新学期
二ヶ月もあった夏季休暇も終わり、ホグワーツ二年目が始まろうとしていた。
ホグワーツ特急のコンパートメントで俺はボンヤリと車窓を眺めていると、不意に声が掛かった。
「よーす、アル」
「久しいな、アル」
「ん? おぉ、久しぶりだな。ランディ、モートン」
ランディとモートンだ。二人はそのままコンパートメントに入って座席に腰掛けた。俺も文句はない。荷物も置いて一息吐くと、ランディが尋ねてきた。
「ねぇ、夏季休暇はどうだったの? フェルドクロフトに住んでたって手紙で言ってたけど」
「……何も無さ過ぎて驚いたよ。娯楽らしい娯楽が無くて隠居老人みたいな暮らしだったよ」
思い出しても、虚無感の多い夏季休暇だったと思う。何せ、住んでいる人が十人もいない程の超過疎地で、それ以外は牛や鶏くらいしかいない。夏季休暇の間は、村人の畑仕事を手伝ったりもした。そのおかげで食べ物を分けてもらえたりはしたので、そこは良かったかもしれない。野菜も自分で収穫したやつだと美味しく感じるのだから不思議だ。その他にやったことと言ったら、魔法の予習復習や魔法生物検定の試験勉強くらいだった。
ちなみに、魔法生物検定はまだランクⅠではあるが、無事に合格した。レタス食い虫やホークランプ、パフスケインといった無害な生物達が範囲で、内容も問題集をやっていればそこまで難しいレベルではなかった。無勉強で合格できる程甘い難易度でもなかったが。
そんなこんなでランディやモートンと夏季休暇の思い出話に花を咲かせていると、いつしか今年入ってくる新入生達の話に変わっていった。車内販売のおばちゃんから購入したキャンディを口に放り込みながら、ランディが呟いた。
「それにしても……今年入学する一年生達はどんな子達なんだろうね?」
「む? そういえば、アルとランディは、同室に新入生が入ってくるんだったな。やはり不安か?」
「そりゃあな。トラバースみたいなゴリゴリの純血主義者とかが入って来られたらちょっと面倒だな。一日中、『自分はなんとか家だから凄いんだ、偉いんだ』って自慢を聞かされるのはきつい」
「……分かるぞ、その気持ち」
モートンの同部屋には、トラバースもサイフォンもいるので、激しく共感していた。
「それでも、同部屋に学年が違うのがいるとお互い気まずい気がするんだけどね。なんであんな部屋割りになったんだろ?」
「仕方ないさ。毎年スリザリンに組み分けされる人数は違うんだから。それに、入学者のリストから誰が入るかを予想しても必ずそうなるとは限らないし」
まだどうなるか分からないことにいちいち悩んでいても仕方がない。それは数時間後の組み分け次第だ。俺達に出来ることと言ったら、せいぜい仲良くなれそうな子が同室になってくれることを願うくらいである。
ホグズミード駅に到着すると、俺達は馬車の方に向かう。二年生以上の生徒は馬車に乗ってホグワーツ城へ向かうのだ。近くに、アビゲイルと同級生のスリザリン生リサ・カウワンの姿が見えたので早速挨拶することにした。
「よーす、二人とも」
「息災だったようだな」
「アビゲイル、リサ、久しぶり」
「あら? アルにモートンにランディ、久しぶりね」
「元気そうね、三人とも」
「ああ、そう言う二人も元気そうだね。なぁ、ホグワーツへはあの馬車に乗って行くのか?」
俺達生徒達の前には何台もの馬車が停まっていた。俺達五人も馬車に乗り込むと馬車は動き出した。だが、不思議なことに引いている馬の姿が見えない。いや、多分だけどあれは……
「変だね。何もいないみたいだけど……」
「いや、多分だけど馬車を引いているのはセストラルだな」
「なるほどね。見えない訳だわ」
「セストラル……確か死を見たことのある人間にしか見えないというやつか」
「どんな姿か興味はあるけど、そのために人死を見るのは流石にね……」
馬車に揺られつつ、話に花を咲かせるとホグワーツに到着した。それから俺達は先に大広間に集まり、それぞれの寮のテーブルに着く。大広間では既に歓迎会の用意がされており、ご馳走がテーブルに並んでいた。自分達の時と同じように組分けの儀式が行われ、それが終わると腹を空かせた生徒達が食事に飛びついた。
