去年は何事もなく、平穏な一年だったこともあって、忘れていたのかもしれない。俺は犯罪者の息子だってことを。
ある日のことだった。変身術のレポートを仕上げるため、図書館で調べものをしていたら、ミアが何かを読んでいるのに気が付いた。声を掛けようとしたが、どうも様子がおかしい。顔色が悪く、身体が小刻みに震えている。そして、すぐに席を立ち、どこかへ走って行ってしまった。彼女が読んでいたものは机の上に置きっぱなしになっていた。
「ミアのやつ、何を読んでたんだ……?」
あの尋常でない様子は只事じゃないと思い、気になったので、彼女がさっきまで読んでいたものに俺も目を通す。それは、日刊預言者新聞の縮刷版だった。1981年の内容で、確か例のあの人がいなくなった年のはずだ。実際、その話で持ち切りになっている。彼女が見ていたページには、死喰い人シリウス・ブラックが引き起こした惨劇事件が載っていた。
確か……この事件は、例のあの人の右腕シリウス・ブラックが学生時代からの友人を周辺のマグル諸共爆殺したというものだったはずだ。被害者のピーター・ペティグリューは小指以外何も残らず、巻き添えを受けたマグル十二人もかなり酷い状態だったらしい。
「でも、どうしてミアがこれを……?」
色々分からないことだらけだが、今はどうしようもない。レポートのこともあるし、俺はミアが置いていった新聞を片付け、変身術関連の資料を探した。レポートはなんとか今日中に片付けることができた。
その翌日からだった。ミアの態度がどこかよそよそしくなったのは。いや、ミアだけじゃない。ヒッチェンズみたいに一部の友好的だったグリフィンドール生達からも距離を置かれるようになった。
どうしてなのか、魔法薬学の授業前に尋ねようとしたら、モンドとその仲間達が立ち塞がった。彼はどこか勝ち誇ったように言った。
「悪いけど、ミアやルーサーに近寄らないでくれるかな? 薄汚い、死喰い人の息子が」
「っ!?」
モンドの言葉に、俺の頭には怒りや困惑が浮かんだ。
(なんで、あいつが俺の両親のことを……? いや、あいつの両親は確か闇祓いだったとか……それ経由か。でも、それをなんでミア達に……)
モンドは続けた。他の取り巻きが浮かべる表情は、嘲笑やら憎悪やら様々だった。
「まさか、死喰い人を両親に持っていることを隠していたなんてね。本当に卑怯だよ、君は。そこのミアは、お前の両親のお仲間に親戚を殺されたというのに」
モンドのその言葉に、機能の新聞の記事が脳裏をよぎった。その親戚というのは、ブラックに吹き飛ばされたマグルなのだろう。そんなことを思っていると、ミアが口を開いた。
「……アル。どうして、教えてくれなかったんですか? アルの親は死んだんじゃなかったんですか? アズカバンっていう刑務所にいるって……」
「……俺は、死んだとは言っていない。遠い場所にいると言ったんだ。アズカバンなんて説明したくなかったから」
「そう……ですか……」
俺の言葉にミアは少しだけ納得してくれたみたいだったが、それでも隠し事をされていた怒りの方が大きかったようだ。彼女から、怒りやら猜疑心が織り交ぜになった眼差しを向けられる。そんな俺とミアの間を隔てるかのようにモンドはそこに立ち、得意げに言い放った。
「アルフレッド・バクスター、君のような奴はミア達に今後一切近づかないでくれ。良いね?」
モンドの言葉に、「そうだ、そうだ!」「嘘つきめ!」といった合いの手が取り巻き達から上がった。その時、低く冷たい声が聞こえてきた。
「……ここは繊細な科学と正確な芸術である魔法薬学を学ぶ場のはずだが。いつから、三文芝居を披露する場になったのかね?」
声の主は、スネイプ先生だった。どうやら、授業の時間になっていたらしい。スネイプ先生は、モンド達を一瞥すると、「グリフィンドールから二十点減点」とだけ呟いた。モンド達は抗議の声を上げようとしたが、スネイプ先生の「次に騒ぐようなら更に減点するぞ」という無言の脅しに屈し、悔しそうに黙り込む。次にスネイプ先生は俺に視線を向ける。
「授業は始まっているぞ、ミスター・バクスター。授業時間に無意味に席を立つ行為は慎むように。初犯だから減点及び罰則はないが、次はない。自分の席に戻れ」
