『終わりの始まりは突然に』 作:のーとりあす
◆◇◆
私、
それは何でもない日常だった。
そう、それは突然に。
必然に、私の前に現れた。
「……ね、ねぇ、リカちゃん。僕の事、知ってる?? 知ってるよね? えへ、ふふ、照れちゃうな。あは、初めて声かけちゃった。やばい超楽しい。ね、ねぇ、ってば……」
「──ひっ」
学校へと登校する途中に突然トモダチが倒れた。
振り向けばそこにはスタンガンのようなものを持った気味の悪い男がいて。
トモダチは白目を向いて男に支えられていた。
咄嗟に、逃げなきゃって、そう思った。
でも、
「は? どこ行こうとしてるの???」
「っや、やめてっ離してッ!!」
「え、え?? ふっ………ふ、ざ、けんなぁよぉぉ??!! こんのメス豚がっお前っおまえはさぁ、オレの奴隷なんだよ?? そこんとこ、なんでわかってないかなぁ………おい、こっち来いよ」
「い、やっ」
抵抗むなしく、私は男に路地裏へと引きずり込まれた。
怖い、怖い、怖い。
心を恐怖で埋め尽くされていく。
なんで、こんなことに………。
リカは疑問に思っていた。
こんなこと、私に限ってあるはずがない、と。
(私っ今までいい子にしてたじゃんっ! 今まで一生懸命いい子してたじゃん! だから神様も私にやさしかったじゃん!)
リカはとても恵まれた子供だった。
親に恵まれ、兄弟に恵まれ、同級生に恵まれ、トモダチだってたくさんいる。
リカは誰もに愛される子だった。
親は兄二人よりもリカを優先するし、兄二人はそれに文句を言わずそれどころかもっと妹に何かしてあげたいと考えている。
男子の同級生はみんなリカが初恋だし、それなのに女子のみんなも嫉妬しないで仲良くしてくれてる。
そう、彼女は世界に愛されていた。
リカは病気も怪我もしたことがない。
事故に遭ったこともないし、自分の周りで悪いことが起こったたためしが無い。
よく通う神社の人からは神童なんて呼ばれていたりする。
この間なんて、たまたま宝くじが道端に綺麗なまま落ちていたから拾ってみたら、それが──一等賞だった。
当たり前だ。いつものことだ。
リカにとって、それは別段驚くことじゃなかった。
だって、世界は彼女の為にあり、彼女の思った通りにすすむのだから。
彼女が成長するにつれ、その力は大きくなった。
学校は勝手に推薦で決まるし、勉強できなくても四択問題くらい適当に書いても全問正解になった。
そう、ここは天国なのだ。
彼女は前世で徳を積み、この素晴らしい世界に転生したのだ、きっと。
順風満帆に生きて、この世の誰よりも幸福に死ぬ。
それが彼女の運命だった。
(でも! 私は驕らなかった! この力を悪用もしなかった! ちゃんとヒトに優しくしたし、お金だって分けてあげた! 親の会社だって破産しそうなところを助けてあげた! お兄ちゃんたちにモデルの彼女を紹介してあげた!)
彼女はだからこそ、今の状況が受け入れられなかった。
そんな私がどうしてこんな目に、と。
(宝くじはやりすぎだった!!? でも、でも、だって、お母さんがお金欲しいって言うからっだから──)
「──おおいっ!!? 聞いてるのかっ?? あ?? 今すぐおか、犯して、やったって、いいんだぞぉぉ」
「ぃぃいやあっやだっやだやだやだっ!!!」
「ぶふっえへへ、泣き顔もかわいいね、大好きだよリカちゃん、この世の誰よりもこの僕が君を愛してる。君もそうだろう?? 僕が君の為に今までどれだけ尽くしてきたか、君は知らないだろう??」
「………はぁぁ??」
「僕ね、すごいんだよ。僕が、僕が今まで好きになった女の子は、みいんな幸せになった。幼馴染も、義母も、義妹も、学校の先生も、そして、
何言ってんだ、この豚。
私は思った。
なにが、僕の世界だ。
ここは私の世界だ。
私こそが世界の中心だ。
私を傷つけるな。
私に都合の悪い愛し方をするな。
私に無益なことをするな。
そうだ、ここは私の世界。
私の思ったとおりに進む世界。
こんなやつ一人ぐらい、私の力で、
「……おっおまえ、なんか……お前なんか──死んじゃえ!!!!!」
「………………は?」
リカの覚悟は──男を怒らせただけだった。
「なに、言ってんの。じょうだん、だよね。そうだよね。わかってる。僕はできる男だ。女の子の気持ちもさっせれる男だ。あれでしょ。生理……じゃないか、それは今日じゃない。じゃあ、あれか、シチュエーションってやつ! 盛り上げようってことだね! ああ……いいよ、君がその気なら、僕もそのつもりでやるよ、ボク、僕の本位じゃないけど、けどね、君が求めるから、やるんだよ?? 君の為に、君が求めるから、君がお願いしたんだ、ぼくに、だから──まずは服を脱ごうか」
「──ひっい、イ、ヤッや、やだぁ、なんでぇ、なんで死なないのぅいやだよぉ神様ぁぁぁ!!!???」
リカは少しずつ服をはがされ、次第にあられもない姿にされた。
「ひっく……ぁあ……やめて……」
「ぶへっえへへへへへへへへへ」
男が笑いが止まらなかった。
あまりに、あまりに、煽情的なその肢体に。
エロい、エロイ、エロイ。
画面越しじゃない、女の子の身体。
未発達な義妹とも、熟しきった義母とも違う。
完璧な、身体。
男の下半身が立った。
今から彼女は僕のものになる。
僕が一度抱けば、それがレイプだろうとなんだろうと、彼女は僕を好きになる。
彼女は幸せになる。
幸せってのは快楽だ。
彼女はきっと、義妹や義母みたいに壊れちゃうだろうな。
あはっ、えへへっ、楽しみだなぁ、楽しみすぎる。
絶対君を幸せにしてみせるよ。
「じゃ、じゃあ、さっそくっ!!」
「ひっ誰、なに、や、やめてッ!!!!」
「……あ?」
気づくと、そこには──老人がいた。
老人が、彼女に忍び寄っていた。
それに気づいた途端、男の理性は吹っ飛んだ。
「あ゛ぁ!!? ぶっ殺すぞテメェ!! 彼女は僕のだぞッ!!!」
そう怒鳴りつけながら、ホームレスのような男を蹴飛ばした。
「……クソ老人が、もっぺん来たら殺すかんな……あ、だ、だいじょうぶ?? 怪我とか、ない……?」
「……は、はぃ」
「……!!」
はっ、として男は気づいた。
彼女が破れた服で一生懸命に胸を隠し、そうして上目遣いで男を見ながら、顔を赤らめていることに。
これ、は……そうか! こうやって惚れさせろってことだね! 神様!!
