九月も終わりに差し掛かり、新入生達もホグワーツ生活に慣れてきた頃。学期初めから通知されていた、スリザリン・クィディッチチームの加入日・レギュラー選抜日が近づいていた。どちらも今週の土曜に行われるので、ランディは期待と不安でソワソワしっぱなしだ。おかげで魔法薬学の授業では使い物にならなかったので、ほぼ俺一人で調合する羽目になった。頑張ってほしいと応援する一方で、早く終わってほしいと願う気持ちもあった。
そんなこんなで、土曜日になった。聞いた話だと、午前にチームの加入希望者はチームキャプテンと面談をし、加入が許可された者は午後にチームメンバー達と共にレギュラー選抜を受けるというスケジュールらしい。まぁ、面談といっても、加入希望者の為人を知るという名目の形だけの簡単なもので、ランディ曰く殆ど雑談で終わったそうだ(どのポジションを志望しているのか、何の箒を使っているかなどを聞かれたらしい)。ランディもモートンも去年の飛行訓練の授業でチームからスカウトされていたこともあって、加入自体はスムーズに認められたそうだ。
問題は、午後に行われるレギュラー選抜で、そこでの結果次第で今シーズンのチーム内ポジションが決定するとのことだ。午前中に加入が認められて上機嫌になっていたランディも、昼ご飯を食べる頃には緊張からか顔色が悪くなっていた。
いつもの半分くらいの量で食事を済ませたランディは部屋に戻ると、運動着に着替え始めた。まだ選抜開始まで時間があるのだが、ウォーミングアップしないといけないので早く行かないといけないらしい。
「後で応援に行くよ」
「頑張ってください!」
「応援してます」
「ありがとう」
俺とローレンス、テレンスがそう言うと、ランディは嬉しそうに返した。そして、自分用の箒を抱えてクィディッチ競技場まで走って行った。
しばらくして、開始時刻が近づいてくると、俺達もクィディッチ競技場に向かう。俺達が競技場に到着した頃には、スリザリンの選手が全員揃っており、他にも俺達と同様、応援に来たのか大勢のスリザリン生が集まっていた。選手達は全員真剣な面持ちで、キャプテンが来るのを今か今かと待っている。その時、開始時刻とほぼ同時に一人の大柄な生徒がこちらに近づいてくるのが見えた。チームキャプテンのオズワルド・レイエスだ。
「皆、よく来たな」
レイエスはどこか威圧的な口調で言った。彼とは寮で話す機会はあったが、あんな威圧的な感じではなかったので少し意外だ。レイエスは続ける。
「今日は我がスリザリン・クィディッチチームのレギュラー選抜日だ。去年は残念ながら、優勝を逃がしている。だからこそ、今年は優勝あるのみだ。そのためには最強のメンバー、最高の戦術が不可欠だ。お前達が持っている力を全て出し切れ。以上だ」
「おおおおぉぉ!」
レイエスの演説に、選手達は雄たけびを上げて応える。その瞬間、レイエスの纏う空気が変わった。
「声が小せえ! もう一度腹から声出せ!!」
「おおおおおぉぉ!!!」
レイエスの怒声は、拡声呪文を使っているのかと思うくらいのもので、その次の選手達のそんなレイエスの倍以上の大きさだった。俺は勿論、他のスリザリン生達も思わず耳を押さえた程だ。
クィディッチチームは、チェイサーが三人、ビーターが二人、キーパーが一人、シーカーが一人の計七人で構成されている。二十人近くいる選手達の中から、レギュラーとして寮対抗戦に出られるのは僅か七人ということだ。それ以外は補欠という扱いになる。だが、補欠といっても、チーム内での練習試合で戦う機会はあるし、レギュラーに何かがあった時は選手として戦うこともある。
そう考えると、寮が違うとはいえ、ミスティは二年生ながらよくレギュラーとして活躍できたな。内心そう感心していると、早速チェイサーの選抜が始まった。チェイサー希望者はチームのほぼ全員か。まぁ、三人必要だから他のポジションよりは倍率が低いしな。保険で受けとこうという人も多いのだろう。その結果、希望者が多すぎて倍率が凄いことになってるけど。
そして、選抜の結果は、キャプテンのレイエス、四年生のソーヤーとリオスに決まった。あれだけ希望者がいたけど、保険で受ける人と本気で狙っている人では、動きが全然違うな。素人の俺でも分かるくらいだ。良い動きをしているのは他にも何人かいたけど、突出して上手かったのがあの三人だった。
次のビーター選抜では、五年生のマクドウェル、六年生のギブソンに決まった。モートンはダメだった。滅茶苦茶悔しいだろうけど、このポジションは腕力や体力がものを言うからな。五・六年生が相手じゃ色々不利だ。
そして、次はキーパー選抜。ランディの番だ。チェイサー選抜ではダメだったけど、本命はこっちだからな。ランディも気合十分だ。それで、他の希望者は……三年生や四年生が殆どで五年生がちらほら……か。上級生が多くてかなり手強そうだ。
レイエスが簡単にルールを説明する。希望者は一人ずつゴール前に待機してもらい、魔法で飛んでくる複数のクァッフルを全てゴールしないよう防ぐ……というものだ。キーパーとしての動体視力・反射神経を測るのが目的らしい。
そんなこんなで、選抜が始まり、一人目が箒に乗った状態でゴール前に待機する。ギブソンの呪文でクァッフルは十個以上に分裂し、全てのクァッフル達が不規則な動きでゴールに向かって飛んでいく。
一人目は、半分くらいしか防ぐことができず、呆然とした様子だった。続く二人目、三人目……も同様の結果だ。そうこうしているうちに、ランディの番になった。俺達は応援の声を掛ける。
