はろにゅ番外編つづり   作:充椎十四

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ロシーとローズ、夢でいいから会ってくれ――という熱量にやられて書いた。前後編です。


降灰・前

 マリンローズに告白しようとしては失敗を繰り返すコラさん――ロシナンテのため、世界平和のため、ハートの海賊団クルーは立ち上がった。

 

 ロシナンテ独力での告白成功を待つ暇はない。なんせマリンローズはモテる。彼女が特別に美人だとかスタイルが良いということはない――骨と皮にほんの少し肉が乗ってきたところだ――が、彼女と結婚すると得られるものが多いのだ。

 

 1つ目、慣れた生活リズムを取り戻せる。三十年の長期放送だったのだ、もはや読み聞かせのない生活など考えられないという者は多い。

 2つ目、新作を自分や自分の身内だけで独占できる。他人から向けられる嫉妬の視線は、そうとも、想像するだけで胸が震えるほど甘い。マリンローズと結婚すれば笑顔溢れる家庭を築くことができるだろう。

 3つ目、世界中に協力者がいる。マリンローズには読み聞かせを通じて得た協力者が世界各地におり、それは「マリンローズとともに読み聞かせをした」元奴隷や「創作の際に医療などの専門知識で協力を得た」医師や技師ら、その他マリンローズに一方的に恩義を感じている民間人もいる。つまりマリンローズと結婚すれば、世界中の協力者が彼女の配偶者(じぶん)にも味方するのだ。

 4つ目、彼女が「これから起こすかもしれない」思想テロを操縦できる。彼女が公開する物語を規制したり促進させたりすることで、自分に都合の良いように世界を動かすことができる。

 

 この4つ以外にも大小様々な利点があるのだから、腹に一物抱えた者からは特にモテる――もちろんデメリットも大きいが今は割愛する。

 

 とかく、悪を企む者をのさばらせてはなるものかと、世界の破壊を防ぐため世界の平和を守るためハートの海賊団の面々は立ち上がった。

 カモネギマリンローズをそこらの馬の骨と結婚させるわけにはいかない――毒にも薬にもならない相手とマリンローズをゴールインさせねばならない。彼らが求めるものはただ一つのハッピーエンド、「二人は幸せな結婚をしました、おひたしおひたし」。

 

 ローをはじめとするクルーらは八回目の告白失敗で凹むロシナンテを食堂に引っ張り込み、何がなんやらと困惑した表情の彼を椅子に座らせてその周囲を囲んだ。

 

「コラさん、たった八回の失敗がなんだ。ローズおばさんが好きなんだろ、凹む暇があったらさっさとその燃えカスのナリをキレイにしておばさんの下に会いに行け」

 

 緊張のあまり足がもつれて転倒、前方不注意で頭を打って尻もち、壁ドンしようとして階段を転がり落ちズボンが裂け、運悪くシャツはケチャップに染まり、落ち着こうとタバコを吸った結果ファーコートごと正装は燃えた……そんなロシナンテの姿はクルーらの涙を誘う。食堂に連れ込んだ身で言うのも何だがさっさと着替えたほうが良い。水を被ったせいでいつもの化粧もドロドロなのだ。

 ローズから借りたハンカチで涙を拭いつつ、ロシナンテは「でもよ」と後ろ向きなことを言う。

 

「ロー、考えてみてくれ……おれはたった一ヶ月の間に八回も失敗したんだぞ。こんなドジ野郎がローズを守れるか? ローズにはもっと頼りがいがある強い男の方がいいんじゃないか」

 

 七回目までなら七転び八起きと開き直れたが、八回目になると七転八倒だ。たった一回、言葉一つで気力が萎えることこのうえなく、次こそ上手くいくという期待を持てない……皆そんなことは承知している。しかし、マリンローズと結婚できる男はロシナンテしかいないのだ。

 ローはロシナンテの両肩に手を置いた。

 

「おばさんの希望を満たせる男はあんただけだ」

「え、そうか? ほら、白ひげのところの不死鳥とかビッグ・マム傘下のカタクリとか、おれよりも頼りがいがあるヤツいるだろ」

「おばさんの希望全てを備えているのはコラさんだけだ。つまり、おばさんはコラさんからのプロポーズを待っている」

「いや、だからおれ以外にも……」

 

 ロシナンテのマイナス発言を無視してローやクルーは言葉を重ねる。

 

「あんただけだ」

「そうですよロシナンテさん。あんただけなんです、マリンローズさんを幸せにできるのは」

「マリンローズさん、ロシナンテからのプロポーズ待ってるよ」

「ママを幸せにするって言ったのは嘘だったの?」

「あんたなら出来る、出来るって信じるんだ」

「ローズさんを幸せにする、貴方がやらずに誰がやる!?」

「運命を切り開く男がいる。天に背く男がいる……中略。見よ! 今、マリンローズの婚活に終止符が打たれる」

 

 もはや脅迫だ。もしくは洗脳だ。

 

「お、おれが、運命を切り開く男……?」

 

 この場には馬鹿しかいない。

 

