私には、アニーという従姉妹がいた。小さい頃よく一緒に遊んでくれた、優しいお姉ちゃんで、私はアニーが大好きだった。
でも、アニーは五年前に亡くなった。爆破テロに巻き込まれたらしい。あの時は、私も小さかったからよく分かっていなかったけど、伯父さんや伯母さんが泣いているのを見て、もう二度とアニーに会うことが出来なくなったことを知って大泣きしたのは覚えている。
まさか、それが魔法界で関係していたことだとは思いもしなかった。
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新学期に入ってすぐのことだ。ジェイク・モンドが話しかけてきたのがキッカケだった。去年も何度か、アルとは手を切るべきだと言ってきていたのだが、私も負けじと言い返してたし、エレノアやルーサーも味方になってくれたので、鬱陶しさはあったけど何とかなっていた。だけど、ジェイクはアルの両親が死喰い人という犯罪者だと言ってきたのだ。ジェイクの両親や祖父は闇祓いとかいう、警察みたいな仕事をやっているそうで、そういった情報が難なく手に入るのだとか。
確かに、今までアルから両親の話は聞いていない。てっきり亡くなったと思っていたけど、どうやら、アズカバンという刑務所に収監されているらしい。
「だからバクスターとは手を切るべきだ」とジェイクが言ってきたが、それでも最初は突っぱねていた。「たとえアルの両親が悪人だったとしても、アルは関係ない」と。でも、その死喰い人がどんなことをしてきたのか、私は知らない。ジェイクはまるで生きる資格のない屑みたいな言い方だったし、他の人も似たような反応だった。
それが気になって、一体死喰い人がどんなことをしてきたのか、自分で調べることにした。最初はマクゴナガル先生に聞いたりしたのだが、凄く辛そうな反応をされたので、あまり深掘りが出来なかった。なので、基本的に新聞で調べた。
死喰い人というのは、数年前まで暗躍していた例のあの人の配下の魔法使いや魔女達のことらしい。純血至上主義を掲げていて、私やルーサーみたいなマグル生まれの魔法使いや魔女を色々な方法で殺していったそうだ。そして、同じ純血であっても、例のあの人に従わない者も殺されたらしい。
十年くらい前から読み進めてきたのだが、事件の凄惨さにげんなりしてくる。一緒に調べるのを手伝ってくれたルーサーも顔が真っ青になっていた。気分が悪くなったルーサーは先に寮に帰ってしまったが、それでも、まだ私はアルを信じる気持ちがあった。「アルの両親のことは、アルとは関係ない」と。
そして、1981年の縮刷版を読んでいると、ある事件があった。例のあの人が消えたことによる歓喜の記事が並んでいた矢先の凶悪事件。例のあの人の右腕とされる人物が起こした爆発事件だ。私は身体が冷える感覚がした。心臓もバクバクうるさくなる。
記事の写真に写る場所は、見覚えがあった。アニーが亡くなった場所だ。事件日もアニーが死んだ日と一致する。マグル十二人が亡くなった大事件。亡くなったマグルの名前は載っていなかったが、恐らくその中にアニーも入っているはずだ。
アニーは死喰い人に殺された。あの優しくて、大好きだったアニーが。
その瞬間、私はどうすれば良いのか分からなくなった。もちろん、アルの両親が犯罪者だとしても、アルが悪い訳じゃない。アニーを殺したのだって、シリウス・ブラックという人で、アルの両親じゃない。それは分かってる。でも、そのシリウス・ブラックとアルの両親は仲間なのだ。
それを知った時、アルのことを今までと同じ目で見ることが出来るか、私には分からなかった。
その後、どのようにして寮に帰ったか、あまり覚えていない。心配したエレノアとルーサーが、事情を聴いてきたので、途切れ途切れで説明すると、ジェイクが割り込んできた。
色々言っていたが、その時の私に反論する気力はなかった。
それから数日後、魔法薬学の授業で、アルが話しかけてきた。ジェイクが勝手に、私を庇うように一方的に宣言し始めた。死喰い人の息子と言われた時のアルは、顔を強張らせていた。やっぱり、知られたくなかったことのようだ。ジェイクが色々言っているが、私も聞きたいことがあったので、尋ねた。
「……アル。どうして、教えてくれなかったんですか? アルの親は死んだんじゃなかったんですか? アズカバンっていう刑務所にいるって……」
「……俺は、死んだとは言っていない。遠い場所にいると言ったんだ。アズカバンなんて説明したくなかったから」
「そう……ですか……」
確かに、初めて会った時に、アルは遠い場所にいると言っていた。それを勝手に勘違いしたのは、私だ。それでも……卑怯だと感じた。犯罪者の息子だなんて名乗りたくないのは分かる。マグル生まれの私に、両親はアズカバンという刑務所に入ってるなんて言えないだろう。
でも、私はジェイクからその話を聞いた時、「アルは両親とは違う」と信じてた。なのに、アルは両親のことを隠していた。アニーのことも相まって、私はアルのことが信じられなくなってしまった。
それから、アルとは関わらなくなった。授業で一緒になったりするけど、お互い口を利くことはない。他寮生でもイスカやユーインとは、関わることがあるけど、アルとはあれっきりだ。
私の心は今も色々揺れ動いていた。ふと、去年一緒に遊んだ時のことを思い出す。少し頭が冷えてくると、あの時はいっぱいいっぱいだった思考にも色々余裕が出てくる。アニーを殺したシリウス・ブラックのことは許せそうもない。アルの両親はそんな彼の仲間だ。でも、アルは死喰い人じゃない。
それに、アルが私に両親のことを話さなかったことも、去年のことを考えれば無理もないと感じてしまう。去年、私はスリザリン生だからって、アルから距離を取っていたのだ。両親のことを話せば、どうなるか想像がつく。そう考えると、去年から成長していない自分に腹が立ってくる。
そんな時だった。
「今日の決闘は中々だったな~」
「ホントにね。でも良い勝負だったわよ」
アルが本当に楽しそうに、スリザリン生のカウワンと談笑しながら廊下を歩いていた。こっちの気も知らずに。
それを見て、冷たい激情が私の中で燃え上がった。
世間は狭いものです。