「……はい、先生」
大人しく、自分の席に着いた。あちこちから、俺に向ける視線を感じた。グリフィンドール生だけでなく、スリザリン生からもだ。俺は色々いたたまれない気持ちになりながら、授業に臨んだ。
それから俺は、また微妙な立ち位置になってしまった。俺は……どうすれば良かったんだろうか。素直に両親のことを言うべきだったのかな。
スリザリンでも、一部の生徒から遠巻きにされるようになった。主に今年から入った新入生達だ。新入生でも、同室のローレンスやテレンスはいつもと変わらない態度なのが幸いだった。
「ねぇ、アル。今日暇?」
針のむしろみたいな一週間をなんとか乗り切った休日、俺は談話室の水窓を眺めていた。ランディはクィディッチチームの練習に出かけているし、他の奴らもどこかに出かけている。休日中に片付けないといけない課題も今のところはない。そういう訳で朝からボーッとしていたのだが、そんな俺に声を掛けてくる物好きがいた。
同級生のリサ・カウワンだ。
「……リサか。どうしたの?」
「随分フラストレーションを溜めてるみたいだったからね。これから決闘クラブに行くんだけど、一緒に行かない? ストレス発散になると思うよ」
「……決闘クラブ?」
聞いたことのないクラブに、首を傾げた。俺があまりピンときていないのを察したのか、リサが説明してくれた。
決闘クラブとは、その名の通り、ホグワーツ生同士で決闘をし、魔法の腕を競い合うクラブらしい。内容的に、結構血生臭そうな感じがするが、確かに今の気持ちを紛らわすには丁度良いかもしれない。
ちなみに、この決闘クラブは、他のクラブと違って非公式のものらしく、認知度も他のクラブと比べてかなり低い。俺が知らなかったのもそのせいだ。つまり、知る人ぞ知るクラブという訳だ。非公式の理由は、目に見える活動実績が極端に少ないのが主な理由だ。生徒同士で決闘するのが活動内容なので、目に見える実績を上げにくいのだ。
しかも、このクラブは、ホグワーツの長い歴史でもかなりの頻度で設立と解散を繰り返している。解散理由は、どの決闘クラブも大怪我をする会員が出たからで、中には死亡例もあったらしい。
それを聞いて凄く不安になったのだが、リサが慌てて「安全対策はしっかり取ってるから大丈夫!」とフォローする。 ……これは多少の怪我は覚悟しておいた方が良いかもしれない。まぁ、このまま一日を無駄に過ごすのもあれだし、リサの厚意にあずかることにした。
俺はリサと一緒に決闘クラブの決闘場に向かった。決闘場に着くと、俺達に気づいて一人のスリザリン生が近づいてきた。ロイド・フィッツパトリック、六年生の監督生だ。フィッツパトリックは気さくに話しかけてきた。
「やぁ、カウワン。決闘クラブに来てくれて嬉しいよ。それとバクスターもようこそ、歓迎するよ」
「ありがとうございます。リサに付いてきちゃいましたけど、大丈夫ですか?」
「勿論だよ! 実は……カウワン以外にも何人かこの決闘クラブに誘ったんだが、全員断られてね。バクスターが入ってくれるならうちは大歓迎だよ」
「えっと……まだどんなものかやってみてからでないと……」
「おっと、それもそうだな」
それから、俺はフィッツパトリックの案内で、会長のフロイド・ノーマンに挨拶をした。彼はレイブンクローの六年生で、かなり陽気で社交的な男だった。
「やぁやぁ、決闘クラブにようこそ。歓迎するよ。決闘クラブの概要は、カウワンあたりから聞いていると思うから省略するよ。それに、小難しい言葉を並べても、このクラブの本質は分からないだろうからね。さぁ、それじゃあ早速決闘をしようか。といっても、既に組み合わせはあらかた出来ているし……私、フロイド・ノーマンが君のお相手をしよう!」
「いや、待て待て、フロイド。何を考えてるんだ。二年生と六年生じゃ……」
ノーマンの提案に思わず口を挟むフィッツパトリックだが、ノーマンは「だからこそだ」と譲らない。そういう訳で、俺とノーマンの対戦が決定した。これは本気で怪我に備えた方が良いかもしれない。フィッツパトリックなんか頭を抱えているし。
ちなみに、スリザリン生の中にはアルの両親のことを最初から知っている者は一定数いました。本人が言いたくなさそうだったので、触れなかっただけです。