ、女の子は俺の説明を悪い方に受け取ったみたいで顔を強張らせて謝ってきた。
「そ、そうなんですか…… ごめんなさい、嫌なことを思い出させるようなことを聞いて」
「良いって。気にすんな。正直俺が小さい頃にいなくなったからあんまり覚えてないし」
それから俺と女の子は列車に乗り込むと、同じコンパートメントに入った。荷物を整理してひと段落つくと、席に腰掛ける。女の子の方も終わったらしく、俺に話しかけてきた。
「さっきはありがとうございました。えっと、私はミア・ベイカーって言います。今年入学の一年生です」
「よろしく、ベイカー。俺はアルフレッド・バクスター、同じく今年入学の一年生だよ。よろしく」
俺がそう挨拶を返すと、ベイカーはクスクス笑った。
「ミアで大丈夫ですよ。アルフレッド」
「そう言うベイ……ミアもそんな敬語口調で話さなくて良いぞ」
さっきからミアが敬語口調なのが気になる。同級生なんだしもう少しタメ口で話しても良いのに。そう言うと、ミアが苦笑いを浮かべながらこう返した。
「その……私、小さい時からこんな喋り方なんですよね…… お母さんが元々日本人なので少し喋り方がぎこちなくて…… そんなお母さんに影響されてこんな喋り方になっちゃったんです」
「そうなのか……」
少し他人行儀な感じもするけどそういうことなら仕方ない。そんな話をしていると、11時を過ぎたようで列車が動き始めた。窓を覗き込むと、他の生徒の親達が我が子達の別れを惜しむように手を振っている。まぁ、親が来ていない俺やミアには関係のないことだ。
列車が発車してしばらく経った頃、ミアが俺に尋ねた。
「そういえば、ホグワーツって四つの寮があるんですよね? アルフレッドはどの寮に入りたいですか?」
「うーーん、そうだなぁ……俺はハッフルパフに入りたいって思ってるよ。ミアはどこに行きたい?」
「私はグリフィンドールが良いですね! その……実は私、今年手紙が来るまで魔法界のことを全然知らなかったんです」
やっぱりミアはマグル生まれだったようだ。ミアの話は続く。
「それで教科書や杖を買いに行った時、ホグワーツの先生と一緒だったんですけど、その先生が凄く優しい人で。 グリフィンドールの寮監だって言ってたので グリフィンドールに憧れて。それにマグル生まれの生徒も多くいるそうなので私もやっていけると思ったんです。アルフレッドはどうしてハッフルパフが良いんですか?」
「俺の場合は叔父がハッフルパフ出身で、色々その寮の話をしてくれたから憧れがあったんだ」
「へぇ……そうだったんですね。お互い入りたい寮に入れると良いですね」
「ああ、同じ寮になれないのは残念だけど、 グリフィンドールとハッフルパフって結構仲が良いらしいし寮が離れても仲良くやれると思うよ」
そう言うと、ミアは明らかにホッとした表情を浮かべた。
「良かったです。これからも仲良くしたいなぁって思ってたのでそれを聞いて安心しました」
ミア曰く、ホグワーツでやっていけるのか不安に思っていたらしく、今日までずっと不安だったそうだ。
そんな話をしていると、もうお昼の時間になったのでそれぞれ持参した昼食を食べる。俺はヘザーが作ってくれた特製サンドイッチ、そしてミアはおにぎりだ。流石母親が日本人なだけある。羨ましそうに眺めていると、ミアは苦笑いして「一つ交換しますか?」と提案してくれた。
ミアさん、マジで天使である。有り難く自分のサンドイッチ一つとミアのおにぎり一つを交換してもらった。ミアのおにぎりは米の中に何か魚の切り身が入っていて米とよく合い、本当に美味しかった。ミアもうちのサンドイッチは美味しかったようでお礼を言われた。いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。
和気藹々と昼食を楽しむと、そろそろ到着の時間が近づいてきたので荷物を整理したりローブに着替えたりする。流石に一緒に着替える訳にはいかないのでそれぞれコンパートメントから出て待ってもらう。俺の場合はすぐに着替え終えたが、ミアの場合は少し時間が掛かり少し退屈だった。
二人とも着替え終えると丁度ガタタンと揺れて列車が止まった。どうやら到着したようだ。
ごめんなさい、最初はオリヴィア・ベイカーという名前でしたが、ミア・ベイカーに変更します。「日本人のハーフの子なら日本でも通用しそうな名前にするよな」と思ったので……
急に名前変更で混乱するかもですがご了承ください。