決闘クラブに加入した俺は、更に忙しい毎日を送ることになった。授業で出される課題やヒッポグリフクラブの活動に加え、決闘クラブの活動も加わったことで、今の俺はミア関係の鬱屈した思いを一時的に忘れることが出来た。
談話室に戻ると、リサが話しかけてきた。
「アル、明後日の決闘クラブで特別講師が来るそうよ!」
「特別講師?」
以前フィッツパトリックが言っていたのだが、決闘クラブでは不定期ではあるが、特別講師を招待して決闘について教えてもらっているそうだ。どこぞの有名な決闘士とかが来るのかなと思っていたら、来るのはフリットウィック先生らしい。俺が少しがっかりした表情を浮かべていたのに気づいたのか、リサは呆れた様子で言った。
「珍しさはないけど、フリットウィック先生も、立派な決闘チャンピオンよ。ひょっとしたら、授業でもやってない、決闘用の強力な呪文を見せたり、教えたりしてくれるかもしれないわ!」
そう言われると確かに……それもそうか。あの和やかな雰囲気で誤解しそうになるが、元決闘チャンピオンの実力者だ。それに、あの人は教えるのが凄い上手い。あのサイフォンを根気強く教え込み、なんとか呪文を成功させた程だ。
「言われてみれば、講師としてはこれ以上ないくらい適任か……」
「うちが非公式なのが、悔やまれるわね……」
「まぁな」
非公式のクラブは、他の公式のクラブと比べて、色々と制限が多い。備品などの予算請求は出来ないし、顧問の先生もいない。顧問の先生の業務は、クラブ内での連絡や調整、生徒への支援、実技の指導など多岐にわたる。非公式のクラブでは顧問の先生がいないので、それら全てを学生だけでやらなければならない。顧問の先生がいれば、面倒な雑務も減るし、普段授業では習わないこととかも色々教えて貰えるのに、残念だ。
もっとも、決闘クラブが公式であったとしても、フリットウィック先生が受けてくれるかというと、微妙なところだ。なにせ、フリットウィック先生自身、多忙の身だ。呪文学の授業やレイブンクローの寮監の業務、カエルの合唱団やスフィンクスクラブの顧問まで兼任している。それに加えて、更に決闘クラブの顧問までお願いするというのは難しいだろう。そんなことを思いつつも、俺は明後日、決闘クラブに行く意思を固めた。
「とにかく、明後日のいつもの時間だね? 分かった、その日は俺も行くよ」
「オッケー、じゃあ一緒に行きましょ」
ーーーーーーーーーー
そして、特別講師が来る日を迎え、俺とリサは決闘クラブに来ていた。クラブには、いつもよりも多くのメンバーが集まっていた。その中には、ミスティの姿もあった。俺がミスティに声を掛けると、振り返ったミスティは少し驚いていた。
「あら? アルじゃない。決闘クラブに入ったのね!」
「この間からだけどね。驚いたよ。ミスティも決闘クラブに入ってたのか!」
本当に驚いた。ヒッポグリフクラブだけでなく、スフィンクスクラブ、ドラゴンクラブ、ハッフルパフのクィディッチチームにも入っているし、それで更には決闘クラブにも入っているとは……この人のキャパは一体どうなってんだ?
そうこうしているうちに、会長のノーマンとフリットウィック先生が入ってきた。ノーマンは拡声呪文で俺達に呼びかける。
「よーし、皆。集まってくれ。今日は、特別講師として、フリットウィック先生をお招きしている。先生、ご多忙の中、ありがとうございます」
「いやいや、構いませんよ。ミスター・ノーマンの頼みですし、私としても良い気分転換になりますからね」
フリットウィック先生はにこやかに答えた。こうして見ると、本当に決闘チャンピオンには見えないな。フリットウィック先生は俺やリサ、他数人に視線を向けつつ、こう提案した。
「どうやら、決闘クラブに入ってまだ日が浅い生徒もいるようですし、どうでしょう? 私と戦いませんか、ミスター・ノーマン。彼らにとって、良い刺激になるでしょう」
「それはありがたい。では早速やりましょう!」
『!?』
俺を含む数人は驚いていたが、他の上級生達は「やっぱりな~」といった感じだ。ミスティがこっそりと、耳打ちする。
「ノーマンとフリットウィック先生の対戦はいつものことなのよ」
「でも……いくら、ノーマンでも流石に……」
この前、決闘した時は確かに凄く強かったけど、相手は先生だ。勝てるとはとても思えなかった。ミスティは意味ありげに笑った。
「まぁ、見てみれば分かるわよ」
