ホグワーツに入学してから数日が経過した。いつも通り午前の授業を終えて昼ご飯を食べた後、俺やランディは一旦寮の部屋に戻って来ていた。
「魔法薬学で必要なのってこれで全部だよな?」
「ああ、大丈夫だ。よし、早く教室に行こう」
俺とランディは早速魔法薬学の教室へ向かった。幸いスリザリンの談話室と近いので道具とか色々準備を整えると、すぐに教室に着くことが出来た。
スリザリン生の多くは既に席に着いていた。他にも グリフィンドール生の何人かも席に着いていた。それを見て思い出した。
「そうだ。この授業って グリフィンドールと合同なんだった」
「……いや、この授業だけではない。来週やる箒の飛行訓練の授業もグリフィンドールと合同だそうだ」
俺の言葉を聞いていた近くの席の男子、モートン・グラントが顔を顰めながら答えた。その隣の女子、アビゲイル・ガーネットもうんざりした様子で呟く。
「ホント、仲の悪い寮同士で一緒の授業って嫌な予感しかしないわ。学校側は何を考えているのかしら?」
俺達も席に着くと、ランディが呆れた調子で言った。
「そもそも校長からしてああだからな。仲の悪い奴らを無理に仲良くさせようとするからグチャグチャに拗れたんじゃないか」
「それに、魔法薬学は失敗すれば大惨事になりかねんぞ。あそこはただでさえマグル生まれも多いのにこっちまで足引っ張られたら敵わん」
「そうね。でもその心配はなさそうよ」
アビゲイルが指で示した方に目を向けると、グリフィンドール生達は自分達と少し離れた席に全員座っていた。何人かはまるで俺達を親の仇でも見るかのように睨み付けている。代々仲が最悪な寮同士なだけあって、寮で席が綺麗に分かれているのも凄いものだ。でも確かに綺麗に分かれて座っているので向こうが失敗してもこちらに被害はいかないだろう。
グリフィンドール生達の中にはミアもいた。ミアは俺を見ると、少し気まずげに目を逸らす。やっぱりグリフィンドールとスリザリンじゃこうなっちゃうのか。
胸に一抹の寂しさを覚え、それを紛らわせるために周りを見渡した。すると、壁にはガラス瓶が所せましと並んでいるのが見えた。瓶の中には様々な生物が液体漬けで入っていたり、奇妙な形の植物が入っていた。見ていると少し気分が悪くなる。
そして、始業時間になった瞬間、バタンと大きな音を立てて一人の男が入って来た。セブルス・スネイプ先生、俺達スリザリン寮の寮監でもある男だ。スネイプ先生は出席を確認すると、呟くように話し始める。
「さて。これは君達にとって初めての魔法薬学の授業だ。だが、途方に暮れたその目を見る限り、これが最後の授業になるかもしれない」
一見穏やかな話し方なのにかなりの威圧感だ。生徒達は一言も聞き漏らすまいと静まり返っている。スネイプ先生の話は続く。
「他の授業と違い、これは間抜けな杖振りの場でも耳障りな発音間違いの場でもない。ここでは繊細な科学であり、正確な芸術である魔法薬学を学ぶのだ」
まるで他の授業を小ばかにするような言い方だな。まぁ、良いけど。
「今日はおできを治す薬を作ってもらう。当然ながら完璧な仕上がりを期待している。至極簡単な薬だから失敗など滅多にないだろうが、去年は大鍋を破壊した生徒がいたので念のために言っておく」
それからスネイプ先生が最初に実演して、次に俺達も薬を作る。この授業では二人一組になって薬を作るので俺はランディとペアになった。この薬では蛇の牙を砕いたり干イラクサを計るのだが、これが中々難しい。
蛇の牙を砕く作業ではほんの少しでも大きかったり小さかったりしてはいけないらしく、スネイプ先生から何度も注意された。また、干イラクサの測定もミリ単位で細かい。
授業が終わる頃、俺は薬を混ぜ終えてようやく俺達のペアもおできを治す薬が完成した。スネイプ先生の元に提出する。スネイプ先生は薬を一瞥すると、溜息を吐く。
「ミスター・バクスター、この薬は完壁とは言い難いな。仕上げで怠ったか。及第点なので減点はしないが、もう少し頑張って貰いたいものだ」
「あの……どこが駄目だったか教えてくれませんか?」
「それくらい自分で考えろ。仮にもスリザリン生であれば、この程度の薬は完璧に仕上げてもらいたいものだ」
