冷たい風の吹き荒ぶ冬の日
白い息を吐く人々でごった返す列車のターミナル
その最中をガラガラと車椅子を転がしながら走る人物が一人
「すみません、ちょっといいですか?」
声をかけられた駅員が振り向く
車椅子に腰掛けた色素の薄い肌とプラチナブロンドのくせっ毛が目立つ少年がそこにいた
簡素ながらも仕立てのいい高級そうなベストやズボンを身につけ、プラチナブロンドの前髪の奥から覗く瞳は右側が深い翠、左側は透き通るような金色をしていたしていた
「なんでしょう?」
駅員は少し屈んで少年に応答する駅員
少年は少し緊張したような様子ながらはきはきと告げる
「この列車は、シン・シティ行きでよかったでしょうか?」
と少年は目の前に停車している黒塗りの列車を指差す
「ああ、そうですよ。この列車はあと2分でシン・シティに向けて発車致します」
「よかった……こういった列車に乗るのは初めてなので、間違えていないか不安で……」
安堵の息を零した少年は一礼し、車椅子の車輪に手をかける
「よかったらお手伝い致しましょうか?」
駅員の声かけに少年は手を振り
「大丈夫。こう見えても周りのことは一人でできるようにしているので」
「ーそうでしたか。何かありましたら、またお声かけください」
にこやかに答えた駅員に笑顔で会釈をし立ち去る車椅子の少年を見送り、駅員は微笑んだ
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『根源へと至る道』
『万能の願望器』
『魔術師ならば喉から手が出るほど欲しいでしょう』
『そんな《聖杯》を得る儀式に貴方は選ばれました』
『是非、シン・シティにお越しください』
「ーウィディウス・オリジニア……フン、芝居がかった招待状だ」
吐き捨てるように告げた男が赤い封蝋が付いた手紙を放る
神経質そうな表情の男は腕を組みながら椅子の背もたれに体重を預ける
「お、お父様…」
そんな男におどおどと弱々しい言葉が投げかけられる
薄暗い部屋の中、男の側のテーブルで揺れるランプの火に照らされて現れたのは一人の少女だった
黒のブラウスとロングスカートを着て、黒髪を短く揃えた少女
不安そうに片腕を抱く右の手の甲には爪、ないしは剣のような三画の紋様が刻まれていた
「しょ、召喚陣の用意が…でき、できました……」
両手を落ち着きなく合わせて指を動かしながら俯き告げる少女を睨み、男は足元のケースを膝上へ引き上げる
「私が手塩にかけて育てた最高の魔術師、私が作り上げた至高の工房、そしてー」
ガチャリ、とケースを開ける
中に収められていたのは一振りの「剣」
少し煤け、錆びていながらもその両刃は輝きを失っていないようにも見える。それほどの「剣気」がその剣からは溢れていた
「ーこの至高の聖遺物が有れば、我々
男ー郷間
その様子を睨んだ
「燕ェ‼︎ 何をぼさっとしている‼︎ 魔力の錬成を始めろ‼︎」
「は、ははは、はいっ、お父様ッ、ごめんなさい…ッ‼︎」
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ざしゅ、ざしゅッ
「あはは、あはは‼︎」
路地裏の少し広くなった空間
建物に挟まれて暗がりになった広場はいくつもの血溜まりができていた
その中心の異様な光景を前に数少ない生存者の男は腰を抜かして震えていた
「よいしょっ……うん、上手にできました‼︎」
広場中央、ぐちゅぐちゅと湿った音を響かせながら地面に広がる「シミ」のようなものから取り出した赤い液体滴る肉塊を持ち上げ、年端もいかない少女は笑った
どこか令嬢を思わせるフリルが多くついた服は赤いシミでべったりと汚れている
「いただきます」
もぐり、くちゃくちゃ