フィッツパトリックの合図で、ノーマンとフリットウィック先生の決闘が始まった。同時に二人が振返った瞬間、お互い無言のまま、赤い火花のようなものがバチンッと弾き合った。
「また腕を上げましたね、ミスター・ノーマン」
「……まだまだですよ。モビラッ!」
「おおっと!」
イモビラスを無効化し、フリットウィック先生は、次の攻撃として杖から炎を噴き出した。無言だけど、おそらくインセンディオだろう。対するノーマンは、無言で杖から水を出して消火していく。
一進一退の攻防を繰り広げること、八分後、ノーマンの杖が弾かれて、ようやく決着がついた。周りから拍手喝采が響き渡った。フリットウィック先生は、額の汗を拭いつつ、相手の健闘を讃えた。
「素晴らしかったですよ、ミスター・ノーマン。あそこまで無言呪文を上達させるとは……去年より更に磨きが掛かっています。ここまで本気で戦ったのも久しぶりですよ」
「正直負けて悔しいですが、本気を出させただけ……良しとしておきます。でも、卒業までに必ず、先生から一勝してみせますよ!」
「ええ、望むところです。まだまだ、学生にやられる気はありませんよ」
がっしり握手を交わしながら、そんな会話をする二人に、決闘クラブの面々は色々衝撃だった。特に、今年加入したばかりの者の衝撃は推して知るべしだろう。
上機嫌な様子のフリットウィック先生は、特別にこの場の全員に、決闘用の呪文を教え始めた。
「では皆さん、せっかくですので、今回の決闘で使用した呪文をお教えしましょう!」
その言葉に、観衆達から喜びの声が上がった。決闘クラブのメンバー達としては、今日はこれ目当てで来ているところがあるのだ。
フリットウィック先生が教えてくれた呪文は、氷を作り出す呪文グレイシアスだ。フリットウィック先生は主に足止め目的で使用していた呪文だ。上級生は既に使える者がそれなりにいたが、そういった人に対しては応用的な使い方を教えたりしていたので、退屈な様子の生徒は一人もいなかった。こういうところは、本当にフリットウィック先生は凄いと思う。
フリットウィック先生のレクチャーが終わり、俺達は各々対戦することになった。俺の対戦相手は、ハッフルパフの同級生シン・ウェルボーンだった。
「手加減しないぞ! バクスター!」
「こっちの台詞だ!」
「「グレイシアス!」」
覚えたばかりの魔法を使いたい気持ちはお互い同じだったようで、開始の合図と同時に氷の呪文が衝突する。
ーーーーーーーーーー
「へっくし!」
俺とウェルボーンの決闘は、ウェルボーンの勝利で終わった。この間の、ノーマンとの決闘の時は特に悔しさはなかったが、同級生相手だと物凄く悔しいな。ローブのあちこちが凍って白くなったし、凄く寒くてくしゃみが止まらない。……後で医務室に行くか。
「マダム・ポンフリーから元気爆発薬を貰ってきたら?」
「ああ、そうするよ。その前にローブを着替えないとな。寒い……」
「覚えたての呪文を考えもせずに使いまくるからよ」
「折角覚えたんだから、使わないと損だろ。それにしても、今日の決闘は中々だったな~」
「ホントにね。でも良い勝負だったわよ」
リサとそんな会話をしながら、寮に向かって歩いていると、急に悪寒が走った。元々ローブが凍って寒かったが、更に寒くなった感じがした。周囲を見渡すと、悪寒の正体が分かった。無表情でこちらを見つめるミアの姿があったからだ。なんというか、凄く……怖い。
「アル、あの子……私達のことを凄い睨んでるけど……何、あれ?」
「あー……気にしないでくれ」
「確か、あの子……あなたの
リサは嫌味を交えて、ミアに聞こえるようにそう言った。ミアは何も言わずにどこかに行ってしまった。
「あらら……逃げちゃった」
「よせよ、リサ」
「だって、腹立つでしょ。あのマグル生まれの、グリフィンドール」
スリザリン生とグリフィンドール生は、基本的には滅茶苦茶仲が悪い。それはリサも例外ではなく、グリフィンドール生……特にマグル生まれのことを好いていない。曰く、マグルの世界の常識を押し付けてくるのが腹が立つとのことだ。流石に決闘クラブでは、表立ってそういう態度は取らないようにしているようだが、今日だってグリフィンドールの同級生と決闘していた時はいつもより少しキツめの呪文を使っていた。
俺だって、あのモンドと仲良くなれと言われたら絶対に断るだろうし、リサにはこれ以上何も言わなかった。
それから数日後。決闘クラブに来た俺は驚いた。
どういう訳か、ミアが決闘クラブに入会していたからだ。しかも、壁に貼ってある対戦表を確認すると、ミアが俺の対戦相手だった。