結局、スネイプ先生は何が駄目だったのか教えてもらえなかった。ランディは気にするなと言ってくれたが、流石にこれは落ち込む。スリザリンには魔法薬学が得意な生徒が多いらしいので上級生とかに色々教えてもらった方が良さそうだ。
また、この授業で分かったことなのだが、グリフィンドールの奴らとはことごとく気が合わなそうだ。何せ、犬猿の仲であるスリザリン生の俺達に敵意を隠しもしないのだ。スリザリン生の何人かはグリフィンドール生達にちょっかいを掛けたのかもしれないが、俺やランディとかはした覚えがないし、ロクに話したこともないのにだ。こんなので仲良くなんて土台無理な話だ。
そんなグリフィンドールの奴らの中でも特にジェイク・モンドという男子生徒が酷い。入学翌日の昼食の時に俺達を馬鹿にしていた奴だ。
モンドは俺達スリザリン生を徹底的に嫌悪しており、スネイプ先生に対してもスリザリン出身だから見下しているのが丸分かりだった。もっとも、スネイプ先生もそんな彼の心の底を見抜いていたのか、授業態度が悪いとして五点ほど引いていたが。
モンドは授業後に教室から出ると、「スリザリンは闇の魔法使いを輩出する屑の集まり」だの「奴らと一緒にいるだけで吐きそう」だの好き勝手言っている。そんな彼の言葉に何人かのグリフィンドール生も同調していた。ミアは先に教室を出ていたので同調している生徒達の中にはいなかった。
俺も入学前はスリザリンを嫌がっていたが、あそこまでではないと断言出来る。何をどう生きたらあそこまでスリザリンを嫌いになれるのか、聞きたいくらいだ。俺は心底不愉快に思いながらも無視を決め込んで教室を出て行った。
「それにしても……あのモンドって奴……何なんだ、あの態度」
「モンドって闇祓いの息子だろ、確か」
一旦、寮の談話室に戻ると、俺と同じように反感を持っていたスリザリン生徒は他にもいたようで、腹立たし気に愚痴をこぼしていた。
「顔は結構良いけど、ありゃ駄目だな」
「ああ、人って悪口言っている時ってあそこまで醜くなるんだな。あいつの顔、まるでトロールみたいだったぞ」
「おい、トロールに失礼だ。それは」
誰かが言った言葉で笑いが起こり、それからしばらく談話室ではモンド達グリフィンドール生の悪口大会になった。正直、何度かミアの顔が浮かんだが、幸いミアのことは話にも上がらなかった。まぁ、スリザリンはマグル生まれを見下しているからな。わざわざ話題にも出ないか。
休日、俺は魔法薬学の教室にいた。せっかくなのでおできを治す薬の練習をすることにした。スネイプ先生にあのまま言われっ放しなのも癪だからだ。教室には自分以外誰にもいないので集中出来そうだ。スネイプ先生は不愛想だが、スリザリン生には優しい。なので、魔法薬学の教室の利用もスリザリン生であれば特に文句を言われることもない。
そんなわけで一人練習していたのだが、最後の掻き混ぜる段階でどうにも上手くいかない。何回も掻き混ぜているのだが、どうも均等に混ざらないのだ。その時、後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、その魔法薬だったら時計回りに掻き混ぜた方が良いわよ」
「うわあ! え、え? 何?」
びっくりして後ろを振り返ると、そこには金髪を三つ編みにした女子生徒が立っていた。あいにく今日は休日なのでローブを着ておらずどこの寮なのか分からない。ただスリザリンではなさそうだ。少女は申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。びっくりさせるつもりはなかったんだけど、ちょっと気になったから。おできを治す薬だったら時計回りに掻き混ぜた方が上手く混ざるわよ」
「え?」
教科書を見るが、教科書には「仕上げに掻き回す」と書いているだけで方向などは書かれていなかった。少女に言われた通りに時計回りに掻き回すと、確かに材料が均等に混ざった。少女は得意そうに言った。
「ね? 言った通りでしょ?」
「うわぁ……本当だ。ありがとう、教えてくれて。えっと……」
お礼を言おうとするが、名前が分からない。少女は思い出したかのように自己紹介を始めた。