「そうさ! さあ服の燃えカスを落として顔も拭いて清潔そうな服装に着替えて。マリンローズさんにプロポーズしに行こうじゃないか」

「ちょっとドジってもおれたちがついてる。だっておれたち……仲間だろ……?」

「毛先が消し炭になってるからブラシで梳いた方がいいぜ」

 

 この場のクルー全員が心を一つにしていた。もうこれ以上ロシナンテにドジはさせない、と。チリチリに焼けた毛並みを整えて新しい服に着替えさせ、もちろんピエロのメイクも綺麗に直して、ウタワールドに二人を放り込む。

 今宵のウタワールドは夢の国。花火が咲く夜空の下には豪華絢爛なシンデレラ城がそびえ、その庭はバラの迷路となっている。篝火に照らされたバラ園はとてもムーディーだ。設計者ことウタが「イエス、ロマンティック」と親指を立てたので全員が同じ動作を返す。

 

 そこに現れたのはバラ園なのにバラの花束を持った――視界がバラだらけで少し食傷する――ロシナンテ。ギッコンバッタンとからくり人形よろしく脚を動かし東屋のマリンローズに歩み寄ると、彼女の目の前で崩壊した。違った、跪いた。映像電伝虫の向こうでテゾーロたちが「くるぞ、くるぞ」と盛り上がっているのが聞こえる。

 

「行けえっ、行けっ! 行けーっ! 行けーっ!」

「君ならできる勇気を出せ」

「元海兵だろ、ぶってんじゃねぇぞ……」

「ひっひっふーだよ!」

 

 バラの影から小声で声援を送る面々に背中を押されたのか、声が届かなくても圧は届いたのか、ロシナンテの肩が緊張で強ばる。そして裏返った声で「ま、マリンローズはん!」と目の前の女を呼んだ。バラの花束を勢い良く突き出しながら、ままよとばかりに声を張り上げる。

 

「ぼっ、ぼくと結婚(てっこん)してくさらい!」

 

 噛みまくりだが意味は通じる。この流れでテコ○Ⅴの話題だと誤解する者はいないだろう――誰かがごくりと唾を飲み込む音が物陰に響く。時間の流れが遅くなる……ぴんと張った空気の中、野次馬は目をカッ開き耳をダンボにして心臓の音を聞いた。柔らかく微笑んだマリンローズがロシナンテに手を伸ばし、そして。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 地面に伏せて二人の様子を窺っていたローは、バネのように跳ね起きて駆け出した。ローと共に「わー!」「やったー!」と歓声を上げながら走るクルーの顔は笑顔だ。夜が明けて朝日が差し、青白い空に虹の橋がかかる。

 

「あの虹の足元まで競争するぞ!」

「いえす、キャプテーン!」

「超きもちいいー!」

 

 そして、そこで、目が覚めた。

 

 ローはごろりと寝返りを打った。机の上の、誕生日プレゼントに貰ったトーンダイアルをぼんやりと眺める。

 ――この夢を見るのは三度目だ。コラさんが生きていて、マリンローズと焦れったい両片想いをしていて、みんなに祝福されながら結婚する。そんな「もしも」に溢れた夢。

 

 コラさんがマリンローズを好いていたのか、それとも他に恋人やらなんやらがいたのか、今となっては知るすべがない。コラさんはテゾーロらにもそういう相談をしなかったそうで、想い人がいたのかどうかすら誰も知らないのだ。だからこれはローの希望で、ローの願いで、ローの後悔だ。

 

 マリンローズは、コラさんの死を悼んでいて、コラさんの代わりにとローに心砕いてくれて、良い意味で平凡に優しい。彼女となら、コラさんは支え合って笑い合って生きていけるだろう。生きていけただろうに。

 そんな想像をしてしまうのだ。

 

 配偶者に求める要素は何かとマリンローズに訊ねれば、さんざん悩んだ末に「世界政府から逃げ回る実力」「言動か顔面がイケメン」「清潔感」「同年代もしくは年上」「浮気しない」「まともな嗜好」の6つが上がった。――コラさんは全てを満たしていた。

 つまりそういうこと(・・・・・・)じゃないのか。

 

 あの夢を見た後はそんな詮無(せんな)いことばかり考えてしまう。ローは顔を覆いため息をついた。

 そろそろ次の島に着く頃だ、顔を洗わねば。

 

 海面へ浮上したポーラータング号を待ち受けていたのは吹き荒れる火山灰で、目的の島の中心部にそびえる火山から島の周辺には濃い灰色の粉が舞っている。

 海の上は風が強い。風が強いとどうなる? 風に乗った粉や砂が全身を打つ。

 

 甲板に出たローも他の面々も「つうっ!」「ひょわーッ」「アッ痛い痛い」と呻きながら両手で顔を覆う――目に灰が入った。喉も痛いので袖で口元を覆う。

 

「目が、目がァ!」

「3分間だけ待って、目薬とりに……いや、ゴーグル取ってくるから」

「目は弱点なんだわ、目は鍛えれないんですわ……」

 

 火山灰がちくちくと目玉を刺す痛みに生理的な涙が溢れる。

 

「くそが……」

 

 灰混じりの涙で頬を汚しながらローは毒づいた。水と食料の補給をせねばならないのに、と。




ネタまみれ三四郎。狂死郎のがいいか。
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