アルフレッド・バクスターの半生   作:マロニエ19号

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授業初日

翌日、俺達スリザリン一年生の記念すべき最初の授業は妖精の呪文学だ。俺とランディは大広間で朝食を食べてから急いで教室に向かった。途中で床や階段が突然動き出すハプニングがあったものの、始業時間には何とか間に合った。

 

担当教授のフリットウィック先生はレイブンクローの寮監も務めており、小さい見た目や優しそうな顔とは裏腹に物凄く決闘が強いらしい。フリットウィック先生は積み上げられた本に乗るとキーキー声で叫んだ。

 

「呪文学はとても実用性の高い科目であり、少なくとも五年生までは学んで頂くことになります。本日はルーモスを習います。皆さん、杖の準備は良いですか?」

 

ルーモスという呪文は初歩の魔法の一つだ。杖から光を灯す魔法で暗い場所で物を探すのにとても便利な呪文だ。しかし、初歩の魔法とは言え、それでも一年生達には難しいようで四苦八苦している生徒も何人かいた。かくいう俺もその一人だ。何度かやっているのだが、杖先の光が勝手に点滅してしまう。ランディの場合は光が非常に小さく全然灯りの役目を果たせていない。

 

「皆さん、呪文において大切なのは発音とイメージ、そして杖の振り方です。良いですか……」

 

フリットウィック先生が懇切丁寧に教えてくれたおかげで授業が終わる頃には皆ルーモスが出来るようになっていた。

 

 

その次は魔法史だったのだが、これはさっきの呪文学とは比べるのもおこがましい程に恐ろしく退屈な授業だった。何せゴーストのビンズ先生がただダラダラと教科書を一定の速さで読み上げるだけという「これ意味あるのか?」と言いたくなるようなものだからだ。授業が終わる頃には殆どの生徒が夢の中だった。ちなみに後から聞いた上級生の話によると、退屈なのは昔からで話の内容も全く変わっていないらしい。まぁ、歴史というのはそういうものだし、変わったりしたら困るのだが。

 

 

 

ようやく睡眠時間、もとい魔法史の授業が終わり、お昼ご飯を食べに大広間へ向かった。ランディはお腹が空いてフラフラになっていた。

 

「う~ん、腹ペコでもうフラフラだよ」

「もう少しの辛抱だから落ち着けって」

 

ランディの様子に苦笑いしつつ落ち着かせると机の上に昼食が現れた。今日の昼食はサンドイッチとトマトスープ、それから牛乳か。美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。ランディは待ってました!と言わんばかりにサンドイッチを頬張り、スープを流し込む。品もへったくれもない行動にスリザリンの上級生数人は不愉快そうに顔を顰めている。このままだと隣の俺までそういう風に見られそうなので軽く注意する。

 

「おい、ランディ。もう少しゆっくり食えって。腹壊すぞ」

「モゴモグ……」

 

ランディは聞く耳を持たない。上級生達は俺達を少し睨み付けると、席を立って去って行ってしまった。ランディはいつの間にかスープのおかわりをしており、もう三皿目に突入していた。もしかして、これが痩せの大食いってやつか。しかし……朝食の時もおかわりしてたし、こいつの胃袋は一体どうなってるんだ?

 

そんなことを思いながら呆れていると、突然こちらを揶揄するような声が聞こえた。

 

「おい見ろよ! あそこの席の痩せ蛇、すげー意地汚く食うぜ」

「そのうち、卵とかネズミとか丸呑みするかもな」

「マジかよ! ペットがネズミの奴、早く隠さないとな! 食われちまうぜ!」

「ギャハハ!」

 

俺がチラリと振り返ると、離れた席に座っていた奴らが言っていたようだ。俺達に聞こえるように言っているのが丸分かりで意地の悪い笑みを浮かべていた。座っている机やローブの襟章、ネクタイの色からグリフィンドールの連中のようだ。

 

「はぁ……嫌な奴らだな……」

「ん? どうしたんだ、アル?」

 

お腹一杯になってようやく落ち着いたランディがキョトンとした様子で俺に尋ねた。どうやらランディは食べるのに夢中であのグリフィンドール生達の言葉を聞いていなかったようだ。

 

「……お前、大物になるよ」

「え? そうか? ありがとな」

 

いや、褒めてないよ。

 

 

 

「ふーん、そうか、そんなことがあったのか……」

 

大広間を出て次の教室に向かう途中、俺はランディに先程の出来事を話した。てっきり腹を立てるかと思ったが、ランディは特に反応がない。それどころか苦笑いしていた。

 

「まぁ、なんだ。気にすることはないよ。グリフィンドールとスリザリンの仲が最悪なのは今に始まったことじゃないしさ」

「仲が悪いのは知ってたけど、これほどとは思わなかったよ」

「だから気にしなくて良いって。気にするだけ無駄だよ、あんな奴らのことなんかさ。気にしているとこっちも損だ」

 

なるほど。ランディはグリフィンドールのやること、言うことにいちいち目くじらを立てていたら無駄だと考えているわけか。まぁ、これはランディの考えが正しいな。でも、もしかしたらミアもあいつらみたいになるんだろうか。列車で会った時はそんな子には見えなかったけど……

 

いや、もう違うことを考えよう。今そんなことを考えていてもキリがない。

 