少女は美味しそうに肉塊を食む
「聞いてねぇ…俺、こんなの聞いてねぇ…‼︎」
少女と目が合った男が「ヒィッ‼︎」と声を上げる
咀嚼していたものをごくりと飲み下し、少女は笑う
「あ、まだいたんだね。おじさん」
意味不明なことを告げた少女が地面に手を触れる
「あ、あ……‼︎」
「ちゃーんと火を通して食べないとー、お腹壊しちゃうからね」
瞬間、男の体が醜く膨らむ
皮が保たなくなった胸の皮膚が弾け、あたりに血の雨が降り注ぐ
少し小さくなった男の体の断面に溜まった血はゴボゴボと泡を上げ、焦げた肉の悪臭が辺りに広がった
頬に滴る血をペロリと舐めとり、少女ははっと顔を上げる
「……あ、そうだ。ぱぱから言われてたヤツやるんだったっけ」
「えーれーしょーかん。聖杯戦争。私の、晴れ舞台?」
そう呟いた少女は慣れた手つきで手元の死体から腸を引きずり出し、地面に擦り当ててまるで筆のように使いながら鼻歌混じりに図形を描き始めた
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どこか和の意匠を感じる大部屋の中、大勢の黒スーツの男たちが部屋に入ってきた小柄な人影を見るや整列し、その人物の歩む「道」を作る
「ありがとう、皆さん。ここからは僕一人でできます」
黒いスーツを着た小柄な少年が優しい声色で告げる
振り返った先に整列した黒スーツの男たちは姿勢を正し、揃って一礼する
「坊ちゃん、お気をつけて」
「ああ、ありがとう。
黒スーツの一人に手を振り、少年は両開きの扉を開き奥の暗い部屋に足を踏み入れていく
踏み入れた先の部屋には蝋燭が規則正しく配列され、床に敷かれた陣を照らし出していた
陣の中央にはしめ縄でがんじがらめに封がされた包みが置かれていた
ごくり、と唾を飲んだ少年はその包みに触れようとする
が、すんでのところで手を引き、かぶりを振る
「ー平常心、平常心だ。僕」
ネクタイを締め直しながら少年は陣の側まで戻る
一度閉じ、開かれた少年の目は
血のような真紅に輝いていた
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陣に手を翳し、
ー素に銀と鉄。礎に石と契約の大公
ー祖には我が大師、■■■■……
詠唱に伴い、陣は燐光を放ち周囲の空気が変質していく
ー降り立つ風には壁を
ー四方の壁は閉じ、王冠より出で
ー王国に至る三叉路は循環せよ
べちゃべちゃべちゃ
血の滴る腸を投げ捨て、踊るように歩みながら歌うように血塗れの少女が
ー閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ
ー繰り返すつどに五度
ーただ満たされる時を破却する
ー告げる
ー汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
ー聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば答えよ
輝きと威圧を噴き出す陣に向かい右手を伸ばし、その威圧に吹き飛ばされそうになりながらも少年は呪文を紡ぐ
ー誓いを此処に
ー我は常世総ての善と成る者
ー我は常世総ての悪を敷く者
少し息を吐き、少年は目つきを改める
ーされど、汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし
ー汝、狂乱の檻に囚われし者
ー我はその鎖を手繰る者
シン・シティの各地
それぞれの思惑、それぞれの譲れぬ願いを手にしたものたち
それぞれがその手を陣に伸ばし、告げる
ー汝、三大の言霊を纏う七天
ー抑止の環より来たれ、天秤の守り手よ!!!