「頑張れよー! ランディ!」
「「頑張ってください!」」
ランディが箒に乗った状態でゴールポジションに着くと、クァッフル達が飛んできた。ランディは長い手足を活かして巧みにクァッフル達を払い落としていく。友人贔屓なしで見ても惚れ惚れする動きだ。他のチームメイト達からも驚きの声が上がる。まだ二年生がやっていることも理由の一つだろう。
最後のクァッフルを払い落とすと、ホイッスルの音が響いた。レイエスは「よくやった」と褒めると、次の希望者を呼びかける。ひとまず全員分やってから、選抜していく形式なので、今のところランディは一次選抜を突破した段階だ。
後の希望者達がダメなら、そのままランディはレギュラー入りできるけど、そう簡単にはいかないだろう。何せ、去年レギュラーだったキーンがまだ後に残っている。キーパー選抜の中で一番手強いのが彼だ。
そして案の定、最後にキーンは選抜を突破し、二次選抜はランディとキーンの一騎討ちとなった。レイエスはソーヤーとリオスを呼び、次のルールについて簡潔に説明した。
新しく決まったチェイサーのレギュラー三人がクァッフルをシュートするので、それを防ぐというものだ。チェイサー達も本気でやるため、さっきの選抜とは難易度が全然違うはずだ。流石のランディも少し緊張が見えるのか、動きがやや固い。
結論から言うと、今年のスリザリン・クィディッチチームのキーパーは、去年に引き続きルーカス・キーンに決まった。ランディも動きは決して悪くなかったのだが、キーンの方が一枚も二枚も上だった。ランディは、レイエス達チェイサーの連携で翻弄されてしまい、ゴールを守り切ることができなかった。反対に、キーンはチェイサー達の動きに騙されることなく、何度もゴールを守っていた。経験の差がモロに出る結果となった。
ランディは悔しそうにしつつも、どこかスッキリした様子だった。俺達に向かって歩いてきたので声をかける。
「あー、お疲れ」
「その……残念でしたね」
「いや、気にするなって。僕としてはできるところまでやれたからさ」
そうあっけらかんとした様子で、話すランディに、俺達はホッと息を吐く。無理している様子もなく、本心で言っているのが分かったからだ。その時、レイエスがランディに話しかけてきた。
「シュミット、ちょっと良いか?」
「キャプテン、一体どうしたんですか?」
わざわざキャプテンが声を掛けてくるとは思わなかったのか、ランディは驚きの表情を浮かべていた。
「今回は残念だったが、正直言って驚いたよ。まだチームに加入したばかりの二年生で、あのルーカスとあそこまで渡り合うとはな。今年は勉強だと思って、ルーカスの動きや技を盗んで、来年は是非レギュラーとして活躍してほしい」
「は、はい!」
ランディは感激した様子で、返事をする。そんなランディにレイエスはうむと頷くと、さっさと次のシーカー選抜のために走って戻る。
「良かったな、ランディ」
「……っうん!」
次のシーカー選抜は、ランディ達と一緒に見ることにした。テレンスはシーカー希望なこともあって、食い入るように選抜の様子を見つめていた。十数分の攻防の末に、一人の選手がスニッチを捕まえて選抜が終了となった。レギュラーのシーカーは五年生のアッシュに決定した。
全ポジションのレギュラー選抜がこれで終了し、レイエスはチームメイト達を集め、レギュラー選手達を前に立たせた。レイエスが選手達の前で堂々と宣言する。
「これで今シーズンのレギュラーが決定した! 納得のいっていない者もいるかもしれないが、この結果は覆らない。受け入れろ。レギュラーになった者は、この選抜を勝ち抜いた自信を持って、寮対抗試合でベストを尽くせ! そして今後、寮対抗試合までにチーム内での練習試合を積極的に行っていく予定だ。だから、今回レギュラーになれなかった者も研鑽を怠るなよ」
それから、レイエスは今後の練習日程や、今日新しく加入した選手達のユニフォームは後日配布することを伝えると、お開きとなった。だが、レギュラー以外の選手達はまだやることがあるようで、競技場に残るそうだ。ランディやモートンも競技場に残るそうなので、俺達は先に寮に帰ることにした。
寮へ帰る道すがら、テレンスが呟いた。
「残念でしたね、ランディは」
「まぁ、勝負である以上はな。ランディがあまり気を落としていないようで安心したよ」
「でも、何人もいる選手の中からあそこまでやり合ったんだから、やっぱりランディは凄いですよ!」
ローレンスが若干興奮した様子でそう言うと、俺も苦笑しながら頷く。
「ああ。ランディもそれが分かったみたいだしな」
「オレも来年はあんな選手達を相手にレギュラーを勝ち取らないといけないんですね……」
自信なさげに呟くテレンスに、ローレンスが揶揄うように言った。
「どうしました、テレンス。怖気づきましたか?」
「まさか。ただ……一筋縄ではいかないなと思っただけだ」
ローレンスの揶揄いに、テレンスがややぶっきらぼうに答える。
そんな和やかな雰囲気のまま、俺達は寮に戻った。談話室は、今日の選抜の話で盛り上がっており、活気づいていた。
それから少し経った後に、ランディも寮に戻ってきた。ランディは、練習試合での補欠チームのキーパーになったらしく、練習試合でレギュラーチームに吠え面をかかせてやると活き込んでいた。
ランディ、やる気になるのは良いけど、それを
これは多分、練習でボコボコに返り討ちにされるだろうな、気の毒に。