「私はペニー・ヘイウッド。ハッフルパフの二年生。ペニーって呼んでくれて良いわよ。あなた、アルフレッド・バクスターでしょ? リズから聞いているわ。魔法生物が大好きな子だって」
「え? リズを知ってるの?」
確かにリズはペニーと同じ二年生だが、リズはお世辞にも社交的なタイプではない。寮も別のペニーと交流があるようには思えなかった。俺の言いたいことが分かったのかペニーは苦笑いしながら言った。
「私とリズは同じヒッポグリフクラブのメンバーなのよ。だから交流があるの」
「えと、ヒッポグリフ……何?」
聞き覚えのないクラブに思わずハテナマークが浮かぶ。ペニーは得意そうに説明してくれた。
ホグワーツには様々なクラブが存在している。先生がお気に入りの生徒を集めて開催しているものや、生徒が有志で集まって不定期に活動をしているものとピンキリだ。
生徒のみで構成されたクラブにはドラゴンクラブ、スフィンクスクラブ、ヒッポグリフクラブの三つがある。ドラゴンクラブでは闇の魔術に対する防衛学や決闘能力、箒の飛行技術に長けた生徒が、スフィンクスクラブでは天文学・呪文学・変身術・魔法史に長けた生徒が、ヒッポグリフクラブでは特に魔法薬学・占い学・薬草学・魔法生物飼育学に長けた生徒が多いのだそう。その科目に長けていれば学年や寮は関係ないのだとか。
その時、ペニーが何か思い付いたのかパンと手を叩く。
「そうだ! もし良かったら、ヒッポグリフクラブに入らない? クラブの先輩が何人か卒業しちゃって丁度、新しいメンバーを探してたのよ」
「え、でも……」
何というか……レベルが高すぎる気がする。俺が入っても迷惑にならないだろうか。
俺の懸念が分かったのか、ペニーは笑いながら後押しする。
「まずは見学からでも大丈夫よ。それに私も去年、一年生の時に入ったから心配しなくて大丈夫。きっと気に入るわ。実は部室にはケルピーもいてね……「ぜひ行きたいです!!」……良かった!」
即決だった。ケルピーはかなり珍しい魔法生物の一つだ。それが生で見れるのなら行かない理由はない。こうして俺はペニーの案内のもと、ヒッポグリフクラブの部室に向かうことになった。
ヒッポグリフクラブは他のドラゴンクラブやスフィンクスクラブと違って塔の中ではなく、洞窟のような大きさの温室の中にあった。俺やペニーよりも遥かに大きい扉には、ヒッポグリフを模した紋章が描かれている。
「さぁ、アルフレッド……これがヒッポグリフクラブよ」
ペニーがそう言って扉をノックすると、そういう魔法が掛かっているのか扉がひとりでに開き始めた。
「わぁ……」
全面石造りの部屋で天井からは複数のランタンがぶら下がっている。入ってすぐには占いのブースがあり、水晶玉を使って何か占っている生徒達の姿が見えた。ペニーに連れられながら先を進むと、部屋の半分を占めるほど大きな沼があった。沼は水草が生い茂っており、深さが分からない。沼には中央を横切る形で、少し古いがガッシリした造りの桟橋が架けられている。
壁際の方に一人の生徒が餌の詰まった袋を片手に餌をひとかけら取り出して水面にチラつかせる。すると、水面から水草にまみれた馬のような生き物が姿を現し、餌をパクリと飲み込んだ。
ケルピーだ。想像よりずっと大きいな。どれくらい生きた個体なんだろうか。
俺がキラキラした目でケルピーを見つめているのに気付いたペニーが嬉しそうに言った。
「あなたって本当に魔法生物が好きなのね。やっぱり連れて来てよかったわ」
桟橋を渡り終えて俺とペニーは部室の奥の方に到着した。部室の奥には大きくて立派な樹が立っており、その下には真っ赤なキノコが文字通り踊っていた。樹の下には一人の女子生徒が座って本を読んでいた。銀髪で端正な顔の少女だ。ペニーは女子生徒に気が付くと声を掛けた。
「ミスティ」
名前を呼ばれて初めて気が付いたらしい女子生徒はペニーに気が付くと笑顔で手を振った。
「ぺ二-じゃない。どうかしたの?」
「ええ、クラブの見学に来た子がいるから案内してたのよ」
ペニーに言われて女子生徒は後ろにいた俺に気が付いたようで自己紹介をする。
「初めまして。あたしはミスティ・ハドソン、ペニーと同じハッフルパフの二年生よ。気軽にミスティって呼んでくれて良いから。よろしくね」