空間が震え、軋む
瞬間、大魔術は為された
人理に刻まれた万夫不当の英傑たち
英霊が、シン・シティへと召喚されたのだ
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陣の中央に現れた人物を見て
「成功だ!!!この聖杯戦争は、私の勝ちだ!!!」
陣から現れた人物は漢服のような装束を纏う少し細身ながら大柄な男だった
見開かれた眼は強い意志を纏う金色に輝いている
男は首をこきこきと鳴らしながら2人を
「ーサーヴァント・セイバー。召喚に応じ参上した」
「貴様が、
片眉を上げながら問う男ーセイバーに返答しようと燕が歩み出ようとして上げた右手の甲に刻まれた紋様ー令呪を見てほう、と息を漏らす
「そうか、そちらの娘が
「あ、えっと…その……」
言い淀む燕を押し退け高揚した様子の
「そうだ‼︎私が、私たちがお前のマスターだ‼︎」
「さて、お前の願いはなんだマスター?」
「私の願いは無論ー」
「ー貴様の願いなど聞いていない」
セイバーが
その圧力に
しかし次の瞬間には
(使い魔の分際で、この私を無視するというのか⁉︎)
根源に至ることを目的とし、その手段に「魔術」を用いる探究の徒
数ある魔術師の家系の一つでしかない
一族に伝わる「複製」の特性を持ち、更に一つ扱えれば十分な元素を「火」と「地」の2つ扱える。魔術師の総本山たる時計塔に在らずとも十分以上の才能を持つ麒麟児
元来独自の研究を重ね、その成果を競う故にプライドが高いものが多い魔術師の中でも特に
それが、英霊とはいえ使い魔たるサーヴァントに見下されたのだ
「そいつは道具……貴方様をこの世に繋ぎ止める楔に過ぎません」
「楔…?妙だな。そこまで熱心なら何故貴様がマスターをやらない」
訝しむセイバーが口を開く
「…なるほど、できなかった、というのが正しいのか」
落胆のため息をこぼすセイバーを見た鷹次の中で何かが切れる
ーダァンッ!!!
「ーかはっ!?」
激昂した
「…セイバーを黙らせろ…‼︎事前に伝えただろうが、お前は私の意に従えば良い。私に反する行為は命を賭けても取り除けと!!!」
ぐっと
「さっさとせんか‼︎使えん道具ー」
ーザシュッ
「ーが……あ?」
鷹次が呆けた声を上げる
けほけほと咳き込む燕は壁に寄りかかるようにして床に座っている
(何故だ?何故燕が床に?私が掴んでいたー)
何故か酷く冷めた思考で自分の右手を見る
あるはずの右手が無くなり、切れたそれが地に転がっていたことをようやく脳髄が認識する
「あ、が、ぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
思い出したように脳を激痛が貫き、断面から血が噴き出す
噴き出した血が燕にかかる寸前、セイバーが服の袖を使って遮る
「
セイバーは淡々と告げながらいつの間にか抜いていた鉄剣から血を滴らせながら尻餅をついた
「う、腕、私の、腕がぁぁぁぁ!!!!」
「そして、道具というのならば使いものにならぬ物は早々に捨てねばより良い戦にはできん。力もないのに喧しい音を撒き散らすだけの置物など、尚更な」
怯えきった
舌がもつれた
「ー覚えておけよ下郎。道具一つロクに手入れもできず、平気で見下し粗末にするのは優れた王でも、ましてや道具ですらない。ただのガラクタ……いや、芥にも満たぬ、とな」
セイバーの鉄剣が振るわれる
部屋の壁に鮮血が飛び散った
黒スーツの少年の前に現れた黒い中華の王族が纏うような豪奢な漢服を身につけた背の高い女性が歩み寄る
「ーサーヴァント・バーサーカー。よくぞ
長い爪を持つしなやかでしらうおのように白い指が少年の頬に伸び、その頬をなぞる
びく、と少年の体が強張る
「名はなんという?小さきマスターよ」
バーサーカーは少年の頬を両手で掴み、覗き込む
濡羽色の美しい髪が少年の顔にかかり、淀んだ紅い瞳が少年を捉えている
「ー