新しくスリザリンに組み分けされた新入生達は、若干落ち着き無さげに食事をしている。まだ緊張しているのだろう。初々しさが感じられる。俺も去年はそんな感じだったんだろうな。そんなことを思いながらローストビーフを口に運んだ。
歓迎会が終わり、俺達はスリザリン寮に移動することになった。談話室で監督生のフィッツパトリックの話を聞きながら、俺は同部屋に新しく来る新入生が誰なのか、思いを巡らせる。そして、長かった監督生の歓迎の挨拶もようやく終わり、俺とランディは早速寝室に向かった。
寝室にはまだ誰も来ていなかったようだが、自分達の荷物を運び終えたタイミングでノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
俺がそう答えると、扉の向こうから緊張した声が聞こえてきた。
「し、失礼します!」
そんな声とともに入って来たのは二人の男子生徒だ。一人は金髪に育ちの良さそうな身なりをしており、もう一人は茶髪で少し小柄だった。金髪の彼の方から名乗り始めた。
「僕はローレンス・ナイセル・Jrと言います。今年から入学しました。よろしくお願いします!」
「同じく今年から入学しました。テレンス・ヒッグスです。よろしくお願いします!」
「そんなに畏まらなくて良いって。僕はランドルフ・シュミット、二年生だよ。ランディで良いよ。よろしくね」
「俺はアルフレッド・バクスターだ。ランディと同じ二年生。俺もアルで良いよ。よろしくな」
「「はい! よろしくお願いします!」」
上級生である俺達に完全に萎縮してしまっている二人に、俺もランディも少し申し訳なさを感じた。苦笑しつつ、二人を諌める。
「ランディも言ったけど、そんなに緊張しなくて大丈夫だぞ。別にとって食いはしないからさ。それにしても二人も大変だよな、上級生が同室じゃ」
「いえ、そういう訳では……」
「ベッドは三つあるから、どれか好きなのを使ってよ」
「分かりました」
最初は萎縮していた二人だったが、俺がお菓子やらお茶やらを渡して話をしていったら、次第に慣れてきたようだ。最初の時とは打って変わって饒舌になっている。
「勉強なら、アルに聞けばちゃんと教えてくれるぞ」
「おいランディ、俺はそこまで……」
「何言ってんだよ、学年では十位以内は行っていないけど、スリザリンの同級生の間なら三位だったじゃないか」
「まぁ、それは……」
「凄いんですね、アルは」
ローレンスからキラキラした目を向けられ、思わず照れる。そんな俺にランディはニヤニヤ笑いを浮かべている。それに少しムカついたので、今度は俺が反撃する番だ。
「箒のことだったら、ランディの方が上手いぞ。何せ、今年スリザリンのクィディッチチームに入るんだもんな、ランディは」
「まぁね。夏季休暇は色々練習を重ねたんだ。絶対に入ってやるさ」
「ランディはどこのポジション志望なんですか?」
今度はテレンスが興味を持ったようでランディに質問してきた。どうやらテレンスはクィディッチに興味があるようだ。
「キーパーを志望してるよ。君もクィディッチに興味があるの?」
「はい、昔から箒に乗るのが好きだったので、チームに入れたらシーカーをやりたいと思っています」
「おお〜シーカーか。クィディッチの花形だもんな! そりゃあ憧れるか。来年入れると良いな!」
「はい!」
「おいおい、ランディ。来年も良いけど、まずは今年にお前が入れないと話にならないぞ。入れたとしても、チーム内でのレギュラー争いとか激しいらしいし」
「おっと、そうだった。まずは今月末にある選抜戦に勝ち残らないと」
「……頑張れよ」
「ああ! モートンもビーター志望で受けるらしいからね。二人とも合格して、レギュラーを勝ち取ってクィディッチ杯優勝だ!」
ランディはメラメラと闘志を激らせており、そんなランディにテレンスやローレンスも頑張ってくださいと応援している。
二年目も色々あるだろうけど、楽しくなりそうだと同室の仲間達を見ながら、俺はそう思った。