アルフレッド・バクスターの半生   作:マロニエ19号

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組み分けの儀式

列車を降りると、駅には毛むくじゃらの巨人のように大きな体躯の男が立っていた。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

 

大男は火の灯ったランタンを掲げて大声を張り上げている。一年生達は人の波を掻き分けながら彼の元に集まる。俺もミアも一年生達の中に入る。

 

「今年のイッチ年生はこれで全員か? よし、着いてこい! お前さんらはこれからボートに乗ってホグワーツまで向かうんだ!」

 

大男の案内で俺達は大きな湖に向かった。湖の向こう側にホグワーツ、俺達がこれから学ぶ学校が見える。大小様々な塔が入り乱れ、校舎というよりは城というべきか。学校とは思えない存在感だ。城の周りには暖かなランタンの灯りが城を優しく照らしており、幻想的な光景に一年生達は興奮に沸き立っていた。

 

ミアがローブの裾を引っ張る。振り向くと、凄く興奮した様子で言った。

 

「凄いですね! 私達、ここで七年間過ごすんですよね?」

「ああ、これからが楽しみだよ!」

 

それから俺達はボートに乗って湖を渡った。もう既に俺達を含めた一年生達は興奮冷めやらぬ様子でざわついていた。案内役の大男はそんな一年生達を見て微笑ましそうに頷いている。

 

 

こうして俺達は城の正面の大きな扉の前まで来ると、大男(名前はハグリッドと言うらしい)が扉を三回ほど大きく叩く。すると、扉が開き、中からエメラルド色のローブを着た背の高い魔女が現れた。

 

ミアが嬉しそうに俺のローブを引っ張り、囁いた。

 

「あの人、私あの先生と一緒に買い物に行ったんです!」

 

やっぱりミアと買い物に行ったのはマクゴナガル先生だったようだ。

 

ミネルバ・マクゴナガル。このホグワーツの教頭にしてグリフィンドールの寮監だ。ジルク叔父さんの話にも何度か出てきた先生で、凄く厳しくてよく怒られたもんだと笑いながら語っていた。ジルク叔父さんの言う通り、確かに厳しそうな顔つきをした先生だ。

 

マクゴナガル先生はミアを見ると、少しだけ嬉しそうに頬を緩めた。しかし、すぐに表情を引き締めてハグリッドに向き直る。それを見てミアの言っていた優しい人という評価もあながち間違いじゃないのかもと思った。

 

俺達は今度はマクゴナガル先生の案内で玄関ホールの隅の小さな空き部屋に入った。どうやらここで一旦待機する必要があるようだ。一年生達は不安や緊張でソワソワしていた。多分、俺も同じ感じだろう。

 

そんな一年生達を鎮めるようにマクゴナガル先生が口を開いた。

 

「まずは新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

 

マクゴナガル先生が挨拶を始めると、不思議と室内が静かになっていく。

 

それからマクゴナガル先生は俺達がこれから何をするのかについて説明していく。

 

「新入生の宴の前にあなた方の寮を決めなくてはなりません。寮の組み分けはホグワーツではとても大事な儀式なのです。ホグワーツにいる間は同じ寮生は家族も同然のものになります。教室で学ぶ時も、眠る時も、談話室で遊ぶ時も全て寮が基準となります」

 

マクゴナガル先生が四寮について一通り説明してから一旦区切ると、生徒達をギョロリと見回す。服装の乱れをチェックしているようで、服装が乱れている者を見ると、目つきを鋭くした。

 

「まもなく、全校列席の前で組み分けの儀式が始まります。待っている間、出来るだけ身なりを整えておきなさい。準備が出来次第、戻ってきますので、それまでは静かに待っていてください」

 

そう言ってマクゴナガル先生は部屋を出て行った。マクゴナガル先生がいなくなると、ホッと息を吐く。周囲を見渡すと、緊張からそわそわした空気になっていた。

 

そんな空気に当てられたのか俺も不安になってきた。隣のミアも不安げに周囲を見回している。

 

 

途中、ゴーストが部屋をすり抜けて驚かしたりするハプニングがあったものの、マクゴナガル先生が戻ってきた。どうやら準備が終わったらしく、俺達はマクゴナガル先生の案内で大広間に向かった。

 

 

大広間には不思議な光景が広がっていた。数えきれないほどの蝋燭が宙に浮かんでおり、天井には夜空が一面に映し出されていた。随分と幻想的だ。ミアなんかは緊張も忘れて見入っている。まぁ、無理もない。俺達以外の一年生達も同様に見入っていた。

 