「ざいあ、か……フフッ、良き名では無いか」
バーサーカーは形のいい唇を妖艶に歪ませ微笑む
少年ー
「ー良い。やはり現世の空気はうまいな……此度こそ、妾の願いを満たして見せよう」
ジャラ、と重い金属の擦れるような音が響く
ガタガタ、ゴト、ゴトン
バーサーカーの服の袖が広がり、鎖に繋がれた鋼鉄の首輪や鉄の棒、鋸や革の鞭が転がり落ちる
どれも赤黒く汚れたそれは、何に使われていたのか想像に難くなかった
「ー此度の戦争は、妾をどこまで笑わせてくれるかのぉ?」
怪しく微笑むバーサーカーを見た
その右手の甲には勾玉のような形の令呪が刻まれていた
血と臓物で雑に描かれた陣の中から黒い人影が足音もなく少女の下へ歩み出、その目前に膝を突き敬意を見せる
「サーヴァント・アサシン。召喚に応じ参上しました」
黒いスーツに覆われた長身に灰色の布が巻き付く異様な姿
ほっかむりのように頭から巻かれた灰色の布の下の顔は白い骸骨の仮面で隠されているが、その少し高く優しい声色と膨らんだ胸から女性であることはわかる
目前に現れたアサシンを見て少女は不思議そうに首を傾げる
「……お姉さんが、さーゔぁんと?」
「……あなたが、私の此度のマスターですね」
「マスター?」
少女は自身の右手の甲を見る
そこには滴る血液が滲んだような三画の紅い刻印ー令呪があった
「おおー、これが令呪だ。わたし、マスター‼︎」
楽しそうに右手の甲を見せてくる少女を見据え、アサシンは静かに立ち上がり周囲の惨状を眺める
「……これは、あなたが?」
「そう‼︎ たくさん殺したの‼︎ 美味しい魔力食べたかったから‼︎」
少女の言葉にアサシンはしばし思案し、少女を見据える
その目の前に小さな手が差し出される
「わたし、ラストナンバー‼︎ よろしく、アサシンのお姉さん‼︎」
元気いっぱいに自己紹介した少女ーラストナンバーの手をアサシンは優しく握る
仮面に隠されて表情は見えないが、どこかアサシンは悲しそうな顔をしているようだった
シン・シティの中央
町のシンボルたる塔ーオリジニアタワーの最上階
大きなデスクに広げた精巧かつどこか古めかしい装置ー霊器盤の上にチェスの駒のようなものが新たに3つ出現する
それぞれ剣を両手に持ち天に向けて構えた剣士、獣のような姿の悍ましい狂戦士、短刀を2本構えた暗殺者をかたどっていた
「セイバー、バーサーカー、アサシンが召喚されたわね。先んじて召喚されていたアーチャー、キャスター、ライダーと合わせて、あとはランサーのみ」
霊器盤を覗き込むスーツ姿の女性ーウィディウス・オリジニアが微笑む
「マスターたちはもう集っているはずだから……開戦ももうすぐかしら?」
万能の願望器・聖杯を巡る「戦争」
その主催者たるウィディウスは階下の夜闇に染まりゆく街並みを見下ろし、楽しげに微笑んだ
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シン・シティのある商店
その2階の一室
デスクの上にいくつも置かれた珍妙な道具の一つ、天秤のようなものが左右に大きく揺れ出し、からん、からんと音を立てる
「ーどうやらまたサーヴァントが召喚されたらしい」
そのデスクの前の椅子に腰掛けていた人物
中世ヨーロッパの貴族のようなコートを身につけ、長い髪を三つ編みにして前に垂らした中世的な見た目をしているその人物が今しがた読んでいた本を閉じる
「お‼︎マジで⁉︎そろそろ開戦って感じかな?」
同じ部屋にいたYシャツにサスペンダー姿のラフな格好の眼鏡をかけた青年ーロイ・ヴァニタスが愉快そうな声を上げる
「いや、まだランサーが呼ばれていないようだ。あとはランサーだけだがね」
貴族風の人物はデスクの上に置かれた板を覗き込みながら答える
「マジか……開戦したらどうしようキャスター…?」
「安心してくれ、マスター。ボクの工房は完璧、準備も潤沢。勝ち抜くまでは無理かもしれないが、キミの命は守ってみせるとも」