なるほど、そういうことか。
男は思った。
いきなり老人が来たときはオレの幸運が終わったかと思ったけどそうじゃなかった。
これは、神様からの贈り物だったのだ。
ならば、男がすべきなのは……
「だ、だいじょうぶだよ、僕が守るからね、ボク、君を守れるくらい強いから、あ、安心して、ね??」
「………」
おお、おお、抵抗しなくなった。
キタコレ、神展開だ。
できる男アピール完璧だ。
「ぁ゛ー……」
すると、今度は別の老人が来た。
ここはホームレスのたまり場か何かだったのだろうか。
「リカちゃん!! こっち来て!!」
「……ぇ」
男は彼女の腕を引っ張って、路地裏から出た。
今すぐに抱くことはできないけど、こんなところでやるより家でやった方がいいに決まってる。
じっくり、ねっとり、彼女を僕の奴隷にしよう。
そうしよう。
──ああ、楽しみすぐる!!!
「──ぁへ???」
「──ひっ」
男は、横合いから跳びかかった来たゾンビの群れに、襲われた。
「へぁ??? いたっうぶっ」
ゾンビが男にキスをする。
ホームレスゾンビだ、うえぇ、汚い。
気持ち悪い。不潔だ。
男は、吐いた。
そして、
グチャァ
顔を剥がれて、死んだ。
で、終わらなかった。
まるまると太った身体はさぞかしゾンビにはおいしそうに見えたのだろう。
きっと飢えていただろう老人だちは男の脳みそをアクセントにして、固くない柔らかぁぁい筋肉を生で、プチプチと潰れる睾丸を潰して、腸に手を突っ込んでクソを喰らった。
「……………」
私は、その光景を見て、そうして、街道を見渡して、思うのだ。
「……さよなら、私の楽園……」
そう呟くと、老人の目がこちらに向いた。
その口には手足や骨が咥えられている。
でももう、何にも思わなかった。
私の人生、なんだったの?
終わりの始まりは突然に、少年少女に終わりを告げる。
終わる、終わりだ。もうだめだ。
……死にたく、ない……。
こわい、こわい、こわい。
こんなところで、しにたくないよ。
「……やだ……かみ、さま……たすけて……」
「ヴあー」「うがぁぁぁ」
「ぶへっ」「がふっ」
「──まったく……オレの前で──クソみてぇなことしてんじゃねぇぞッ!? おらァッ!」
終わりの始まりは突然に。
幸運な少女の運命の終わりは今日ではなかった。
ただ、少女は今日、終わったのだ。
「……………かみ、さま……?」
「あん?? ……ほらよ」
少年はあられもない姿の彼女にコートを被せた。
胸が、ドキドキする。
顔が、熱くて、熱くて、仕方がない。
「あ、あっ、わた、わたしっ」
「………」
「あの、あ、のっえっと………」
「……──流星」
「……え?」
「オレの名は流星。超強ぇ最強の男だ」
「……あ、私は、リカ。……ちょう幸運な女です??」
「おっ? いいねぇ。あんたいい人だ」
「───……」
胸が高鳴る。
鼓動が早まる。
今すぐ何かをしたい。
──この人の為に。
この人が、私の──。
「んじゃ、オレ行くから」
「あっ」
少年はそう言って颯爽と走って行ってしまう。
それは本当に一瞬で、あたりには的確に頭を潰されたゾンビとボロボロぐずぐずの肉塊。
そしてそこかしこから聞こえる悲鳴だけがあった。
「追いかけなきゃ……」
少女は走った。
彼を追うように。
終わりの始まりは突然に。
彼女の終わりを告げ、そうして
──彼女に始まりの鐘を鳴らしたのだった。
◆◇◆
これで胸キュンしてる人いたらさすがにドン引き。引くな。