マクゴナガル先生は前に四本足のスツールを置き、その上に随分と年季の入ったとんがり帽子を置いた。周りが静かになると、突然帽子が歌い出した。随分個性的な歌詞だったが、中々良い歌だった。

 

帽子が歌い終えると、マクゴナガル先生は長い羊皮紙を片手に前に進み出た。どうやら組み分けの儀式が始まるようだ。一年生達の間に緊張が走る。そして、アルファベット順に名前が呼ばれるので帽子をかぶって組み分けを受けるようにと説明すると、マクゴナガル先生は最初の生徒の名前が呼ぶ。

 

「アクロイド・カール!」

 

最初に呼ばれた少年が緊張した様子でスツールに座って帽子をかぶる。俺もミアもファミリーネームがBなので名前が呼ばれるのはすぐだろう。そして、三番目にミアの名前が呼ばれた。

 

「ベイカー・ミア!」

「わ、私だ……」

「ほら、頑張って」

 

ミアは緊張しながらスツールに座り、帽子をかぶった。帽子は一拍置いて、『グリフィンドール!』と叫んだ。グリフィンドール生達が座っている長机から歓声が上がった。彼女が最初のグリフィンドール生なのも大きいのだろう。ミアは帽子を脱ぐと、ホッと安堵した様子でグリフィンドールの席に向かった。ミアは席に着くと、俺に向かって嬉しそうに手を振っている。

 

「バクスター・アルフレッド!」

 

次は俺の番だ。前に進んでスツールに腰掛け、帽子をかぶった。数百の目に見られるのはあまり気持ちの良いものではないので深々とかぶって見えないようにする。帽子をかぶると、しわがれた低い声が聞こえてきた。

 

『ほう。これは中々……面白い。君の素質から見ればスリザリンなのだが……』

「え? いや、俺はハッハルパフが良いんですが……」

 

帽子がとんでもないことを言ってきた。冗談じゃない。俺はハッフルパフが良いんだ。何であんな親と同じ寮なんかに入らないといけないんだ。帽子は不思議そうに尋ねた。

 

『ほう? それはまたどうしてかね?』

「だって俺が尊敬する人もハッフルパフだし、何より魔法生物が大好きなので」

『ふむ、なるほどなるほど。しかし……やはり君と一番相性が良いのはスリザリンだ。それに魔法生物が好きなら尚更あそこが良い』

「いや、でも……」

 

マズい。これは嫌な流れだ。お願いだから話を聞いてくれ、このオンボロ帽………

 

『スリザリン!!』

 

帽子は問答無用で高らかに叫び、俺のスリザリン行きが決定してしまった。信じられない…… よりにもよって死喰い人の両親と同じ寮になるなんて。あの帽子、まさか血縁で判断したんじゃないだろうか。

 

そんな俺の気持ちも知らずにスリザリンのテーブルからは歓声が上がる。俺が一年生の中で最初のスリザリン生だったからだろう。

 

俺が席に着くと、上級生達から口々に歓迎の言葉を貰ったが、正直複雑な気持ちだった。それからも組み分けが続き、最後の一人がレイブンクローに組み分けされると校長先生の挨拶に入った。

 

校長先生は真ん中の席に座っていた長い白髭を蓄えたお爺ちゃん、アルバス・ダンブルドアだ。蛙チョコカードで何度か見たことがあるので顔と名前は知っている。

 

 

ダンブルドア校長の話は結構短く、正直助かった。これでダラダラと長ったらしい話をされたら堪らない。ダンブルドア校長の話が終わると、テーブルの皿やゴブレットから食べ物や飲み物が現れた。

 

生徒達は美味しそうに料理を頬張る。待ちに待った夕食だからだ。俺もがっつく。夕食は結構美味しかった。

 

 

食事が終わり、生徒達は自分の寮に行くことになった。チラリとグリフィンドールの机を見ると、ミアはもう友達が出来たらしく、黒髪の女の子と楽しそうに話しているのが見えた。友達が出来て良かったと安堵すると同時に、少し寂しさを覚えた。犬猿の仲の寮だけど仲良くやれれば良いんだけど……

 

そして、俺達スリザリンの新入生達は上級生の案内のもと、地下室へとやって来た。スリザリンの談話室を地下牢と言う輩もいるらしいが、あながち間違っていないように思える。ここは暗いし、少し寒い。冬になったら凍え死ぬ生徒が出てきても不思議じゃない。

 