不安げに呟くロイに微笑みかけ、キャスターはふと窓の外を見る
どこからか聞こえてきた汽笛の音を聞き、どこか影を含む歪な笑みをキャスターは覗かせた
「………………」
見下ろす先をシン・シティへ入る列車が通っていく
女性ー
「抜け駆け、いや…エサやり、か…魔術師らしい」
ポニーテールを風に揺らしながら呟く
その片手には真新しいレバーアクションライフルが握られていた
シン・シティへとじきに到着する列車の中
車椅子の少年ーメラク・リュートワーズは車両間の空間に停めていた車椅子を少し動かして窓の外を見る
「ここがシン・シティ……聖杯戦争の行われる土地……」
緊張した面持ちを浮かべ、生唾を飲む
しかし、その目には動揺や不安はなかった
(僕宛に直接届いた招待状……この聖杯戦争で、僕はー)
瞬間、列車が大きく揺れる
バランスを崩しかけたが手すりを掴みなんとかバランスを取るメラクの耳に爆発音と悲鳴が聞こえてきた
「ー!?」
咄嗟に目を瞑り、短い呪文を詠唱する
その瞼の裏に列車内のイメージが広がり、そこに5個の赤い点が現れ、先頭車両から後部車両側のこちらへ殺到してきている様子が見てとれた
(魔力反応が…5つ⁉︎)
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シン・シティに到着した列車
その先頭客車にそれは突然襲来してきた
窓を破り突入してきたのは異形の集団だった
首の無い騎士、影が服を纏ったような海賊のような人物
狼や大蛇、イノシシや燃え盛る車輪など、人の形を為していないものも多くあった
襲撃してきたそれはゆらりと立ち上がると手当たり次第に周囲の人々を襲い、切り裂き、鮮血を撒き散らせる
絹を裂いたような悲鳴が上がる
それを聞いた異形の一団はより興奮した様子で進撃を始める
後部車両に向けて、人々の命をたしかに奪いながら
車椅子を動かし、最後尾の客車にメラクは入り込むと勢いそのままに床に飛び出す
ゴンッと鈍い衝撃に顔を歪めながらも車椅子に手をかざす
魔力を向けられた車椅子はくるりと回転し、後部トランクから2つの包みが転がり落ちる
その片方から赤い塗料と筆を取り出し、狭い客車の床に陣を描いていく
後方ーこの車両よりも前の車両から悲鳴と騒々しい破壊音が近づいてくる
「ー
メラクは声を張り上げる
それに呼応し、無人となった車椅子が「立ち上がる」
その形を人形に変化させた車椅子ー正確には車椅子型ゴーレムはメラクの方に向き直り、命令を待つ
「この客車を守れ‼︎ 誰も入れるな‼︎」
命令を受けた魔導人形は客車入口の扉を閉め、背中を押しつけて閉鎖する
それを見たメラクは手早く陣を書き上げ、もう一つの包みをその中央に投げ、左手をかざす
その手の甲に刻まれた三画の赤い令呪が光を放つ
「ー素に銀と鉄、礎に石と契約の大公……‼︎」
呪文の詠唱に伴い陣は光を放っていく
客車に激しい衝撃が走り、ゴーレムが押さえる扉が軋む
「ー告げる、汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に‼︎」
更なる派手な破壊音と共にゴーレムが吹き飛ばされ、扉が破壊される
立ち上がろうとしたゴーレムに影の狼が飛びつき食らいつく
その首元にあった碑文が刻まれた結晶が噛み砕かれ、ゴーレムが動きを止める
首無し騎士や影の海賊が雪崩れ込み、炎の車輪が客車を揺るがす
よろめきながらメラクは詠唱を続ける
「ー汝、三大の言霊を纏う七天‼︎」
一団が迫る
血塗られた牙や剣、カトラスが振り上げられる
「ー抑止の環より来たれ、天秤の守り手よ!!!!」
ーギャリィィィィィィィン‼︎
金属音が客車に響く
閉じていた目を恐る恐る開く
「騒がしい…余の頭痛が余計に酷くなる」
凛とした、威厳と威圧を含む女性の声が響く
客車には血のように赤黒い薔薇の花弁が舞っていた
ーゴガァンッ!!!