「俺はアルフレッド・バクスターです。スリザリンの一年生です。こちらこそよろしくお願いします」
クラブでは寮は関係がないというのは本当らしい。俺がスリザリンと言っても全く嫌悪感を持った様子がない。俺とミスティは握手すると、ペニーがある提案をしてきた。
「ねぇ。折角だし、ミスティもクラブの案内を手伝ってもらえないかしら?」
「え? あたしも? でも……」
ミスティはミスティの提案を渋る。ペニーはミスティの気持ちが分かっているのか諭すように言った。
「ミスティ、ベンのことが心配なのは分かるけど偶には息抜きも大切よ。それに私達は二年生。折角先輩になったんだし、もっと下級生と交流した方が良いと思うわ」
ミスティはペニーの言葉にハッとした表情を浮かべ、俺を見ると頷いた。
「……そうね。ペニー、ありがとう。あたしも案内を手伝うわ」
それからクラブの案内にミスティも加わり、クラブ内を散策した。ミスティはヒッポグリフクラブの他にもドラゴンクラブ、スフィンクスクラブにも所属しており、その話を聞いて驚いた。つまり殆ど全ての科目に長けているということだ。非常に優秀らしい。
ミスティとしては学年や寮が全く違う俺とペニーがどうやって知り合ったのか気になるらしく、それを質問された。なのでさっきの出来事を説明すると、ミスティは成程と納得し、少し苦い表情を浮かべていた。
どうしたんだ?と疑問顔を浮かべていると、ペニーが苦笑いしながらその理由を教えてくれた。
なんでも去年、ミスティは魔法薬学の授業でおできを治す薬を作った時に大鍋が大破し、スネイプ先生から大目玉を食らったのだそう。寮の得点も減らされたり、ハッフルパフの監督生から怒られたりで散々だったらしい。
どうやら魔法薬学の授業でスネイプ先生が言っていた大鍋を破壊した生徒というのはミスティだったようだ。世間は狭いものである。
クラブ内を見せてもらったり、色々な話をして盛り上がったりして気付いた頃にはもう夕方になっていた。ミスティとペニーは改めてヒッポグリフクラブに入るかどうか尋ねる。
「それでアルはヒッポグリフクラブに入るの?」
「アルだったら私達は大歓迎よ」
二人に言われ、俺は少し考える。だが、すぐに腹が決まった。
「よろしくお願いします!」
ミスティとペニーは俺の返事にニッコリと笑みを浮かべた。
「良かった! ヒッポグリフクラブへようこそ……と言いたいところなんだけど………」
ミスティが気まずそうに言葉を濁し、ペニーが彼女の言葉を引き継ぐ。
「えっと……さっきも言った通り、ヒッポグリフクラブは魔法薬学や薬草学とかが優秀じゃないと入れないの。だから今すぐにとはいかないのよ……」
なんでも、授業で課される小テストとか、目に見えるものである程度の結果を示さないと入ることが出来ないのだそう。当然まだホグワーツに入学したばかりの俺では入るのが難しいのだ。案内中にペニーが上級生に確認した時にそれが発覚したらしく、申し訳なさそうに謝られた。
でもヒッポグリフクラブは想像以上に面白そうだったし、ペニーやミスティといった上級生と仲良くなれたので俺としては問題なかった。ちゃんと成績で示せば良いんだし。そう言うと、二人ともホッとしていた。
それから二人と別れると、俺はそのまま寮の談話室に帰った。ヒッポグリフクラブに入れるようになるには魔法薬学や薬草学を頑張らないとな。魔法生物飼育学なら自信があるけど、あれは三年生からで出来ないし。ああ、早く三年生になるのが待ち遠しい。
ミスティ・ハドソン
二年生 ハッフルパフ
所謂ホグミス主人公です。名前はオリジナルです。
非常にハイスペックな完璧超人で、行方不明になってしまった兄の手がかりである呪われた部屋を探し回っています。アルフレッドやペニーと出会った時に読んでいた本も呪い関連の本です。現時点では、呪われた部屋の他に、新学期から行方不明になってしまった友達を探すために奔走していました。
追記
最初はモートン・アッシュという名前にしていましたが、アッシュでは組み分けの時に若干矛盾が生じるので変更しました。アッシュという苗字のキャラは今後上級生か下級生か何かで出そうと思います。