やがて、誰も来ないような湿った剝き出しの石が並ぶ壁の前で上級生達が立ち止まった。「PREFECT」のバッジを着けた監督生が前に出て「純血よ、栄光あれ!」と唱えると、床からアーチのようなものが現れた。アーチの奥には扉が見える。アーチは蛇のような形をしており、ご丁寧に蛇の鱗の模様が細かく彫り込まれてある。凝っててカッコいいなぁ。俺と同じことを思っていた新入生は結構いたようで男子達はほぼ全員、感嘆の声を上げる。

 

奥へと続く談話室の中は、壁と天井が大理石の石造りで暖炉や椅子などあらゆる所に彫刻が彫られている。カーペットはどれもスリザリンのイメージカラーである緑色のものばかりだ。談話室は落ち着きのある雰囲気で居心地も良さそうだ。案外、スリザリンでも悪くないかもしれない。

 

丁度その時、先程のバッジを着けた監督生が俺達に呼び掛けた。どうやら毎年行われる歓迎の挨拶が始まるようだ。監督生は中央分けになっている髪を指で撫でながら気取った様子で口を開いた。

 

「さてと。一年生の皆さん、スリザリン寮へようこそ。僕はフェリックス・ロジエール。このスリザリンの監督生よ」

 

フェリックスと名乗った監督生は突然、オネエ言葉で話し始めた。上級生達は慣れているのか平然としているが、俺を含む一年生達はギョッとした。だっていきなりオネエ言葉だ。驚かない方が無理だ。隣の上級生から「慣れろ」と耳打ちされた。そんな上級生達に気付かず、フェリックスの話は続く。

 

「この談話室は見ての通り、ホグワーツ城の地下室の奥に隠された場所にあるわ。地下牢なんて言う人もいるけど失礼な話よね、全く。よく見れば分かると思うけど、談話室の窓はホグワーツ湖の水中に面しているの。だから窓の向こうには神秘的な光景が広がっているし、時には大イカを始めとした色々な魔法生物が見られるわ」

 

 

……何だって?

 

フェリックスの言葉に思わず耳を疑った。談話室の窓を目を凝らしてよく見てみると、確かに大イカの触手らしき影がよぎった。

 

素晴らしい。

 

もうこの時には俺はスリザリンに入ったことを心の底から喜んでいた。今ではあの組み分け帽子に感謝の念も持っていた。さっきまで「いつか燃やしてやる」って恨んでいたのに我ながら単純なものだ。

 

それからフェリックスの話は続き、スリザリンの歴史やそこ出身の偉大な魔法使い、スリザリンの心得といった話に入った。俺としてはあまり興味が持てなかったが、スリザリンがとても仲間思いな寮だってことは分かった。

 

どんな寮にも良い所や悪い所があるってことなんだろう。あんな親出身だからと言って色眼鏡で見るべきではなかったな。俺は心の中でそう反省した。

 

 

ようやくフェリックスの話が終わり、それぞれ寝室に移動することになった。俺は荷物を抱えて指定された部屋に向かう。俺は同じく新入生と同室らしい。仲良くなれると良いんだけど…… 扉を開けると、既に部屋には先客がいた。

 

「やあ、君が僕のルームメイトだね?」

 

亜麻色の髪をした少年がいた。瘦せ型で手足が猿みたいに長い。少年は嬉しそうに話しかけてきた。

 

「どうぞよろしくな。僕はランドルフ・シュミット。ランディで良いよ。えっと、君は……」

「俺はアルフレッド・バクスター。アルでも何でも好きに呼んで良いよ」

 

ルームメイトは結構気さくで良い奴だった。俺達は笑顔で握手を交わす。ランディは嬉しそうに笑った。

 

「僕達、きっと親友になれるよ。あ、そうだ。アルの荷物を入れるの手伝うよ」

「ありがとう、ランディ」

「気にすんなって」

 

ランディの助けもあって荷物を運び終えると、荷物を整理する。整理が終わると、俺はベッドに倒れた。俺のベッドは窓の近くのベッドにしてもらった。魔法生物が大好きだと言うと、快くそのベッドを譲ってくれたのだ。

 

ベッドの近くの壁にはタペストリーが何枚も貼られていた。ランディが言うには自分が部屋に入った時点で既に貼ってあったらしい。タペストリーに描かれた人物は全てスリザリン出身の魔法使いらしく、そのタペストリーを飾ってあるのは彼らを目標に頑張って貰いたいという意味があるようだ。

 

明日から授業があるので早めに眠ることにした。ベッドの寝心地は良く、すぐに眠ることが出来た。

 

最初はスリザリンに入って絶望したものの、今では入れて良かったと心から思えるようになっていた。




監督生のフェリックスはホグミスでも登場する監督生です。ゲームでは時々バグでオネエ口調になったりするので、今作ではオネエ口調で喋るキャラになりました。
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