「次は変身術か。確かマクゴナガル先生はグリフィンドールの寮監だったよな? スリザリン生の俺達をネチネチいびらないと良いんだけど」

「考えすぎだって。うちの寮監のスネイプ先生と違ってそんな贔屓はしないらしいよ」

 

 

俺達が教室に着くと、もう既に生徒が揃っていた。始業時間ギリギリだったようだ。まだ先生がいないしセーフだろう。自分達の席に着こうとすると、机の上に一匹の猫が乗っていた。灰色の毛並みに眼鏡のような模様がある。

 

「あれ? 何でここに猫が? 誰かのペットか?」

 

近くの席に座っている同級生に尋ねると、首を横に振る。すると、猫は机から降りてしまった。そして次の瞬間、猫は人の形に変わった。マクゴナガル先生だ。

 

「ミスター・バクスター、ミスター・シュミット。遅刻はしていないので減点はしませんが、次からは始業五分前には教室に入ることをお勧めします。何事も五分前行動が大切ですよ」

「えっと……はい、気を付けます」

「善処します」

「よろしい」

 

マクゴナガル先生は頷くと周囲を見渡して言った。

 

「変身術というのはホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で受けるようならば、私の授業では教室から出て行ってもらいます。二度とクラスには入れません。元から警告しておきます。分かりましたね?」

 

これにはヘラヘラと高を括っていた生徒達も気を引き締める。変身術は必修科目の一つだ。授業を受けられなくなったら卒業出来なくなってしまう。真面目に授業を受けなければ容赦なく追い出される。冗談ではなく本気でそうするつもりだという意思が今の言葉に込められていた。

 

幸い、マクゴナガル先生の授業は非常に分かりやすかった。教科書に書かれた内容を嚙み砕いて説明してくれている。そして、講義が終わると前の席から数本のマッチが回ってきた。一本は手元に、もう一本は隣のランディに渡すと、残りを後ろの席に回す。

 

「全員行き渡りましたね? 今回はこのマッチ棒を針に変えてもらいます」

 

変身術は複雑なものだというマクゴナガル先生の言う通り、マッチ棒を針に変えるだけでもかなり難しかった。何度も呪文を掛けているが、中々上手くいかない。そんな時だった。

 

「皆さん、ミス・ガーネットの針を見て下さい! 見事な針です! スリザリンに五点!」

 

マクゴナガル先生が嬉しそうな声で針を掲げている。マクゴナガル先生が掲げている針は銀色に輝き、誰がどう見ても分かる立派な針だった。魔法を成功させた同級生の女子、アビゲイル・ガーネットは照れくさそうにはにかんでいた。

 

そして、終了時間の15分程前に俺もマッチ棒を変えることに成功した。と言っても、材質までは変化させることが出来ず、目の前には木製の針があった。

 

これにはマクゴナガル先生も苦笑していた。

 

「ミスター・バクスター。これは針ではなく爪楊枝というものです」

 

そのため、点は貰えなかった。先は尖っているんだし、針で良いと思うんだけどな。そう言うと、やっぱり駄目ですと却下された。しかし、形状の変化はきちんと出来ているのでもう少しだとも励まされた。

 

結局、授業中にマッチ棒をちゃんと針に変えられたのはさっきのアビゲイル・ガーネットくらいだった。

 

 

 

 

そんなこんなでホグワーツに入学して初日の授業全てが終わりを迎えた。

 

夕食を済ませた後、俺は談話室でまったりと窓の向こうを眺めていた。窓の向こうには大イカやグリンデローといった魔法生物が悠々と泳いでいるのが見える。それを見ていると時の流れを忘れそうだ。

 

そんな時、後ろから声を掛けられた。

 

「あら? あなたも魔法生物が好きなの?」

 

声がする方を振り向くと、そこには眼鏡を掛けた色黒の少女が立っていた。

 

「えっと……君は……?」

「ああ、ごめんなさい。私はリズ・タトル。二年生よ。確かあなたは……」

「俺はアルフレッド・バクスター。一年生です。タトルさん」

「リズやリザードで良いわよ。それで話を戻すけど、あなたも魔法生物が好きなの?」

 

リズがワクワクした様子で尋ねた。その様子に気圧されつつも頷くと、リズは嬉しそうに笑った。

 

「そうなの!? 嬉しいわね。同じ学年にバーナビーって人もいるんだけど、彼も魔法生物が大好きだからきっと彼とも仲良くなれると思うわ!」

 

それからしばらく俺とリズは魔法生物の話で盛り上がった。彼女の魔法生物の知識は相当なもので俺も初めて聞いたようなことも多くて面白かった。気が付くと、かなりの時間が経っていた。

 

「ああ、面白かった。色々教えてくれてありがとう、リズ」

「ええ、どういたしまして。話を聞いてくれて私も楽しかったわ。魔法生物好きに悪い人なんていないもの。あなたとは良い友達になれそうね。それにリビッス卿も友達が出来て嬉しそう」

 

また、リズもヒキガエルをペットにしており、名前はリビッス卿というのだそう。俺のペットのクラインと少し遊ばせると、クラインとリビッス卿も仲良くなったようだ。

 

「俺も友達になれて良かったよ。それじゃあ、おやすみ、リズ」

「ええ、おやすみなさい」

 

そう言うと、俺は満足した顔で自分の寝室に入って行った。

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