吹き飛ばされたらしい騎士と海賊が壁に叩きつけられ、より派手な音を立てる
「最悪の気分の召喚だ。よもや、このようなー」
ーグァァァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!
狼がメラクの前に立ち塞がる人影に襲いかかる
「ー黙れ、駄犬が」
黒に金の刺繍が装飾された豪奢なドレスが踊り、隙間から伸びた脚ー黒い重厚な鎧に覆われたそれが天に突き上げられ、狼の頭に向けて振り下ろされる
強烈なストンピングの威力そのままに客車の床に叩きつける
踏み潰された狼を中心に客車が大きく揺れ、ひしゃげる
「余の言葉を遮る無礼は死罪である。とくとその身に刻んでおけ‼︎」
踏みつけられた狼の口蓋を鉄のヒールが刺し貫き、狼が影となり霧散していく
脅威を退けた黒い麗人はくるりと振り返る
美しい金髪をシニヨンに纏めた黒のリボンが揺らめき、その顔がメラクに向けられる
愛らしくも美しい、整った顔立ちの女性がそこにいた
翡翠の瞳は不機嫌そうに細められ、冷たくメラクを見下ろしている
「問おう、人間」
「貴様が、余を呼び寄せたマスターか?」
透き通るような美声ながら威圧感溢れる声で麗人が問う
「……ああ、そうだ。僕が、お前のマスターだ」
メラクは左手の甲の令呪を見せ、告げる
麗人はフンッ、と鼻で嗤い少し口角を上げる
「運に恵まれたな、マスターよ。華の皇帝……否、暴君たる余を引き当てた貴様には、勝利が約束されたものであるぞ?」
ガチャリと重々しい黒鉄の手甲を鳴らしながら、同じく黒鉄の胸当てに覆われた中から覗く白い肌の胸元に手を当て、得意げに笑う
「だが、契約にあたり条件がある」
ガツンッ、と鉄のヒールを打ち鳴らす
背後から迫り来ていた騎士と海賊を床から伸びた無数の黒い槍が貫く
槍の穂先、その付け根にある燭台に灯された炎が揺らめく
嗜虐的な笑みを浮かべながら皇帝は振り返る
「余への馴れ合い、命令は許さぬ。余は余の意志のみで動く」
「ー余が信ずるのは、余のみだ」
メラクが立ち上がり、真剣な表情で見据える
「気が合うね。僕も、僕しか信じない」
「だから、僕の願いの為になら、その条件も踏みにじる」
メラクの不遜な言葉にしばし呆けた皇帝はぷっ、と吹き出し、高らかに笑ってみせる
「面白い‼︎ 余を恐れる者は多くいたが、余にそこまでの大口を叩く愚か者はそうはいなかった」
皇帝は黒鉄の手甲で覆われた手でメラクの顔を掴み引き寄せる
「気に入った、特に許そう。暴君特権である」
踊るように歩み出し、今しがた串刺しにした亡骸を踏みつけ、皇帝はメラクに手を伸ばす
「サーヴァント・ランサー。しばし貴様の槍になってやろう」
「余を有効に使うが良い。余も、貴様を使い潰してやろう」
黒金のドレスを纏う暴君は微笑む
メラクは決意と共に、その左手を握りしめた